「ここは・・・」
メシフィアは変な空間にいた。真っ黒で、何もない・・・。
「ケイタ?」
そこに、一人の少年が座っていた。突然、何かの映像がうつる。
最初・・・洞窟の中でカノンを見付け・・・この世界に飛ばされて、いきなり殺されて・・・そして、メシフィアに殺され、そのまま流されるままに国へ・・・。
そして・・・いろいろな戦いをして・・・でも、『殺さない』信念のせいで逆に殺されて・・・。
それでも、やっぱりそれを貫いて・・・。
(でも・・・なんでこの映像には『笑顔』がないの?)
笑顔があるはずのシーンに、笑顔はなかった。
「・・・なぁメシフィア」
「ん?」
「なんだか・・・変だよな。俺は、こんなにがんばったのに、だれも笑ってくれなかったんだぜ?」
「この映像は、カノンが作った物だ!本当のおまえは・・・人をたくさん幸せにしたはずだ!」
おそらくこれが永遠神剣の手口。気をしっかり持たせようと叫ぶ。
「そんなことないさ。俺の手は・・・もう、血塗れなんだよ」
「それは・・・!」
自分の両手を、まるで蔑むように見つめる啓太。
なにもかもに絶望している・・・。その悲壮観は痛々しかった。
「でも・・・少なくとも・・・少なくとも、私は笑顔になった!」
「・・・」
「ケイタのおかげで、本当の強さの意味がわかったし、本当の幸せや平和っていうのもわかった気がする・・・。そして、笑う事の感動を、私は知った。ケイタがいたから・・・知ることができた」
「メシフィア・・・別にいいよ、そんなこと言わなくても」
「なっ・・・!」
「もぅ・・・世界は平和になったし・・・これから起こる戦いになんか・・・俺はいらない・・・この世界に、俺はいらないよ」
「ふざけるなっ!!」
本来の啓太の、正反対の言葉を次々吐き出す啓太に怒鳴る。
その様子を見ているだけで、腹の底から言葉がでた。
「自分で言った事を忘れたのか!?自分たちで、平和な世界を作っていこう、そう言った!」
「・・・忘れたよ」
「!!」
「このまま・・・神剣に飲まれちまうのも、いいかもしれないな」
「ケイタッ!」
バチィッ!!
メシフィアは相変わらず目が死んでいる啓太をはたいた。
「いい加減に目をさませ!いつからそんなくだらない事を言うようになった!?」
「うるさい・・・。人殺しが」
「!!」
久しぶりに、その言葉を聞いた。
啓太が最初の頃に、メシフィアに対して思っていた言葉・・・。
『人殺し』・・・
「・・・」
「さぁ、帰ってくれ。もう、用はないだろう?」
「・・・ケイタ」
「ん?」
「私は人殺しだ」
「そうだな」
「でも・・・ケイタは、そんな私を受け入れてくれた」
「・・・」
「だから・・・今度は私が受け入れなくちゃいけない。人殺し・・・その言葉を。でも、もう、あの頃の私じゃない。ケイタと会って、私は変われた・・・だから、これからは、殺してしまった人のために、その罪を償うために、平和な世界を作っていこうと思う」
「・・・」
「それが・・・ケイタと会って、一番に教えられた事だった。過去を悔やむのではなく、散っていった命のために・・・自分の中で・・・何ができるのか・・・何をするべきなのか・・・。それを考えることが重要なんだって」
「・・・」
「それなのに、ケイタ・・・それを教えてくれたケイタが、なんで止まっているの?」
初めてかもしれない、メシフィアの女言葉・・・。
とても、優しく、ぎこちなかった。
「俺は・・・この世界の住人じゃない。ましてや、この世界にいるべき人間でもない」
「・・・でも、私達の仲間でしょ?」
「・・・仲間・・・なんかじゃ・・・な・・・い」
啓太の声が震え始める。
メシフィアの声が聞こえはじめたのか・・・。
『邪魔をするな人間!』
突然憎悪が感じられる程のカノンの声が聞こえた。
