土曜日
それは週休二日のはじまり
バイト
それは命がけ
幼馴染み
それは男はいらんが女は欲しい
当たりの日
それは今日のこと
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「な〜、啓太」
「ん?」
「デートしよっ?」
「・・・・・・ごめん、よく聞こえなかった。なに?言ったら消すぞ」
「う・・・・・だってよ、お前バイトばっかで遊んでねーじゃん」
「だけど、デートという3文字は、男が男に使うと消すに値する犯罪になると思う」
「お前な、そういう偏見が同性愛者を苦しめるんだぞ」
「まだ日本じゃ社会的に認められてないから、それに乗っかっただけだ」
俺は皮肉たっぷりに言った。
お茶を淹れて、五木に差し出す。
「それに男二人だけで遊ぶなんて、寂しいことこの上ないぞ」
「だってよぉ、最近つまんなくね?お前は学校、家、バイト。俺は学校、部活、家の往復だぜ?」
「そりゃそうだけど」
確かに、青春もへったくれもない生活だ。
青春と言えば―――――
可愛い幼馴染みの世話焼き女の子が、部屋まで起こしにきてくれるところから、一日は始まる。
この場合、起こすのは義理の妹でも可!!
そんで、憎まれ口叩かれながら、朝飯たいらげて、二人で登校。
急ぐために自転車二人乗りで【重くない?】【このくらい平気さ】とか言って、いちゃついたりして。
授業はもちろん寝て過ごして、【仕方ないなぁもう、はい、私のノ〜ト〜】って秘密道具って感じでノート貸してくれて。
昼飯はもちろん一緒に!!
これ超重要!!
そのとき【相変わらず仲良しだよね〜】とか言われて、【そ、そんなことないよ〜】って、まんざらでもない感じでサ。
突然幼馴染みがよそよそしくなってさ、クリスマスとかバレンタインに呼び出されるワケ。
浮かれて行ってみたら、好きだって告白されると同時に、転校だとか海外へ行くとか言われちゃうんだよねコレが。
そんで【絆を深めたい】みたいな感じでニャンニャンあってさ。
いきなりタイムマシーンで数年後に飛んで、その子が帰ってきて結婚、子供!ハッピーエンドみたいな!!
「そう、これが青春ッ!!!」
「凄まじい偏見と願望が凝り固まった青春だな・・・・・・」
「違うの?山崎がそう言ってたぞ」
「・・・・・・・あのギャルゲーオタクね」
「ゲーム貸してやるって言われたけど、パソコンもゲームも持ってないからさ〜。ちっと残念」
「だからお前はイイ男に育ったんだよ・・・・・良かったな」
「?」
「で、遊びに行こうぜ」
朝食を口に運びながら、五木の顔を見る。
あまりにもしつこく、断りにくい。
「なぁ啓太」
「・・・・・・ん?」
「たまには羽伸ばそうぜ。ずっとそれじゃ、苦しいだろ?」
「・・・・・・」
「今日は俺のオゴリだしよ」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「行くか」
「お、やっとその気になったか」
「オゴリって言われちゃ、行かないともったいねーよな」
確かに、たまにはこう遊ぶのもいいかもしれない。
俺は受話器を取った。
「なにしてんだ?」
「え?もう少しメンツ集めようかな、と」
「バカ野郎!オレを破綻させるつもりか!」
「え?俺だけおごってもらえばいいじゃん」
「おまえなぁ、奢ってもらってるのを見たら、あ、俺も、ワシも、おいどんも!とか言って、みんな乗っかってくんだよ」
「そういうもんなのか。ってか、ワシとかおいどんって・・・・・」
「つーわけで、行こうぜ」
「お、おう」
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「じゃ行くか」
「そだな。まずはどこからにしよっかな〜」
「俺、遊びなれてないから任せるわ」
「そうだなぁ。ゲーセン、ボーリング、オタクショップ、カラオケ・・・・・・・最後は男二人じゃ論外。さて、どうしたもんか」
「オタクショップって?」
「あぁ、オタクっつっても、俺の場合のオタクだから」
「?お前どーゆー趣味だっけ?」
「模型だよ。前に話したろ?」
「あ〜」
そんなことを聞いた覚えが―――――
確か、ラジコンとかプラモデルとかジオラマとか
「どうした?」
「五木のことさえ知らねぇんだな、って」
「そうだな」
「ったく、これじゃぁマズイよなぁ」
「まぁこれから知っていけばいいさ。じゃぁボーリングからいくか」
電車に揺られてたった一駅。
地方最大の街に出た。
デパート、ゲームセンター、カラオケ、居酒屋、映画館、学習塾から銀行本店まで、一応のものは一通り揃っている。
「そういやさー、五木はなんで彼女作らないの?」
「ん?いきなりなんだよ」
「結構告白されてんだろ?聞いてるよ」
「む〜・・・・・」
ルックスが良く、頼れるタイプ。
それなのに、今までの告白を全部断ってしまったそうだ。
「大切なものを増やしたくないからな」
「は?」
「・・・・・いや、なんでもねぇ。大体な、そういうのはお前が彼女作ってから言え」
「俺だってもっと女の子と【いちゃいちゃ】したいんだ!」
「だけど、誰も本気にならない、と。かなしいねぇ・・・・・」
「それは言わないお約束でしょう!!」
「はは。お前、本気か冗談かわかんねんだよな」
「え?」
「だから、あっちも警戒しちゃうって感じ」
「?」
