『エクステル』編
「うぅん・・・かなり奥まできたぞ?カノン」
俺は森へと入り込んでいた。こんな森の中で、ひっそり暮らしている人たちがいるらしい。
不便極まりないな。
{そろそろみえるはずだが・・・}
「そういえば、カノンはどうしてエクステルの事を知ってるの?」
{ああ・・・俺はもともと、エクステルに預けられるはずだったからな}
どこか懐かしむような声で言うカノン。
「ふぅん・・・じゃぁ、会いたい人っていうのも?」
{ああ。なつかしいな・・・}
「・・・ん?」
俺はパッと開けたところにでた・・・。
「あれは?」
真っ正面に、木の門がある。
といっても、二本の柱がたっているだけの簡素なものだ。
{あれが入り口だ}
「・・・む、中から誰かでてきたぞ?」
コツコツ・・・
出てきたのは、背中に四枚の大きな白い翼をつけ・・・髭をたっぷりのばした老人だった。
「お久しぶりです。カノン」
いきなり剣にあいさつした。
{久しぶりだな。相変わらずか?}
「ええ。良い意味でも悪い意味でも」
{・・・事情は中で話さないか?}
「ええ。そうですね・・・啓太さん・・・といいましたね?」
「あ、はい」
完全に置いていかれていた俺を呼んでくれた。
ちょっと安心。
「詳しい話は中で聞きましょう。では」
「あ、はい」
俺は中へと入っていく。
通りすがる人が俺のことをジロジロ見る。
イヤな視線で・・・。
『オイ、人間だぞ?』
『なんで人間なんかが・・・』
『いや、みろ。カノン様を持っているぞ?』
『長老も招き入れるくらいだ。普通の人間ではないのだろう。噂になっている、異世界からの訪問者だろう』・・・
俺はある家に通された。
「まぁかけたまえ」
「あ、はい・・・」
俺は勧められるままに椅子にこしかける。
「実は・・・」
俺は事情を話し始めた・・・。
「そうでしたか・・・あなたに翼が・・・」
「はい。それで、カノンに手がかりを聞いたら、ここだと言われて・・・」
「たしかに、あなたのその翼は我々『エクステル』と同じもののようですな」
「そうですか・・・あれ?」
{どうした?}
「ってことは、俺はエクステル種族なんだよね?」
{そうなるな}
「でも、俺の元いた『世界』にはエクステルって種族どころか、翼の生えてる人なんていなかったらしいぞ?っていうか、それはおまえが教えてくれたんだろうが」
記憶喪失のためなのかどうも曖昧になっている。
{・・・どういうことだろうか?長老}
「・・・啓太さん、君のお父さんとお母さんの名前は?」
「父が大川健司で、母は・・・確か、結婚するまえはミネラ・ベネンダってはずです」
曖昧な記憶をひっぱった。
どうやら、記憶を失う前の俺が、メシフィアさんとメルフィーさんに家族の事を話していたようで、二人に聞いて、俺は両親の名前を知ることができた。
だけど、本当にそうかはわからない。
「ミネラ・・・ベネンダ・・・か」
{・・・やはりか}
「え?」
「ミネラ・ベネンダ・・・それは、我々の中で、唯一異端者だったエクステルと言ってもいいでしょう」
「・・・」
異端者って、どういう意味だっけ?
