「みんな、準備はいいか?」
悠人は身を潜めてレイナ・エスペリアに言う。
「大丈夫です」
「全力でいきましょう」
「よし!」
悠人たちは身を出して、偵察部隊を叩きに出た。
これから・・・本格的な、戦争が始まる・・・。
「でやぁぁぁぁ!!」
その雄叫びは、開戦の合図だった。
「!?」
「え・・・!?」
「なんで・・・」
三人はつい体が固まってしまう。
・・・三人が見たものは、剣を構えている啓太だった。
「よぉ」
「よぉって・・・生きていたのか!?」
「まぁな」
「それなら、早く連絡してください!心配したんですから!」
レイナが安心したかのように構えを解く。悠人もだった。
「・・・すまなかったな」
「とりあえず、カオストロに帰ろうぜ?みんな心配してる」
「そうですよ、メシフィアさんなんか特に・・・」
啓太の目が一瞬光った。
その瞬間二人の体が固まり、警戒心だけが跳ね上がり、体がついていかなかった。
「「!?」」
「危ないですっ!!」
キィィィンッ!!
警戒を解かなかったエスペリアが素早く反応し、二人と啓太の間に割って防御した。
「け、啓太!?」
「ユート様!この人は、啓太さんではありません!」
「え・・・?」
「どういうことですか!?」
「なんとなく・・・そう感じるんです!それに、今あの人はお二人を攻撃しました!」
「・・・偽物・・・なのか?」
「そういえば・・・啓太さんなら、カノンさんを呼べるはずですよね?」
「あっ・・・!なるほどね・・・!」
悠人は全てが解けたように、スッキリした顔をする。
「この・・・偽物がぁ!」
「ちっ・・・思ったより早く気付かれたか」
啓太の顔が歪み、違う顔へと変わっていく・・・。
「俺はアレスティナ軍、遊撃部隊隊長・・・アレックスだ」
「けっ・・・どうせ異世界の人間だろうが!」
「ご明察。さすがは『求め』のユートと言うべきか。なぜわかった?」
「簡単なコトだ。おまえらの狙いはカノン。そして、啓太はそのカノンを呼び出せる。その啓太をなぜ、カノンを手に入れる前に戦場に出してしまうのか・・・」
未だにカノンが消えたという臨時報告は受けていない。
城にあるカノンは、厳重に保管されている。消えればすぐにオレたちに永遠神剣を通じて連絡がくるようになっている。
「それは、おまえが偽物で、カノンを呼び出すことができないからだ。啓太を引き入れれば、カノンも手に入れたと同義なのがアダとなったな」
「なるほど・・・だが、今のでわかった。つまり・・・大川は今、おまえらと一緒にいないのだな?」
「あっ・・・しまった!!」
悠人は口を塞ぐ。もう遅い。
「秋月の帰りが遅いのも、それが原因だな?」
「くっ・・・」
「それを知ったからどうなるというのです?」
レイナは構えた。
「そのとおりです。ここであなたを帰さなければ、その事実をアレスティナが知ることはできません」
エスペリアも身構えた。
「とにかく・・・今、アンタを帰すわけにはいかない!」
「そうか・・・ならば、意地でも帰らせてもらう。『勝利』のアレックス・・・参る!!」
大剣を持ってアレックスが飛び込んできた!
一瞬で視界から消える。
「どこだ・・!?」
「こっちだ!」
「!?」
俺が後ろを向くと、アレックスが剣を突きの態勢にして突っ込んできた。
「ぐっ・・・!」
かわせない・・・!
パキィィンッ!
「させません!!」
「レイナ、助かった!でぇやあ!!」
レイナの援護防御を盾に、隙ができたアレックスを右下から切り上げる!
シュッ・・・
「ちぃ・・・!」
「危ないな・・・」
態勢が崩れていたはずなのに、アレックスは苦もなく俺の太刀をかわした。
{契約者、気をつけろ。奴の『勝利』は、永遠神剣第三位だ。特殊能力がある}
珍しくバカ剣が忠告してくれる。どうやら相手の方が位が上ということで警戒しているようだ。
「なんの能力だ?」
{アンチ・マナ・・・}
「なにそれ?」
{通常の永遠神剣は、マナを消費する。だが・・・あれは、マナを使わないどころか、相手の使うはずだったマナを吸収して、術を打ち消す}
「つまり、大技を使おうとすると、その能力で不発になるってことか・・・」
{そうだ。それに、バリアなどの能力も下がる。気をつけろ}
「了解」
「作戦会議は終わったかな?」
「どうするんです?悠人さん」
「・・・技が効かないなら、直接斬り付けるまで。エスペリア、苦手かもしれないが、あいつに隙を」
「了解しました」
「そこを、俺が攻撃してバリアを砕く。そしたら、一番直接攻撃力の高いレイナのゼウスでシメる」
「わかりました」
「いきます!」
エスペリアがアレックスに飛び掛かる。
「バラバラでこようという作戦か?」
エスペリアが槍でアレックスを攻撃していく。
隙のない攻撃は、普段サポートしているエスペリアとは思えないほどの流れの良さだ。
「いい太刀筋だ・・・だが!」
「きゃっ・・・!」
エスペリアが剣劇を柄で受けとめる。
「押しが弱い!」
キィンッ!
