「と、いうわけです」
「なるほどな・・・」
俺は王に報告していた。なぜなら、唯一動けるから。レイナは留守番していたし。
よく考えると、レイナを留守番にしたのは王の意外な妙手かもしれない。
信頼されてきたと本人に自信をつけさせるだけでなく、元同胞と殺し合いになることを防ぐ・・・。
「大変です!」
「どうした?」
「メシフィア様が・・・!」
「!?」・・・
「はぁ・・・はぁ・・・」
メシフィアはベットの上でうなされていた。顔も真っ赤で、息も荒い。
「どうしたんだ?」
「撲滅したはずの感染病です」
「感染病?」
「ええ。ですが、数年前の一例を最後にぱったりと消えたのですが・・・」
「治療法は?」
「・・・ありません。今までこの感染病にかかったひとは、100%・・・死を遂げています」
医者は渋い顔をした。おそらく本当のことなのだろう・・・。
「な・・・!」
俺は言葉を失った。
(メシフィアが・・・死ぬ!?)
「おそらく、戦闘のときにうけた傷から感染したのでしょう。今、この病原菌が残っているとしたら、オークランドしか考えられません」
「そんなことはどうでもいい!なんとかならないのか!?」
「・・・もしかしたら・・・」
「え?」
「一つだけ・・・あるかもしれません。しかし、可能性はゼロです」
「なぜ?」
「今の時期に、その薬草は生えていない・・・次に、そこは敵領なのです」
「・・・薬草か。原始的だけど、それがあれば治せるんだな!?」
「ですから、生えている可能性はないと・・・!」
「そんなのやってみなければわからない!!」
「!」
「やる前からあきらめるな!なんとかなるさ。俺が行くから」
「し、しかし!」
「場所は?」
俺の迫力に観念したように答える医者。
「・・・エレキクルの首都から少し離れた、山岳にあります」
「よし、行ってくる!」
「タイムリミットは明日の夕暮れでしょう・・・お気を付けて」
「ああ!」
俺は窓から飛び降りる。
ブワァァァッ・・・
白い羽が舞ったかと思うと・・・
ビュゥゥッ!
一つの影が飛んでいった・・・。
「おいカノン!最短ルートは!?」
{北西だ!}
「了解!」
俺は方角を修正した。一気に加速する。
{おい啓太。このスピードで飛んでいると翼が死ぬぞ!?}
「うっさい!」
耳は風圧で聞こえないが、カノンとは心で会話ができる。
「本当に死ぬかもしれないのはメシフィアだろうが!」
{なぜそこまで必死になる!?俺にはわかる!おまえの心には諦めの部分がある!}
「割合は!?」
{ん!?}
「諦めない気持ちと、諦める気持ちの割合は!?」
{・・・9:1だ}
「どっちが9!?」
{諦めない、だ}
「そーゆこと!ついでに今の俺の決意で10にしとけ!」
俺はさらに加速する。羽の落ちるスピードが早い。
消えることはないのだろうが、一気に羽根が抜ければ飛べなくなるのは当然だ。
{ふっ・・・とんだ酔狂と付き合うことになったな}
「自分からしたくせに」
{・・・惚れたのか?あの女に}
「・・・なに!?」
いきなり何を言い出すんだこの永遠神剣の王者サマは。
{メシフィアに惚れたのかと聞いている}
「んなこと知るかッ!」
こんなに必死になっているんだから、そうなのかもしれない。
{・・・}
でも、今はそんなことはどうでもいい。
大切な仲間が死にそう・・・だったら、それを助けたいと思うのは当然。
「知りたいとも思わないね!メシフィアを助けたあとで、じっくり考える!」
{そうか}
バサッ・・・
俺は地面に降りる。
{ここは既に敵地のど真ん中だ。気をつけろ}
「・・・オイ、薬草ってどれだ?」
{・・・あれだ!}
がけっぷちにある一つの小さな草をさす。
(あった・・・!)
「あれか!」
俺は翼をはばたかせて取りにいく。
パッ!
「・・・!?」
俺はカノンを掲げた。
パキィィィン!!
「・・・アセリア!」
「ん・・・」
現われたのはアセリアだった。
よりにもよってというか・・・。
「邪魔しないでくれ!」
「無理。ユートの命令だから」
「・・・悠人」
俺の後ろから現われる悠人。
ほかにも、前に戦った二人と、黒い服に身を包んだ女性、元気そうな女の子、坊サンっぽい男・・・
「くっ・・・」
完全に囲まれた。総勢七人・・・
「悪いけど、ここで捕まるか・・・死んでもらう」
「・・・今、仲間が死にそうなんだ。おまえらと戦った時に、感染病にかかったらしい」
「!!」
悠人の顔が微妙に動いた。
「明日の夕暮れがタイムリミットなんだ。どいてくれ」
「・・・ダメだ」
苦しそうに・・・でもしっかりと答える悠人。いくらこれを繰り返しても、悠人は通す、とは言わないのだろう。
「・・・今、口で言い争ってる場合じゃない。一刻を争うんだ。邪魔するっていうなら・・・貴様等全員倒してやるッ!!」
「全員!分散攻撃!一つに集中させるな!」
七人がバラバラに動きはじめる。
「はぁ・・・!」
俺は地面にカノンを突き刺す。
グォォォォォ!!!
