「お〜、みんなお帰り。夕飯できてるよ」

 

 

 

 

 

 

 

ズタボロで帰ってきたみんなをねぎらう。

出撃できないときって、こんなにも悔しい気持ちになるものなのか、と実感した。

せめても、と夕飯をアエリアと作っておいた。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます。今すぐいただきますね?」

「そうしてくれメルフィー。それじゃ、席について〜」

「おいしいメシなんでしょうね?ケイタ」

「当たり前だろ?俺とアエリアで作ったんだ。な?アエリア」

「ね〜!ボクとケイタならバッチリだよ♪」

 

 

 

 

 

 

かくして、また1人の犠牲も出さずに終了した戦い。

みんなはかなり苦戦したようだ。

 

それは、体のあちこちに残っている、まだ癒えていない傷の多さで窺い知ることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ケイタ。あ〜ん♪」

「や、やめろよアエリア……」

「いいでしょ?ほら、あ〜ん………」

「あ〜ん………」

 

 

 

 

 

最初躊躇うが、一瞬にして涙目されたので、大人しく――――

 

アエリアに食べさせてもらう……。

顔から火が出そうなほど恥ずかしい………。

 

 

 

 

 

 

「どう?おいしい?」

「あ、あぁ。さすがアエリアだ……と褒めておく」

「えへへ〜♪」

「本心はアエリア、料理できたんだな」

「あ〜!ひっど〜いっ!じゃぁ明日も明後日もケイタ当番ね!」

「えぇ、そんな!?」

「ボクをバカにした罰だよ〜だ!」

「……とかなんとかいって、全部アエリアの当番の日だな。ひょっとしなくても、自分がやりたくないだけ……」

「ぎくぅっ!!」

「……なら、一緒に当番だろ」

「え、手伝ってくれるの!?」

「あ、あぁ……いいよ、そのくらい。アエリアのためだし……」

「やた〜っ!ありがと〜っ!」

「わ、抱きつくな!!」

 

 

 

 

 

 

嬉しさをスキンシップで表されると、めちゃくちゃ困る。

抱きつかれるのは日常茶飯事で、頬ずりなども……究極の一撃は、【今夜一緒に寝ない?】

俺を本気でシスコンにするつもりか

 

 

 

 

 

 

 

 

「お2人さん、おアツイね〜」

「「……あ」」

 

 

 

 

 

 

キュリアの冷やかしで、はっとした。

ここは……食卓。

 

テーブルに並んだ料理をみんなで食べる所。

 

 

 

 

 

みんなで食べる所――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケイタさん……もしかして」

「な、なに……?」

 

 

 

 

 

 

メルフィーだけじゃない。

メシフィアに始まりクォーリンで終わる、全員が俺とアエリアをジト目で眺めていた。

あ、でもメシフィアだけはなんだ、伝えたのか、と呟いて食事の再開。

 

さ、悟られたか……?

 

 

 

 

 

 

 

「付き合ってるんですか……?」

「………へ?」

「ケイタはアエリアを選んだってワケね……メシフィアでもメルフィーでもなく、イオでもセリアでもない、ときたのね」

「きゅ、キュリア!どこからそんな情報を……っ!!」

「私には見えるのよ……あなたをどれくらい好きかメーターが。順位もわかってるけど知りたい?」

「う、う〜ん……知りたいような知りたくないような……」

「ジャジャン!!なぜかいきなり第二位!85ポイントで……」

「は、85ポイントで……?」

「アエリア〜っ!!!」

………なーんだ。アエリアか」

「その普通のリアクション、つまんないのよ。からかいがいがないのよ、そういうこと言われると」

 

 

 

 

 

別にアエリアじゃ驚かない。

だって、姉さんだし。

 

あれ……?

でも、待てよ………?

