「ん?料理か?」

俺がキッチンを覗くと、メシフィアとアセリアという、いかにも会話が続かなさそうなペアが料理を作っていた。

そして、テーブルには祈って神にすがっている悠人と光陰。

(ははぁん・・・さては、あの二人の料理は激マズなんだな?近付かないでおこっと)

ガシッ・・・!

「誰だ、俺を掴むのは?」

「まぁまぁ。アンタも入りなさいって」

「み、岬!?嫌だよ!離せってば!」

「味見は多いほうがいいでしょ?」

「その場合は絶対味見とはいわない。毒味という」

「男なんだからツベコベ言わない。それとも、ハリセン・・・いっちょくらっとく?」

「・・・」

出た、伝家の宝刀・・・。

その言葉に、俺はなすすべもなく連れていかれた。

「メシフィア、アセリア。コイツの分もよろしく」

「・・・おまえも捕まったか」

哀れみの中に喜びを含んだ目で見てくる光陰。

「光陰、そんな仲間を見るような目で見るな」

「かわいそうに」

一人ポツリと呟く悠人。現実逃避しているのだろうな。

「他人ごとじゃないんじゃないのか?悠人」

「でも、おまえアセリアの料理食べたことないんじゃないの?」

「悠人と光陰がそんだけげんなりして座ってれば、予想がつく」

「・・・そうか」

三人で一瞬だけ遠い目をした。

「と、いうわけでアデュー!!」

「あっ!!」

岬の警戒が解けた一瞬で俺はダッシュ!

「逃がすかッ!!」

光陰ののばした手を弾いて、俺はドアノブに手を・・・。

グッ!

「うっ!?」

かけられなかった。

誰かに首をしめられている。

「ギプ・・・ギプギプ!!」

ふっと首をしめていた腕の力が緩む。もう逃げる力はない。

(ん?背中にふたつの膨らみ?)

不思議な感触がして、振り向くと、俺の首をしめていたのはメシフィアだった。

っていうか・・・顔近ッ!!

「んふふ〜」

「な、なに笑っているのかな?メシフィア」

「逃がさない」

「・・・嫌だ」

メシフィアの料理・・・確か、ものすごーく、不味かった。

そのときは、なんとかさんずの川の途中で戻ってこれたが、危うく向こう岸にいってしまうとこだった。

そのときは、これがこの世界の料理なんだろうと思っていたが、実際はメシフィアは料理が下手ってだけだった。

「・・・離してくれないかな?」

「嫌だ」

「・・・でも、この態勢じゃ食べられないじゃん」

「だけど、力を緩めれば逃げるつもりだろう?」

「・・・なぜわかる?」

「だから、安心しろ。食べさせてやる」

メシフィアはスープ・・・もはやスープというのも気が引ける毒々しい色だが。をスプーンで一杯すくった。

「・・・」

俺は決して口を開かない。だが、予想と反して、メシフィアは自分の口にいれた。

「なんだ、自分で・・・ん!!!」

そのまま、俺の口にスープをぶちこんできたメシフィア。

まわりがおぉ・・・と言っているが、それどころじゃない。

(ああ、でも不謹慎ながら、キスって気持ちいいもんですなぁ・・・あれ?)

俺はそのまま倒れた。

「あれ?おかしいな・・・材料は間違えなかったはずだが」

メシフィアは手の甲で口を拭った。

「おーい、生きてるか?」

俺をひっくりかえして、棒でつつく光陰。

「うわ、泡ふいてるぞ?」・・・

場の雰囲気がガラッと変わる。

 

「ユート、私もやるぞ」

「えぇぇ!?」

「・・・今日子、まさかおまえが?」

「なによ、たまにはいいんじゃない?そういう恋人っぽいことしても」

「・・・それもそうだな」

約一組だけ不自然なほど甘ったるい雰囲気をバラまくが、それを気にする人はいない。

ガシッ・・・。

アセリアに捕まった悠人。その末路を知るものは、だれもいない・・・。

 

 

 

 

しばらくして復活した俺は、再び城内を散策していた。

キィン!キィィン!!

