わかっていた。
俺は普通じゃないってこと。
今でも覚えている。
あの血の海、冷たい体、曇った空、額に落ちてくる雨。
俺は逃げ込めればどこだってよかったんだ。
あの人のことを忘れさせてくれるなら――――
あの人は、大きすぎた――――
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それは、突然の訪問だった。
いつか見たような、巫女さんが家を訪ねてきた。
そして、こう言った。
――――あの人に、会いたくはありませんか?
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「倉橋時深、だったよな?どこへ行くんだ?」
「あなたが会いたがっている人のもとへ、ですよ」
「その思わせぶりな口調はやめてほしいんだけど。一体何者だよ・・・・・・?」
振り向き、わずかに微笑む時深。
何も答えず、また歩き出す。
神社の裏に入って、随分経った。
(どうして倉橋があの人のこと・・・・・・・)
もしかして、二人は知り合いだったのだろうか?
いや、そもそも、あの人は死んでいるのだから会えるはずがない。
それなのに、どこへ連れて行こうとしているのか。
疑問が絶えることなく湧き出てくる。
「ここでいいですね」
「??」
随分と林の奥まで来た。
人気もなく、まだ昼だというのに夜のように暗い。
そこで立ち止まり、向き直る時深。
「大川啓太さん・・・・・・でしたよね?」
「まあ、うん。そだけど・・・・・?」
「あなたには、エターナルになる資格があります」
「は?えたーなる・・・・・?なに、それ?」
なにやら、スカウトのようだ。
警戒心を強め、下手な宗教話になった途端に逃げ出す準備をする。
「あなたは幼い頃、母親に捨てられた」
「!!」
「その後、大河叶という女性と会い、その心の傷は癒えた」
「・・・・・・・なんで」
「だが、その彼女も屋上から飛び降り、自殺」
「・・・・・・・・・・お前はなんだ?なんでそんなことを知ってるんだよ!?」
「私が何者かは重要ではありません。あなたがすべきことは一つ。選ぶことです」
「選ぶ・・・・・・・?」
「この世界で、仲の良い友人や父親と平和に暮らすか・・・・・・・」
「暮らすか・・・・・・・・?」
「母親と、あの人に会うために、運命の戦いに身を置くか」
「・・・・・・・」
正直、意味がわからない。
一つだけわかるのは、倉橋が冗談を言っているわけではないということだ。
冗談にしては真面目すぎるし、なにより俺にこんな冗談をつく理由が見当たらない。
ふと、疑問に思う。
「えたーなる・・・・・・・って、なんだ?」
「簡単に言うなら・・・・・・私や、叶さんのような人のことです」
「え・・・・・・?」
「世界を渡り、己の使命のために永遠に戦い続ける存在」
「・・・・・」
「ゆえに、世界を渡ればその世界から忘れ去られる」
「・・・・・・・本当に?本当にそんな存在がいるのか?」
にわかには信じられない話。
世界を渡る?
忘れ去られる?
運命の戦い?
「・・・・・まだ、信じ切れないようですね」
「そう簡単に信じろって言われても・・・・・・」
「でも、あなたは会いたいのでしょう?」
「そりゃ・・・・・・会いたいけど」
なぜ捨てたのか。
なぜ自殺(?)したのか。
聞きたいこと、聞かなくちゃいけないことは山ほどある。
「・・・・・・・ならば行きましょう」
「どこへ・・・・・・?」
「運命を背負ってしまったのは、あなただけではないことを、その目で見るべきです」
「運命・・・・・・って」
「会いたいなら、そこであなたの答えを見つけてください」
「答えって?」
「なぜ、二人に会いたいのか。あなたの生まれ。そして、エターナルになるのかどうか」
「・・・・・・・どこへ行くんだ?外国?」
「・・・・・・・まだ状況を理解できてないようですね」
はぁ、とため息をつかれてしまった。
どういう意味かもわからない。
――――俺は、そんなに的外れなことを言ったのだろうか?
