「な、なんだ!?」

「うぐあっ!!がぁぁあっ!!!」

 

 

 

 

いきなり瞬が悶えだした。

何かを押さえつけるように、必死に胸を掴む。

 

 

 

 

 

「下がれ悠人!何が起こるかわからないぞ!!」

「あ、ああ!」

 

 

 

 

悠人を下げて、カノンを抜いた。

瞬から放たれるオーラがどんどん膨大になっていく……!!

 

 

 

 

「やはり……啓太さんをもっても、奇跡は起きませんでしたか……」

「倉橋?どういう意味だ?」

「彼は、誓いに呑み込まれて世界という永遠神剣と同化する運命でした」

「なっ……!!」

「あなたと神光があれば、もしかしたら……と思ったのですが」

「じゃぁ……今、瞬は……」

「見てください……誓いが、変形していきます……」

 

 

 

 

瞬の持つ誓いが、姿を変えていく……。

瞬の体や服にまで変化を与え、背中に浮かぶ剣までも作り出す。

 

そのプレッシャーは、さっきまでの瞬より圧倒的に強い。

 

 

 

 

 

「ふ……危うく歪みを修正させられるところだった」

「お前は………」

「永遠神剣第二位【世界】だ。危うく消滅しかねないところだったがな」

「瞬を……」

「この者の歪みは膨大なエネルギーになる。危うく力を発揮できなくなるところだったぞ」

「やはり、出てきましたね……!」

「ほぅ……上位神剣の契約者か。面白い……」

「成りたてのあなたが、私に勝てるとは思わない方がいいですよ?」

「試してみるか?」

「望む所……!私は時詠のトキミ!!エターナルトキミ!!」

 

 

 

 

 

高らかに声をあげ、その剣を引き抜く倉橋。

瞬はまるで殺人者のような目つきで、倉橋に浮かぶ数本の剣を襲わせた!!

 

まるで意思を持ったように動きまわる神剣を、完全に見切ってかわしたり弾いたりする倉橋。

あまりの激しさに、衝撃波が城全体を揺らす!

 

 

 

 

 

「倉橋!」

「平気です!それよりみなさんを下げて!」

「違う……!瞬は、もう戻らないのか!?」

「……残念ですが」

「………」

 

 

 

 

 

(カノン、本当に方法はないのか!?)

{ないな}

(何か、何かあるだろ!?)

{………}

(せっかく和解できたってのに……こんな結末ってないだろ!!)

{……}

(俺はしってる!アイツがどれだけ苦しんで、悩んで、それで……また、人を信じようって思って……カノン!!)

{……本気なのか?}

(当たり前だ!)

{………一つだけある}

(え!?)

 

 

 

 

 

お約束の展開だが、やれるならやる。

カノンの心配な感情なんて無視だ。

 

 

 

 

 

{世界に、世界以上の一撃を与えて精神を斬り殺す}

(なに……?)

{つまり、世界の意識だけ殺すんだ}

(………)

{第二位の力は絶大だ。熟練の倉橋でさえ、互角の戦いだ。これが、どれだけ大変な意味かわかるな?}

(………俺に、アイツを越えろ、と……)

{ずっとではない。一瞬に全てをかけて、そこだけ力を超えればいい}

 

 

 

 

 

つまりは、一撃必殺の精神をもって斬れ、と。

二度目どころか、俺の命さえなくなるかもしれない、危険な賭け。

 

失敗すれば、俺だけでなく瞬も………

 

でも、それを怖がっていては……

 

何も変えられない。

 

 

 

 

 

 

 

(……やるよ)

{一歩間違えば、お前も瞬と同じ道を歩むぞ。そしたら誰も止められず、世界は終わる}

(……やる。瞬が……瞬が、やっと掴んだ未来なんだ。その道を切り開くって、俺は約束したんだ!!)

{了解!倉橋にチャンスを作ってもらえ!}

 

 

 

 

 

 

カノンの声が消えた。

その刹那、膨大な力がカノンからあふれ出てくる。

城を揺らし、まるで場を支配したような錯覚に陥る。

 

みんなもそれに気づいたのか、カノンを凝視したまま固まっている。

 

 

 

 

 

 

「ケイタ様!その力は……!」

「一撃……下がってヒミカ。危ないから」

 

 

 

 

 

カノンを抜き放った。

バサッ!と白い光が雪のように散り、その場を幻想的な風景へとかえた。

 

カノンはまた変形していて、するどく枝分かれした黒い刀身に、二つの光球が回っている。

 

 

 

 

 

「倉橋!ワンチャンスでいい!!隙を作ってくれ!!」

「啓太さん!?」

「そこで俺が仕留められなければ、その後は好きにしていい!!」

「でも………!!」

「瞬は苦しんでもがいて、やっと光を掴んだんだ!それを、簡単に踏みにじって笑って……そんなヤツが、こんな結末にして!そんなの俺は認めない!!」

「……」

「こんな結末にしてたまるかよォ………ッ!!!倉橋!!」

「わかりました。ですが、本当に一度だけですよ!?」

「ああ!!一度で十分だ……!!」

 

 

 

 

倉橋が飛び交う剣を抜けて、瞬を狙った!

