「・・・」

部屋には、レイナとメシフィア、メルフィーがいた。

3人とも、ベッドに集中している。正確には、そこで寝ていて起きるけはいのない彼を見ているのだが。

「・・・」

部屋は非常に重たい空気で満たされていた。

たった一人いないだけで、これだけ雰囲気はかわってしまうものなのだろう。

彼が起きない原因は、肉体的物・・・つまりは疲労だ。

誰一人、こんなになるまで気付かなかった自分を責めた。

いきなり見知らぬ世界へ飛ばされ、何回も人と戦い・・・ついに斬り、生き別れた兄貴と対峙し、左腕を失い、帰る術はないと言われた・・・。

そのうえ、なぜ彼はここまで献身的になれるのだろうか?

・・・3人はそればかり考えていた。

答えなどわかっている。

 

それが・・・彼なのだから。

 

傷ついた程度で彼はその考えを変えることはないだろう。

自分が傷つくことを恐れず、その理想を決して忘れない・・・。

 

 

だけど、彼は気付いているはずだ。

 

その理想は・・・確実に実現できないことに。

彼の第一の理想は、争いをなくし、お互いに手を取り合える国同士になること・・・

でも、それは戦いの終結をもって成しえる。その終結・・・それには、人を殺さなければいけないのだ。

その筆頭の存在が、エレキクルの王・・・。そして、国に忠誠を誓い、決してそれを曲げない者も出てくるだろう・・・。

その中を無犠牲で進むことは不可能なのだ。諦めているからではなく・・・それが『戦争』なのだから。

「・・・」

「起きないな・・・」

メシフィアがポツりと呟く。確かに、彼の寝顔は起きるけはいを感じさせない。

もう半日が経とうとしている。

「あの、お二人とも。そろそろお休みになられてください」

レイナが二人に言った。

「だが・・・」

「私はこの人の部下だからいいですけど、お二人はこの国を守っていく中枢なのですから」

「・・・わかった」

メシフィアも、自覚と自負があるからこそ、無理はしない。

彼が寝ている間に国を滅ぼされれば、全ては終わってしまうのだから。

「それじゃ、目を覚ましたら連絡してね」

メルフィーも去っていく。

「・・・」

彼の寝顔は安らかすぎて、そのまま死んでしまうのではないかと思うくらいだ。

 

 

「・・・」

{オイ}

『なんだよ、せっかく人が気持ち良く寝ているのに』

{起きているのか?}

しまった・・・カマだったか。

『・・・だから?』

{なぜ起きない?}

『・・・体が動かないんだよ』

さっきから、俺は何度も体を起こそうとした。だけど、身体はピクリともしない。

{・・・『不死』のせいか}『やっぱりそうなの?』

{ああ。不死といっても、体が死なないのではなく、意識が死なないだけなのだ。だから、無理をしすぎると、そうやって体が拒否反応を起こす。まぁ、しばらく休めってことだな}

『うぅ・・・』

{何回もブスブスやられれば、体にもガタがきて当然だ。しばらく休めておくんだな}

『俺じっとしているの苦手・・・』

{俺が話し相手になってやっているだろうが}

『偉そうに・・・。大体、なんでそーゆー大事なコトを、早く言わないんだ?』

{聞かないからだろう?気付くのが全部戦闘中じゃないか}

『・・・』

そういえば・・・

『疲れたな・・・』

{俺もだ。しばらく休養と行こうぜ?}

『ああ・・・』

 

 

「・・・目、覚めませんね」

レイナはもう丸一日傍にいつづけている。

「眠気もかなりきていますし・・・少し、私も休ませてもらいましょうか」

レイナは部屋を出た・・・。

 

シュッ・・・

 

『うん?』

「寝てる寝てる」

『あっ!例の忍者!?』

俺の目の前に、例の忍者が現われた。

{なに!?}

「よく寝ているな。では、いざいざ!」

『なっ!オイ!コラ!!』

俺は忍者に抱えられ、そのままつれていかれる。

叫んで抗議するも、声が出せないので意味がなかった。

{オイ、置いていくな!!}

『んなこといったってー!!』

「おっと。確か、エモノの方もだったな」

{オイ!結局俺もなのか!!}

結局連れていかれて驚くカノンを持って、窓から飛び降りた。

 

 

コンコン

 