「うるさい、カノン!!ケイタは意地でも返してもらうんだから!」
『もはや無駄なことだ!ヤツの精神は既に・・・』
「そうかしら?」
『なに・・・?』
「あなたの一番欲しいもの・・・結局、手に入ってないじゃない」
『なんだと・・・!』
「大量のマナよ。スピリットを殺そうとしてまで、それを欲しがったあなたが、どうしてそれを手に入れられないのでしょうね?」
『!!それは・・・!』
「ケイタが・・・あなたのその命令に反対して、強制力に耐えているからよ!つまり、あなたはケイタの全てを飲み込んだワケじゃない!まだ・・・ケイタを助けられるわ!」
『チッ・・・その強がり、どこまで続くか見させてもらうわ!』
「ケイタ!帰ってきて!」
「俺は・・・守れ・・・な・・・」
「守れなかった?そうね・・・あなたは、大事な二人を守れなかったわ」
「・・・ぐっ」
「でも・・・そのかわり、その二人にとても大切な物をふたつも与えたわ」
「・・・」
「まず、『笑顔』という、宝物を・・・あなたは、あの二人に与えることができた。立場の重圧でいつも緊張の限界にいたシルビア・・・神剣に飲み込まれて、決して破壊することをやめなかったあなたのお兄さん・・・その二人とも・・・とびきりの笑顔をみせたわ。他ならない、あなたと会ったおかげで」
「・・・俺は」
「そして・・・その宝物を与えたのは、二人にだけじゃないわ・・・私も、あなたから笑顔をもらった」
「・・・」
そっと啓太を抱くメシフィア。
「そんなあなたが・・・たくさんの人を幸せにできなかったワケがないじゃない。みんな・・・笑っていたじゃない。あの集会で・・・あなたは何を見たの?国民の笑顔・・・そうでしょ?」
「・・・俺・・・は・・・」
「そしてもう一つ・・・人を好きになる事のすばらしさ・・・あなたはそれを教えてくれたじゃない。シルビアにも・・・あなたのお兄さんにも」
「・・・」
軽く深呼吸して、溢れ出す想いを一旦止めるメシフィア。
そして・・・
「そして・・・私にも教えてくれた。人を好きになる、愛するということが、どれだけ温かくて、優しくて・・・心地よいものなのか・・・。だから・・・あなたがこの世界にいらないなんて、ありえない」
そこでメシフィアは息を吐く。
溢れ出す思いを一気に伝えようと焦っている自分に気付いたのか、一回だけまた深呼吸をした。
「もし、世界がそうだったとしたら、私はそんな世界いらない。そんなの許さない。だって・・・私には、あなたが必要だから」
「・・・」
「だから・・・帰ってきて。啓太・・・」
「・・・」
シュゥゥゥ・・・と、啓太の体から何かが抜けていく。
同時に、今まで漂っていた悲しい雰囲気が消えて行くのを感じる。
「カノン・・・」
{なんだ?}
「・・・いくぜ?」
{やっと・・・目が覚めたか}
『なに!?ばかな・・・!完全に取り込まれていたはずの人間が・・・!』
「ああ、たしかに俺は取り込まれていた・・・もし、もう少し遅ければ、きっとスピリット達を殺して、おまえにマナを与えていたかもしれない」
{だが、啓太だからな。そうはいかないんだな、コレが}
クック・・・とカノンが笑いを抑える。
「俺には・・・いろんな罪がある。でも、メシフィアの言うとおり、それを悔やむのが、俺のすべきことじゃない。俺も・・・前に進まなくちゃ。これから、何ができるのか・・・何をするべきか・・・ね。だから・・・俺は、前に進んでやる!!」
『そんな・・・そんなことで・・・』
「それに、この世界はまだ俺が必要みたいだしね。特に、俺を抱いてた人なんか」
「!!」
{ま、そういうことだ。永遠神剣はしょせんは剣。いつまでも人を操ることなどできないさ}
カノンは自分の力量を悟っているかのように言った。今のあの『求め』では絶対に言えないだろう。
『ばかな・・・あれだけ弱い人間に・・・負ける!?』