「・・・」
エスペリアは何も言わずに吹き飛ばされた。その顔には余裕さえ見えて、アレックスは訝しげにその様を見ていた。
「でやぁぁぁぁ!!!」
「なにっ!?」
オーラを纏った求めがアレックスのバリアを引き裂いた。
バリィィンッ・・・!
「バリアを破ったところで何も変わらない!」
アレックスは大きな攻撃のあとの、俺の隙を容赦なく責め立てる。
キィンッ!キンッ!
「くっ・・・!」
アレックスの、大剣を振りまわしているとは思えない、素早い太刀を防ぐので精一杯の俺。
「どうした!?一対一では勝てないか!?」
ブシュッ!
アレックスの剣劇が強すぎて、止めたつもりが頬を削った。
「・・・そうだ。俺は、一対一ではおまえに勝てない」
「負けを認めるか!この腰抜けがっ!!」
バキィィンッ!!
力強い太刀が俺の求めを打ち上げた。
腹ががら空きになる。
「終わりだぁっ!!」
「一対一では・・・の話だ」
「破空断ッ!!」
ギュルルル・・・!
ザブシュッ!!!
「なっ・・・!があぁぁっ!!」
ドサッ!
雷を従った風の大きな刃が、トドメと思って大きく振りかぶったせいで、ガラ空きになったアレックスの腹を切り裂き、その衝撃で木まで吹き飛ばした。
「悠人さん、大丈夫でしたか?」
「ああ。ナイスタイミング」
俺はレイナにグットサインを出す。
間一髪だったが、あのタイミングなら絶対に避けられないと思っての判断だろう。
「ぐっ・・・最初から・・・一人でキメるつもりは・・・なかったのか・・・!」
アレックスは腹を押さえながら立ち上がる。
「俺は自分の力を過信しちゃいないんでね。それに、一人でなんでもできるなんてーのは、ただの傲慢でしかない。だから、俺は素直に仲間を頼る。信頼できる仲間がいるから」
「ぐっ・・・!次は勝つ!覚えていろ、高嶺悠人・・・!」
「次はないに決まって・・・」
アレックスのすぐ近くの空間が、いきなり黒くなる・・・啓太がカノンを呼び出した時の光と正反対だ。
その中にアレックスが入っていく・・・。
シュゥゥゥ・・・。
黒い空間が閉じると、そこにアレックスはいなかった。
「逃げられた・・・のか?」
「そうみたい・・・ですね」
「今のは・・・一体なんだったのでしょう?」
「わからん・・・アレスティナには、独特の技術かなんかがあるんじゃないか?」
「戻ったら調べてもらいましょう」
「そうですね」
「んじゃ、まずは今日子達と合流だな」・・・
「なにぃ?そんなヤツがいたのか?」
俺は光陰達にさっきの敵の話をした。
「黒い空間ねぇ・・・なんだか、また瞬みたいなヤツがふえたってわけ?」
「なんだか大変になってきたね」
「こっちが勢力的に劣っているのは承知の上だったよ、アエリア」
「でも・・・そんな能力があるんだったら、すぐに戦争なんて終わるのにね」
「?どうしてだ?」
「光陰さん、わかってよね。だって、どこにでもいけるなら、一気に王様を倒せばいいんでしょ?」
「!!まさか・・・!!」
アエリア以外は、敵の本当の狙いがわかったようだ。
「チィッ!」
光陰は舌打ちをして、走りだした。それに続くみんな。
「アエリア!遅れるなよ!」
「え!?どーしていきなり走りだすの!?」・・・
その頃の城。
留守番のメシフィアをリーダーとする、メルフィーやアセリアやオルファなどは、突然あらわれた敵を撃退している最中だった。
「全く・・・どうなってるの!?いきなり敵が城に入ってくるなんて」
「落ち着いてよメルフィーさん!」
「オルファ・・・!そうね・・・冷静にならないと」
「うん」
「敵の出所がわからない以上、王を守りながら敵を撃退するしかない。王から目を離さないように!」
メシフィアの号令で、王を中心にして守りを固める部隊。
ブゥゥン、ブゥゥゥン!