「起きたか?ケイタ・・・!?」

そこには、だれもいないベッド。そして、開け放たれた窓と、一枚の紙。

「・・・!」

それを呼んだメシフィアは急にかおつきが変わった。

女性から・・・戦士へと。

 

 

 

 

 

「なるほど・・・」

王は、例の紙を持って考え込む。

『オーワカケタイは預かった。楽しみにしているがいい。怪人Xワハハハハ』

なんというか、ツッコミ所がありすぎる手紙だ。

「なぜ名前もろくに覚えていないヤツをさらうのだろうな?」

「王様、実際にさらわれてしまったのは事実です」

メシフィアは釘を刺す。

「わかっておる。むぅ・・・さすがに彼を相手にさらわれたままというのはまずいな」

「王、私に行かせてくれませんか?」

「・・・メシフィアか。どうした?自ら役を買って出るとは」

メシフィア自身が自ら任務を受けることは、今までで一度もなかった。顔と態度でやる気のなさをアピールするメシフィアに、たくさんの仕事はとてもじゃないが出せなかった。・・・その分、メルフィーにしわ寄せがいくが、それを文句も言わずやるメルフィーはすごい。

「・・・彼を失うワケにはいかないことは、王もお気付きのはず」

「・・・まぁな」

「ですから」

「・・・いや、ここはレイナ。おぬしに頼もう」

「え!?」

いきなりの飛び火に驚くレイナ。

「な、なぜです!?王!」

異義を申し立てるメシフィア。メシフィアだけでなく、周囲の人もそう思っていた。

「彼女を信じないわけではありませんが、彼女は敵国の・・・」

「だから・・・じゃ」

「え?」

「彼女なら、それを利用して簡単に潜り込めるかもしれないぞ?」

「・・・」

「それにじゃ・・・メシフィア、君は、彼の信頼した人物を信じられないとでも言うのか?」

「・・・」

畳み掛けられてしまったメシフィア。

「し、しかし王・・・この任務、私では・・・」

レイナが不安そうに言う。

「大丈夫じゃ。信じているぞ?」

「・・・わかりました。このレイナ。必ずや吉報を!」

「うむ。他の二人は、万が一のために国境に待機していてくれぬか?」

「・・・はい」

「メシフィア。我慢我慢。それでは、出撃準備を」・・・

 

 

 

 

「・・・ここは?」

俺は暗闇にいた。あれ?

「俺はカノンと一緒に忍者にさらわれたんじゃ・・・?」

『・・・』

目の前に、女性が現われた。

「あ・・・れ?君は・・・誰?」

目の前の女性に、なんとなく見覚えがある。長い黒髪・・・どこでだ・・・?どこで俺は・・・この女性を見たんだ?

『・・・』

ふっと、その女性は消えた。なんだ・・・?このカンジ・・・。

次は、大きな瞳が印象的な、優しそうな女性が現われた。

「この人もだ・・・どこかで・・・」

『・・・』

おかしい・・・頭にひっかかりができたように、何も思い出せない。

そう、昨日の夕食が思い出せないかのような・・・。

それが、夕食なんかではなく、もっと大事なコトだということだけがわかる。

「教えてくれ!君は・・・」

『・・・』

女性は消えてしまった。

「・・・どうなってんだ!?クソッ!」

再び現われる人影。

「・・・あ」

『・・・よぉ』

今度は覚えている。忘れるはずがない・・・兄貴。

「何しにきたんだ?」

『・・・なぁ、俺達は戦わなくちゃいけないのか?』

「兄貴・・・俺だって嫌だよ」

『・・・だったら、一緒に戦おうぜ?そうすればお互いが傷つくことはないし、守りあうこともできる』

「・・・それもいいかもしれないな」

『なら、この手を取るんだ』

兄貴がその右手を差し出した。

「・・・」

俺は手をだす・・・

「っ!」

不意にさっきの女性二人が被った。

『・・・本当にいいのですか?』

「え?」

俺は声の人を見る。すると、豪華な鎧に身を包んだ女性がいた・・・。

やっぱりどこかであったきがする。

『邪魔をするなっ!』

兄貴がその女性を斬ると、霧散した。

『さあ!』

「・・・」

俺はなぜか、あと少しの手が伸びない。

なぜだろうか・・・?