竜巻が俺を中心に巻き起こる!
「!?」
「これは・・・!」
七人はその竜巻に近付くと危険だと知っていたのか、竜巻の外で納まるのを見ている。
フゥゥ・・・
竜巻が止むと、そこに啓太の姿はなかった。
「!?」
「行かせない・・・!」
アセリアの目だけは誤魔化せなかったようだ。
俺は竜巻を突き抜け、一気に薬草を取ろうとしたが、アセリアに邪魔された。
「そこですっ!」
エスペリアが永遠神剣を投げ付ける。
グブゥゥッ!
「う・・・ぶあ゛っ!!」
俺の背中から綺麗に突き出た剣は、俺を地面に落とすのに十分な威力だった。
ドサッ!!
「ぐ・・・がはっ・・・」
俺は胃から逆流してきたものと同時に血を吐き出した。
「失礼します」
剣を引き抜くエスペリア。
「ぐぅ・・・っ!」
俺の翼は吹き出した血で赤く染まっていた。七人の気配が集まってくる。
「く・・・そ・・・」
俺の意識が消えていく・・・。
(メシフィア・・・!!)
『まだでしょ?』
(ん!?)
いきなり声が聞こえる。カノンではない・・・。
『まだあなたは私を見付けてもいない。なのに、もう終わり?』
(・・・誰だろう?)
この、どこか聞いたようななつかしい声・・・そうだ・・・この声・・・は・・・
『立つのよ!啓太君!』
「うああああっ!!」
「!?」
いきなり立ち上がった啓太に驚く七人。とっさに永遠神剣を構える。
「メシフィアが待ってるんだ・・・倒れて・・・たまるか・・・!」
俺はヨロめきながらも立ち上がる。
「カノン・・・やるぞ?」
{バカ言うな!今の状態でそれを使えばどうなるか・・・わかっているだろう!?}
「七人もいたら・・・余裕はないのは同じ・・・なら、確実に・・・!」
{・・・わかった}
俺は剣を祈るように構える。何かをするのを悟ったのか、七人は一気に攻撃にきた!
「・・・」
{今だ!啓太!}
ザンッ!
ドォォンッ!!
ズバァァッ!!
「・・・奥義・・・かまいたちの陣!」
「な・・・なにが起こった・・・?」
無音が場を制する。
しばらくして変化が訪れる。
ブシュゥゥッ!!
「うああ!!」
「きゃぁぁぁ!!」
七人の体のあちこちから血が吹き出る。
そして・・・
「ぐぅぅっ!」
啓太自身も・・・。
「がはっ・・・啓・・・た・・・!」
「つ・・・強い・・・!」
七人がピクピク体を動かしているが、誰も起き上がることはできない。
神速の剣さばきでかまいたちを起こすだけでなく、それらはすべて敵の関節を切り刻む・・・。
「悠人・・・大事な物を守るために・・・戦うのは・・・人の大事な物を奪うということを・・・覚えておけッ・・・!!」
「!!」
悠人の顔が歪んでいく・・・。
「そして・・・こういうふうに・・・報復をうける!それが・・・戦争・・・なんだそうだ・・・」
俺は袖で顔を拭い、血塗れの翼をはばたかせる。
今度はアセリアもいない。全員、かまいたちの陣で体をズタズタにされた・・・それは、アセリアだけではないが。
ビチャビチャ・・・!!
翼から血が落ちる。
「じゃあな」
俺は例の薬草を取って、そのまま飛び立つ。
最後に・・・地面に倒れている七人を見ながら・・・。
「くっ・・・」
{おい、大丈夫か!?}
俺はときどき落ちそうになりながら飛ぶ。スピードは行きの半分も出ていない。
既に真っ暗なのに、まだエレキクルの領から出れない。
「ぐぅ・・・!」
俺のあちこちの傷から血が垂れる。きっと下では血が落ちてきた、と叫んでいるだろう。
{どこかで休憩しないか?このままでは・・・少し休んで治療すれば・・・}
「今の速度で・・・休んだら・・・間に合わない。それに・・・休んでも・・・すぐこの速度に落ちちゃうから・・・やっぱり飛び続けるしかない」
{啓太・・・}
手にはしっかりと薬草を握っている。
「・・・日が・・・落ちていく・・・」
俺はそれを、やっと城が見えたところで感じた。
二日目の夕暮れ・・・
ギリギリか・・・?
俺は城の窓から入る。
「メシフィアは!?」
「ど、どうしたんですか!?」
メルフィーたちが起きていた。
俺の傷だらけの姿に驚いている。
そりゃそうか。
「メシフィアは?」
「ま、まだ大丈夫です」
「これ!」
「あっ・・・それは!」
医者はそれを受け取って煎じる。
「できました!さぁ、飲んでください、メシフィア様・・・」
「・・・」
メシフィアはそれを口に含みもしない。
いや、口をあけることさえできないのか・・・?
