「・・・・・・・・・」

 

 

 

 

気がつくと、どこかわからない場所にいた。

ただ、それは強いて言うなら駅前。

 

ビルにファーストフード店。

バスの停留所に交番。

 

だが・・・・

タクシープールには一台もタクシーがない。

ショッピングモールには、一人として出歩く人がいなかった。

物音一つしない、サイレント・ワールド。

 

 

 

 

「ここは・・・・・・・・・」

 

 

 

 

夢なのか――――?

いや、夢にしてはリアルすぎる――――

 

 

 

 

「一体ここはどこなんだ・・・・・・」

 

【・・・・・・啓太】

 

「え・・・・・・!?」

 

 

 

 

突如現れる人。

声がして振り向くと、誰もいなかったはずなのに、そこにいた。

長く細い栗色の髪、澄んだ優しい瞳――――

まるで人形のような繊細さ。

どこか気だるそうな瞳が、神秘的にさえ見える。

 

 

 

 

「誰・・・・・・・?」

 

【カノン・・・・・・お前の神剣だ】

 

「なっ・・・・・・・・・お前男じゃなかったのか!」

 

【この体は作り物だ。私自身の体の記憶など、とうになくしてしまった】

 

「じゃぁ、これは誰・・・・・・?」

 

【・・・・・・・・・それは今はどうでもよいことだ】

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 

それだけ言うと、カノンは黙った。

どうやら、これ以上このことに関しては言うつもりがないらしい。

俺は体裁を整えて、疑問をぶつけた。

 

 

 

 

「で・・・・・・ここはどこ?」

 

【私がお前と直接話すためだけに用意した、幻の町だ】

 

「どうしてそんなことを・・・・・・・・・?会話だったら普通にできるじゃん」

 

【ここで話すとマナを消費せずに済むからな】

 

「ふぅん・・・・・・。で、そんなことまでして、俺と話したいことってなんだ?」

 

【話がはやくて助かる】

 

 

 

 

わからないわけがないのだが。

カノンが改まる時、確実に真面目な話をするときだと、不思議とわかっていた。

 

 

 

 

【お前は私の力に頼りすぎる】

 

「・・・・・・?」

 

【私の力を多用するな・・・・・・くだらん喧嘩で使うなど、もってのほかだ】

 

「何度も何度もそう言うけど・・・・・・・・・マナがなくなると、どうなるってんだ?」

 

【・・・・・・・・・試してみるか?】

 

 

 

キッ!!!

 

 

 

 

「っつ!?」

 

 

 

 

突然頭に激痛が走った。

一瞬で意識が朦朧とし、立っていることすら辛くなる。

地面に倒れこみ、襲い掛かってくる激痛から逃れようと頭をかきむしった。

だが、それでも痛みが和らぐことはない。

 

 

 

 

「あっ・・・・・・・・があ・・・・・・っ!!わ、割れる・・・・・・・・・っ!!!」

 

【本気でいくぞ・・・・・・】

 

 

 

 

キッ!!!

 

 

 

 

「あがぁっ!!!」

 

 

 

 

さらにひどくなる頭痛。

吐き気やめまいまで引き起こし、体が酸素を欲しがる。

だんだんと、得体の知れない恐怖に覚える。

自分の中に、まるでもう一人いるような、恐ろしい感覚。

 

自分というものが、押し潰されていく―――――

 

 

 

 

【・・・・・・こうなるんだ】

 

「はぁ・・・・・・・・・っ!はぁ・・・・・・・・・っ!!」

 

 

 

 

カノンの言葉で、頭痛がピタリと止まった。

吐き気やめまいもおさまり、視界がだんだんとはっきりしてくる。

それと同時に、意識も回復してきた。

 

 

 

 

「い、今のは・・・・・・・・・」

 

【神剣は、マナがなければ契約者を操り、マナを得ようとする】

 

「それは聞いた・・・・・・」

 

【強制力。今ので、だいたい七割の力だ】

 

「あ、あれで七割・・・・・・」

 

 

 

 

いったい、本気でマナを欲されたらどれだけ―――――

 

 

 

 

【いいか?マナが足りなくなるということは、人間で言うなら酸素が足りない状態だ】

 

「・・・・・・」

 

【苦しくて苦しくて、そしたら目の前に空気ボンベ】

 

「・・・・・・」

 

【だが、それを使うのを止めようとする親友がいたとする。どうする?】

 

「そりゃ・・・・・・」

 

【私は殺そうと思う。お前は耐えられるか?殺してしまえば楽になる。お互い、気持ちの片隅は重なっている】

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

耐えられないかもしれない―――――

 

そんな気持ちが、頭に浮かぶ。

 

 

 

 

【わかったな?お前の軽はずみな行動がどれだけ危険なことか】

 

「・・・・・・うん」

 

【さっきの酸素ボンベ・・・・・・この世界で言うと、何かわかっているな?】

 