いい意味じゃなかった気がしたけど・・・
「・・・昔は、人間もエクステルも、種族を超えて仲良くしていました」
突然昔話を始める長老さん。
「・・・」
「でも、あなたもさっき知ったとおり、今の、我々と人間の間には憎しみしかありません」
「・・・何があったんです?」
「・・・『天使狩り』」
「え?」
{数で圧倒的に有利になった人間は、愚かにもエクステルを奴隷として捕獲するようになったんだ。その活動のことを『天使狩り』と呼んでいる}
「エクステルを・・・奴隷に?」
「はい・・・我々の力の強さをしった彼らは、私たちを使役しようと捕まえ、逆らった時には殺されたりしました」
長老は悲痛な顔をする。昔の話でも、心の枷となって残っているのだろう。
仲良くやってきた人間に裏切られた時の気持ち・・・
仲間を殺された時の気持ち・・・。
エクステルが人間と変わらないのなら、戦えない人や、戦いたくない人もいたはずだ・・・。
だが、きっと『エクステル』というだけで誰彼かまわず連れ去って行ったのだろう。
「・・・」
「そして、生き残ったエクステルで作ったのがこの場所です」
「・・・それで、なぜ母さんが?」
「・・・彼女は、我々が人間を憎む中で、唯一人間を愛することを忘れなかったエクステルだったのです」
「・・・」
「そして、彼女は未だに天使狩りを止めようとしない人間のトコロへ、説得にいきました」
「そんなむちゃな!」
「・・・その通り。彼女は帰ってくることはなかった。ですが、それは一人の男と一緒に・・・だったのです」
「・・・父さんか」
「はい。昔の頃から、たびたびあなたのような人がこの世界にやってきました。そして、あなたのお父さんは、ミネラと一緒に事故で異世界へ飛ばされてしまった。お父さんにとっては戻れた、というのが正解でしょうけど」
「・・・」
「そこから先はわかりません。ですが・・・そうすると、あなたはエクステルと人間のハーフということになりますね」
「・・・俺が」
「我々の翼は4枚。あなたは2枚・・・細かいところでハーフとしてあらわれてますね」
「なるほど・・・そういえば、俺の記憶は・・・」
「・・・記憶再発の秘儀があります」
「それを使えば・・・」
{だが、秘儀には相当の準備期間が必要だったはずだ。たしか・・・数週間}
「そうです。ですから、その間この場所に滞在していただくことになりますが」
「もちろん。そちらがお気を悪くされないなら。俺はこのためにきたんですから」
断るはずがない。記憶を取り戻しに、ここへ来たのだから。
「わかりました。では、部屋にご案内します」・・・
俺はこの場所を歩き回る。ときどき挨拶してくれるエクステルもいたりして、ちょっとうれしかったりするが、ちっとも記憶は戻らない。
といっても昨日の今日じゃ何も変わらないか・・・。
(そういえば、メシフィアさんとメルフィーさんとレイナさんはどうしてるだろうなぁ)
俺は湖を眺めながら、勝手に出てきてしまった国を想う。
あの三人なら大丈夫だろうけど・・・。
「しかし、平和だな」
{そうだな}
ここのエクステルはみんな笑顔だ。それも、少しの曇りもない・・・。
「天使狩り・・・か。なんだか大変なことがあったみたいだね」
{ああ。何百人と殺されたからな・・・場合によっては、夫婦の仲を引き裂かれたり、死ぬまでコキ使われたり・・・}
そこから先は、俺にはわからない。いや、経験してもいない俺がどうこう言える事件ではない。
軽々しく思ってはいけないのだ。
だけど・・・それが、どれだけ辛い出来事か、想像する事ができた。
「・・・そんな事件って、どこにでもあるんだね」
{ん?おまえの世界でもあったのか?}
「ああ。人種によって、理由もよくわからない大量虐殺や、奴隷として値段をつけられて売られたり・・・その人種だってだけで刑務所へ入れられたりね」
{そうか・・・}
「だから・・・大人は嫌なんだ」
{ん?なにかあったのか?}
「・・・長老さんには言わなかったけど、ホラ、俺の両親のこと」
{ああ・・・確か、生き別れたんだっけな}
「そーゆートコとかさ。うんざりっていうか・・・そんなもんだよなってカンジがどうしてもあるんだよな」
{15才のガキが何を言うか}
「わかってるよ・・・でも、大人はどうしても嫌いなんだよ」
{・・・まぁ、いいけどな。だが、そうするとあの3人は大人にはいるぞ?}
「・・・そうなのか?」
{おまえこそ、偏見をもたないように心がけるなら、そーゆーところを直した方がいいかもしれんな。偏見はダメだとわかっていても、おまえのように嫌いなものを一塊でみている・・・偽善だろ}
「・・・ほっといてくれ。んなこたぁ俺が一番よくわかってるよ」
俺はプイッと空を向く。
木々の間から、暖かい光が漏れてくる。
木漏れ日というやつか?・・・
「・・・」
俺は平たい石を見付けた。
「なぁカノン。この湖って石投げ入れても大丈夫?」
{別に大丈夫だろう。何をするつもりだ?}
「まぁみてなって」
俺は石を水平に構えると、おもいっきり回転させて投げた。
ヒュッ!パシッ!パシッ!パシッパシパシパシッ!パシッパシッパシッパシパシパシトポン・・・
「結構いけたか?」
石は10回程度跳ねると、湖に沈んだ。
{ほほぅ、おもしろい技をもっているな?}
「激流の川とかで成功させるのが結構難しいんだ。ここは穏やかだったし」
「すごーい・・・」
「ん?」
かわいらしいお客さんがいた。エクステルの人だ。年は俺と同じくらいか少し下の女性・・・。
「今の、どうやるの?」
「教えてほしい?」
俺はいたずらっぽく笑う。
「む・・・自分でやってみる」
「おう、そうかそうか」
少女はムキになって、石を拾う。
(ダメなんだよ、そんなゴツゴツした石じゃ)
ヒュ!ドポン!