『・・・仕方ないな。そらっ!』

俺は兄貴につかまれた・・・。

 

 

 

 

 

 

「果たして、啓太さんは無事なのだろうか?」

レイナは影から城を見る。端から見ればかなり怪しいが、幸いなのか、だれも見ていない。

「・・・確か、ごく一部しか知らないルートがあったはず」

レイナはマンホールの蓋をあける。すると、そこには梯子ではなく、階段があった。

蓋を元通り閉じて、レイナは暗い通路を進んでいく。

カンカンと、鎧同士が当たる音が不気味に響く。

(確かここを出れば地下研究室につくはず)

 

ビィィィ!

 

変な音が聞こえはじめる。それは、研究室の近くという証拠だった。

「・・・」

『・・・アアアアッ!!』

「!?今の声は!」

レイナは聞き覚えのある声の絶叫を聞いて、早足で向かう・・・。

「・・・」

レイナは物陰から様子をうかがっていた。どうやら、いまここには研究者しかいないらしい。

だが、さっきの声といい、場所が場所なので不安を覚えずにはいられない。

「・・・」

研究者が誰かと話している。

「おまえは誰だ?」

「俺は・・・大川・・・啓太・・・」

(啓太さん!?)

レイナは焦りながらも、情状況を掴むために隠れる。

「貴様の敵は?」

「・・・カオストロ」

「!!」

カオストロ・・・それは、啓太がいた国・・・そう、メシフィアとメルフィーのいる国・・・。

(洗脳か!?そういえばそのような研究をしているとは聞いていたが・・・)

「・・・最後の質問だ」

「・・・」

「カオストロをどうするんだ?」

「潰す・・・消滅させる」

「・・・よし。実験成功だ」

(・・・啓太さん・・・)

レイナは、ここでの啓太の救出は無理だと悟った。啓太とゴタゴタしている間に、敵に囲まれて捕まってしまうだろう。

「明日の出撃には間に合ったな」

(出撃だと!?)

「コイツの初運用だ。なんとかなるといいが」

「なるだろう。そういうふうにいじったのだから」

「そうだな!」

(・・・これは急いで伝えなければ!)

レイナはそのまま研究所を急いで出た。

「しかし、気付いたか?コイツの体」

「不死だろ?」

「それだけじゃないんだよ」

「え!?」

「くっくっく・・・カオストロの連中の驚く顔が目に浮かぶぞ」

 

 

 

 

 

 

「そろそろか」

「そうみたいね」

ダダダダ・・・

「お、噂をすれば」

メシフィアとメルフィーはレイナの姿を見付ける。

「・・・ケイタはどうした?」

「そ、それが・・・」

レイナは事情を説明する。

啓太が洗脳されてしまったこと。

明日、一緒に出撃してくること・・・。

「ケイタが・・・」

「・・・倒すしかありませんね」

「メルフィー!?」

「メシフィア。別に殺すわけじゃないわ。動けないようにして、つれて帰るの。そして、しっかり治療すればいいわ」

「・・・」

「まずは、明日の敵を抑えることに専念しないといけないわ」

「・・・わかった」

「私も、お手伝いさせていただきます」

「ええ。敵はおそらく、啓太に無理はさせないでしょうが、啓太自信は本気でくると思います。心してかからないと、こちらが倒されてしまいますからね」

「・・・そうだな」

「異常に彼はタフですからね・・・」

タフで済まない事に、なんで気付かないのだろう?

 

 

 

 

 

 

「伝令!隊長、動きだしました!」

「来たか・・・」

メシフィアは立ち上がる。

「がんばりましょう、メシフィアさん、メルフィーさん!」

「もちろんよ。あんまりにもおイタがすぎるとおしおきしないとね」

「・・・ああ」

レイナが元気づけるも、やはりメシフィアとメルフィーは足が重いようだ。

それはそうだろう・・・今まで一緒に戦っていた仲間と命の取り合いをしなければいけないのだから・・・。

「第1〜第3部隊は正面から!他は回りこんで側面を叩け!」

メシフィアの指示にしたがって部隊が展開していく。

「かかれっ!!」

メシフィアの号令で、兵士たちが戦いはじめた。

 

 

 

 

 

「・・・そろそろか」

「隊長?」

啓太は立ち上がる。啓太は鎧に身を包んで、身の丈ほどもある剣を持っていた。

いつものカノンではない・・・。

「俺が敵隊長を落としてくる。その間、指示は任せたぞ?」

「は、はい!」

啓太が歩いて、森に消えると白い羽が舞った・・・。

(さて・・・早く終わらせるか)