「あなたは異世界へと行くのですよ」
「い、異世界・・・・・・?」
「さあ、この剣を持って」
「剣・・・・・・・って」
突如、目の前に現れる剣。
ゆっくり、最初は影のような剣が、次第に物質としてまさに【存在する】。
白銀の刀身が、わずかな木漏れ日を反射して神秘的な輝きを放つ。
「ど、どうなって・・・・・・・?」
「あなたの父親の使った剣・・・・・・・・・・永遠神剣【神光】」
「父さんが使った・・・・・・・!?永遠神剣・・・・・・って?」
「その剣には、あなたの父親が背負った運命が、全て記憶されています」
「父さんの・・・・・・運命・・・・・・・?」
「必ず、あなたを導いてくれるはずです」
「・・・・・・・・なぁ」
「なんですか?」
不思議だった。
「なんで、その・・・・・・・よくわかんねぇけど、俺なんだ?」
理由がわからない。
倉橋と知り合いってわけでもなかった。
なのに、なぜ俺なのだろう―――――?
「・・・・・・・これから行く世界は、これから消滅の危機を迎えるでしょう」
「消滅の危機・・・・・・・?」
「それを防ぐのが、私たちカオスエターナルの仕事なんですが・・・・・・・」
「カオス・・・・・・・?」
「その世界には、すでに何十もの策謀がめぐらされているのです」
「・・・・・・・?」
「相手の作戦通りに見せかけて、最後に確実に勝つために、あなたが必要なんです」
「えーと・・・・・・。よーわからないけど、俺に倉橋の仕事を手伝えってこと?」
「おおまかに言えば、そうなりますね。あなたは二人に会いたい。私はその世界での仕事を成功させたい」
「どっちにも利益はあるって?」
「そう思いませんか?」
食えない笑顔だ。
計算づくのくせして、無邪気な笑顔。
「俺はその異世界とやらに行ったら、ここには戻って来れないのか?」
「それはあなた次第ですね。エターナルになるなら戻ってきても、あなたのことは父親からも友人からも消えていますから」
「・・・・・・・」
「ただ、エターナルにならないというのなら、この世界に戻してさしあげます」
「・・・・・・でも、なんかあるんだろ?」
「ええ。私と会った記憶、異世界で経験した出来事、全てあなたから消させてもらいます」
「・・・・・・・・なかったことにするってことか」
「そうしないと、この世界では元通りに生活できないでしょうから」
「・・・・・・これは、誰かに相談しちゃダメってことだよな?」
「もちろんです。あと、異世界に行ったあとも、私のことは他言無用になりますが」
「・・・・・・・」
正直、宗教よりもタチが悪い。
目の前に浮かぶ、白銀の剣【神光】。
父さんの使っていた剣。
俺の生まれ、母親と叶さん、そしてエターナル。
「・・・・・・・・・叶さんも、エターナルっつったよな?」
「ええ」
「会うためには、まずは異世界とやらに行かなくちゃいけないんだな?」
「そうです」
あの人に会える。
何度も何度も、会えなかったあの人に。
これは、十年近く待って、やっと巡ってきたチャンスかもしれない。
「・・・・・・・行くよ。いや・・・・・・・・・はじめから、こうなることが決まってたんだ」
「・・・・・ええ」
「俺は・・・・・・行くよ。エターナルとかどうとかは知らないけど。まずは・・・・・うん」
「そうですか・・・・・・。では、その剣を握ってください」
迷わずに、白銀の剣に手を伸ばした。
しっかりと掴むと、地面になにかの文字を羅列した円陣が現れる。
その文字が浮かび上がり、体の周りに浮かび、回転する。
「世界の門よ・・・・・・!」
「っつあ・・・・・・!?」
目の前が真っ白になった。
眩しくて、思わず目を閉じる。
すぐに、不思議な浮遊感を覚えた。
そのまま、体が流されていく。
だが、いきなり体に衝撃が走る。
まるで地震にみまわれたかのように、体が揺れ動く。
「くっ・・・・・・あ・・・・・・っ!!」
頭を強く打ち付けられ、気が遠くなっていく――――――。
わずかに感じたのは、サラサラと流れる砂と、今まで感じたこともないほどの熱風だった―――――――