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「ケイタっ!何度も同じことを言わせるなっ!」

「なんだよっ!今のは俺間違ってないだろ!?」





また怒られた。

本日、8回目の怒鳴り声。

もはや慣れたものだが、やっぱりうるさい。

自分だって頑張ってるんだ、とガキっぽいが思ってしまう。



特に、メシフィアの怒鳴り声は特別なのか、耳を塞いでも貫通してくる。





「そんな隙だらけの動きがあるかっ!!」

「隙なんかないだろっ!足捌きだって・・・・・・・」

「反論するのはもっと強くなってからにしろっ!」

「うぐ・・・・・」





また、伝家の宝刀。

あれだけ・・・・・と、言ってもまだ1ヶ月程度だが、訓練しても、メシフィアに一撃食らわせることさえかなわない。



――――と、いうか、最近マロリガン全体の雰囲気が、ピリピリしてる気がする・・・・・





「わかったらさっさとやれ!」

「メシフィア。お前、なんか最近ピリピリしてるだろ」

「いつもどおりだ」

「ウソつけ。シワが増えたぞ」

「気にしない」

「美人なんだから気にしろよ・・・・・。あ」

「び、美人・・・・・?」







言ってから、しまった、と思い、口を塞ぐ。

が、既にとき遅し。

メシフィアは驚いたような顔で、こっちを見ている。

照れ隠しにゴホンと咳払い。







「とっ、とにかく、なんか最近、本当にピリピリしてる」

「・・・・・・」

「どーせ、ラキオスって国が大きくなった、みたいなコトなんだろ?」

「!なんでそれを・・・・・?」

「お前らがピリピリするって言ったら、それくらいしかねぇじゃん?」







特に、最近は俺達に情勢を知らせてくれなかったからな。

そりゃ、何かあったって気づく。

気づいてない人は、たぶんいないだろう。







――――わかってるんだ。もうそろそろ、戦争が始まるんだって・・・・・・







「そーピリピリすんな」

「・・・・・別に」

「お前が鍛えた俺達が、そう簡単にくたばるわけがねぇだろ?」

「・・・・・え?」

「お前は俺達が生き残れるように、こうしてスパルタなんだろ?」

「・・・・・」







そう、メシフィアは優しい。

そんなことわかってる。

だからなおさら、なんでわざと人を避けたがるのかわからない。







「別に俺を信じろ、とは言わねぇけど。お前が正しいと思ってやってきたことは、誰がなんと言おうと間違ってない」





―――と思うんだよ、俺はさ?





「・・・・・・」

「もう少し、おまえ自身、自信を持ったらどうよ?結構、頑張ってるよ、メシフィアは」

「・・・・ケイタ」

「励ましてやったんだ。メニュー減らして」







俺が本音をぶつけると、メシフィアはため息をついた。



――――だって、疲れたんだもん・・・・・







「どうりで優しすぎると思ったんだ」

「いつも喧嘩してる相手に、垣間見せる優しさ。これぞ、女を落とすテク!!」

「誰に・・・・・・いや、聞かなくてもわかる」

「まぁ、アイツだわな」





俺はHAHAHAと笑っている光陰を思い浮かべた。

教えとはなんぞやって、たまには説いてくれよな





――――想像の中でくらい、もっとマシに笑えっての・・・・・・







「じゃ、メニュー追加だ」

「そんなっ!!」

「人を口説こうとしたバツだ」

「べ、別に口説いてなんか・・・・・・」

「じゃぁ、なんで私に女を落とすテクを使った?」

「だって、喧嘩してるのメシフィアとだけだし。試してみよっかなーって」

「素振り500本」

「女神様ぁ・・・・・・・」







睨まれた。



――――仕方ない、やるか・・・・・・







そう思ってカノンを振り上げた瞬間、訓練場の扉が開いた。

ひょっこりと顔を出したのは、本当の女神ッ!!









