匂い、空気、感覚………
それらが、限界まで研ぎ澄まされた。
そう、この世界独特の………
帰ってきた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
CONNECTING・FATE
〜 奇跡に手を伸ばして 〜
〜第2幕〜
過去と今を繋ぐため
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
どこかの林。
いや、見覚えがある………
確か、ここは神社の裏の林だ。
つまるところ、俺の近所。
「メシ……いた、良かった……」
足元で、倒れていた。
すぅすぅと、普段からは想像もできない可愛い寝顔。
黙ってりゃ美人なのにな、ってヤツですか。
「ほら起きろ。ついたぞ」
「んあ……ついたのか………?」
「あぁ……しっかし」
ここにくる時聞いた声……
あれは、紛れもなく………
「まぁいいや。とりあえず俺の家にいこう」
「わかった。こっちでの行動は全て任せる」
「………」
俺はメシフィアの姿を改めて眺める。
豪華かつ無駄のない鎧姿。
鎧…………
よろい…………
よろよろい…………
「なぁ、脱いでくれ」
「は!?」
「ちょうど今は人目もない」
「ちょ、ちょっと待て……お前、いきなりなんでもそれは……」
「俺だってあんまり言いたくないけど、しょうがないだろ」
「……で、でも」
「何赤くなってんだ。早く鎧脱いでくれ」
「………鎧?鎧って、この鎧か?」
カツカツ、と指で自分の着ている鎧を叩く。
当たり前だ。
俺は鎧なんて着たら動けない。
「あ、もしかして……中に何も着てないとか?」
「一応、インナーは着ているが……」
「やっぱ、それも珍しいんだろうな……しゃーない、裏道通って行くか」
カシャシャカシャ………
貨車貨車貨車………
かしゃかしゃかしゃ………
「メシフィア、うるせーんだけど」
「し、仕方ないだろ。鎧なんだから」
「ったくもー。あ、剣はこの袋にしまっておけ」
幻想世界で手に入れた、剣がまるまる入る袋。
これに入れないと、イロイロとマズイ。
「なんでだ?敵がきたらどうする」
「敵は俺たちが剣を持ってなければ来ないね。まぁ出雲は別だけど」
「ちゃんと説明しろ」
「だからな?この世界の、この日本という国では、剣の類を勝手に持ち歩いちゃいけないんだよ」
「なんでだ?」
「危険だからだ」
「……平和なのだな」
「あぁ。あの世界も剣なんていらない世界にしてみたいもんだ」
周りに気配を配りながら、俺の住処……家につく。
お隣さんに気づかれないよう、静かに鍵を開けて入った。
「ふ〜……とりあえず家にいれば安心だな。おあつらえむきに、父さんはアルバイトだ」
あの年で定職を持っていないのが悲しくなるが、そんな親は世の中にごまんといる。
家がやっていけてる俺の家はまだいいほうなのだろう。
「えーと、まずは服だな……鎧じゃこの家がぶっ壊れそうだ」
大黒柱にカスッ、ズガンッ!!ズガズガズガ!!という光景が容易に想像できる。
そんなことしたら、ご近所のお怒りをもらうだけでなく住処もなくなる。
「と、言っても父さんと二人暮らしだからな……女物なんてないぞ」
「どうする?」
「俺が服を買ってきたい……が、ダメだな」
俺の預金通帳を見ると、残高30400円。
これ以上減ると、俺が受け持っている電気代、ガス代その他もろもろの料金が払えなくなって止まる。
2月13日の冬真っ盛り、こんな時に暖房もナシじゃ死ぬ。
「………チラッ」
{!!!}
カノンを横目で見ると、激しい拒否反応を起こしてきた。
先読みされたか。
「なぁカノン………換金さ」
{その質問にはNOだ!そしたら、お前アレだぞ!俺一生お前を恨むからな!!}
「ホントか!?」
{え、なんだ?}
「換金されたくないんだよな?って聞こうとしたんだよ。そっかそっか……換金されたいか……」
{ふ、ふざけるな!!俺を売って女の服を買うのか!!そこまで貢ぐか貴様!!}
「貢ぐだなんて人聞きの悪い……大丈夫、ちゃんとお釣りは貯金するから」
{もうイヤだ……こんな契約者………}