「ど、どうすれば・・・!」
「薬ができても飲めないんじゃ・・・!」
「・・・えぇぃ!めんどい!」
俺はタオルで口のまわりを拭く。
ついでに水でうがいをした。
「かして!」
俺は煎じられた薬草を受け取り、口に含む。
同時に水も・・・そして、そのままメシフィアに流し込んだ。
「・・・ん・・・ん・・・」
メシフィアの喉を通っていく薬草・・・。
「ぷは・・・これで・・・だいじょ・・・」
俺はその言葉を最後まで言うことはできなかった・・・。
「啓太!」
俺は頭がグルグルして・・・あぁ、これが、血が足りないってことなんだな・・・とか感じて・・・もうほとんど羽のない翼の羽が舞ったのをみて・・・最後に、メシフィアは助かったんだと思って・・・安心して目を閉じた・・・。
「・・・」
俺は目が覚めた。だが、動けなかった。別に金縛りにあったわけでもない。
どうやら、また肉体に無理をさせすぎたようだ。ちっとも動かない。
まぁ、あれだけ飛んで、あれだけ傷ついたらそうもなるか。目と口が開けられるだけマシとおもう。
「・・・」
天井が見える。今、動かせるのは口と目だけ。
顔は動かせないから結構見える物は少ない。
「起きたか?」
「・・・誰だ?」
「メシフィアだ」
「メシフィア・・・そうか、良くなったのか」
俺は安心した。ググっと目線を動かすと、そこにメシフィアがいた。
「病み上がりなのに、俺を看病してくれたのか?」
「まぁな」
「ダメだろ?ちゃんと休んでないと」
「大丈夫だ。自分の体の事は、自分が一番わかる」
「・・・」
「ケイタはそうじゃないようだな」
痛い所を突かれて、俺はしょぼくれて、一言。
「・・・面目ない」
「なぁケイタ」
「ん?」
「もっと大事にしろ・・・その体を」
「・・・わかった」
俺は素直に答えた。そろそろ俺も考えていた。
あんまり無理させるのはよくないことに・・・。
「ケイタ」
「ん?なんだか今日はやけに女っぽいな」
「私は女だ。そうじゃなくて・・・ありがとう」
「薬草か?あんなの楽勝だ。メシフィアも助かったんだから、俺にとってはそれが一番お礼になるよ」
言っていて恥ずかしくなってくるが、素直に口からだせた。
病気が治った子供を、微笑みながら見ている親の気分。
「メルフィーが言っていた。帰ってきたとき、ケイタはズタズタだったと」
「・・・まぁた余計なことを」
「それに、その・・・私が薬を飲まなくて・・・飲ませてくれた」
「・・・あ」
そういえば夢中でそんなこともしたっけ・・・なんでそんな事言うんだチクリ魔メルフィー・・・
顔合わせづらくなるじゃないか。
「だから、お礼がしたい」
「お礼?」
「そうだ。少し目を閉じていろ」
「んなの・・・言われなくても・・・」
もうすでに俺の意識は半分睡魔に食われている。
だけど、なんだかこのあとの展開が読める気がしてどうも目を閉じる気になれない。
(・・・ま、いっか。役得だし)
俺は目を閉じた。
予想どおり・・・唇に温かい感触。
だが、予想できていてもすごく驚いた。
「・・・!?」
てっきり俺は軽い、お礼のキス程度だと思ったのに・・・なんでかしらないが、割って俺の口にメシフィアの舌が入ってきた。
「!?」
俺はつい目をかっとあけてしまう。
目の前には目を閉じているメシフィア・・・
(ぁぁ・・・そーいえばここは異世界なんだっけ・・・キスの度合いが違くても当たり前か・・・)
だが、だんだんそんな余裕がなくなってくる。
なんというか・・・こう、メシフィアを抱き締めたい欲求が湧いてくる。だが、それを実行することはない。
俺にそれだけの度胸がないのもあるだろうが、何より体が動かなかった。
そのまま貪られるように舌で翻弄される俺・・・。
ときどきチュパ、クチュ、みたいな淫らな音がして、すごく恥ずかしい。
しばらくして、メシフィアが口を離した。
スゥッとなんだかいやらしい液をひいて・・・。
メシフィアの顔はなんだか赤っぽくて、目は潤んでいて・・・すごくカワイイと思った。
「お礼だ」
「お礼ですか・・・なぁメシフィア」
「ん?」
「この世界では・・・いつもこんなディープなキスするの?」
「そんなわけないだろう?」
「え?」
「これは大切な人にだけに決まっている」
「そうか。なるほど・・・」
また一つ、この世界を勉強したな。
「しばらくしたら、また来る」
「ありがとな」
メシフィアは部屋を出ていった。
(さて・・・どう料理してくれようか、あのチクリ魔・・・!・・・でも、その前に・・・)
「メルフィー、入るぞ」
「どうぞー?」
俺はメルフィーの部屋に入る。今は夜だから静かだ。
「寝込みを襲うにはちょっとはやかったわね?」
「頼みがあるんだ」
「・・・無視?」
「結構マジな話なんだけど」
「・・・はいはい。んで?」
「俺を鍛えてほしい」
「・・・は?」
メルフィーが、なんだこいつ?嫌味か?みたいな視線をぶつけてきた。
「だから、俺を鍛えてほしいんだ」
「・・・啓太の方が強いじゃない」
「いや、俺は弱いよ・・・」
俺は今までのことをふりかえる。どれもが『エクステル』の翼が生えているときだけ強かった。普通の俺は、簡単に殺された。
「今のままじゃ、俺は生きていけない。だから、俺はつよくならなくちゃ」
「・・・そう」
