「せいっ!!」
「甘い!」
メシフィアに変装したキュリアは、シオンでオーラフォトンの矢を放つ!
カクインはふっと重心を低くして構えた。
しかし、矢が空中で飛散してカクインに降り注ぐ!!
「っ!!はぁあぁっ!!」
その矢をナックルで砕いたり避けたりして、全てかわしきるカクイン。
ふっと、カクインの目の前にもう一本の矢が迫る!!
「っ!!っつあ!!」
「ちっ……かわされた!!」
あの飛散する矢は囮で、今のがメインだった。
だが、紙一重というところで、カクインは体を反らせて避けてしまう。
すぐにシオンを構え、一斉に散弾を放つ!
「甘い!二度も同じ手は食わないさ!」
「同じ手じゃなければどうなのよ!?」
「なにっ!?」
カクインがオーラフォトンに似たバリアを発生させたのはわかっている。
おそらく、真正面からぶつけても私の矢が貫くことはない。
散弾矢は全て、カクインの寸前で頭上へと急激に上昇していく!
「なんだ……!?」
「龍陣招!!!」
ゴパッ!!
カクインの背後の足元の雪から、一本の真っ赤なオーラオフォトンを纏った矢が突き出てきた!
そのままカクインの腹部を背中から貫く!!
「ぐぶっ……が……バリアのない背後からくるとは……っ!」
「あなたのナックル……擬似神剣ね?出雲で開発されながら、出雲が使用禁止した……」
「メシフィア貴様……どこでそれを……!!」
「あ、えと……キュリアに聞いたのよ!」
私がキュリアなのに、バカらしくなってくる。
覆面もカツラも早く取りたい………。
「ふん……そうさ、これは擬似神剣。いわば神剣の中のスピリットのような存在だな」
「やっぱり……力の制御が難しくて、全て処分されたはず……」
「出雲に属する人間はそれぞれ野望を持っていた……あわよくば、神剣の力も欲しい……とかね」
「カクイン……あんたも……」
「そうさ。でも、これを手に入れたのはごく最近さ……復讐を果たすために!」
「……」
復讐=啓太を殺す
その原因と考えられるのは………
「シャルティ……」
「そうさ!シャルティは……【絶対に帰ってくるからね!】そういって……二度と僕の前には現れなかった」
「……でも、殺したのはヴァルキュリア……」
「メシフィアが啓太と一緒に異世界に行かなければ……ころされなかったのに」
「……そんなこと言ったら、キリがないじゃないのよ」
「誰かを殺せない殺せないと叫んでおきながら、結局シャルティは犠牲になった!!」
「………」
「自分も殺せないアイツが……シャルティを殺したんだ……!!」
「……違うのよ」
「なにが違う!?瞬は助けて、なぜシャルティは……!!」
「………」
私はわかる。
彼がどれだけ自分を押し殺していたか。
それが、憧れの人に追いつくために頑張っていた時もそうだったし、大切な妖精を失った時もそうだった。
シャルティが死んだのは結果論に過ぎない。
そもそも、出雲が……いや、あの人が、啓太を狙わなければ、そんなことにはならなかった。
「彼は、あんたなんかよりずっと自分を押し殺してた」
「なら、なんで【殺さない】って持論を、シャルティには……!!」
「自分の兄を取り戻すのに精一杯なのに、あんたの恋人まで護れ?ふざけんじゃないわよっ!!」
「なんだと……!!」
「てめーの恋人ぐらいテメーで護れ!!それができなかったから啓太を殺す?はっ……ダサイ、ダサすぎるわよアンタ」
「貴様……!」
「男のクセに情けなさすぎるわよ。誰かを恨むことでしか悲しみを処理できないなんて、あんた腐ってるわよ!今すぐ地面に還りなさい!」
「メシフィアぁ!!」
バッ!!
すぐにシオンを構えて矢を放つ!
カクインの動きがさっきの倍以上に見えて、なかなか定められない。
このままだと間合いが……!!
「敵に情けをかけてもらうことを頼るなんて、バカなんじゃない?」
「それでも!!僕はシャルティに死んで欲しくなかった……!!それを、アイツは!!」
「その原因はアンタらが啓太を襲うからでしょう?」
「あの人の理想のためには仕方ない……そう思っていたさ!!」
「そんなにあの人の理想が大切?私は彼に会って、あの人の理想以上の何かを見つけたけど?」
「なんだと……お前、メシフィアじゃない!?」
バッ!!