「スピリット・・・・・・エトランジェ・・・・・・」

 

【仲間を殺してしまう、なんて事態になりたくなければ、気をつけるのだぞ】

 

「・・・・・・自重する」

 

【そうしてくれ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「・・・・・・」

 

 

 

 

目の前にある、見知らぬ女性の顔。

同時に目を開けたらしく、お互いの顔をまじまじと見つめあう。

 

 

えー・・・・・・と――――

ここは俺の部屋で、これは俺のベッド―――――

 

 

 

 

「えー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・痴漢?」

 

「それは女性の私の台詞だと思いますぅ・・・・・・・」

 

「あ、そう。ここは・・・・・・どこ?私は・・・・・・・だれ?」

 

「ここはあなたの部屋ぁ・・・・・・あなたはエトランジェケイタぁ・・・・・・・」

 

「・・・・・・・ありがとう」

 

「いえいえぇ・・・・・・どういたしましてぇ・・・・・」

 

 

 

 

また目を閉じてしまう女性。

随分と分厚いレンズの眼鏡をかけている。

 

これはあれだろうか?

メガネがないと【メガネメガネ・・・・・・】とかいって、目が3になったりするのだろうか――――?

メガネがないと明日も見えないとでも言うのだろうか――――?

 

さりげなく、メガネを取ってみる。

 

 

 

 

「うわ・・・・・・可愛い・・・・・・」

 

 

 

 

長い睫毛に、整った顔立ち。

小さめだが良い色で形の良い唇。

キメ細やかで、毛穴一つ見えない肌。

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

理性メーター、限界値突破ッ!!!!

 

いけ俺ッ!!誰も見てねぇっ!!!触っちまえッ!!!!!

 

いざとなったらタッチ&ゴーッッ!!!

 

 

 

 

 

「はふぅうぅん・・・・・・」

 

「へ・・・・・・?」

 

 

 

 

頬をパンパン叩いて気合を入れていると、その女性が間抜けな声を出した。

すっ、と腕が伸びてくる。

 

 

 

 

「え、ちょ、そんな・・・・・・あんっ、バカン・・・・・・だいたんっ♪」

 

「えへへ〜・・・・・・ちかまえたぁ☆」

 

 

 

 

女性の手は背中の後ろで握られている。

抱きつかれた格好になってしまった。

見た目からは想像できないほどの二つの膨らみが、胸に押し付けられる。

 

 

 

 

「うは。やべ、やべぇ・・・・・・・アレがする・・・・・・っ!!」

 

「抱きしめちゃうぞぉ・・・・・・・♪」

 

「うぅ・・・・・・?あの、ちょっと・・・・・・もう少し優しく抱いてぇん」

 

 

 

 

端から見ればキモイ、と思うような発言。

頭が女性の柔らかさと、甘い香りで脳が溶け始めていた。

 

もう流れに任せていくとこまでいってしまいたい――――

 

 

少し、強く抱きしめられて苦しくなってきたが。

 

 

 

 

「ん〜・・・・・・・最高・・・・・・♪」

 

「喜んでもらえて嬉しいが。俺もこの喜びを分けてあげたいから、そろそろ俺にも・・・・・・うぐっ!?」

 

 

 

 

だんだんと、体が痛くなってきた。

っていうか、どんどん力が強くなってきてるんですけど・・・・・!!

 

わざとか!?わざとなのか!?

 

 

 

 

「動かないのぉ〜・・・・・逃がさないんだからっ」

 

「あ・・・・・・・・ぐ・・・・・お、お、折れるぅっ・・・・・・!!」

 

 

 

 

その女性は無邪気な笑顔を胸に擦り付けてきた。

逃げようとしても、もうすでに遅し。

その細腕からは信じられないような怪力で、体を締め付けてくる。

この世に生まれて初めて、骨が軋む音を聞いた。

 

 

 

 

「ん〜・・・・・・?降参〜・・・・・・?」

 

「こ、降参すっから・・・・・っ!だから折らないでぇっ!!」

 

「降参なんかさっせないも〜ん・・・・・・っ」

 

「う・・・・・・!?」

 

 

 

 

 

ボキボキゴキゴキボギャッ!!!