「人間は・・・弱いよ。一人だと・・・下手すると、何もできないかもね」
{だが・・・剣と違って、人間は、一人じゃない}
「仲間がいる。こうやって、想ってくれる人がいる。それが、人間の強さ・・・じゃないのかな?手を取り合って、協力して・・・喜びは二倍にして、悲しさは半分にして・・・そうやって、生きていく・・・だから、人間って素晴らしいって言われるんじゃないかな?あんまり実感ないけど」
『ばかな・・・ウソだ・・・』
「だから・・・君は、もう俺に勝てないよ。俺のことを、こんなにも想ってくれている人がいる。その人がいるかぎり、俺は生きなくちゃ・・・それを、知ったからね。いくよ、カノン!!」
{ああ!!}
暗闇が一気に消し飛んでいく。
眩しくてメシフィアは目を閉じた。手に優しく、限りなく温かい物を感じながら・・・。
「ふぅ・・・」
「啓太!」
アエリアが飛び込んできた。
ま、普通ならメシフィアなんだけど・・・ま、いっか、と思う。
ヨシヨシと頭を撫でた。
「この野郎!心配かけやがって!」
光陰に頭をグリグリされた。
「イタタタ・・・すまんって。悪かった」
「まったく・・・世話が焼けるわね」
軽く溜息をつくメルフィー。なんだかんだで心配してくれていたようだ。
「メルフィー、サンキューな」
「無事戻ってこれて・・・本当に良かったです」
「全くだ。レイナもありがとう」
「今回で、こういうことは終わりにしてくれよ?」
「サンキューな、悠人に求め」
{ふん・・・}
「カノン、カモーン」
俺の手にカノンが飛んできた。白く戻っている。
「やっぱりカノンはこうでなくちゃね」
{まったくだ。本当にもう大丈夫なんだろうな?}
「きっとね。だって、ホラ。俺にはこんなに仲間がいるし」
「アンタねぇ・・・そういうこと、恥ずかしげもなく言わないでくれる?」
「岬だってそう思ってるんだろ?」
「・・・まぁね。ってだから言わせるなァァァァ!!!」
「は、ハリセン反た・・・?」
「え?」
場が固まってしまった。
なんと・・・というか、とにかく、俺を殺そう(撲殺あんど感電死)とした岬の前に、メシフィアが立ちはだかって止めたのだ。
これには一同ビックリ仰天桃の木だ。
・
・
・
なにそれ?
「・・・」
しばらくして、止まっていた世界が動き出す。
「・・・あー、なんだ。おれたちは邪魔みたいだから、外に出てようぜ」
と、光陰が固まっている岬を引きずって外に出る。
全員がヒソヒソ話しながら部屋を出ていく。
『果報者め・・・月夜の晩には気をつけろよ?モンスターに食われるぜ?』
だとか、よくわからないおどしをかけていくヤツ(光陰)もいた・・・。
「えっと・・・メシフィア?」
なんだか、こう・・・さっきの行動を見たあとだと、すごく恥ずかしい。
「なんだ?」
「・・・口調がもとに戻ってる」
「ふふっ、こっちの方が私らしいだろう?」
「あ・・・」
今の笑顔が・・・っとと。
ヤバいヤバい。
つい気恥ずかしくて、顔を背けてしまう。
「どうした?」
「いや、いい天気だなぁと」
「そっちに窓はないぞ?」
「・・・」
くそっ・・・。
「いや、だから・・・その、ね?」
「・・・なぁケイタ」
「うん?」
「返事・・・もらってもいいか?」
「返事?はい」
・・・
「・・・冗談かますところか?」
「いや、なんか恥ずかしくて・・・ごめんなさい」
「・・・で、どうなんだ?」
「・・・そんなに強気で迫る女ってめったにいないよなぁ」
「はぐらかすな」
「はい。わかりました」
俺は一呼吸おく。
「まず、一つだけ言っておく。シルビアの事・・・いいのか?」
「・・・正直、彼女よりも愛してほしいと思ってる」
「ぐ・・・」
いや、そういうことストレートに言うなってば。
顔がすごく熱い。
でも・・・こんな彼女なら・・・でも、いいのか?