「・・・ウルカ?」

「あ、これは啓太殿・・・」

「稽古?精がでるね」

「平和になったとはいえ、なぜか安心できませぬ・・・」

「・・・そっか。よし、俺が相手するよ」

俺は木刀を持つ。

「いいのですか?休まれた方が・・・」

「こうやってウルカと稽古するのも休憩のうちさ」

「・・・では」・・・・・

 

「はぁ・・・はぁ・・・結構・・・強い・・・な」

「いえ・・・20戦して20敗・・・まだまだ手前は修業が足りませぬ」

「いやいや、全て紙一重だった。結構楽しかったよ。でも、ちゃんと休むんだよ?」

「てほどき、感謝します」・・・

 

 

 

 

 

「よっしゃー!ババ取ったね!?」

「うぅ・・・!」

「ん?あれは・・・オルファやアエリア等の見た目年少組?トランプか・・・」

俺はそのまま歩く。

「・・・みんな、平和を満喫してるなぁ」

俺は青い空を仰いだ。つい手を伸ばす。

「ふふ、どうされました?」

「あっ!これは・・・!」

レフ・・・レスティーナさんとエスペリアだ。

「散歩ですか?」

「はい。啓太さんも?」

「ええ・・・まぁ。でも、レスティーナさん、国に戻ったんじゃなかったんですね」

「ええ。しばらく、こちらにいようかと」

「・・・平和を、今だけでも満喫するためですか?」

「どうしておわかりに?」

「・・・だって、王族に戻ったらこんなにゆっくりできないですからね、きっと」

ただでさえ敗戦国として大変なのだろうから、帰ったらまさに激務・・・ということなのだろう。

「ふふ・・・ですから、もうすこし羽のばしさせてもらおうと思います」

「ええ。それがいいですよ。エスペリアも、普段のうっぷんとか晴らしておいた方がいいよ?」

「うっぷんなんて・・・」

「せっかくの平和なんだ。みんなで勝ち取った・・・ね。勝ってないけど。だから、さ」

「・・・はい」・・・

「ん?あれは・・・」

メルフィーとレイナが、城のガーデニングスペースでなにかやってる。

何かをスピリット達に教えてるみたいだ。

「・・・」

(ん?あれは啓太さん?)・・・

 

 

 

 

 

俺は、ふっと思いついて、孤児院にいく。

「・・・久しぶり。みんな」

「お兄ちゃん!いらっしゃい!」

「お兄ちゃん!格好よかったよ!」

「ありがとう」

「ねぇ、お話ししてよ!」

「いいぞいいぞ。んじゃぁねぇ・・・」

俺は武勇伝を聞かせてあげた。こどもって本当に・・・かわいいな。これも・・・おれ達が守ったんだよな・・・。

がんばった甲斐があるというものだ・・・。

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

俺はなんとなく、メシフィアと約束をかわした高台にきてしまった・・・。

静かだ。前に来たときは、全然気付かなかったけど・・・ここってこんなに静かだったんだな・・・。

俺はそのままベンチで横になる。空を見ている・・・それだけで、なんだか満足だった・・・。

「・・・ふわぁ」

俺は、そのまま目を閉じた。

とっても気持ち良くて・・・気怠くて・・・。

(あぁ・・・今まで忙しかった反動かも)・・・

 

 

 

 

 

「あとは・・・啓太さんだけですね」

夕食は、カオストロとエレキクルの親睦を深めるために、一緒に食べるようにしていた。

そのおかげか、お互いの間に壁はなくなっていた。

「遅いよ〜」

年少組が駄々をこねはじめている。

それも当然で、夕食は7時だというのに、もう8時近い。

「仕方ないですね。先にいただきましょう」

『いただきまーす』・・・

 

 

 

 

 

「遅いな」

「ええ・・・」

メシフィアとエスペリアは啓太の帰りを待っていた。なんだかんだと世話焼きの二人。

片方はもうちょっと複雑な事情アリだが。

「今日は、もう城に帰ってこないかもしれないな」

「そうですねぇ・・・今度からは、ちゃんと事情を言ってからでかけてもらいましょう」

「そうだな」

「それでは、私達もお休みにしましょう」

「おやすみ、エスペリア」

「ええ。おやすみ、メシフィア」・・・

その頃、当の本人・・・。

 

「・・・」

寝ていた。ベンチで・・・。

一つの人影が、忍び寄るともしらずに・・・。

 

 

 

 

 

「ふあ・・・!?」

俺が目を覚ますと、いきなり女性の顔があった。

「・・・待て、どこかで見たことがある・・・」

俺はその人の顔をじーっと見つめる。どこかで・・・喉の所まで出てきているのに。

あと一押し・・・。

パッ・・・

その人が目を覚ます。とても優しげな瞳につい引きこまれそうになる。

「お、おはよう」

「・・・おはよう。啓太君」

その声・・・俺の頭に、記憶がフラッシュバックしてきた。

 

「・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

完璧に思い出した。

でも、なんでこんな唐突に・・・?

