「そうか・・・」
「・・・」
重たい雰囲気の中、俺は報告した。
マクスウェル・カインがエレキクルの刺客であったこと、複数の人間が鉱石で操られていたこと・・・。
彼女が、俺をかばって亡くなったということ・・・。
「・・・」
「・・・」
その場はしばらく静寂が包んだ。声を発するどころか、息をするのもためらってしまうほどの雰囲気・・・。
表面的に悲しんでいない王も、その瞳の奥に悲しさがあふれていた。
「・・・いかにも、シルビアらしいな」
「・・・え?」
王から発せられた言葉は、俺の予想外だった。
「愛するもののために、命を張る・・・昔から、なぜか娘は献身的だったよ」
「・・・」
いつもの王の口調ではなかった。昔を懐かしみ・・・彼女を想う、お父さんとして・・・。
「きっと、気を許せる人が少なかったせいなのだろうな・・・」
「そう・・・なんですか?」
「ああ。王族というのは、そういうものだ。だから・・・決しておぬしに死んでほしくなかったのだろう・・・そういう子だった。シルビアは」
「・・・すいません。俺が至らぬばかりに・・・!」
俺は唇を強く噛んだ。ブスッというと、唇が切れ、血の味がした。
「・・・いや、良い。確かにシルビアのことは悲しい・・・だが、彼女はおぬしに託していったのだろう?」
「・・・」
俺は、彼女が俺を止めたときを思い出す。俺は・・・あのとき、あと少しでカインを殺すはずだった。
そう・・・今まで俺が貫いてきたものが、あの一瞬で全て失われようとしていた。
だから・・・彼女は止めたのだろう。
そんな俺は、俺じゃないと伝えるために・・・。
そして、その信念で、戦争を終結させてほしいと・・・だが、結果俺は彼女を守れず・・・失ってしまった。
俺の建前のせいで、俺の一番大切な彼女を失った・・・。
何が正しいのだろう?
俺は、ただそれだけを知りたかった。
「・・・私は信じておるぞ?おぬしが・・・シルビアの想い、受けとめてくれると」
「・・・」
俺はそのまま謁見の間を出ていった。すると、心配そうな顔をした四人とでくわした。
「・・・ケイタ」
「メシフィア・・・悪い。少しだけ・・・考える時間が欲しい」
「・・・」
俺は、そのまま部屋に行く。
俺は、全てがわからなくなった。
俺の信念は正しいのか・・・シルビアの想い、それを俺が受けとめられるのか・・・自分のしていることが正しいのか・・・シルビアが、俺に何を望んだのか・・・。わからない・・・
「・・・」
俺は、ぼぅっと天井を眺めていた。
「・・・カノン」
{・・・}
あれから、カノンの声も聞こえなくなった。どうやら、心が離れすぎてしまっているようだ。
「俺の・・・せいか」
俺はまた天井を見つめる。不意にシルビアの笑顔が浮かぶ。
「っ!」
俺は、いきなり溢れだした涙に驚く。
「ははっ・・・なんだよこれ・・・止まらねぇ。そっか・・・俺って・・・こんなにシルビアのこと・・・格好悪・・・」・・・
二日目・・・
「・・・ういっす」
「どうだ?少しは元気出たか?」
メシフィアがお見舞いにきてくれた。無愛想に帰すわけにもいかない。
それに、こうして話していれば気も紛れるかもしれない。
「シルビア・・・か」
「ん?」
「そういえば、私もよくしてもらっていたな」
「そっか・・・」
「だけど、どこか淋しさのある人だった。でも、亡骸からその淋しさは感じなかった」
「・・・」
「たぶん、その淋しさは、ケイタが消してくれたんだと思う」
「そう・・・だといいな」
「きっとそうだ。私もそうだからな」
「メシフィアも・・・?」
「ああ。自分でも、ケイタが来てから自分が変わったと思う」
「・・・」
「だから、きっとシルビアは幸せだったはずだ。きっとな。だから、あまり思い詰めるな」
「ありがと・・・」
「それじゃぁな」・・・
「お邪魔します」
「メルフィーか・・・」
「随分なご挨拶ね。ま、仕方ない・・・か」
「・・・」
「シルビア・・・残念だったね」
「・・・ああ」
「シルビアと・・・私、似ていたんだ」
「え?」
意外な一言にマヌケな声を出してしまった。メルフィーとシルビア・・・まさに似ても似つかない。
「ウソじゃないわ。・・・だからかな、結構気が合ったんだ」
「・・・」
意外な組合せだった。
「私の家ね・・・結構金持ちなんだ」
「・・・」
「だから・・・徹底して教育されて、友達もいなくて・・・淋しかったなぁ。やっぱ」
「・・・」
「そして、嫌気がさしてここにきて・・・一番に打ち解けたのはメシフィアとシルビアだった」
「・・・」
「だからどうってワケじゃないんだけど・・・なんていうか、シルビアの気持ち・・・わかる気がするんだ」
