「それでは、戦争の終結を祝って……乾杯!」

 

 

 

 

 

かんぱーーーい!!!

 

 

レスティーナの声にしたがって、祝勝会を始める。

あのいかつい重鎮たちや、外で宴会をやっている兵士も今日は笑っていた。

 

やっと、戦争終結という言葉が身に染みてくる。

 

 

 

 

 

「でも、なぁ……」

「どうしたボンクラーニョ?」

「ヨーティア?なんだ、出席してるのか」

「たまには、こういうのも骨休みにいいと思ってな。お前も楽しめ」

「ヨーティアの骨は四六時中休んでるけどね。俺の方はちーっとも終わってないなー、ってさ」

「天才は隠れた所で苦労しているものだ。まぁ焦るな。あっちで何かしら収穫はあったんだろう?」

「出雲に関してはあんまり……ていうか、爆弾テロとかにあったしな。あ、そうそう」

 

 

 

 

 

俺はポーチから電池と酒を取り出す。

 

 

 

 

「これ、約束のお土産だ。原理は自分で解明してくれ」

「ほほう……興味深いな。助かるよ。なんせ課題はマナに次ぐエネルギーだからな」

「そういえばイオは?」

「………ん、あぁ………ベランダにいるんだが……その、な」

「……やっぱ、してた?」

「ああ。それも最初だ。お前は全く……」

「参ったな……」

 

 

 

 

嬉しいけど、困る。

相手の気持ちを知ってしまったからこそ、どうも対応しにくい。

 

 

 

 

「でも……ま、とりあえずは、普通にしてみるよ」

「泣かすなよ?イオは私のパートナーなんだからな」

「……努力します」

「努力じゃだめだ。約束しろ」

「…………じゃ、じゃぁね」

「あ、こら逃げるな!」

 

 

 

 

 

 

ベランダに向かう。

月夜の晩、月光を浴びて幻想的な雰囲気を漂わすイオ。

喋りかけるのがもったいなくて、眺めていようかと思うほどだ。

 

俺が同じように憂いの顔をしても、絶対みんな笑うんだろうな………

 

 

 

 

 

「イ〜オ〜?」

「!け、ケイタさん………」

「久しぶり。元気してた?」

「は、はい……ケイタさんは、ご無事でなにより……」

「いやぁ、やっと戦争おわったな……」

「そうですね……私は戦闘はしていませんが……」

「あ、そ、そうだね……あはは……は」

「はい………」

「………えと………」

 

 

(う……気まずい………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケイタさん」

「あ、なに?」

「ハイペリアはどうでした?」

「……なんっか違うんだよね。すっげー、違和感あってさ………つくづく、あの国は平和なんだなぁ、って思った」

「そうですか……」

「あ、そうだ!イオにお土産があるんだ」

「お土産……?」

 

 

 

 

 

俺はベランダの手すりにイルカの置き物を置く。

二匹のイルカがくっついて踊る所を模したもので、それが青白いガラスで表現されている。

揺らすと、なんとかの法則とかいうので長時間揺れ続ける代物だ

 

 

 

 

「これは……?」

「イルカっていう、俺の世界の動物だよ。可愛いでしょ」

「はい。こんな愛くるしい動物がいるのですか?」

「実際は水の中だけどね。キュイイイって鳴くんだ」

「そうなのですか……一度でいいから観てみたいものですね」

「もし実現できたら、だけど。一緒に見に行こうか」

「え……?」

「あ、可能性は低いけどな。アセリアも危ないことになったっていうし。でも、一応、約束だ」

「……はい」

「もし行ける様になったら、俺が絶対に連れてってあげるよ」

「ケイタさん」

「うん?」

「マスターにお聞きしました。この気持ちが一体なんなのか」

「………」

「でも、ケイタさんには憧れの方がいて………」

「実はさ、俺……フラれちゃったんだよね。その憧れの人に」

「………」

「だから、俺も新しい一歩を……ってところなんだ。イオと同じだよ」

「同じ……ですか」

「そう。だから……ま、あれだよ。お互い、さ、頑張っていこうぜ。励ましあって……このイルカみたくさ」

「……そうですね」

 