「俺は、みんなを守りたいって思って戦ってた。でも、よく考えると自分の身さえ十分に守れない俺が、みんなを守れるわけがない、だからこそ・・・力が欲しい」
「・・・わかったわ。明日から稽古つけてあげる」
意外と快く受けてもらえたので驚く。
「ほんと!?」
「でも、一つだけ聞かせて。誰があなたをやる気にさせたのか」
「・・・メシフィア」
「あらら。やっぱり」
「やっぱりってなんだ、やっぱりって。・・・なんかさ、メシフィアに言われちゃったわけよ。もっと自分の体を大事にしろって。でも、俺は粗末にしてる覚えはないんだ。つまり、守れる力がないって気付いて・・・これ以上メシフィアにメルフィーにレイナにアエリア、みんなに心配をかけるわけにはいかない。それに、約束したんだ。メシフィアと・・・いつかお互いが背中を任せられるように成長するって」
「まったく・・・メシフィアにべったりね、アンタ」
「・・・そうかな?」
俺は頭を掻く。
「そうよ。誰が見ても一目瞭然」
「・・・そうなのか。うむむ・・・」
「何を考えてるんだか。んじゃ、明日からね」
「ありがとう!」
俺は部屋をでた・・・。
「はい、振りが遅い!」
パシィィンッ!
俺の持っていた木刀が弾き飛ばされた。
「くっ・・・」
「飲み込みは反則的に早い。だけど、アンタって本当に弱かったのね」
俺は木刀をつきつけられてしまう。
「ぅぅ・・・もう一回!」
「わかってるわよ」
俺はすかさず木刀を取って構える・・・。
パシィィィン!
「ぐ・・・」
俺はまた木刀を弾き飛ばされた。
「動きが一回一回驚くほど良くなってる。でも、経験が足りないっていうか・・・こう、踏み込みが甘いのよ」
「踏み込み・・・?」
「相手の剣を紙一重でかわし、最大の攻撃を打ち込む覚悟っていうか・・・その勢いがあんたにない」
「・・・踏み込みか・・・よし、もういっちょ!」
俺は木刀を取る。
(つよく・・・踏み込む・・・ギリギリで!)
パシンパシン!
俺はメルフィーの連続の剣劇をいなしながらどこで反撃するか考える・・・今までは、反撃してもそれをかわされ逆に負けていた。
なら・・・つよく、踏み込む!
「でやっ!」
俺はメルフィーの木刀を右へ弾き、そのまま体を回転させる。
そして、顔だけがメルフィーをとらえたとき、俺は右足を一歩踏み込んで首筋に木刀を・・・
バシッ!
「うそ・・・」
つきつけられなかった。
俺の右手首をメルフィーが掴んでいて、木刀はメルフィーに当たるどころか、人が一人入れそうなくらい間があいて止まっていた。
「惜しかったわね」
「くっそー!どうしてだ!?踏み込みが足りないのか・・・?」
「今の踏み込みは良かったわ。でも、私の『経験』がものをいった。つまり、経験はこういうときに役に立つの。前にも同じような動きをした敵がいたりして、どうすればかわせるか・・・それを考えられるのが経験のメリットね」
「くっそ。そればっかりはすぐにはどうにもならないか・・・」
「とりあえず、剣はかなり慣れてきたわ。今日一日で驚異的に」
「・・・むぅ」
俺は経験について考えていた。剣道もやってなかったし、喧嘩なんてちっともしたことない。
スポーツが得意でも、戦うとなると経験は皆無・・・どうしたものかなぁ。
「ま、今日はこのあたりでお開きにしましょう」
「そうだね。そろそろ夕飯だし」
「さっさと行くわよ?」
「あいあい」
俺はメルフィーの横について歩く。ずっと考えているけど・・・やっぱり経験は無理か・・・
(いや、待てよ?兵士を相手に稽古したり、メシフィアやレイナに協力を頼めばかなりの経験が・・・でも、しょっちゅう稽古してて、いざってときに疲れてたらマズいし・・・やっぱりメルフィーだけにしておくか・・・)
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
いきなり城に啓太の声が響いた。
朝からうるさい。いい近所迷惑だ。
「どうした?」
「いやでも、なんで俺が・・・?」
「何を言うか。今では大陸最強とまで言われるおぬしが」
「そうなんですか?」
「ああ。そこで、この縁談を持ち掛けた」
「・・・うぅ。でも、こんな戦争中ですし・・・」
「戦争中だからこそ良い。幸せな朗報は、国民の、戦争で傷んだ心を少し癒してくれる」
「それって根本的解決になってないです。王がやるべきなのは、一刻もはやく戦争を終結させることでは・・・」
「私が相手では、不満なのですか・・・?」
「う・・・」
王の隣にいる、娘サン。プリンセスだよ、オイ。
「ふ、不満とかじゃなくて・・・ホラ、俺はいつか自分の世界に帰るかもしれないんですよ?そんな俺を・・・」
「それを了承した上で、娘は良いといっておるのだ。惚れられておるな?」
「イヤですわ。そのような事言わなくても・・・」
娘さんはポッと頬をあからめている。
(あちゃ・・・本気かよ・・・)
別に娘さんが嫌いなワケじゃない。むしろ、俺の好みに入る。
可憐で、おしとやかで、やさしくて、気配りができて・・・
でも、時折重圧に苦しんでいるような顔も見せるから、ささえになりたいと思ったこともあった。
このあいだの会議のときだが。
「それに、こういうのも気が引けるが、正直元の世界に帰れる可能性は皆無なのだろう?」
王がサラッと言う。どこのあたりで気が引けているのかちっともわからないぞ?