瞬がすかさず剣を抜いて、倉橋に斬りかかる!!

 

 

 

 

 

「時間ごと加速して……!!タイムアクセラレイト!!」

 

 

 

 

バシュッ!!

 

倉橋がいきなり加速した。

目にも止まらぬ速さで、瞬の横を通り抜ける。

 

その一瞬に、隙ができた!

 

 

 

 

 

「啓太さん、今しかありません!!」

「わかってるよ!!瞬……!」

「舐めるな……!貴様ごときが敵う相手だと思ったか!!」

「ッ!!」

 

 

 

 

懐に入って、構える。

すると、瞬の隙が消えて剣が俺に向かってくる!

 

 

 

―――やられる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぐ、が……」

「瞬……?」

「こ、これ以上………」

「……」

「か、おりを……これ以上!苦しめて……たまるかぁあぁ……ッ!!!」

「瞬……ッ!それでこそ瞬だ!待ってろ!今、世界を消してやる!!!」

 

 

 

 

 

 

瞬の意識が、微妙に戻った。

世界の剣は、俺の髪を数本切り落として止まっている。

ガタガタ震えるその手が、瞬の粘りを見せてくれる。

 

これに応えるのが、俺の仕事だ……!!

絶対に、応えてみせる!!!

 

 

 

 

 

カノンに真っ赤なオーラフォトンを巻きつけた。

それは炎のように燃え上がり、灼熱の剣となって敵を切り裂く力となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――永遠なる自由よ

 

 

――――今、それを掴むために、我、剣を振らん

 

 

 

――――彼の者に永遠と自由を与えよッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エタニティー!!」

 

 

 

 

 

ガッ!!

 

瞬の手にある剣に、カノンをぶちあてた!

鈍い音がして、赤いオーラフォトンが世界にまきつく!!

 

背後からやってくる、飛び交う数本の剣を、一薙ぎで全て消し飛ばす!!

 

 

 

 

 

 

「フリーダムッ!!っつぁあぁあぁッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

そのまましゃがんで、思い切り切り上げた!

ガキッ!!と鈍い音がして、瞬の持っていた世界が弾き飛ばされ壁に刺さる!

 

赤いオーラフォトンが燃えるように包み込んで、世界の意識を焼いていく………!!

 

 

 

 

 

 

「が……あぁ……バカな……!」

「消えろ世界……!!お前はお呼びじゃないんだ!!」

「貴様ァ……!」

「悔しいか!憎いか!!それがお前のしたことだ!!!絶望しながら消えていけ!!!」

「ぐあぁあぁあぁ…………!!!」

 

 

 

 

 

赤いオーラフォトンが消えていく……。

オーラフォトンが消え去ると同時に、世界の意識も消えた。

 

瞬が、むくりと体を起こす。

 

 

 

 

 

「僕は………」

「瞬、平気か?」

「あ、あぁ………」

「瞬、カッコ良かったぞ」

「何がだ悠人?」

「佳織をこれ以上苦しめてたまるか!って」

「あぁ……」

 

 

 

 

 

俺はへなへなと座り込んだ。

カノンは静かに、もとの黒い大きめな片手剣へと戻っていた。

あれが……カノンの、本当の姿だったのだろうか?

 

 

 

 

 

「啓太、本当に助かった……」

「瞬が素直にお礼を言うと気持ち悪いぞ」

「いや……もう少しで、もう佳織と会えないところだった……」

「じゃー、はやく悠人ともっと仲良くなるんだな。それよか、早くこのしみったれた城を出ようぜぃ……」

「そうだな。瞬、お前も来るんだよな?」

「僕もか?いいのか……?」

「いいんだよ、もう仲間なんだから。それじゃ、みんな!胸を張ってラキオスに帰ろう!!」

 

 

 

 

 

悠人たちは、疲れも吹っ飛んだかのように城を出て行く。

まだ俺はさすがに休憩したい気分だが、負けた国にいつまでもいるのは危険だ。

少し休憩したら、俺も自治区へ帰ることにするべきか。

 

 

 

 

「何してるの?」

「セリア?なんだ、みんなもう行っちゃったぞ」

「あなたもいなくちゃ話にならないわよ」

「でも、俺は自治区に帰らなくちゃ………」

「ラキオスで挨拶を済ませたら、で十分間に合うわよ」

「……そうか。いきなり現れて引っ掻き回したからな……挨拶ぐらいしておくか」

 

 

 

 

膝を曲げて、片手を膝に置いて、もう片方の手を差し伸べてくるセリア。

その、覗き込まれるような顔がすごく可愛く見えた。

その手を取って、俺も立ち上がる。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

それにしても、倉橋はなんて強いのだろうか。

あんな状態の瞬と、息も切らさず互角に戦えるとは……。

 

そんなことを、セリアに肩を借りて歩きながら思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして、戦争は終結を迎えた。

 

 

白き魔女の筋書きにはない、【サーギオスのエトランジェ、ラキオスに】という一文を加えて―――――