「うああぁぁっ!!」

ズバッズババババッ!!!

「ぐっ・・・なんて・・・強さ・・・だ」

バタッ・・・兵士は力なく倒れた。

「・・・このトビラの向こうか」

俺はそのトビラを開ける。

眩しい光で、俺は目を細めた・・・。

「・・・あ」

そこには、十字架にはりつけにされた、傷だらけのメシフィアと、まとめて縄でしばられてる子供たちがいた。

全員気絶しているようだ。

「・・・」

そして、イヤな感じで立っている男・・・。

 

 

 

「久しぶりだな」

 

 

 

「・・・!!」

俺は・・・その男を知っていた・・・。この世で・・・最も会いたくなかった人間・・・なんせ・・・生き別れた兄貴なのだから。

「なんで・・・兄貴が・・・」

イロイロと負い目があるので、どうも引きぎみになってしまう。

「俺もおまえと同じようなモンだ」

「・・・なんで・・・兄貴が・・・戦ってるんだよ・・・」

「・・・俺はもとの世界に帰ろうなんて夢はみねぇ」

「!!」

「だから、ここで生きていくことにした。幸いといっていいか、この世界には学問がなくても生きていけるらしいからな」

「・・・」

「どうした?昔のおまえはもっと激しかったじゃないか」

「・・・腑抜けになったみたいだね」

「だが・・・その剣をみるかぎり、そうでもないみたいだな」

ポタポタと、カノンから血がたれている。

もちろん・・・ここにくるまでに斬った人の血だ。

死んではいないだろうが・・・俺は人を斬ったのだ。

この手で・・・この剣で・・・。

「ひとつだけ言う」

「・・・」

「俺と一緒にこないか?」

「・・・え?」

「おまえとなら、最強のタッグを組める。そして、俺の国で・・・」

「嫌だ」

「・・・やはりな。激情を隠しているくせに、偽善を振る舞い、いたずらに苦しむ・・・それがおまえだったな」

「・・・こっちもひとつだけ聞く。メシフィアと子供を離せ」

「・・・ダメだと言ったら?」

「・・・斬るよ。なんとしても」

俺はカノンを構えた。迷ってはいられない。

カノンにそう教わったばかりだ。

「そうか・・・ならば、言うことはないな」

「・・・」

「いくぞ!!」

 

シュンッ!

 

「え?」

いきなり視界から消える兄貴。

{後ろだ!}

「っ!」

 

キィィン!!

 

俺の背後から襲ってきた兄貴の剣を防ぐ。

「ほほぅ・・・やるじゃないか。この速さについてくるなんて」

「うるさい・・・!!」

俺のストレスは限界を越えようとしていた。

ギギギ・・・

俺の剣が兄貴の剣を押し返す。

「っ!」

「でぇぇぇやっ!!」

俺は兄貴を剣ごと突き飛ばす。兄貴は後ろに飛んでバランスを取った。

{やるぞ!}

「おう!!」

俺はありったけの力をカノンに注ぎ込む。すると、カノンが急にぶれだした。

焦点が定まらなくなったかのように分身している。

「はぁぁぁぁ!!」

俺は真正面からカノンを振り下ろす!

「そんな太刀筋で勝てるかッ!!」

ガキィィィン!!

簡単に兄貴に止められる。

だが・・・

ズバババババッ!!!

「なっ!」

カノンの残像が飛び出し、兄貴の剣を越えて兄貴の体を切り刻んだ。

(膝と肘の間接を切り裂けた!)

うまくいった・・・!

「ぐっ・・・」

兄貴はたまらず倒れる。

「乱舞剣っていうんだ」

「ぐっ・・・」

「ん・・・?」

「あ、メシフィア。おはよーさん」

「おはよう・・・って、ここは?」

「関所」

「あ、そうか・・・!その男は・・・」

「俺の兄貴。たったいま、俺が勝った」

「なにぃぃ!?兄貴!?しかも・・・勝っただと!?」

 

 

「ふ・・・ふふ」

 

 

「!!」

兄貴が不気味に笑った。

「まだだ!」

ヒュッ!

