〜〜 メシフィア 〜〜
気がつけば、私の右手は彼の頬を平手打ちしていた。
体の震えが止まらない。
それは、痛い所を突かれた怒りからじゃない。
―――――離れていってしまう・・・・・・恐怖
「け、ケイタっ!」
「いってぇ・・・・・・・・」
「ご、ごめんっ!カッってなって・・・・・・!」
「・・・・・・・・・・・なに謝ってんだよ」
「え?」
少年の目は怒っていた。
だが、それは何か違う。
殴られたことに対する怒りじゃない―――――
「俺はお前の傷口をえぐった。なのに、なんでメシフィアが謝るんだよ?」
「そ、それは・・・・・・殴るっていうのはいけないと思うし・・・・・・」
「お前のことを慰めもせずに、傷つけたヤツをなんで殴っちゃいけない?」
「そ、それは・・・・・・・・え?」
「なんで謝った?いつも俺を苛めるお前だったら、私が正しいって顔して殴るでしょ!」
「・・・・・・・」
「自惚れるなよ・・・・・・!?お前の過去を知ったからって、俺がどうにかなるとでも思ったのかよ!!!」
「っ」
初めて――――怒鳴られた。
目の前の少年が、とてもとても・・・・・・大きく見える。
「もうそいつのこと、好きじゃねぇんだろ?だったらもう斬り捨てろよ。楽しくない過去を覚えてて、何が嬉しい?何が楽しい?」
「・・・・・・」
「そんな過去に、どんな意味があるってんだよ?辛い過去を覚えてて、誰かに知られることを恐れて」
「ケイタ」
「それで、メシフィアは生きてて楽しいかよ?つまんねーだろ?」
「・・・・・・うん」
「辛いことこそ学ぶべきものがあるとかって言葉があっけど、あんなのウソっぱちだよ」
「・・・・・・」
「学べなかったから悔しいんだろ。何も得られなかったから悲しいんだろ。反省だなんだってのは、結局自分を慰める薄っぺらいものだよ」
「・・・・・・・・」
「何年も苦しんだなら、もう捨ててもいいんじゃない」
「いいのかな・・・・・・・」
答えなんて、わかってる。
でも、情けないことに踏ん切りがつかない。
新しい一歩を踏み出せる勇気が・・・・・・ほしい。
「いいじゃねぇか。これから楽しいこといっぱいあるんだ。それを楽しくないことにしちまうような過去なんて、いらないよ」
「・・・・・・うん」
そこまで言うと、急に目の前の少年は小さくなりはじめた。
「・・・・・・・偉そうだったよな。俺」
「え?うぅん、そんなことない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えぇえぇえぇえぇえぇえぇえぇ」
「な、なに?」
私がそう言うと、すごく意外そうな顔をして、後ずさりするケイタ。
気づかないうちに、何か引かれるようなことでもしたのかな・・・・・・・・・?
「なんか女性っぽい。っていうか優しそう。なに?どういうこと?俺を何かに引っ掛けようとしてる?」
「・・・・・・・そっか。やっぱり気持ち悪い?」
「う、うぅ?どっちがイイかと言えば、今のメシフィアの方が・・・・・・肩肘張ってない感じで、イイけど」
「なら、いいでしょ?」
あ――――
なんか、自分でも・・・・・・・
軽い・・・・
さっきまでと、何かが違う・・・・・・・
「まぁ・・・・・・メシフィアもそっちがいいなら」
「なら、問題ないな」
「!?急に戻った!?」
「ん?どうした?」
「・・・・・・メシフィアって2重人格?」
「いや?」
「・・・・・・・」
――――なんてね。
でも、このくらいが・・・私とケイタには似合ってる気がする。
首をかしげ続けるケイタを見ながら、私はそう思った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
〜〜 啓太 〜〜
「・・・・・・・なー、カノン」
{なんだ?}
「なんで俺がお前の手入れをしなくちゃいけないんだ?」
{いざ戦いって時に、ポッキリ折れたらどうする?}
「お前そんな弱いの?ちゃんと鍛えないからだぞ」
{お前、どうやって鍛えろと・・・・・・・}
「俺より歳食ってんだから、自分で考えて」
{ムチャを言う・・・・・・}
とはいえ、やはり手入れをぬかったのはマズかった。
最近出番がなかったから、ずっと鞘におさめっぱなしだった。
おかげで、錆入りカノン鞘収め、250円って状態に。
{随分と安いんだな}
「まぁ、錆びついてるし・・・っていうかさりげなく心の中に突っ込んだろ?」
{誰のせいだ&気のせいだ}
「自分のことは自分で責任持てって、習わなかったのか?」
{・・・・・・・}
ふっふっふ・・・・・・
俺も随分鍛えられたもんだ。
「はい完了。じゃぁ久しぶりにオーラフォトンでも練習しよっか」
{少しだけだぞ}
俺はカノンを握り締め、左手の甲に力を込める。
その瞬間、左腕をカバーできる大きさの、光の盾が出現した。
練習のたびに、素早く出現するようになってきた。
――――俺って1031?
