その後、ラキオスとマロリガンの戦争は、ラキオスの勝利という形で終結した。

結果として、ラキオスとサーギオスという2つの大国が対立する世界となる。



求めのユートに、因果、空虚のエトランジェ。

ラキオスはもはや、サーギオスと肩を並べる力を持っていた。



それゆえに、誰もが安易に想像できた。

今度の戦争は、もっと大きなものになる・・・と。









































「・・・ん」









意識を取り戻す啓太。

ゆっくりとあけた目に、石造りの壁が飛び込んできた。

足が冷たい、と足元を見ると、水がためられている窪みの中に足が固定されていた。









「・・・」



【・・・お目覚めですか?】



「ふあ?」









ぼんやり眼の啓太が顔を上げると、そこには華美というより清楚な服を着た、若い女性が立っていた。

傍に剣を携えた兵士が二人ほど。









「レスティーナ・・・女王・・・?」



【はい。このような場所に入れてしまい、申し訳ありません】



「えーと・・・」









だんだんとハッキリしてきた頭で、現状を確認する啓太。

ゆっくりと周りを見る。









「・・・ここは、牢屋・・・?」



【はい。倒れていたところを、我が国のスピリットが発見しました】



「・・・カノン・・・神剣は・・・?」



【預かっております】



「そぅ・・・」









体を動かそうとして、おもわず顔をしかめた。

体のあちこちに痛みが走る。

相棒の神剣に言われたことを思い出した。



【お前は自分のマナを使っていたんだよ・・・】









「えと・・・それで、俺は・・・?」









啓太は恐る恐る聞いた。

敵国のエトランジェ。

そう考えただけで、どう扱われるのか不安になる。









【・・・実は、あなたのことはコウイン殿から聞き及んでおります】



「光陰から・・・?」



【ですから、もしあなたさえよければ我が国に協力していただきたいのです】



「え、そんな・・・あれ?」









しかし、啓太は不思議に思った。

神剣を奪われれば、ただの兵士でもエトランジェの相手はつとまるはず。

それなのに牢屋を入れて、協力を求めるとはどういうことか・・・。









【・・・実は、あなたを我が国に迎え入れる条件として、ある仕事をしてもらいたいのです】



「仕事・・・?」



【それは・・・】





































































抵抗を続けるメシフィアらを討ち取ってください・・・





























































聞いたとき、啓太の頭は一瞬真っ白になった。

目の前の女性は、何を頼んでいるのだろうと。









「それは・・・えと・・・」



【あなたがメシフィア、メルフィーというマロリガンの重要人物の愛弟子であること】



「・・・え?」



【それを考えれば、この状態も理解できませんか?】



「・・・」









自由な状態で、師匠が抵抗を続けていると知れば、弟子がどういう行動をとるか・・・。

それを危惧して、このような状態なのだろう。

それを啓太が理解するのは簡単だった。









「でも・・・」



【現在確認されているだけで、メシフィア、メルフィーの両名と、アエリア・・・】



「・・・」









絶望感、というのをはじめて啓太は味わっていた。

仲の良かった仲間は、みんなマロリガンに残って抵抗を続けている。

エトランジェである光陰と岬のみが、ラキオスに来ただけ。









【唯一一名、あなたのもとへ来たいというスピリットがいました】



「え?」



【シルビアというスピリットです。同じ部隊に所属していたと聞きます】



「シルビアが・・・」









啓太がこのとき感じたものは、決していいものではなかった。

たとえ味方が増えたとしても、今からしなければいけないことはひとつなのだから。









「で・・・俺に・・・」



【はい。メシフィア、メルフィー・・・両名を討ち取ってください。両名を討ち取れば実質壊滅したも同然です】



「・・・そうすることで、俺のラキオスへの忠誠も・・・なーんて深読みかな?」



【・・・いえ、察しがよいようで】









体から力が抜けた。

つながれた鎖がガチャガチャと金属音をたてる。









「・・・説得するんじゃダメなんですか?」



【説得で済むのならそれが一番です。ですが両名が、とても説得で済むような人物であるかどうかはあなたが一番ご存知かと】



「・・・」









石頭で頑固一徹なメシフィア

意地っ張りで我侭なメルフィー

天真爛漫でマイペースなアエリア





どれもこれも、一筋縄ではいかない人ばかりだ、と呻く。









【すでにコウイン殿が説得を試みましたが、失敗しています】



「・・・もし、説得が俺でも不可能だったら・・・?」



【・・・討ち取るしかないでしょう。現在マロリガンのスピリットは8割があちらについていますから】



「・・・」









啓太の頭はもうパンク寸前だった。

なぜこんな事態になったのか。

そもそも、なんでメシフィアたちはマロリガンに残っているのか。









「・・・」









それを解決する方法を見つけた。

ゆっくりと顔をあげ、レスティーナを見つめる啓太。









「・・・行きます。説得するにしろ、討つにしろ、会わないと始まりませんから」



【・・・わかりました】



































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「なぁシルビア?」