「でも、俺は諦めたわけではありません」
「だから、この世界で身を固めておくというのも良いと思うが」
「聞けよ、人の話」
俺の言葉は完全スルーでどんどん話は進んでいく。
「娘はおぬしのことを気に入っておるし、全てを承知の上でおぬしならオッケーだと言っておるのじゃ」
「・・・」
たしかに、この世界で生きていくとして、いつ消えるかもわからないような俺を受け入れてくれる女性は、この娘サン以外にいないかもしれない。
ましてや、特別好きな女性がいない俺は下手すると、一生孤独でいるのかもしれない・・・それは勘弁だ。
(むむむむむ・・・)
「娘はもう良い年だというのに、頑なに男性を拒んでおった。おぬしが初めてなのじゃ」
「・・・うぅ」
「啓太様・・・」
「・・・」
俺と娘さんはなんとなく見つめ合ってしまった。
「・・・少し、考えさせてください」
「ふむ、よかろう。明後日までに返事をキメよ」
「・・・はい」・・・
そして、俺は部屋に帰る。
「うぅ・・・まさか、縁談を持ち込まれるなんて・・・ちっとも考えてなかった」
それに、いつのまにか大陸最強なんてついてるし。
はぁ・・・
「明後日かぁ・・・簡単には決まらないよ・・・」
俺は娘さんを思い浮べる。綺麗な顔立ちや、優しい笑顔。
普通の男ならコロッといってしまうだろうな。俺にはもったいないくらいだ。
「でも・・・結婚したら王様決定だし、そしたら当然帰るのも気が引けるだろうし・・・あぁ・・・うぅ」
俺はベットの上でのたうちまわる。
コンコン・・・
そんな悩んでいる時に、突然の訪問。
「どなた?」
「私です。シルビア・カオストロです」
「えぇ!?」
俺はいそいでドアをあける。するとそこには俺を見てお辞儀する女性が・・・。
「と、とにかく入って」
「はい」・・・
「ど、どうしたんです!?」
いきなりのプリンセスの訪問にただただ驚く俺。それに対して穏やかに椅子に座るプリンセス・シルビア。
「先程のお話で」
「ああ・・・俺もちょうど考えていたところですけど・・・って、だからって何も一人でこなくても・・・」
「迷惑でした?」
いたずらっぽくほほえむシルビア。俺が迷惑だ、と言うヤツではないことを知っているかのように・・・
(・・・ったくもう。なんでそう見透かすんだか)
「いえ、全然」
「良かった」
「ちょっと待っててください」
俺は、メルフィーが訪問してきたときに勝手に置いていったハーブティーを入れる。良い香りが部屋を包んだ。
俺はそれをシルビアにだす。
「ありがとう」
「いえ、それで・・・」
「はい、さっきの話なのですが・・・」
「・・・」
「嫌なら、断っていいのですよ?」
「・・・」
「私は確かにあなたが好きです。いえ・・・おそらく、この世で一番愛していると思います」
「・・・!」
いきなりの告白。さっきのことでそうなのだろうと思っていたが、『愛する』という言葉に重たさを感じた。
「ですから・・・私はあなたと結ばれたい。でも、それ以前にあなたを苦しめたくない・・・この世界に束縛したくはないのです」
「シルビア・・・」
「だから、あなたの思った答えを、私にください。そして・・・あなたの思うようにしてください。その姿を見るのが、私の支えになります」
「・・・俺は・・・」
心の中に、どんどん彼女が増えていく。
これが、人を愛するということなのだろうか・・・?
とても温かく・・・どこかこそばゆく・・・とても大事な気持ち・・・。
「俺は・・・!あなたが・・・好きです!」
「!!」
驚く彼女の顔。
これでいいのか?
今なら引き返せるぞ?
