「出雲ですか……」
「はい」
出雲について聞きたくて、神社を訪れていた。
右にはメシフィアもいる。
目の前の神主さんは、長いアゴヒゲをもっさもっさしながら思案中。
「と、言ってもあなたがおっしゃったこと以外、知らないのです」
「なんか、新しい情報とか」
「そんな、ここは神社なんですから……」
「それもそうっすけど……あ、じゃぁ倉橋っていう巫女さんは!?」
「戦巫女ですか……残念ですが、彼女の行方は……」
「そうですか……」
せめて、悠人を手助けしたその人物とは接触したかった。
今、最大の問題は情報の少なさ。
それを一気に解決してくれそうな人物なのだが、いないのではしょうがない。
「ん……ケイタ、まずい」
「あん?」
「気配がする……しかも、強いの」
「………」
メシフィアに言われて、ハッと気づく。
マナが薄いためなのか、あまり感じなかった。
カノンを持つ。
ふわぁ……とあくびする相棒を、殴ってたたき起こした。
「まずいな……神主さん、奥に隠れていてもらえますか?」
「え?」
「絶対ですよ!出てきちゃダメですからね!?」
俺とメシフィアは飛び出した。
神主さんは、1人ぽつんと座っている。
「これで良かったのですか?」
【えぇ。ありがとう】
「しかし、あなたは一体……?」
【倉橋と同業者……ってところかしらね】
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「!!お前は!!」
「ふふ……久しぶり、大川啓太」
「えと……誰だっけ?」
「シャルティ、忘れたのかしら?」
「あ……っ!兄貴は!?兄貴はどこだ!?」
「焦らなくても、すぐ出てくるわ」
突然、神社のど真ん中に歪みが出現した。
静電気を纏い、そこから人の手が出てきて………!?
「一体なんだ……!?」
{ゲートだな……しかも、随分高い能力だ}
「ゲート……?」
{門のことだ。たぶん、それを自在に操るヤツが出雲にいるのだろう}
「……あ、兄貴!?」
そのゲートとやらから出てきたのは、兄貴だった。
目がうつろで、手に持った剣を今にも振りかざしそうな雰囲気を醸し出している。
禍々しく、黒く鋭く枝分かれした、異様な威圧感を感じる永遠神剣。
「カノン……久しぶりだな」
{!!}
「え、え……?」
{ケイタ気を抜くな!!そいつは……っ!!}
痛いほどの緊張がカノンから伝わってくる。
持っている手がピリピリするほどなんて、初めての感触だった。
この絶対自信家が焦る程の敵だ。
きっと、とんでもないヤツ。
「まさか、契約者を得ていたなんてな……」
{くっ……!}
「契約者よ、自己紹介しておこう。私は永遠神剣第一位【悪光】……ブラストだ」
「ブラスト……?」
{俺と対立する2本のうちの一本だ、以前話しただろう}
「あぁ……じゃぁ、兄貴は……」
{たぶん、もうダメだろう……アイツは契約者を食らうことが趣味だからな……}
「そんな……」
兄貴が?
永遠神剣なんかに?
取り込まれた………?
「シャルティ、お前はあの女だ。いいな?」
「はい、ブラスト様」
「いい子だ。じゃぁカノン……そのクズ同然の契約者と、勝負といくか」
{くっ!啓太気張れ!殺されるぞ!!}
「あ、兄貴が……」
{啓太!!}
力がどんどん抜けていく。
兄貴が……?
死んだ………?
あの、胸糞悪い永遠神剣に……殺された………
ふっと、以前の兄貴の姿がまぶたに浮かぶ。
―――俺のことは兄貴って呼びな!!!
「ふっ……戦意喪失か。一撃で仕留めてやる」
ブラストが間合いを詰めてきた。
緩やかで、誰でも避けられる一撃。
だけど……動けない。
いや……あまりの感情で、動くことを忘れた。
足が、体が……まるで意識からぷっつり切れているようだ。
{啓太動け!!死ぬぞ!!}
「……さねぇ……」
{!?}
「許さねぇよ……!よくも兄貴を!!兄貴をぉッ!!!」
バギッ!!
カノンが軋むほど強く、ブラストの神剣にたたきつけた。
それでも、力は互角。
押すことも引くこともしない、本当の拮抗。
「ふん……カノンの力も出せぬ契約者がほざくな!!」
「何度でもほざいてやる!!兄貴は……兄貴はッ!!!」
「黙れウジ虫がっ!!」
ブラストが押し込んできた。
剣から弾けとんだオーラフォトンの衝撃に耐えられず、木に激突する。
ブラストが突きの態勢で押し込んできたので、地面を転がり避ける。
木にブッ刺さり、そのまま木を貫いた!