{・・・・・・・・ケイタ}
「あん?」
その声は、いつもと違ってどこか真剣。
俺はオーラフォトンシールドを展開したまま、カノンに意識を向ける。
{ちょっと、こっちにも力を入れてみろ}
「カノンに?どんな感じ?」
{ぎゅぅぅっと、だ}
「ぎゅぅうぅうぅ・・・・・・・・」
俺はぎゅぅうぅっと、カノンを握り締める。
{痛いわっ!!}
「え、違った?ってゆーか痛いのか?え、なに?片腹痛いわ?」
{ふざけるな。真面目にやれ}
「いや、だってぎゅぅうぅって言うから」
{・・・・・・・・できないのか?}
「なにを?」
カノンは一体、何を求めているんだろう?
それがわからないから、どうにもできない。
{この世界に来た時、いきなり襲われただろう?}
「ああ」
{そのときのように、だ}
「そのときって・・・・・・・だから、コレじゃないの?」
俺はカノンにオーラフォトンシールドを見せる(目があるわけじゃないが)。
{白く輝いたろう?この剣が}
「え、そだっけ?」
{覚えてないのか?}
「それどころじゃなかったし」
{・・・・・・そうか}
「なんか重要なこと?」
{いや、もしかして、お前は本当に天才なんじゃないかって思ってな}
「?よくわかんねぇが、俺は天才じゃないってことか?」
{ああ}
「ふーん」
あんまり興味がない。
しかし、カノンに力を注ぎ込むったって・・・・・・
カノンから力をもらってるわけだし・・・・・・。
「そういやぁさぁ。最初に襲われた時、火の玉飛んできたよな?」
{ああ}
「あーいう・・・・・・メルヘンチックだけど、魔法ってゆーの?俺にも使えないのかな?」
{ふむ。なら、少しやってみるか}
「おう」
俺は机を端に寄せて、スペースを広くする。
その中央で、カノンを構えた。
{いいか?いつも足元に展開している魔法陣があるな?}
「ああ」
俺は軽くジャンプして、魔法陣を示す。
{それに力を注ぎ込め。とりあえず、今回は敏捷さを上げるオーラフォトンだ}
「?それってどういうイメージだ?」
{イメージするのは、魔法陣だ。お前のオーラフォトンは形を変える必要はない}
「じゃー、どーすんの?」
{魔法陣に、ひし形6つがくっついた6角形があるだろう?普段は、一番上が光っている}
「そう・・・・・・みたいだな」
{右上のひし形を光らせた魔法陣を展開しろ。それも、小さくじゃぁ自分にしか効果がない。大きく、広く展開しろ}
「む、難しいな。うぅ・・・・・・!」
一度オーラフォトンを閉じて、イメージを膨らませる。
大きく・・・・・・広く!!
「ぐっ・・・・・・・おぉおぉっっ!!?」
{ッ!!!}
突然、何かが弾けとんだ感覚に襲われた。
激しい爆発音と共に、足元の魔法陣が広がっていく。
あっという間に部屋を飛び出し、部屋には6角形しか見えなくなった。
{ケイタ!おいバカ!やりすぎだ!!}
「広く、もっと広く・・・・・・っ!」
{もういいっ!広げすぎだ!力にお前が耐えられないぞっっ!!!}
さらに広がるオーラフォトン。
屋敷を越えて、魔法陣の外円が城に――――――
「このアホがーーーーっっ!!!」
スパァアァンッッ!!!
ものすごい勢いで入ってきたメシフィアに、頭をスリッパで叩かれた。
ふっと意識が抜けて、魔法陣が消え去っていく。
「ど、どしたメシフィア?」
「どこまでオーラフォトンを広げるつもりだ!」
「え、ど、どこまで・・・・・・って?」
「あやうく城下町まで飲み込むところだったぞ!そしたら民が3倍速になって大騒ぎだ!」
「な、なんで3倍・・・・・?」
{というか、人間に威力のないオーラフォトンは効かないはずだが?}
「ついでに赤くなって、大変なことになる!!」
「いや、別に聞いてないよ?そんなこと・・・・・」
「私の髪まで赤くなっちゃったじゃないか!」
「蒼いじゃん」
「オーラフォトンの練習も結構だが、迷惑をかけるな!以上!!」
言うだけ言って、スタスタ帰っていくメシフィア。
よくわらないまま、それを呆然と見送ることしかできなかった。
{しかし、今のオーラフォトン・・・・・。あれだけの大きさを展開したら、まず術者は耐えられないはず。なんで、ケイタが・・・・・・・}
その疑問も、翌日にはうやむやになってしまった。
そう―――――
開戦だった。