「え・・・?」
「私がもし、啓太を好きだったとしたら・・・同じ行動を取ったと思う」
「・・・それは、どうして?」
「だって・・・大切な人だもの。最初で最後になるかもしれない・・・それくらいに愛していたからこそ、決して死んでほしくなかった。そういうもの」
「・・・そうなのか・・・」
「だから、がんばりなさい」
「・・・ああ」
決して慰めの言葉はかけてこなかった。だが、不思議と心が休まる・・・メルフィーの言葉は不思議だった・・・。
「失礼します」
「・・・レイナ」
「調子はどうです?」
「・・・この通り」
「そうですか・・・あの、元気をだしてください」
「・・・」
「シルビアさんのこと聞きました・・・私は新参者だからよくわかりませんけど・・・啓太さんを想う気持ちはわかる気がします」
「・・・」
「私は、こうして今、カオストロのために戦っている。最初は、牢獄で一生暮らすものだとばかり思っていました」
「・・・」
「でも、啓太さんが牢獄から出して、私を必要としてくれた。最初は・・・同胞に剣を向けられるのかすごく不安で・・・逃げ出そうかとも思いました」
「・・・」
「でも・・・ひたすらに信念を貫く啓太さんを見て・・・逃げても解決しない。自分にできることをしなくては・・・そう思うようになりました」
「・・・」
「シルビアさんも、そういう啓太さんに支えてもらっていたのだと思います。・・・すいません、わかったクチをきいてしまって」
「うぅん・・・サンキューな」
「いえ・・・わたしたちは、待っていますから。啓太さんが、全てを受けとめて、また歩みだすのを」
「・・・ああ」・・・
「啓太〜・・・」
「アエリアか・・・」
「元気・・・じゃないよね」
「・・・」
「啓太・・・ボクはあんまり良い事言えないけど・・・啓太はシルビアさんの希望なんだよ」
「希望・・・?」
「うん・・・だから、自分の全てを託したい・・・って思ったんだと思う」
「託す・・・」
「啓太なら、きっと戦争を終わらせてくれる、きっと平和な世界を作ってくれる・・・そう思ったんだと思う」
「・・・」
「そして、シルビアさんは啓太の事を好きになった。啓太がシルビアさんを守りたかったように、シルビアさんも啓太を守りたかったんだよ」
「・・・」
「そして、シルビアさんは・・・うまく言えないけど・・・その・・・きっと、後悔はしてないと思う」
「・・・」
「それが、彼女の選んだ道だったから・・・だから、啓太も自分の道を選んで。どれがそうかわらなくても、きっと一つだけの道を見付けられるはずだから」
「・・・わかった」
「じゃあね」
「おう・・・サンキュー」・・・
「いるか?」
「ん?」
聞き慣れない声・・・誰だ?
「はい・・・」
「こうやって尋ねるのは初めてだな」
「お、王!?」
ありえない訪問に一瞬思考が止まる。
「とりあえず入れてくれぬか?」
「は、はい・・・」
俺は部屋に通す・・・。
「さてと・・・とりあえず、今は私を王ではなく、シルビアの父と思ってくれ」
「・・・はい」
「今回の事は・・・非常に残念だった」
「・・・はい」
「娘は君をかばって死んだ・・・そうだね?」
「!!・・・はい」
「・・・つまり、君にはその責任を取ってほしい」
「・・・はい」
王はそこで一端区切り、俺を見た。
「まず、君には、娘が命を張るほどの何かを持っている」
「・・・?」
「娘が命をかけて守った・・・君は、それだけの何かを持っていたはずだ。だから、娘の想いを受けとめてほしい。そして、君に娘の想いを受け継いでほしい」
「・・・俺に・・・できるんでしょうか?」
「・・・おそらく、この世界で、君にしかできない。なぜなら・・・娘が託したのは、君だからだ。君にとって、そんなのいい迷惑なだけかもしれない。だが・・・」
「・・・いい迷惑なわけ・・・ないです」
「・・・」
「だって・・・俺は・・・彼女の希望なんですから」
俺は、久しぶりに笑った。
「おぬし・・・」
「シルビアは、みんなにとっても大事な存在だった。もちろん、俺にとっても・・・だから、俺は・・・いや、俺が受け継ぎます。彼女の想い・・・全て・・・いや、もう受け継いでいるのかもしれない」
「・・・」
「俺は、決して彼女の笑顔を忘れない・・・俺は・・・彼女のことを・・・決して・・・!」
俺は、おそらく彼女のタメに流す、最後の涙を全て流した。これで、彼女のことで『悔やむ』のはおしまいだ・・・。
どんなにつらくても・・・俺は、突き進んでやる。
彼女が開いてくれた・・・光の一筋を。
彼女の笑顔を持って・・・俺は、この戦争を終結させる!