 

 

 

 

 

 

「じゃぁ、ボク以上にケイタを好きな人が1人いるってことだよね」

「………だ、誰だ!?名乗り出ろ!」

「バカ……名乗り出るわけないでしょ。自分でもわかんないんだから」

「あ、そっか………………………………一つ聞きたいんだけど」

「なに?」

「それって、男も入る?」

「……男だけの順位も聞く?」

「質問の答えになってないぞ。含まれてるor含まれてない、どっちだ?」

「さぁね。ちなみに男の第一位は……」

「言うな。興味ない」

 

 

 

 

 

 

 

サッパリ切り捨てる。

誰がむなしゅうて男の好かれてるヤツを知らなきゃいけないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、でもそっか。それ、キュリアのあてずっぽってこともあるのか」

「詩音に確認済みよ。かなりの高確率ね」

「…………………神剣そんなことに使っちゃいけないんだぞぉ!!!」

{父の部屋侵入する時俺を盾にした、お前にそれが言えるのか}

「……い、言えマスヨ?」

{素直なヤツめ……口調が変わったぞ}

「と、とにかく、俺と姉さんはそんなんじゃないよ。な?」

「うん♪だからメルフィーも安心して狙っていいよ?」

「わ、私は別にっ!………………………………………………………………………………………姉さん?」

 

 

 

 

 

 

 

あ、しまった………。

アエリアも指摘されてから、はっと気づいたようだ。

既にみんなの視線が怪しいものへと変わってきている。

 

 

 

 

 

 

「や、やだなぁケイタってば!ボクを姉さんだなんて!」

「あは、あはは!ゴメンゴメン。いや、よくあるよね、先生をお母さんって言っちゃう、みたいな!」

「そ、そうそう!あはは、あはは………はは……ははは…………………」

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――えぇそうですよ。白状しましたよ

 

 

 

 

 

――――――みんな一斉に【シスコン!!】って言ってきましたよ

 

 

 

 

 

 

 

――――――――俺じゃなくて姉さんが【ブラコン】だろうがぁあぁっ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、いや、俺も結構そうなのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケイタ、入るわよ」

「どうぞ〜」

 

 

 

 

キュリアの訪問。

珍しいを通り越して、明日はネネの実が空から降ってくるかもしれない。

 

そう軽口叩こうとしたが、キュリアの表情があまりに真剣だったため止めた。

 

 

 

 

 

「どうした?」

「……私のこと、知りたいって言ったわよね?」

「ああ、まぁな。話してくれるの?」

「ええ……残された時間は少ないみたいだから」

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は独立運動の盛んな某国で生まれたわ。

父は傭兵で、母は医者だった。

 

子供の頃から身近に戦争を感じていたから、すぐに戦いってものには恐怖を感じなくなった。

 

 

父は私にありとあらゆる生き残るための戦術を教えてくれて、母はケガの手当ての仕方なんかを教えてくれた。

私が父の傭兵部隊に入ったのは、14歳の時。

 

でも、私が初陣の時、父は………

 

 

私は命からがら逃げ出したけど、捕まった仲間が拷問で吐いたんでしょう、拠点の位置がバレて、襲撃された。

そこで母も死んじゃった。

私は捕まったけど、医療技術をかわれてまた戦場に出た。

 

独立運動が鎮圧されて、晴れて私も釈放された。

その後、私の中にテレパスの能力が発見されて、国家組織に誘拐。

 

 

研究所に閉じ込められて、時には思い出したくないくらいの事もされた。

そんな生活がイヤになって、逃げ出したら……あの人に出会った。

 

そして、出雲に入った―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キュリア……」

「面白くもなんともない過去よね……ごめん、なんとなく愚痴りたくなったのよ」

「いいよ。なんだか初めてキュリアって人が見れた気がして、不謹慎なのかもしれないけど、俺は嬉しかった」

「……」

「………(ま、まずい。会話が)」

「会話が続かない……」

「!?」

「そう思ったでしょ?」

「テレパシー……?じゃぁ、あの俺を好きな順位ってのは……」

「あながち、ウソじゃないってことよ。ま、普段からずっと心読んでるわけじゃないけど。たまに勝手に流れてくるの」

「え?」

「その人の強い想いっていうのかしらね……周囲の心を振るわせるような、大きな想いは私の中で、全く同じものを作り出す」

「……よくわかんないけど、その人の気持ちを、キュリアも持ってしまうってこと?」

「そういうこと」

 

 

 

 

 

 