そうなれば俺はこの世界から帰りたくなくなってしまうぞ?
後悔しないか?
(・・・そんなことない)
俺は数々の疑問を切り捨て、彼女と向き合う。
「俺はシルビア・・・君が好きだ」
「啓太・・・様・・・!」
ガタンッ・・・
椅子から立ち上がって、飛び込んでくるように抱きついてくるシルビア。
俺はそれを受けとめ、長い、さらさらした髪の上から頭を撫でる。
「ずっと・・・こうして・・・みたかった・・・!」
シルビアの涙が俺の肩を濡らす。
そう・・・これは、プリンセスとその臣下ではなく・・・恋人同士の抱擁・・・。
「本当に、俺なんかでいいのか?いろいろ障害あるぞ?俺エクステルと人間のハーフだし」
「逆にそれは、エクステルとカオストロを結ぶ橋になるかもしれないと考えれば、悪いことではありません」
「俺はこの世界の・・・ってこれはもうわかってるんだっけ」
「ええ、あなたのことは全て・・・!」
今まで見た中で、一番嬉しそうな顔。
それがすぐ近くにある。
「そっか・・・」
「啓太様」
「なに?」
「よろしくお願いします」
「・・・こちらこそ」
お互い笑ったあと、キスをした。いわば、誓いのキスだろうか?・・・
「では、戻りますね?」
「ああ。頑張って」
「・・・明日」
「え?」
「婚約発表になると思います」
「明日!?」
なんとまぁ急に・・・。
「では」
「・・・シルビア」
「はい?」
「・・・愛してる」
「!・・・私もですよ」
そう言って、シルビアの背中を見送った。
俺はそれを見て、絶対に失いたくない・・・、そう思った。
「王、謁見をしたいという者が」
「そうか。今は偶然だが暇である。通せ」
「はっ」・・・
「お初にお目にかかります」
「そなたは?」
フードを取り、素顔を見せる男。
「オークランドからやってまいりました、マクスウェルと申します」
「マクスウェル・・・?」
「はい、実は例の鉱山で産出した鉱石なのですが・・・」
「おお、あれはエレキクルの人物が害はないと言っておったと報告されたが?」
「いえ、実はある方法で鉱石を精製すると、ある効力があることに気付きまして」
「・・・む?オークランド?オークランドは壊滅したはずでは?父様」
シルビアはいいところに気が付いた。オークランドは壊滅していた。それなのに、どうして人が?・・・
シルビア・カオストロは男を睨む。
「そう恐い顔をしないでいただきたい」
「失礼」
シルビアは顔だけゆるませる。
「して、その効力とは?」
「・・・」
男はそっと光る鉱石を取り出す。それは緑色の妖しい光を放っていた。
「父様、見てはなりません!」
シルビアが王の前に出て、その光を遮った。
シュゥゥゥ・・・
「ちっ・・・しくじったか。まぁいい王以外は操れるしな」
「な、なに・・・?」
カオストロは立ち上がりながら男を睨む。
「そこのやつ、カオストロを捕まえておけ。大事なエサだ。丁寧に扱えよ」
「了解・・・」
王の側近が、死んだ目で王を捕まえる。
「何をする!離せッ!」
「無駄だ、そいつはもう既に俺の意のままだ。ま、俺をすんなりここに入れさせたのが失敗の原因だな」
「ぐぅ・・・!どうするつもりだ!」
「なぁに、ちょっとリベンジと決着をね。あの大川と」
カインはシルビアの顔に触れて妖しく笑った。
「なに?城の様子がおかしい?」
「ああ。どうもな」
メシフィアとレイナ、アエリアとメルフィーが俺の部屋に来てそう言った。
「王と、その側近は会議にくる気配もないし、謁見の間にもいない」
「たしかに妙だな、病気とか?」
「それはない。今朝会ったときは全員元気だった」
「そうか・・・とりあえず手分けして探そう。それと、怪しげな気配を感じても、敵だとわかるまで斬らないでくれ。無駄な犠牲は避けたい」
「わかった」
おれたちは頷くと、一斉に部屋を出た・・・。
「あ、側近さんたちじゃないですか」
「・・・」
いつも王の側にいるこの人たちなら何か知ってるかも。
「・・・」
「?」
ヒュッ!
「!?」
俺はすんでの所でナイフをかわした。
{気をつけろ!操られているぞ!!}
「なんだって!?」
ヒュッ!
ヒュッ!
俺はかわしながら事情を聞く。
{これは、精神操作のたぐいだ!しかも、体に負担を感じさせないように暗示されている!}
「つまり、痛みや疲れを知らないってこと!?」
{そうだ!だが・・・!}
「?」
{王の側近がやられているということは・・・}
「あっ!!どけぇぇぇぇ!!」
俺は一つの考えに思い当り、カノンで峰打ちして側近を黙らせると、謁見の間へ急いだ。
(シルビア・・・ついでに王、無事でいてくれ!!)・・・
バタンッ!