「というわけで、この世界のことを教えてくれ」
「え?」
俺はメルフィーに勉強を申し込んでいた。
「なんでいまさら?」
「だって、よくよく考えたら俺この世界の事何にもしらねーんだよ」
「・・・」
呆れ顔からこの勉強は始まった。後々他のみんなも集まってしまったが。
「ふむ。んで、この大陸には南部にカオストロ、北西にエレキクル、北東にアレスティナがあるわけだ」
「そういうこと」
「んで、種族が・・・人間と、エクステルと・・・なんだっけ?」
「スピリット。カオストロもエレキクルもこのスピリットが戦力の大半を占めてるわ」
「でも、エレキクルのように群を抜いて強いスピリットはいないけどな」
「ああ・・・アイツらか」
適当な顔して、適当な性格して、適当な強さをもって、適当な髪をしていたヘタレ男(なぜ知ってる?)をリーダーとした、俺に二回も倒された例の集団を思い出した。
「・・・ずっと気になってたんだけどさ。なんかさー、アイツらって全員が全員スピリットって感じじゃないんだけど」
「やはりそうですよね?実は私も思ってました」
元々エレキクルにいたレイナもやはりそう思うらしい。
「レイナは奴らのこと、何か知らない?」
「さぁ・・・私がいた頃からスピリット隊としてありましたけど、みなさんの言う男は良く知りません。おそらく私がこっちへ来た後で出てきた人材かと」
「新参者ねぇ・・・なんかさー、俺が薬草取りにいったとき、感じたんだ。少なくとも、悠人と、元気っぽい女の子と、坊サンみたいな男は『おれ達の世界』の人なんじゃ?って」
あと兄貴もだけど。そういや最近見ないなぁ・・・。
「おれ達・・・チキュウですか?」
「そゆこと。んー・・・」
俺はちょっと考える。うまくアイツらと接触できないものかと・・・いや、それ以前にアイツらを殺さずに戦争終結させれば・・・う〜ん・・・。
「どうしたの?難しい顔して」
「うわっと!別になんでもない」
気付くと目の前にアエリアの顔があって驚いた。
考え込むクセ・・・よくないな。
「んじゃ、最後にもう一つ。永遠神剣ってなに?」
俺のカノンが頂点にたって、その下にいろいろあるらしいが。
「そういえば、私のも永遠神剣だと言われたのですが」
レイナが剣を取りだした。といっても、長すぎるため取り出す、というより見せる、が正解だ。
ところどころ膨らんで剣としてはいびつな形だ。
{おお、ゼウスではないか}
{か、カノン様!}
「なに?また知り合い?」
{そうだ。やつは永遠神剣第五位『天来』だ}
{お初におめにかかります。以後、よろしくお願いいたします}
「礼儀正しいなぁ。剣も持ち主に似るってこと?」
{そういえばそうかもしれないな、あはは}
「はは。んじゃ俺とカノンは?」
{・・・あははは!}
カノンが変な笑いをしたのに俺もつられる。
「・・・ははは!!」
{・・・結構似た者同士かもしれませんね}
「そ、そうですね・・・」
微妙な空気を残して勉強再開。
「そんで?」
「残念ながら、カオストロにちゃんと自我のある永遠神剣はその二本しかないの。それに、改めて永遠神剣を研究しようとする程の頭を持った科学者もいないから、研究はちっとも進んでないわ」
「だけど、マナを必要とするとは聞いたことがある」
「マナ?なにそれ」
{いわば、永遠神剣の食べ物・・・か?}
「カノン・・・剣だろ?」
{普通の剣とは違うのを啓太も知っているだろう?}
「・・・そりゃね」
イロイロ助かってます。なにより、コイツ変形するし。
「今もマナってやつを食ってるの?」
{当然だ。普段聞こえないハズの奴らにも聞こえるようにしているからな}
「あぁ、だからみんなに声が聞こえるんだ?」
{位が高くなるほどマナを食わせろ、という強制力が強くなる。それだけ強力だが}
「じゃぁ、カノンはやっぱり強いのか。そのわりに負けが多いな」
{未熟なおまえに合わせているだけだ。今の俺は第十位以下の力しかだしていない}
「ウソ!?そんなに手加減してたの?」
{ああ。もはや普通の剣よりちょっと強いくらい程度だ}
「・・・」
結構ガビーンと来た。つまり、それほどまでにならないと、俺がついていけない・・・と。
{ちなみに、ゼウス・・・『天来』のほうは手加減していないようだ}
{もちろんです。この者は見事に私を制御しましたから}
「少し、苦労しましたけど・・・なんとかなりました」
ちょっと疲れたかのような顔を見せるレイナ。相当な強制力に耐えたからこそくる顔だった。
「でも、啓太はいきなり戦わされていたのだから、その程度になってしまうのは仕方ない」
メシフィア、それはフォローになってません。むしろ、ちょっと痛い。
「でも、変形とかするのは?」
{あれは、俺だけの特殊能力みたいなものだ。非固定剣}
「・・・なるほど」
{でも、カノン様の最終形態を作り出せたのですから、自信を持っていいと思います}
「最終形態・・・あぁ、アレ?」
俺はカノンを変形させる。
グォォォォォ・・・
「大きいわねぇ。ゼウスほどじゃないけど」
「それに、変な玉が飛んでるし」
「ふぅん・・・」
俺は元のカノンに戻す。
「・・・なぁ、カノン・・・」
{ダメだ}
(まだ何も言ってないぞ?)