 

 

 

 

 

 

「・・・メルフィー、レイナ」

「わかってるわ。物凄いもの」

「きましたね・・・」

3人はその重たい空気に身を固めた・・・。

ザッザッ・・・

「・・・!?」

「メシフィア、メルフィー、レイナ・・・悪いが、死んでもらうぞ?」

「ウ・・・ウソ・・・?」

3人とも信じられない、という顔をしている。そりゃそうだ・・・彼は間違いなく大川啓太・・・

でも・・・

「その翼・・・!」

レイナは、啓太の背中から生えた白い翼を凝視してしまう。

「これか?」

啓太は自分の背中から生えた翼を折って掴む。

「別になんてことはないだろう?さて、始めようか」

啓太は剣を構えた。ゴォォォォ・・・大気が啼いている・・・。本気だ。彼は、初めて人を本気で殺そうとしている。

 

ブゥゥン!

 

いきなり啓太の剣がブレはじめる。

「・・・あれは」

メシフィアは一度見たあの技を知っている。

「どうしたの?」

「あの剣は受けとめてはダメ。避けるんだからね?」

「・・・わかった」

「わかりました」

「はぁぁぁ・・・!」

啓太は、何メートルもある間合いを一瞬でなくした。

「!」

3人はすぐさまとびすさった。

 

ズゴォォォ!

ドドドドドッ!!

 

地面を深くえぐり、その土が3人を襲う。

「っ!なんつー馬鹿力なの?」

「そこだっ!」

「えっ!?」

とびすさって、まだ地面に足をつけていないメルフィーの前に、彼が飛んできた。

「う・・・そぉ!?」

 

キィィン!!

 

メルフィーは剣で啓太の剣を受けとめる。空中に飛んでいるのに、すごいボディバランスだ。

だが・・・

 

ズバババッ!!

 

「きゃぁっ!!」

乱舞剣の残像が容赦なくメルフィーを切り刻んだ。

 

ドサッ・・・

 

「メルフィー!」

メシフィアがいつになく怒りの感情を表にだした。親友を切り刻む相手・・・それが啓太という葛藤もあるのだろう。

「メシフィアさん!なんとか隙を作ってください!」

「え?」

「一撃で決めます!」

メシフィアはレイナが何かをするのを悟って、啓太に向き直った。

「・・・わかった!」

メシフィアは啓太に斬り掛かっていく。遠慮はしない。

遠慮をすれば、隙を作ることなどできないと知っているから・・・。

「くっ!やるな・・・」

啓太の剣のブレはおさまっており、残像剣はでない。

「ケイタ・・・!目を覚ませ!」

「知らないな・・・俺は、ただおまえを殺せと言われただけだ」

「!!」

一瞬だけ、メシフィアの体が固まる。仲間に・・・殺す、その言葉が深く心に食い込んだ。

そして、その隙を見逃す啓太ではない。

「奥義・・・桜梅桃斬!!」

啓太が真っ正面から縦に一閃。

 

キィィン!!

 

それを受けとめるメシフィア。桜の花びらが散ると、すぐさま啓太の剣は上へとまわされた。

そのまま啓太は回転し、梅の花と同時に、今度はメシフィアの下から剣が襲ってくる!

 

キィィン!!

 

「っ!!」

あまりにも啓太の剣が速すぎて、メシフィアは打ち上げられてしまう。

 

ヒュッ!

 

「マズ・・・い!」

打ち上げられたメシフィアの隣に、剣を目一杯ふりかぶった啓太がいた。

(斬られる・・・!)

啓太の目は本気だった。鋭い眼光がメシフィアをとらえる。

「・・・!?」

「・・・?」

 

なぜか啓太は剣を振らなかった。本人も驚いて、剣を握っている手を見ている。

 

 

『全ての精よ・・・その力、全て今、我に貸したまえ!!電陣!!

 

ザパァァッ!

 

 

啓太の位置にむかって、一直線に地面が裂ける。

「いけぇぇっ!!」

レイナが振り上げた手をおろす動きにあわせて、裂けた地面に雷が落ちた!

「っ!?」

 

 

ドゴォォオッ!