大体、なんで俺は膝枕されてんだ?

そもそも、この世界にどうしてこの人が!?

「いやぁ、久しぶりだね。何年ぶりだっけ?」

「・・・ちょっと待ったァァァ!!」

俺は飛び起きる。

「なんでここにいるんですか!?」

俺が唯一敬語を使うべき人。

「知らなかったっけ?ホラ、これ」

「・・・それは」

その人の手には、剣が握られていた。おそらく・・・永遠神剣。

しかも、気迫からしてかなり上位だ。

「私は・・・って、まだ君は知らないんだっけ。いつか話すよ。とりあえず、私はあちこちの世界に行き来できる力がある」

「だから・・・あの川辺で」

この人と会ったときを思い出す。両親が離婚を決意した・・・あの日だ。

俺が飛び出して、川辺で月を見ていた・・・。

そして、現われたのがこの人だった。

しばらく話をして、走ってきた父さんに引き渡された・・・。

あれ?

「・・・でも、あれから何年もたってるのに、ちっとも変わってませんね」

「・・・そっか。君にとっては何年なのか」

「え?」

「・・・私は、君とこうして出会うまで・・・かなり過ごしたけどね」

「は・・・?」

「ま、私の能力の副産物みたいなものと思ってくれ」

「はぁ・・・そですか」

「それより、やったじゃない」

「え?」

「ちゃんと、戦争を終結させてさ。本来の予定よりも20年早いよ」

「本来の予定?」

「あ、いやなんでもない。とにかく、そんなわけなんだけど・・・」

「どんなわけですか」

「戦争は終結した・・・でも、この世界の騒ぎはまだ終結してない」

「・・・!」

「君の兄貴が言っていたように、この世界は、終わって始まった。これから・・・君たちにはもっと辛い戦いがあるのさ」

「・・・兄貴を・・・知ってるんですか?」

「・・・イロイロと長くなりそう。残りは城で話さない?」

「別にいいですけど・・・」

「よし、じゃ、いこう!」

俺の手を引っ張って城へ向かう。

「そうだ・・・あの時名前聞きませんでしたね。名前は?」

「大河叶。君の名字の文字違いね」

「んじゃぁ、叶さんって呼ばせてもらいます」

「『願い叶う星叶』が本当の名前だけど」

「え?なんすか、その名前?」

「あとでいうよ。『超天使』さん」

「はぁ?」・・・

「ハックション!!」

「風邪?やめてよね」

「悪かったな・・・門番ご苦労さま」

「はっ!」

 

 

 

 

 

おれ達は城のなかへ入った。

「・・・ん?」

俺の部屋の前にいろんな人がいた。

なんだろ?

「おーい、みんなどしたの?」

「あっ、ケイタ!・・・!!」

俺の後ろの目を動かすと、メシフィアは固まった。

「・・・啓太。一つ聞く」

「なんだ、光陰?」

「朝帰りで女連れ・・・説明はいらないよな?」

「・・・いるけど」

おそらく、全世界が必要なんじゃないか?

「人に心配させておいて、結局女関係なんて・・・この遊び人がぁぁぁっ!!」

ピカッ!

ドガァァァァンッ!!

「ぐああああ!」

そのままバタッと倒れてしまう俺。

 

反則だって・・・岬のハリセン・・・。

「本当に心配したんですよ?それなのに・・・」

「エスペリア・・・ゴメン。実はその・・・寝ちゃってさ」

 

『!!!』

 

その場が凍ったのがわかった。

「・・・何か・・・失言だったのか?」

相当のな。

「なんだ、今の声?」・・・

 

 

静寂を破ったのは、光陰だった。

「あのよ、啓太」

「あん?」

「いくらなんでも、その・・・わかりきったことを、直接的表現で言うのは、再びハリセンの餌食になるとしか・・・」

「は?」

「こ、この・・・プレイボーイがぁぁぁ!!!」

ピガッ!!

ズドォォォォン!!!

「ぐああああ!!」

さっきと同じようにやられる俺。

 

(・・・なぜ!?)