{どうせ、手加減しなくていいぞ?だろ?}
「・・・なんでダメなん?」
{おまえには早すぎる。あっというまに俺に支配されるぞ?}
「支配・・・?」
{体を俺に操られるということだ。俺が全力を出せば、相当のマナ消費・・・あっというまに周囲のマナはなくなり、スピリットを殺してマナを食わせろと命令するようになる}
「・・・つまりは・・・暴走?」
{そんな感じだ。契約者が未熟だと、永遠神剣を制御できずに逆に取り込まれ、そして同時に神剣も暴走する}
「・・・」
{今のおまえでは、悠人の持っていた『求め』の強制力にも耐えられないぞ?}
「くっ・・・」
悔しさと未熟さへの憎しみが渦を巻き始めた。
{『求め』のまわりには、強いスピリットたちがたくさんいるからな・・・悠人がそれだけの資質を持っていなければ、全員暴走で殺されて、求めのエサになっていただろう。永遠神剣とは、そのような危険も秘めている}
「・・・なら、なんで俺と契約?したんだ?全力が出せる相手の方が良かった、とか後悔しなかったの?」
{残念ながら、この世のどこにも俺の全力を制御できるヤツはいない。だから『仕方なく』おまえで手をうった。それだけだ}
「ぐっ・・・!」
俺はカノンの刺のある発言に、チクリと痛んだ。
{まさか、自分にそれだけの資質があるとでも自惚れていたわけじゃあるまいな?}
「・・・」
カノンの言葉が心に響く。今まで俺を支えていた何かが崩れていく・・・。
{俺はおまえに期待などしていない}
「そうかよ・・・」
俺は俯いて呟いた。
{まぁ、今のままでも十分だ。と、いうより今より良い状態にはなれないだろうがな}
「・・・カノン」
{・・・}
「・・・なんでもねぇよ」
俺はそのままカノンを置いて出ていく・・・。
「ちょっと、カノンだっけ?言い過ぎなんじゃないの?」
{・・・ふん}
「・・・」
三人は黙って出ていく。だが、レイナだけは出ていかなかった。
{カノン様・・・不器用なんですね}
{・・・}
「あれは、啓太が自分の持ち主にふさわしいかを見極める最終試験・・・私もさせられましたからね」
{もし、あのまま腐ってしまえば契約打ち切り。だけど、合格すれば・・・}
「まぁ、合格して、全力を出されたときが一番困ったんですけど・・・あやうく支配されるところでした」
{・・・}・・・
「・・・」
俺は部屋でぼぅっとしていた。最近この状態多いな・・・。
カーンカーンカーン!!!
「敵襲!?」
俺は飛び起きる。しかも三回・・・かなり強敵のようだ。
俺は適当に立て掛けてあった剣を取ってそのまま急行する。
(まさか・・・例のスピリット隊じゃないだろうな?)
だが、その予感は的中してしまった。
「敵は!?」
「どうやら、スピリット隊だ。目的はおそらくカインの奪回だろう」
「そうか・・・」
レイナに続いてカインまで負けたとなると、今わかっている敵の戦力中枢は兄貴とスピリット隊だけとなる。
そうなれば作戦も小規模なものにせざるをえなくなる。
それが嫌なのだろう。
「ケイタ・・・カノンじゃなくていいのか?」
「・・・俺は、今までカノンに助けられてた。いつも無謀に飛び込んでいく俺を、あいつはいつも憎まれ口叩きながら付き合ってくれた。だから・・・俺はここで、アイツらに勝たなくちゃ。カノンに追い付くために・・・!」
俺は強く拳を握り締めた。自分で自分を奮い立たせるために。
「ケイタ・・・」
ケイタは本当に逞しくなった・・・前の頼りない面影は・・・もうない・・・。
「俺は前線にいく!後方に部隊を展開させておいて!おそらく敵は三方に別れてくるだろうから、俺は正面の部隊。アエリアとレイナは西の部隊。メルフィーとレイナは東で!」
「了解!」
「素人にしてはいい作戦じゃん?でも、無理しないでよ?」
「よし、啓太もがんばってね!」・・・
「・・・」
俺は精神を集中させる。
今度ばかりは、いつもみたいにつっこむだけというのはしてはいけない・・・。
なんせ、俺にはカノンがないのだから・・・でも、俺は、ここでアイツらに勝たなくちゃ。
そんで、カノンに認めさせてやる。
ザッザッ・・・
俺は、今までの戦いで強いやつを感じ取ることができるようになった。
まさに賜物というやつだろう。
「・・・来た」
「・・・啓太か」
現われたのは、悠人、アセリア、エスペリアのトリオだ。
強いな・・・。
{おい、契約者}
「なんだ、バカ剣」
「ユート・・・カノンを持っていないぞ?」
「・・・ホントだ」
「・・・」
俺は静かに剣を構える。
「おいおい冗談だろ?」
{いや、あながち冗談にはならないだろう。今までアイツは永遠神剣の加護をほとんどうけずに戦ってきたのだから}
「そういえば、それってなんで?」
{カノン様は強力すぎるゆえに、力を押さえていたのだろう。あの者のために}
「なるほどね・・・いつかのテメーみてーに支配しようとしてしまうってことか」
{・・・まだ根に持っていたか}
「・・・ケイタ、本気か?」
「アセリア・・・俺は、ここできみたちに勝たなくちゃいけない。俺は確かに弱くて、情けないのかもしれない・・・でも、俺は逃げたくない。シルビアの遺志を受け継いで・・・俺は絶対に戦争を終結させる」
「シルビアの・・・遺志?」
悠人が首をかしげる。
「・・・俺を庇って、カインに殺された。つい先日にな」
「「「!!」」」
3人の驚いた顔から、知らなかった、と読み取れた。
「知らなかったのか?そういう命令を出したはずじゃ?」
「そ、そんなばかな!王族を殺せなんて命令は出てなかったはずだ!」
「それに・・・カインはエクステルの森を燃やしたせいで・・・」
「ええ。牢獄に入っていたはずです」
「・・・話が噛み合わないな・・・どういうことだ?」
「悠人」
「ん?」
「おまえは・・・チキュウを知っているか?」
「!!まさか・・・!」
「やはりか・・・おまえも・・・呼び出されたのか」
やっぱり・・・悠人もだ。俺と同じように・・・。
「ん・・・?どういうことだ?」
「つまり・・・啓太も俺と同じ、ハイペリア出身ってことだ」
「そうだったのですか・・・」
「でも、わかっているな?」
「・・・ああ」
臨戦態勢を取る。
「俺は、シルビアの遺志を引き継ぐ。そのためには、まずカノンに認められなくてはいけない。だから・・・俺はここで、君達を倒す」
「・・・一対三で勝つつもりか?」
「勝つさ」
「!」
俺は即答した。いや、勝つしかない・・・。
「いくぞ!」
「・・・ああ!!」
俺は地面を蹴る!本当なら、ここで乱舞剣などを使いたいが、カノンじゃないからできない。
「はぁぁぁ!!」
「!?」
俺はいきなり上に跳び、まっすぐ剣を振り下ろした!
