ここは暗い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――どこ?

 

知らない。

そんなの、いちいち調べる必要もない。

 

 

―――二度と来ない場所を、調べる必要はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――奇跡

 

 

俺は、それを何度も願った。

でも、いくら願ってもあの人は帰ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――だから、俺は今でも彼女を追いかけている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――俺の今の姿を見せるために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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CONNECTING・FATE

                         〜 奇跡に手を伸ばして 〜

 

 

                              〜第1幕〜

                          いつか来る日のために…

 

 

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朝日

それは眩しくて温かい

 

朝食

それはパンと牛乳

 

洗面台

それは寝ぼけ眼とシャカシャカ音と寝癖だらけの髪の毛

 

7時50分

それは遅刻寸前の証拠

 

 

 

 

「って逃避しとる場合ちゃうか」

「まったくだ!早く着替えろ!!」

 

 

大声で怒鳴り、準備をせかす男。

流行の髪型で決め、まるで女のような綺麗な肌を持つ男―――― 【 江坂 五木 】

そして大声で怒鳴られている男――――            【 大川 啓太 】

 

俺の友人の中でも群を抜いて仲が良い――――ようは親友というヤツだ。

 

 

「人これらをまとめて大馬鹿トリオと呼ぶ」

「誰も呼んでないぜ?ってゆーか二人はコンビだし。さらに言うなら、本当に遅刻すっぞ!」

「おぉっとそうだったな!ったく誰のせいだ」

「アンタのせいだろっ!!!!」

「お決まりのツッコミありがとう♪さぁいくぞ!!」

 

 

古びた茶色い木の扉を開けて、外へ出る。

季節はもう冬、雪が降ってもおかしくない寒さだ。

一人制服の上に上着を着ていないため、その寒さに思わず震える。

 

 

「今日もまた寒いなオイ」

「だからコート買えって言ってんだよ。まぁ小さいから、伸びだしたらすぐ着れなくなっちまうが」

「へーへー。どーせ俺はチビですよ。万年背の順最前列ですよ」

「おう、じゃぁ牛乳飲むか?」

 

 

どこから出したかわからない牛乳を差し出す五木。

それをペシッ!と叩いて早歩きを始めた。

なんとなく、空を見上げてみる。

どんよりと分厚い黒い雲が、空全体を覆っていた。

 

 

「今日は雪・・・・・・・・雨くらいは降りそうだな」

「ん?そうだな」

「天気予報もふるって言ってたぜ?」

「そうかぁ」

 

 

曇った空を見上げていて、重苦しくなり見上げるのをやめた。

分厚く黒い雲がどんよりとした雰囲気を醸し出している。

これだからくもりはイヤなんだ、と呟く。

 

 

「あ」

「お、雪だな」

 

 

細かく、注意しないとわからない程度の雪。

いつもは騒がしい通学路も、誰もが雪を見上げて黙っている。

しばらくしてお互いがほぼ同時に走り出す。

 

息をわずかに切らしながら走る俺。

そして息も切らさず笑顔で走る五木。

 

人間なら息ぐらい切らせよ・・・・・・・五木

 

 

「なにハァハァしてんだ?イイ女でもいたか?」

「やめんかっ!!!その言い方ッ!!!」

「冗談だよ」

「ったく・・・・・・はぁ・・・・・・んでお前はっ・・・・・・はぁはぁ、体力バカめ・・・・・・・はぁ」

 

 

息も絶え絶えに喋る。

それに比べて五木は息を切らすこともせず、笑顔のまま走っている。

体格、肺活量の差を見せ付けられる。

 

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・・」

「危ないぞ、啓太」

「へ?・・・・・・ごはぁあぁっ!!!!?」

 

 

刹那、体に激しい衝撃。

その衝撃のせいか、学校名の書かれた石盤がドスッ!と落ちた。

 

 

「・・・・・・・言うのが遅い」

「遅かったか・・・・・・」

 

 

仰向けになって倒れ、雪の降る空を眺めた。

灰が降ってるようで、あまりキレイじゃない。

なのに、積もるとどうしてあんなにキレイなのだろう?