謁見の間につくまでに、随分と側近を気絶させてなんとか辿り着いた。
「・・・!カイン!!」
王の椅子に座っていたのはカインだった。傍には・・・目が死んでいるシルビアがいた。
「シルビアッ!!」
「大丈夫、彼女は操っているだけだ」
「それのどこが大丈夫なんだ!王は!?」
「カオストロは自室に閉じこめてある。さて・・・前は不覚をとったが、今度は必ずその首を取る!」
カインは剣を抜いた。
「だったらシルビアを離せ!」
「コイツはおまえを本気にさせるために用意したエサだ。何もしないさ。ただ、おまえが負ければエレキクルに連れていくが」
「コノヤロォ・・・・!!!」
俺は地面を蹴った。
(許さねぇ・・・!)
俺の中で、怒りが渦を巻く。
「そうだ!それでいい!」
カインは剣を引き抜くと、すぐさま怒りをぶつけるようにカノンを振るった!
バキィィン!!
「ぐぅぅぅ!」
「くっ・・・!」
俺たちの力は五分。
だが、五分で勝利はありえない・・・。
目が死んでいるシルビアは、ただ二人を見ていた。
だが・・・心は動いていた。
(啓太様!くっ・・・なんで体が動かないの・・・!?)
「あああッ!!」
俺は咆哮とともにカインを吹き飛ばす!
「ぐっ!強い・・・!これがおまえの本気か!」
「でぇぇやあぁぁぁ!」
俺は乱舞剣を発動させ、それをまっすぐ振り下ろす!
「ちぃぃ!!」
カインはそれを間一髪でよける。
ズババババッ!
謁見の間の床が壊れるが気にしない。
「くそぉぉぉ!!」
俺はすぐさまカインへ飛び付く。
「きたな!」
カインはすぐさまこっちへ逆に飛んできた。
「っ!」
完全に懐を取られた!
「せいやぁぁぁっ!!」
ブスゥゥウッ・・・!
ブシャァァァァ!!
{啓太!}
「ぐっ・・・がはっ!」
俺は腹を貫かれ、その場に倒れてしまう。
(ぐ・・・ぐぞぅ!!)
痛みで身体が縮こまってしまったかのように、うずくまる。
「はぁ・・・はぁ・・・」
肩で息を整えているカイン。
「たしか、おまえは不死・・・だったはず・・・だ。だが・・・首を斬れば・・・おまえは死んだも同然・・・!」
「ぐっ・・・」
{啓太!起きろ!}
カノンの声もむなしく、俺は腕にも足にも力が入らない。
「まだだ・・・!」
「なに・・・!?」
だが、俺は気力を振り絞って立ち上がる。
「負けない・・・シルビアのためにも・・・負けられない・・・!」
俺はカノンを構える。
「なぜだ!?なぜたてる!」
「見付けたんだ・・・命をかけて、守りたいものを・・・ッ!ここで立たないで・・・なにが男だ・・・なにが愛だ・・・なにが・・・!なにが守るだ!うおぉぉぉ!!!」
俺は一気にカインに飛び付く!
「くっ!」
「うあああ!」
そのままカノンを力任せに振るった!
バキィィィ!!
金属が壊れた音。
「なっ・・・」
{け、啓太・・・!?}
カノンの形状は変わっており、黒くなめらかな剣だったのが、ところどころで剣が別れて、二つの光の玉が剣のまわりを回っていた。
そして、その剣は見事にカインの剣を砕いていた。
「ぐっ・・・!まだだ!」
俺は腹から垂れる血をおさえ、最初で最後のトドメに入る!
「くらえ・・・っ!!」
「ふっ・・・甘いわ!」
パキィィン!
「くっ・・・」
俺の握力はもう残っていなく、それを見抜かれたせいか、柄の部分でカノンを弾き飛ばされてしまった。
ブシュゥッ!
「なっ・・・!」
だが、それが一歩遅く、俺の剣劇は見事にカインをとらえていた。
だが・・・弱い・・・。
トドメにはなっていない。
「ぐっ・・・」
倒れたのは俺が先だった。
「やるな・・・だが、俺の勝ちだ」
「く・・・う・・・」
俺は弾き飛ばされた、元のツルのからまったカノンを引き抜くカインをみた。
「この剣は優れもののようだ。持って帰らせてもらう」
「・・・」
「だが、その前に・・・自分の剣の味・・・味わってみるがいい!」
カインはカノンを振り上げる。
(く・・・そ・・・)
俺は目を閉じる。
もう・・・体はピクリとも動かない。
ブシュゥゥッ・・・!!
(・・・え?)
