マロリガンが投降して、地球換算で約3週間。

次なる敵、サーギオスに備え軍備をかためていく巨大国家ラキオス。



さてその3週間に何があったかといえば・・・













































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「ふーむ・・・」



「どうだ? 新しい宿舎だぞ」









啓太が今いる部屋。

ラキオスに建てられた新しいスピリット達の宿舎の一室。

さすがに新しいとだけあって快適である。









「快適だ」



「そうか。ちなみに隣がメシフィア。向かいの部屋がアエリアになっている」



「うん、案内ありがと、光陰」



「なぁに・・・メシフィアたちを連れてきてくれたんだ。このくらいはな」









レスティーナ女王が言っていた。

光陰が説得に失敗した、と。

光陰もまた、啓太と同じ気持ちであったのだろう。









「んでよ、んでよ」



「・・・なに?」









にじりよってくる光陰に、気持ち悪さを感じる啓太。

啓太が許可していないのに、どっかり椅子に座る光陰。









「お前って結局誰が狙いなの?」



「・・・は?」



「いやー、メシフィアのツン具合もいいだろ? 美人だし」



「・・・お茶でも飲も」



「だからといっておっとりしてやさしい感じのメルフィーも捨てがたい」



「・・・ずずず」



「強烈天然なアエリアと一緒なら毎日楽しそうだしなぁ」



「・・・あ、うまい」



「いつでも傍にいてくれそうなシルビアとかか? ん?」



「・・・ふー・・・マンダム」



「っておい、聞いているのか?」









お茶をすすりながら、ん? と返事をする啓太。

光陰はこいつもか、と呻く。









「なにがこいつもか?」



「いや、ウチの悠人もな、結構・・・というか、かなーりニブチンなわけで」



「ウチの悠人って・・・まぁいいや、続けて」



「モテモテブルジョワジー絶対領域なくせに、自分で気づくのが遅いというかなんというか」



「・・・ん」



「ん?」









啓太が窓の外を指差した。

光陰が外を見ると、庭でアセリアと話す悠人がいた。

仲良く笑顔で会話している、そうまるで恋人同士のような。



―――ごめん、言いすぎた。恋人はねぇな、うん(啓太の心









「なんと! 悠人め、アセリアを選んだかぁ!」



「見た感じだと、エスペリアとかウルカとか、そこらへんもそうだろうなー」



「だろ、だろ!?」



「あと岬もそうでしょ、アレ」



「・・・」



「・・・あ」









やばい、と思った瞬間にはもう遅かった。

光陰が呆然と突っ立っていた。

なんと言ったものか、と啓太が言葉を捜すが、いい言葉が見つからない。









「えーと、いや、その・・・なんだ」



「なんてな。わかっているさ、そのくらい・・・な」



「へ?」









今度はゆっくりと腰を下ろす光陰。

お茶をくれ、と啓太に頼む。

啓太がすぐさまお茶を出すと、ゆっくり飲み始めた。









「まぁ俺のことはいいんだ。で、啓太はどれが本命なんだ?」



「・・・ていっ!」









啓太が軽く壁を殴った。

すると壁の向こうで小さな悲鳴。

盗み聞きだった。









「メシフィア・・・じゃないだろうな。アエリアかメルフィーか・・・」



「・・・お前何者だよ、壁の向こうの気配察知とか」



「メシフィアに鍛えられていれば自然とそうなるさね」









話を戻すぞ、と咳払いする啓太。

お茶を軽く含んで、ゆっくりと飲み込んだ。









「俺がこの世界に来た理由にも繋がるんだけどさ・・・」



「ああ」



「俺、ある人をずっと追っているんだ」



「ある人?」









啓太がポツポツと語りだす。

子供の頃に出会ったある女性のこと。

母親をなくした悲しみから、その人のおかげで立ち直れたこと。



そして理由もわからず、飛び降り自殺をしてしまったこと。



だが最近になって、その人が生きていると知ったこと。

倉橋という巫女にこの世界に来れば会えると言われたこと。



エターナル云々は省略した。

啓太自身わからない上に、今は話しても意味がない。









「そうだったのか」



「うん。だから本命って言われたら・・・強いて言えば、その人かもしれないよ」



「そっか・・・。やっぱり会いたいか?」



「・・・うん、会いたいよ」



「会ったらどうするんだ?」



「・・・わかんないよ、会ってみなくちゃ」



「・・・そっか」









光陰はゆっくり立ち上がった。

お茶ごちそうさん、と言い残して部屋を去っていく。

そのカップを片付けながらふと思う。



啓太は確かにそのためにこの世界へ来た。

だけれど、それとは別の理由で戦いに身を置く決心ができた。

それは紛れもなく、メシフィアたちのおかげ。



生きる意味の全てを独占していた存在が、その割合を減らしていく。

それは怖くもあったが、それ以上になぜか嬉しかった。









「ケイタぁ〜っ! にょほーっ☆」



「ごほぁっ!!」









背中に衝撃。

こんなことをするのは一人しかいない。

腰に絡み付いている物体を摘み上げる啓太。









「何の用かな、アエリアよぉ・・・!!」



「え、えーと・・・怒ってる?」



「ったりめーだ!!・・・って言ってもしょうがないから、用は?」



「お、悟ったねぇ、なはは♪」



「悟ったよ、ほんと、もう」



「んじゃ遊ぼっか」



「・・・」









バタン!