少女が投げた石は弾むことなく沈んだ。
「あ、あれ?」
「今のは石が悪かったね」
「石?」
「そう。たとえば・・・こんな石だといいんだよ」
俺は平たい石を取る。
「はい、コレ」
俺はもう一つ拾って、それを渡す。
「んで、水面に水平になるように投げる。このとき、石は水平に回転させるといい」
俺は石を投げる。
ヒュッ!パシッパシッパシッ・・・
「なるほど。よぉし・・・えいっ!」
ヒュッ!パシッパシッパシッパシッ!
「おお!うまい!」
初めて投げたにしては上出来すぎる。結構器用だな、コイツ。
「やった!できたよ!」
「初めてにしては上出来だね。ま、俺にはまだまだ及ばないけど」
「なにをっ!すぐに追い抜いてあげるんだから!」
「ははっ、楽しみにしてるさ」
「む〜・・・あ、そうだ。ボクはアエリア。アエリア・S・オーカワっていうんだ」
「オーカワ・・・?偶然・・・だよな。俺は大川啓太」
「啓太・・・もしかして、カオストロの・・・?」
「ああ、よく知ってるね。つい最近までお世話になってた」
「君がそうなんだ・・・へぇ」
「意外?」
俺のことを舐め回すようにジロジロ見る。だが、不思議と嫌な感じがしなかった。
親しみを持ってくれている目だからだろう。
「弱そうだなって」
「・・・そう」
俺はちょっと落ち込んだ。そりゃ・・・仕方ないんだけどさ。
こう・・・正直に言われると、マイハートがブレイクって感じ。
「そういえば、君もエクステルなんだよね?」
「俺はハーフだから。人間とエクステルの」
「え?ハーフ?」
「そ。だから普段翼はないし、あっても2枚なんだ」
「そっか・・・そういえば、なんでここに?」
何かを思うように俺と話す少女。
「俺・・・記憶がないんだよね」
「記憶?」
「この世界に来るまでの経緯とか・・・そして、来てから俺が何をしていたかを聞いたんだけど、どれも身に覚えがなくて・・・だから、記憶を取り戻したくて俺は来たんだ。ここに」
「ふぅん・・・?」
いきなりの俺の言葉に訝しげになる顔。だから、俺はつけ足した。
「そしたら、長老さんがなんとかしてくれるみたいだし」
「良かったね!」
まるで我が事のように喜んでくれるアエリア。なんだか不思議と俺の顔も笑顔になる。
「ああ!」
「でも・・・そしたら、帰っちゃうの?」
「・・・そうだね。置いてきちゃった3人も気になるし・・・なにより、理想を実現させるためにがんばらなくちゃ。レイナもそのために一緒にいるんだろうし」
「レイナ?」
「あと、メシフィアとメルフィー。その3人が、俺が国に置いてきてしまった人」
「全員女の人なんだ」
「男もいるぞ?王だけど」
「王様?」
「基本は良い人であるけど、結構腹黒いんだな。これが」
「イヤな王様?」
「・・・まだ信用はできないかな」
正直言って、全てを俺に明かしているとは思えない。
少ししか覚えていないが、それでもあのイヤな笑いを思い出してしまう。
「・・・そっか。帰っちゃうのか」
いきなり大人っぽい顔をするアエリア・・・。
どうしたんだろう?
「大丈夫。国に帰って一段落したら、またくるよ」
「本当?」
「・・・死んでるかもしれないけど」
いや、冗談抜きで。兄貴強いからなぁ。
「・・・じゃぁ」
「うん?」
ドゴォォォォン!!!!
「「!?」」
いきなり爆発音が聞こえた。音からしてかなり大規模・・・。嫌な予感が俺を襲った。
「戻るぞ!アエリア!」
「う、うん!」・・・
「!?」
ゴォォォォ・・・
森が燃えている・・・。
「そんな・・・なんで・・・!」
アエリアはあまりの出来事に、ガクッと膝をついてしまう。俺も、体が震えるほどのなにかを感じていた。
立ち尽くす・・・とはこういう事を言うのだろう。まるで現実ではないように思えてくる。
いったい・・・どうして!?
