「大地よ、私に力を貸して!あの敵を討つ力を!!エレメンタルブラスト!!」
「怒りの炎よ!全てを包み込みその地を血で洗え!!ブラッディヴァーニング!!!」
2人の魔法が同時にアレックスに襲い掛かる!
緑の衝撃波、赤の爆炎、それぞれがお互いを押しつぶすかのように競り合い、広がって場を飲み込んでいく!!
緑の衝撃は木を折り雪を吹き飛ばし、赤の炎はアレックスの体を焼け焦がしていく!!
「ふんぬ……っつあっ!!!」
「「!?」」
アレックスがその絶望的状況で、一声叫んだ。
それだけで魔法は萎縮し、その効果を終わらせていく………
「声だけで……いや、違う」
「メルフィーさん?」
「クォーリン、気をつけて……あの人の体、尋常じゃないわ」
「み、見ればわかるよっ!」
「クォーリン、攻撃できる?一発だけ狙ってみます……」
「………得意じゃないけど、それしかないみたいですしねっ!!」
傷一つついていないアレックスが、じりじりと歩み寄ってくる。
その顔には余裕と自信が現れ、決して急がず、かといって遅くない、追い詰めてくるには絶妙な速度。
圧倒的な力と経験の差。
「一つ聞いていいか?」
「な、なに……?」
アレックスの突然の質問。
剣を収め、何もする気はない、と手を振る。
警戒は解かないまま、話を聞く態勢を取った二人。
「なぜ、あんたらは戦ってるんだ?」
「は………?」
「だってそうだろ?啓太1人を引き渡せば、お前らが危険な目に会うことはないんだ」
「ケイタさんは仲間です。仲間を売るようなマネはしません!!」
「仲間……ね」
アレックスは、その答えにとても不満そうな顔をする。
それを見て、いらつく2人。
仲間を護りたいのが、そんなにまで理解できないことか。
「攻めてる俺が言うべきじゃないかもしれないが……友人1人と普通の人1000人……どっちかしか助けられないなら、どっちを助ける?」
「え……?」
「啓太1人のせいで、ソスラス全体が危機に陥ってる。啓太1人がいなくなれば、もう剣を振るう必要もないんだ」
「………」
「メルフィーさん!戯言なんて無視ですっ!!」
「クォーリン!啓太がいなければここが危機に陥ることもなかった、戦力集めだってスムーズに進んだはずだ」
「それは………」
「わかるか?たった一人がここにいるだけで、何千人もの人の命が危うくなる。なのになぜ?なぜ護る?」
「………」
今、わかった。
なぜ、メシフィアに土下座して回れ、と言われてケイタが抵抗しなかったのか。
それは、ケイタが自分のことで災いが降りかかるとわかっていたから。
この地が、自分のせいで危なくなることを予想していたから。
だから………
―――――――――――――――――――――――――俺、ホントに居場所なくなっちまうよ――――――――――――――――――――――
「……」
「言うことはないな?どいてくれ」
無駄な殺生はしない、と呟いて横を通ろうとするアレックス。
その首に、剣をつきつけて止めた。
てっきり私だけだと思っていたら、クォーリンも槍を喉元に突き立てていた。
「助けます」
「なに………?」
私は剣を振るった。
アレックスが飛び退り、私は迷わず剣を構える。
「たとえ、その1000人もの人に恨まれようとも!!私は彼一人を助けますッッ!!」
私は地面に牢獄を地面に刺して、詠唱を始める。
まだ慣れないけれど、私の半分がスピリットだというのなら………
彼が認めてくれた、今の私なら!できるはずっ!!!
「コーインが言った。たとえユートに恨まれても、俺はキョウコだけは護ってみせる。それが俺の生きる意味だ―――」
「私の生きる意味、それは……っ!!」
「ふむ……クォーリン、足が震えているぞ」
「……っ!!」
「怖いか?死ぬのが……俺と戦うのが」
「怖くて怖くて、どうにかなっちゃいそう……でも私は死なない!彼も渡さない!!この地に入れさせもしない――――」
「これからもずっと彼と共に生きて、必ず未来を勝ち取ってみせる!!!」
クォーリンがその槍を持って一直線にアレックスに突撃していく!
アレックスが剣を抜き放ち、その槍を横へ流した!
クォーリンの体が流れ、背後をアレックスに取られる。
「気合はいいが、真正面から格上にぶつかるなど愚の骨頂だな」
「私が1人じゃないからねっ!!」
「なに……【テンペストアーチ!!!】――――がっ!?」
アレックスの体を、光の刃が貫く!
