「・・・・・・」
俺は剣――――カノンを持って、訓練場にいた。
目の前には、身の丈以上もある長剣を持って、構えたメシフィア。
誰かこの状況を説明してくれ―――――
「・・・・・・どうした」
「・・・・・・一応、聞きます。これから何をするんだ?」
「・・・・・・模擬戦だ」
「・・・・・・」
呆れを通り越して放心。
悟りさえひらけちゃいそうな気持ちになった。
体力トレーニングしかしていない俺が、鬼と模擬戦?
「・・・・・・勝手にやってくれ」
とは言えなかった。
――――そう言えたらどれだけ楽なことか
だから、俺は代わりに言ってやる。
「・・・・・・マヂで?」
「マヂという意味はわからないが、本気でやるぞ」
「・・・・・・」
ああ・・・・・・今すぐ、目の前の鬼を殴りたい。
殴れたらこんな苦労もしないんだけどよ。
「では、いくぞ!」
「いやぁあぁッッ!!!」
俺は背を向けて逃げ出した。
ヒュッ・・・・・・・・・・・・・
バギャッ!!!
逃げた先にあった壁に、石がめり込んだ。
クレーターとなって、パラパラと壁が崩れている。
訓練場にいる者全てが、その凹んだ壁を凝視していた。
「・・・・・・・・・」
「逃げてどうする」
「・・・・・・・・・おうちに帰る・・・・・・・・・」
「上にお前の状態を報告しないといけないんだ。協力しろ」
「・・・・・・・・・シルビア」
俺は助けを求めて、シルビアに目をやった。
「ぶんぶんぶんぶん」
ものすごい勢いで、首が横に振られた。
「アエリア・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ムリ♪」
うわっ、一言で片付けやがったよ!
「仕方ない。じゃぁこれを全てよけろ」
「・・・・・・って」
メシフィアの足元に、たくさん小石があるんですけど。
一体いつの間に――――いやいやいや、それ以前に、アレを・・・・・・・・・?
一発で壁を凹ませるのに、それをよけろ、と?
「いくぞ」
「いやぁあぁッッ!!!」
俺は叫んで走り出した。
鬼のような顔をしたメシフィアが、小石をぶんぶん投げつけてくる。
次々壁にめり込んでいく。
「ちょ、ケイタっ!こっちこないでっ!!」
「こうなればお前らも道連れだぁあぁッ!!」
「きゃぁあぁッッ!!!!」
見学者グループに突っ込んだ。
蜘蛛の子を散らすように、去っていくみんな。
「あ、コラ!みんなで散ったら俺の姿丸見え――――ッッ!!」
「そこだ」
「ッ!!カノンバリアーーーーッッ!!!!」
俺はカノンの刀身で、その石を受け止める。
{ぎゃぁあぁッッ!!!いでぇえぇッッ!!!}
「折れたらゴメン!」
{ゴメンで済むかぁあぁッッ!!!}
カノンが泣き叫ぶ。
まるで歯医者で泣くおじいちゃんみたいだ。
{だれがジジイだっ!!}
「よっ、ほっ!!」
{うぎゃぁっ!!!}
次々飛んでくる石を、カノンで弾く。
――――お、なんか慣れてきたぞ
「ふむ・・・・・・これならどうだ?」
「げッ・・・・・・・・・!!!」
メシフィアが残りの石を全部持った。
――――う、ウソん・・・・・・・・・
「それっ!!!」
「ッ!!」
ああ――――石が飛んでくる――――
こういう命に関わる、超危機的状況ってさ・・・・・・・・・種が割れたり(意味不)スローモーションになって仰け反ってかわしたり(意味不)
そういう超特殊能力が主人公には備わってるもんじゃないの・・・・・・・・・?
「って現実逃避してる場合かッッ!!!」
{ノリツッコミかっ!!!}
「ッ!!見えたッ!!」
{?}
俺はとぉッ!っと前に飛んで伏せた。
ずざぁっ!と体を引きずると、頭の上を小石’sが飛んでいく。
そして、壁をぶち抜いて外へ落ちていく―――――
「・・・・・・・・・」
「ふむ。なかなかいい判断力だ。だが、敵の足元に飛んでくるのはどうかと思う」
「・・・・・・」
俺は右手をグッ!と握り締めて、生きてる喜びをかみ締めていた。
顔をあげると・・・・・・・・・・・・ワオ♪
「・・・・・・どうしたケイタ?」
「メシフィア、やっぱ訓練でミニスカートはいけないかと」
「・・・・・・ッ!!」
「ピンク色なんて、なかなか―――――ぎゃぁッ!!!」
顔を踏みつけられた。
――――は、は、鼻がぁっ!!!