「イッツディープジョーク♪しゃーない、父さんの部屋を探すか」
「私も手伝おうか?」
「いや、あのダンジョンは俺じゃないとクリアできないからな。前友達がイタズラで入ったら、朝まで出てこなかった」
「……すごいのか?」
「メチャクチャにな」
「そうか………」
なんだか意思疎通ができてしまった。
変なシンクロは置いておいて、父さんの部屋に入る。
並み居る魔物(主にゴミや害虫)が、一気に襲い掛かってきた。
「せいやぁっ!カノンバリアァアァーーーーッッ!!!」
{んぎゃぁあぁっ!!臭いしへばりつくしドロドロだし一体なんだこれはぁあぁっ!!お、俺の体がぁあぁっ!!!}
「錆びたら柄だけは拾ってやる!だから大人しくタンスまでの道中、護衛しろ!」
{さ、さ、ささ、錆びるぅうぅっっ!!!ぎゃぁっ!なんか酸っぽいのがぁあぁ!!あ、アンモニア臭までぇ!!}
「そうか?」
{何1人だけ鼻栓してんだぁあぁっ!!!}
「お前は鼻ないだろうが」
{ちくしょぉおぉおぉッッ!!神剣なんてやめてやるぅうぅうぅっっ!!!}
「それは困る。せめてあと30秒は……っと、あった!」
あると思った。
母さんの服だ。
水色と白のワンピースと、その他下着類。
どうやら、母さんが出て行ってからタンスの中身はいじってないらしい。
……なんでもいいけど、下着まで使わせるのは……ダメ、だよなぁ……
やっぱ戻して、と。
「ほれ、戦利品だ」
{うぅ……汚された……}
「誤解を招く発言はヤメレ。あとで綺麗に洗ってやる」
{洗うと錆びる……}
「手入れくらいはわかるって。しばらく待ってな。あ、んじゃメシフィア。そこの俺の部屋で着替えてくれ」
「わかった」
メシフィアは俺の部屋に入る。
俺は、およよよよ……と泣くカノンをキッチンへ持って行く。
「え、と……砥石は……あった。お湯がいいか?水がいいか?」
{大体43度だ}
「大体をつけんな。それ温度指定してるじゃねぇか」
{はやくしてくれ……臭くてネバネバしてかなわん}
「ハイハイっと。まるで人間みたいな温度だな、これじゃ」
砥石でカノンの刀身をこすっていく。
あんな部屋に毎晩入って、中年独特の臭いもしない父さん。
たぶん、人類最高の体臭遺伝子か、そんな感じのものを持っていると思う。
「ふんふふんふふ〜ん♪ケイタ、ケイタ、ケイタがやぁてきた♪ケイタ、ケイタ、ケイタは負けないぞっと」
{随分機嫌がよさそうだな……大怪獣のテーマに合わせて鼻歌とは}
「だって久しぶりの我が家だし。話を聞くのは父さんがいないと始まらないから、今は楽しもうと思ってね」
{若い男女が小さな場所に2人きり……}
「はいカノンさん、ちょっとしみますよ〜?痛かったら右手をあげてね〜?」
俺は薬用洗剤と薬剤を合成させて作った、超強力な酸性液体をカノンにぶちまける。
{んぎゃぁあぁッ!!!いてぇえぇッ!!!}
「はい〜まだ続けますよ〜?」
{痛い!痛いといっているだろう!!!}
「痛かったら右手あげてくださいね〜」
{て、てめっ!!}
その後………
あまりにカノンがうるさいので、二本の物干し竿の上に置いて干した。
「ふ〜、ひと段落」
「け、ケイタ……」
「あん?随分着替えに時間が………え?」
目の前にいる、華奢な女性。
美しい顔立ちに、あまりに綺麗な漆黒の長い髪。
そこにいたのは、あの鎧を外しワンピースを着たメシフィア。
「あ、あ、あぁ……?」
「こ、この世界は……こんなヒラヒラしたものを着るのか……?」
「まぁそうだけど。でも見違えたなぁ……俺はてっきり、鎧の下は筋肉だらけだと思ってた」
「う、うぅ………」
赤くなって、内股でモジモジするメシフィア。
やべ、この上なく可愛い。
「パッと見……上から、85、58、83ってとこか」
「え?なんで知って……っ!?」
「お、当たり?いやぁ、よくダチとあてっこしてたからな。いつも負けてたけど」
「こ、この……っ!!」
「でも、可愛いよホント。あっちじゃいつも鎧だったもんな〜……そうだ、写真とるか!」
俺はポラロイドカメラをセットし、メシフィアの隣に並ぶ。
「はい、あれに向かって笑って」
「あれは?」
「はい、チーズ」
パシャッ!!
