「どうですか?調子は」
「……頭がぼーっとする」
気づけば、ベッドの上だった。
覚えているのは、叶とここに戻ってきて、部屋でくつろいでいて……
普通に夕飯食べて、寝て………そんなくらいだ。
「今、どうなってる?敵はきたか?」
「起きてすぐそんな心配しないでください。平気ですから」
「……私は敵は来たか?と聞いたんだ」
「………」
レイナはそっと顔を背けた。
ふと、その腹部に巻かれた包帯が目に入る。
「ケガ……敵にやられたのか?」
「あ、えと………そんなところです」
「………素直に話してくれ」
「……はい」
レイナから聞いた話は驚くばかりだった。
私に伝承上の【ヴァルキュリア】が眠ってること。
なぜか、ケイタの魂を狙っているということ。
出雲の人間さえ楽勝なほど強いこと。
「………」
気づいてはいた。
私の意識が塗りつぶされ、体を無理やり奪われる感覚。
それに抗うと、体が焼けそうな熱を持つ。
まるで、二つの魂に耐え切れない、と悲鳴をあげるかのように。
神剣に呑み込まれる、というのはこれに近いのかもしれない。
そしたら、スピリットはなんて恐ろしい状態で戦っているのだろうか。
「ケイタは?」
「私やあなたと同じく、今回は休息側です」
「ケガしたのか!?」
「え?あ、はぁ………少しだけですけど」
「少しってどのくらいだ!?」
「……詳しく申し上げますと左ひざから骨が飛び出し、左腕の神経は切られ、簡単に言えば半身不随でした」
「なっ……それのどこが少しなんだ!!」
それだけのケガなら死んでもおかしくないくらいだ。
実質、エトランジェでなければ死んでいたはずだ。
「気休めですよ」
「なに?」
「だって、そう言わないとあなた、飛び出していきますから」
「………」
「治ったら彼に感謝の言葉をかけてあげてください。彼があなたを取り戻してくれたんですから」
「……まさか、彼は力を?」
「ええ、まぁ……でも、なんだかオーラフォトン以外のものも使ってみたいです。彼、能力者だったんですね。まぁ、翼があるからそうなんでしょうけど」
「………なんてことを」
「え?」
彼の父から頼まれたというのに……!
私は彼に迷惑を……それだけじゃない……!!
残り少ない彼の命を……私が奪った……!!
「ケイタはどこだ!?」
「行かせません。あなただって本調子じゃないんですから」
「でも!!行かないとケイタが!!」
「ケイタが……なんですか?」
「………」
レイナの目が、全てを話せと要求してくる。
私も臆病になったもので、この胸のモヤモヤを全て話してしまう。
「ケイタは……20年しか生きられないんだ」
「な……」
「子供の頃からあの翼が命を吸って、このままでは死んでしまうと両親が封印したものだそうだ」
「それじゃ……」
「あの翼が出るたびに……確実に、ケイタの命は減ってるはずなんだ………それを、私はっ!!」
「落ち着いて!!」
「私のせいだ……私が、私が……っ!!彼の父に頼まれておきながら、彼のことを知っていながら………っ!!」
「メシフィアのせいじゃないですから。だから落ち着いてください」
「私のせいだ……私が弱いから………」
私が弱いから、ヴァルキュリアに支配される。
私が強ければ、ヴァルキュリアなんて跳ね除けられるのに。
意識を塗りつぶされ、自分という存在が消える恐怖。
それに打ち勝てる心が私にあれば……っ!!
「自分を追い詰めてどうするんですか、メシフィア」
「私がいなければ……私がいなくなれば、私なんか生まれなければ……ッ!!!」
バチィッ!!!
強く、強く……とにかく、強くはたかれた。
レイナが勢い良く立って、勢いそのままに右手に全力を込めて、私の頬を叩いた。
唖然として、頬を押さえてしまう。
「なら1人で樹海にでも行って死ねばいいですよ」
「………」
「あなたが、そこまで人の気持ちがわからない人だとは思いませんでした。今すぐ死んでください」
「………」
「あなたが死んだらこの場所はどうなりますか?あなたが死んだらあなたの家族はどうなりますか?」
「それは……」
「あなたが【私がいなければ彼は苦しまない】なんて理由で死んだら、その彼はどう思いますか!?どうなると思いますか!?」
「………」
「彼は酷く傷ついて、目が壊れるほど泣いて、やせ細ってあなたの後を追うでしょうね。今度は彼が【俺が彼女を殺したんだ】ってね」
「っ………」
「そんな悲しい連鎖を起こしたいなら、勝手に起こしてください。私はその連鎖から抜け出しますけど」
「………」
「死んでわびるなんてウソなんですよ。生きてその人を助けなきゃ、わびたことになんてならないですよ」
「レイナ………」
「そう……生きなきゃ、意味なんて………」
レイナの顔がくしゃりと歪んだ。
綺麗な肌に、一筋の涙が……………
たぶん、大統領のことを思い出しているのだろう。
どれだけの関係を培ってきたかは知らないが、その涙で、私が口出しできる程度の関係ではないとわかる。
「あなたが彼の父に頼まれたことってなんですか?」
「え……」
「なるべく長く生かして欲しい?違うはずです。人の親なら【彼の好きに、精一杯生きさせてやってくれ】じゃないですか?」
「ぁ………」
「笑顔を失った彼を長く生かしたって、誰も幸せにならないです。誰も笑顔にならないです。誰も、誰も………」
「………」
「メシフィア、もう少し多くの人と付き合うべきでしたね」
「………そうだな、本当に………」
「あとは自分で考えてください。あなたなら答えが出ると、私は信じています」
レイナが、最高に格好良く見える……。
さすが、剣聖ミュラーと互角と呼ばれる、人間最強。
彼女の誇り、格、自信……全てが桁違いだった。
「ありがとう、レイナ………」
私は、剣を持つ。
まだ、これを振るえないけど………
この、新しい剣で………
「………声は、聞こえない、か」
刀身が2メートルを超え、すらっと細長い永遠神剣。
まだ、この声は聞こえない。
でも、いつか捉えてみせる。
―――――想いを形にするために
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