「さて、と……啓太君?」
「はい〜……」
爆弾テロとやりあってから、俺の頭は半覚醒状態。
夢うつつ、といったかんじだ。
「早速だけど、明日異世界に戻るわよ」
「は!?」
「なに!?」
俺の思考は急に回転しはじめ、メシフィアの顔が驚きで染まる。
「明日、神社で倉橋と落ち合う予定なのよ」
「倉橋っていうと、巫女さんの?」
「そうそう。啓太君とメシフィアは、私と倉橋と一緒に行くの」
「叶さんまで!?一体……仕事ってなんですか?」
「大げさに言えば、世界の監視ってところかな?簡単に言えば、世界を渡ってるだけ」
「……どっちも大げさですよ。なんですかその仕事?」
「啓太君もいずれわかるわよ。それより、明日の5時に迎えにくるから、今日は早く寝なさい」
「5時!?早くないですか?」
「ケイタ、あの現象を人気のある時間帯にやるつもりか?」
「……メシフィアの言うとおり。でも、5時の真っ暗な時じゃなおさらじゃ……」
「見てなければ問題なしよ。親父さんにしっかりお別れ言いなさいね?」
「……はい」
叶さんは、本当にあっさりと帰っていく。
緊張したから、俺にとってはありがたい。
傷をえぐらないように、と気遣ってくれたのかもしれない。
「帰る……か」
いろいろなことを知った。
本当に、いろいろなこと……。
でも、もう当分この世界には来ない。
あの世界で、俺のできることをして………
ポン、と肩に手が置かれた。
「そう気張るな。私もいる」
「ありがとうメシフィア。いつか何か手伝ってもらうかもね。これからもよろしく」
「こちらこそな」
俺とメシフィアは笑って、握手した。
ふっと思い出す。
「そういえば昨日、何か作ってなかった?」
「あぁ……あれは……」
「小腹もすいたし、それ作ってよ。食べたいな」
「いいのか?本当に食べたいのか?」
「メシフィアの作ってくれた料理が食べたいです」
「……わかった」
「ありがと♪」
キッチンへ小走りで向かうメシフィア。
ま、トンデモ料理ができるようなことはないだろう。
ほら、もう焦げ臭い匂いが
(T∇T)アハハ……
(|||_ _)ハァ………
「できたぞ」
「……これは、火山のオブジェ?」
「名づけて火山ハンバーグだ」
「……まんまだね。すっげー熱そう。ソースが溶岩みたいだ………」
「召し上がれ♪」
「……はい」
やたら笑顔のメシフィアに押され、一口口に運ぶ。
―――熱すぎて味がわからない。
―――食感は、ゴムみたい。
「どうだ?」
「まずい……」
「え?」
「おいしいよメシフィア!はは、なんてうまいんだ」
「そうか?そこの本を参考にしてみたんだ」
「……字、読めないんじゃ?」
「ああ。だから勘を頼りにした」
「……なぁるほどね」
だから、こんな料理ができるのか。
料理が殺人的にできない妹や、幼馴染とはちょっと違う。
たぶん、この世界に最初から生きてれば……たぶん、たぶんだけど……普通に料理ができる、腕……だろうな……
――――しかし熱い
「家の調理器具の限界まで……って感じだな。この熱さは」
「熱いほうがおいしいと思うから」
「限度があるけど。でも、全然案内できなかったなこの世界。ごめんな?」
「そんなことはない。楽しかったし、それにこの世界に来た目的は、楽しむためじゃないだろう?」
「……そうだけどさ」
「……こっちこそ、悪い」
「え?」
いきなり謝られた。
何か、悪いことされたか?