「メルフィイーーーっっ!!!!!」



俺はカノンを放り投げて、メルフィーに走って飛びついた。

真正面から抱きつき、頬ずりをする。

最近誰かさんのせいでスキンシップ過剰気味・・・・・・







「わ、わっ・・・・・・メシフィア?」

「なんだ?」

「また、いじめたわけ?」

「なんで!?」

「だって、とっくに訓練時間終わりでしょ?なかなかケイタさん帰ってこないから、来てみたら泣いてるし・・・・・・」

「私が泣かしたのか?」

「他に誰もいないし。ケイタさん、スピリットの中じゃ人気者だから」

「ぅ・・・・・・そうなのか」







あぁ・・・・・♪

メルフィーって桃みたいな香りがする。

肌もスベスベで、抱き心地最高♪







「コラ、いつまでくっついてるの?もう」

「いたっ」







デコピンで、頭を弾かれた。

これが、抱きつくのをやめる合図。

しぶしぶ、メルフィーから離れた。







「ケイタさん、メシフィアはケイタが好きで好きでしょうがないから、あーして苛めてるの」

「そうなの?」

「違うッ!!」

「だから、キライにならないであげてね?」

「メルフィーがそこまで言うなら・・・・・」

「だから、違うッ!!!」

「うんうん。じゃ、勉強に行こっか?」

「もちろんっ!!」

「なんなんだケイタ。どうしてそこまで温度差があるんだ?」

「だって、俺年上が好みだから」

「あれ?メシフィアも年上だけど?」

「・・・・・・・」







俺は黙る。

メシフィアは美人で、凛々しい。

しかも、俺の女性選び必須項目、年上をクリアしてる。



―――――ダメだ。アウトオブ眼中







「なんだろ?やることなすこと、人間離れしてるっていうか」

「!!!」

「あ、バカ、ケイタさんっ!」

「なんていうか・・・・・・女?って問いたくなるような・・・・・・あれ?」









そこまで言って、気がついた。

メシフィアは俯き、体を震わせている。

メルフィーは、壁を向いて気まずそうな顔をしていた。



―――――あれ?いつもの軽口なんだけど・・・・・







「あ、あれ。なんか・・・・・マズった・・・・・?」

「ケイタ」

「え?」

「残りは・・・・・ちゃんとやっておけよ」







それだけ言って、メシフィアは訓練場を去っていく。

気まずい空気。

頭を掻いて、メルフィーに向き直った。







「メルフィー?」

「バカ・・・・・・って、ケイタさんはメシフィアのこと、知ってるわけないか」

「俺、なんかやっちまった・・・・・?」

「まぁ・・・・・・いずれバレるんだろうけど」







メルフィーが訓練場の真ん中に座った。

俺もそれに続いて、隣に座る。







「メシフィア、強いでしょ?」

「そうだね」

「本当なら、人間がスピリットに勝つ、なんて絶対有り得ないの」

「なんで・・・・・・って、わかるけど」







神剣を使って、驚異的な力を発揮できるスピリット。

対して、その体の力だけで戦う、人間。

どちらが強いかなんて、一目瞭然だった。







「メシフィア、恋したの」

「恋?」

「その人は兵士で・・・・・まぁ、メシフィアの憧れ、みたいな」

「憧れ・・・・・」

「で、その兵士が、ズタボロで帰ってきた。命に問題はなかったんだけどね」

「・・・・・・」

「そのとき、一緒に戦えたらって。それで、本来女性じゃなれない兵士になって、最前線に立って、その兵士を待ち続けた」

「・・・・・・」









――――なんとなく、終わりがわかる・・・・・・







「でも、その兵士は戦場には戻らなかった。彼は、婚約者がいて、その家業を継ぐことになった」

「・・・・・・・」

「最前線で戦い続けていたメシフィアはそんなこと知らなくて。それでも戦い続けて」

「今の実力に・・・・・・か」

「いつのまにか、人間から敬遠されるほどの強さになってた。髪も蒼かったし、もう、怪物扱い」

「・・・・・・」

「それで、数年後。まぁ、今から3年前。居心地がさすがに悪くなって、軍をやめた」

「まぁ、その憧れの人に会いに行ったんだろうな」

「うん。で、街にもメシフィアのこと、知ってる人は多くてね。彼を訪ねても、彼は出てこなかった」

「・・・・・・・」









俺は寝転がる。



――――最低、だな・・・・・・。









「まぁ、しばらくは孤児院の手伝いしてたみたい」

「孤児・・・・・なのか?メシフィア」

「うん。で、クェド・ギンがたまたまメシフィアを発掘してね。それで、今に至るわけです」

「・・・・・・むぅ」







孤児院に仕送りしてたワケは、そういうことだったんだな―――――







「だから、人間離れとか、そういう感じの言葉に敏感だったりするんですよ、ええ」

「そうかぁ。悪いことしたなぁ・・・・・・」

「謝りに行ったらどうです?」









俺はメルフィーの提案に、首を振って断った。







「俺は俺なりに、あいつのこと、理解してるつもり。まだまだ、知らないことたくさんあるけど・・・・・」

「・・・・・」

「だから、謝りに行った方が、傷つけるし、気まずくなると思う」

「そう・・・・・ですか?」