 

 

 

 

俺とイオは、仲良く泳いでいるイルカを眺める。

すると、ぴとっとイオがくっついてきて、肩に頭を乗せてきた。

 

 

 

 

 

「い、イオ?」

「はい?」

「く、くすぐったいんだけど……俺、首周りが徹底的に弱くて……そ、それに……」

 

 

 

 

 

このバクバクの心臓音が聞かれたら……

な、なんか恥ずかしい。

こういう時は話を逸らして―――――

 

 

 

 

 

「イオ……ホワイトスピリットってのは、遥か昔に生まれただけなんだよね?」

「?」

「………何歳?」

「…………なんでしょうか……なんかふつふつとケイタさんを殴りたいという欲求が――――」

「じょ、冗談!答えなくていい!だから拳を握らないでください!手が真っ白になってる!」

「……女性に年齢を聞くのが、ハイペリアのマナーなのですか?」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………違います」

 

 

 

 

 

とりあえず体裁を整える

でも、これで注意は逸れて―――――

 

 

ってまたくっついてるよイオ!?

オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオッ!?

 

 

あぁ!?なんてトリッキーな!?いつのまにかイオと言ってる!!

 

 

 

 

 

 

「ケイタさんといると……落ち着きます……」

「そ、そう?……(俺は落ち着かないよ)」

「それに、自分でもおかしいと思うくらい、心が弾みます。不思議な現象ですね……」

「あ、あぁ……そだネ」

 

 

 

 

あ、やべ。

声が裏返った。

 

こ、これ以上はまずい!

 

 

 

失礼にならないように、すっと離れた。

まだ息を吐いたらかかるくらいに近いが、ちょっと安心できた。

 

 

 

 

ブルッ

 

体が冷えてきたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

「俺も、イオといるの楽しいしさ。またラキオスと自治区で別れるけど、たまには遊びにくるよ」

「はい、お待ちしてます」

「んじゃ、俺はそろそろ戻るよ」

 

 

 

 

さすがに体が冷えてきた。

中に入って、温かい料理でも食べよう。

 

 

 

 

「ケイタさん」

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――おかえりなさい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ん〜……瞬?どしたのこんな壁際で?」

「いや……どうも、輪に入りづらいからな……」

 

 

 

 

 

瞬は壁によりかかって、ワインみたいなのを飲んでいた。

アルコールに似た成分があるかどうかは知らない。

 

 

 

 

 

「でも、それじゃ……」

「今は……な。努力するさ、いわれずともな」

「………」

 

 

 

 

瞬も瞬なりに、いろいろ考えているようだ。

なら、あれこれ口出しするのは良くないだろう。

ちょっと手助けするくらいで。

 

 

 

 

 

「エスペリア〜」

「はい?ケイタ様、なんでしょうか?」

「瞬が酔っちゃったみたい。観てあげてくれない?」

「え……シュン様が?」

 

 

 

 

驚いたような、躊躇ったような間。

エスペリアなら、面倒見がいいからできると思ったんだけど……

 

 

 

 

 

「お願いできる?」

「は、はぁ……」

「お、おい啓太!」

「いいからいいから」

「ではシュン様、隣の部屋にどうぞ」

「あ、あぁ……」

 

 

 

 

瞬がエスペリアに導かれて、会場を出て行く。

すると、ざわっと俺の周りに人が集まる。

 

 

 

 

「瞬、どうしたんだ?」

「実は酔っちゃってな」

「へぇ〜、あの秋月も酒には弱かったか」

「光陰はめっぽう強いな。どうしてだ?」

「悠人といつも、親父に飲まされてたからな。なれたよもう」

「……ふーん」

「じゃ、俺たちもちょっと様子見てくるか」

 

 

 

 

 

悠人たちも、隣の部屋に向かう。

それにしたがって、俺もこっそり後をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「瞬?酔ったんだって?」

「あ、あぁ……」

「それにしては顔も普通だし、ん……?この飲み物は?」

「実は……シュン様はそれを飲んでお酔いになられたようで……」

 

 

 

 

光陰がグラスを持つ。

エスペリアの説明に、なぜかみんながえぇ〜!?と驚いてる。

 

あり?