 

 

【朝から元気だね】

「あ、おはようございますッ!」

 

 

担任が現れた。

どうやら今日の校門当番はウチの担任のようだ。

いつもは物々しく体育教師が立っていたりするものだが・・・・・・。

 

 

【随分派手に激突したわね・・・・・・平気?】

「はぁい、もちろんです!」

【ふふ、相変わらず元気でよろしい。あ、そうだ。配るプリントが多いから、あとで手伝ってくれる?】

「もちろんですッ!!おつかいイベントはロープレの基本ッ!アドベンチャーなら好感度アップの兆し!!」

【?とにかく、ヨロシクね】

「ういうい」

 

 

担任に手を振られながら、校舎へ入る。

後ろからついてくる五木、その瞳は妙に冷たい。

 

 

「なんだよ?」

「啓太って年上の女性相手だと、妙なテンションになるよな」

「うん。もしかして教師フェチかも?」

「それ年上とカンケーないぞ・・・・・・。まぁ今の俺たちの年より下で教師なんていないけど」

「まぁやっぱ年上だよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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今日は現代文の小テスト。

高校にしては珍しく(というか現代文だけ)、小テストの平均で成績が出る。

どうやらいっぺんにやる中間期末テストが面倒らしい。

 

ちなみに、現代文教師はさっきの担任。

文部ウンタラ省さん、コレっていけないことじゃないんですか?

 

さっそくテスト用紙とにらめっこ。

それなりに勉強してきたから、問題はないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

問1

 

もし〜〜なら、を使って文章を作りなさい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先生狙ってますか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ書きましたとも。

クラスの男子過半数は書いたよ。

 

もしもし、奈良県の人ですか・・・・・・ってな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「じゃ、俺は部活だから」

「オウ」

 

【またね、啓太君】

【啓太君、まったね〜♪】

【啓太、お先ィ!】

【けーちゃん、今度の水曜日は空けといてよ?】

 

 

男女問わず、クラスメートが挨拶してきた。

なかなか人気者に位置するらしい―――――なのに彼女なし。

まぁそれは置いておいて。

 

五木は高校生の青春らしく、部活動なるものに入っていた。

五木は確かバスケットで、一年ながらすでに夏の大会にスタメンで出たとか。

 

 

「そして、俺は・・・・・・」

 

 

カバンを担いで教室を出る。

母親は蒸発してしまい、現在は父親と二人暮らし。

友人を連れてくると【うわボロッ!!!】と必ず言われるボロアパートに住んでいる。

 

父親はどういうわけか無職で、【こんにちワーク】に通う日々。

学費どころか生活費も危ない毎日のため、バイトをしている。

 

一時期は高収入のためにアチラの方へ入り、NO,1になったこともある。

バレそうになったために、すぐやめてしまったが。

 

 

「そういや来週は依頼が入ってたな・・・・・・」

 

 

趣味のトレジャーハントを生かし、度々危ない場所へと足を運ぶ。

今の日本では、大抵の土地は国有地か持ち主がいるため、許可が必要になってしまう。

それを生かし(?)、危険で探査できないような場所へ赴き、何があるかを調べてくるという危険な仕事を請け負っている。

ほとんどは興味本位かつ、金の余ってる土地の持ち主からだが、本当にごくたまに、国から依頼がある。

 

 

「でも、前の仕事はたのしかったなぁ♪」

 

 

前の仕事は国からの依頼だった。

なんでも調査チームを導いて欲しいとかで、いろんな機材を持った人たちを安全に洞窟の奥まで連れて行った。

そのとき、オマケに鉱物やら生物やらの知識を教えてもらった。

 

 

「っと」

 

 

外に出ると、思わず寒さに体が震えた。

まだ4時だというのに、暗くなり始めている。

朝降っていた雪は、やんでしまっていた。

 

 

「おっと・・・・・・バイト〜、バイト〜、た〜っぷりぃバ〜イト〜♪っと」

 

 

父親の知人の店で、洒落た喫茶店(自称)でバイトをしている。

事情を話して、隠れて中学2年の頃から働かせてもらっていた。

働き振りが認められて、昇給もあり現在は自給1120円。

その代わり、店長代理さえやらされることもある。

 

しばらく歩き、駅近くの喫茶店へと足を運ぶ。

 

 

 

 

「入りま〜す」

「あ、啓太!!」

「ん?悠人、どした?問題でもあったか?」

「急いでくれっ!今日はやたらに人が多いんだ!」

「了解、ちっと待ってろ」

 