「誰か!誰かいませんか!?」
俺は燃え盛る森に叫ぶ。生存者がいるかもしれない。
{大丈夫だ}
「え?」
{エクステルの生き残りは、全員別の場所に避難している}
「良かった・・・」
{もちろん・・・半分くらいは殺されたがな}
「・・・あ」
俺は、あちこちに白い羽が落ちているのをみつけた。
そして、それは炎の中へと入っていく・・・。
それを見て、俺の右手には力がこもる。
「誰か・・・いるのか?」
{ああ・・・それも、相当なヤツがな}
「・・・そうか」
俺はカノンを構える。どうやるか知らないはずなのに、カノンは変形した。
「・・・アエリア」
「・・・」
黙って炎を見ているアエリアに呼び掛ける。
「ある程度は無事らしい。方角はここから東。そこに避難してろ」
「え?でも・・・」
「俺はもーすこし生存者を探す。ちゃんと避難してろよ!」
俺はその場にアエリアを置いて、走った・・・。
「・・・」
いた。倒れているエクステルの側に立っている。
手には、何十人と斬ったであろう、血にまみれた剣が握られていた。
「おまえか・・・!」
「!?」
振り向きざまに驚く相手。
「なぜ貴様がここにいる?」
「・・・?俺がいるとおかしいか?」
「貴様はカオストロ城にいるはず」
「・・・ああ、ちょっとわけありでね。というか、なぜ俺を知っている?」
「重要人物だからな。カオストロを制圧するうえで・・・だが」
「・・・エレキクルか」
「そうだ。エレキクル特殊任務部隊隊長・・・マクスウェル・カインだ。以後よろしくたのむ」
「そうか。なら・・・この森もおまえか!」
「ああ。エクステルは戦闘に長けているからな。協力を仰ごうとしたのだが、拒否された。上からは、拒否されれば実力行使しろと言われているからな」
「そんな・・・そんなくだらない理由で・・・戦いたくない人を巻き込むのか!」
「くだらなくなどない。おまえも知っているだろう?わが国の状況を」
「それは・・・」
聞いた。
貧しく、国民を守るために他国と同盟しようとしたが、全て拒否され、最後の手段・・・侵略に手を染めた悲しい国・・・。
「だからって・・・こんなこと許してたまるかっ!」
「許されるつもりなどない。だが、貴様も同罪だということを忘れるな」
「なにっ・・・!?」
「戦争に加担したものは、戦果、地位、その他もろもろに関係なく、『戦争』をしているのだ!いくら偽善を振るおうと、いくら人を殺さないように努力しようと、相手の国を、守るものを苦しめていることにかわりはない!」
「・・・っ!」
「それが『戦争』だ。同じ戦争をしているやつに説教される筋合いなどないッ!」
「・・・」
「悪いが・・・死んでもらう」
「・・・わかった」
俺はカノンを構える。といっても、片手では普通に戦っても勝てないぞ・・・?
「はぁぁっ!!」
相手が一気につめてきた。
キィン!
俺はそれをカノンで受けとめる。
「でぇい!」
俺は目一杯弾き返す。相手の腹に隙ができた。
俺はそこに切り込もうと一歩出る。
しかし・・・
「甘いッ!!」
「!?」
ふっと俺の目の前をなにかが通った。
ブシュゥッ!
「ぐあっ!!」
俺は吹き飛ばされた。カノンで弾け飛んだ剣を円運動で回し、俺を下から切り上げたのだった。
片手で、しかも攻撃しようとしていた俺に防ぐことはできなかった。
「ぐ・・・あ・・・」
腹から肩にかけて大きく裂かれている。ドクドクと血が止まらない。
「ぐっ・・・」
俺は立ち上がる。
こんな簡単に終わってたまるか・・・!
「ほぅ、一撃で仕留められないとは・・・」
俺が立ち上がるのを見て感心した顔をするカイン・・・うざい。
「ならば、次で終わりだ!」
「!?」
一瞬で視界から消えるカイン。
「こっちだ!」
「!?」
俺が振り向こうとする・・・が、体は動かなかった。
ブシュゥゥウッ!
勢い良く血が吹き出した。
「ぐっ・・・あっ」
俺はうつぶせに倒れてしまう。カインは俺の左方向からきて、一気に俺を真横に引き裂きながら、右方向へと走っていった。
「ぐっ・・・ぅぅ・・・」
(強い・・・!殺される・・・ッ!!)