摘み上げた物体を廊下に放り出し、ドアを閉めた。

すると猛烈な勢いでドアを叩くアエリア。









【あけてよ〜! 暇なんだよぉ〜! 遊んでくれYO〜☆!】



「うるせぇシリアスな空気に割り込んできやがって」



【シリアスってなに? おいしい?】









うわ、素で答えやがったよ・・・と呻く啓太。

だがここで開けてはいけない、開けたら最後なのだ。

開ければ骨の髄まで遊びつくされ満足に動けない体になること、間違いない。









【ふーんだ、もーいーもん。もっと面白いことしてやるんだ】



「あーそーかい。そりゃよかった」



【うわぁぁぁんっ!! メシフィアぁぁぁっ!!!】



「・・・?」









急にメシフィアの部屋の前でぐずりだすアエリア。

何をするのやら、と啓太が聞いていると・・・。









【どうしたアエリア? あまりうるさくするな・・・ってどうしたその格好?】



「格好?」









どこか変な格好をしていただろうか、と記憶を探る啓太。

だが、アエリアの格好はいつもどおりだったはずだ。









【あのね、あのね、ケイタにビリビリ〜っ! ってやられたの!】



【な、なんだとっ!】



「・・・ほぇ?」



【お前みたいなわがままで迷惑な子は食ってやる〜っ!!って襲ってきたんだよぉ〜っ!!】



「・・・うそぉ」









啓太よ、お前いつのまにそんなことを・・・



などと自問自答してみるが、アエリアを襲ったことなどない。

するとアエリアの真っ赤な嘘糾弾はどんどんエスカレートしていく。









【んで、この×××をぐっちゃぐっちゃにしてやる〜っ! とか俺の×××たっぷり味わえ〜っ!! とか】



「やばい、やばいぞ。そのうち全て伏字になってしまうような内容になってしまう・・・」









すでにほとんどが伏字でみなさまにお届けできない状態の糾弾はまだ続く。

メシフィアの声が聞こえないのは真っ赤になって絶句しているからだろう、これも間違いない。



手遅れになる前に取り返すか、と立ち上がり・・・









「おぉぉぉぉぉ加速装置オン!!!」



「ふぇっ!!?」









ドアノブに手をかけてから、わずか0.2秒の早業でアエリアを部屋に連れ込む啓太。

奥歯が痛いぜ、と呟く。









「お前は一体どこでそんな言葉を覚えてくるの!」



「いっやぁぁん、そんな興奮した目でボクを見ないで〜っ」



「ううううRRRYYYYY!!!! 俺がいつ、どこでお前を襲ったよ!!」



「今、ここで」



「どう見ても冤罪じゃねーか!!」



「冤罪ってなぁに? ボク難しい言葉わっかんないなー」



「この健康低脳児がぁぁっ!!」



「きゃぁぁぁんっ!」









結局こうして、アエリアのペースに巻き込まれるわけで。

アエリアが満足した頃には啓太がボロボロで。

なんてハードなお遊びなのか、と夕日を眺めながら一筋の涙を流す啓太であった・・・。

























































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「うぉーい」



「ん? なんだ悠人」









珍しいこともあるものだ、と驚く啓太。

ものぐさでボンクラでにぶちんな悠人が、珍しく新宿舎までやってきた。

となると、理由は一つしかない。









「なんか用?」



「お前とシルビア、あとアエリアに来て欲しいんだって」



「え、どこに?」



「あー、ヨーティアの研究室」



「ふーん・・・じゃぁ待ってて。二人呼んでくるよ」









そう残して、二人の部屋へ向かった。

ヨーティアといえば、大陸一の天才頭脳。

その技術は建築から訓練、生活から文化まで、ありとあらゆるものに精通しているという。

そしてなにより、メルフィーの師匠である。

メルフィーの頭脳にすら遠く及ばないのに、まさか小難しい話をされるんじゃ・・・と心配になる啓太であった。

























































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「はい来ましたー」



「ちぃーっす」



「失礼します」









3人3様の挨拶をかわして、研究室に入る。

そして3人とも思った。









「「「汚い・・・」」」



「ははっ、まぁそう言うな。お前の世界であるのだろう? 住めば都・・・と」



「・・・美人ですね」



「おっ、このヨーティア様を口説こうっていうのかい?」



「あー、違う違う。啓太はたぶん、後ろの人を言ったんだよ」



「うむ、アエリアその通りであーる」









ヨーティアというボッサリ頭(ボサボサ&モッサリ)の後ろに控えている、白い衣服に身を包んだ女性。