ゴォォォォ・・・

 

 

煙が消えると、そこには感電して気絶したのか、倒れている啓太がいた。

「・・・」

呆然とそれを見ているメシフィア。

「ふぅ・・・なんとかなりましたね」

「・・・いえ、私たちは負けていた」

「え・・・?」

「・・・」

メシフィアは、啓太が最後の一撃を止めてくれた事を考えていた。

あそこで啓太が斬っていたなら・・・メシフィアは真っ二つにされていただろう。それだけの勢いがあった。

でも・・・彼は斬らなかった。

「・・・帰ろう。司令官を失った彼らなら、じきに負ける。それに、傷ついたメルフィーも手当てしないと」

「そうですね。では・・・失礼します」

啓太を縄で縛るレイナ。そのままメルフィーの応急手当に入った。

 

バァァァッ・・・!

 

「!?」

「・・・綺麗ですね・・・」

いきなり、啓太の翼が散った。ただ、綺麗で・・・ずっとその景色を見ていたいと思わせた。

いつのまにか、手に持っている剣も、いつもの白いカノンに戻っている。

「・・・啓太?」

「・・・」

啓太は、さっきとは全然違う、優しい寝顔をしていた。だが、散った翼がどうにも不安になって、気になってしまった。

 

 

 

 

 

「・・・」

俺はパッと目をさます。どこだ?ここは・・・随分立派なベッドを使ってるな、俺。

「・・・」

立ち上がり、部屋を見回す。

(う〜ん・・・ゲームとかで出てきそうな、城の部屋ってカンジだな)

俺は窓から外を見る。

「・・・すげー」

あちこち森に囲まれていた。人の喧騒が遠くに聞こえる。

で、どこだ?ここは。

 

コンコン・・・

 

俺がいいとも言っていないのに、入ってくる。

「!起きていたのか?」

俺を見て驚く女性。

「・・・あ、ああ」

俺はあいまいな答えしか返せない。

「体は大丈夫なのか?」

「うん・・特に異常はないかな」

「そうか、良かった」

心底安心した顔を見せる女性。

で、だから誰だ?この人は。

「結構派手にやられたからな。心配したんだぞ?」

「派手に・・・やられた?」

何を?

「ああ、覚えていないのか。ケイタが操られていたから、苦労したぞ?」

「操られていた・・・」

訳のわからない事を言っている女性。もしかして・・・ちょっとキてる人?

「じきに記憶もつながるそうだ。無理して考えないほうがいい。かなり苛酷な人体実験をされたようだしな」

「・・・そうですか」

「ん?ですか?」

メシフィアはケイタの変な言葉遣いに気付く。

「とりあえず、じきに記憶は戻るんだね?」

俺はそれを確認したかった。

「ああ、だからゆっくり休め」

「ありがと」

「それじゃな。あ、あと・・・レイナにはお礼を言っておくんだな。つきっきりで看病していたのだから。今は休んでいるが」

「・・・ああ」

レイナ?・・・

その鎧に身を包んだ女性は部屋から出ていった。

「・・・ま、記憶も戻るっていうし、まったりしますか」

俺はベッドにごろんとなる。・・・

 

(・・・・・・・・・・・・・・・待てッ!!)

 

記憶があるないの問題じゃないだろう!?大体ここはどこだ!?

少なくとも、今の時代にこんな城があるとは思えない。いや、宗教とかでありそうだけど、ここにはそんな雰囲気ないし、

大体、かりにそうだとしても、なんで日本人の俺がそんなところにいる!?

(おかしい・・・おかしすぎるぞ?)

{どうした?}

「!?」

{・・・こっちだ}

声のする方を向いても誰もいない。

いや、そもそも・・・

 

『誰か』声をだしたか?

 

{どうしたんだ?}

「・・・まさかね」

俺はたてかけてある剣を見る。ツタが巻き付いていた。

「・・・本当に?」

{どうした?俺の事まであやふやになっているのか?}

「け、剣がしゃべった・・・」

俺の常識が崩れ去っていく・・・。

{ま、あれだけヒドイ実験をされたらそうもなるか}

「・・・実験ってなんだ?」

{なんでも、おまえが不死の能力を持っている事に気付いたらしくて、イロイロ研究していたみたいだぞ?}

「不死?」

{おまえの特殊能力のことだ}

「ふーん・・・」

{で、おまえは最終的に変な実験されて、操られてたってわけだ}

「なるほど・・・。今はそれくらいでいいや」

 

俺はこれ以上ファンタジーをつめこまれたくなかったので、話を打ち切る。

 

{疲れたのか?}

「精神的にね。ま、いずれ記憶も戻るって言うし。そうしたらここがどこか突き止める」

{・・・待て。おまえ、ここがどこか知らないのか?}

「ああ。でも、しばらくすれば記憶も戻るんだろ?」

{・・・ちなみに、俺の名前を知っているか?}

「知らないよ」

スパッと言い切る。なんで剣の名前を知ってるか、と聞くんだ?わかるはずないだろう?