「純粋な顔してスケベなヤツだな・・・・・・!」
「へへ・・・・・・・・・俺【トイレを便所って言ってほしくない男子】第一位だからな・・・・・・」
「無駄な調査だ。それより、お前のせいでみんな逃げてしまった」
「・・・・・・?」
顔から足をどけてもらい、訓練場を見回す。
誰一人残っておらず、訓練場のドアは開きっぱなしだった。
――――逃げるか、そりゃ
「まぁいい。今日の訓練はここまで。出かけるぞ」
「へ?どこに?」
「街を案内してやる。知っておいて損はないだろ」
「・・・・・・あ、それってデー・・・・・・・・・はい、すみません」
睨まれたよ。
親指に小石セット済みだったし。
言い切ってたらデコを撃ち抜かれてたぞ絶対―――――
「では、準備ができたら行くぞ」
「ういッス!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・・遅い」
「・・・・・・」
何も言えなかった。
急いで風呂に入って、急いで着替えて、急いで出たはずだった。
いろんな意味で3倍だったのに、メシフィアはもう待っている。
さっきと違い、ロングスカートの清楚なファッション。
「・・・・・・どうした?」
「ハッ・・・・・・いや、メシフィアって、結構オシャレなんだな、と」
「ふふ。容姿に興味がない女、とでも思っていた?」
「・・・・・・」
スミマセン、その通りデス―――――
「そういえばお前、珍しいものを腕につけているな」
「ん?あぁ、腕時計?」
俺は腕時計を外して、メシフィアに渡す。
それをまじまじと見つめ、ひっくり返したりしていじるメシフィア。
「この動く針のようなものは?」
「あっちの世界で、時間を知るための物。しょっちゅう動いてる細い針は秒っていう時間の単位を示してる」
「秒・・・・・・」
「ちなみに、長く太い針が分、短くて太い針が時、を示してる」
「こんなものがあるのか。高かっただろう?」
「ん〜?腕時計はそんな高くないよ。ワンコインで買えるような腕時計もあるし」
「こんな技術の塊が、そんなに出回っているのか・・・・・・」
「興味ある?」
「いや、私自身はさっぱりだけど、友達がこういう物を好んでな」
「へ〜」
「では、行くとしよう」
「あ、うん」
メシフィアが歩き出した。
俺はそれについて歩き出す。
――――なんだか、普通にデートみたいだぞ
――――言ったら殺られるかな・・・・・・・・・
「しかし、随分使い込まれているな」
「まぁ・・・・・・ね。形見・・・・・・だから」
「形見?」
「母さんが持ってた時計なんだ。俺がちっちゃい頃に、誕生日にねだったんだ」
「形見ということは・・・・・・」
「う〜ん・・・・・・いなくなっただけで、死んだかどうかはわからないんだけどね」
「・・・・・・そうか。ごめん」
「あ、いや。全然メシフィアが謝ることじゃないって」
「ふふ、そうか。そう言ってくれると気が楽になる」
「・・・・・・」
――――へぇ
メシフィアも、そういう笑顔あるんだ・・・・・・・・・
「なら、あまり持っているわけにもいかない。大事にしないとな」
「もち」
俺はメシフィアから腕時計を受け取る。
そのとき、メシフィアの指が俺に触れた。
瞬間、メシフィアの顔が変わる。
「・・・・・・どした?」
「・・・・・・変だな」
「え?」
「・・・・・・実を言うと、私は男が嫌いなんだ」
「・・・・・・ふむ」
「触れるどころか、一定の範囲にいれることすら嫌いだったんだ」
「え、あれ?じゃぁ今も無理してる・・・・・・とか?」
「いや、それが、お前だと平気なんだ。だから、こうして誘ったし」
「ふ〜・・・・・・ん・・・・・・」
なんか、照れるなぁ・・・・・・
「あ、それでさ。案内って言ってたけど、どこから行くの?」
俺は照れ隠しに、話を逸らす。
すると、メシフィアは唸り始めた。
――――もしかして、考えてなかった?