 

「ぐはっ・・・いったい・・・なんなんだよ?」

「俺がおそらく、みんなの気持ちを代弁できるぞ?」

「悠人、頼む」

「まず、おまえは誰にも言わずに出ていって、朝帰りをした」

「うんうん」

「それだけでも十分怪しい。が、おまえはよりにもよって女を城内に連れてきた」

「うんうん」

「んで、さっきおまえはこういった。『寝ちゃってさ』と」

「ああ。そうだけど?」

(そんなこと誰でもわかるさ)

「つまりだ。そこからはじき出される答えは・・・」

「うん」

そう、そこが重要。俺は息を呑んだ。

「おまえ、その女と寝たの?」

「・・・ヘタレ、何言ってるんだ?」

「もはや、おまえの方がダメな気がするぞ?」

大体、顔を赤くして言うな。こっちまで恥ずかしくなるだろ!

「別に、叶さんと寝たわけじゃないよ。ね?」

「そんなことないと思うけど?だって、私のすぐ近くで幸せそうに寝てたじゃない」

「こ、コラ!誤解招くよーなこと・・・」

「へぇ、やっぱりそうなんですか・・・」

(あぁ・・・みんなのボルテージが限界だ・・・)

一晩勝手に心配させておいて、それが遊びだったとは・・・。

いや、違うけど。

「叶さん!」

「あはは、悪い悪い。ちょっとからかってみたくなってね」

「え?じゃぁ」

「もちろん、私とコイツは何でもないわ。大体、啓太君が私に気付いたのはついさっきだしね」

「そ、そうなんですか・・・」

「だから、安心して?メシフィアさん」

 

「!!」

 

顔を真っ赤にしてうつむいてしまうメシフィア。

「さぁてと、どうやら全員揃ってるみたいだし・・・ちょうどいいね。みんなに聞いてほしいのよ」

「え?」

「と、いっても・・・悪いけど、この世界出身の人達は席を外してくれない?まずは、ハイペリア出身の人に話があるの」

「わかりました。何かありましたら、呼んでください」・・・

 

 

 

 

 

「さてと・・・どこから話そうかしら?」

「まず、どうして叶さんがこの世界に来たのか・・・」

俺はまずそれを質問した。

「お、そこからにしよっか。それはね、第一に君に会いにくるため」

「俺ですか?」

俺を指差す叶さん。

「君は、本来人間が使ってはいけないものを、覚醒させてしまった」

「・・・それって、言うまでもなく、カノンのことですよね?」

「ええ。永遠神剣第一位・・・それは、決して使われてはいけないものだったの」

「そうなんですか・・・」

「そして、それを監視するのが私の役目だった」

「叶さんの?」

「ええ。私の剣・・・ラグナロク。永遠神剣第一位『終焉』が、カノン『神光』とブラスト『悪光』と繋がっていたから。そして・・・数年前、私の『終焉』が目覚めた」

「数年前?確か、啓太がカノンを覚醒させたのって・・・」

悠人の言うとおり。数年前どころか、数日前だ。

「言ったでしょ?私の時とあなたたちの時は違うって。ま、それで、私は大急ぎで準備して、ここを突き止めて・・・使っているのが、あなただと知った」

「・・・そうですか」

「それで・・・本来目覚めるはずのない永遠神剣が目覚めたことで、この世界がかわりつつある」

「・・・本来の予定から、二〇年も早く戦争が終結したり・・・ですか?」

「そ。それで・・・私達のなかから、その力を奪おうとする者が出てしまった」

「え?」

「つまり・・・啓太君。あなたを殺してカノンを手に入れようとしている人がいるということ。ま、殺さなくても、精神操って仲間にしようって可能性が高いでしょうけど」

「・・・」

「ま、この国の数年前から潜伏してたんだけどね。それで偶然、いちはやくカノンの事に気付いたから、カノンを奪って目的を達成しようとしてるみたい」

「・・・」

次々浮びあがる疑問と、さっさと説明していく叶さんについていけない。

「そ・れ・と・・・残念だけど、アナタたちのいた世界・・・ハイペリアは、消滅したわ」

 

 

「「「「!!!」」」」

 

 