ズガァァァァン!!!
振り下ろした地面が爆発する。
「なんつー力だ・・・おいバカ剣!あれは永遠神剣じゃないのか!?」
{当たり前だ!}
「っつあああ!」
「!?」
俺はそのまま悠人にとびつく!
「求め!守れ!」
ブィィン・・・
悠人のまわりにバリアが張られた。
「こなくそぉぉ!!」
バリィィン!
「なっ・・・!」
俺はバリアを突き破った。そのまま悠人の後ろまで跳び、180回転して、すぐさま切り込む!
ザパァァッ!
「入った・・・!」
「ぐっ・・・つ・・・強ぇ・・・!」
バタッ・・・悠人が倒れた。
だが・・・まだ終わらない。
「今治療します!」
「悠人は・・・護る!」
次の相手はアセリアだ。
キィン、キィィン!!
「くっ」
俺はアセリアの剣をいなしながら、後退していく。
キィン!キィィン!!
じりじりと後ろに下がる・・・鋭い木の枝が迫る。
(いまだ!)
ガシッ!
「っ!」
俺はアセリアの両手首をとって、そのまま巴投げの要領で後ろへ投げ飛ばす!
ブシュゥッ!!
肉が裂ける、嫌な音がすると、アセリアの体に木の枝がささっていた。
「アセリアッ!!」
「くっ・・・もう復活したのか!」
「エスペリア!アセリアの治療!」
「はい!」
「うああああ!!」
悠人が俺に襲いかかってくる。
(そういうことか・・・!)
悠人の剣劇がさっきの数倍重い。自分はいいが、仲間を傷つけられるのを許さないタイプ・・・!
ピシ!
「!!」
「終わりだ!!」
俺は最後の一撃を剣で防がず、おもいきり飛んで避ける。
(ヤバい・・・剣が保たない!どれだけ重いんだ、悠人の一撃は・・・!)
そもそも、永遠神剣の持ち主と対等に戦えている事自体が奇跡に近い。
ザッザッ!と俺は悠人の一撃をよけていく。当たればひとたまりもなく、かといって防げば剣を折られる。
唯一のねらいは、振りの大きい攻撃であること。
(これしか・・・ないか・・・!)
俺はそのままジリジリ後退していく。もうすぐ太い木につく。
「でりゃああ!!」
悠人は大きく振りかぶった。
「ここだ!!」
俺はすかさず後ろに跳び、その一撃をよける。
バスンッ!
求めは地面に深く突きささった。だが、悠人ならそれを苦もせず引き抜くだろう。
だが、その一瞬あれば十分だ!
トンッ・・・。
「なっ!」
俺は太い木を蹴って、剣を突きの態勢にして飛び付く!
「求め!」
{チッ!}
ブィン!!予想どおりバリアが張られた。
バキィィッ!!
俺の剣が折れた!
「危ない・・・」
{まだだ!諦めてないぞ!?}
「な・・・に!?」
「うああああ!!」
バリィィン!!
バリアが砕け、俺はそのまま、『残っている』剣で悠人を突き刺した!
バスゥゥッ・・・!!
「ぐっ・・・かはっ!」
「よっしゃ!!」
悠人の腹を突き刺している、折れた剣を引き抜く。
「くっ・・・そぉ・・・」
「ユート!」
「くっ・・・」
俺はすかさず跳びすさる。アセリアとエスペリアがやってきたからだ。
万策つきた・・・どうする?
「アセリア、悠人様は私が治療します!」
「ん・・・!」
俺に鋭い視線を向けてくるアセリア。
「くっ・・・」
(さて、どうしようか・・・?)
剣もなく、体力もなく、どうすれば・・・。
(いや・・・諦めるな!諦めてなんになる!?俺はこんな程度の覚悟でシルビアの遺志を引き継いだのか!?違う・・・ここで諦めてどうするんだ!?・・・力を信じろ。最後の最後まで・・・!)
俺は折れた剣を構える。
キィン!!
アセリアの重い剣劇が俺を襲う。
「くっ・・・」
折れた短い刃でそれを防ぐ。
「はあぁぁぁ!」
キィィン!キィィン!キィィィン!!
アセリアの流れるような攻撃が俺の剣を弱らせていく。
ギビギ・・・
「くっ・・・」
(こうなれば!)
「せいいああ!!」
俺はこの剣の最後の一撃を放つ!
バキィィィィッ!!
剣は根元から綺麗に砕けた。
「せいっ!」
「っ!?」
俺はその柄をアセリアに投げ付ける。
パシッ!