「こんな平和な世界に生まれて、ずっと生きていたのに……いきなり、戦え、だなんていってしまって……」
「……」
「本当にすまなかった……」
「いいよ、もう」
「しかし……」
「みんなと出会えたから、それでチャラでいいよ」
「え?」
「一生に1人出会えればいいくらいの……そんな人たちに、俺は出会えた。だから、それでいい。メシフィアが謝る必要は全くない」
「……」
「本当にいろいろあったけど……まだ、終わりじゃないんだ。謝るなら、全てが終わってからにしようよ」
「……そうだな」
「そしたら、デートでもしよっか?」
「え、え!?」
「フラれちゃったしさ。いつまでも引きずってたら、叶さんの気持ちも無駄になっちゃうし。不思議だよね」
「何がだ?」
「俺、メシフィアが嫌いだったはずなのに。今じゃ、一緒にいると安心するってくらいなんだ。気持ちってわかんね〜な〜、もう」
参ったものだ。
頭をかいて、てれをごまかす。
ま、だからと言ってメシフィアを本気で好きになることはないだろう、たぶん。
きっと、思い切り泣いてしまったところを見られてしまったからだ。
「今日の夕飯何にしようかな」
「しばらく会えないんだ。豪華なもの作ったらどうだ?」
「う〜ん………」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その夜。
俺とメシフィアはあの神社に来ていた。
あの人に呼び出されたのだ。
「でも、あんな挨拶で良かったのかケイタ?」
「え?」
「親父さんとのだ」
「あぁ……アレが俺の一家なんだろうね」
くくく、とおかしくて笑ってしまう。
俺が「異世界に帰るよ」と言ったら「そうか、頑張れ」だ。
まるで、旅行に行く息子と見送る親といった感じだ。
またすぐ会える、というような、そんな挨拶。
そういうのが、やっぱ似合ってるのかもしれない。
「でも……本気、なのか?」
「なにが?」
「瞬のことだ」
「あれ?まだ疑ってたの?ここまでして、本気じゃないわけないよ」
「でも……アイツはお墨付きの悪……」
「悪じゃないよ」
「え?」
「ちょっと、自分を見失ってるだけさ。今のあれが、自分だって思い込んでるだけ。まわりを拒絶して、一方的になってるだけだって」
「……」
「あいつは……死んでほしくない」
「なぜだ?」
「なんで?人が死んでほしくないって思うのに、理由がいるの?」
「ぅ……いや、でも……」
「アイツが瞬だから?死んでも誰も悲しまないって、そう思ってるなら、それはただの人殺しだよ」
「……」
痛い所を突いてしまったのか、メシフィアが黙ってしまう。
でも、メシフィアの言いたいこともわかる。
今まであの戦争で、さんざんスピリットは殺されてきた。
時には、人間の兵士も殺された。
それなのに、未だにそんな甘い幻想を抱いているのか、と唸りたくなるのもわかる。
でも、ここで諦めたら、本当に何も変わらない。
変えられない。
それじゃダメなんだ。
「そのためには、まず変える努力をしなくっちゃ。ラキオス女王、レスティーナみたいにね」
「……お前は王様ランクか」
「はは、それは無理があるね。辛い決断をする覚悟はないし。おっと」
コツコツと、石段を登ってくる足音がした。
暗闇から現れたのは、待ちわびた瞬の親父さん。
「待ってました」
「見つけてきたよ……変わらぬ愛の証というものを」
「ナイスです♪それは?」
「妻の音声が入った遺書カセットと、手帳さ」
「預かっても、いいんですか?俺が」
「瞬に渡してくれるのだろう?」
「もちろん」
俺は手帳とカセットを預かった。
こうなると、再生機も必要だな。
ま、平気だろう。
「瞬を頼む、大川君」
「任せてください。でも、どうするんですか?」
「え?」
「彼に帰ってきてほしいんですか?」
「……それは、瞬に任せる。こっちのことは心配するな、と……伝えておいてくれ」
「……はい、わかりました」
なんで最初から、こういう親でいられなかったのだろう。
そういう疑問が浮かんでしまうが、過ぎてしまったことはどうしようもない。
過ぎた時は取り戻せないが、後悔して未来に繋ぐことはできる……。
1人で無理なら2人で、2人で無理なら3人で、人海戦術。
「ありがとう。君という人が、瞬と出会ってくれて」
「冗談はよしてくださいよ。俺はそんな立派な人間じゃない、ただの15歳の、まだまだ世間知らずなガキです」
「……そういうことにしておこうか」
「ええ」
