「アエリア、腕が下がってきてるぞ!準備運動で疲れてどうする!?」
「はいっ!!」
若き妖精たちの訓練。
コウインに頼まれてしまった以上は、やるしかない。
人間にアゴでこき使われる妖精たちは、生き残らなければ意味がないのだから。
「シルビア!なんだその虫が止まるような振りは!!」
「すみませんっ!!」
私は、いつもより怒鳴る。
それも当然で、今全員にやらせているメニューは、成熟した身体と精神を持った成人スピリット用の訓練メニュー。
それを、まだ成長期のスピリットにやらせている。
力尽きて、だんだんと動きが鈍くなってくるのも道理。
脱落する者も続出した。
その中で残っている、アエリア・ホワイトスピリットとシルビア・ブルースピリット。
アエリアは属性を持っていないため、ホワイトに分類された貴重な人材。
だが、ホワイトというのは今ではかなり高齢なはず。
それなのに、性格はまんま子供という、不思議な存在でもある。
シルビアは、既に実戦部隊に行ける程の実力を持っている。
だが、まだ若すぎるため、もうしばらく様子を見ることにした。
おそらく、養成組の中ではトップの実力だろう(断言できないのは、実戦タイプの訓練をしたことがないから)。
「よし、素振りやめ!床に倒れているヤツも起きろ!!これから模擬戦を行う!」
「も、模擬戦・・・・・・・?」
「そうだ。これからは毎回模擬戦を行う。より実戦に慣れるためだ」
そこまで言うと、不満そうに見つめる瞳たちがいた。
瞳の持ち主は、床に倒れているヤツばかり。
アエリアとシルビアは既に模擬刀を持って、準備をしている。
「私を恨むか?そんな暇があるならはやく立て!!」
【横暴ですメシフィア様!昨日まで今のメニューの半分もなかったんですよ!?】
【そうですよ!ついていけるわけがないじゃないですか!】
今まで、自由な気風を重んじてきたため、こうしてスピリットから意見が出てくる。
これが私以外の人間だったら、文句を言ったスピリットは牢獄に繋がれて弄ばれ、殺されてしまうところだ。
彼女達の主張はもっともではあるが、それを認めてしまったら甘えるクセがついてしまう。
黙って、刀身が1メートル弱ある、愛用のエモノを鞘から抜いた。
「文句を言うのはそこらへんの動物だってできる。お前らの文句には実力が伴っていない」
【どういう意味ですか!?】
「ついていけるわけがない?それは先に立って導く者として経験を積んだ者が言って、それで初めて納得できる主張だ」
【・・・・・・】
「私は全員に同じように、同じ回数だけメニューを課してきた。アエリア、シルビアはこのメニューを成し遂げている。お前達にできない理由はない」
【能力には個人差があります!】
「それを私が考えていないとでも思っているのか?メニューは全員がクリアできる底辺のラインのメニューにしてある」
【けど、実際についていけない子もいるじゃないですか!】
「本当にお前は私の課したメニューを全てこなしたか?」
私がそう言うと、意味をはかりかねたのか、黙るスピリット。
そして、こう言った。
【・・・・・・どういう意味ですか】
「腹筋100回と言って、お前が60回でダウンしたとする。残りの40回を、訓練以外の時間を使って埋めたか?と聞いているんだ」
【そ、それは・・・・・・】
「そんなやり方で、私の課したメニューをやり遂げたと言えるのか?すべてこなしていて、ついていけないというのなら私も考えを改めよう」
【・・・・・・】
黙ってしまったが、瞳はまだ不満を訴えている。
それどころか、憎悪や怒りも含まれている。
長剣を地面と水平に、腕を震えさせることもなく突き出した。
「とはいえ、これではお前らもおさまらないか」
【・・・・・・・・】
「どうだ?私に一撃でも加えれば、メニューを考え直す。もし、一撃も加えられず、エモノを全員落としてしまったら、居残り」
【分かりました。やりましょう!】
「私に合った模擬刀がないから、私はこの剣を使う。お前らは模擬刀で来い」
【そ、それは卑怯です!】
「なら、お前ら一人にでも、私が傷を負わせてしまっても私の負けでいいぞ」
【言いましたね・・・・・・!?行くよ、みんなっ!!!】
床に倒れていたスピリット達が立ち上がり、剣を構えた。
――――まだ動けるじゃないか、やはり
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全員のエモノを叩き落し、さっそく実戦練習に入る。
居残り組は、悔し涙をながしながら、今日のメニューをやり直している。
「しかし、アエリアとシルビアでは相性が悪すぎるか」
「そうだよぉっ!ボクは魔法が使えなきゃマトモに戦えないよ!?」
「タメ口は禁止だアエリア。・・・・・・シルビア、私とやるか?」
「し、しかし、某ではメシフィア様の相手にならないのでは・・・・・・・・?」
チラチラと居残り組を見ながら言う。
どうやらさっきの戦いを見て、縮み上がっているようだ。
「1対1で本気を出すわけがないだろう。ちゃんとお前に合わせてやる」