謁見の間につぎつぎと現れる敵。
「これじゃキリがないわ!」
「もぅ・・・どっかに消えてよ!!」
ブシュゥッ・・・マナに還る最後の敵。
送られてくるのはスピリットばかり。心苦しいが、メシフィア達は斬る。
下手に言い訳はしない。散らせていった命を純粋に悲しむ・・・。
しばらく静寂が場を包む。
「・・・終わった?」
「安心しないで。こういう隙を敵は突いてくる」
ブゥゥン・・・!
「その通りだ・・・メシフィア・プルースト」
黒い空間から、優男が出てきた。
だが・・・雰囲気はとてつもなく冷たかった。
「・・・誰だ?」
「これは失礼。私は『邂逅』のグレイ。アレスティナ特務部隊隊長を努めている。主人の命により、貴殿らの命を頂きにきた」
「敵か・・・」
「そうだ。親愛の証に一つ教えてあげよう。きみたちが一番知りたがっている事だ」
「・・・空間か?」
「そう。この空間は、アウターゲートと言って、ある人物・・・名前は明かせないがな。その方がイメージする場所へと一瞬で飛んでいけるという物だ。だが、欠点なのは一度に1、2人程度しか移動できないのと、一週間ごとでしか使えないということだ。ちなみに、今回は私が最後だ」
「・・・それが本当だという証は?」
「これから私がすることのお詫び・・・とでもしておこうか」
「なんだと・・・?」
「なに、ちょっと余興をな。先程から、城下町がうるさいと思わないか?」
「・・・」
耳を澄ますと、住人の声が聞こえてくる。
タスケテ・・・
ギャアアア・・・
「・・・まさか!!」
「そう。一匹だけ発狂したスピリットを送り込んでおいた。今頃何十人と殺しているんだろうな。クック・・・」
薄気味悪い笑顔・・・それに、スピリットを『匹』扱いしている。
それを感じて、メシフィアは憎しみが沸きあがるのを感じた。
「これが、さっきの情報に対する等価交換とでも言おうか。今回の非礼の詫びに、さっきの情報は本物だと誓おう」
「うるさい・・・!」
「む・・・?」
「アセリア!」
「わかってる・・・!こっちは頼んだ」
アセリアは城下町へと飛んでいった。
「元エレキクルの青い牙か・・・ヤツならあのスピリットも終わりか。まぁいい。アレスティナに対する恐怖は植え付けられただろうからな」
「黙れッ!」
「メシフィア・・・君は潔癖だな」
ニヤリと嫌な笑いをするグレイ。
「なにを・・・!」
「だからこそ・・・私の手で汚したい」
次はゾクッとするような笑い・・・。
「貴様なんかに・・・負けるものかッ!」
メシフィアがグレイに斬り掛かる。
バシュッ!!
「!?」
グレイは避けることもしないで、深く切り裂かれた。
「・・・!?」
異変を感じてすぐさま距離を置くメシフィア。
ムゴムゴ・・・
ボゴォォオッ!!
切り裂かれた部分で体が二つに別れたかと思うと、その体は二つともグレイになった。
「どうだい?」
「面白い能力だろう?」
「なんだ・・・それは・・・!」
「特殊能力さ。この邂逅とあわせてこそ使える能力・・・。分裂さ」
「分裂・・・!」
「効果は数十分で切れてしまうが・・・」
「だが・・・その数十分、君は二人分の私を受けとめ切れるかな?」
「・・・私は一人じゃない」
「そうよ。私達を忘れないでよね」
メルフィーが剣を構えた。
「分裂もできないように、消しちゃえばいいんだよね!」
オルファも構えた。
「なるほど・・・啓太君の元で一致団結した・・・というわけか」
その様子を見て、ヒュゥと口笛を吹く。
「そうだ」
「そういえば・・・見たところ、その啓太君がいないようだが?」
「・・・」
「・・・そうか。秋月が遅いのが関係しているんだね?瞬にやられるということはないだろうが・・・油断してやられたというのはありえるだろうなぁ」
「ケイタは死んでない!」
「・・・そうさ、私はその君の潔白さを汚したいんだ・・・!」
「キショいこと言ってないで、とっととおねんねしなさい!」
「メシフィアはとーっくに啓太の物なんだから!!」
「い、いや・・・」
こんな状況で照れるメシフィアに座布団一枚。
「はぁぁぁぁ!!」
メルフィーが斬り掛かった!
シュッ・・・
それを軽く避けるグレイ。
「てやっ!」
「遅いわよっ!」
キィンッ!