「あっ!」

すぐさま兄貴は消えて、十字架の後ろに回りこんだ。

 

ヒュッ・・・

 

メシフィアの喉元に剣をつきつけた。

「・・・」

「・・・形勢逆転だな」

「く・・・」

「言いたいコトはわかるか?」

「・・・いや」

 

 

 

「死ね」

 

 

 

その一言が、重く突きささった。

「・・・私のことはかまわないわ。この男を殺しなさい!」

メシフィア・・・

できないよ・・・

「できるわけ・・・ない」

俺は構えていたカノンをおろす。

「ふっ・・・やはりおまえはそうだ。できるはずもない、無犠牲をめざして苦しむ。それが赤の他人であっても」

「・・・人が死ぬのは・・・嫌なんだよ」

「それが、おまえの甘さだ」

パチィッ!

兄貴が指を鳴らす。すると、数人の兵士がやってきた。

「・・・」

俺を取り囲み、槍と剣を突き立てる。

「ジワジワ殺せ」

兄貴の命令で、一斉に武器を構える兵士。

「ケイタ!逃げなさい!」

「・・・」

(・・・どうやって?)

右も左も後ろも前も全て武器だというのに。

 

ジュバッ!!!

 

「ぐ・・・!!」

俺の左手が剣によって切り落とされた。

ボトッ・・・

ダラダラ・・・血が止まらない。止まるはずもないか・・・。

 

ブスッ!

 

槍が俺の腹を突き通した。

(・・・ああ。なんだか俺ってこんな役ばかり・・・)

「ちょ、やめなさい!!」

「黙っててくれますか?メシフィア」

「ぐ・・・!」

メシフィアのくびには、相変わらず剣が突き立てられている。

 

ドサッ・・・

俺は倒れた・・・。

「はぁ・・弱いもんだな。弟よ」

兄貴は俺を蹴る。

「貴様ッ!!」

メシフィアの心のなかは、もうどうにかなってしまうそうなほど暴れていた。

今まで、こんな思いをもったことがないことは、怒りに身を任せているメシフィアはわからない。

メシフィアが暴れる。だが、鎖は外れない。

「大丈夫だ。貴様は返してやる」

「そういうことではない!!よくもケイタを・・・!」・・・

 

 

 

 

 

{おい、いつまで死んだフリしてるんだ?}

『そう言われても・・・だって、立ち上がりにくいし・・・』

{全く・・・}

『それに、なんで俺・・・こんな出血してるのに死なないんだ?』

{それは・・・後で説明してやる}

「なんかそればっか」

「!!」

「あ・・・」

バレた・・・。

「なぜ生きている!?」

「・・・なんでだろ?」

俺は首をかしげる。どう考えたって、失血死していい程の血を流している。それに左腕だって切り落とされたままだ。

「とにかく・・・!」

俺はパッとメシフィアのトコロへ行き、鎖を切り裂く。

 

ガチャッ!

 

「け・・・ケイタ・・・?」

「お姫さまと子供たちは返してもらう」

「あ、待てッ!!」

「アデュー!」

俺は子供達をメシフィアに持たせて、そのまま関所を降りた。

まぁ、普通なら死ぬんだけど、死なないんだな、これが。

シュタッと着地して、そのまま走っていく。

森へ入ると、メシフィアを止めた。

「急がないと追っ手が・・・」

「いいから。カノン、どうすればいい?」

{メシフィアがおまえに触っていればいい}

「了解。メシフィア、俺に捕まって」

「は?」

「いいから」

「ああ・・・何するつもりだ?」

メシフィアの手が俺の肩におかれる。

「カノン、よろしく」

{ああ}

ブゥゥン!!