{・・・記憶が混乱しているせいか?それとも・・・}

「どしたの?」

{おい、さっきの女性を呼んできてくれ}

「え?」

{それで、俺の言うとおりにしろ}

「・・・わかったよ」

 

剣のくせに、妙に迫力があったため、俺は部屋を出る・・・

 

 

 

「どうしたんだ?」

「なんかわかんないけど・・・ちょっと部屋に来てくれる?」

俺はなんとかその部屋を見付け、女性を呼び出した・・・

「おい、来たぞ」

「?」

女性は訝しげな顔をしている。

{俺の言った事をいえ、いいな?}

「あ、ああ」

{俺は、記憶喪失かもしれない}

「・・・は?」

{いえ}

「・・・俺は、記憶喪失かもしれない」

「え!?」

女性がなんでか驚く。いや、俺も十分おどろいているけど。何を言わせるんだ?

{自分がどうしてここにいるのか、この場所はどこなのか・・・わからないんだ}

「自分がどうしてここにいるのか、この場所はどこなのか・・・そして、君は誰なのかわからないんだ」

俺は一つつけたした。

「そ、そんな・・・本当か?」

「う、うん・・・悪い」

「記憶・・・喪失・・・」

なんだか女性が惚けてしまったぞ?

「これでよかったのか?」

{ああ。あとはちゃんとした治療をうけられるだろう}

「治療・・・ねぇ」

 

その後、俺は正式に記憶喪失のレッテルをはられた。どうやら、無理な実験で記憶がぶっ飛んでしまったらしい。

俺の事は大体は剣に聞いた。不死だとかハチャメチャな話で、にわかには信じがたかったが。

どうやらみんなは俺の記憶が『消えた』のではなく、『混乱』しているのだと思っていたようだ。

 

 

 

 

 

「うぅん・・・眠い」

俺はベッドの上で、ゴロゴロしていた。

昼寝にはちょうどいい。

「・・・なぁ、カノン」

俺は剣に話し掛ける。今となっては唯一安心できる相手になっていた。

{なんだ?}

「・・・俺はさ・・・記憶、取り戻したい」

{・・・そうか}

「だけど、いくらみんなの話を聞いてもピンとこないんだ」

{仕方ないだろう}

「・・・だから、俺は・・・探したい」

{記憶を・・・か?}

「・・・うん」

{ならば・・・行くか?}

「・・・どこへ?」

{おまえの力・・・もちろん、不死のほうではないほうだ}

「・・・翼か」

俺には翼が生えていたらしい。

白い・・・大きい翼が。

{この世界に、似たような種族がいるのだ。あってみる価値はあると思うぞ?}

「・・・そうだね、一か八か・・・行ってみよう!」

俺は書き置きを残して、窓から飛び降りた。

 

ブオッ!

 

地面から風がふき、俺の落下速度をおとしてくれた。

「さぁ。いこう!」

『いきなり消えてすみません。記憶を探しにいきます。次に会うときは、もっと強くなって、記憶も戻っていると思います。また会いましょう。大川啓太』

 

 

 

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レイナ必殺技『電陣』・・・呪文を唱えて、雷を呼び出す。レイナの意思でどういう風に雷を呼び出すかが決められる。

             レイナはいつも目印として敵まで地面を裂いて、そこに雷を呼び出す。

             広範囲のうえに、敵の動きを封じるためレイナがよく使う技の一つ。

 

啓太奥義『桜梅桃斬』・・・まず、普通に縦に斬る。これはフェイクで、相手が防御するのが狙い。この時、桜の花びらが舞う。

             防御されて跳ね返った剣を下に回して切り上げる。実際はここで当たる。ここで梅の花が舞う。

             最後に切り上げて浮いた相手を横に切り裂く。ここで桃の花が舞う。