「!」
グレイがわずばかりながら驚いている。てっきりデスクワーク派だと思っていたメルフィーがこんなに素早いとは思わなかったのだろう。
そもそも、グレイは永遠神剣を使っている。対してメルフィーはただの宝剣・・・。
普通ならば戦いにさえならないはずなのだ。
「せいっ!はぁっ!」
「くっ・・・!」
メルフィーの剣がグレイを襲う。
「ていっ!」
「ぐっ!」
剣で防いでばかりいたグレイが、メルフィーに蹴り飛ばされた。
「天魔斬!」
メルフィーの剣が白い光を纏い始めた。
「せいやぁぁぁっ!!」
「くらうかぁぁぁぁっ!」
バギィィィッ!!
キィィンッ!!!
鈍い音がしたかと思うと、突然白い光が膨れ上がり、二人を包んだ・・・。
「なっ・・・バカ・・・な!」
光が消えると、グレイの体が半分溶けていた。
「あなたの能力は、どっちも本物だけれど、一定以上のダメージをうけると、そっちをトカゲのしっぽみたいに捨ててしまうみたいね」
「ぐっ・・・」
シュゥゥゥ・・・。
そのまま溶けてグレイは消えた・・・。
「メシフィア、オルファリルのコンビか・・・」
「勝ち目はないわ。大人しく降参しなさい」
「ふふっ・・・そういう高潔なところも・・・壊したい」
「さっきから・・・何おかしいこと言ってるの!?メシフィアは啓太の物なんだから、あなたなんかいらないんですよーっだ!!」
「ふふっ・・・別に私はメシフィアが欲しいわけではない。ただ・・・その綺麗な顔を壊したいだけさ」
なぜそこまで執着してくるのかわからない・・・。
でも、だからといってやすやすとケイタ以外の男に何かされるつもりはない。
「・・・」
「もう、意味わかんない!メシフィア、やっちゃうよ!?」
「ああ!目を覚まさせてやる!」
「ふふっ・・・来い。そして、力の差を思い知るんだ」
「いっけぇぇぇ!!インシネレートッ!!」
ドォォォンッ!!
いきなりオルファの呪文がグレイに炸裂した。
「はぁぁぁぁ!!」
まだ爆発の余韻がおさまらない中、メシフィアはそこへ飛び込む!
さっきみたいに致死量の攻撃を与えたら分裂されるだけ・・・。
なら、手加減して弱めてから、一気に!
パキィィンッ!
「やるね・・・」
「くっ・・・」
剣を邂逅で止められた。視界が悪いというのに、素早い・・・。
ギュッ!
「うあっ・・・!」
右手を捻りあげられてしまうメシフィア。
剣を落としてしまう。
「離せッ!!」
「その戦闘意欲を失わない目・・・素晴らしい」
また、卑猥とは違ういやらしい顔をするグレイ。
「・・・」
自然と顔がひきつるメシフィア。そんなもの、ケイタ以外に言われてもうれしくない、という顔だ。
そもそも、ケイタはそんなこと言わないが。
「メシフィアを・・・離してよッ!」
ズドォォォッ!
「むっ・・・!?」
オルファの呪文で、グレイに一瞬の隙ができた。
「てやっ!」
「ぐおっ・・・!」
足でグレイの腹を蹴り、剣を取って距離を置く。
「助かった、オルファ」
「まだあいつは生きてるよ!」
「ああ・・・」・・・
爆発の余韻が消える。
「さて・・・仕方ない」
グレイはあれだけ直撃を受けていながら、ちっともダメージを受けていなかった。
「そろそろ、私からも仕掛けないといけないね」
「っ!」
一瞬にして目の前に詰められ、すかさず振り下ろされる剣を受けとめる。
ギィィッ!
剣が悲鳴をあげた。
「くっ・・・」
ジリジリと押されるメシフィア。
ケイタと競り合っても負けないメシフィアが押されていた・・・。
「さて・・・そろそろ終わりにさせようか」
「なに・・・!?」
「はぁぁぁ・・・!!」
グレイが力を入れると、邂逅がオーラを纏う。
ギギギギギ・・・!!!
剣の悲鳴がどんどん限界に近づいていると警告してくる。
「くそっ・・・!」
「せやっ!!」
グッと力が入ったかと思った矢先・・・
バキィィィンッ!
「なっ・・・!」
ザパァァァッ!!
「ぐっ・・・!!」
たえきれなくなったかのように、四宝剣が砕け、そのまま振り下ろされた邂逅はメシフィアを縦に切り裂いた。
傷から鮮血が吹き上がる。
そのまま片膝をつくメシフィア。
「メシフィア!」
「おっと、オルファリル・・・動かないでもらおうか。動くと彼女の首が飛ぶぞ?」
「う・・・!」
首筋に剣を突き付けられた。
絶体絶命・・・!