 

 

 

 

 

「はい、到着」

「ここは・・・城!?」

おれたちは城の前にいた。

「ど、どうやって・・・?」

「まぁいいじゃない。それで・・・どうする?」

「・・・なんだかわからないが・・・まずは、孤児院に子供を返してくる」

「それがいいな。王への報告はおれがやっとく」

「そんなことするな!」

「っ!?」

いきなりメシフィアに怒鳴られた。

「あ・・すまない」

「・・・どうしたの?」

「・・・その、まずは、治療するべきだ」

なぜか俯いて、上目遣いで言ってくる。瞳が潤んでいて、純粋に可愛い。

心配してくれてるのか・・・。

「・・・そっか!」

そういえば・・・血は止まってるけど、左腕も腹も傷が治ったわけじゃなかった。

「だから・・・あんまり無理するな」

「忘れるほどたいしたことじゃないっぽいけど・・・サンキュー。心配してくれて」

「あ、ああ・・・じゃぁな」

「またあとで」・・・

 

 

{惚れたのか?}

「ん?」

{ヤツが、おまえに、だ}

「ヤツ?メシフィア?」

{そうだ}

俺は治療室へ向かいながらカノンと話す。

あぁ・・・すっかり馴染んでるなぁ。

とりあえず、周りの目もあるから心で会話してるんだけど。

普通に話してたら、ただのヤバいやつだし。

「まさか」

{しかし、どうもさっきの潤んだ瞳が気になる}

「・・・それってさぁ」

{うん?}

「カノンがメシフィアに惚れたんじゃないか?」

{おれを何才だと思っている?}

「剣の年令・・・?うーん・・・作20年くらい?」

{90年だ}

「・・・とっくに青春は終わってるわけね」

{そういうことだ。それに、惚れるのはやはり剣にだな。メシフィアの持っている四宝剣・未来・・・あれはなかなかだ}

「あのスラっとしたサーベルっつーの?あれってそんな名前だったんだ」

メシフィアが俺に剣を突き立てた時を思い出す。おもいっきりグサッときたな。

「さて、ついた」

俺は治療室に入る。・・・医者が卒倒してしまった。

なんで無事なのか?と・・・。

 

 

 

 

 

「で、関所は取り戻せなかったのか?」

「・・・はい」

俺はお叱りを受けている・・・っぽい。だれもが俺を哀れみの目で見ている。

そりゃそうか・・・片腕ないんだから。

「だが、孤児院の子供とメシフィアの救出は見事であった」

「いえ・・・」

「しかし・・・敵がおぬしの兄上だとはな」

「幼い頃に、親が離婚したので生き別れになっていたのですが・・・」

「離婚?」

「・・・えっと。父と母が、結婚しああとに、結婚を取り消して、夫婦でなくなることです」

「なんと!そなたの国にはそんなことがあるのか!?」

やたら驚いている王様。どうやらこの国に離婚はないようだ。

「はい・・・それで、俺が4才の頃に・・・。俺は父に引き取られ、兄は母に引き取られました」

「それで・・・つまり、4才の頃から会っていないのだな?」

「はい。まさか、この世界に来ていたなんて・・・」

「世界・・・か」

「あ、いえ・・・」

「本当なら、弟であるそなたにも疑いがかかるが・・・その腕を見ると何とも言えぬな」

そっか・・・俺は敵の身内だから・・・。

そんな俺の表情を読みとったのか、王様はこう付け足した。

「心配せずとも、そなたが精一杯戦ってくれたことはわかる」

「・・・」

「そなたの左腕・・・か」

「別に問題ないですよ。俺は右利きですし」

「しかし、不便どころか戦いに支障がでるであろう?」

「・・・そうですけど」

「・・・しばらく時間がかかるかもしれぬが、なんとか善処しよう」

「え?あ、ありがとうございます」

(義手でもくれんのかな?)

「では、休むといい」

「はい・・・」

 

 

 

 

 

ボフッ。

俺はベットに倒れこむ。

{大丈夫か?}

「・・・うー、なんか今日一日でイロイロありすぎて混乱する・・・」

{それもそうだろうな・・・敵は兄貴。そのうえ左腕も消えて・・・更に、兄貴はもとの世界に戻るのは夢だと言ったしな}

「マジかよ〜って感じ・・・はぁ。父さんは大丈夫なのかなぁ?」

{自分の身を心配しろ。さすがに無鉄砲すぎるぞ?}

「でもさー・・・」

{まぁ・・・しばらくは国内で待機してろって命令されるだろうがな}

「だよね・・・敵の弟だもんね。それに結局関所はダメだったわけだし・・・はぁ」

{そう沈むな。おまえだからこそ、メシフィアと子供を救出できたのだから}

「・・・疲れたから・・・寝るわ」

{おう}・・・

 