シルビアの気持ち・・・裏切ることに・・・。
{シルビアの心・・・聞きたいか?}
「カノン?」
「え?」
{聞けるぞ。なんていっても俺は永遠神剣第一位『神光』だからな}
自慢っぽく言う。人ならば、胸を張っているというところだろう。
「よっしゃ!メシフィア、ちょっと答えは待って!」
俺はすぐさまカノンの意識へと入る・・・。
目の前に、いつのまにかシルビアがいた。
その姿に・・・ほほ笑みに、自然と涙が出てきてしまう。
「シルビア・・・」
「お久しぶりですね。啓太様」
「ああ・・・本当に・・・」
「ふふ、相変わらず、ですね」
「そういうシルビアも・・・」
「私は・・・変わりましたよ。だって、もう死んでいるんですから」
「・・・!!」
「そんな顔しないでください。私はちっとも後悔してないんですから」
「でも・・・俺は・・・!」
今でも鮮明に覚えている。あの、シルビアの血が俺の顔にかかった瞬間を・・・。
「正直に言いますとね?私、ちょっとあの子にやきもち焼いてます」
「・・・え?」
「だって、あの子はこれから、啓太様と一緒にいられるんですもの。羨ましいです」
「・・・」
「でも、私は言ったはずですよ?あなたが思ったとおりに・・・と」
「・・・」
「自分の気持ちに素直になって?その姿を私は愛したのですから」
「いいのか・・・?」
「あぁ、私って本当に良い女ですね」
「はは・・・自分で言うか。でも・・・本当に・・・うん、シルビアは良い女性だな」
「ちょっと淋しいですけど・・・お別れですね」
「・・・ああ」
「メシフィアさんの事・・・お願いしますね?」
「・・・」
「泣かしたら、承知しませんよ?化けて出ますから」
「・・・恐いな。うん、わかった・・・ありゃ」
出てくる涙が止まらなかった。
「あれれ・・・」
「ふふ・・・優しいんですね。あなたは」
「くそ・・・」
「仕方ないですねぇ」・・・
バチィィンッ!!
「うえ・・・!?」
俺はおもいきり叩かれた。シルビアに・・・。
「私からメシフィアさんに乗り換えるなんて、ヒドイです。だから、これは怒りの鉄拳です」
「・・・」
「これで、スッキリしました。だから、ね?」
「・・・すまない。いつまでも迷惑かけてて」
「いいんですよ。そういうところも、好きでしたから」
「もう過去形かよ」
「ふふっ。んじゃぁ、好きですから」
「・・・勘弁してくれ」
「あはは。それじゃあ・・・さようなら」
「・・・ああ。さよなら!」・・・
俺は目をあける。
「あ、ケイタ・・・」
不安そうな顔したメシフィアがいた。
「おう。ただいま」
「どうだった?」
「・・・スッキリしたかな。イタタ・・・」
なんだか現実でもいたいな・・・さっきの一撃。
「どうした?」
「なんでもない・・・っす。さて、んじゃ仕切り直しといこうか」
「・・・」
「・・・」
・・・・・・・・
「・・・黙ってたら始まらないんだけど」
「私はもう全て伝えただろう?」
「・・・そっか。んじゃ、俺の番・・・か」
「・・・ケイタ、好きだ」
「なっ・・・全て伝えたって言ったじゃないか・・・」
不意打ちで、喉まできた言葉が下がってしまった。
「なんとなく・・・言いたくなった。愛してるでもいいんだぞ?」
「・・・勘弁して。俺がいつまでも言えなくなる」
「そうか。・・・ケイタの返事、聞きたい」
メシフィアはまっすぐに俺を見てきた。
「・・・なぁメシフィア」
「なんだ?」
「言葉って難しい・・・だから、すごくありきたりな言葉になっちゃうんだけど・・・いいかな?」
「・・・早くしろ」
「すいません・・・。俺は、この世界で一番、メシフィアを愛してる。これからも、ずっとずっと、愛し続けたい」
そこで区切る。心の中で、シルビアに軽くお礼を言った。
そして・・・
「だから・・・メシフィア。俺と結婚してくれ」
「!?!?!?!?!?」
メシフィアの顔が今までで見たこともないほど赤くなる。