四人は驚き、固まってしまう。

「なんで!?」

「・・・簡単なこと。あなたたちをこの世界にトドめておくことができるから」

「え・・・?」

「アナタたちの世界は、大きな動きをすることができないような世界だった」

「・・・」

たしかに、おれたちの世界で暴れようとすれば、支障が出てくるだろう。

「だから、自由に人が殺せるこの世界にトドめておこうとしたの」

「でも、ソイツの計算外だったのが・・・」

「光陰君だっけ?頭いいわね。そう、戦争の早期決着。それも、二〇年もね・・・」

「・・・」

「カノンの力がこれほどとは思わなかった奴らは・・・一つの国を選んだ」

「まさか・・・」

「そう。次の敵となるのは、残っている国、アレスティナよ。既に、国の実権を握るのは、全て元私達側の人間・・・」

「それで、今度はドサクサじゃなくて、自分たちで戦争起こして・・・カノンと啓太を狙うってわけですか」

「平たく言えば、悠人君の言うとおり。こんなこと、戦争が終わったばかりの原住民には言えないわ」

「確かにそうですよね・・・」

「でも・・・おれ達の世界がなくなったなんて・・・!」

「私利私欲にまみれた奴らは・・・そういうことをしても、何も感じなくなるの。そこで、私があなたたちがそういうふうにならないように来たの。ま、他にも敵が動きだすまえに、敵を知ってほしかったっていうのもあるけど」

「おれ達は・・・どうすればいいんです?」

「そうね・・・まずは、自分の力を鍛えること。そして・・・この事を、誰に、どうやって伝えるか・・・考えることかしら」

「・・・」

「全て・・・啓太君に任せるわ。今回の事は、責めるわけじゃないけれど、カノンを覚醒させてしまった啓太君に責任があるもの」

「・・・そうですね」

「でも、全てをひとりで背負わせるつもりはないわ。じゃなきゃ、この三人を一緒に呼んだりしないもの。それに・・・私もいるしね?」

「・・・はい」・・・

 

 

 

 

 

「サンキュー、メルフィー」

俺はメルフィーから画材を受け取る。

「こんなに画材を・・・どうするつもり?」

「別に、絵を描こうって思ったんだ」

「絵?アンタが?」

「アンタが、とは結構心外だな。これでも美術の成績は10だが」

「は?」

「いや・・・そうだよな。もう10ってのも・・・ないんだよな」

ハイペリアは・・・消滅したから。

父さん・・・。

「どしたの?」

「別になんでもない。んじゃ、夕飯には帰るから」

「女連れてくるなよ?メシフィアがたおれるぞ?」

「なんでメシフィアが倒れるかははなはだ疑問だけど、もう大丈夫だろ」

俺はカシャカシャ画材を鳴らしながら、外へ出た。

空を見上げる・・・うん、いい青空・・・。

 

 

 

 

 

シャッシャッシャ・・・

俺は思うがままに、白いキャンパスに鉛筆を走らせていく。

一本一本の線が、だんだんと形づくっていく・・・。

 

 

 

 

 

「よし・・・結構うまくいったな」

俺は、そこまでにして画材を片付けて城に帰る。あたりは真っ暗だ。

時間は六時半・・・最近、太陽?が落ちるのが早い。

季節があったんだと改めて思う。

きっと、ちょっとだけ余裕ができたからだろう。

 

「やめてください!」

 

「?」

悲痛・・・とまではいかないけど、女の人の声。

なんだ?

「別にさらおうってわけじゃねぇんだ。静かにしろや」

「離して・・・っ!」

男二人が女を捕まえている。どう考えても、何かする目をしてやがるな・・・。

(はぁ・・・戦争が終わって、気が緩んだってとこ?)

「はーいはいはい、そこ。そのへんにそときな」

「なっ、おめぇは!?」

男が驚いた。まぁそりゃそうか。有名になっちまったからなぁ・・・。

「このまま俺にボコられるか、国に指名手配されるか・・・あるいは、帰るかの三択だね」

「・・・ちっ、いくぞ?」

「お、おう」・・・

 

 

「大丈夫?」

「あ、はい・・・」

「ん?」

どっかで見たような顔だな・・・また女の知り合い?