 

コンコン

「?」

俺は何かの音で目を覚ます。

「・・・メシフィア?」

窓に、メシフィアがいた。俺は窓をあける。

ベランダから来たようだ。

そういえば、ベランダはメシフィアともう一人の女の部屋とつながっているとか言ってたな。

「どしたの?」

「・・・話がしたい」

「あ、ああ」・・・

 

 

「で?」

「その・・・助けに来てくれて、ありがとう」

「なんだ、そんなこと?」

「そ、そんなこと?」

俺の言葉に抜けた表情をするメシフィア。

「当然じゃないか。仲間・・・だろ?」

「・・・」

「それに、相手のやり方も許せなかったしね・・・でも、結局中途半端だった」

「え?」

俺は俯いて、あの時を思い出す・・・。

「俺・・・結局まだ覚悟ができてないんだ・・・今日・・・俺は本気で、人を殺してでもメシフィアと子供を助けるって思った」

俺はそこで区切って、関所に突撃した時の気分を思い出す。

「・・・でも・・・結局誰一人殺さないように手加減して・・・それで、結局こんなコトになった」

「・・・」

「殺すのがいいコトとはいいたくないけど・・・でも、こんな程度の覚悟じゃ・・・俺はきっと、守りたい物ができても、きっと守れないで終わる・・・」

「・・・」

「俺は・・・このままじゃいけない。だから・・・えと・・・何がいいたいんだろ・・・」

言ってるうちに、言いたいことがわからなくなった。

「焦らなくても大丈夫」

「え?」

「その覚悟ができるまで、私がいる」

ふっとこっちを向くメシフィア。黒い髪がなびいて・・・月の光に照らされて・・・綺麗だった。

「それに、メルフィーもいる。さっき言ったじゃない、仲間だって。なら、待ってあげてもいいだろ?」

「・・・なんつーか・・・メシフィアの方が主人公っぽいよなぁ」

「?」

「っとと。なんでもない。メシフィア」

「なんだ?」

「・・・君は、綺麗だね」

「!?い、いきなり何を言い出す!?」

「姿も・・・言葉も・・・心も・・・。ただ、そう思っただけ。だから・・・もうちょっとだけ、寄り掛かってもいいかな?」

君の・・・その姿を・・・俺は見ていたんだ。

「・・・ええ。でも、いつかはお互いが背中を預けられる程に成長してくれ」

「任せなさい」

「ふふ・・・」

「あははは」

夜の闇に、二人の笑い声が響いた。

 

 

 

 

 

「んで・・・なんで俺がパシリ?」

「だって、疲れちゃったんだもの」

メルフィーは、関所奪還から戻るなり、俺に買い物してきてと言った。

どうやら、俺が兵士全員を怪我させたおかげで、簡単に取り戻せたらしい。

そして・・・俺の兄貴はいなかったようだ・・・。

「・・・わかったよ。俺は可哀相な居候の身・・・逆らったら追い出されるもんな」

「そこまで言うことないじゃない・・・」

俺の悲痛で、嫌味な言葉にちょっとだけ落ち込むメルフィー。

「それで、何を買ってくればいいの?」

「実は・・・を」

「・・・を買ってこいと。ふぅん・・・でも、なんで俺が?」

「ちょっとおもしろいコトのために」

いたずらっ子の笑顔をみせるメルフィー。何を企んでいるのか知りたくなる。

「・・・何企んでるの?」

「いやぁねぇ。別にそんなんじゃないってば」

「企みもなく、男に・・・を買ってこいというのか?」

「うん」

「・・・何号?」

「・・・でお願い」

「・・・はいはい」

 

 

 

 

 

俺は町へと出掛ける。

「う〜ん・・・なんで俺が・・・」

俺はブツクサ考えながらその店へと行く。

「・・・どれがいいのかな?カノン」

{そんなこと言われても、俺にわかるわけないだろうが。俺は剣だぞ?}

「うーん・・・じゃぁ、これください!」

「ほほぅ・・・お目が高い。女性へのプレゼントですかな?」

「い、いえ・・・」

「では、少々お待ちください」

「・・・これでいいんだよな?」

{あの女・・・何を考えているのだろうな?}

「うん・・・不安だな」

 