「くそ・・・」
「いいねぇ、その苦しむ顔。その顔こそ、私が望んだものだ」
そう言っている彼の顔が、喜びから憎しみに一変した。
「・・・だが、唯一気に入らないのは、その瞳だ。なぜ・・・そんなに輝いている」
そんな程度の疑問・・・答えなどとっくに用意できていた。
「・・・苦しんでいても、絶望はしないからだ」
「・・・!」
「絶望することは、生きることを捨てるのと同じ。でも、私はまだ生きたい。絶対に、諦めない。ケイタと、普通の家庭を築いて、普通に生活して・・・普通に、こどもを育てて・・・そんな未来を、私は諦めない」
「むあああ!!なんだそれは!?そんな物いらない・・・いらねぇんだよぉぉ!!!」
グレイが発狂したかのように叫ぶ。
・・・その時、頭に声が響いた。
{助けが必要か?}
(え・・・カノン!?)
一度くらいしか聞いた事のない声に驚く。
{どうやらメシフィアのことを、気に入った上位永遠神剣がいるようだ。契約の半分程度の力しか得られないが・・・どうする?}
そのチャンス・・・逃がしてはならないとわかる。
(カノン・・・頼む)
{いいのか?強制力に苦しむかもしれないぞ?}
確認してくるカノン。だけど、迷うはずがない。
(・・・私は、諦めたくない。ケイタとの未来を・・・だから、今、生きる力が欲しい。未来をつかむための力が!)
メシフィアは右手を拳にした。
{ふっ・・・さすがに啓太が惚れただけの女だったな。よし、召喚するぞ!}
ブォォォォ・・・!!!
「な、なんだ!?」
メシフィアとグレイの間に白い空間が出現した。
メシフィアは、そこに迷わず手を入れる・・・。
指が何かに触れた。感触を確かめるようにして、それを引き抜いた。
ブワァァァァッ・・・!
空間が閉じる。
出てきたのは・・・2メートルはゆうに越えるであろう、長く、見ほれてしまう程スラッとした、両刃の長剣だった。
{あなたがメシフィアね?}
剣から女性の声が聞こえる。
「名前は・・・?」
{今日からあなたのパートナーとなる、永遠神剣第二位・・・『蒼天』よ。よろしくね?}
「『蒼天』・・・」
その名前を言う。すると、それだけで少し勇気がでた。
{さぁ、いきましょう!}
「ああ!」
「チッ!邂逅よりも位が高い永遠神剣か・・・!」
「私は負けないッ!」
体がさっきまでとは違う、人知を越えた速さで動く。
(これが・・・剣の力!勝てる・・ッ!)
傷も治っていて、体の調子は万全になっていた。
メシフィアは勢い良く蒼天を横に薙いだ。
キィィンッ!
バシュッ!
「ぐっ!」
グレイは剣を受けとめたが、剣の衝撃波がグレイを斬った。
グレイの脇から血が垂れる。
「重くて速い・・・!」
「まだだ!」
とびすさったグレイを追撃せずに、蒼天を地面に叩きつけた!
ドゴォォォォッ!!
「なっ・・・!」
地面を這うようにして衝撃波がグレイに向かう。
(なんていう力だ・・・これが・・・永遠神剣・・・いや、メシフィアの実力だと!?)
グレイは横に飛び、衝撃波は壁にぶつかり、壁を砕いた。
「っ!?」
「終わりだ!」
グレイが衝撃波を避けた方向には、すでにメシフィアがいた。
メシフィアはグレイの横を通った・・・。
ブシャァァァッ!
「ぐああぁぁ!!」
腹に大きな傷ができ、そこから血が大量に吹き出した。
すかさず手で押さえても、出血はとまらない。
「くっ・・・メシフィアァァァァ!」
「負けを認めろ。もう、勝てないぞ?」
「まだ・・・まだだぁぁぁ!!」
ブゥゥンッ!