俺結構ジゴロなのかも。

いや、まて・・・この顔は・・・なんだか、こんな時間、こんな場所で見るはずのない人の顔に似てる・・・。

「・・・」

「あ、あのぉ・・・」

「あっ、悪い悪い。ちょっと知り合いに似ていたもので」

俺のぶしつけな視線で女性がちょっと引いていた。

「今日は送っていこうか?さっきみたいな男にまた会うと危ないし」

「い、いえ・・・大丈夫です」

「ならいいけど・・・んー・・・どこだっけなぁ・・・」

「はい?」

「・・・ねぇ、どこかで会ったことない?」

「そ、そんなことないですよ!」

「・・・怪しいな。どうも・・・失礼」

俺は手早く女性の髪をおろした。

「・・・あ」

「きゃっ・・・」

見てしまった、わかってしまった。この女性の正体が・・・。

「レスティーナさん・・・なんで?」

「バレちゃいました?」

てへっと舌を出すレスティーナさん。

「こんな時間で、お付きもナシにふらつくなんて・・・元敵国のプリンセスだと知られてたら殺されてますよ?」

「だって・・・」

「・・・羽のばし、ですか?」

「そ・・・そうです」

恥ずかしそうにうつむくレスティーナさん。

「他のみんなはこのことを?」

「いえ・・・でも、この姿は以前、ユートに見られたことがあります。気付いていないでしょうけど」

「なるほどねぇ・・・別に止めたりはしませんけど、せめて明るいうちに帰った方がいいですよ?あなたみたいな美人、さっきみたいな男がわんさか寄ってくるんですから」

「は、はい・・・その・・・」

もじもじと何かを言いにくそうに俯いているレスティーナさん。

ははぁん?

「迷子か」

 

ピクッ!

 

「羽目を外しすぎて、いつのまにか裏路地に来てしまったとか」

 

ピクピクッ!

 

「んで、半泣きになりながら出口を探していたら、さっきの男たちと運悪く遭遇してしまったと」

 

ピクピクピクッ!

 

わかりやすいなぁ。

「さ、帰りましょう」

俺はすっかり縮んでしまったレスティーナさんの手を取った。

「城までエスコートさせていただきます。悠人の代わりですけどね?」

「なっ、何言ってるんですか!」

「そっちこそ、何赤くなってるんです?」

「うっ・・・!」

「別にいいじゃないですか。好きなら好き。自分の気持ちに素直になったほうがいいですよ?悠人なら・・・立場とか、地位とか、名誉とか・・・そんなの関係ナシに、アナタを見てくれていると思いますしね」

「啓太さん・・・」

「だからこそ、あなたは悠人を好きになったんでしょう?」

「・・・なんで、周りの人の、自分に向ける気持ちには鈍くて、そういうところばかり鋭いんですか?」

「俺って、こう見えて結構世話焼きなんだ」

「・・・そろそろ、あの人の気持ちにも気付いてあげられないのかなぁ」

「は?何か言いました?もう一回お願い」

「なんでもないです」・・・

 

 

 

んで、俺はまたハリセンをくらってしまった。

しまった・・・長話してて、夕飯過ぎちまった。

挙げ句のはてに、この人(服がいつもと違うレスティーナ。髪は俺がおろしちゃった)がレスティーナと証明するまえにハリセンで沈められたため、威力はかなりのものだった。

なんだか、メルフィーとかエスペリアとか、アセリア・・・はいつものことで、岬とか、光陰の目線が最近痛い。

光陰は羨むような目で、他は蔑むような目。

なんでだ・・・!

別にレスティーナだったんだから蔑まれるような事じゃないのに・・・。

そもそもジゴロで蔑まれるべきは悠人のはず。

うぅ・・・ヘタレはこれだから・・・。

 

 

 

 

 

「よし・・・あとは・・・」

俺は、絵の具をサッサと走らせる。絵の具が、白一面だったキャンパスに彩りを与えていく・・・。

「・・・ふぅ」

「おぉ、どれどれ」

「ば、バカ!なんでここにいんだ光陰!?」

俺はすかさず絵を隠す。

「いやいや、おまえについていけば、今日も女の子に会えるかなと。そしたらおもしろいことやってんじゃねぇか」

「うっさいな。あっちいってろ、シッシ」

俺は手で、未だに俺の背中にある絵を見ようとちょこまか動く光陰を払う。

「その絵、誰かにあげるのか?」

「え?・・・あげないけど」

「ふぅん・・・それにしては、随分気合い入ってんじゃねぇか」

 

「・・・こうやって、この平和な景色を見れるのは、最後なのかもしれない」

 

「・・・啓太」

 

「だからこそ、この平和だった世界を残しておきたいんだ。俺だけでなく・・・みんなの中に。そんな気持ちを込めて、この絵を描いてた」

 

「・・・そうか」

 

さっきまでの勢いがなくなる光陰。あたりまえか・・・。

 