 

 

 

 

「な、なぁ……これって……」

「あぁ……これ、子供用のジュースだぞ」

「……え?」

「オルファでも飲めるよ〜?パパのお友達って、お酒じゃなくても酔うんだね〜っ!」

「………(啓太……いつかコロス……!!)」

「ははっ!誓いのエトランジェはジュースに弱いってか!!こりゃ傑作だ!」

「碧!笑うな!!」

「でもまっさかジュースで酔うとはね〜。悠のピーマン嫌いといい勝負よ」

「おい今日子。俺はもうピーマン食べられるぞ」

「悠人、それは高校生が言う台詞じゃないこと、わかってるだろうな?」

「………」

 

 

 

 

みんながクスクスと笑い、悠人が黙る。

さっきから、瞬が殺気だった目をこっちに向けているが……まぁ無視。

 

怖いけど無視ったら無視♪

 

 

 

 

 

 

「これで、ちっとはいい感じかな……と」

 

 

 

 

 

俺は月を眺めた。

綺麗な月……戦争が終わった夜に見る月は、また格別だ。

 

たくさんの犠牲が出たけれど、これからの世界は……その犠牲に見合ったものになると思う。

 

それは、予感じゃなくて確信に近かった―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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まだみんなが徹夜騒ぎで寝静まった朝方……。

 

たぶん、今起きてるのは俺くらいなもんだろう。

 

 

 

 

 

「それでは……アディオス、ラキオス」

 

 

 

 

ラキオスにお別れを言って、城壁の外に出る。

エーテルジャンプを使えば楽なのだが、いかんせんそのためにヨーティアを起こすのは躊躇われる。

ま、急いでもしょうがない。

 

平和な世界を眺めながら、ゆっくり歩いていくのも悪くない。

 

 

 

 

 

「1人でどこ行くつもりだ?啓太」

「うひゃっ!!しゅ、瞬?」

 

 

 

 

 

城壁を降りると、すぐ瞬に出会った。

全く、俺の行動はまるわかりってことですか。

 

 

 

 

 

「お前の行動は丸分かりなんだよ」

「……だから、なんで気持ちがわかるんだよ」

「顔に出てたぞ。文字になってた」

「………うるせぇ」

 

 

 

 

 

なんでみんなそう言うの?

今度鏡で確かめてみるか。

 

 

 

 

 

「ま、止めはしないさ」

「じゃ、なんで?」

「お礼、だよ。まだ、ちゃんと言っていなかったからな」

「……ありがとう、って戦闘後に言ってたぞ」

「昨日のだ」

「……はっ!まさかそれは【お礼参り】というヤツか!!」

「違う。ジュースだとわかっていて、あんなこと言ってくれたんだろう?」

「………さ、さぁね」

「何から何までありがとう。あとは、自分の力でなんとかしてみせる」

「そっか……うん。それなら、俺も頑張った甲斐があるよ」

「それじゃな、まだ何かあるようだが……死ぬなよ?」

「オーケィ。アディオス!!」

 

 

 

 

 

瞬に見送られながら、俺はラキオスを離れた。

朝、俺が消えたということでラキオスは騒ぎになったそうだが、まぁ平気だろう。

 

ヘタに恩賞だとかもらいたくないし。

 

 

 

 

 

そういうわけで、再び白の大地へと戻っていく………。

 

 

 

 

 

 

そこは、とうとう………

 

 

争いに巻き込まれることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠戦争の……本当の最終決戦の地に―――――

 

 

 

 

 

未だ平和なその地の人は、誰一人予想していなかった………。