黒い空間が、いきなりグレイの横に現れた。
「潮時だ。引け」
現れた男は、いきなりそう言うとグレイを捕まえた。
「ぐ・・・タイムリミットか・・・次だ!次で・・・かならず、おまえを!」
男はグレイを引き込むと、黒い空間は消えた・・・。
「勝てた・・・か?」
「なんとか・・・撃退できたみたいだね」
「蒼天・・・ありがとう」
ピンチを救ってくれた剣にお礼を言う。
{私じゃないわ。あなたの実力よ。そして、未来をつかもうとする、その願いがね。その願いが蒼天に轟いたからこそ、私はこの身を預けるんだから}
「・・・ケイタはどうしてるのかな・・・」
{カノン様もあれから意識がないみたいだし・・・でも、きっと大丈夫よ。そうじゃなきゃ私が出てきた意味もないでしょ?}
「そう・・・だね」
「メシフィア〜、どうする?」
トテテテとオルファが走って来た。
「なにがだ?」
「何がって・・・この謁見の間」
「あ・・・」
王様はなんとか守り切れたが、謁見の間はとてもそうとは思えない程崩れていた。
「・・・」
そのあと、メシフィア達が後片付けをしたのは言うまでもない・・・。
そして、その頃・・・啓太はというと・・・。
「うおっはっはっ!大漁大漁。これなら今日はエルーナに『必殺、エルーナ風昇天スパイス仕込み卍固め』を食らわなくてすむな」
のんきに大漁の魚を入れた箱を、エルーナが待つ家に運んでいるところだった。
「お〜い、大川よ〜い」
遠くで俺を呼ぶ声がした。
「この声は・・・リンゴ盗んで、見つかって走って逃げて、ぶつかってしまったおばあちゃんがそれ以外の原因で死んでしまったせいで、勘違いされてここへ飛ばされた、バルパスだな。なんだ〜、バルパスゥ?」
「大川、例のブツ、手に入ったぜぃ」
「マジで!?エルーナに見つからないように、な?」
「おぅ。バッチリ任せとけ」
「しかしなぁ、この世界にそーいう本はないとばかり思ってたよ」
「バカもんがぁ。どこでも男のロマンは一緒よ」
「ぐししし・・・」
「むふふふふ・・・」
「男のロマンって・・・なに?」
「そりゃもちろん、エ・・・」
「エ?」
オレ達の後ろにいたのは・・・
「エルーナァァァァァァ!?」
「えへっ」
戦慄を覚える笑顔とはまさにこのこと。
「・・・」
「バルパス・・・」
「あぁ・・・」
その後、地獄も天国に感じるほどの拷問を受けた・・・。
(やっぱり・・・エルーナの顔でアイコラしてたってのが・・・いけなかったのかなぁ・・・。別に、俺はそのままで良かったんだけどさ・・・)
・・・
「酷いな・・・」
「ええ・・・」
ウルカとメシフィアは、前回の戦闘で傷ついた城下町を見ていた。
あちこちの建物は崩れ、何十人と亡くなった・・・。
何十人となくなった、と言える自分がすでに恐ろしい・・・。
啓太は、一人なくなるだけであれだけ悲しんだ。
その数十倍・・・悲しみがあるはずなのに、こうして淡々と考えられる・・・それが、戦争なんだと悔しかった。
「あ、悠人・・・」
反対側から、悠人とアセリアがやってきた。
「どうだった?」
「被害はここのあたりだけみたいだ。アセリアのおかげだ」
「ん・・・メシフィアの判断が早かったから」
「それでも、ありがとう」
「ん・・・」
少し赤くなってうつむくアセリア。褒められるということに慣れていないのか、悠人だからなのか・・・。
「でも・・・逆に言えば、これだけの被害が出てしまった・・・手前がもっと精進していれば・・・!」
「ウルカ、自分を責めるな。な?」
「・・・はい」
「・・・悠人。がんばろう。啓太が戻ってくるまで・・・戦争が終わるまで」
「・・・そうだな」・・・
「それって・・・どういうことですか?」
メシフィアと悠人は王から命令をうけた。その命令は・・・
「おれ達に・・・国民を殺せ・・・と」
アレスティナ南部・・・つまり、カオストロ側の市街地を、制圧しろ・・・だった。
制圧・・・前に啓太は一人も殺さず関所を落としたが、あそこには軍人しかいいうえに、あそこは軍事拠点なだけで、人が住んでいる場所ではなかった。
今回・・・もし、衛兵たちがやってくればもちろん戦闘になる。
そうなれば・・・市街地に被害が出るのは確実だった。
たとえ国民を殺さなくても、その行動で不幸になる人の数は、今までの比ではない。
さらに、最終目標は世界の平和・・・アレスティナにそんな事を仕掛ければ、関係は悪化するに決まっている。
「そうではない。制圧しろ、と言っている」
「同じじゃないですか!」
「メシフィアよ。今回の戦争は、正義だけでは生き残れぬ」
「・・・」
「正義や信念を捨て、勝つことだけを考えよ」
王がいたって真面目な顔で言う。
「・・・」