んべぇえぇ〜〜……と写真が出てきた。
「真っ黒だな。これは?」
「そのうち、俺たちの姿が出てくるよ。こうして思い出に残しておく機械だよ」
「へぇ〜……持って行きたいものだな」
「ダメダメ、あれもこれもって欲張ってたら、カバンがさすがに破裂するよ」
ま、四次元だけど。
「この記号はなんだ?」
「それは時計。この世界は朝日が出て、夜がふけって……を一日って数えて、一日は24時間」
「じゃぁ、今は……」
「16時39分。あと3時間もすれば、父さんがバイトから戻ってくるよ」
「じゃぁ、あの機械はなんだ?」
「あれはテレビ。説明するのは面倒だし、見てもわからないだろ?聞こえる声だって聖ヨト語じゃないし」
「それもそうだ。でも……つけてみていいか?」
「ああ、どうぞ」
バッ!
「わっ!な、いきなり人が……これは魔術か!?」
「違うよ。その箱は、どこか遠くの映像をこの場にうつしているだけだよ」
「なるほど……」
で、結局テレビに見入るわけだ。
有名なあのビッグネズミの最初の映画が放映されている。
あれなら音声はないし、音だけだからわかるのだろう。
「ふわぁ……安心したら、急に眠くなった……」
俺はカノンを部屋に入れた。
そのまま、自分の部屋に入る。
そして、マイベッドにダ〜イブ……あ〜、アエリアとなんか似てるなぁ今の………。
「はふ〜ん……俺の愛しい布団〜……♪」
「ケイタケイタ!!」
ドタドタと部屋に中に入ってくる。
俺は無視して布団に潜るが、激しく揺らされて寝れない。
「なんだよ〜……」
「大変だ!人が殺された!!」
「なにィ!!?」
俺はドタドタとメシフィアについていく。
そして、メシフィアはテレビをどんどん、と叩く。
「ほら!血が!!」
「………ただの刑事ドラマの再放送じゃねぇか………それ【はぐれ刑事はみだし派】だろ?」
「ドラマ?」
テレビでは通称やすさんが犯人を得意の口で翻弄している。
あのスポーツで有名なサワヤカ・スギという有名人が出てることで有名でもある。
「台本ってゆー、小説みたいなもんがあって、それを俳優とか、演技をしてお金を稼ぐ人が演技して、小説を実際にやってみた、って感じがドラマ」
「はぇ〜……そんなものまであるのか………」
「んじゃ〜大人しくしてろよ〜?あと、外には出るなよ〜?眠くなったら俺の部屋に来て寝ろよ〜?父さんに説明するためにも、な」
俺はあくびをして、再び部屋に戻った。
布団に再びダイブして、まったりとした空気を味わう。
疲れていたのか、あっという間に眠くなった。
「抵抗なんかするもんかぁ〜……眠気よ〜……俺を寝慮なく食え〜ぇ……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ゴッ!!
頭が何かに当たって、目が覚めた。
壁にでも激突したのだろう。
ポヤポヤした目を開けてみると、目の前に綺麗な人の顔。
「………はぐっ!!」
叫びそうになるのを、自分で口を塞いで止める。
目の前に、寝顔のメシフィア……!?
