熱い鼓動
力に比例して、濃くなるマナ
今、俺は彼を追っている
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「ウィリナ!!」
「た、助けてぇっ!!いやっ!話して!」
タキオスと呼ばれる大男の後ろで、空中に浮かんでいるウィリナ
泣き叫び、暴れるがそのマナの金縛りは解けない
目が見えない中で体の自由を奪われ、その上近くで命の取り合いが行われているとなれば、恐怖を感じない人間などいない
「リジェネ、どうした?」
「うっせぇ……っ!俺の名前はリジェネじゃない!!」
タキオスは、俺のことをリジェネと呼ぶ
なぜかなんて知らないし、知りたくもない
最も知りたくなかったことは、今の俺ではタキオスの足元にも及ばないという力の差
「テムオリン様の警戒は杞憂だったようだ。友人を人質に捕られても発奮しない男など」
「うるさいっ!」
このタキオスと遭遇したのは数時間前
ウィリナの家で普通に話していた時だった
普通に玄関をノックして、【こんばんは】という声がした
ウィリナのお袋さんが迎え入れて、俺の友人ヅラしてズカズカ二階まで入ってきやがった
こんな大男がにこやかな顔で【こんにちは、ケイタ】と挨拶してきた時はマジ吹いた
そのあとすぐに本性を現し、俺はウィリナを連れて逃げた
が、テムオリンというガキんちょに挟み撃ちされ、ウィリナは人質に取られた
テムオリンは撤退したが、タキオスの後方に刻一刻と、その体の機能を失いつつあるウィリナがいる
「急がぬとこの少女の残り四感が失われるぞ、リジェネ」
「だから俺はリジェネじゃない!!」
「吼えるだけか。まぁ神剣を砕かれたエトランジェなどその程度か」
「くそぉっ!!」
右手には、刃を失いもはや剣としては使えないカノン
本気の一撃を浴びせようと、全ての力を込めていたところを狙われた
タキオスの大剣をまともに食らって、力が暴発したのかカノンが木っ端微塵に吹き飛んだ
(頼む……カノン、カノン!!)
いくら呼びかけても、砕けた剣から声がかえってくることはなかった
体の力は抜けに抜けて、もう立っているのさえ辛くなってきた
「……腑抜けが」
「…………いいさ、そうかいそうかい!」
カノンがなくて、敵は強くて、ウィリナはピンチ
信じられるものは!?
「俺の力だけっ!!」
「!!」
地面に球体を投げつけた
爆発して煙が吹き出し、視界を狂わせる
「ふっ………これで視界を奪ったつもりか!!丸見えだ!!」
タキオスが走る
その先に、煙にうつる人影
「マナの動きでわかるぞ!」
ザッ!!
タキオスの大剣が影を斬った
人かけが真っ二つになり、消える
大剣を大きく振り回し、煙を振り払う
「なっ!?これは……ダミーか!!」
「正解はこっちさ!!」
「っ!!」
俺は輪ゴムを指にかけてタキオスに向けた
―――――世界は止まる
「………なんのつもりだ?」
「輪ゴムだぞ!当たると痛いぞ!まぶたにあたるとメッチャ辛いぞ!!」
「……ユーモアのつもりか!!」
タキオスの大剣が持ち上がって――――
「そっちこそ……俺に勝ったつもりかい!?」
「なんだと!?」
タキオスの足元にある、緑色の球体が破裂した
それが大きな爆発と轟音を生み出し、全てを飲み込んでいく!
タキオスの体は爆発で見えなくなった
「ビンゴ♪」
「ぐっ……ぬうっ!!」
タキオスの右足が吹き飛んでいた
ダラダラとマナが流れ出る
「肉眼で見たものはアテにしないで、マナの動きばかりで戦うからこうなるんだ」
現実世界で作られたもの―――爆弾なんかは、微生物程度のマナで大規模な攻撃ができる
当然のことながら、そんなものを持っているのは俺くらい
折れたカノンを囮にすれば、なんとかなる
「どうだい?神剣もつかってねー弱小エトランジェに片足を奪われた気分は?」
「慢心した……ということか……っ!」
「爆弾はあと3つある。両足消し飛ばされたくなければ、今すぐウィリナを解放して帰りやがれ!!」
「ぐっ………おおおおおっ!!!本気を出させたなリジェネ!」
「っ!?」
タキオスの体が急に暴れだした
急激に右足は再生していき、威圧感はとんでもないくらい増す
そのはちきれんばかりのオーラが、タキオスの体からにじみ出てくる
「そ、そんなアホな………」
「ふんぬっ!!」
遅かった
何もかもが
大剣の射程外だと思っていた
タキオスが振るった大剣は、俺の体に触れていない
それでも、俺の体を切り裂くには十分な威力すぎた
腹部に深い傷がつく
血が吹き出し、あっという間に頭から血の気が引いた
「え………あ…………」
薄れいく意識
体の自由はきかない
手も足も、口さえ満足に動かない
地面に倒れ、土の味さえあまりしない
「ザコだったな………」
本気を出したくせに
そう言いたいがいえない
まさに、死人に口なしというやつだった
「死ぬ………か………」
きっと、俺の顔は絶望に満ちていると思う
死ぬ人っていうのは、生きる気力を失った人
今の俺がそうだった
もう、生きたいと思えない
【啓太君】
(………叶さん、か……俺はもうダメだよ………)
【私……私よ?】
(はは………)
【終わりにしたいの?もうダメ?】
(ダメっす………もう、ダメです………)
【ウソよ。今、体が動かないから絶望してるだけ】
(え?)
