世界は全て灰色に見えた。
誰一人、ボクのことを理解してくれない。
ボクがいなくなっても心から困る人なんていない。
いつケガしようが、いつ入院しようが、結局は死ななければそれでいいんだ。
たまに見舞いにきてくれる大人も、結局は気に入られるのが目当て。
なんでこんな家に産まれてしまったんだろう………。
でも、彼女は違う。
彼女だけは、ボクに温かさと幸せをくれた。
だから、ボクが彼女を幸せにするんだ。
彼女だけは裏切らないし、ボクも裏切らない。
――――本当に灰色なのかな?
え?
誰だ……?
―――世界は、綺麗な色で溢れてる。だって、彼女は灰色じゃなかったんだから
誰だ?
ボクに語りかけてくるのは………
――――今すぐ理解しろなんていわない。どうしても理解できないなら、相手にぶつけてみればいい
一体、キミは…………
――――ボクはキミさ……。そして、キミを起こしてくれる人が、もうすぐ現れる
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CONNECTING・FATE
~ 奇跡に手を伸ばして ~
~第3幕~
奇跡に手を伸ばして
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「バカ!ここには佳織がいるんだぞ!!」
「求めえぇえぇっ!!砕けろぉおぉおぉッッ!!!」
一瞬の出来事だった。
倒したと思った瞬が、いきなり動き出した。
佳織がいるというのに、襲ってくる瞬なんて初めてだ。
俺は咄嗟に求めで護ったが………
バリィイィンッ!!!
あっけなく求めは折れてしまった。
ガラス細工のように、ボロボロと床に破片が落ちる。
体から力が抜け、そのまま座り込んでしまった。
それでも、佳織だけは護ろうと体で庇う。
「くっ!悠人!!みんな!悠人を護れ!!」
「悠!佳織ちゃん!!下がって!!」
「ユート様!!」
みんなが俺と佳織を庇って瞬に立ち向かう。
でも、力の差は圧倒的だ。
今の瞬は、瞬じゃない。
誓いにほとんど呑み込まれている。
「邪魔だ貴様ら!!悠人を……殺させろぉおぉッッ!!オーラフォトンレイィイィッッ!!!」
真っ赤なオーラフォトンがみんなの足元に展開された。
急激に膨れ上がり、限界まで膨張して大爆発を起こす!
鼓膜が破れそうなほど大きな音が城を揺らし、壁を崩し、柱を倒した。
音が収まり、直視できると、そこにはみんなが傷だらけで横たわっている。
「く、くそっ……」
「ダメお兄ちゃん!!今行っても死ぬだけだよ!?」
「でも!!」
そのとき、頭に響く声。
それは、聞き覚えのある女性の声………。
{悠人さん!}
「誰だ……この声……!?」
{今はそれどころじゃありません!急いで私が送るイメージを、力を込めて描いてください!}
「な、なんだって……?」
{はやく!!みなさんが死にますよ!?}
「わ、わかった!」
送られてきたイメージを、右手に力を込めて描く。
が、全く変わらない。
{どうしたんです!?}
「何も……何も起こらないぞ!!」
{求めに問いかけて!まだ生きているはずです!}
「求め……!?おい、くそ!バカ剣!!」
{……なんだ}
あのふてぶてしい声が、小さく弱く聞こえる。
手にある砕けたバカ剣は、もう見ていられないくらい悲しい雰囲気を持つ。
「お前……力、残ってるのか?」
{少しは……な。もう、ほとんど我の意識は呑み込まれつつある}
「すまない……俺がふがいないばかりに……」
{それどころではないだろう。何の用だ?}
「実は、お前の力を貸して欲しい……」
{……ふっ、いいだろう}
「え?いいのか?」
{どうせ誓いに呑まれるのだ。最後くらい素直に貸してやろう}
「……見返りは?もういいのか?」
{……そうだな。どうせなら、一つ代償を求めよう}
「ああ」
{生き抜くのだ。たとえ、何があろうとも。お前といた時間のおかげで、どうやら我も随分毒されたようだ}
「……そうかもな」
求めの最後の力が、俺の体に流れてくる。
これなら、あの女性の声の通りにできそうだ。
―――だが、求めの反応が消えていく
「バカ剣……」
{ふっ……お前といた時間は、なかなか退屈しなかったぞ。よくも我を押さえつけてくれたものだ}
「ったく。何度も飲み込もうとするからだ」
{我の負けだ……それではな}
「求め!俺、お前にはさんざん苦労したけど………俺も!俺も結構楽しかったぜ!!」
{ふっ……とんだ酔狂だな………}
「じゃぁな………………相棒」
求めの反応が消えた。
生死を共にした相棒だから……悲しい。
涙が出そうになるが、それじゃ何もできない!