「なんだ・・・?」
それを簡単に払い除けるアセリア。
「!?どこだ・・・?」
俺はアセリアの背後にいた。
クルッ・・・ドサッ!ジャキッ・・・
俺はアセリアを技で押し倒し、さっき投げた柄を首筋にあてた。
剣としての刃は残ってはいないが、なんとか首はかききれる・・・。
「・・・くっそ!どうして・・・!」
だが、俺はその刃を振るうことができなかった。俺はそのまま立つ。
「・・・情けか?」
「違う・・・約束したんだ。無駄な犠牲は払わないと」
「・・・どこか、悠人と似ている」
「・・・結局、俺の負けか・・・」
コイツらは、決して俺を倒すまで諦めない。
だが・・・気絶させることができなくなった俺は、負けたんだ・・・。
・
・
・
でも・・・これでいいのか・・・?シルビアが望んでいるのは・・・こんなことだったのか?
なんだか・・・違う。
「啓太」
「・・・」
俺の首に求めがつきつけられた。
(・・・わかったと思っていたのに・・・なんで、またわからなくなったんだろう・・・いつから・・・?)
俺は求めを気にせず、ひたすらそれを考えていた。
『私は、いつまでもあなたを愛していますからね?』
(シルビア・・・)
『私は、そんなあなたを好きになったんじゃない!』
(今の俺・・・前と同じか?)・・・
『あなたの思うようにしてください。その姿を見るのが、私の励みになります』
(・・・!!)
その言葉を聞いて、ハッとした。シルビアは、『シルビアの思ったことをする』俺を認めてくれたんじゃなくて・・・『自分の思ったとおり』の俺を・・・好きになってくれた・・・。
(なのに・・・俺は・・・シルビア、シルビアとその人の気に入る事しかしてなくて・・・そうやって、シルビアに寄り掛かって・・・甘えて・・・そんなんじゃないんだよな?シルビア・・・ッ!!)
{そうだ!}
(・・・カノン?)
いきなりカノンの声が聞こえた。
{やっと気付いたか、啓太}
(ああ・・・そうだよな。シルビアが・・・じゃなくて、俺がやろうと思った事をすればいいんだよな・・・)
{合格だ。さぁ、我を呼べ!我の名はカノン!永遠神剣を束ねる剣・・・『神光』なり!}
「神光よ!!」
「!?」
悠人の求めは動かない。俺の左手がその動きを封じていた。
{くっ・・・契約者!距離をおけ!くるぞ!?}
「ああ・・・ヤバいものがくる!」
ザッ・・・
三人は俺から離れた。
ブゥゥン!
いきなり白い光が現われる。そこに手を入れる俺・・・。
ズブズブ・・・。
光から現われたのは、最終形態のカノンだった。
「カノン・・・」
{・・・ふん。最初からこれくらいの人材だったら苦労しなかったんだ}
「・・・全力、出していいぜ?」
{最初からそのつもりだ。呑まれるなよ?啓太!}
ブワァァァァッ!
いきなり啓太を中心として、風が吹き上がる。あまりの風の強さに目を閉じる三人・・・。
「な、なんだこれは・・・?」
{カノン様が・・・本気になられた。まさか・・・本気のカノン様を制御できるというのか!あいつは・・・!}
三人はどんどん大きくなっていく力に恐怖を覚えていた。
「永遠神剣第一位・・・って、おまえの何十倍も強くて、支配も強いんだろ?」
{そうだ!前に契約者を支配しようとしたときなんか、痛みにならないくらい、強力な強制力が契約者を襲う!故に人間が耐えられるわけもなく、カノン様はずっと眠っていたはず・・・}
「そ、そんなやつを制御しようとしてるのか・・・!」
悠人も支配されそうになったことがあるようで、その何十倍がどれだけつらいのかわかるようだ。
「ユート・・・!なんだか・・・」
「ええ・・・とてもじゃないですが・・・」
「・・・ああ」
三人の士気はみるみる落ちていく。この圧倒的な力の差をまのあたりにして・・・。
フワァァァ・・・
風がおさまっていく・・・。
「・・・ふぅ」
そこにいたのは、前と同じく、目に輝きを取り戻した啓太だった。
「カノン、大丈夫か?俺」
{・・・正直、驚いた。まさか、本当に制御されるとは}
体の隅々まで力が入る。今なら素手で岩を砕くこともできそうだ、と思ってしまう。
そんな不思議な感覚に魅入られるのが永遠神剣に呑みこまれるということなのだろう。
だけど、俺はこの力に溺れたりはしない。
「そうか・・・カノンに勝ったのか!俺!」
{なっ!違うぞ!}
まけた、というのが癪なのか否定してきた。
「そうかそうか・・・カノン、これからあんなこと言ったら折るからな?」
{・・・笑顔で言われると余計恐いな。はぁ・・・まぁいい。制御されるにこしたことはないしな}
俺は三人を見る。
「まさか・・・」
{残念だが・・・契約者、やつは完全にカノン様を制御できている。支配されているけはいは・・・微塵もない}
「永遠神剣第一位を・・・」
「制御できてるなんて・・・」
「さて、驚いてるところ悪いけど・・・どうする?まだ戦うなら、俺は相手するけど」
コォォォ・・・
その一言だけで、全てが震えあがった。
「・・・退くわけにはいかない」
「ん・・・」
「・・・いきます」
三人は構えた。
「・・・悠人は、何のために戦ってるんだ?」
「えっ・・・?」
「その二人のようなスピリット・・・大切な仲間たちのためだろ?」
「それが・・・どうした?」
「・・・君は、どんな敵でも向かっていくのが勇気だと勘違いしてるんじゃないか?」
「そんなこと・・・!」
「このままだと、君の仲間は確実に重傷を負う」
「・・・!」
「自らの選択が、仲間を傷つけることになる・・・決断しろ。君が隊長だろ?君は、本当の勇気をしらなくちゃいけない」
「・・・でも、それでも・・・俺は戦わなくちゃいけない!佳織のためにもっ!!」
悠人は一気に間合いを詰めた。
「ダメです!ユート様!くっ・・・護って!」
エスペリアが悠人にバリアを張った。
「甘えるな、悠人・・・おまえは絶対に俺に・・・勝てないっ!」
俺がカノンを一振りする。
ザパァァァッ!