俺は立とうとするが、ちっとも膝に力が入らない。顔をあげているだけで精一杯だった。
「既に虫の息か・・・安心しろ。今終わりにしてやる」
カインは剣を振り上げる。
俺の首を狙っている・・・。
「く・・・そぉぉぉ・・・!」
「終わりだッ!」
剣が勢いよく振り下ろされる。
(終わり・・・なのか!?まだ・・・俺は・・・)
ヒュッ!!
なにかが俺とカインの間に入った。人一人がギリギリ入れるくらいの間に・・・。
バチィィィィン!!
プスッ!
カインの剣は弾き飛ばされ、地面に刺さった。
「なに!?」
ズドォォォォ!
いきなりカインの腹に竜巻が直撃し、遠くの木まで吹き飛ばす。
「い・・・いったい・・・?」
俺は霞む目で間に入ったものを見る。
「大丈夫?」
「君は・・・アエリア?」
「今治療するから。動かないで」
「ダメだ・・・逃げろ・・・まだあいつは・・・」
「邪魔だッ!」
アエリアの後ろに、カインがいた。剣を振りかぶっている。
「逃げろっ・・・!」
「大丈夫」
ズゴォォォォ!!
「っ!?」
カインを飲み込むほどの光が、カインを吹き飛ばした。
「大丈夫かい?」
「ちょ、長老さん・・・」
「長老さんにアエリア・・・どうしてここへ?」
俺は、治療してもらったおかげで動けるようになる。
「アエリアが、君の事を教えてくれてね。もしかしたらと思ったんだが・・・予想どおりだった」
「あいつは・・・」
「もう逃げました」
アエリアがこたえてくれた。自信あるみたいだし、もう大丈夫だろう。
「ふぅ・・・死ぬところだった」
「普通は死んでるよ!」
「そうか?まぁ無事だったし。助かったよ、アエリア」
「ホントに心配したんだから!もう!」
「あはは。ゴメンゴメン」
「おや、二人はいつからそんな仲良しに?」
「ついさっきですよ。ところで長老・・・森は・・・」
俺は、燃えて黒くなってしまった森を見る。
「・・・ええ。全焼はまぬがれましたが、かなりの範囲が焼かれました」
「そうですか・・・」
「エレキクル・・・我々に力を求めてくるということは、余程余力がないということ。だが、あのような強い輩は残っている・・・」
「・・・」
(兄貴とかね)
俺は心の中でそうつけ足した。
「我々は戦争に協力できません。ですが、お願いします。戦争を・・・終わらせてください」
「長老・・・俺に・・・できるんでしょうか?」
「・・・ええ。必ず。なにより・・・あなたは人間とエクステルを再び結びつける懸け橋になるかもしれないのですから」
「・・・」
「ねぇ・・・啓太」
「うん?」
「・・・ボクもついていっちゃダメかな?カオストロに」
「「!?」」
俺と長老は同じようにビックリした。
「何を言い出すんだ?」
「だって、啓太は人間とエクステルの懸け橋になるかもしれないんでしょ?」
「・・・」
「だったら、ボクも手伝いたい。人間とエクステルがいつまでも憎みあうなんて・・・もうイヤなの」
「アエリア・・・」
「だから、まずはエクステルから歩み寄っていかないと、余計に距離は離れちゃうと思う。だから・・・お願い」
(うっ・・・なんでかわかんないけど、涙目の上目遣いってなんかキツいな。精神的に)
「・・・いいでしょう」
「長老さん!?」
「啓太さん、この子を連れていってくれませんか?」
「・・・でも、人間とエクステルが憎みあっているなら、会わせるわけには・・・何があるかわからないですし」
あの王様なんか特に。寝込みを襲ったり、勝手にギロチンにかけたりしかけないぞ?