【体が自由に動けたら?それでも自らまた命を捨てられる?】
(………)
【それはニセモノの絶望よ。あなたはまだ生きたい。そうでしょ?】
(あなたを信じて。奇跡を信じて。あなたはそれを起こせる力を持ってる………)
【そう。その意気よ。さぁ、あなたは目覚めた!】
(リジェネの力に。奇跡を司る神剣の力に!)
気づけば、俺は立っていた
右手に、二つの球体が回り鋭く枝分かれしたカノン
背中には大きな白い2枚の翼
左手首には、真っ赤なブレスレット
「これは……っ!まさかっ!?目覚めたというのか!?早すぎる!!……そうか、ラグナロクの契約者!アイツか!」
「お、タキオスなんか焦ってるな。もしかしていけるのか?」
{啓太、まずは左手で腹部の傷を治せ}
「え?どうやって?」
{左手で触れるだけでいい}
「?」
左手を腹部に当てた
みるみる傷が治っていく
その手並みはグリーンスピリットの治療呪文の比ではなかった
「おぉ!?なんかすごい!」
{随分余裕が出てきたようだな。いくぞリ……啓太}
「リジェネって言おうとしただろ?お前もなんか知ってるな?」
{知らん知らん、なーにも知らん!ほら、タキオスをはやく消し飛ばせ}
「わ、わかったよ。じゃぁタキオス……ごめん」
「………そう簡単に退いてしまえない。勝負だ、リジェネ!!」
「だからリジェネじゃねーっつってんだろ!!」
カノンを地面に刺して、オーラフォトンを展開した
その場全体に白い魔法陣が現れ、右手に膨大なエネルギーがたまっていく!
「や、やべ。これ強すぎんじゃね?」
{相手は殺してもどっかで再生する野郎だ。遠慮なく消し飛ばせ!!}
「オッケー!」
タキオスの大剣が予想以上に速い!
まだあふれ出てくるエネルギーを溜めるより先に、タキオスの大剣が振り下ろされる!
「でぇいっ!なるようになりやがれっ!!俺はここで死ぬわけにはいかねーんだっ!!」
まだ溜まりきらないエネルギーを、右手ごと突き出した
タキオスの大剣、その黒いオーラフォトンが全てエネルギーに弾かれた!
その黒いオーラフォトンがタキオスを襲い、吹き飛ばす!
「が、あっ………っ!!」
「ウィリナっ!今助けてやる!!」
真っ白なオーラオフォトンの光球
バスケットボール大になってから、それを解放した
宙に波紋が浮かび、地面の雪は吹き飛んだ
草木も一瞬で吹き飛んで、まるで台風のような衝撃が俺の体を襲う
まっすぐタキオスに向かい、そのオーラフォトンは巨大な光線となって飲み込んでいく!
そこにあるもの全てを崩壊させ、消し飛ばす
光線のあとには、焼けた大地しか残らなかった
「………」
{………これほどとは思わなかった}
「ってかやばいじゃねぇか!ソスラスがタキオスの背後にあったら消し飛んでたぞ!!」
{それだけのものがお前に蓄積されてた、ということだろ}
「ん〜……よくわかんねーけど………」
背中の翼は消え、左手にブレスレットが残るのみだった
さっきみたいな治癒の力は感じない
「あ、ウィリナ!平気か?」
「う、うん………すごい……丸焼け………」
「あ、あはは……………………………………………………………………………………………………………え?」
「見える………私、見えるよ!?」
「な、なんかすげー!奇跡ってヤツじゃないのかこれ!?」
「見える……この雪も、空も!」
そのあと、感動しすぎで踊りまくった(ウィリナは足が弱いため座ったまま
強くなった気がしたのでレイナに模擬戦を申し込んだらコテンパンにのされたが
結局、今回の俺の実力は暴発的なものだろうということでケリがつき、四神剣の4人に追いつくには、まだ訓練が必要ということになった
左手に力を溜めてももう治癒能力はなくなってるし、またあのくらい派手なオーラフォトンを発生させようとしたら頭がクラクラした
ウィリナに関してはもう誰もが喜んでいた
目が見えるようになり、積極的に外に出るようになったらしい
そして数ヵ月後
唐突に叶さんが帰ってきた
やたらニヤニヤして【やったじゃない】とか言ってきたが
なんでも、【裏で操ってるヤツ】について話があるらしく、すぐにラキオスに向かえとのことだ
もうすぐ、決戦になる
俺はそれに、一抹の不安を抱かずにはいられなかった―――――――