すると、風の刃が生まれ、悠人にむかっていく。
「くらうか!」
ジャンプしてよける悠人。でも、それがねらい。
飛んだら・・・避けられないんだ。
「終わりだ」
俺は再びカノンを一振りする。
ザパァァァッ!
二つ目の刃が悠人に向かっていく。
「なっ・・・しまっ・・・!」
バシュッ!ズババッ!!
「ぐあっ!!」
風の刃は悠人を切り刻んだ。
バリアなど、なかったかのように切り裂いて・・・。
ドサッ・・・
着地できずにそのまま倒れる悠人。
「俺は一歩も動いてないぞ?」
「ぐっ・・・くそぉぉぉ!!」
それでも俺にむかってくる悠人。まるで・・・昔の俺を見ているようだ。
「うあああ!!」
悠人は最後の一撃のつもりか、大きく振りかぶった。そして、それが俺に振り下ろされた。
パスッ・・・
「なっ・・・」
俺はそれを左手で止めた。
別に悠人の攻撃が弱かったわけじゃない。むしろ、今までで一番速かったかもしれない。
だけど・・・俺には届かない。
「てい」
俺がカノンを、悠人の右肩から斜めに切り下ろした。
ブシャァァッ!
「ぐあっ!!」
その衝撃で吹き飛ばされる悠人。
とんでいく間に、乱舞剣の残劇を次々受けて、地面に倒れた時には上の服は全て切り裂かれていた。
「うあああ!」
アセリアがそれを見て向かってきた。エスペリアはすぐに悠人の治療にとりかかる。
「せいやっ!!」
俺は寸前までひきつけて、カノンを一振りした。それを受けとめるアセリア。
だが、剣で受けとめた程度では衝撃は止まらなかった。
「うあっ・・・!」
そのまま吹き飛ばされ、頭から木に打ち付けられたアセリアは、そのまま立ち上がらなかった・・・。
「・・・ふぅ」
俺はザクザクアセリアに歩み寄って、それを持って悠人のところまで行く。
「こないでください!」
エスペリアがすかさず構えた。
「・・・一つだけ言っておく」
俺はボロボロになったアセリアを、同じくボロボロの悠人の隣に寝かせた。
「俺は、きみたちが敵だから戦ったわけじゃない」
「・・・え?」
俺はカノンを寝ている二人に向ける。そこから白い光が溢れて、二人の傷を治していく。
「君達なら、きっといつかわかると思って戦ったんだ」
「なにを・・・?」
「戦争で・・・敵だからって・・・泣きながら誰かを斬っても、それは意味がないことだと」
「!!」
「戦いたくないなら、戦わなければいい。それもまた強さだと知ってほしかった。まぁ、結局俺もこうやって、相手を傷つけているんだけどね」
俺は三人にカノンを向ける。
「!」
「だから・・・君達には、その意味を考えてほしい。エレキクルに帰ってからね」
俺は微笑んだ。驚いたまま固まっているエスペリアに。
「今度会うとき・・・理解してもらえてなかったら、本気でいかせてもらう。隊長さんに伝えておいて。もし・・・俺の力が必要だったらいつでも頼ってきてほしい。敵という立場だからこそ、力になれることがあるかもしれない・・・ってね」
「!・・・はい」
「いい返事だ。んじゃ、君達と、君達の仲間は全てエレキクルに帰すから」
三人は光に包まれて・・・一瞬にして消え去った・・・。
(これで良かったんだよな・・・シルビア)
しばらくして、四人がやってきた。いきなり光に包まれて敵が消えたと。
「それにしても、ケイタ・・・強くなったか?」
「あ、わかるぅ?」
「わかるぅって、そんなのんきな程度のレベルアップじゃないわよ!一瞬マジでビビったんだからね!」
「本当ですよ。まさか、永遠神剣第一位を制御してしまうなんて・・・」
{本当にすごいですね。啓太さんは}
「啓太、大丈夫?結構けがしてるけど」
「大丈夫。心配するな、アエリア。さて・・・帰ろうか」
「そうだね。敵もいなくなったし」
「今回は・・・ちょっと疲れたな」
「大丈夫?メシフィア。って・・・私もだけど」
「とりあえず、今は帰って休みましょう」
「そうだね。今は・・・ゆっくり休もう」・・・。
「・・・そうか。啓太が・・・」
目をさました悠人は、エスペリアに話を聞いていた。
「敵だからこそ、力になれるかもしれない・・・だそうです」
「・・・なぁ、エスペリア」
「なんでしょう?」
「・・・もしかして、同じ事考えてる?」
「おそらく・・・」
「これって・・・いろんな意味でマズイよね」
「・・・悠人様」
「うん?」
「悠人様は、敵だった人をやさしく迎えてくれました。それと同じように・・・啓太さんも、受け入れてくれるのではないでしょうか?」
「・・・信頼できる?」
「・・・私個人としては」
「・・・でも、レスティーナまで裏切るのは気が引ける・・・よな」
「・・・でしたら、レスティーナ様も一緒に・・・というのは?」