「そーっと……そーっと……」
俺はそーっと布団を抜け出そうとして………
「おーい啓太ぁ!腹減ったぞぉ!いい加減夕飯作ってくれ〜……えぇえぇ………」
「…………」
「すぅ………すぅ…………」
バッチリ父さんと視線が絡んだ。
あぁ……時が止まったのが見える………
「す、すまんな。これからはノックするように心がける……」
「ち、違うんだ。お決まりの勘違いするな!」
「女性の体を傷つけるなよ?」
「だから違うんだよ……ほら起きろメシフィア!」
「ぅ……ん……ズキューン……」
「ズキューンってなんだよ!?銃か!?」
「ん……?どうしたケイタ……?」
「ほら、父さんが帰ってきた。アレだよ」
俺は父さんを指差した。
指を指すな、と言われるが無視。
「初めまして、そこのふてぶてしい息子の父親です」
「……なんて言ってる?」
「あぁ、私がこのかっこういい息子の父親だって」
「そうか……見る目がないんですね、私はメシフィアです。はい通訳」
「えっと……本当に格好いい息子さんですね。私はメシフィアです、だそうだ」
「ふぅん……で、いつのまにそんな外人引っ掛けたんだ?」
「え、と……ま、まぁそれもおいおい話すよ。それより、父さんに聞きたいことがある」
「なんだ?」
「……食卓で」
「変な息子」
「俺の半分は父さんだよ」
「その、責任はお前にもある、みたいな言い方はよせ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「で?こんな手抜き料理しかできないほど聞きたいことってなんだ?」
「じゃぁ食うな。これでも生ラーメンだぞ」
「これは……少し、味が濃いな」
「メシフィアにはな。それ味噌味だし。逆から読んでも味噌味」
「??」
俺はラーメンをかきこんで、父さんと改めて向き合う。
まず、どこから話したらいいか………
「父さん、単刀直入に言う。異世界に行ってきたことあるよな?」
「………」
案の定、父さんは黙った。
険しい顔をして、箸をおく。
「どこまで知ってる?」
「ある程度だけ。まず、この剣を見たことはあるよな?」
「……そいつか。全然起きてくれなかったけどな」
「はは……は」
やはり、カノンを持って現れたのは父さんだ。
「じゃぁ、その女性は異世界の人か?」
「まぁね」
「どうして一緒に?」
「え、と……彼に責任取ってもらうためです」
「………は?」
「おい、彼女はなんて?」
「いや?なんか……責任とってもらうためだとか……」
「ないィ!?きっさま啓太ぁあぁっ!!」
ガッ!!
父さんの得意技スクリューアッパーが直撃した!
天井高くまで飛んでいく………
「な、なんだよ!?」
「父さんのいない所で貴様何をしていたぁ!?高校生の分際でぇ!!」
「は、はぁ!?」
「すいませんウチの息子が……失敬なことを」
「は、はぁ……貫かれて、結構痛かったですけど」
「!あぁ、そのこと言ってたのか」
出会ったときの、俺が裏切った時のことを言ってたようだ。
つまりは、冗談。
通訳必要な時に冗談なんて言わないでくれよ………
「なんだって?」
「あぁ、ブッ刺されて痛かった、だそうだよ」
「ぶっ…刺され……!?痛かった……!?」
「血もかなり出たよな」
「血!?」
「そういえばそうだったな……」
「啓太ぁっ!!お前、お前ってヤツは………!!」
「は?なんで怒ってるんだ父さん!?」
「もう少しオブラートに包んで物を言え!!女性を奪っておいて!!」
「はぁ!?」
「悪に手を染めた息子!!今ここで成敗してくれるわ!!!」
「ッ!がぁぁっっ!!!」
・
・
・
・
・
・
・
・
「次は?」
「……母さんのこと。これ」
俺は殴られた頬をさすりながら、ポケットから白い羽を出した。
誤解だと納得させるまで、かなりの時間を要した……俺が通訳してたから。
父さんは羽を見ると驚いた顔もせず、むしろやはりか、といった顔をした。
それを手にとって、窓から外を眺める。
「子供の頃の話だから、もう忘れてるんじゃないかと思ったんだがな……」
「あっちで聞かされたんだ。母さん……エクステルっていう人種、一体なんなんだ?」
「………母さんは」
父さんは悲しい顔をして、曇った空を眺める。
その瞳には、今でも………
「母さんは?」
――――天使だったよ