「・・・くはっ。やっぱ照れるなぁ、コレ。それ以上に緊張するけど」
「なっ・・・なななな!」
「あ、やっぱり驚いた?」
メシフィアは口をパクパクさせている。エサが欲しいんだろうけど、あいにく何もない。
そもそも、おれたちの世界じゃ結婚できる年令じゃありませんけどね、俺。
でも、この国では一二才から認められるらしいし。
「い、いきなり・・・結婚だなんて・・・」
「ダメかな?やっぱり・・・その、なんつーか・・・もう、メシフィアのいない生活って考えられなくてさ。言葉がポンポン出ちゃったっていうか・・・あ、でも本気なんだ!だから・・・返事をくれないか?」
いいのかなぁ・・・コレ。
「う・・・うぅ・・・」
「・・・」
やっぱりダメなんだろうか?そりゃそうかも。
だって・・・まだ付き合ってないし、そもそもさっきまで俺は別の女を引きずってたわけだし。
そんな尻軽そうな男に見えたら、やっぱり嫌だよなぁ・・・タイミング、まちがったかもしれない・・・。
メシフィアの声が聞こえないので、どんどん思考が悪いほうへと進んでいく。
「ぃ・・・ぃぃ」
「・・・は?聞こえない」
「・・・ぃぃ」
「だから、何?」
俺は耳を近付ける。
「何度も言わせるな・・・結婚・・・しても・・・いいぞ」
「・・・マジ!?」
驚いた。
ただ・・・驚いた。
「やったー!ふぅ、こんな緊張したの初めてだよ」
そりゃそうだ。
「ほ、本当に驚いたんだからな!いきなりけ、結婚だなんて・・・」
「でもさ・・・その・・・メシフィアが好きだから」
「う・・・」
「でも、どうして受けてくれたの?」
「・・・同じ理由だ。私も・・・ケイタが好きだから・・・な」
ぶっきらぼうだけど、顔を真っ赤にして言うメシフィア・・・。
その姿がたまらなくいとおしかった。
「メシフィア、こっちむいて」
「え?」
ふっとメシフィアがこっち向いた瞬間に、俺はキスをした。
最初は力を入れていたメシフィアも、しばらくして力を抜いてくれた・・・。
「・・・じゃ、夕飯でも食べに行くか」
「そうだな!」
「あ、そうそう。みんなにはしばらく秘密な?」
「・・・」
何も答えないが、なんとなくわかってくれたみたいだ・・・。
パァァンッ!パパパパパァァァンッ!!
「わわっと!?」
「な、なに!?」
おれ達が食堂に入ると、いきなりクラッカーの洗礼を浴びた。
『おめでとー!啓太(さん)!メシフィア(さん)!!』
(そーゆーことか)
「よぅ!果報者!」
いきなり光陰にくっつかれた。
「離れろって」
「そう邪険にすんなよ。な?悠人」
「そうだぜ?今日はおめでたいんだから」
「おめぇらの頭の中がな」
「なんですってぇぇぇ!」
「きょ、今日子!今回だけはハリセンはなしって約束だろ!?」
光陰があわてて止めた。
「主賓が倒れたらどうするんだよ、今日子」
「う・・・」
悠人の言葉で、ハリセンを渋々しまう。
「で、キメ言葉はなんだったんだ?」
「は?」
「は?じゃねぇよぉ。どうやって落としたんだよ、あんな美人」
「光陰、顔がニヤケきってる」
「おっと」
指で戻しても、すぐニヤケてるし。
「んー・・・別に、自分の素直な感情を」
「ほほぅ・・・で、その言葉は」
「言いたくない」
どうしてこんな男に俺の大事な言葉を言わなくてはいけないのだろうか?
「んだとぉ?この野郎。幸せ独り占めか?」
「うっさいな。いいじゃ・・・「えぇぇぇ!!?」
そして、このまま何もなく宴会が終わるわけはなかった。
突然、大声が食堂に響く。
「ど、どうしたオルファ?」
「パ、パパ・・・啓太が・・・」
「ん?啓太、オルファに何かしたのか?」
「してないけど?」
っていうか、神剣に取り込まれてたんだぞ?俺は。大体光陰じゃあるまいし。
「どうした?」
「パパ・・・啓太が・・・プロ」
「げっ・・・!」
俺はすぐにメシフィアを見る。
すると、舌を出して謝っていた。
こ、ここはなんとかしないと!