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「さて、と……ふあぁ……眠い」
「シャキッとしろ。あっちではかなりの時間がたっているはずだ」
「そうだな、ヘタすりゃ瞬と悠人の決着ついてっかも……」
「そうでないことを祈るだけだ」
「じゃ……いってきます、と」
ボロの家にお別れを告げる。
もしかしたら、二度と言うことはないのかもしれない。
……そう思うと、ちょっと気分が滅入った。
「待て啓太」
「父さん?起きてたの?」
「……頑張って来い」
「………ねぇ父さん」
「あん?」
「俺、父さんの子で良かった…………………………………………なぁんて言ったら信じるぅ?」
「バ〜カ。父さんこそ、お前がこんなヤツに育ってくれて、嬉しいよ……………………………………………なぁんて信じるぅ?」
「信じないよ。じゃ、いってくる」
「ああ。やりたいようにやってこい」
憎まれ口を叩いて、本当にあっさりとした挨拶を終える。
でも、なんだか不安だった心は消し飛んでいた。
認めたくはないが、やっぱり人の親ってことか………
ヒラヒラと手を振って、父さんに別れを告げた。
そのまま、まだ暗い道を歩く。
静かで、何もない。
神社につくと、ちょうど空に白みがかかってきたところだ。
「お、やっときたわね」
「まだ時間前ですけど」
「レディーを待たせるなんて失格よ」
「それもそうですね。そちらが倉橋さん?」
隣で神器のような剣を握り、目を閉じて集中している巫女さん。
赤いハチマキのようなものが、意外と似合っている。
見たところ、まだ10代といったところだ。
まぁ、叶さんも20代なんだけど。
「今、あっちの世界を探ってるみたいね」
「探る……?様子見ですか?」
「ええ。門が開くのはあと数分ってところね」
「だとさ、メシフィア。いよいよだ」
「そうだな……」
「あ、そうそう。悪いけど、メシフィアは私とソーン・リームに飛ぶ予定だから」
「え?」
「あっちも頭領がいなくて大変らしいのよね。それに、ちょっと調べたいこともあるし」
「はぁ……わかりました」
「啓太君は、そこの倉橋と一緒にラキオスのほうヨロシクね」
「OKです」
それにしても、倉橋さん格好いいな。
目を閉じて澄ましてる顔が、メッチャ綺麗だ。
思わずはぁ……と見とれてしまう。
「あ、啓太君?倉橋はダメよ?」
「え、え!?何言ってるんですか!!」
「あら?見とれてたのは気のせいかしら?」
「……だって」
「はいはい、まだまだお子様ね」
「俺だってちっとは成長してます……たぶん」
……それにしても、変だな。
倉橋さんの顔色が、どんどん悪くなってるような……。
冷や汗みたいなのもかいてるみたいだし。
「叶さん!今から飛びます!」
「え!?いきなりどしたの倉橋!?」
「悠人さんがピンチです!求めが砕かれて……!」
「なんだって!?」
神剣が砕かれた?
その意味は契約者の俺が一番良くわかる。
つまり、戦闘不能。
「啓太さんでしたね?はやくこちらへ!」
「あ、あぁ!」
「私の手を離さないで!門が開きますよ!?」
「ああ!」
「メシフィア!私から離れないでよ!?」
「はい!」
バッ!!
いきなり開く、光の門。
俺は倉橋さんに手を引かれながら、門の中に身を投げた!
不思議な浮遊感を味わいながら、俺の体はまた飛ばされていく………
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CONNECTING・FATE
〜 奇跡に手を伸ばして 〜
〜第2幕〜
過去と今を繋ぐため
Fin
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はい、第2章終了です。
各人物の関係が見えてきたところです。
まだ、そもそも啓太の父をなぜ白き魔女が狙ったのか、出雲がなぜ啓太を狙うのかナドナド、イロイロ疑問が残りますが。
この章は、もっと緩やかでのんびりとした章にするつもりだったのですが……
ダメですね、どうも。
さて、と。
次の章ですが………
話の流れからして、どの場面でファンタズマゴリアへ戻るかは予想がつくんじゃないか、と。
未だ剣を振るうことを躊躇うエトランジェは、一体いつになれば覚悟するのでしょうか?
間違えないでほしいのは、本来出雲はこんな組織ではありません。
そもそも、それならトキミだって狙ってきますしね。
そこらへんも、次の章でとうとう明らかに……
ではでは、後編突入第3章で。
第3章 〜 奇跡に手を伸ばして 〜