目を覚ます。
ごく自然のことだが、違和感を感じた。
何も見えない。
しっかりと目は開いたはずなのに・・・・・・だ。
「・・・・・・む?」
顔を動かすと、視界が開けた。
どうやら、白い布がかかっていたようだ。
白い布・・・・・・顔に・・・・・・・?
「はっ・・・・・・・俺は死んだのか!?幽体離脱か!?」
{起きたばかりでよくボケる・・・・・・・}
「死神っ!?ノートなんか触ってないぞ!!」
{錯乱するな!}
「こ、この声・・・・・・・」
あたりを見回す。
すると、壁に一本の剣が立てかけてあった。
全てが夢のようだが・・・・・・・全てが現実のようだ。
「・・・・・・俺、助かった?」
{そうだ}
「・・・・・・・・・」
剣を持って、力んでみた。
魔法陣が床に展開され、左手の甲からオーラフォトンシールドが現れる。
「夢じゃない」
{むやみにオーラフォトンを使うな}
「あ、うん・・・・・」
すぐに力を抜いて、剣を手放した。
ベッドに腰掛け、改めて部屋を見回す。
「・・・・・・」
意外と簡素な部屋。
テーブル一つに、洗面台つき。
ベッドのシーツはくしゃくしゃになっている。
「あっ。で・・・・・・・・あのあと、どうなったんだ?」
{お前を連れてきてくれたのだ。このマロリガンまでな}
「誰が?」
【入るぞ】
声をかけておきながら、ノックもなしに入ってきたのは、蒼い髪の女性。
腰まである髪には、枝毛一つない。
歩くたびに髪が揺れ、光を反射して輝く。
「誰?」
{啓太。お前の言葉は相手に通じないぞ}
「え?そうなんだ・・・・・・・・」
【体は平気か?】
「あ、うん・・・・・・・えっと」
首を縦に振る。
すると、わかってもらえたのか安心した顔をされた。
【今から勉強だ】
「え?」
【今のままでは会話もできない。不便だろう?】
「・・・・・・・」
とりあえず頷く。
ジェスチャーだけで生活していくのは、かなり無理がある。
だが、それ以前に・・・・・・・コイツ誰やねん
{こいつはメシフィア。お前を砂漠からここまで運んできた}
「あ、なるほど。ありがとう・・・・・・って、あ、そうか」
何度も何度も頭を下げる。
おそらくこれで通じるはず・・・・・・・。
【何をヘコヘコしている?】
「伝わってないし」
【さぁ勉強だ。そこに座れ】
仕方ない。
お礼を言うのはちゃんと喋れるようになってからに・・・・。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あなた・・・・・・・・ありがとう・・・・・・・前は・・・・・・・・」
{語順が間違っているぞ}
「あ、そうか。あなた・・・・・・前・・・・・・ありがとう・・・・・・」
メシフィアが帰り、勉強の続きをしていると、ドアがノックされた。
「どうぞ〜・・・・・・じゃなくて」
言葉が通じないのだから、言葉で言ってもしょうがない。
と、思いきや、中に入ってくる人。
「あ、あれ・・・・・・?」
「よう、大川啓太・・・・・・・だよな?」
「え・・・・・・日本語・・・・・・?」
「俺は碧光陰、この国のエトランジェだ」
「へ・・・・・・?」
いきなり現れたのは、碧光陰という男。
――――あれ、どこかで聞いた名前、どこかで見た顔・・・・・・・
日本語が喋れるあたり、同じ出身のようだ。
「まさか、また一人エトランジェが来るなんてな」
「エトランジェってなに?っていうか誰・・・・・・?」
「エトランジェっていうのは、俺たちみたいな異世界から来たヤツのこと。俺はあんたと同じ、日本出身さ」
「見たところ・・・・・・学生っぽいけど・・・・・・」
「ああ。まだ高校生だけど?」
「・・・・・・」
はっ、とした。
こいつが、倉橋の言っていた、運命を背負う人・・・・・・?