 

ツンツン頭で、ガッチリした体つきの男。

名前は高嶺悠人といい、俺が中学3年の時にここに雇われた。

店長がやたらお気に入りで、よく愛の鞭ならぬ愛の酷使をしている。

 

最初は愛想が悪いという感じで、なかなか馴染めなかった。

だが、徹底的に営業スマイルを叩き込まれ、初めてのバイトということもあったのか、段々と打ち解けた――――と、思うんだが。

 

 

「啓太、キリキリ二つ!」

「はいよ」

 

 

この喫茶店には不思議な点として【入るときは盛大に、入らない時はペンペン草も・・・・・・】というのがあった。

訳すると、入るときはどっと来るが、入らない時は一人もこない、ということ。

それを皮肉り、バイトの間では【当たりの日、はずれの日】と呼ぶ。

全席が埋まり、次々と注文が来る様子では、今日は【はずれの日】のようだ。

 

 

「はい悠人、オリジナルブレンド入ったよ」

「サンキュー!」

 

 

悠人は1歳年上だが、親しくなってからはお互い呼び捨てで呼んでいる。

確か、妹と二人暮らしという噂があった。

それが本当かは知らないが、よく変な帽子を被った女の子がここへ来る。

その子の前ではやたら笑顔を見せることから、そういうことにしておいてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「今日もお疲れさん」

「ああ。疲れたぁ・・・・・・・・・・・・ぞっと」

「じゃぁ二人ともあがっていいよ」

「「失礼します」」

 

 

タバコをぷかぷかとふかす店長に背を向け、二人で歩き出す。

帰り道、交差点までは一緒だった。

 

 

「そういや悠人、今日はあの二人来なかったな」

「二人・・・・・・?あぁ、光陰と今日子のことか?」

「そうそう」

「その代わりお前の友達はたくさん来たな」

「ん・・・・・・そんなに褒めるなよ」

「いや、特別褒めたつもりはないんだが」

 

 

今日に限って、顔見知りが異常に多く訪れた。

次々とカウンター席に座り、仕事ぶりを見ては感心して帰っていった。

 

――――ふっ、人気者は辛いぜ・・・・・・

 

 

「でもほら。よく喋る男はこなかったな」

「今日は部活さ。おっと、ここでさよならだな」

「ああ、じゃな!」

 

 

交差点で別れ、悠人は信号を渡っていった。

しばらく待って、信号が青になり歩き出す。

角を曲がると、すぐに住宅街に入った。

それぞれの家のあかりが道路へ漏れている。

 

 

「・・・・・・・?」

 

 

ふっと、向こうから人が歩いてきた。

それだけなら気にもしないが、その人は巫女服を身につけていた。

普段見慣れない服装だけに、つい目がそちらを向いてしまう。

着ている女性がまた綺麗で、つい呆けてしまう。

 

 

「・・・・・・」

【なにか?】

「あ、いや!珍しいと思ったから」

【そうですね。最近の日本では】

「・・・・・・・・・昔ってそんなに巫女服見れたっけ?」

 

 

俺の知らない所で巫女ブームでもやってきていたのか?

日本中が【うほー、巫女巫女】【イッヒー!ビバラ巫女ぉ!!】とかいう・・・・・・・・

 

―――――落ち着け俺、そんな国じゃないだろこの日本は!!

 

 

【平安や都では・・・・・・・】

「は!?あ・・・・・・・まぁ確かに平安時代とかならいそうだね」

 

 

随分古い時代を言う女性だ。

もしかして、結構―――――って、何も言ってないのになんで睨む?

 

 

【それでは】

「あ、ども・・・・・・」

 

 

長い髪をなびかせ、歩いていく巫女。

それを眺め、口を半開きにしたまま固まる。

 

 

――――いいなぁ、巫女服。なんか目覚めそう

 

その背中が闇に隠れると、意識を取り戻したように歩き出す。

 

 

「確か神社があるって悠人がいってたな・・・・・・・・そこの人かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人そう完結し、帰路につく。

家につくと、【腹減った〜】と唸る父親を見つける。

しかたない、と軽く笑いながら夕飯を作り、風呂をわかし、そして寝る。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その日俺はなかなか寝つけなかった。

これから起こる、何かを感じ取るかのように―――――