「俺がもっと仲良ければ、謝った方が良かったかも。でも、今程度の関係なら、【同情なんかして欲しくない】って感じだと思うな」

「!!・・・・・・そうかも」

「でも、アイツはメルフィーに感謝すべきだよな。こんな親友がいるなんて・・・・・・」

「ふふ」







なにやら、意味深にメルフィーが笑う。

不気味だ・・・・・。









「メシフィアにとってのケイタさんは、それ以上だと思いますけど」

「なんで?」

「端から見ればハラハラする喧嘩ばっかりしてますけど」

「まんまだけど?」

「あんなに楽しそうに、男性と話すメシフィアは久しぶりに見ました」

「・・・・・楽しそう?」









――――本気でメルフィーの感性を疑うぞ









「メシフィアはあれ以来、男性と触れ合うの、あんまり好きじゃなかったみたいですから」

「そうなのか・・・・・?」

「知らないかもしれないけど、メシフィア、男性と必ず一定距離あけてるんです。それ以内に入れることも、入ることもしなかった」

「ふむ?」









そういや一緒に出かけたときに、そんなこと言ってたな。

光陰ですら入れないらしい。









「でも、ケンカする時とか、いつもその警戒を解いてる」

「お、なるほど・・・・・ってそりゃ、喧嘩だからじゃ?」

「だから、私は、メシフィアは結構ケイタがお気に入りなんじゃないのかなーって」

「なるほど」









――――そういう根拠があったのか





少し強引だが、無視できないものがある。

さすが知性派、人を丸め込むのがうまいね。









「たぶん、あんな驚異的な力を見せても、思いっきり突っかかってくるキミが、新鮮だったんじゃない?」

「あれは助けられたから。敵で見たら、俺だって怖がったかもしれないのに」

「でも、実際キミはそういう出会い方をしなくて、怖がらなかった。―――そういうのを、運命って言うんじゃないのかな?」

「うまくまとまったね」

「それじゃ、勉強しよう?」

「・・・・・・マジかよ」

「ずれ眼鏡でも、教師ですから」

























――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

































〜〜 メシフィア 〜〜













気まずい。

おそらく昨日、ケイタは知っただろう。





どういう過去を持っているか―――――





それでも、訓練には顔を出さないといけない。

足取り重く、訓練場に向かっていた。









「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っす」

「・・・・・・ケイタ?」









まだ訓練開始1時間前だというのに、悩みの根源がいた。

訓練場の真ん中で、足をたたんで座っている。

かわった座り方だ。









「なにしてるんだ?」

「イメージトレーニング・・・・・今日やることを想像してたんだ」

「その座り方は?」

「正座っていって、俺んとこでは、まぁお堅い席とかでの座り方」

「ふむ・・・・・」











なんか調子が狂う。

いつもどおりすぎる。

てっきり、優しいこいつは何か慰めでもしてくるのかと思っていた。



――――私のことなんて、どーでもいいということか・・・・・。











「なぁメシフィア」

「?なんだ?」

「お前振られたんだってな」

「ッ!!」

「今も、好きなのか?」

「は・・・・・?」

「その兵士だよ」

「好きも何も・・・・・結婚している」









――――ってゆーか普通聞くか?無神経すぎる・・・・・。







「答えになってねぇぞメシフィア」

「えっ・・・・・」









いつものケイタじゃない。

少年らしい、いつもの笑顔が消えうせた。

そこにあるのは、私を射抜く鋭い眼光だけ。









「もう・・・・好きじゃない・・・・・な」







そんなケイタに、不覚ながらビクついてしまった。

答えもオドオドしたものになってしまう。









「なら、何男を怖がってんだよ」

「は・・・・・?」

「言っておくが、俺はそんな兵士と一緒にされたくねぇぞ」

「・・・・・」

「俺はお前のことをよく知らない。だから遠慮しねぇぞ。好きじゃなくなった男のことで、いつまでウジウジしてるつもりだ?」

「っ・・・・・・」

「お前だってわかってんだろ。お前が本当に怖がってるのは、男じゃない。自分の強さに敬遠する【人間全て】だ」

「・・・・・・!」

「また孤独になっちまうのが怖いんだろ。信じてたヤツに裏切られるのが怖いんだろ」

「やめろ・・・・・っ」

「大好きだったヤツと離れ離れになっちまうのが、怖いんだろッ!!」

「やめろっ!!!!」















































刹那・・・・・・・





訓練場に、乾いた音が響き渡った――――――













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