「真面目な話?」

「そう。とっても……」

 

 

 

 

 

意を決して、アエリアに話そう。

全て………

 

 

 

 

 

「アエリア、どうして4枚の翼をつけてるんだ?」

「つけてるんじゃないよ。生えてるの」

「どっちでもいい。なんで、4枚なんだ?

「え……」

 

 

 

 

 

アエリアも、俺の言葉の意味に気づいたようだ。

しばらく、お互い視線を絡めたまま静止したまま………

 

 

ふっ、とアエリアは、今までに一度もしたことのない笑い方をした。

 

 

 

 

 

「誰に聞いたの?」

「やっぱ、2枚なんだろ?」

「……うん、そうだよ。ボクの動かせる翼は……」

 

 

 

 

 

アエリアは背中の翼を静かに取った。

4枚のうちの、2枚が動かないニセ物だった。

 

 

 

 

 

「この通り、2枚」

「……なんで、4枚にしてたんだ?」

「………」

 

 

 

 

 

スピリットのウィングハイロゥも2枚。

4枚あれば、それこそソーマみたいな変態に狙われる。

 

そうでなくても、特異な存在とされてしまうのは明らかだ。

 

 

 

 

 

「……ボクね、昔から身寄りがなくて……」

「………」

「捨て子だったらしいんだ。この容姿と、背中にあった2枚の翼から、スピリットと勘違いされて、自治団体に預けられたの」

「……(違うよ……)」

「それから、ここがボクの家なんだ。でもね、たまに思うんだ………」

 

 

 

 

 

アエリアは窓から外を眺める。

暖かな陽光が、アエリアの姿を優しく照らす。

 

足元まである長い薄ピンクのワンピースが、これまた不思議な雰囲気を生み出した。

 

 

 

 

 

「両親がいたら、もっと楽しかったんだろうなぁ……って」

「……」

「まぁでも!自治団体のみんなと仲良くなれて、ボクはとっても幸せなんだけどねっ!」

「……」

 

 

 

 

 

その声には、貼り付けられた元気。

わかってる……

 

いくら仲が良くても、いくら年上でも、親の代わりなんていないってこと………

それは、母親のいなくなった俺でさえ痛感することだ。

アエリアなんて……もっと、孤独だったにちがいない。

 

 

 

 

 

「それで?その話、誰に聞いたの?」

「………」

 

 

 

 

俺はむくり、と上半身を起こした。

アエリアが止めようとするが、平気、と合図して止める。

 

 

 

 

 

「まだ、俺の質問に答えてないぞ。俺は【なんで4枚にしてたんだ?】って聞いたんだ」

「………」

 

 

 

 

 

もしかしたら、これは傷口をえぐる行為だったのかもしれない。

アエリアが涙目になったことで、不意にそう思った。

 

 

 

 

 

 

「うっすらと覚えてる。ボクも、啓太と同じだよ」

「………」

「ボクは、憧れの自分のお母さんを追いかけてる」

「………母さんが4枚だった……」

「うん。うっすらとしか覚えてないんだけどね……?こう、抱かれて、すごく温かくて……ときどき触れる羽が、くすぐったいんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――羽の先まで、すっごく温かく……て………

 

 

 

 

 

 

「アエリア………」

「ばかぁ……っ!!なんでそんなこと聞くのっ!?」

「………」

 

 

 

 

 

アエリアの瞳から、ボロボロと涙がこぼれだした。

留まることを知らず、床に大きなシミをいくつも作っていく………。

 

 

自分を捨てた母親が憎い気持ちと、自分を温かく包み込んでくれた母親が反発したのだろう。

なんで、温かさをくれたのに私を捨てたの?

 

 

そんな感じだろう………。

 

 

 

 

 

「俺には聞く権利があるから」

「仲間だったら!!なんでも聞いていいっていうの!?」

「違うよ。仲間じゃないからだ」

「……?」

「………」

 

 

 

 

 

 

目の前の少女が、俺の姉であることをやっと信じられる。

だって、1人で溜め込む所なんて俺ソックリだ。

 

それに、灰色の瞳や困ると必ず右手でつむじあたりを掻くクセも。

今思えば、似てる所なんてたくさんある。

 

 

 

 

 

 

「アエリアが、仲間じゃないから………家族だから、俺には聞く権利があると思う」

「え………?」

「俺の翼も、母さん譲り……エクステルって人種の、なごり」

「!!!」

 

 

 

 

 

 

アエリアの顔が、驚きに変わった。

涙が止まり、目が大きく見開かれている。

 

 

 

 

 

「まさか………」

「アエリアも薄々気づいてたんじゃないのか?」

「………で、でも!なんの証拠も……!!」

「アエリアは、父さんと母さんがこっちの世界で産んだ娘。で、事故で現実世界に行ってしまった父さんと母さんが産んだのが、俺」

「………で、でも、啓太のお兄さんは……!」

「養子なんだって。アエリアを置いてきてしまって、苦しんでる母さんのために……」

「……で、でも!!」

「いいよ、無理して俺を弟だなんて思わなくても」

「………」

 