「お前が……お前が兄貴をッ!!!」
「自分の力も自覚できていないお前が何を言う?」
「兄貴を殺したお前だけは許さねぇッ!!!」
{!啓太!いまだ!!背中に力を込めろ!!}
「はぁあぁあぁッッ!!!」
グバァッ!!
刹那の出来事。
前はあんなに苦しんだ翼が、一瞬で突き出た。
白い羽が神社に舞い、季節柄雪に見える。
「それはっ……!」
「はぁあぁッッ!!!」
翼をうまく動かして、低空飛行して一気に間合いをつめる!
ブラストの足元を取った!!
「でぁあぁっっ!!!」
「ぐぅぁあッッ……!!」
ブラストの片足をカノンで吹き飛ばす。
血が飛び散り、白い翼に赤の斑点がついた。
飛び散った足首から下は、ゴロゴロと転がりマナへと還っていく……。
「今すぐ消してやる……ッ!!」
「ふん……っ!アホが!!」
突然足元に、紫の大きな魔法陣が展開する!
一瞬にして、魔法陣の外円が直径の、俺を囲うドームが出来上がり閉じ込められた。
「な、なんだ!?」
{マズイ!啓太!急いでブチ破れ!}
「くっ!!でやっ!!!」
バギッ!
ジジジッ………
思い切り叩きつけても、ドームはビクともしない。
割れる気配どころか、傷つけることもできそうになかった。
カノンの焦る気配が、俺の精神を蝕む。
「そのまま永遠に苦しめ……オーラフォトンスモッグ」
ブシュッ!!
突然足元の魔法陣から、紫の煙が吹き出した!
途端に胸が苦しくなる。
(まさか……毒ガス!?)
{くっ!啓太!}
煙から逃げるようにして、正常な空気の場所でドームを破ろうと剣を振るう。
しかし、やはり傷つかない。
「くそっ!!くそっ!!!仇を!兄貴の仇を取るんだ……っ!!壊れろよっ!!!」
「はっはっは……カノン、所詮貴様は第五位……上位神剣でさえなくなったお前に、破れるはずもないよなぁ!?」
「ブラストォ……ッ!!!」
「じゃぁな、啓太……?」
「くそぉ……っ!!」
毒ガスを防ぎきれない。
翼で自分の体を護るが、それも気体相手では意味をなさなかった。
どんどん苦しくなり、地面に倒れてしまう。
地面をかきむしるが、ちっとも安らがない。
「ぐっ……あ……」
{くっ……こうなれば俺が乗っ取ってでも……!!}
―――――Another side―――――――
「はぁ……まさか私がただの人間を相手にすることになるなんて」
「……」
私だってバカじゃない。
このシャルティという女……強い。
それも、今の私ではかなわないほどの……
落ち着き、威圧感、一挙一動でそれがわかる。
「何秒持ちますか?」
「そっちこそな……」
「声まで震えちゃって……ふふ」
この時点で、勝敗は決まっていた。
だが、啓太も押され気味……助けはない。
やるしかない。
「仕掛けてこないなら、私から行きます」
「!消えた!?」
一瞬にして目の前から消える。
背後に気配を感じて、前に転がった。
何かが裂ける音がすると、私のいた位置に、まるで空気に亀裂が入ったかのような線が残る。
「避けるなんてやりますね」
「伊達にスピリットと一緒の訓練を受けていたわけじゃない」
「でも、所詮はスピリット……」
バッ!
また消えた。
しかも、今度は気配を感じない。
―――遠距離!!
「ブ〜!近距離ですよ」
「なっ……いつのまに前に!?」
完全に懐をとられた。
にこやかに笑うシャルティが、この上なく恐ろしく思えた。
そのまま、シャルティが剣を振りかぶる。
「せいやぁッ!!!」
「っつあぁあぁッ………!!」
絶叫が木霊し、私の体が切り裂かれたことを知る。
縦に一閃綺麗に切り裂かれて、もらった服がはだける。
痛みをこらえて、私は地面にうずくまった。
「ぐっ……あ……!」
「瞬時に体を後退させて衝撃を緩和……センスはありますけど、弱いですね」
「っ!!」
ドクッ!!
いきなり心臓が跳ねた。
それは、生への執着でもない、もっと別の何か……
私の中に、何か別のものが入ってくる。
チェーンが切れて、地面に落ちているペンダントを握る。
ドクッ!!
「っつあ!!」
更に激しく心臓が跳ね上がった。
体が焼けそうなほど熱い!
「な、なに……これは……!?」
「はぁ……っ!はぁ……っ!……?」
必死にこらえようと呼吸すると、私の髪が見えた。
黒い髪が、根元からだんだんと銀色へと変化していく……!!