俺はハーブティーを淹れて、キュリアに出した。

ぬるいわね、と呟いてキュリアは一口飲む。

 

 

 

 

 

 

「けど、それじゃぁ……どれが自分の気持ちなのか、わからなくなったりしない?」

「しょっちゅうあるのよそんなこと。だから今更気にしてないわ」

「さばけてるね……ま、そうじゃなきゃ他人の心なんて耐えられないだろうけど」

「え?」

「だって、激しい怒りや憎しみだって自分の中で同じものが生まれちゃうんだろ?すっごく怖いことだと思わない?」

「……えぇ、まぁね……今は詩音のおかげで、敵の想いは遮断できるけど……前は辛かったわ」

「そうだよな……気づけば仲間だったヤツが憎くてしょうがないってことになっちゃうんだもんな………」

 

 

 

 

 

 

俺もハーブティーを一杯飲む。

確かにぬるい……ティーは飲めないほど熱くして、冷めるまで雑談したり考え事をしたりするのが飲み方だったような………。

 

 

 

 

 

 

「で、出雲の狙いだけど……たぶん、あなた」

「そりゃわかるよ。でも、なんで俺を狙う?そもそも出雲ってなに?」

「出雲は、私みたいな能力者を集めて、永遠神剣に永遠神剣でない力で対抗しようっていう組織よ」

「……対抗してどうするの?」

「さぁ?草薙の剣は何も言ってくれないのよね」

「は?草薙って、あのロープレとかで出てくるあの?」

「そうよ。で、その剣のもとに集まったのが私たち。別世界にもあるんだけど、あの世界では出雲って名乗ってるの」

「は〜……そんな大規模組織に狙われるとは………よほど何かあるんだな」

 

 

 

 

 

そう言うと、キュリアはまた一口ティーを含んだ。

ゆっくりと喉を通し、まるで乾いた喉を潤しているかのようだ。

 

……そういえば、キュリアの顔に汗が。

 

 

 

 

 

 

「でも、出雲全体が狙ってるわけじゃない。そもそも、出雲はこんなやり方する組織じゃないのよ」

「へ?」

アペリウス……っていう、私の上司みたいな人がいて……その人が突然命令したのよ。あなたを連れて来いってね」

「はぁ……アペリウスねぇ……そんな知り合い、いないけど」

「狙いはあなたの持ってる勾玉。神器の一つ、八尺瓊の勾玉よ」

「やさかにの勾玉?知らないぞそんなの」

「あなたが知らなくても、あなたが持ってるのだけは確かなんだそうよ。意思を持たない代わりに、常に世界をまたぎ続ける上位神剣」

「永遠神剣……か。俺が……?あるとしても家には……」

「ないでしょうね」

「だろうな」

 

 

 

 

 

だったら、あのボロ家にとっくに襲撃されてる。

キュリアが転校してきてから、2週間後に洞窟で出会ったんだから。

 

時間は十分にあったはずだ。

 

 

 

 

 

 

「兄貴はどんな能力を持ってたんだ?出雲に入れたってことは、何かあったんだろ?」

「あの人は特別なのよ。最後の神器、八咫の鏡の持ち主……」

「………待て!!それはいくらなんでもおかしいだろう。あまりに偶然すぎるぞそれは」

 

 

 

 

神器なんて呼ばれるものが、俺と兄貴に?

あり得ない。

あり得てたまるか。

 

 

 

 

 

「でも、実際和也は持っていたし、あなたは尋常じゃない能力を持ってる。何かあるのよ、絶対に」

「………もしかして」

「心当たりでもある?」

「いや、ヴァルキュリアが【お前は私と同じ存在】とか言ってたから……それも関連してるんじゃねーかなー?なんて」

「……はぁ、あなたってつくづく厄介ごとを持ち込むわね」

「………いや、面目ない」

 

 

 

 

あまりに俺は俺を知らなかったようだ。

影でこれだけ大きな力が動いていたというのに。

 

俺は能天気にトレジャーハントをやっていたのだから。

 

 

 

 

 