「・・・・・・う〜む」
まだ唸っている。
往来の中で立ち止まってるもんだから、邪魔そうな顔をして通る人も少なくない。
俺はメシフィアの手を取って、道の端まで誘導した。
「さて、と」
「・・・・・・ケイタ」
「あん?」
「・・・・・・手」
「・・・・・・」
俺は左手を見た。
別に異常はない。
むしろ綺麗、綺麗♪
「・・・・・・素でやってるのか?」
「・・・・・・ハーーーーッッ!!!!」
俺の右手が、メシフィアの手をしっかりと握っていた。
男嫌いなメシフィアにとっては、あんまり心地よいものではないのに。
俺はすぐに右手を離した。
「わ、悪い!なんかあまりにも日常的だったから」
「・・・・・・まぁいい。そうだ、お前、何か不便はないのか?」
「不便?そーだなー、枕がかわって寝にくいなぁ〜、とか濃い味の料理が食べたいな〜、とか」
「それは贅沢だ」
「ん〜・・・・・・」
とは言っても、別に不便などない。
もとから質素すぎる生活をしていたので、今更、という感じだ。
と、いうか、今の生活のほうが断然いいんですけど。
「別にないなぁ」
「そうなのか。コウインはやたら不便そうにしていたが」
「そりゃ、普通の人はなぁ」
「お前は普通じゃないのか?」
「明日の食糧も危ぶまれる毎日を送っていたから。こう見えて結構、図太いって言われる」
「意外だな。化粧したら女性に見られるような顔立ちなのに」
「よく言われるよ。・・・・・・・・・」
あ、ヤバイ。
グゥウゥ〜〜・・・・・・・・・
派手な音が、俺の腹から聞こえた。
クッ・・・・・・前兆がわかっても、止められないのがもどかしい。
「なんだ、空腹だったのか」
「まーね・・・・・・」
「なら、ご飯にしよう。少々ガラの悪いヤツらが多いが、私の知人が営業してる店に行こう」
「ふ〜・・・・・・」
外食なんて初めてだな。
おいしい料理食べられるかな?
肉!肉食べたい!
メシフィアに連れられ、やってきた店。
入るとすぐにロビーのような場所に出た。
「1時間、Aコースで」
【かしこまりました。こちらをどうぞ・・・・・・あれ、メシフィア様!?】
「ああ」
【では、いつもの部屋にいたしますね】
「あぁ、今日は連れがいるんだ。だからその部屋でいい」
【もしや、デートですか?】
「ふふ。想像にお任せする」
【ではごゆっくり】
――――なに?1時間Aコースって・・・・・・
というか、この店の雰囲気・・・・・・
ホテェル・・・・・・?
「どうしたケイタ?」
「い、いや・・・・・・この店って・・・?」
「宿屋だが」
「・・・・・・あの、メシフィア?Meたちは食事に来たのでは・・・・・・?」
「ああ。料理は部屋に運んでくれる。行くぞ」
「・・・・・・・・・」
俺はメシフィアと正反対の方向・・・・・・つまり出口へと歩き出した。
だが、それを察知したメシフィアが、俺の襟首を掴む。
「あぁれぇえぇ〜〜・・・・・・・・・・」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「どうだ?」
「〜〜〜ッッ!!!最高ッ!!もうやっべ!!」
俺はやってきた料理に感激していた。
とろけるような魚に、高級な香りのするスープ。
濃さはたりないが、初めて食べる高級料理に、俺は感激の連続だった。
高級料理を食べたことのない俺にとって、初めての体験。
「お前は餌付けに弱そうだなぁ」
「だってこれうんめっ!!でも、高いんじゃないのか?」
「食事中に、代金の話はあまり感心しないな」
「それもそだけど・・・・・・オゴリなんて・・・・・・」
「はは。金のないヤツが何を心配してるんだか」
「うぅ〜・・・・・・」
な、なんだ?
泣けてきたぞ――――?