「大丈夫だ。おぬしらが行く頃には、人々はほとんどいなくなっているはずだ」
「・・・どういう意味ですか?」
「既に奇襲部隊を仕向けておいた」
「・・・!」
「おぬしらがつくころには、衛兵以外は避難しておるはずだ。そこで、おぬしらは衛兵を倒せばよい」
「・・・」
キッと王は、メシフィアと悠人をにらみつけた。
「衛兵は皆殺しにしろ。国民でも逆らうものは殺してかまわん」
「なっ・・・くっ・・・!」
「命令である。逆らう場合は、別の作戦を取る」
「別の作戦・・・?」
「あの大きな川に毒を流し、それを使っているアレスティナ国民を・・・毒殺する」
「なっ・・・!冗談じゃないですよ!!」
「なんでそんな卑怯な手まで使う必要が・・・!」
「おぬしらは勘違いしていないか?これは喧嘩ではない。どちらかが倒れるまで続く、戦争なのだ。ならば、一気に終わらせてしまったほうが、国民は安心するに決まっておるだろう」
「アレスティナの国民はどうなってもいいって言うのですか!」
悠人は叫ぶ。そんなもの認めない、と言わんばかりに。
「悠人、私はどこの王だ?」
「それは・・・!」
「私が常に考えているのは、早く国民を安心させる方法だけだ。そこに正義や義理や情はいらぬ!よいな!?」
「・・・はい」
従うしかなかった。
アレスティナ国民を皆殺しにさせるわけには・・・いかないから。
だったら・・・。
(・・・ケイタ、あなたなら・・・どうするんだ?やっぱり・・・戦わないのだろうな。ケイタ・・・会いたい)
{メシフィア・・・}
(蒼天・・・)
{啓太ならどうする・・・じゃなくて、あなたはどうしたいの?}
(それは・・・)
答えられない。軍の部隊を任される身なら、命をかけて国民を守らなくてはいけない。
何があろうとも・・・だから、今回の作戦は、いきなりカオストロ国民が殺されたばかりなら・・・この上なく国民には吉報となるだろう・・・。
でも、納得・・・できない。
{・・・難しい質問しちゃったわね。答えなくていいわ。答えは、きっと彼が持ってくるから}
(・・・そうだな)
{だから・・・休みなさい。今は・・・ね}
(・・・おやすみ)
{ええ}・・・
パキィィンッ!
蒼天が振りぬかれたと思うと、アレスティナのスピリットの剣が吹き飛び、地面に刺さった。
「降伏しなさい。殺すつもりはないわ」
「・・・」
黙ってそれに従うスピリット。
「はぁ・・・」
ため息が出てしまう。初めて人の住んでいた町を侵略している・・・それが、心のおもりとなっていた。
「メシフィア、大丈夫?」
「叶さん・・・」
「啓太君は啓太君よ?無理して同じ道をいかなくても・・・」
「私はケイタの妻・・・ですから。ケイタの道を・・・!」
「・・・似たもの夫婦・・・ね」
その決意に満ちた横顔に、呆れるような感心するような・・・。
「せいっ!」
叶はラグナロクを振りぬいた。
キィィンッ!
背後から斬り付けてきた敵の剣が折れる。
「不意打ちなんて卑怯ね」
「くっ・・・」
叶はラグナロクを振りぬいた。
ピシュッ・・・
スピリットの頬が切れると、スピリットは沈黙した。
叶も殺すつもりはないようだ。
「そういえば・・・終焉の力は・・・?」
「あぁ、使うわけにはいかないの。そりゃ、使えば簡単にスピリットを拘束できるけど、そうすれば終焉が来てるってバレちゃうもの。『神光』、『悪光』、『終焉』の永遠神剣第一位トリオ・・・どれでも一つはすごい力を持ってる。だからこそ、何かを使えばあっという間に悟られて、ラグナロクも狙ってくる・・・。もし、カノンが奪われた時に、このラグナロクまでなかったら、もうこの世界どころか、どの世界も破滅するわ。だからこそ、なるべく内密にしたい。本当は、『悪光』があればよかったんだけどね・・・。啓太君が砕いちゃったから・・・もう、二本しかないのよ」
一気に説明されたが、いまではすんなりと理解できた。
「・・・」
「ま、今の状況じゃぁ、終焉しかないと言っても過言じゃないけど。啓太君以外がカノンを使えるはずもないし」
「そうか・・・急ごう。この南部の制圧・・・」
「そうね。王様に毒を使わせるワケにはいかないし」・・・
そして、その数時間後。
カオストロはアレスティナの南部の町を制圧・・・。
市民、軍事の被害はゼロだった。
それを不満に思った王だったが・・・捕虜になっていたスピリットを、カオストロの軍に入れるということで、なんとか飲み込ませた。
その頃・・・主人公は・・・。
「イダダダダッ!勘弁してくれっ!ギブッ!ギ・・・ギブ・・・!がはっ!」
啓太は口から泡を吐いた。倒れている箱の中身はゼロ・・・。
「今日の夕飯どうしてくれるのよぉぉぉぉ!!」
ギリギリ・・・!!
