ピロロロロ………ピロロロロロ…………
「んあ〜………」
俺は寝ぼけながら目覚ましを押す。
だが、音が鳴り止まない。
ならば、と携帯を取る。
「もしもし?」
【大川啓太だな?】
「はい、そーですが?どなたです?」
変声機を使ったような、怪しい声だ。
ニュースでモザイクかかってる人が証言する時のような、あの声。
【お前の大事な場所に、爆弾をしかけた】
「は!?」
【信じるか信じないかは、お前次第だ。お前が大切なものを失うだけだからな】
「なんだと……!?」
【一つ目の爆弾のヒントをやろう。異世界に行く前に、何もなければお前が週5回以上は通った場所だ】
「異世界……!?お前は誰……」
【じゃぁな】
「ま、待て!!」
途切れた………。
一体、なんだっていうんだ……。
「………」
だが、あながちイタズラではない。
俺は狙われる理由が……わからないけど、あるらしい。
爆弾テロ犯に知り合いなどいないが、爆弾が起動してからでは遅い。
「くそ……朝起きていきなりかよっ!!」
俺はぱぱっと服を着て、リビングに出る。
メシフィアが料理をしているようだが、気にしてられない。
「ケイタ?どうした焦って?」
「食材無駄にするなよ!?ちょっと出かけてくる!!」
靴を履いて、一気に外へ駆け出した。
カノンを袋に包んだまま持ち、力を借りる。
(どこだ!?俺が異世界に行く前、週5……いた場所…!家じゃなければ、どこだ!どこに……!!)
俺がいた場所……
週5………
(くそっ!!………落ち着け!くそっ!!こういう時に焦るからミスが……!!)
どこだ……?
俺が週5………
週5?
「……そうか!!学校……ッ!!!」
俺はカノンの力を借りて、一直線に走り出す。
道路なんて走ってられるか!
ウェストポーチから重りをしばりつけたロープを取り出す。
そのまま電柱の足掛けにひっかけ、電柱から人の家の屋根をつたって一直線に学校へ向かう。
数分で、学校の裏についた。
いちいち校門からなんて入ってられない。
開いている窓を探すと、3階の廊下があいている。
屋上のフェンスにロープをひっかけ、ターザンの要領で窓から飛び込んだ!
「き、キミ!一体どんな入り方を!!泥棒か!?」
「ここの生徒だ!!どいてっ!!」
教師1人に見られたが、それだけだ。
ロープを回収して、そのまま俺の教室へ向かう。
「くそっ!!」
一体誰だというんだ。
こんな汚いやり方をする知人はいない。
そもそも、なんで俺を狙わず爆弾なんて……
考えるのは後だ!!
教室のドアをぶち開ける。
授業中のみんなが、一斉に俺を見る。
「大川君!?なにをしてるんだ!」
「俺の机……!!」
俺の机……教科書が詰まってる。
全部かき出して床に落とすが、中には何もない。
「大川君!?」
「啓太、お前なにやってるんだよ!」
(間違えたのか……学校じゃない?いや、週5……バイトは違う……じゃあどこだ!?)
ピロロロロ……ピロロロロ………
「はい、もしもし!?」
【爆弾は見つかったかな?】
「ふざけるな……!どこだ!?どこに仕掛けた!?」
【学校までは正解だ。その後は自分で考えるんだな】
「っ!!」
【お前には苦しんで苦しんで、もがいてもらわないとな……】
プツッ!!
また、勝手に切れた。
腹いせに机を殴る!
「くそっ!!」
「大川君!?何考えてるんだ!!授業に乱入して!」
「うるさい!命がかかってるんだ!!」
俺の関係する場所……!
!ロッカー!!
「くっ……鍵がない!!」
ポケットを探るが、肝心の鍵開け道具がない。
ロッカーの南京錠が、これほどまでうざいと思ったことはない。
耳を当てると、カチカチと音がする。
アイツ……!
俺のロッカーに仕掛けたあと、鍵をつけてしめたな!?
「カノン!ブチ破るぞ!!」
{いいのか俺を取り出して!?}
「どうせ学校にはもうこねぇ!用はない!!」
袋を剥いで投げ捨てた。
みんながどっとざわめくが、気にしていられない。
集中して、南京錠だけを狙ってカノンを振るう!
「よし、開いた!」
中を見ると、デジタル式の表示で数字が動いてる。
一般的な時限爆弾……
大きさからして、この校舎ふっとばすには十分な火薬の量だ。
「見つけた……あと20分……よし、人気のないところへ……」
チチチ……
変な音がした。
時間が、一気に減っていく。
「な、なんだ……!?」
残りあと10秒で元の速さに戻った。
ふざけろ……!!
10秒!?
10秒でどこへ持っていけっていうんだ!?
「栄介!ここらで人気のない場所は……!!」
「は!?公園……」
「そこまでは3分はかかる!まにあわねぇ……!!」
そうしている間に残り6秒。
迷ってる暇はない!
「校庭で!!」
「お、おいベランダから乗り出して……まさかお前!?」
俺はベランダから身を投げた。
爆弾を抱え、カノンを握る。
間に合え……!!