 

 

 

 

「おーっす。買ってきたぞー」

俺はガチャッとドアをあける。

「お疲れさまー」

「でも、なんで疲れてるからって俺にこんなのを・・・ってメシフィアもいたんだ?」

「まぁね」

「じゃ、はいコレ」

俺は青い箱を渡す。

「あん、もう。こんな雰囲気の何もないところで」

「雰囲気?とにかく、買ってきたんだから、これでいいだろ?全く」

「ありがとん」

「・・・もしかして、それって」

メシフィアがずっと凝視している。

「ああ、指輪」

「ゆ、指輪!?」

「そうだけど・・・?」

なんだかすごく驚いてるぞ?

「え、え・・・じゃぁケイタは・・・」

「そういうことよん。ゴメンね?メシフィア」

「そ、そんな・・・」

「?どういうことだ?」

「ケイタ、この国ではね、指輪は一生愛するって意味なのよん?」

「・・・うあああああ!!」

俺はすぐさま指輪をひったくる。

「なんてことさせるんだ!?」

「いやぁ、ちょっとメシフィアをからかってみたくて」

 

 

「・・・」

 

 

なんだかメシフィアは固まったままだぞ?メシフィアの目の前で手を振っても動かない。

「なんか・・・すごいっすね。固まって動かないッスよ」

「相当ショックだったみたいね。ま、冗談だったって後で教えておくわ。そ・れ・と。指輪は私がもらっておくわ」

「え?でも・・・」

あらぬ誤解をうけたくない。特にメルフィーには。

最初に会った時は優しかったのに、今ではタダの天敵だ。

「冗談だって言ってるじゃない。大丈夫よ」

「・・・変な意味ないからな?」

俺は釘を刺して指輪を渡した。まぁ、俺にはいらないし。

「・・・帰るね」

「ありがと!」

ふと疑問に思って、カノンに話し掛ける。

「カノン」

{なんだ?}

「・・・あの指輪高かったよな?」

{そうだな}

「・・・どれだけ金持ちなんだろ?」

{・・・さぁなぁ}

おれたちは遠い目をした。

(カノン目はないが)

 

 

 

 

「カノン・・・そろそろ教えてくれ」

{なにをだ?}

「トボけんな。俺の力ってやつだ」

{ああ。そういえばな・・・}

「あれだけグサグサやられて死なない俺は一体なんだ?やっぱり夢だったってオチなのか?ダメだぞ?夢オチは嫌いな人もいるからな」

{一人で何を言っている?あれは、『リミットスキル』だ}

「リミットスキル?なにそれ?」

{そうだな・・・よくそっちの世界で、火事場の馬鹿力とかいうだろう?}

「・・・なんで知ってるの?」

{置いておけ。それでだ、つまり、追い詰められると発動する、特殊な能力ってことだ}

「ふぅん・・・で、俺の力は?」

{それがな・・・『不死』の能力だ}

「不死?ああ、だから俺死なないんだ?」

{・・・随分順応が早いな}

「もう慣れましたから。ファンタジーには」

この世界に来て、あんだけザクザクやられて生きているんだから何を言われても驚かない。

{その能力は極めて貴重かつ危険なものだ}

「どうして?」

もちろん、後半部分の危険というところにだ。

{一度殺されるたびに、寿命が3年縮まっていく。おまえの普通に生活して寿命はあと60年だ}

「・・・俺75才で死ぬんだ?」

結構長生きの予定だな。さすが日本人だ。

{どっちにしろ、長生きしたいのならば、もう少し自分を大事にするんだな}

「・・・俺だって好きでザクザクやられてるわけじゃないんだけど・・・」

{ちなみに、能力はイロイロあるぞ?気をつけないと、ウッカリ敵の能力にひっかかっしまうこともある}

「了解・・・しかしな」

{どうした?}

「この体・・・なんとかならないかな?」

俺は失われた左腕を見る。メシフィアと子供たちを助けにいったときだったな・・・。

{まぁ、これからどんどん戦いは激しくなるしな}

「俺の兄貴もいるし・・・まさか、これ以上俺の知り合いがでてくるってことはねぇよなぁ・・・?」

{わからんぞ。おまえの兄貴も来ていたんだ}

「・・・そもそも、兄貴は幼い頃に別れて、記憶があんまりないから少しはマシなものの・・・やっぱり血をわけてるんだぜ?カノンっぽくいえば、同じ素材からできたんだぞ?」