メシフィアが、鬼じゃなくて天使に見える――――
「でもメシフィア。メシフィアはスピリットとかエトランジェに偏見持ってないの?」
「あぁ・・・・・・昨日の勉強のことか?」
「うん」
昨日、エトランジェとスピリットについて勉強した。
人間に使役され、奴隷のように扱われ、戦争の道具として駆り出されていること。
「偏見くらい、持っているさ」
「え、持ってるの?」
「訓練担当は、大抵持っていると思う」
「・・・・・・?」
「いくら愛情を注いで娘のように育てても、戦場でほとんどが消えてしまうからな」
「・・・・・・ぁ」
「必要以上の感情移入をしない。これは訓練担当の暗黙の了解だな」
「そっか。じゃぁ俺たちは頑張らないと♪」
「ん?」
「頑張って生き残るから、愛情バンバン注いでやってくれよ」
「・・・・・・ふふ、変なヤツだ」
「だからさぁ。俺の訓練メニュー「却下」――――そんなぁ・・・・・・・・・」
即答されてしまった。
「それにしても、お前は丸いヤツなんだな」
「え、なにが?」
「私にはどうもトゲトゲした目を向けてきていたが」
「・・・・・・」
そりゃぁねぇ・・・・・・
あんなムチャな筋肉トレーニングばかりさせられたら。
「さて、もう時間だ。行くか」
「おう。でも、次はどこへ行くんだ?」
「そうだな・・・・・・ふらふら回って、その都度案内する」
「いいね、それ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「で、ここが市場だ」
「なんか露天商ばっかだなぁ」
「ん?これが普通じゃないか?」
「そーなのか?」
「まぁ、マロリガンは店を作ると、入ってくる砂の処理に追われてしまうからな」
「あ、なるへそ」
「商品を少なく、売り切ってしまって、店を閉じる」
「まぁそうだなぁ・・・・・・」
砂が被って、商品が汚れちゃうからな。
「・・・・・・ん?」
「ここは噴水広場、って感じか・・・・・・」
広場に出た。
中心に、噴水がある。
ベンチみたいなのもある。
【よぉ綺麗な姉ちゃん】
「・・・・・・」
いきなり、随分軽装な男たちがやってきた。
俺を押しのけ、メシフィアに近寄る。
「・・・・・・ぉ」
腰に、カバーがかかったナイフが刺さっている。
見たところ、5人全員の腰に刺さっていた。
――――泥棒か何かか?
「・・・・・・」
【黙っちゃってどうしたの?ちょっと遊ぼうぜ】
「・・・・・・そこのお前、見たことがある。確か・・・・・・賞金首だ」
【ほぅ、姉ちゃんよく知ってるねぇ】
「だが・・・・・・ふふ、随分私もなめられたものだ」
【お、なんだ?やるってか?】
「流れ者だったのが運の尽きだ。私を知らないとはな」
――――うおぉ・・・・・・なんかメシフィア・・・・・・カァックイイなぁ!!
俺は5人がメシフィアに詰め寄る隙に、腰からナイフを抜いた。
5本・・・・・・う〜ん、手入れもされてないし、切れ味悪そう―――――
【おい、ちょっとやっちまうぞ】
リーダーらしき男がそう言うと、一斉に男たちが腰に手をやった。
メシフィアも構える。
だが、男たちは固まった。
【あ、あれ・・・・・・?】
【ない・・・・・・ないぞ!?】
男どもが、慌てだした。
俺はすすすっ・・・・・・と、移動し、メシフィアの隣に来る。
「もしかしてさぁ。探し物ってコレ?」
【あ・・・・・・あぁっ!!いつの間に!?】
「ケ、ケイタ・・・・・・?いつの間に盗った・・・・・・?」
男たちが、俺の手にある5本のナイフを見て更に慌てた。
なんだか、二流の男たちって、見てて飽きないよなぁ――――
【この女ぁ・・・・・・ナメたマネしてくれるじゃねぇか】
「なぁメシフィア。賞金首って言ってたよな?捕まえたら俺にも金出るかな?」
「私が捕まえた、という名目にすれば、お前に金が入るだろうが」
【なに無視してやがる!!】
「さっきお前ら俺のこと無視したじゃん。仕返し・・・・・・・・・それと!!」
俺はナイフを構えた。
「俺は女じゃねぇえぇッッ!!!」
その後、賞金首をボコボコにしたのは言うまでもない。
メシフィアの名前のもとで、賞金首を突き出し、大金を手に入れる。
「やれやれ・・・・・・」
「いやぁ、コレ、俺のお金かぁ・・・・・・すげぇなぁ・・・・・・」
メシフィアが、呆れたように笑っていた。
俺は金をメシフィアに渡す。
「ほい、コレ」
「・・・・・・ん?なぜ私に?」
「だって、別に俺お金いらないから」
「・・・・・・」
「メシフィアなら、無駄なことに使わないだろうし。それに、噂聞いたんだ」
「噂?」
「メシフィアが孤児院に仕送りしてるって」
「・・・・・・」
「自分のために使うのが嫌だったら、仕送りに使って」
「・・・・・・はは。お前、本当に変なヤツだ」
「これも一種の社会貢献ってヤツですよ、ははははは」
「笑いすぎだ。じゃぁ、ありがたくもらうぞ」
「おう。俺のこと売り込んでくれよ?」
「はは。わかった」