雰囲気が・・・スピリットだろうか。









「ちっ・・・まぁいい。こいつはイオ。自慢の助手、さ」



「はじめまして、みなさん」









冷たい・・・というより、必要最低限なことしかしゃべらない、といった印象。

挨拶するとすぐさまお茶を汲みに消えた。









「ほぇ〜・・・」



「また出たよ、啓太の年上好き」



「う、うっせ」



「ほぉ? 一応あたしも年上で女なんだけどねぇ?」



「・・・いやぁ、ちんちくりんはちょっと」



「ふんっ!!」



「ぐぉ・・・っ! おおぉぉぉぉぉぉ・・・!!!!!!」









股間を押さえて悶絶する啓太。

すっかり油断していたのか、ヨーティアの膝がモロに入った。

泡を吐きながら倒れこむ。









「け、ケイタ様っ!」



「お、オーケェイオーケェイ・・・心配するなシルビアぁぁ・・・あぁぁっ!! ひ、響く・・・うぅ・・・」









体を震わせながら、ひどい内股で立ち上がる啓太。

傍から見てて、いろんな意味でかわいそうに思える状態だ。









「なんだ、女みたいな顔してちゃんとついてるモンついてるんだな」



「セクハラぁっ! セクハラだぁっ! 誰か、誰かこいつを・・・おぉぉおぉぉぉん・・・っ!」



「あまり叫ぶと響くぞ」









畜生・・・潰れたらどうするんだ・・・と睨む啓太。

それをどこ吹く風、と受け流して話を始めるヨーティア。









「まぁ今回呼んだのは、お前らの神剣を調べさせてほしいからだ」



「・・・え、神剣?」



「ああ。お前とアエリア・・・特にアエリアの神剣は位が自由に変わるとか」



「じゃぁシルビアは?」



「某が頼んだのです。前におかしな感じがしたので・・・」



「なるほど」









腰からカノンを引き抜き、ヨーティアに差し出す啓太。

それに続いてアエリアが杖を、シルビアが剣を差し出した。









「ではしばらく預かるぞ。調べ終わったらまた呼ぶ」



「持ってきてはくれないのか」



「こっちもてんてこまいなんだ。わかってくれ」



「うい。じゃ」









神剣を持たず歩くのも久しぶりだな、と思いながら、啓太たちは研究室を出た。









「ねーねー、今日は何して遊ぼっか」



「嫌だ、だるい、帰る、寝る」



「それじゃつまらないでしょー」



「俺はチョー楽しい」



「ボクがだよー」









知ったことか、と言えたらどんなに楽だろうか。

そう言っても静まらないことがわかっているため、啓太も答えない。









「でも、神剣を持たず歩くというのは新鮮です」



「あ、やっぱりシルビアもそう思った?」



「ちっちっちっ、キミたち神剣に依存しすぎなんだよー」



「「・・・」」









アエリアの戯言はたった今から無視する協定が、啓太とシルビアの間で結ばれたようだ。









「大体、ボクならどこに置いていこうと関係ないし。忘れてもへっちゃら」



「ほぅ? なして?」



「見て驚くなよー! ポーチクパーチクホーイホイホイ♪」



「うわ、適当MAXな呪文」









そしてアエリアが手を掲げた。

するとそこに眩い光が出現、あたりを真っ白に染める。

思わず啓太とシルビアは目を閉じた。

しばらくして光がおさまる。



二人は目を開けて驚いた。

アエリアの掲げたその手は、杖をしっかりと握っている。









「・・・え、なにこれ。マジック?」



「いや、某に聞かれても・・・。アエリア、これは・・・?」



「えっへん。このスーパーミラクルガールアエリアちゃんは、神剣をいつでもどこでもホイホイ呼び出せるのです♪ ゴッキーもびっくりでしょ?」



「ゴッキーじゃねぇけど・・・え、マジで・・・?」









意外とホイホイ呼び出せるのかな、と啓太はカノンを呼ぶ。

だがその思念は闇の中へ吸い込まれていった・・・。









「・・・」









当然のごとく、手には何もない。

来る気配すらなかった。









「え、うそ。どうやった?」



「教えませ〜ん。秘密の数が、女の魅力だよ」



「マセガキが。・・・あれ、これがここにあるってことは」









あぁ、予想通りだ・・・と唸る啓太。

オロオロとさまようヨーティアの姿が見えた。

啓太たちに気づくと小走りに寄ってくる。









「大変だ! アエリアの神剣・・・が・・・?」



「はい、コレ」



「あ、あぁ」









何の説明もなく神剣を渡すアエリア。

ヨーティアはしばらく神剣とアエリアを見比べていたが、何事もなかったかのように去っていく。









「・・・アエリア」



「うん?」



「・・・ちゃんと確認しような」



「・・・うん、そだね」









そして3人、自分たちの部屋へと帰るのだった。