「納得してくれるか?・・・いいのかな?かなりの犯罪だよな、コレって」
「でも・・・戦争終結なら、これが一番手っ取りばやいのかもしれません。啓太さんなら・・・やってくれる気がします」
「俺もそう思う。まったく・・・アイツにはかなわないな。ヨシ・・・啓太・・・悪いけど、手を貸してくれよ?」・・・
「ふわぁ・・・平和っていいねぇ」
{何を言っている。この世界のどこが平和だ}
カノンに怒られてしまった。最近説教が多い。
「ま、ま、堅いことは言わずに」
{はぁ・・・今までの反動か?こんなにのんきになって}
「ていうかさー、永遠神剣ってあるじゃん?」
{今、まさにおまえの目の前にな}
「そうそう。なんかさー、永遠神剣の第二、第三位がないのってどして?」
{・・・ないわけではない}
「そなの?」
{エターナル・・・まぁ、そのうち教えてやる}
「おい、エターナルってなんだよ?そこまで言ってとめんなコラ」
{俺を持っていれば、必ず引き込まれる世界だ。今は考えない方がいい}
「なんだよそれ・・・」
{・・・}
どうやら今はもう話すつもりはないみたいなので、他の話にする。
「でも、おまえ強かったなぁ。まさか、あんなに強かったとは思わなかったよ」
{そうか?}
「ああ。って・・・完璧この状況に馴染んでるな、俺」
話をしている相手は剣。元の世界でやっていればあっという間に塀の高い病院に送られてしまうだろう。
{・・・故郷が恋しいか?}
「そりゃ・・・ね。でもま、この世界も母さんの故郷なわけだし」
{前向きなことだ}
「ほっとけ。あー、でも・・・そのエターナルとかいうのにまで巻き込まれたくはないな。なんだかしんどそうだし」
{そいつは無理だ。なんせ永遠神剣第一位の俺を使っているのだからな}
「そういえば、制御したやつはいないとか言ってたっけ?」
{ああ。まさか、本当におまえが制御できるとはな}
「俺をナメてるからだ。けど・・・ふむ・・・まぁいっか」
{どうした?}
「なんでもねーよ。んじゃ、寝るとし・・・」
ささやかな惰眠を貪ろうとした矢先・・・その平和な時間がやってくることはなくなった。
ガチャン!
「ケイタ、起きてるか?」
突然メシフィアが入ってきた。ノックもしてない。
なんと無礼な・・・。
「なんだよメシフィア・・・そんなに慌てて」
「これ」
俺は一枚の手紙を渡された。
ハートなんかくっついちゃってるよ。
{ほほぅ、ライブレターか?}
「なんだそのイは。ラブレターだろ?いや、でも俺有名だから、妬んで不幸の手紙ってのもありえるぜ?」
「で、中身は?」
「・・・って、なんでメシフィアが見るんだ!ダメダメ!俺のプライベートなの!」
俺はメシフィアを部屋から追い出す。
「内容は後で教えてあげるから」
「本当だな?」・・・
パスッ。
俺は手紙をあける。
{なんだって?}
「・・・なるほどね」
{どうした?}
「むふふ・・・」
{ど、どうした、いきなり笑いだして}
「戦争終結間近ってところかな・・・」
{は?}
「つまり、このくだらない戦争を終結させるんだ。それにしても・・・」
{???}
「カノン、兄貴がいなくなったって」
{なんだと・・・?}
「好都合といえばそうなんだけど・・・怪しくない?」
{ああ。あれだけ執着していたやつが、パッタリ消えるとは・・・}
「とりあえず、俺はエレキクルに行く。行くぞ?」
{ああ、エレキクルか・・・ンだとこらっ!?}
カノンが普段言わない怒鳴り声を出した。
「何怒鳴ってんのさ?」
{敵国だろうが!んなとこ行けば、顔の割れてるおまえはあっという間に死刑だろうが!}
「ちょっとね・・・誘拐するんだよ」
{誘拐?}
「そ。プリンセスと悠人の妹を・・・ね」
{はぁ!?}
「つまり・・・・・・ってこと」
俺は未だに落ちつかないカノンに事情を説明してやる。
{・・・なるほどな。つまり、あいつらはおまえの考えを理解してくれたと}
「そゆこと。んで、スピリット隊もいなくなれば、エレキクルに戦力はなくなって、無血勝利。はははっ!」
{・・・そう簡単にいくのか?}
俺が喜ぶのに対し、カノンは妙に冷めていた。
「え?なんで?」
{いや・・・なんだか嫌な予感がしてな}
「ふぅん・・・じゃぁ気を引き締めていきますか」
{ああ}・・・
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永遠神剣第一位『神光』・・・啓太の心が堅く、強くなって、本当の力を発揮した『神光』。特殊能力はもちろんのこと、直接攻撃力
や防御面、治癒能力が大幅にアップしている。その効力は片手で『求め』を受けとめてしまえるほど。