「・・・・・・わかりました。それでお願いします」
「いくぞ」
「えっ!?ちょっ!?」
一歩踏み込み、長剣を切り上げた。
リーチが長いため、一歩踏み込んで斬り上げれば既に範囲内。
風圧で床の埃が舞い上がり、長剣はシルビア捉える。
だが、さっきの戦いで学んでいたようだ。
シルビアもとっさに剣を抜き、無理なく剣を受け流した。
「不意打ちは卑怯です!!」
「いくぞと言っただろう」
「同時に斬り上げなんて!!!」
「無駄口を叩く余裕はあるみたいだな。では軽く本気を出すぞ」
「ちょっ!待ってくだ―――――
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「うきゅぅ〜〜・・・・・・ひぎぃいぃいぃっっ!!・・・・・ミミガぁあぁ・・・・・ヤメテヤメテヤメテヤメテ・・・・・」
「シルビア・・・・・・だいじょぶ?」
完全に目を回しているシルビア。
アエリアの声も聞こえていないようだ。
なにか、とても悪い夢でも見ているらしい。
たまにビクッ!と動く。
「情けない・・・・・・」
「情けない・・・・・・って。いきなりそんな長い剣が飛んできたら驚くよ!!」
アエリアの猛抗議。
―――ただ、長剣を投げつけただけなんだが・・・・・
「あと少しズレてたら耳がなくなってたよ!?」
「それも計算のウチだが」
「怖くて動けないシルビアに、足払いかけてマウンドポジション取ったのだぁれ?」
「・・・・・・・」
「しかも、殴るフリまでして、寸止めするなんて・・・・・・・・イジメ?」
「スキンシップだ」
「コウインみたいなこと言わないっっ!!!」
「ハイ・・・・・・・」
毒されてきたかもしれない。
気をつけよう、と心に誓っていると、兵士がやってきた。
「メシフィア様!」
「なんだ?騒々しいな。結婚相手でも見つかったか?」
「ち、違います!緊急事態です!」
「どうした?」
「砂漠中央に膨大なマナを感知したとの報告が!」
「砂漠にマナ?マナがないから砂漠なんだろう?」
「そ、それが・・・・・・・エトランジェなんです!」
「エトランジェ?ほっとけほっとけ。どうせこの世界に存在する神剣には、全て持ち主がいるんだ」
「ですが、ダーツィなどのスピリットが確保に向かった模様です」
「放っておけ。どうせ神剣がなくて使えない、ってわかったら殺されて終わりだ」
「は、はぁ・・・・・・・本当にいいのですね?」
「ああ」
実はよく知らない。
ただ、砂漠は暑くて大変だから行きたくないだけだ。
あつい、だるい、むさい、しんどい。
「あ、大統領。メシフィア様が平気だとおっしゃっているのですが・・・・・」
「だ、大統領!?」
「メシフィア。相変わらず熱い所は苦手、か?」
私は思わず礼をする。
クェド・ギン大統領が、いきなり現れた。
報告に来た兵士に【なんで早く言わないんだ】と小声で責める。
「エトランジェは貴重な存在。別に神剣が使えなくとも、他国にやるよりはお荷物になってもらったほうがいいとは思わないか?」
「は、はぁ・・・・・・・」
「ふふ。暑い所に行かされそうになると、途端にものぐさになるクセ、まだ治っていないか」
「す、すみません」
「あいにく因果と空虚は出払っていてな。それ以外でこの任務をできるのは、お前しかいない」
「やだ・・・・・・と言ったら、どうなるんでしょう?ちなみに、ですけど」
「減給、有休カット、昇進ももちろんナシだな」
「・・・・・・・わかりました。行きます行けます行けばいいんでしょう?」
「そうだ。エトランジェには言葉が通じない。確保の時は気をつけろ」
「了解」
「一人で平気なのか?」
「・・・・・・・コイツら連れて行くと守るヤツが増えるだけです」
目を回してるシルビア。
会話を固唾を呑んで見守っていたアエリア。
必メニューをやり直している居残り組。
「ダーツィとかのスピリットが向かってるんでしょう?単独のほうがやりやすいです」
「わかった。よろしく頼む」
訓練場を出た。
そのまま城下町に出て、砂漠中央へと向かう。
すると、後ろからアエリアが走ってきた。
「なんで来た?」
「だって人間のメシフィアじゃぁ、エトランジェの位置がわからないでしょ?」
「・・・・・・そうだったな」
「ほら、水筒もたくさん持ってきたから♪さ、レッツゴー♪」
「遠足じゃないんだがな・・・・・」
スキップしながら進んでいくアエリア。
なんとなく、気が楽になった。
砂漠の中央へ向かう―――――
新たなエトランジェ――――
不気味な胸騒ぎを感じながら、私は――――――
「あっ・・・・・・」
「・・・・・・・」
アエリアが、つまずいてこけた。
首からさげていた水筒は全て壊れ、せっかくの水が道に流れ出している。
「・・・・・・」
「・・・・・・あはは☆」
「水筒のないアエリアは受験生にとっての滑り台。【滑り放題】って書いてある滑り台くらいな存在だ」
「その心は?」
「どっちも笑えない」
「うまい!!」
「だまらっしゃいッッ!!!!」