「お、オルファ!その話はあとでいいんじゃないかな!?」
「え、そ、そう?」
「なんだよー、気になるだろ?」
「いいからいいから」
俺はブーイングする連中をなだめた。
「わかった。啓太がそういうなら、啓太がプロポーズしたって話はあとでするね、パパ」
「おう、啓太がプロポーズした話はあとでな」
悠人の声が裏返った。それでも、不気味に会話は続く。
「たしかに、啓太がプロポーズした話はあとでもいいわね」
「そうだな。啓太がプロポーズした話は最後のシメとしてな。ははは」
ははははは・・・と、食堂に乾いた笑いが響く・・・。
(オルファ・・・君がもう少し成長してくれていれば・・・)
俺は心の中で泣いた・・・。あれ?なんだか視界が霞んでる?
アハハ・・・・はぁぁぁぁぁぁ。
『・・・なんだって(ですって)ぇぇぇぇぇ!!!!?』
「メシフィア、プ、プロポーズって本当なの!?」
「ああ。された」
平気な顔で言うな。
早くも慣れっこか、貴様。
「け、啓太!一八才未満はダメなんだぞ!?父さんそんなの許さない!」
「誰が父さんだッ!それはおれたちの国の話。この国では一二才から認められるんだってさ」
「ぷ、プロポーズって・・・!おれ達はもとの世界に帰ることになるかもしれないんだぞ!?」
「・・・その必要はなくなったよ」
「え?」
「悠人が、妹さんや岬や光陰と一緒にいたいように、俺はメシフィアと一緒にいたい。それが、たとえどの世界であったとしてもだ。だから・・・俺は、この世界で生きていくよ。メシフィアが生きている、この世界でね」
「啓太・・・」
俺の言葉に打たれて黙ってしまう悠人。
「でも、こういうのって運命っていうのかもねぇ」
「・・・そうかもな」
運命の相手にいきなり殺されたが。
「今なら・・・こういうのも信じられるよ。俺とメシフィアが、こんな姿をしてなくて、この世界じゃない、別の世界で会ったとしても・・・きっと、メシフィアを好きになったんだろうなって」
「そ、そこで止めてくれ・・・甘すぎる」
悠人がげんなりしていた。岬も光陰もだが。
年少組はそれがわからないのか、やたら騒いでいたが。
ススっとメシフィアが隣にいた。
「なぁケイタ」
「ん?」
「・・・夫婦になるんだよな」
「・・・まぁな」
「私は・・・子供が欲しい」
「ぶっ!!」
いきなり何を言い出すんだ!?
「たくさん・・・じゃなくてもいい。それで、幸せな家庭が欲しい」
そこで、俺は一つ、思いあたった。
メシフィアが通っていた・・・
「・・・もしかして、メシフィア・・・孤児院のこと・・・?」
「・・・ああ。私はあそこで育った。それで、ケイタにあってわかった。子供には、本当の親が必要なんだって。だから・・・私も、親になってみたい。それで、子供に精一杯の愛情をあげたいんだ」
(メシフィアから・・・愛情なんて言葉が出るなんて・・・本当に・・・変わったな)
「ダメか?」
メシフィアが控えめで少し小さく見えた。赤い頬と潤んだ目の影響かもしれない・・・。
クるなぁぁぁぁ!これは。
「・・・男の子と女の子、一人ずつは欲しいかな」
「あ・・・」
「な?」
「・・・うん!」
そこで見た笑顔は・・・本当に輝いていて・・・綺麗だった。
そういえば・・・今気付いたけど、俺もメシフィアも・・・とてもじゃないけど、幸せな家庭とはいえない環境で育ったんだよな・・・。
なら、きっと・・・幸せになれるよな?いや、幸せになるんだ。
二人で・・・ね。
「はい、いつまでもノロけてないの!」
「ちっ・・・良いカンジでまとめようとしたのに、邪魔が入った」
「邪魔とは何よ。主賓が壁でぼーっとしててどうするの?」