「もちろん、最後にするつもりもないし、させるつもりもない。おれ達の故郷はなくなっちゃったけど・・・いろんな世界を渡り歩いているあの叶さんなら、解決法があるかもしれないし」

「そうなのか!?」

「いや、勘だけど。だって、あの人はおれ達に全てを話してない。私達側の人間だとか、そんな意味不明な単語ばかり残してね。だから、きっと確率はゼロじゃないと思う。だから、俺はあきらめないよ」

 

「・・・おまえは、帰りたいか?」

 

「それは・・・言えない」

 

「俺もだ」

 

おれ達はお互い微妙な笑いをする。嬉しそうな、淋しそうな・・・。

「正直、この国に残って、余生を過ごすのもいいかもしれない。それに、故郷が戻ってくる保障もない。でも・・・それでも、あがいて、なんとかなって・・・帰れることになったとして・・・どっちかを選択しなくちゃいけない・・・そしたら、正直、すごく迷う」

「俺もだ。だが、俺の答えは決まってる」

「知ってるさ。悠人と岬の隣にいる・・・だろ?」

「・・・ふっ」

「二人がどんな選択をしようとも・・・おまえはそれについていくんだろう?岬が好きだから・・・悠人が親友だから」

「・・・気付いてたのか」

「まぁね。ついでに、おまえら三人が壊れそうもない絆を持っていることもな」

「ははっ、腐れ縁になるかもな」

光陰は、何気なく俺の絵をみる。俺は、もうそれを止めなかった。

 

「・・・なぁ、この人影、誰だ?」

「え?」

 

俺も無意識に描いていたのか、俺がいる場所・・・つまり、高台のベンチに、一つの人影が。

「・・・俺じゃないのか?」

「だが、長い髪がなびいてるぞ?」

「・・・うぅん、おっかしーなー・・・描いた覚えがないんだけど」

「無意識に、おまえが意識してる人なのかもな」

「・・・まさか」

俺は、もう後悔はしないと誓ったはずだ。あの時の涙で。もちろん、忘れはしないが・・・まさか・・・本当に、淋しくてこんなものを?

いや、でも・・・。

「おまえ・・・まだ引きずってるのか?」

「!!」

まさに、俺の考えていたことをあてられて驚く。

「おまえも悠人に似て、考えてることがすぐ顔に出るな」

「はぁ・・・どうしちゃったんだろ?本当に俺が・・・描いたのか?だとしたら・・・重傷だな」

「おいおい、他人ごとじゃねぇぞ?」

「わかってるけど・・・本当に・・・俺は・・・シルビアを・・・描いたのか?俺が・・・」

「お、おい?しっかりしろ」

俺の様子に異変を感じた光陰。俺をガクガク揺らす。

{啓太!}

(なんだ・・・?カノン)

{おまえの心が脆くなってきている!どうした!?}

(俺は・・・俺は・・・)

{しっかりしろ!俺に飲み込まれるぞ!?一度制御したからって、飲み込まれないとは限らない!}

(う・・・くそ・・・)

俺は頭を抱える。ものすごく痛い。そのまま膝をついてしまう。

「啓太!しっかりしろ!」

「うぅぅぅぅ・・・」

{啓太!}

(シルビア・・・!俺は・・・!くっ!ダメだ・・・負けたら・・・飲み込まれる!)

 

だが、その何かは容赦なく俺の心をむしばんでいく。

 

(これが・・・永遠神剣第一位の・・・強制力!)

とんでもない力だ。心を鷲掴みにされている気分だ。全てを覗かれている気がする。気を抜くと、そのまま発狂してしまいそうだ。

 

{啓太・・・!}

(ダメだ・・・カノン・・・これ以上・・・)

{諦めるな!そんな程度でシルビアに誓いをたてたのか!?貴様の決意はその程度だったのか!?}

(う・・・るさい!んなこたぁ・・・わかってんだよ!ぐっ・・・)

{啓太!}

何か・・・声が聞こえる。今までの悲しさをついた言葉・・・。

 

『スピリットを殺せ。マナをよこせ!そうすれば、おまえの全てのしがらみを壊してやる』

(・・・)

 

『啓太、力がほしいのだろう?全てを越える力が。そうすれば悲しみに心を痛める事もなくなるぞ?』

(ち、違・・・ぐっ)

 

{啓太!}

「啓太!しっかりしろ!!」

俺を呼ぶ声がだんだんと遠のいて行く・・・。

「光陰・・・すまん・・・限界・・・みたいだ・・・破壊衝動だけは・・・抑えこむから・・・ゴメン」

「啓太ッ!!」

{啓太・・・すまない}

(カノン・・・まだ、俺は負けてない・・・!誰かを殺すようなマネだけは・・・させねぇ!!)