 

 

 

 

すぐに信じられるはずがない。

俺だって、逆の立場なら【本当に……?】って感じだ。

 

 

 

 

 

「でも、これから……少しずつでいいから、弟だって、思ってほしい」

「………」

「俺にとっても……アエリアは、たった一人の姉さん。それに、父さんも……悔しがってた、アエリアのこと。だから、自分が捨て子だなんて思わないで」

「啓太………」

「アエリアはたくさん愛されてるんだよ……だから、捨て子だなんて、悲しいこと言わないで……独りにならないで」

 

 

 

 

 

アエリアがたった一人で、孤独に生きていた姉さんだとしたら。

これから、一緒に生きて、家族だってお互い思っていたい。

 

代わりなんていない、唯一無二の家族なんだから………

 

 

 

 

 

 

「………あは、あはは………」

「アエリア……?」

「そっか……やっと会えたんだ………」

「……」

「そっか……私、お姉ちゃんなんだ………」

「……」

「啓太ぁあぁ〜〜っっ!!!」

「へぶしっ!!?」

 

 

 

 

 

突然タックルされ、壁に頭を打ち付けた!!

 

ぐらぐらとして、吐き気が……

 

 

なんでもかんでも行動が唐突すぎる………

 

 

 

 

 

 

「うぅ〜ん……弟よぉ〜〜っ!」

「は、離せ気持ち悪い!!」

「大好きだよぉおぉ啓太ぁあぁっ!!うりうり〜〜っ!!」

「ほ・お・ず・り・するなぁあぁあぁ〜〜っ!!」

「あ〜!お姉ちゃんに逆らっちゃいっけないんだぞぉ!」

「さっきまでのシリアス空間はどうしたんだ!!突発的に取り払うな!ついていけないよ!!」

「だって〜、ボク【シリアス空間3分しか形成できない症候群】なんだも〜ん」

「なんだそのカップラーメンばりの短さは!!そんな病気聞いたこともない!」

「ホントだよ〜?3分近くなると、ぴこんぴこん鳴るんだよ」

「お前は永遠の子供のヒーローか!!」

「あれ、3分しかもたないって設定は、確か費用を節約するためなんだよね〜」

「そういう子供の夢をブチ壊すこと言うな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後数十分……

 

ずっとてんやわんやで騒ぎまくり、疲れてお互いベッドに腰掛けてやっと落ち着いた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、本当に信じてくれたのか?」

「うんっ!なんで?」

「いや、だって……いきなり【俺があなたの弟です】な〜んて………」

「だって、ボクも啓太と同じ両親から産まれてるんだよ?啓太が逆の立場で、ボクが【私があなたの姉さんです】って言ったら、信じたでしょ?」

「いや、全然」

 

 

 

 

 

誰がこんな幼いヤツを姉と信じるか。

そういう意味で答えると、ガーン!!という音がしたかのようにアエリアが崩れる。

 

 

 

 

 

「酷い……」

「……じょ、冗談だよ」

 

 

 

 

 

酷い、その一言は、どんな罵言雑言よりも威力があった。

一発で弟に罪悪感を抱かせる。

 

 

 

 

 

「でもね、話だけだったらボクだって信じなかったよ」

「え?」

「話は信じられなくても、啓太はぜーったい大丈夫だっ!って信じてるから。だから、信じられるんだよ」

「………」

 

 

 

 

 

あぁ、なんて嬉しいこと言ってくれるんだ姉さん。

どうだ全国の姉を持つ弟よ!

 

こんな姉が欲しくはないか!!

 

 

 

 

 

――――あげないけどね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――これってシスコン?

 

 

いやいやいや………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、でも……姉さんって呼ぶのは、二人だけの時だけにしない?」

「え〜!?なんでぇ!?」

「説明が面倒だし……………………………………………………………………………ビジュアル的にも」

「あ〜っ!!ふんだ、どうせボクはチビですよ〜!!」

「そういう性格だから………でも、姉さんが姉さんなのは、変わらないでしょ?」

「ぅ………啓太、殺し文句……そうやって数多の女性を落としてきたのね………」

「へ、変なこと言うなよ。………あ」

「え、なに?」

 

 

 

 

 

 

すぅ〜〜っかり忘れてた。

約束のお土産のイチゴ大福………

 

ポーチの中にあるんだろうが………果たして、あの生ものは無事だろうか?いや、無事ではないだろう(反語

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

そーっとポーチから大福をチラ見する。

………とんでもねぇなこりゃ。

 

ピンクの皮が真っ黒だよオイ。

これじゃただの大福……無理してもそうは見えないか。

 

 

 

 

「どしたの?」

「い、いや。なんでもない……」

「あ、そういえば……お土産のだい【あ〜イタタタ!!きゅ、急に傷口が………!!】………ワザとらしい」

「そ、そんなことないよ!姉さんは弟を信じないのか!?」

「じゃぁ大福くれたら信じてあげる」

「…………」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――数分後、俺は白状した

 

 

 

 

 

 

 

 

――――結果

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――数十分間、泣かれました

 

 

 

 

 

 

 

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