っていうか、本当にどっかで見た気が・・・・・・・有名人か・・・・・・?
「なんだ、勉強してたのか?」
勝手に人の机を覗き、乗っている本を見てそう言う光陰。
案外、失礼なヤツだな。
いや、見た目も失礼か・・・・・・
「そうだけど」
「お前もいきなり修羅場だったんだろ?ゆっくり休んでくれ」
「修羅場?」
あぁ、スピリットと戦ったことを言ってるんだな――――
「あ、それと・・・・・・」
「なんだ?」
「お前にも、この国で戦ってもらうつもりだ」
「へ・・・・・・?」
「なに、すぐにとは言わない。しばらくメシフィアのとこで鍛えられてくれ」
言うだけ言って帰ろうとする光陰。
おもわず肩を掴んでしまう。
「ど、どういうことだよ?」
「これからこの国は戦争になる。お前の力が必要なんだ」
「戦う?戦争?俺が・・・・・・・・?」
「いきなりスピリットと戦って生き残れたんだ。十二分に素質がある」
「そんなこと言ったって、戦争ってことは・・・・・・誰かを殺したりとか・・・・・・・」
「だけど、お前は死にそうになったところを助けてもらった。違うか?」
「う・・・・・・」
「俺たちだって殺したいわけじゃない・・・・・・・・でも、仲間が殺されるのは勘弁ならねぇ。そのためには、力が必要なんだ」
「・・・・・・・」
「なぁに、今すぐってわけじゃねぇよ。しばらく休んで、それから決断しろや」
「・・・・・・」
「じゃな」
そう言って、部屋を出て行く光陰。
自分の置かれた状況を突きつけられ、立ちすくんでしまう。
倉橋の言っていた戦いとは、このことなのだろうか・・・・・・・・・。
「・・・・・・戦争、ね」
{深く考えるな。お前の歩く道は、結局一つしかない}
「・・・・・・ああ」
ため息をついて、机に向かった。
どうするかはさておいて、まずは会話ができるようにしないと―――――
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【え〜、新しいヤツを紹介する。エトランジェのケイタだ】
「・・・・・・」
メシフィアに叩き起こされ、朝飯も食わずに連れてこられたのは、幽玄な雰囲気のある広間。
部屋の隅には刀が何本も乱雑に置かれており、木人もある。
目の前には、ピクリともせず直立したスピリット達。
【各自、自己紹介したいものだけしておけ。さっそく朝練に入るぞ】
「朝練ってなんの?」
【お前のメニューはコレ・・・・・・と言っても文字は読めないか。一度だけ言うから覚えろ】
「え?」
【腹筋120回×3、腕立て伏せ120回×3、短距離走×20本。それが終わり次第汗を風呂で流して、朝食を取れ。以上】
「は?え?」
【抗議は受け付けない。お前の言葉がわからないからな】
「お〜い・・・・・・」
【もちろん神剣の使用はなしだぞ。各自始め!】
言うだけ言って、メシフィアはこの部屋から出て行く。
それと同時に、スピリット達が散って、それぞれの練習を始めた。
「駅前留学でもしとけばよかったな・・・・・・」
{意味がないだろう}
「×億人と仲良くなって、残り全部とケンカしよう」
{なんだそれは?}
「駅前留学のコマーシャル」
{そんなバカな・・・・・・}
【えっと・・・・・・・・初めまして!】
「ん?」
さっそくというか、近づいてきたスピリット。
栗色の髪をツインテールで流している。
服は一般的なスピリットの服とは違い、薄いピンクの足元まであるワンピース。
くりっとした瞳と、小さな形の良い唇。
まさに美少女と呼ぶに相応しいコだった。
「えと・・・・・・」
【一応、ボクの言葉はわかってるんだよね?】
「(コクコク)」
【ボクの名前はアエリア・ホワイトスピリット。これからよろしく♪】
「(コクコク)」
【あ〜・・・・・・・・・はやく、言葉喋れるといいね】
「(コクコク)」
【初めまして。某はシルビア・ブルースピリットと申します】
また一人やってきた。
今度は腰まである青い髪を肩で結んでいる、いわゆるブルースピリットだ。
大きめだが、意思の強さが見て取れる青い瞳。
大きく膨らんだ胸と、きゅっとしまったウエスト、そのモデルのような立ち振る舞い。
こちらは美女と呼ぶに相応しい女性だ。
だが、話し方からして、少し真面目すぎる印象を受ける。
――――というか、自分を某と言う人自体初めてだ。
【これからよろしくお頼み申します】
「は、はぁ・・・・・・」
あの、ゴメン。
――――なにを?