バッと女性から送られてきたイメージを、求めの力を右手に込めて描く!
すると、門のような光があふれ出てきた!
{そのまま!私たちを呼び寄せるように!!}
「ああ!!」
そのまま、ぐぐっ!と門を引き寄せるように力を込めた!
何かが弾けるように爆発し、その光が一層眩しくなる!
「くっ……!!」
眩しいのもつかの間、あっという間に光は消えた。
そこに立っていたのは、あの神社で出会った時深……それに……!?
「啓太まで!?」
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「神剣に魂を呑まれるとは……」
「ふん……貴様も悠人の仲間か」
「いえ……あなたの敵ですよ」
「こ、こらこら!倉橋さん!勝手に敵対しないでくださいよ!」
「え?」
完全に俺を無視して、二人の雰囲気を作らないでほしい。
それじゃ、俺の苦労が水の泡だ。
「瞬、だよな?まだ」
「貴様は……佳織のストーカーか」
「そりゃないでしょ……むしろそれは瞬……」
「貴様も悠人を庇うというのか?」
「いんや、そんなつもりはないよ」
「じゃぁ、なぜ邪魔をする!?」
誓いを抜き放ち、今にも襲ってきそうな瞬。
あまりに殺気立っていて、このままでは………
急がないと、神剣に呑まれる。
「悠人を殺させるつもりはない。でも、だからといってお前を倒すつもりもない」
「じゃぁ何をしにきた!?」
「本当の瞬を、取り戻したくて……ここにいる。それじゃダメか?」
「はっ……本当の僕だと?貴様に何がわかる!?」
「わかるさ……前はわからなかった。でも、今の俺はわかる!!」
ここで負けちゃだめだ。
そう思って、声に力を込めた。
「なに……?」
「郵便屋のお兄さんは、秋月瞬さんに3つほどお届けものがあります」
「ふざけるな……!」
「一つ、母親の手帳。二つ、母親の遺書カセット。三つ……両親のお前への愛情」
「なに……!?なぜお前がそんなものを!!」
「俺はお前が理解できなかった。だから、理解しようとしただけだよ。手帳はお前が読め」
パスッ!
手帳を瞬の前に投げた。
俺はカセットを再生する。
【瞬へ……あなたが遺産を相続したことで、貴方の身に不幸が襲い掛かるかもしれません】
「か、母さん……!?」
【その原因は、きっとお母さんでしょう……これを聞くときには、お母さんを恨んでるのかもしれませんね……】
「……」
【身勝手なことだとわかっています。でも、貴方には……そんなものを吹き飛ばしてほしい、そう思います】
「なんだって……!?」
【原因である私が言うべきことではないのかもしれません……でも、お願いです。どうか、強く生きてください………】
「母さん………」
【不幸を幸福に変えてしまうような眩い子に、そんな男の子になってほしくて……お母さんとお父さんは【瞬】って名前をつけたのだから……】
「……!」
カチッ!
俺は遺書カセットのB面再生を止める。
瞬はじっと手帳を見つめて、読み始めた。
中に何が書いてあるかなんて知らない。
でも、きっと……書かれているはずだ。
瞬を取り戻すための、両親の思い出が………
「……なんでだ貴様」
「……」
「なんで今更、こんなものを持ってきたんだ!」
「………」
「今更迷惑なんだよ!さんざん僕を苦しめて、今更、父さん母さんはこう思っていたから、和解しろとでもいうのか!?」
「そんなつもりはないよ。だって、異世界にいるんだ。和解なんてできない」
「じゃぁなぜだ!?そうか……この場所で、哀愁を漂わせて僕を討つつもりだな!?」
「お前を倒すつもりはないと言ったよ」
「じゃぁ……じゃぁなんなんだ貴様は!!」
瞬が暴走を起こし始めてる。
でも、その気持ちを認めない限り、瞬は………。
「瞬、いくら佳織ちゃんがお母さんに似てても、お母さんにはなれないし、見えないんだよ」
「っ……!」
「目を開けようよ。そこにいるのは、佳織ちゃんじゃないだろ?お前の本当のお母さんとお父さんがいるだろ?」
「やめろ……人の気持ちを知らないで!何がわかる!?」
「わかるね!佳織ちゃんがお母さんじゃないとわかってるから!悠人が邪魔に感じたし、他の男が近づくと嫉妬したんじゃないか!!」
「違う!!佳織を護ろうと……!!」
「なんでもかんでも【佳織のため、佳織のため】。甘えるな!!そんなんで佳織ちゃんが……人が、お前に振り向いてくれるとでも思ったか!!」
もう引っ込みはつかない。
ここで叩き伏せなきゃ、チャンスは二度とない。
今しかない!