「……怖い」

「え?」

「どうすればいいのよ?これから……アペリウスと戦うことになる。そしたら……私はもう……」

「……何か、あるのか?」

「私は、またあの人の部下に戻ってしまうかもしれない。もう、誰かを傷つけたくないのよ……」

「…そんな強いのか?」

「以前、ロウっていう存在が攻めてきた時、3対1で楽々勝っていたわ」

「……ロウってなんやねん。でも、お前がこれくらい怖がるくらいなんだから、すごいんだろうな………」

 

 

 

 

 

キュリアが怖がることなんて、滅多にない。

俺と違って幼い頃から戦いには慣れているようだ。

 

その彼女が、今、冷や汗をかくほど震えている。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

俺は彼女の手を取った。

震える冷たい、白く繊細な手。

 

強く、強く握る。

 

 

 

 

 

 

「な、なにするのよ……?」

「俺の心を読むんだキュリア」

「なっ……」

「言葉では表せそうにない。だから、俺の中から見つけてくれ……」

「………」

 

 

 

 

 

 

しばらく、お互い無言の状態が続く。

手を繋いだまま、お互い目を閉じたまま………

 

 

 

数分が経過した。

 

 

 

 

 

 

「……啓太」

「なんだ?」

「い、一応……ありがとうって言っておくわよ」

「オウ。俺もキュリアにさんざんフォローしてもらったからな。これで貸し借りナシだ」

「……ま、また」

「え?」

「また……心を読ませてもらっていいかしら……?」

「どした?気に入ったのか?」

「……うん」

 

 

 

 

 

お、ヤケに素直だな。

 

 

 

 

 

 

「すごく温かくて……心地いい……初めてよ、そんな気持ち」

「な、なんか照れるな……」

「だから、あなたはみんなに好かれるのでしょうね」

 

 

 

 

 

綺麗な細い金髪を翻して、立ち上がるキュリア。

ふわっと石鹸の香りが、俺の鼻腔をくすぐる。

 

 

 

 

 

「特別にコレあげるわ」

「……これ、キーホルダー?」

「そう。お菓子のオマケ」

「……お菓子?」

「私、日本のお菓子のオマケ集めてるのよ。当分集められそうにないけど。それ、プレミアもの」

「マジ?」

 

 

 

 

 

なんてことない、正方形の物体。

まるで新品のように綺麗だが………

 

 

 

 

 

 

「オークションに出せば30万はくだらない品物よ」

「さ、ささ……30万!?」

「世の中にはコレクターっていう人種と、それ以外の人種で分けられるのよ」

「そんなわけ方聞いたこともない………」

「そのシリーズの一番最初のシークレットよ。誰もが喉から手がでるほど欲しがるわよ?」

「す、すげーな……もらっちゃっていいのか?」

 

 

 

 

これさえあれば、現実世界に帰っても……

まぁ帰らないだろうが。

 

でも、売ってみたら………はぁあぁ………売れたらなぁ………

 

 

 

 

「売ったら殺す」

「え゛……やだなぁ、売るわけないだろ〜?」

「心が読めるの忘れてる?」

「あ、え、でもそれは強い想いだけじゃ!?」

「それは流れてくる想いの話。読もうと集中させれば読めるわよ」

「き、聞いてない……ってか冗談!冗談だよ!」

「わかってるわよシスコン」

「シスコンじゃない!!」

「お姉さんにあ〜ん、てされて嬉しい弟がシスコンじゃない?」

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………シスコンじゃないもん

「ふふ、それじゃね。いい気晴らしになったわ」

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

言うだけ言って、さっさと帰っていくキュリア。

俺はテレパシストじゃないが、それが照れからきた態度だということはなんとなくわかった。

 

出雲、勾玉と鏡、ヴァルキュリア………

果たしてそれらが一つに繋がるのだろうか?

 

それとも、全てバラバラのパズル……?

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁ、もうヤメヤメ!」

 

 

 

 

 

 

考えてもしょうがない。

心当たりはないし、知ろうとしても情報源がない。

 

アペリウス………

 

 

 

 

 

一体どんなヤツなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【シスコン!早く寝なさいよねっ!!!】

「シスコンじゃねぇって言ってんだろぉおぉおぉッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝

 

 

 

 

 

 

この声の主(クォーリン)をボコったのは言うまでもない―――――――