「い……っけぇえぇッッ!!!」
そのまま校庭の中心まで走り、思い切り真上に投げた!
イオに教わったとおり、集中してオーラフォトンを展開する。
体の周りにバリアをはって、地面に伏せた!
その途端、ものすごい爆音が俺の耳をブチ抜いた!
衝撃波がバリアを突き抜けて体を地面におしつける。
黒い煙がもくもくと宙で広まり、静かに余韻が広がっていく………
「はぁ……はぁ………っ!あぶっ……ないっ……はぁあぁ………」
ピロロロロ………
「お前どういうつもりだ!?」
【僕の苦しみをあなたにも与えたかったんでね……】
変声機を外したのか、人間らしい声になった。
まだ……20……いや、もっと年下か……!?
「こんなやり方卑怯だ!!」
【次の爆弾は、お前の思い出の場所……そう、あの川辺だ】
「なに……?」
【残り時間は10分……じゃぁね】
また勝手にきった。
ふざけんな……10分だと!?
俺が人の屋根の上をショートカットしてもギリギリじゃないか!!
「くそったれが……!!!」
また人の屋根を登って走り出す。
下の方で人が騒ぎ出すが、それどころじゃない。
少しでも遅れれば、全てがおしまいだ!
一気に川辺に下りた。
あたりを見回すが、何も見つからない。
どこだ!?
どこにある!?
「時間は……あと1分!?どこだ……!!」
俺のよくいた場所……!
川辺の……石段……!?
「あった!!」
不自然なサッカーボールを見つけた。
普通のサイズより大きく、中からカチカチと音がする。
誰かが面白半分で蹴ったら爆発するってわけか!!
「くそっ!!とんでけぇえぇッッッ!!!!」
俺はサッカーボールをおもいきり投げた。
川のちょうど中心にポチョン……と落ちる。
その瞬間、川の水が突然跳ね上がる!!
轟音が地響きとなって響き渡り、まるで地震のような錯覚を覚える。
なんなんだ……!
なんでこんなことをする!?
なんで俺にこんなことを……!!
【面白いかな?僕のもてなしは】
留守電が作動し、勝手にメッセージを入れる。
すかさず出て、怒鳴る。
「何が面白いだ?!お前は誰だ!?目的はなんだよ!?」
【目的はお前が苦しむこと……それだけさ】
「ふざけるなよ……!?こんな無差別な方法しなくたって、俺が相手になってやる!!」
【それじゃ意味がないのさ……お前が苦しまなきゃな】
「くそっ……次はどこだ!?」
【灯台下暗し……これが最後。挨拶はこれで終わりさ】
「なに……!?」
【さよなら……啓太】
プツッ!
またまた勝手にきった。
一体なんだってんだ!?
「灯台下暗し……この近くにあるってことか!?」
だが、あたりを見回してももう不審物はない。
川に沈めてあるというのは、威力も周囲への被害も少ない。
つまり、そんなことはしない。
じゃぁどこだ……!?
落ち着け……相手の性格を考えるんだ………
(なんでかは知らないけど、アイツは俺を恨んでる……それも、相当だ……。俺がアイツだとしたら……灯台下暗し……そうか!!)
俺がアイツなら、絶対アイツの家にしかける!
そういうことか……!!
俺はまた人の家を渡って家に向かう。
あそこにはメシフィアが……くそったれ!!
狙いやがったな!?
(でも……異世界って……まさか、出雲か……!?となると……キュリアの知り合い……か!!)
だんだんと頭が冴えてきた。
まるで足かせが取れたかのように、次々と謎が解けていく。
ふふ……これが真骨頂。
「メシフィア!!」
「ど、どうした?そんな焦って?」
「何か不審物は!?」
「?郵便が一つあったが…」
「それだ!!」
白い箱に耳を当てる。
予想通りカチカチ音が……!
そっとガムテープをはがすと、中に今までで一番大きなサイズ!
「くそっ……!時間はあと10分!?このサイズ……!」
俺は箱を持ってすぐに外に出る。
くそっ!!
こんな大きい箱を持ってたら、人の家を渡ることはできない。
それなのに、10分以内で人気のないところなんてないぞ!!
(アイツはどこかで俺のことを見てたんだな……!?どうする!?どこにいけば……!?)
全く思いつかない。
どうする、どうする!?
「貸しなさい啓太君!」
「え……」
あっという間だった。
箱が持ち去られ、その人は剣を取り出した。
【時を止めよ息吹を止めよ……永遠の安息を!!終焉の風!!】
バッ!
その人がまるで珊瑚のように枝分かれした剣を振るった。
すると、その爆弾のタイマーが止まり……煙を吐いて、ボロボロに灰になってしまった。
「か……叶さん……」
「間一髪だったわね………」
「はぁ……助かりましたぁ………」
ふっ……と体から力が抜けていく。
そういえば、朝食も食べずに無茶しすぎたな……
安心して、疲労が一気にどっと押し寄せてきた。
嗚呼……死ぬ前に叶さんの着物姿が見れて良かった………
「死なないわよ、大げさねぇ」
「はぁあぁあぁ〜〜…………」
プツッ………
そのまま、俺は崩れ落ちてしまった――――
つかの間の休息を求めて―――――