{・・・}

「そんなに簡単に斬れるかって・・・これ以上心労がかさむのは勘弁だよ・・・」

啓太の顔は、りりしくなった以上に疲れが全面に出ている。

みんなの前では気丈にしているが、部屋で一人になると、ドサッと疲れた顔になる。

もともと住み慣れていない場所。

全員が知らない人、そして、全てが初めての食事・・・ジパングだっていうのも、実際は日本の幻想だったわけで・・・。

(マジ・・・勘弁してほしいなぁ)

俺はふっと目を閉じる・・・。

 

 

ザザッ・・・!

 

 

「・・・」

{おい、聞こえたか?}

「何も・・・」

{ウソをつけ}

「俺は何も聞こえない〜」

{・・・くるぞ?}

「・・・」

 

バッ!

 

俺がベットから飛び起きると同時に、俺の部屋のドアが弾け飛んだ!

「覚悟!」

その影はそのままベットに飛び付くが、そこに俺はいない。

「誰だ!?」

「くっ、避けられたか!」

「・・・忍者?」

「忍者?なんだそれは?」

「・・・」

その影は、全身真っ黒で、どこからどうみても忍者にしか見えなかった。

「暗殺?いまどき流行らないよ?そんなの」

「黙れッ!!」

バッと飛び掛かってきた。

「・・・はぁ」

俺はヒュッとよける。

ブキュッ・・・

妙な擬音をたてて、忍者は壁に激突した。

コイツ・・・アホだ。

「うぅぅ・・・」

うなってるぞ?

ダダダダッ!

廊下から忙しい音が聞こえてきた。そりゃそうか、あれだけ派手にドアを壊せば。

「くっ・・・今日のトコロはひいてあげるわ!」

「俺がひいてもらうのか?」

「ニンニン!」

ボワッ!と煙幕を巻いて逃げた。

なんでもいいけど、この煙幕・・・未完成だったのか、腰より低い位置にしか煙がなくて、逃げ出す様子がバッチリ見えた。

その後、来た兵士にドアを修理してもらって、何事かとメシフィアとメルフィーが心配してきてくれた・・・。

 

 

 

 

 

「さて、俺の左腕がない間・・・あの人を呼びますかな」

{あの人?}

俺は牢獄へ行く。

そう・・・

「・・・久しぶり」

「おまえは・・・」

あの誇り高き美女を・・・俺は正式に仲間に加えようと思う。

「ここからだすよ」

「いいのか?もう」

「王から許可もらってきたし。でも、そのかわり、一緒に戦ってもらうよ」

「なんだと!?」

俺の言葉に、怒りと驚きを含んだ声を出す。

「君にとっては裏切りかもしれないが・・・俺のために力を貸してくれないか?」

「おまえほどの力をもっていれば・・・!その腕は!?」

俺の左腕がないことに気付いたようだ。

「ま、こういうこと。だから・・・君に、力を貸してほしいんだ」

「でも・・・私には・・」

苦悩の顔をする。それはそうだろう・・・故郷を裏切るというのだから。

 

「ひとつだけ・・・言っておきたいことがあるんだ」

 

「・・・」

 

「俺は、君がいた国を滅ぼすために戦うんじゃない」

 

「・・・!」

 

「おれたちの国と、きみたちの国が手を結ぶ・・・そんな世界を描いてみても、いいんじゃないかな?」

 

「・・・」

 

「それをふまえて、明日こたえを聞かせてほしいんだ」

 

「・・・わかりました」

・・・彼女は、正式に俺の部下に配属されることになった。

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、メシフィアとメルフィーにも紹介しておくよ。もともと、例の要塞長だった・・・名前なんだっけ?」