「危険なのはこの子も私も承知です。ですが、私は思ってしまうのです。アエリアが、この役には適役だと」
「・・・」
「それに、この子はこれでもかなりのやり手です。足手まといにもならないでしょうし」
「・・・長老さん、いいんですか?」
「お願いします」
「お願い!啓太」
「・・・わかったよ。ただし、あまりにもあっちの応対がわるかったら、問答無用で返すからな?」
「ありがとう!」
「ぎゃっ!」
俺はおもいきり抱きつかれた。腕にあたる胸の感触は悪くないかな、まだまだ足りないけど・・・っとと。
「でも、それはまだあとだからな?」
俺はくっついてるアエリアを剥がしながら言う。
「わかってるって。記憶が戻ってからでしょ?」
「そうだ。それまでは待ってくれよな」
「そのくらいならね。カオストロかぁ、どんなとこなのかなぁ?」
ルンルン気分の彼女を見ていると、俺まで楽しく・・・
なるかぁッ!不安になる。
「・・・長老サン」
「なんですか?」
「もしかして・・・彼女、カオストロに行きたかっただけとか?」
「違いますよ。理由は二つです。一つはさっき彼女が言ったとおり・・・。もう一つは・・・秘密ですよ」
長老さんは、結構なトシのはずなのに、いたずらっぽく笑った。
「??」
そんな長老の態度もあってか、俺が二つ目の理由を知ることはなかった。
数週間後・・・
「いいですか」
「はい」
俺は魔法陣の中心にいた。とうとうこれから記憶再発の儀式だ。
「・・・」
長老は静かになにかを唱え始める。同時に、床にかかれた魔法陣が光りだす。
「・・・」
俺の頭になにかが流れこんでくる・・・。
{・・・どうだ?}
「うん・・・不思議なカンジ・・・今なら・・・全てがわかるよ」
俺の頭に、いろいろな出来事が入ってくる。
メシフィアに殺されたり(笑)・・・笑えねーよ。
兄貴と再会したり・・・
「・・・終わりました」
魔法陣が消滅した。俺はゆっくり目をあけた。
「記憶はどうです?」
「バッチリです。全て・・・思い出せた気がします」
「・・・すいません。まだ、少し足りません」
「え?」
「もとの記憶の中で、強く閉ざされた部分がありました。とりあえず、閉ざされたまま記憶は戻ったはずですが、中身はわかりませんでした」
「・・・閉ざされた?覚えがないな・・・」
「何があるかわかりません。気に留めておいてください」
「はい」
「おーい!終わった!?」
ガチャっといきなり入ってきたアエリア。やたら焦っている。
「大変なんだよ!」
「え?何が?」
「今、カオストロがエレキクルに襲撃されてるの!」
「なんだって!?」
「おそらく、カインでしょう。あなたがここにいることを知って、今が好機とばかりに・・・」
長老の意見に、賛成したくないが・・・その通りのようだ。
「あ、そうでした」
長老に・・・手を渡された。
「な、なんですか!?コレ!?誰かの手!?」
俺はおもわず引いてしまう。
「違いますよ。術をほどこした左腕・・・あなたのです」
「あ・・・」
俺は思わず、ない左腕を見る。
「これなら、以前の腕のように動かせるはずです」
「・・・」
俺の左腕が、久しぶりに完全に戻った。俺は左手を開閉してみる。・・・違和感がない。
「ありがとうございます!」
「いえ、私もあなたに期待している一人ですから。ホラ」
「・・・わっ」
後ろには、いつのまにか生き残ったエクステルが全員来ていた。
「がんばってくださいね!」
「応援してますから!」
「・・・ありがとう!」
「さっ、急ごう?啓太」
俺は差し出されたアエリアの手をとる。
「いってきます!」
『またね!』
エクステルに見送られながら、俺とアエリアは森から出た。
「啓太、力を抜いて」
「え?ああ・・・」
俺は突然肩に置かれた手に驚きながらも、力を抜く。
「空飛んでいくからね?」
「空?」
フワッ・・・
いきなり体が浮いていく。肩を持たれて、服が上がり、背中が見える。
何が言いたいかというと、すごく格好悪いうえに恥ずかしい。
「こ、これは!?」
「暴れないで!いそいで向かうからね!」
「うぉぉぉぉぉ!!?」
俺は、アエリアがいきなり高速で飛び始めたので、つい叫んでしまった。風の音でアエリアと会話することもできない。
(無事でいてくれよ・・・みんな!)