「佳織ちゃんに【私には先輩がいるんです!】って言わせてやろうってぐらいの気概はないのか!!」
「そんなことを佳織に求めてるんじゃない……貴様に何がわかる!?」
「佳織ちゃんの幸せを求めているなら、もっとお前は間違ってるね!!」
「なんだと!?」
「お前はあれだけ両親に愛されていて!それなのにお前は1人の世界から出てこようとしない!手を差し伸べた佳織ちゃんを引きずり込もうとしてる!!」
瞬の顔が歪む。
それは、強いて言うなら憎しみの顔。
このままでは、いずれ剣を交えてしまう。
それじゃダメなんだ!
「自分を心配してくれてる親がいて!愛する女性がいて!!それ以外に何がいるっていうんだ!!」
「邪魔なんだよ悠人が!!アイツを殺す!!それだけだ!!」
「悠人を殺したら、あの子はめっちゃ泣くぞ!壊れたように泣くぞ!一生お前を恨んで!一生お前に心を開かないだろうよ!!」
「悠人が消えれば、いつかはそれもなくなるさ……!」
「なくならないねその傷は!!そんなに佳織ちゃんを傷つけたいか!!それがお前の愛か!!一生の傷を負わせて!それでも悠人を殺して!!それで満足か!?」
場が静まる。
瞬は俯いたまま、手帳を強く握り締める。
勝ったか………?
「うるさいんだよ……っ」
「瞬……?」
「僕の苦しみも知らないお前に何がわかる!?全てが信じられない中で、佳織が!佳織だけが僕を信じて、温かいものをくれた!!」
「………」
「それなのに!その佳織にまとわりついて!両親まで殺した悠人が!許されるわけないだろ!!」
「………」
「彼女の中には僕だけがいればいい……!あんな疫病神!いなくていい!!」
きた……。
彼の中で、一番叩き伏せなければいけない心。
かつて疫病神と呼ばれた自分と同じ存在の悠人が、まるで自分を見ているようで苛立つ、瞬の心。
これを叩き伏せるのは、そうそう簡単にはいかないだろう。
でも、やってみせる。
約束したんだから!!
「悠人がいると、佳織ちゃんが不幸なのか?」
「そうだ!」
「……なんでそんなことお前が決める?」
「なんだと……?」
「佳織ちゃんが不幸かどうかは、本人が決めることだ!!たとえ周りから見て不幸でも、本人が心から幸せだと思ってる不幸だってある!!」
「っ!!」
「お前はそれだけ佳織ちゃんを愛しているのに!!佳織ちゃんが不幸と思っているかどうかもわからないか!!一体その目で何を見てきた!?」
「それは……」
「悠人がいて、岬がいて、光陰がいて、自分がいて……お前もいて……今の彼女が、不幸に見えるのか?」
「………」
瞬……
もう、やめるんだ………
「彼女にはみんながいて、確かにお前もいて。佳織ちゃんはそれを全て大切にしてる。お前もだ」
「……」
「お前に対する気持ちだって、大切にしてるんだ。それを……彼女の全てを愛せないで、それは本当に愛なのか?」
「くっ………」
「それができないなら……彼女の気持ちも愛せないなら……最初から彼女を、人なんか好きになんかなるんじゃないっ!!」
「………くそ」
(はふ~………)
俺は一息ついた。
額の汗を拭って、座り込む。
さすがに……疲れた……。
ふっと見ると、悠人が俯く瞬に歩いていく。
「瞬、啓太にああいわれても、まだ納得できてないだろ?」
「当たり前だ……!」
「だから、納得なんかしなくていい」
「なに……?」
「俺たち、ずっといがみ合ってきて……そのたびに、佳織を傷つけてた」
「……」
「だから、これからは、佳織を傷つけない方法で……勝負しようぜ」
「悠人……」
「俺が負けて……そしたら、俺も……瞬なら、って佳織を任せられると思う。俺もまだわかんないけどさ」
「………」
瞬の手から、誓いが抜け落ちた。
カラカラン……と、静かな音をたてる。
「佳織を、大切にしてくれるか?佳織のしたいこと、全て認められるか?」