【ケイタ様、と呼ばせていただいてもよろしいでしょうか?】
「様・・・・・・・・」
俺はイヤイヤ、と首を横に振る。
【えっ・・・・・・では、なんと?】
「・・・・・・・」
よくよく考えたら、言葉が通じない。
なんと?といわれても、答えられるわけがない。
仕方ないから、首を縦に振る。
【ならば、ケイタ様。では、某とアエリアは、朝の稽古に入りますので】
【まったね〜♪】
片方はほわほわ〜♪
片方はキリッ!!
とした雰囲気を残して、去っていった。
それを見て、様子を見ていた周りのスピリットも練習を再開した。
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【情けない】
「・・・・・・・うるせぇ」
メシフィアはわからないはずだから、思い切り目の前で愚痴る。
腹に何も入れてない状態で、あれだけのメニューをやらされればバテて当然。
死にかけて動けない俺を、思い切り見下すメシフィア。
「バカ、アホ、マヌケ、ドS、ムッツリ」
【・・・・・・】
「アクマ・・・・・・」
どうせわからないんだろ?
言いたいこと言ってやる・・・・・・・。
【言いたいことは言い終わったか?】
「・・・・・お前なんか嫌いだ」
【ほら、朝飯だ。ちゃんと食べたら、次は部屋で勉強だ。いいな?】
「・・・・・・」
言うだけ言って、訓練場を出て行くメシフィア。
他のスピリット達はとっくに切り上げていた。
くそぅ・・・・・・・
朝飯出されたら、憎めないじゃないか。
そういうさりげない優しさが、今回に限りめちゃくちゃムカツク。
「しかもうまいし」
{それはよかったな}
「なんかむかつく」
{なにが?}
「キツイならキツイだけのほうがいい。中途半端に優しくされたりとか、本気で憎めないじゃんか」
{憎みたいのか?}
「そーゆーことじゃねぇけど。とにかく、俺はアイツが大嫌いなんだよっ!」
{好みの問題か?}
「あ〜ぁ・・・・・・・どーせならさぁ、優しくて、傷ついて倒れていた俺を優しく看病してくれるような、包容力のある女性に助けられたかった」
{優しいが2回も出てきてるぞ}
「アエリアとシルビアはまぁ合格ラインかな。可愛いし、美人だし」
朝飯を胃に入れ終えて、訓練場で横になる。
腕、足、しまいには腰まで痛い。
トレジャーハントの趣味で、体は相当鍛えていたほうだったが、あのメニューは堪えたようだ。
{メシフィアが一番美人ではないのか?}
「なら、お前、メシフィアは合格ラインか?」
{いや}
「あいつと話して、楽しかったりするわけねぇじゃん?そんなつまんねぇ女は俺はゴメンだね」
{・・・・・・あっちも歯牙にもかけてないと思うが}
「ありゃ毒牙って感じだが。俺は断固教員変更を要求する!!」
{俺に要求してどうする}
拳を天井に向かって突き上げ、高々と宣言する。
虚しく声が響き、そして消えていった。
「・・・・・・・帰るか」
{勉強の時間だ}