「あっ」
「え?」
俺は気付くと、宙に放り出されていた。
「なんでだぁぁぁぁぁ!!?死ぬゥゥゥゥ!!」
「下手に力まないでよっ!!重くなるでしょ!?」
落下していく俺を追い掛けながら叫ぶアエリア。・・・
『カオストロ』へ・・・
「第3部隊は前進!」
「了解!」
メシフィアの指示で部隊が動く。
「せいっ!」
部隊の最前線で輝く戦士が一人・・・レイナだ。
「無駄死したくないなら、退きなさい!!」
「な、なんだコイツ!?異様に強いぞ!?」
一般兵たちは、その一声でびびり、下がっていく。
「うひゃぁ、男が引いていくよ?」
それをちゃかすのはメルフィー。
「その引くではなりません。身体的な『退く』です」
冷静に突っ込むレイナ。二人とも、最前線だというのにのんきなものだ。
「しかし、どうしますか?」
「どうしますって言われても・・・戦う、としか言えないわね」
カオストロ軍は3万。それに対しエレキクルは15万らしい。戦争の一戦での勝敗はどう決まるか・・・
それは、初めにあった軍力が、9割以下になってしまった場合らしい。
3万で行なう作戦は、2万5千では行なえない。よって、負けとなる。
だが、指揮官が優秀な場合、散り散りになってしまった部隊の再編、指揮系統の回復が早く、別の作戦を取り、逆転することもあるそうだ。
だが、今回はその程度で済む問題ではない。
戦力比は1:5なのだ。兵がすくない方の受ける攻撃、兵一人当たりは相手の兵の2乗らしい。
「長い説明アリガト。とにかく、超やばいってことね!」
「とにかく、ここを突破されるわけにはいかないんです!巧く戦って敵の撤退を誘うしかないです!」
「そうね・・・相手は彼がいないことを知らないはずだし」
「啓太さん・・・間に合いそうですか?」
「音沙汰不明だったし、正直今日かえってくるとは思えないわ・・・ああ、もう!うっとうしいわよ!!」
バシュッ!
二人とも、これだけ話しながら、自分に斬り掛かってくる敵だけを巧みに倒していく。
「なら、やるしかないですね!」
「そうね!なんとか・・・してみせないと・・・彼に笑われるしね!」
「被害状況は!?」
「第1部隊、第5部隊は全滅!第8部隊からは救援要請がきています!」
「救援なんかできないぞ・・・どうする!?」
メシフィアは焦る。こちらがうまく戦っている。それは確かだ・・・。
でも、なぜ撤退をしないのだろう?相手も既にかなり疲弊しているはずなのに・・・
まるで、今、彼がいないと知っているかのように・・・。
「・・・」
メシフィアは頭を振って、余計な考えを消す。
今は敵を撤退させることが最優先。
「・・・かといって、一番激戦区にいるメルフィーとレイナは外せない・・・だとしたらどこの部隊が救援にいける・・・?」
「た、隊長!」
別の兵士がやってきた。
「どうした!?」
「更に第2部隊、第6部隊全滅です!敵のねらいは・・・!」
「そうか!今頃になって気付くとは・・・!」
こっちは、第1から第8部隊まで展開していた。それが、両サイドの部隊が全滅していっている・・・
それは、つまり・・・激戦区の第3、4部隊を取り囲む作戦だ。四方から攻撃されれば、メルフィーたちでさえ危ない。
「くっ・・・潮時か・・・?」
「隊長・・・」
これ以上戦っても勝てはしない・・・撤退するのが最善・・・。
(すまない、ケイタ・・・守りきれなかった・・・)
メシフィアがそれを兵士に伝えようと口を開いたとき・・・
「・・・ぁぁぁぁ!!!」
「?なにか聞こえなかったか?」
「誰かの悲鳴のような声が聞こえましたが・・・」
「なんだ?すまない。少し様子を見てくる」
「ええ」
「くっ!敵はこれがねらいだったのね!」
既に3方は囲まれた。
「まさか、敵の指揮官がこれほど優秀とは・・・侮りました!」
「レイナ!まだがんばれる!?」
「私は・・・でも、兵はかなり疲弊しています!」
「・・・メシフィアはどうするつもりなのかしら!?」
その時・・・
「・・・・ぁぁぁぁ!!!」
「何かしら、今の声?」
「さぁ・・・?」
「・・・ああぁぁぁぁ!!!!」
「ちょっと、どんどん大きくなってくるわ」
「それに・・・どこかで聞いたような・・・」
「二人とも!」
メシフィアもやってきた。もちろん、敵を切り裂いて。
「メシフィアも来たの?」
「ええ・・・」
「何の声なのでしょう?」
「・・あああああ!!!」
「空?」
3人は空から声が聞こえた気がして、空を見上げる。すると、二つの黒い影が落ちてくる。少し前方・・・敵の真ん中に落ちるようだ。
「隕石?」
「喋る隕石ですか?啓太さんにあげたら喜びそうですね」
「うまく敵を一掃してくれ」
メシフィアは隕石?に向かって祈りを捧げる。
「メシフィア、他力本願なの?」
「・・・落ちるぞ?」
黒い物体が地面に落ちる・・・・!
「ああああああああああああああ!!!!」
ズドォォォォォォォン!!!