「な、なにが起こるの……!?」
「はうっ!!あぁ……ッ!!!ぐあっ!!!」
何かが……何かが起こっている。
でも、もう意識がぼんやりとしてきて確認できない。
―――私……どうなるんだ…………?
ぷっつりと、意識が途切れた。
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――――― War goddess side ―――――
目の前に広がる、白い光。
それは、久しく感じることのなかった、陽の光。
それが、こんなに温かく優しいものだとは、生きていた頃は思わなかった。
つくづく、時間というのは罪な存在だと思う。
さて……
――――いくか
「………」
「だ、誰……!?」
「お前こそ誰だ。名乗らせる前に名乗るが常識」
「は……?私はシャルティ……」
「私か?私はヴァルキュリア。戦死者を選ぶ女などいろいろな意味がつけられている。好きに呼ぶがいい」
「なぜ……確かにあなたは重症を負ったはず……なんで傷がないんですか!?」
「傷?」
私は服を見た。
ばっくりと裂けているが、私の肌には傷は見当たらない。
どうやらこの女が勘違いしているようだ。
「勘違いだろう。それより、彼はどこだ?」
「彼……?」
「啓太という男だ」
「それなら、今毒ガスで死に掛けていますが」
「ふん……やはりその程度の男か。しかし、私以外に殺されても困る。助けに行くか……」
彼の魂は誰にも渡さない。
こんな所で死なれては困るのだ。
「い、行かせると思いますか?」
「通さぬと言うのなら相手をしよう。だが……命の保障はできないゆえ、恨むな」
「こ、このっ……!はぁあぁっ!!」
シャルティが何やら唱え始めた。
一対一で唱える愚かさがわかっていないのだろう。
私は一気に間合いを詰める。
「なっ……!!」
「遅いぞ……シャルティとやら」
ビュンッ!
剣を振って、ついた血を払う。
心臓を貫いたはずだから、もう助からないだろう。
しかし、神剣もなしに魔法を唱えられるとなると……能力者か。
「う……く……っ!ゴメンね……カクイン………」
「その魂、安らかに……」
私は祈りを捧げた。
魂が安らかに眠りについたことを感じると、私は歩き出す。
彼を助けなければ……
「う……な、なんだ……!?」
体が急に熱くなる。
呼吸が荒くなり、あっという間に頭に血がのぼった。
急激に心拍数があがり、体から突き抜けそうな痛みを伴う。
「はぁ……っ!はぁっ!!う……………」
―――――― Main side ――――――
「毒ガスを吸って倒れたか……これがカノンの契約者とは、情けない……」
「あちゃぁ……ちょっと遅かったかぁ」
「!貴様は!!」
{久しぶり……ブラスト}
「ちょっと、終焉?勝手に喋らないの」
「貴様……!ラグナロクの契約者か!!」
「ま、そういうこと。悪いけど、その子返してくれない?」
「返すと思ってるのか?」
「やる気?契約者を飲み込んだだけのあなたじゃ、私たちには勝てないわよ?」
{大人しくその子を返してください}
「くっ……!3本の中で一番強い力を持っているからって……!!」
{砕け散りたいのですか?}
「ぐっ…今日のところは引いてやる。だが、お前も私の血肉にしてくれよう!」
「はいはい、捨て台詞はいいから」
(誰……だ……)
ブラストを、言葉だけで追い返す女性。
一体……!?
薄れる意識の中で、なんとか声だけを拾う。
「大丈夫?啓太君?」
「え……その、声……は……」
「無理に喋らないで。さて……戦女神さんも拾って、とりあえず帰るとしましょ」
{すまない……ラグナロク}
{いいんですよカノン。あなたがこの子と契約したのは、何か事情があるんでしょう?}
{……}
「神剣同士でラブラブしてんじゃないっての」
{ら、ラブラブなんか!!}
{してないな。それに、ラブラブって言葉はもう古い。いつ時代だお前は}
「……カノンって、啓太君に似てるわね」
{バカ言え!俺のほうがイイ男だ}
「……やっぱ似てないかも」
そんな……談笑。
この人は……俺が、ずっと待ち望んだ……
やっと、やっと―――!
やっと、会えた――――!!
そう安心して、意識を放り投げた―――
「あ、啓太君?平気!?」
{大丈夫、意識を失っただけだ}
「そう……まったく、心配かけるんだから」
{それにしても、参ったわね。2人同時に覚醒しはじめるなんて……}
「ま、啓太君はうすうすわかってたからいいけど……あっちの子は大丈夫かしら?」
{平気だろ}
やたら自信ありげに断言するカノン。
「どうして?」
{啓太がいれば平気だ}
「………そうね♪」