「レイナ。レイナ・ファルケン」

「ということだ。ちなみに、彼女は俺の部下っつーことだから、手出ししちゃだめだからね?」

「・・・なぁ」

ゆっくり手をあげるメシフィア

「はい、メシフィア君」

俺は教師よろしくメシフィアをさした。

「大丈夫・・・なのか?彼女は敵だったのだぞ?別に信頼できる、どうこうじゃない。彼女に、自分の味方だったやつらを斬れるのか?」

「メシフィアさん。心配しないでください」

レイナはその不安を吹き飛ばすようにこたえた。

「私は、彼についていくだけです。そして、彼の信頼に答えるために・・・なにより、彼の理想を実現するために、私は全身全霊で力を貸させていただきますから」

「あ、ああ・・・」

その迷いのない言葉に、ついたじろいでしまうメシフィア。

「くくく。メシフィア、強力なライバル登場、って感じね」

「・・・メルフィー、後で覚えておけ」

「じょ、冗談よ」

二人はコソコソ変なやりとりをしているが、気にしない。

「ふわぁ・・・」

俺はついあくびをしてしまった。

「ん・・・ケイタ、疲れているのか?」

「ちょっとね・・・彼女を正式に部下にするために、いろいろ手続きかかっちゃった。片手だしさ」

内緒だが徹夜だ。書類とか面倒な手続きを誰かにさせるわけにはいかなかった。

「・・・平気か?休んだ方が・・・」

メシフィアの言葉をさえぎる。

「大丈夫、俺はこのくらいでへこたれないってば。さって・・・次の仕事は・・・」

「あの、啓太さん」

「なに?レイナ」

「部下として、失礼とは思いますが言わせてください。休んだ方がいいです。顔色も悪いし、体もフラフラじゃないですか。昨日寝てないんじゃないですか?」

「・・・」

「王に聞きました。就寝ギリギリに駆け込んできたと」

「・・・だってさ」

俺はいたずらがバレた気分になった。仕方なく本当の事を白状する。

「もし、今日認めてもらったら、レイナはもう一晩、あの牢獄で過ごさなくちゃいけないじゃないか」

 

 

 

 

「・・・それだけ・・・ですか?」

3人とも呆れている。

 

 

 

 

 

「一刻も早く、だしてあげたいなって・・・あー、もういいじゃないか!」

俺は照れてしまって、話を打ち切る。

「・・・ありがとうございます」

レイナが深々と頭を下げた。

「いいっていいって。これからは俺の部下なんだから、結構コキ使うからね?」

「はい!」

元気良く返事をしてくれた。これで・・・安心かな?

「はは。そんな意気込まなくてもいいけど。・・・っと?」

俺はヨロっとして、レイナによりかかる・・・。

あらら・・・?

「ゴ、ゴメン・・・」

「い、いえ!」

「いま、どき・・・たいんだけど・・・」

腕に力が入らない。あれ?ちょっと・・・なんで意識が・・・

「啓太さん・・・?」

…………………………………………………………………………………………………………………………………

『リミットスキル』・・・啓太がカノンと契約したのとは別の力で、啓太の場合は『不死』。限界の状況に追いこまれると発動する

            『不死』や、常時発動している『信頼』(←は後々出てくる悠人)などがある。持っているのは

            エトランジェのみで、元々の素質と、永遠神剣との契約で初めて使える。よって今日子は持たず、

            光陰は『相棒』を持つ。

 

『不死』・・・啓太の『リミットスキル』。体が死に至ると発動する。傷が治り、体が最高の状態に戻る。だが、一回発動すると

寿命が三年縮む。発動させすぎたり、体に無理がかかりすぎると拒否反応を起こし、動けなくなる。

ただ、体の割合に対して少ない方(例えば腕のみ)が完璧に多いほうから離れてしまうと、元に戻らない。

よって、首を斬られると発動しても生首状態になってしまう。心臓に関しては、傷の度合いで治らない事がある。

当然の事ながら、寿命には勝てない。

 

『信頼』・・・持っている人は大抵、実直であったり素直であったりする。不思議と信用してしまう力を持ち、周囲のリーダーとして

       最高の力を発揮する。ただし、一人で抱え込むクセがついてしまい、結果として無理してしまうことになる。

 

『相棒』・・・この人にサポート、または一緒に行動してもらえると安心する、そんな人間になる。