啓太の体が悲鳴をあげ始めた。
「さ、魚も人を見るっていうか・・・あれ?それじゃ俺はダメってこと?と、とにかくギブッ!ギブギブ・・・ゲプッ・・・」
クルッ・・・!
いきなりエルーナが態勢を変えた。
「こ、この態勢は・・・!」
「必殺!エルーナ風昇天スパイス仕込み卍固めッ!!」
「ぎゃああああああっ!!!」
ボキッ!
ギリギリ!
「い、今絶対逝った!絶対腕逝ったから!」
「魚つれない腕なんかいらないのよぉぉぉぉぉ!」
「ヒデェ!!ぎ、ギブッ!!し、死ぬ!死んじゃう〜ッ!!!!」
クルッ!
また態勢が変わるエルーナ。
素早い・・・!逃げられないぞ!?
「十字固め!」
「がぁぁぁぁ!!う、腕がぁぁぁ!!」
せっかく治った左腕がぁ!!
(あぁ、でもなんか・・・この左腕・・・痛いけど、感触がいいかも・・・)
十字固め・・・左腕は嫌でもエルーナに密着するわけで・・・。
その、ね?
「うらぁ!!」
ギギギギッ!
俺の思考を読み取ったかのように、力を強めるエルーナ。
「前言撤回!いでぇぇぇぇ!!!」
「今日の啓太君のご飯はナシッ!」
「えぇ!?そんなぁぁ!」
「取れなかった啓太君が悪いッ!」
「保存食あるじゃねぇかぁ!」
「保存食と非常食は全然違うんだからっ!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」・・・
その悲鳴を聞いて、犯罪者・・・もとい、バルパス達ジパング島民は、はぁ・・・とため息をついた。
すっかりジパングに馴染みきったこの光景・・・啓太、君はいつ帰るんだ?
妻は一生懸命がんばっているというのに。
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『勝利』のアレックス・・・永遠神剣第三位『勝利』の持ち主。主君に忠誠を誓っていて、命を捨てても構わない程心酔している。
偽善や建前、無責任を嫌い、武人のような性格。悠人のような人間は好きではないようだ。
永遠神剣第三位『勝利』・・・ほとんど喋らないが、しっかりとした自我を持っている。契約者には何事にも勝利を望む。
特殊能力『アンチ・マナ』はマナを使わない、次に相手の神剣のマナをコントロールして大技を防ぐ、
というもの。そのおかげでバリアなどの能力が低下するので、そこを直接攻撃する戦い方をする。
『邂逅』のグレイ・・・永遠神剣第三位『邂逅』の持ち主。メシフィアに酔っていて、その気高さや潔癖な所を壊そうと狙っている。
そのため、メシフィアのその気高さや潔癖さの原因の啓太を憎んでいる。
主君に忠誠を誓っているが、それはメシフィアを狙いやすくするためだけの薄い忠誠。
永遠神剣第三位『邂逅』・・・自我を持たない上位神剣。ただ、何かを破壊したいだけの存在。リミットスキル『分裂』は、
グレイの素質と邂逅』の能力で成せる能力。
攻撃され、一定のダメージを受けると分裂し、傷を治す。
分裂するとそれぞれの能力は均等に分かれるが、どちらか一方が倒されると、
そっちを捨ててしまうので、残った方に全能力が移る。
効果は数十分で、過ぎると自動的に一人にもどる。
ワープ装置『アウター・ゲート』・・・『叶さんたち側の人間』の『空間を渡る能力』を応用した装置。
主君がイメージしたところへ数人飛ばせる。
ただし、マナの消費量や、オーバーヒートを防ぐために、
一週間ごとでしか起動できない。おくれる人数は一回の起動で大体20人程度が限度。
永遠神剣第二位『蒼天』・・・カノンの手助けで導かれて来た上位永遠神剣。刀身が2メートルを越え、スラッとしている両刃の剣。
特殊能力『切断』は、生ある物以外ならなんでも斬ってしまうというもの。
だが、永遠神剣やマナの呪文などは無理。メシフィアのお姉さん、または母親的な性格で、
メシフィアには、いつまでも今のままでいてほしいと思っている。
気高さや純粋さ、強く清き願いを求める。正式に契約すると『蒼天の星〜〜』と名乗る。
レイナ必殺技『破空断』・・・雷を従えた風の刃を放ち、相手を刻む。すぐに発動できるので、『電陣』みたいに詠唱がいらない。
威力は高く、一対一だと抜群の効果を発揮する。