「なんでしょうか?」









身支度を整えながら、やってきたシルビアに話しかける。

シルビアはすでに準備万端だった。

啓太もこころなしか急いで準備する。









「なんでシルビアだけ、こっちにきたんだ?」



「・・・」









啓太がそう聞くと、シルビアは急に黙った。

目を閉じ、神剣を軽く握り締める。









{それはですね}



{む・・・}









神剣を通しての念話だった。

カノンという相棒は返事をしなくなってしまったが、機能だけは働いている様子。

声に意識を集中する啓太。









{実は、マロリガン首都の南で落ち合う約束をしています}



{・・・}









啓太の頭でなくても、簡単に理解できること。

つまり、そこで帰って来いというメッセージだ。

それを伝えるためにシルビアがやってきた。



そういうことなのだろう。









{・・・そこで、俺たちが合流しろって?}



{・・・はい}



{・・・}









モトの仲間たちの所へ帰ることができる・・・。

うれしいはずなのに、どこか釈然としない。

啓太同様シルビアもそうなのか、どこか晴れない顔をしていた。









{・・・どしたの?}



{・・・本当に戻りますか?}



{えっ・・・}









思わぬ一言に、つい素で答えてしまう啓太。

心にグラッとくる一言。









{ケイタ様・・・ケイタ様はエトランジェですよね?}



{うん}



{・・・この世界の住人ではありませんよね?}



{そうだけど・・・?}









そこで息を整え、シルビアは意を決したかのように言い放った。









{コウイン様たちと殺しあうことになります}



{・・・!!!!!}









甘かったかもしれない。

事態は、軽い考えでは乗り越えられないものになっている。



仲間の下へ帰れば、元の世界で生きていた光陰や岬、悠人と戦うことになる。

ラキオスに残れば、メシフィアたちを最悪殺さなければいけない。









「あ・・・ぁ・・・」



「け、ケイタ様!しっかり・・・!!」









思わずふらっとしてしまい、シルビアに支えられる啓太。

腕にしがみつき、体が震えるのをとめようとする。

だがその体の震えは止まらない。









「で、でも・・・め、メシフィアたちを説得できれば・・・」



「・・・メシフィア様が口で納得するような人ではないと・・・」



「・・・ね、ねぇ・・・メシフィアはなんで・・・マロリガンに・・・?」









体の震えをとまらせて、ゆっくりと立ち上がる啓太。

それを支えていたシルビアも離れ、体裁を整える。









「某も詳しくは知らぬのですが・・・メシフィア様は捨て子だったようです」



「え・・・」



「それで孤児院で育ち、今に至る・・・」



「・・・なら、どうして?」



「・・・某はスピリットゆえ、よくわかりませぬが・・・」









故郷を攻めた相手に心を開くことはできない









「・・・そういうことなのではないでしょうか?」



「そうなの・・・?」



「ではケイタ様の本来の国が、別のどこかの国に攻められたとしましょう」









たくさんの武器を持って街を徘徊し、道や建物はめちゃくちゃ。

特に武力を行使することはなくても、街の人たちは兵士たちに命令されるままに動かされる。

武器をちらつかせ、言うことを聞かなければ・・・と脅される。









「そんな相手に、友好的になれるのでしょうか?」



「・・・」



「ましてや、そこに自分のすべてが詰まった宝物があったとしたら? 守ろうとするのではないですか?」



「・・・」









身支度を終えて、椅子に座り込む啓太。

体の力は抜け、顔は呆然としている。

ゆっくりと、長い髪をなびかせてシルビアがその顔を覗き込む。









「ケイタ様・・・」



「・・・どうすればいいのいかな」



「・・・どうすれば・・・ではなく。ケイタ様は・・・どう、したいのですか・・・?」



「・・・そんなの決まってる」









メシフィアと喧嘩して

メルフィーに勉強教わって

シルビアと稽古して

アエリアと遊びに出かけて



光陰や岬や悠人がそれを見て微笑んでて









「・・・みんなが笑顔でいられたら・・・それでいいんだ」



「・・・欲張りですね」



「欲張りだよ・・・。誰かが欠けたってダメなんだ。みんな一緒じゃなきゃ・・・がんばる意味がないよ」



「・・・なら、がんばりましょう」



「え・・・?」









シルビアが立ち上がった。

それにつられて、啓太も顔を上げる。

そこには、夕日を背に晴れやかで・・・そして凛々しい顔をした妖精がいた。

背筋を伸ばして、わずかに胸をそらし、ゆるやかな風が髪を揺らして、夕日に照らされて光る。



そして、ゆっくりとその右手が啓太の前に差し出された。









「行きましょう。ケイタ様だけ苦労をさせたりはしません」



「シルビア・・・?」



「某は初めて、ケイタ様のことを好きになれた気がします」



「えっ・・・は!? ふぁ・・・!?」









啓太の顔が一瞬で真っ赤になった。

体はどこかそわそわしはじめる。









「さぁ行きましょう。二人で・・・」



「・・・」









優しい瞳。

凛々しく、そして気高い瞳。

それに吸い込まれるように、啓太の手はシルビアの右手を取った。









「シルビア」



「なんでしょう?」



「・・・来てくれて、ありがと」



「いいえ。もしケイタ様が不甲斐なければ、某はマロリガンに戻った・・・それだけの話です」



「・・・よし、行こっ!!」



「はいっ!」