 

パァァァンッ!!

 

何かが弾けた。

その途端、啓太の目には輝きが失われ、まるで事切れたように倒れてしまった・・・。

 

 

 

 

 

「・・・」

ベッドのうえには、まるで死んだようにピクリともしない啓太。

息もしているし、目もあいている・・・が、生気は感じられなかった。

「光陰、啓太はどうして!?」

岬がたまらず詰め寄る。

誰もがわかっていた・・・とくに、岬は経験したんだ。

 

永遠神剣に取り込まれる・・・。

 

だから、その恐さも身にしみて理解していた。

「わからない・・・だが、一瞬の啓太の迷いが、永遠神剣に取り込むチャンスを与えてしまった」

「それが・・・この絵か」

悠人はその絵を見る。ベンチに座っている髪の長い人影・・・。

シルビアと言われれば、そうかも、というカンジの。

「戦争で・・・いろいろ失ったからな」

「好きな人が、目の前でいなくなる・・・どれだけのショックだったのか・・・想像もつかないな」

「ああ・・・なぁ、バカ剣」

 

{無理だぞ?すまないが}

 

悠人が言う前に返事が返って来た。

「なんでさ?」

{相手が下の位ならまだしも、カノン様程の強制力に、割って入れるわけない。軽く弾かれるだろうな}

「・・・くそっ、打つ手なしかよ!」

悠人は乱暴にテーブルを叩いた。

カノンは真っ黒く、まがまがしい雰囲気を出していた。

いつかの、啓太が操られていた時のように・・・。

{そもそも、人間がカノン様を使えること自体奇跡だったからな。よく今まで耐えられたものだ。気を休める事無く・・・だが、人間は緊張の連続には耐えられない・・・}

「そんなことわかってる!だからこそ、助けたいんじゃねぇか!」

 

{・・・一か八か、やってみるか?}

 

「なに!?方法があるのか!?」

{確実にできるかわからんぞ?}

「それでもいいさ!」

「なにすればいいの!?」

{まずは、ありったけの永遠神剣を集めろ。もちろん契約者もだ。そして、全部の永遠神剣で道を開く}

「一人でダメなら二人で・・・ってか。ヨシ、のったぜ!」

「アタシ、連絡してくる!」・・・

 

 

 

 

 

そして、全員が部屋に集まった。

かなり多い。部屋が広くて良かった、うんうん。

「で、どうすればいいの?求め」

{まず、全ての永遠神剣を重ねろ。そして、意識を平静に保て}

「了解」

悠人は求めを突き出した。それにあわせて、今ある全ての永遠神剣が集う。

{次は、呼び掛ける者だ。これは、一人でなくてはいけない。誰がいく?}

「・・・どうする?」

悠人はみんなに問い掛けた。

「そんなの、一人しかいないじゃない?」

メルフィーはさも当然というふうに答えた。

「そうだね、啓太を呼び戻すのは、やっぱり・・・」

 

 

「・・・やってくれるか?メシフィア?」

 

 

悠人だけでなく、その場の全員がメシフィアを向く。

それに怯えることもなく、こう答えた・・・。

 

 

もちろんだ・・・。

 

 

{いくぞ!我は求め、いざ、道をひらかん!}・・・

 

 

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大河叶・・・謎めいた言葉を放つ美女。啓太の世界にもいたことから、異世界を渡り歩く力がある。気ままで自由奔放な女性。

      永遠神剣第一位『終焉』の持ち主で、『終焉』が『神光』と『悪光』と繋がっているため、

そのニ本を監視する役割だった。

      本気を出すどころか、なるべく戦いを避けているので実力はわからないが、今の啓太に匹敵するほどと思われる。

      戦う時は『終焉』の力を最小限に抑えるため、普段のけはいは大体第六位くらい。年齢不詳。

 

永遠神剣第一位『終焉(ラグナロク)』・・・叶のもつ永遠神剣で、間違って覚醒してしまったため、他のニ本を監視する役割を持つ。

              存在がバレないように力を抑えているタメか、ほとんど喋らないが自我はある。