「岬・・・」
「うん?」
「俺は・・・幸せだぁよ」
「一発食らわせてあげようかしら・・・!」・・・
そして、覚悟していたとおり・・・このささやかな平和は壊された。
アレスティナの宣戦布告・・・今朝、届いたらしい。
戦争を止める条件は、永遠神剣とその契約者全員の身柄を引き渡すことと、今後一切アレスティナに対する抗議をしないこと・・・。
つまるところ、支配下に入れということらしい。
おれ達だけならまだしも・・・この平和になったばかりの国の人を巻き込むなんて・・・。
国王も条件を呑むのに反対。
こうして・・・短かった平和は幕を閉じた。
「・・・はぁ」
俺は、『おれ達の世界』の人だけでの会議を終えて、ベッドに横になった。
結局・・・明日、全てを明かすこととなった。
おれたちの世界が破壊されたこと・・・狙いは、俺のカノンであること・・・元々、アレスティナの国民じゃない・・・叶さん側の人間が、今のアレスティナを動かしていること・・・全て、伝える。
ふとんがごそごそ動く。
「どうした?ケイタ」
「あぁ・・・ちょっと考え事」
「そうか・・・話、聞こうか?」
「うぅん、メシフィアも明日聞いてもらうから、今はいい・・・今はね」
「そうか。だが、無理するな。すごく疲れた顔してるぞ?」
「大丈夫。寝れば治るよ・・・」
「わかった。信じる」
「・・・一つ、聞いていいか?」
「なんだ?」
「・・・ナ・ゼ!俺のベッドにいる?」
「夫婦というものは、同じ部屋で暮らすものだそうだ。それで、ケイタがかえってくるのを待っていたら、眠くなったから寝た」
人のベッドを勝手に使うなや。
「・・・誰から聞いた?」
想像ついたけど。
「メルフィーだ」
「・・・そうか。今度三枚におろしてやる」
「おろす?」
「なんでもない。はぁ」
俺はベッドから降りる。
いくらプロポーズして、受けられたからと言って、それでもまだ一緒に寝るというのは腹が座らないというか・・・。
「どうした?疲れているのだろう?」
「そりゃそうだけど・・・」
「一緒に寝るぞ?」
「・・・」
反則です、その笑顔。俺の男の欲望よ、止められるか?
いや、自分を信じろ。すぐに寝てしまえばいいんだ。
「はいはい・・・」
俺はヨロヨロとベッドに再び入る。
ぎゅっ・・・
「・・・あの?」
「なんだ?」
「俺に、そんなだき枕みたいに抱きつくのはなぜ?」
「ケイタの温もりを感じるためだ」
「・・・ぐっ」
俺は頭の中に一瞬スパークが走ったのを感じた。
危ないぞ、コレは・・・。
「ケイタは温かい・・・」
「・・・そうっすか」
俺は左手でメシフィアの頭を撫でる。気持ち良さそうに笑うメシフィア。
そういうもんなのか?
俺ナデナデされても気持ち良くないぞ?・・・時と場合によりますが。
「ケイタ」
「うん・・・?」
「思い詰めるな。私がいる」
「・・・サンキューな。でも、本当に大丈夫だ。あのとき、メシフィアが俺を必要だって言ってくれたから」
「・・・そうか、ならいい」
「・・・」
「ケイタ?」
「・・・んあ?なに?」
しまった。半分意識が落ちているぞ・・・。
「眠いのか?」
「話があるんだろ?聞かせてくれよ」
「目が半分しか開いてない」
「・・・悪い、眠い・・・」
「なら、ゆっくり眠れ。話は、また今度にする」
「そう・・・?あり・・・がと」
ケイタの目蓋が落ちた。相当眠かったのか、既に意識はないみたいだ。
「ふふっ・・・」
メシフィアは面白そうに笑って、ケイタのおでこにキスをすると、メシフィアも目蓋を閉じた。
(今日は、良い夢が見られそうだ)
そう思いながら・・・。