牢獄から伸びた光の刃が、音もなくアレックスを貫いた。
「クォーリン!!!」
「はいっ!!絶望の宴よ!いまここに!!」
「私とあなたで奏でる、死にゆくものへの詩!!」
「正義も天使もなにもない、ただ生あるもの全てに等しい絶望の死を!!!」
「唸れっ!!!この世に響く最後の命の音!!!!」
槍にエレメンタルブラスト級の、果てしない威力を持った力を纏わせるクォーリン。
それを自由自在に操り、アレックスの体を切り刻んでいく。
アレックスの鎧が砕け、胴がはがれ落ちる。
牢獄から伸びた光の刃が、アレックスの体にまとわりつく。
白い光がだんだんと黒く淀み、静電気のようなものが走るとアレックスの体が折れ始めた。
全ての鎧が砕け、細かな装飾のされた服に変わるアレックス。
「「最後の勇気を振り絞れ!!エンドオブブレェエェイブッ!!!!」」
「ぐっ、おあぁあぁっっ!!!!」
クォーリンが、最後の一撃をアレックスに放った!
緑の衝撃波がアレックスを打ちつけ、それと同時に黒い歪みが巨大な爆発を起こした!
それがアレックスの鎧の破片を吹き飛ばして、木や雪に刺さる。
赤い鮮血が吹き飛んできて、真っ白な大地に赤色の斑点をつける!
木々は爆風で倒れ、鳥たちが一斉に飛んでいく………!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「勝った……?」
「ぐっ……あ………」
アレックスがもがき苦しむ。
体があちこち火傷して、見るに耐えない状態だった。
クォーリンがさっと近づく。
「……トドメを刺すか……」
「少し、我慢してくださいね?」
治療を始めるクォーリン。
隣に、しょうがないですよね、とメルフィーも座る。
「な、なぜだ……!?なぜ俺を助ける……!?」
「さぁ……どうしてですかね」
「やだなぁメルフィーさん、わかってるくせにぃ。目の前で苦しんでいる人がいて、私には助けられる力がある……それだけでしょ」
「ば、ばかな……俺は敵だぞ……」
「愚かなこと、とお笑いになるかもしれません。でも、これが私たち流であり……彼の信念でもありますから」
「………」
「つくづく、私もバカなことをしてると思います。自分で傷つけて、それを自分で治してるんですから」
「でも、誰かを殺してしまった手を眺めるより、こうして……その方が、きっといいんだよ」
「ふ………それが………」
思ったより傷が深いためか、クォーリンの治癒でもなかなか傷が癒えない。
だが、アレックスの顔には余裕が戻ってくる。
それを見て安心した時、急に目の前の空間にゆがみを感じた。
「クォーリン!!」
「はぃ?きゃっ!!」
私はクォーリンをアレックスから引き剥がした。
すると、黒い歪みが現れてアレックスを吸い込んでいく………。
「な、なに!?」
【永遠神剣の契約者……とんだ甘ったれだな】
「誰!?」
その黒い歪みから、低い威圧感のある声が聞こえる。
【アレックスを殺さなかったことは感謝する……お前らに次、絶望を与えられるからな】
「なんですって!?」
「クォーリン、落ち着いて!」
【メルフィーと言ったな。異端者のハーフであるお前が、いつまでも現実で生きていられると思うな】
「!!!」
【さっきの心……彼を渡したくないのは、彼が唯一のお前の居場所だからな。自分のために彼を渡したくない!彼がいなくては生きていけない!!】
「や、やめて………」
【彼が消えればお前はまた一人ぼっち……あぁ可哀想だ。人間にもスピリットにも溶け込めず、1人孤独に暮らすがいい!】
「違う!わた……私は………【この人はメルフィーさんです!!】――――え?」
心の辛い部分をつつかれ、動揺する私を止めてくれた声。
それは、クォーリンの腹の底から出た大きな優しい声だった。
「この人がどんな境遇かなんて知りません!でも、彼女は当番の日じゃなくても朝食作るの手伝ってくれるし、洗濯も!!」
【それも打ち解けるための打算だと、なぜ気づかない?】
「この人は心の底から手伝ってあげたい、そう思ってるのが私にはわかる!!打算なんて言葉、もう一回でも使ったら……許さないんだからっ!!!」
【……ふっ、他人の心などわかりはしないさ】
「それは目が腐って、人を真正面から見れないからよ!!自分中心主義のあんたなんか、どーせ心が繋がってると思える程の親友もいないんでしょ!」
【ほざいていろ。次の絶望を楽しみにしているんだな】
黒い歪みが収束し、消えた。
アレックスの体もなくなっている――――。
「クォーリン、私………」
「聞きたくないです。あなたの身の上話や弱気な気持ちなんて」
「え……?」
「あなたは私の大切な友人、メルフィーさんです。それで十分じゃないですかっ?」
「………うん」
「戦いが終わってから、ゆ〜っくり聞きますから、それまでは……頑張りましょう?」
「お互いに、ね!!」
私はクォーリンと手を繋いだ。
お互いはにかんでから、ゆっくりと街へと戻っていく―――――。
この上ない温かさが、心を満たしているのを感じながら―――――――――――
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