「ま、努力しろってこった。それだけのルックス、かなりアドバンテージあるんだからな」
「はいはい・・・・・」
結局、見た目だけよければいいってわけでもないのね。
「なんか転校生でもこねぇかなぁ」
「転校生?」
「道端に倒れている女の子を介抱したら、喋る剣を持っていて、とか」
「?なんだそれ。なんかのゲーム?」
「そうじゃなくて。つまりは【刺激】だよ【刺激】!」
「ふ〜ん?」
「転校生が来たら、きっと俺は恋に落ちるんだ!それで、船に乗って沈没するんだ!!」
「沈没するのかよ。ってか、そのネタだとお前死ぬぞ」
「あ〜、地位と名声と金と権力と彼女が欲しい」
「お前欲張りすぎだ」
そう雑談しながら、スポーツセンターに入る。
バッティング、ボーリング、テニスにサッカー、なんでも揃っている。
五木が受け付け用紙を手にとって、書き始める。
「そうだな・・・・・もう少し、そのむき出しの欲求を抑えればモテるんじゃないか?」
「嫌な言い方するな。俺は素直なだけだ」
「可愛い子を見てすぐに告白する癖は治ったけどな」
「癖じゃない!本気だったんだ!」
「でもよ、出会った翌日に告白ってどうよ?」
「はは。あれはちょっと焦ったかな」
忘れもしない、高校最初の失恋。
あれは4月上旬、誰もがまだ高校に慣れてない時期だった。
そこで俺は一目ぼれをし、翌日に告白した。
―――――結果:玉砕
まぁ、そのおかげで話の種ができて、一躍クラスの中心になってしまったわけだが。
「つーか、お前本命いるだろ」
「え?」
「だから、どうも遊びっぽく感じるんだよな」
「そんなことないけど」
「まぁ、なんか振り切ろう・・・・って感じだけどな」
「・・・・・・・」
「一部の女子には、相変わらず不評だし」
「それは初耳だ」
「ほら、真剣に恋を考えてるヤツにはさ。マジメ中のマジメちゃんたちには」
「むぅ・・・・・そうだったのか・・・・・」
「ま、それも学年で3,4人。他はみんな気にしてないし、考えることもねぇとは思うけどな」
受付を済ませ、ボーリングの球を持ってレーンへ向かう。
靴を履き替え、名前を打ち込んでいく。
「なら、もうちっと抑えてみるかな」
「そうしろそうしろ。今のうちに高校生活楽しまないとな」
「まだ始まって一年じゃねぇか」
「来年、またいいクラスになるとは限らないぜ?」
「それもそうか。よっし、じゃぁ頑張るぞぉ!!」
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画面に浮かぶ、ストライクのマーク。
これでもう何回目なのだろうか?
ズラズラと並ぶ、スペア、ストライク。
その下に並ぶのは数字ばかり。
「8フレームで197。五木、うまいな」
「俺に苦手なものはないからね〜♪」
「俺は未だに120・・・・・・笑えないほどだせぇぜ・・・・・」
「最初でそれだけいけば普通だって」
「ボーリングもよくくるのか?」
「たまに無性に来たくなる程度だ」
当たり前、という顔をされた。
そして投球、ボールは見事にカーブし、10ピン全部がバラバラ倒れる。
「俺ってやっぱお前のこと知らないんだな〜・・・・・・」
「俺も啓太のこと知らないぜ?」
「俺の趣味は?」
「トレジャーハント。バイトは喫茶店。家はボロアパートで、父親と一人暮らし。好きな女性のタイプは年上」
「・・・・・・なんで最後のまで」
「啓太って、甘えるのが苦手だけど、甘えるのが好きなんだろ?」
「・・・・・・どうなのかな。そう見える?」
ボールを持ち、構える。
背中ごしに五木の声。
「そんなの、年上の女性を見る目でわかる」
「っ?!」
ゴロゴロゴロゴロ・・・・・・・・・・・・・・・
「ガーターになっちまったじゃねぇか」
「お前わかりやすいんだよな。クラスのヤツらほとんどがそう思ってるし」
「・・・・・・・・・・」
――――正直、マズいなと思う
年上が好きっていうか。
やっぱり、甘えたいというか・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・五木」
「?」
ボールを持って構えた。
「甘えたり甘えられたりするだけの関係で、うまく付き合っていけるのかな?」
「・・・・・・・はぁ?」
「やっぱ俺は、ただ甘えたいだけなのかもしれねぇな・・・・・・・・・」
「あ・・・・・・」
投げたボールは綺麗に弧を描き、10ピンをすべて弾き飛ばした。
画面で光る、スペアのマーク。
「と、まぁ俺も実力を出せばこんなものよ」
「啓太、やるな」
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次はゲーセン。
ホッケーやレースゲーム、対戦格闘や音楽ゲーム。
それらを全て制覇したころ、お開きの時間になった。
「雪だ・・・・・・・」
「お」
足を止め、雪を手のひらに落とす。
手の暖かさで、あっというまに溶けてしまった。
「・・・・・・五木」
「・・・・・・なんだ?」
「今日は楽しかった。サンキューな」
「おう。また時間ができたら遊ぼうぜ」
「またおごってくれるなら」
「調子良すぎだバカ」
「あはは」
五木と別れ、自分のアパートへと戻る。
雪が降る中、俺は心の中に温かいものを感じる。
五木のような親友がいてくれて、自分を案じてくれる人がいて、本当に良かった、と。
その気持ちが裏切られることになるとは、この時は思いもしなかった―――――