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コンコン


「・・・・・・ん?」


昼飯を部屋で食べていると、ドアがノックされた。


「誰だ〜?」


ドアを開けた。
すると、そこには一人の女性が立っている。
枝毛一つない、キレイな流れる長い髪。
整った顔立ちに、きらびやかなドレスが良く似合っている。
胸元には高価そうな宝石をあしらった、ブローチのようなもの。




――――だれ?



「ケイタさん、午後は勉強ですよね?」

「誰?」

「私ですよ、私」

「・・・・・・ごめん、そんな詐欺知らない」

「んもう」


目の前の女性は、はしゃぐ子供をあやすような可愛らしい表情をした。


「3文字くらいヒントくれ」

「じゃぁ・・・・・メガネ」


そう言って、両手の親指と人差し指をくっつけてリングを作り、手首を返してリングを目に当てた。
おそらく、メガネを示したのだろうが・・・・・・。


「ぶあぁっはっはっはっはっっ!!!!」





















ガスッ!!

ドゴッ!!!

メキョッッ!!!!

ゲシゲシッ!!!!!!




「うぅ・・・・・・痛い」

「はぁ・・・・・はぁっ!」

「殴る蹴るなどの暴行を加え、金品50万円ほどを強奪したものと思われます」

「何の事件?」

「でも、メガネ・・・・・・って、一人しかいねぇな」

「やっとわかりました?」

「メルフィー。どうしたんだ?そんなめかしこんで」

「あ、もしかしてキレイだな〜、とか思ってるんですか?」

「もしかしなくても、だよ。気合入れて、デート・・・・・にしては、ドレスは派手だよな。舞踏会?」



そんなメルヘンチックなものが、マロリガンにありそうもないが。
あったとしてもよしんば、笛の音と共にヘビが壺から出てきたりするんだろう。



「近いです。正確に言えば、お見合いですよ」

「お見合い〜?」

「私も、もうそういう歳なのですよ。およよ……」

「およよ、て。まだ20ちょいだったよな?そんな焦ることもない気がするけど・・・・・・」

「まぁ私もそう思うんですけど。両親が早く決めろってうるさくて」

「ふぅん・・・・・。相手はどんな?」

「お金持ちの贅沢息子、がピッタリ合います」

「うへ・・・・・・ブルジョワか」

「私、どーせだったらケイタさんみたい人がいいな〜」

「えっ?」

「ジョークジョーク〜♪そういうわけで、午後の勉強は自習。サボっちゃだめですよ〜?」

「い、いってら〜♪」



あくまで優雅に歩くメルフィー。
なんというか、堂に入って気品があふれ出ている。
少なくともマネはできない位には…
それにしても・・・・・・



「・・・・・・メルフィーだけはよくわかんねぇよなぁ」



そう呟いて、部屋に戻る。





――――もちろんサボったけどね



























―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





























議会。

腹の探りあいの場所。

相手に隙があろうものなら、すかさずそこへ喰らいつく。

海千山千の猛者たちが議論をかわす、想像しただけでも腹が痛くなる場所





「・・・・・・だが、ひよっこを戦場に出しても足手まといになるだけだ」

「私も大統領の意見に賛成だ」





そんな中、大統領とメシフィアは議会のオヤジどもを相手に、討論していた。

話題は当然、マナ障壁を突破されたこと。





【しかし、障壁を突破されたのだ。悠長なことを言っている場合でもあるまい】

【突破された責任は、どう取るおつもりなのかね?大統領】

「言っておいたはずです。ラキオスには、大陸一のヨーティアがいる。障壁など、時間稼ぎにしかならない、と」

【なら、せめて対策でも発案してもらいたいものですな】

【その通り。全戦力で戦わないというのなら、それ相応の案があるのでしょうな?】

「・・・・・・現状では、エトランジェを中心とした部隊に迎撃させるしかない」

【ならば、全戦力でもって迎撃するのが当然、では?】

「どのスピリットを、いつ戦場に出すか・・・・・それは、全てこのメシフィアに任せてある」

【メシフィア殿。おぬしも、全戦力で迎撃するのは反対じゃったな?】

「はい」



大統領に賛成していたメシフィアが、すくっと立ち上がる。

堂々と前を向いて、議員相手に口を開く。



「理由はいくつかあります。一番大きな理由を挙げるなら、現在教育中のスピリットらに、実力がないからです」

【しかし、おぬしが教育したのだろう?】

「誰が教育しようとも、やはり戦場で戦えるようになるまでは、時間がかかります」

【開戦に間に合うように教育せよ、と何度も要請していたはずだが?】

「それは、現在エトランジェ、コウインが指揮している部隊のスピリットらのことでしょう?」

【む・・・・・】

「私はしっかりと、戦場に出ても問題ないスピリットに鍛え上げましたが?」

【・・・・・・・そうじゃな。おぬしはしっかりとやっている。今回は、その部分は認めよう】

「ありがとうございます」