黒い物体が落ちると同時に、ものすごい叫びと煙が襲ってきた。
「くっ・・・」
3人は砂煙を防ぐため目を閉じる。
(それにしても・・・今の声・・・どこかで)
メシフィアは喉まででている声の主を思い出せずにいた。・・・
『啓太ァァァ!』
「・・・啓太?」
知らない女性の声が、啓太と呼んだ。
「・・・ケイタ・・・なのか!?」
砂煙がおさまる。3人は目をあけるが、そこには呆然と落下地点を見ている敵しかいない。
「今、ケイタって聞こえた」
「私もだけど・・・啓太って、あの啓太?」
「啓太さんは一人しかいないはずですけど・・・」
遠くで声が聞こえる。これだけの人がいるのに、たった二人の話し声しかしないというのは非常に珍しい。
『いつつ・・・』
『啓太、大丈夫だった!?』
『なんとか・・・ったく。アエリア!いきなり俺を落とすな!』
なんとか・・・で済む高さだったろうか?だが、その疑問を問う人間などいない。
『うぅ・・・だって、啓太が「あそこだっ!」とか言ってカノン様取り出してリキむから』
『・・・それに、どうやら敵陣の真ん中に落ちちゃったみたいだし・・・』
アエリアの苦情を無視して状況を整理する。
『話逸らさないでよ』
『い・い・か・ら!』
『どうするの?』
しぶしぶ真面目になるアエリア。
『・・・やるしかないだろう?』
『吹き飛ばすだけだよね?』
『ああ、殺さないで。ただ、撤退させればいいんだから』
『了解 』・・・
ズバァァァァン!!
いきなり轟音が響いた。
「な、なんかわからないけど、暴れだしたみたいですね!」
「害はこっちにはないみたいだし、一気にキメるわよ!?」
「了解!」・・・
しばらくして、カオストロの優勢にかわる。空からの敵の奇襲(?)という初めての作戦に、敵はうつすべもなかった。
しかも、その落ちてきた人物が強ければなおさらのこと・・・。
こうして、最大のピンチを迎えたカオストロはなんとか乗り切ったのだった。
「ケイタ!」
「久しぶり!メシフィア!」
俺は走ってきたメシフィアを抱きとめる。
「無事だったんだ」
「当たり前だ。あのくらいで倒されやしない」
「よく言うわねぇ。ついさっきまですっごく悲しい顔してたくせに。あぁ、もうケイタに会えないって。それなのに、今じゃすっごくうれしそうだもの」
「メシフィアさんはよっぽど啓太さんが好きなんですね」
「あ、いや、それは・・・」
慌てて俺から離れるメシフィア。
その変わらない三人の様子につい笑みがこぼれた。
「二人も相変わらずでなにより」
「あからさまについでね。でも、まあね」
「啓太さんも無事で良かったです」
「ねぇ啓太ぁ」
袖をひっぱるな、袖を。
「ん?その子は?」
「えっと・・・エクステルのアエリア・S・オーカワ」
俺はアエリアの背中を押して前に出した。
「よろしく!」
「これはまたカワイイ子を口説いてきたのね。メシフィア再びピンチ」
「メルフィー・・・!」
「あははっ。真っ赤になっちゃって。メシフィアも十分カワイイから大丈夫よ」
そんな二人を尻目に、レイナは聞いてきた。
「エクステル・・・私は別に大丈夫ですが、王はどうなのでしょう?危険なのでは?」
「大丈夫。彼女は強いし。な?」
「うん!」
そんな元気いっぱいに答えなくてもいいけど。
「それに、いざとなったら俺が守ればいいんじゃない?」
「そうですね。ふとんとかにすると温かそうだし」
「・・・え?」
今、さらっと変な事を言ったよな?絶対言ったよな?
「なんでもないですよ。それじゃ、私たちも撤退しましょうか」
「そうだね。おーい、メシフィア、メルフィー、いくぞ?」
「あ、わかった!」
「逃げるなメシフィア」
(やれやれ・・・)
こうして、俺は再び戻ってきた。一人の新しい仲間を加えて・・・。
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マクスウェル・カイン・・・エレキクルの特殊任務部隊隊長。忠誠に厚いが、非情な手段を使う事が多い。
エレキクルのナンバー3の実力を持っている。同じ事をしているくせに、
自分は違うとでも言いたいような主張をする啓太を嫌っている。
エクステル長老・・・エクステルの生き残りが作った村を治めている。
自身も天使狩りによって辛い思いをしたようだが、人間と仲直りしたいというアエリアを応援している。
啓太に期待し、アエリアを任せる。カノンを預かる人だったらしいが・・・。