ビチャ・・・俺の顔に、生暖かいものがくっつく。
俺はその違和感に目をあける。
「なっ・・・」
そこには驚いた顔のカイン・・・
だが、まさに目の前に一つの影があった。
そこに、カノンが突きささっていた・・・。
「・・・だい・・・じょう・・・ぶ・・・ですか?」
「その声・・・シルビア・・・!?」
「良かっ・・・た・・・」
バタッと倒れるシルビア。
「シ・・・シルビア・・・!!」
俺は限界を越えた体を無理遣りおこす。シルビアに深々と剣が刺さっている。
心臓を・・・貫かれていた。
俺はいそいでカノンを引き抜く。
「カノン!治療は!?」
{ダメだ・・・間に合わない!彼女の魂が離れていっている!}
「やってやる!」
俺はいそいでカノンの力を使う。
みるみる彼女の傷は塞がる・・・が、彼女の顔は・・・笑わない。
「・・・シルビア?おい」
俺は何度もシルビアを揺らす。
「・・・」
「ウソだよな?カノン?」
{・・・すまない}
カノンの悲痛な声が、俺の涙腺にトドメを刺した。
「ぐっ・・・う・・・!まだだ・・・!」
俺は立ち上がり、涙でにじんだ視界でカインを見る。
「まだ・・・終われない!」
憎しみ・・・怒り・・・その他いろんな感情が俺の中で爆発した。
{啓太・・・}
「うあああッ!死ねぇっ!!」
俺は一気に飛び込んだ!今まで以上の速さで。
{体は限界を越えているはず・・・!なぜこんなに動ける!?}
カノンの形状が一気に変わる。
「ちぃっ!!」
「逃がすかッ!!!」
カインが左へ移動すると、俺はすぐさまそっちへ床を蹴る!
異常な力学だ。だが、俺の何かがそれを可能としている。
バシュゥゥッ!
「ぐあッ!!」
カインを横に切り裂く。
俺はすかさずトドメをさそうと構えた。
「うあああッ!!」・・・
(ダメ!)
「・・・え?」
(私は・・・そんなあなたが好きなんじゃない!)
「シル・・・ビア・・・?」
俺の頭に、シルビアの声が響く。
(あなたは、何が目的で戦っていたの!?)
「それは・・・」
最愛の人の言葉が、熱くなっていた俺の心を冷やしていく・・・。
(無駄な犠牲をださない、そんな戦いをあなたはしていたはずよ!)
「・・・!!」
(お願いだから・・・)
「・・・」
俺は剣を下ろす・・・。カインは気絶していた。適当な布できつく縛った・・・。
「シルビア・・・シルビアァ・・・!」
俺は、倒れている彼女を抱き起こした。
「俺は・・・俺は・・・ッ!ちくしょう・・・!」
俺は、ただ泣いた。それしかできなかった。彼女の冷たい右手を握り締める。
・・・(啓太様)・・・
「え・・・?」
俺の目の前に、いつのまにか、半透明のシルビアがいた。
神秘的で・・・でも、いつもの・・・俺の大好きな笑顔を見せてくれた。
「シルビア・・・!」
(啓太様、私はいつまでも、あなたを愛していますからね?)
「シルビア・・・行くな・・・っ!」
俺はシルビアに手をのばす。
「・・・っ!」
だが、その手は虚しく空をきる。
(だから・・・忘れないでください。ただ・・・私は、それだけで満足ですから)
「行くな・・・行くなってば・・・行かないでくれ・・・っ!俺は、君が・・・っ!」
俺の手は、何度も空をきって、決して彼女を止めることはできない・・・。
・・・さよなら・・・啓太様・・・。
彼女は・・・いつもの笑顔を俺に見せて・・・
静かに消えた。
「うあ・・・ちくしょぅっ・・・!くそっ・・・!!うあああああッ!!!」
俺は悔しくて、心が砕けそうで・・・何をどうすればいいかわからなくて・・・気がつけば右手が砕けていた。
その痛みさえ、俺は感じない・・・。いや、感じられないのかもしれない・・・。
{啓太・・・今は泣け。悲しいときは泣いていい。それが・・・彼女を想う・・・ということだ}
俺はそのまま、冷たくなった彼女を抱いていた。彼女の笑顔は・・・もうない。
もう・・・微笑んではくれない彼女を抱いて・・・
だけど・・・なぜかその顔は笑顔に見えて・・・それを、守れなかったと痛感させられて・・・ただ、泣いた。
……………………………………………………………………………………………………………………………………
シルビア・カオストロ・・・カオストロ国王の娘。重圧から、周囲に滅多に心を開かなかった。ましてや、男に惹かれる事もなかった。
だが、啓太の姿を見て勇気付けられ、気がつけば啓太に心惹かれていた・・・。
永遠神剣第一位『神光』最終形態・・・普段カノンはツルのような物を巻いてある状態だが、戦闘時に戦いやすいようになめらかな形を
した剣になる。
啓太がカノンの力を無理やり引き出したせいで、カノンは早くも最終形態になった。
所々に鋭い刃に分かれ、剣の周囲に月型と太陽型の球体が飛んでいる。
この二つにはマナを常にとても多く確保しておく機能があり大きな技を出す時は、
そこからマナを使う事で軽度の、周囲のマナ消失を防ぐ。
啓太奥義『かまいたちの陣』・・・荒々しい必殺奥義。カノンを神速で振りぬき、オーラのかまいたちを発生させる。
一定範囲にある物体全ての急所を狙う。
多用しないのは、一定範囲の中に啓太も含まれていて、受けるダメージが半端ではないため。