 

 

 

 

 

「はうぅうぅっ!!!!」

 

「まだまだ行くよ〜」

 

「もう折れてるってっ!!これ以上どこ折るのっ!?」

 

「ダ・イ・ジ・ナ・ト・コ・ロ☆」

 

「やめてぇえぇえぇえぇッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背骨全損

頭蓋骨損傷

両腕骨折

両足複雑骨折

 

 

 

この日だけは、クォーリンが神に見えました―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「・・・・・」

 

「ごめんなさいっ!!」

 

 

 

 

俺に向か――――わないで、壁に向かって頭を下げるは、今日から勉強を教えてくれるメルフィー・フォーチュナー。

 

 

――――俺のあらゆる所を破滅に導いた、破壊神

 

 

 

「わ、私、寝ぼけるととんでもなくなっちゃって」

 

「とんでもなかったね。容姿に騙されたよ。アレでしょ?ナントカ呼吸法で服が破れる流派の人でしょ?」

 

「で、でも本当に無事でよかったですっ!」

 

「あんなに破滅に導かれて、無事な自分が恐ろしいよ。っていうか、俺こっちだから。いつまで壁に向かって頭下げてるの?」

 

「あ、こちらでした!?」

 

 

 

 

今度は、生ける物がなくて、何も入ってない 大きなツボに向かって頭を下げ始めた。

 

 

――――なんかムカツクんですけど

 

――――さっきは、アエリアが壁に書いた俺(もはやUMA)の絵に謝ってたし

 

 

 

 

「こっち!ベッドの上!!」

 

「あ、ベッドにいたんですか!?」

 

 

 

 

やっと俺を向いてくれたメルフィー。

 

―――って目がしわしわになってるし

 

 

 

 

「あの・・・・・・つかぬことを伺いますが・・・・・・私の眼鏡しりません?」

 

「あんたあれだろ?メガネを外して瞳が光るとき、また世の悪が一つ滅びたっていう、アレだろ」

 

「やですよ〜。私がそんな強そうに見えます?」

 

 

 

 

手に渡すと、軽く布でレンズを拭いて眼鏡をかけたメルフィー。

レンズが厚くて重すぎるのか、ズレてる。

 

 

 

 

「見えないな」

 

「でしょう?」

 

「でも見た目と怪力は関係ないから」

 

「女性に怪力って言うのは失礼ですよ!」

 

「・・・・・・ごめん、今だけはそれに賛成できない」

 

 

 

 

あちこち破滅に導かれて、それでもあんたをレディーとして扱えと?

 

 

 

 

「それと、一番重要なんだけど」

 

「はい?」

 

「なんで俺のベッドで寝てるんだよ」

 

「あ〜・・・・・」

 

 

 

 

それを聞いた途端、モジモジするメルフィー。

頬を染めて、俯きながら瞳だけ見つめてくる。

 

 

クッ・・・・・騙されるな・・・・!

 

――――コイツはくどいようだが、破壊神だ!

 

 

 

 

「怒りません?」

 

「TPOによる」

 

「てぃーぴーおー?」

 

「俺の中の核スイッチは押さないように心がける」

 

「??」

 

「まー言ってみて。絶対怒らないわけないわけないわけないだろうから」

 

「怒る・・・・・ってことですよね」

 

「とにかく言えよ。ケガさせられた俺には聞く権利があると思うけど」

 

「・・・・・かったんです」

 

「え?なに?」

 

「眠かったんです。すごく・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【大佐!全砲門準備完了です!】

 

【よし、全砲門開けっ!目標、破壊神!!核ミサイル発射ッ!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うがぁあぁあぁッッ!!!」

 

 

「やっぱり怒ったぁあぁっ!!」

 

「眠かったからで体壊されてたまるかぁあぁあぁっっ!!!」

 

「ごめんなさぁあぁあぁいっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「メルフィー・・・・・?どうした、その、5個重なったたんこぶは」

 

 

 

 

メルフィーの頭には、たんこぶにたんこぶができたたんこぶが出来ていた。

前人未踏の5個重ね。

もちろん、頭全体にたんこぶが出来ている。

もはや、頭の形が変わってしまっていると言っても過言ではない。

 

 

 

 

「気にしないで・・・・・」

 

「しかし・・・・たんこぶの、たんこぶによる、たんこぶのための社会が、頭に出来ているのだが・・・・」

 

「精一杯謝ったのに・・・・・・」

 

「誰かに殴られたのか!?」

 

「うぅん、自業自得だから・・・・・」

 

「どんな事情があっても女性に手をあげるのは許せない。誰だ!?」

 

「ありがとうメシフィア・・・・・・・・でも、本当にいいんだからね・・・・・・・?」

 

「わかってる。で、誰だ?」

 

「・・・・・・ケイタさん」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・待っていろ」

 

「え、メシフィア!?」

 

 

 

 

メシフィアが走り出した。

顔は穏やかのまま、髪が金髪になっていた。

不気味なオーラが体にまとわりついている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ぎぃいぃやぁあぁあぁあぁッッ!!!!】

 

 

 

 

マロリガンの空に響く断末魔。

そのあとしばらくして、メシフィアが満ち足りた顔で戻ってくる。

 

 

 

 

「も、もしかして・・・・・・・」

 

「話し合っただけだ」

 

「で、でも」

 

「話し合いだけで解決できるって、素晴らしいことだと思わないか?」

 

「う、うん・・・・・そうだね・・・・・・」

 

 

 

 

誰かさんの頭には、10個のたんこぶが重なっていたそうだ。

 

前人未踏の記録は、こうして破られたのだった――――