「……無理だ。だが……いつか、必ず……その努力は、する……」
「瞬は天才だからな、きっとできる!」
「……悠人」
「だから、それまでは……2人で、佳織のこと、護っていこうぜ」
「ふん……いいだろう」
【2人じゃないぜ】
【そうそう。忘れないでよね】
「今日子、光陰……傷は?」
「今、啓太に治してもらったところさ。瞬」
「碧……」
「俺もまだお前を信じられそうにない。だけど、努力する。よろしくな」
「……ああ」
「じゃ、アタシも。そんなところだから、今までのは水に流してくれるってことで、ヨロシク!」
「僕の方こそな」
その頃の俺
現在、必死にオーラフォトンで応急処置中。
死にかけてます、俺。
連続で展開するとしんどい……。
最初にあの2人を治療して、現在はエスペリア、ハリオン、ニムントールの順で治療。
そうすれば、治療人員が増える。
「ま、なんにしても一件落着、と」
「すごいですねケイタ様は。あのシュンを説き伏せてしまうなんて」
「いやぁ……照れるからほめてくれるなヒミカよ。それにしても、もうちょい早く来れれば良かったんだけどな」
「でも、助かりました。おかげで……これで、戦争も……」
「そうだな。はい、治療おしまい」
パンッ!と背中を叩いた。
ヒミカはむくりと起き上がり、手足を確認する。
「ありがとうございました」
「いえいえ……次は……」
エスペリアはアセリア、ハリオンはナナルゥ、ニムは当然ファーレーン……
オルファとウルカはくっついてエスペリアの所にいるし、ネリシア姉妹はまぁハリオン……ニムはぶっちゃけファーレーン以外やるか?
いや、ファーレーンに言われればやるか。
じゃ、ヘリオンは任せて……
んあ、セリア発見。
正面から斬りかかっていったせいか、吹き飛ばされて壁に寄りかかってた。
「はいセリア、ケガしてるとこ出して」
「あ……」
「ん?俺の顔なんかついてる?汚れは勘弁な、急いでたし」
俺の顔を見て目を見開くセリア。
ん~……驚き?
いや……喜び?
「はふ~……っと」
「そのオーラフォトンの展開の仕方……気が抜けるわ」
「疲れてるんだ。我慢してくれぃ」
「……変わってないわね」
「数日で性格変わるほど、主体性のない人生送ってません。あ~、腕は完了、と。足出して」
セリアは足を投げ出した。
切り傷、擦り傷と見るに耐えない。
ま、あの世界の常識なんだろうが……とても女性の足とは思えない。
まぁ、それも今日で終わりだ。
「まさか、シュンを説得するために、ハイペリアへ?」
「んなワケないでしょ。自分のため。いろいろ知れたよ。しかしまぁ……正面からぶつかっていくとはね」
「アセリアに付き合っただけよ。いつものことだわ」
「全く、かわいげのない。ま、でも俺としちゃ、そっちのほうが話しやすいけどね♪」
下手な恥じらいだとかされると、こっちが困る。
だって、緊張するし。
「それに、約束覚えててくれたみたいだな」
「え?」
「俺が戻ってくるまで、死なない」
「……ぐ、偶然よ。たまたま生き残れただけ……」
「そうでもないですよ。事あるごとに、【あの人が戻ってくるまでは死ねないわ】って言ってましたから」
「ヒミカ!よ、余計なことは言わないで!」
「はいはい」
は~、このセリアがね~……。
義理堅いもんだ。
「んじゃ、さっきの顔はさしずめ、やっと戻ってきたのね、ってところ?」
「……さ、さぁね!そ、それより早く治療して」
「今してるって!俺のはそんな早く治らないっての!」
「全く……雑念が多いからじゃないかしら?」
「あ、そういえば……セリアに無理やり誘われたからだっけか」
「え?」
「ほら、訓練に付き合いなさい!って。あれのおかげでオーラオフォトンの展開もスムーズに……」
(まぁ?神剣が手を抜いて力を貸してくれなかったってのもあるけどなぁ……!!)