顔だけはにこやかに、でも目は鋭く、45度のお辞儀をする。 当然のことながら、場の雰囲気は痛くなる一方



【それでじゃ。新たなエトランジェ・・・・・・・ケイタ、と言ったか?ヤツはどうなのじゃ?】

【そうだ。あのエトランジェはもう戦力になるのであろう?】



議員の意識が、ケイタに集中した。

前からケイタは期待されていた。

他国に差をつける、3人目のエトランジェとして・・・・・・。



「おそらく、戦場に出ても足手まといになるだけでしょう」

【それはなぜか?前回、実力は申し分ないと報告は受けたが】

「ええ。力の扱いは天才的で、剣技はもはやスピリットと同等でしょう」

【ならば、なぜ?】

「精神面で、彼は脆い。まだ、出すことは危険と判断します」

【精神面だと?エトランジェに気遣いか?】



これは意外、という顔をする初老の男。



「彼も私たちと同じく心を持っています。スピリットであろうと、相手を殺すことは心に大きな負担をかける」

【戦争に、一戦力をそうして扱っていたら、いつまでたっても戦力にできんぞ】

「一回の戦闘で彼をダメにしたいと言うのなら、戦場に出してもいいでしょう。でも、それでいいのですか?」

【・・・・・・】

「キョウコと同じ過ちを、もう一回したいのですか?」



ある意味、議会ではタブーの発言。

メシフィアの予想通りか、その場が静まり返る。



【・・・・・うむ】

「・・・・・・・任せていただけませんか?」



しばらく唸る老人ら。
そして、一人の老人…議長が静寂を破る。



【よかろう】

【議長?!】

【ただ、次の戦闘には彼を出してもらう】

「!!?」

【彼は、おそらくこの世界の現実を知らないのだろう?】

「城と寮を往復するのみです」

【いつまでもそれではさすがに困る。戦わせなくとも良い。彼に、その目でこの世界の現実を知ってもらえ】

「・・・・・・・」

【それ以上の譲歩はしないぞ。今までならできたかもしれぬ。だが、今は戦争なのだ】

「・・・・・わかりました」

【では、これで解散としよう】

































―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

















































「と、いうわけだ。ケイタ、次の戦闘にはお前を連れて行く」

「・・・・・・・俺は戦わなくていいって言うけどさぁ」



一度、俺は戦闘を経験した。

おそらく、相当激しい戦いになるはずだ。

お互いの生死をかけた、壮絶な。



「俺が戦わなくて済む保障なんてどこにもないぜ?飛び火してきたらどーすんだ?」

「逃げろ」

「逃げろって・・・・・・それじゃ完璧足手まといじゃねぇか」

「ヘタに戦われて、重傷負われるより少しはマシだ」

「まぁ・・・・・マトモにやりあえるはずもないけどさ」



今でも思い出すと寒気がする。

圧倒的な力、流れ出す血、全てを焼き尽くそうとする炎。

もしメシフィアが助けてくれなかったら、確実に死んでいただろう。



「大丈夫だ。私も護衛につく」

「メシフィアが?」

「本来、人間は戦力として数えない。私が前線にいたらラッキー、くらいに思われている」

「・・・・・・」

「心配するな。私がお前を守り抜いてみせる」

「うぅ・・・・・・」

「それに、私が抜けたことで、戦力ダウンと思われることはまずない。これでどうだ?」



そのメシフィアの姿、声。
全てが、やっと気づかせてくれる。



「本当に、戦争なんだな・・・・・・」

「え?」

「メシフィアが、こんなに誘ってくるなんてさ。ちょっと、実感・・・・・って感じ、かな」

「・・・・・・うむ」



悩むことはない……というより、できない

大統領もメシフィアも、最大限俺のために苦労してくれた。

これ以上、無駄な苦労をさせるわけにはいかない。



「よし、いこう」

「いいんだな?」

「この世界に来た時から、定められてたことなんだ。きっと」



倉橋は言った。

試練を乗り越えて、運命を背負って・・・・・・





その先に、二人がいる。

あの二人と、出会える・・・・・。





「絶対に、もう逃がさない・・・・・・」

「え?」

「なんでもないよメシフィア。さ、行こうか・・・・・・・」

「あぁ」































俺は甘かったのかもしれない。

戦争と言っても、せいぜい何万人が虐殺されただとか、強奪や暴行などが行われているだけだと思っていた。

それなら、放送禁止になったビデオとかで見たこともあるから、きっと平気・・・・・そう、思っていた。





だけど、戦場は辛くて、苦くて、怖くて、冷たくて・・・・・・・。

ただ、生と生のぶつかりあうだけの場所。

生きるために相手を殺し、殺された仲間のために相手を殺す。



















――――それが、戦争だった













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