間合いを詰められ、すかさず拳をかわしてしゃがむ。
髪が拳に引っ張られ、エクステが取れる……。
長く黒い髪の下から見えるのは、まるで透けるような儚い金の髪。
強く気高い瞳は、まっさらな空の青色。
「貴様……キュリア!!」
「あの方の理想はすばらしくて、とても惹かれるものがある……」
「なぜ貴様が……!」
「でも、あの人の理想は【人間の世界】じゃない。人間らしさのない世界なんて、何の意味もないわ」
「あの方を侮辱するか……!!」
「人間は今を精一杯生きて、笑って泣いて叫んで怒って、それで十分。それを彼に私は教えられた」
「……だからなんだっていうんだ……そんな理屈のせいでシャルティは!!」
「アンタが精一杯シャルティを護ろうとしなかったからこうなっちゃったんじゃない」
「なにを……!!」
「護りたいのならずっと一緒にいればよかった。へばりついてでもいけばよかった」
「……!」
「カッコつけてちゃ大切なものどころか何も護れないのよ!!彼は必死にあがいて、それでもダメだったこともある!それでも彼は笑ってる!!」
「………」
「それはなぜ?今を精一杯生きた結果だからでしょ?たとえ悲しい結果でも、それが彼を育ませる。それが人間らしさってヤツでしょ」
「……」
カクインの拳がゆるり、と落ちる。
その手に集まる力は、だんだんと散り散りになっていく………。
「あの人の理想に目を曇らせていたから、あなたはシャルティを護れなかった」
「……」
「大切な物を護るために、犠牲を出さないように!って必死であがいて何がいけないの?」
「………」
「みっともなくていいじゃない。それでシャルティを護れたなら!!そう思わない!?」
「うるさいっ!!わかってるよ……そんなこと!!」
「ッ!?」
カクインの拳に、一気に力が戻った。
怒り、憎しみ、虚しさ……全ての負がこもった、非常に重たい力。
カクインの体が真っ黒なオーラに覆われていく……。
「でも……もう無駄なんだ。シャルティは帰ってこない!だったら、もう僕にはあの方の理想を実現するしか……!!」
「なぜ?あなたを苦しめた理想を、なぜまだ支持するのよ?」
「啓太は……啓太は、何もかも変えていく。それは邪魔なんだ!その力は、この世界に災いを呼び込むだけ!!」
「……」
「この世界で平和であってほしいために、僕は……あの方は、啓太を殺す!」
「……そう、なら、もういいのよ」
{やろう、キュリア}
「ええ」
私はシオンを構えた。
私には、やっぱ彼の真似事は無理だったようだ。
私の理屈を全て認めても、カクインはやっぱり彼を殺すつもりだ。
だったら、意地でも止めるしかない。
「彼は変えてくれた……瞬が変わって、メシフィアが変わって、メルフィーが変わって……………そして、私も変わった」
「はぁあぁッッ!!!」
カクインが迫ってくる。
それが、すごく遅く見える………。
「もう逃げない……ッ!!彼が、あの人とは別の方法で、この世界を平和にしてくれることを信じて!!」
「ッ!?」
カクインの拳を、弓にセットした矢で止めた。
お互い、コンマの単位で止まった時間が、すごく長く感じた。
オーラフォトンを纏った矢は、カクインを貫き、後方の林を綺麗に吹き飛ばしていく………!!!
「彼は殺せないんじゃないのよ………………殺さないだけ」
「なに………?」
「人間は誰しも、限界の一歩手前に線を引いてる。それが、自分の限界だって言ってね。でも、彼は本当の限界を知ってるのよ」
「………」
「人より、人の心に最後の一歩踏み出す勇気があるだけ。ま、それは……アエリアにもいえるんだけど」
あの2人……
なぜか、人を信用させる何かがある。
アエリアは単に裏表がないだとか、そういった感じなのだろうけど。
「ふっ……もう、いいさ」
「カクイン……」
「それ以上言ったら……僕まで信用してしまうじゃないか………」
「……そうね」
「キュリア……啓太のことが、好きか……?」
「ええ、大好きよ。で・も!親友としてだけど♪」
「男と女の関係での親友、か……お前ならありえそうだな……」
「……」
カクインの体が薄まっていく。
それは、誰であろうと感じる、寂しい気持ち。
本当に、これしかなかったんだろうか?
――――そう思いながら消えゆくカクインを眺めていると、急に黒い歪みが発生した!!
「なっ……コレは!?」
【カクイン……まだ死ぬこと、許さないぞ……】
「こ、この声……っ!!」
【キュリアよ……裏切った罪は重いぞ】
「……啓太を殺そうと、兄まで巻き込んで……そっちのほうが罪じゃない?」
【ふ……わかっているくせに。あいつの存在そのものが、この世界に災いをもたらしていることを】
「………だから?」
【あいつには死んでもらう。まぁ、あいつはもう終わりだがな】
「どういう意味よ?」
【知らんのか?アイツの寿命は20年。ヴァルキュリアの戦い時に寿命を縮めたからな……もう長くはない】
「なっ……そ、そんなデマカセ……!!」
【お前に信じてもらおうなどとは思わん。次会うときは、説得など無用の【殺し合い】になることを覚悟しておくんだな】
「っ!!」
黒い歪みが収束し、消え去った。
その場には、何もなかったかのように雪があるだけ。
「………ウソ、よね………まさか」
私は不安を拭うように、ソスラスに向かって呟いた―――――。
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