朝日の光
湧き上がる力
それら全てを、目の前に存在する敵に集中させる。
腰におさめていた剣を抜き、振りぬいた。
音もなく、風も立たず、剣が振りぬかれた。
―――――しばらく風の音だけが場を制し、目の前の木人は斬れ、重力に従い地面に倒れた。
「・・・・・またつまらぬものを斬ってしまった・・・・・・・」
「相変わらず見事な腕だな、メシフィア」
「コウインか」
その様子を見ていた光陰が、思わず拍手をした。
私は、じりじりとあとずさりする。
「メシフィア?なんで逃げる?」
「近寄るな。お前は勝手に私の体に触れる」
「スキンシップだろ?」
「犯罪だろう」
「・・・・・・・考え方の違いだな」
「そうは思わないが」
剣をおさめ、汗ばんだ額についた前髪を流す。
その様子を見て、コウインが呟いた。
「払った髪が輝いてる・・・・・・俺にはできない芸当だな」
「お前は歯が輝くだろう」
「まぁな♪(キラーン☆)」
せっかくのコウインのボケを無視。
かけておいたタオルを手に取り、汗を拭く。
さりげなくコウインが近づいてくるので、その分だけ距離を取る。
「・・・・・・徹底してるな」
「ごめん。男は嫌いだ」
「なんでだ?」
「そのうち教えてやる」
「ってゆーかよ〜・・・・・木人斬るなよ。これは打ち込み用なんだぞ」
「知っている」
「ならなんで斬るんだよ」
「そこにあったからだ」
「お前は本当に危険人物だな。だから【がけっぷちに咲く花】って言われるんだよ」
「・・・・・・・こんなところに木人が。斬ろう」
私は剣を抜く。
コウインは慌てて手を振った。
「俺は人間だッ!!」
「・・・・・・・またつまらぬものを斬るところだった」
「つまらぬものってなんだよ!!」
コウインに付き合うのも疲れた。
剣を収めて、部屋に帰ることにする。
体を翻すと、背中越しにコウインの声が聞こえた。
「全然脈なしかよ・・・・・・・」
「当たり前だ。お前とは一緒にいて楽しいだろうが、ただ・・・・・・それだけだ。好きになるに値しない」
「キツイお言葉。一度でいいから、お前が本気で好きになるヤツを見てみたいもんだ」
「見る前に死んでも知らないぞ。はは」
階段をあがり、部屋に向かう。
これからあと1時間、勉強の時間だ。
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「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「近寄るなと言っている」
「そんなこと言うなよ♪」
「次は追跡者か?」
「どうしても俺を犯罪者にするつもりか?」
「私の近くから消えるのなら。叩けばいくらでも罪がでてきそうだからな」
結局、部屋に入るまでコウインがくっついてきた。
さすがに部屋には入ってこないようだが、念のためカギをかける。
―――――机に向き直ると、そこに変態がいた。
「せめて名前で呼んでくれ」
「鍵を閉める間に部屋に入る、なんて芸当をする人間を、名前で呼ぶのは失礼と思ってな」
「そりゃどうも。メシフィアのためならなんでもやるぜ?」
「じゃぁ今すぐ出て行け」
「怒ってる?」
「私はいつもこんな感じだ」
「そういや、そうだったな」
悪いと思った様子もなく、ヘラヘラ笑うコウイン。
私は軽くため息をつき、ベッドに座れ、と指で合図してやった。
待ってました、とばかりにコウインはベッドに座る。
「脱ぐな!!」
「あ、バレた?」
「今、茶の用意くらいはしてやるから待っていろ」
クギをさして、メルフィーからもらったハーブティーの用意をする。
飲ませる男が男なので、温度も適当。
味も好みでないものを処理するために淹れる。
一服盛ってやろうか・・・・・・・・・・などと、本気で考えてしまう。
「だから脱ぐな!!!」
「はは。俺のボディを見れば、少しはその気になってくれるんじゃないかと思ってな」
そこで本当に上半身裸になれるコウインに、ある意味尊敬、普通に侮蔑の視線を送る。
まずったかな、と呟き、しぶしぶコウインは服を着た。
「んで、私に何か用か?」
「察しがよろしいことで。んでは、前置きにいくか」
「帰れ」
「冗談だよ、冗談」
「つまらない。五点だな」
「と、前置きは置いておいて」
「結局前置きに巻き込まれたか、私は」
箱を持つように両手を前に出し、【おいといて】という動作をするコウイン。
どうやら、やっと本題が始まるようだ。
真面目な顔になるから、すぐわかる。
冗談と本気が簡単に分かるから、あまり面白い男には思えない。
――――まぁ、普通の男よりははるかに面白い・・・・・・かもしれないが(照)
「・・・・・・・何を照れる、私」
「は?」
「いや、なんでもない。それで?」
「ラキオスが龍を討伐したのは知ってるか?」
「議会のクソどもがあたふたしていたぞ」
「これからの訓練は、実戦向けのものにしてくれないか?」
「全員お前の部隊のようにしろ、というのか?」
現在、コウインが指揮する部隊のスピリット達。
おそらく、世界でも1、2位を争う猛者がリーダーとなり、構成されている。
――――まぁ、それを鍛え上げたのは私なのだが(泣)
「今度はなにを泣く、私」
「は?」
「いや・・・・・・どこかからなにかが降りてきたようだ」
「??」
「だが、戦力候補は、まだ全員若い。あれくらいにまで育て上げるのは無理がある」
「何も、全員クォーリンにしてくれと言ってるわけじゃない。なんとかなるだろ?な?な?」
「断る。年端もいかないスピリットを戦士にするのは私の趣味じゃない」
「でも、このままダラダラとやっていたら、戦争になったとき困るんじゃないのか?」
「・・・・・・・」
確かに、そんな甘いことを言っていられる現実ではないことはわかっている。
ラキオスは次々と侵略し、勢力を拡大させている。
サーギオスにもエトランジェが降り立ったという情報が入っている。
戦争ともなれば、議会が無理やり全戦力投入!とかほざいて、ロクに訓練もしていないスピリットさえ出しかねない。
「・・・・・・考えておく」
「悪いな。無理言って」
「バカかお前は。謝る相手を間違っている」
「・・・・・・・・そうだな」
「お茶はどうだ?」
「・・・・・・・」
「甘ったるぅぅぅぅぅぅい、お茶だ。気休めになるぞ」
「もう少し表現を考えろ。まぁ、もらうか」
コウインはお茶を一気に飲み干し、立ち上がる。
肩に手を置こうと思っているのか、手が伸びてくる。
「ありがとさん」
「だから近寄らないで欲しい!!」
「チッ・・・・・・」
舌打ちして、コウインは部屋を出て行った。
カップを片付けて、机に向かう。
明日からの訓練メニューを考えなければいけない。
戦争なんて、お上が机の上でやるもの。
最終的に持ち駒が相手を叩きのめしていれば、ポーンがいくつ取られようが関係ないというわけだ。
それでも、生き残るために必死であがいてるスピリット達。
そして、それを生き残らせるため、または国から給料をもらうため、などなどの理由で必死で教育する者・・・。
そこまで考えて、思考を中断した。
それがいやなら生き方を変えればいい。
それができないから、自分はここにいる、ここでスピリット達を鍛えている。
自分がとても滑稽に思えたから・・・・・・・考えるのはやめた――――――