{ひっ……お、怒るなよ}
セリアの治療も完了。
あたりを見まわすと、もう全員が終わってる。
俺が遅いせいか……
「なんだかんだで結構セリアには世話になってるんだな。そうそう、これお土産」
「?」
俺はウェストポーチから、約束のお土産を取り出した。
分厚いガラスの球体の中で、延々と白い粉が舞っている。
球体の中には家があり、傍にはクリスマスツリーで定番の木。
幻想的な雪景色といったところだ。
「綺麗……これは?」
「驚くのはまだ早い!」
俺はスイッチをいじった。
すると、家は光ファイバーの細工で枠取りしたように光り、球体全体は赤・青・緑が順で照らされる。
白い雪が赤・青・緑に染まるのが更に幻想的だ。
この動力はなんとソーラーパネル&ねじまき。
どっかで聞いたことのあるような組み合わせだが、カノンに聞いたら、これなら永久的に動くだろう、だそうだ。
これは……高かった。
「どうだ?いいだろ?」
「すごく綺麗……ハイペリアにはこんなものまであるの?」
「ああ。部屋に飾って使ってくれ。ちなみに、普段はライトつけるなよ?昼につけても目立たないし、動力の無駄。それと、水と衝撃には弱いからな?」
「はい……ありがとう」
「あ……今、初めて素直にお礼言わなかった?」
「べ、別に……そんなことないわよ!」
「あ~!それなに~!?」
「あ、コラ!ネリー!」
「わぁ~!すっごいキレー!」
ネリーはまるで子供のように目を輝かせ……そういえば子供か、そのお土産を眺める。
シアーも寄ってきて、二人で並んで寝そべって眺めていた。
「ねぇねぇ!これちょーだい!」
「えぇ?ダメよ!」
「ぶ~!いいじゃんいいじゃん!」
「ネリー?それは俺がセリアに買って来たものなんだ。ごめんな?」
「ぶ~……じゃぁ、もしかして……好きなの?」
「え゛………」
それはつまり?
俺がセリアを?
まぁたこのマセガキ!!
「ねぇねぇ、好きなの~?ラヴなの~?」
「ラヴって……誰に聞いた……って1人しかいないか」
「うん」
あの坊主か………
「ば、バカな事言わないの!」
「あれ~?なんで赤くなってるの~?もしかして~」
「違います!私は別に……それに、この人には、ちゃんと好きな人が」
「あぁ、それならダメだったよ」
「え?」
「あっちで再会して、今もこの世界にいるよ。でも、見事に玉砕。完全完璧にフラれた」
「え、と……ごめんなさい……」
「いや、あやまらなくても。ま、ネリーとシアーにはこっちがあるから」
俺はポーチから、また別のものを取り出した。
それは、名物の八つ橋……!
「ちゃんと2人で分けて食べるんだぞ」
「は~い!シアー、ハイペリアの食べ物だよ!」
「わぁ~」
「じゃぁ、8個入りだから、ネリーが6個でシアーが2個ね」
「……ネリー、没収するぞ」
「く、くーるな冗談~♪えへっ。じゃぁ、4個ずつ………」
は~………
本当はメルフィー達に、のなんだけど。
まぁいいや。
他にもあるし。
「そ、それで……ケイタ」
「あん?」
「フラれたって……」
「な、何度も聞くな……だから、見事に玉砕でさ……」
「じゃ、じゃぁ今は……」
「特定の人はいないよ。ってかいるかよ、フラれてすぐに」
「そ、そう……」
「?変なセリア。お~い悠人~、はやく帰ろうぜぃ、こんなしみったれた城」
俺はまだ友情に浸っている悠人に話しかける。
いつまでも、こんな城にはいたくない。
そのときだった―――――
「うぐあっ………うあぁあぁあぁッッ!!!はぁっ!!がぁあぁっっ!!!」
サーギオスの城に、叫び声が木霊したのだった――――