「ゆ・う・と・く〜ん♪」
「ぅ……な、なんだよ啓太。気持ち悪いな」
「うふっ、照れちゃって♪可愛いんだから♪」
「……斬るぞ」
「いやんっ!求めに支配されちゃってるの?」
「これは純度100%で俺の意思だ」
「……じょ、冗談だよ」
本当に求めに手をかける悠人。
殺気がひしひしと伝わってきたため、からかうのはここでやめる。
「何の用だよ?部屋までおしかけてきて」
「んあ?用がなきゃ来ちゃいけないのかしらん?」
「……仏の顔もなんとやらだ。今回が最後だぞ」
「わ、わかったってば」
まったく、ユーモアを理解しないヤツだ。
そんな怖いツラでよくアセリアたちに好かれたもんだ。
「実は、お前が遭遇したっていうヤツらについて聞きたくて」
「え?あぁ……アセリアと現実世界に行ったときか」
「どんなヤツだった?」
「片方はまだあどけない少女で、もう1人はゴッツイ大男だったよ」
「ふむ……」
「大男なんて、俺の全力の一撃がちっとも効かなくてさ……正直、怖かった」
「ほーか……よく無事だったな」
「あぁ……手加減されたみたいだからな」
「あんがと。あと、そっちは任せるわ」
「え?」
「そいつらは、お前に任せるよ。俺は俺で、よくわかんねー出雲ってのと戦わなくちゃいけないしな」
「……なぁ、俺からも少しいいか?」
部屋に置いてある鏡をみて、ヘアーを直してる後ろから話しかけられた。
鏡越しに、悠人が改めているのがわかった。
なにを……たぶん、あんまりいい質問ではない。
「瞬……だろ?」
「!!よくわかったな………」
「そりゃ、サーギオスにいたってのは俺とウルカってスピリットだけ。で、実際よく瞬と会ってたのは俺だから?まー、出来る限り答えるから言ってみィ」
「………瞬は、どうして俺を殺そうとするんだろう?」
「……」
「佳織を巡って、俺と瞬はよくケンカしてたけど……でも、殺しあうほどじゃなかったんだ。なんでだと思う?」
「……お前はどうして戦うんだ?瞬だけじゃない。お前だって、瞬を見たら倒そうとするだろ」
「それは……」
「今、佳織ちゃんがラキオスにいたとしても、お前は瞬と戦うはずだ。どうして?」
「……それは、この国が好きだから。前、お前に言われたよな?その答えが、これだよ」
「……この国の、行き着く先を見たい、ってところ?」
「ああ」
悠人は少し誇らしげに言った。
ま、今までしんどい思いをしてきたんだ。
当然のことだろう。
「でも、瞬は違う」
「え?」
「あいつにとっちゃサーギオスなんてどうでもいいだろうし、お前を殺すためには利用しやすい居場所だから、そこにいるだけ」
「………」
「一つだけ、お前も知っておいたほうがいいこと……それは、瞬も確かに生きていて、純粋すぎる愛を佳織ちゃんに向けている、それだけ」
「純粋じゃない……もう、あいつの愛は」
「歪んでる、なんてお前に言う資格はないだろ?俺からすりゃ、兄貴のお前のも尋常じゃない」
「それは………」
「もちろん、佳織ちゃんもそれを嫌がらない……むしろ、そうしてほしがってる。でも、瞬だって同じだよ」
「………」
「佳織ちゃんの周りに男がいるから嫉妬する。ほら、何も普通の人と変わらないじゃないか」
「……俺は、どうしてもそうは思えない………」
「お前らがケンカするのは、お前らが似てるからだよ。二人とも、佳織さえ良ければそれでいいんだ……ってね」
「!!」
今更気づいたような顔をされた。
ケンカしてる相手のことなんて、ちっとも考えないだろうけど。
「なぁ悠人。気づかせてあげろよ」
「え?」
「佳織ちゃんの中で一番大きいのは、たぶんお前。だからこそ、気づかせてあげてほしい」
「なにを……?」
「佳織ちゃんの中には瞬も確かにいて、その部分も佳織ちゃんはすごく大切にしているんだって」
「………」
「最初瞬は、それに物足りなさを感じると思うんだ。でも、瞬を本来の冷静な人へ戻せば、もしかしたら殺しあわなくてすむかもしれない」
「……お前はすごいな」
「え?」
「俺、全然そんなこと考えられなかった。どうして、お前はそこまで誰かを思いやれるんだ?」
「だって、お前の好きなラキオスが、少しでも血の少ない基盤の上に立ってほしいじゃん」
「………」
「そ、それにさ……俺、実はまだ戦争ってのがよくわからなくてさ……未だに、誰かを斬り殺したこともないし……」
カノンを見る。
まっさらな色をして、鈍く光る。
誰かを殺すのが偉いとは言わないけど、殺す覚悟もない俺が戦場に出たって役に立たない。
それを、覚悟を決めて戦場に出られる悠人たちは本当にすごいと思った。
「だから、すごいのは……悠人だよ。それと、光陰と今日子もスピリットのみんなも。俺、誰かを殺す覚悟なんてないもん」
「……」
「だから、相手のことを思いやって、どうにかして殺しあわないで済む方法はないかな?って考えるんだ。逃げる言い訳には合格だろ?」
「お前のそれは、俺たちよりもすごいよ。戦って殺す覚悟より、剣を振らずに、喉元に剣が迫ろうとも方法を探すっていうのは」
「………すごくなんかない。だって、結局……1人だけ………」
「1人だけ?」
あのスピリットを………
俺は殺してしまったから………
気持ちをわかっていたのに、それをまんまと利用して……
「ま、とにかく参考になったよ」
「失礼します」
キィ……!!
突然ドアが開いた。
そこには、イオが両手を前にして立っていた。
「イオじゃん。悠人に用?」
「いえ……ケイタさんにです」
「俺?ヨーティアが呼んでる?もしかして携帯の計測器ができたとか?」
「い、いえ……そうではありません……」
ん〜?
イオらしくないなぁ、モジモジしてハッキリしないなんて。
でも、なんだか珍しくてちょっと得した気分。
「ま、用みたいだから、じゃな、悠人」
「ああ。またな」
「ちゃんと勉強しろよ〜」
「お前もな」
お互い憎まれ口を叩いて、お別れする。
イオについていくと、見覚えのない部屋に連れて行かれた。
「ここは……?」
あたりには本だらけだ。
う……みんな聖ヨト語だらけ………
勉強嫌い……
「実は、興味深い資料を見つけまして」
「お、なになに?」
不思議と言われれば南極北極どこでもいきます♪
「実は、これなんですが……」
「これは……?」
手渡された一冊の本。
それは、どうやら日記のようだ。
「手書きの日記……誰の?」
「不明です。それで、ここに……」
「あ〜、文字わからんから、イオ読んで」
2人して、顔を近づけて本を覗き込む。
イオの細い指が文字の上を滑っていく。
「ここに、白き魔女と黒き剣士、とあります」
「え?それって………」
「はい。おそらくは……」
悠人が遭遇した人物と同一人物ってわけか。
次のページをめくる。
「ですが、その2人についての記述は、これ以降に全く出てこないのです」
「え〜?なんでだよ〜……もっと書けよコレ書いた人」
「まるで記憶が消えたかのようですね……」
「ふ〜ん……で?」
「実は……これによると、この2人によって、数秒で街が壊滅したとあります」
「え……数秒っすか?」
「はい。そこには、あの……ケイタさんのお父上がお住まいになられていたとかで……」
「……親父が狙われたってことか」
これはキナ臭くなってきた。
ってことは、コイツらは今度、俺を狙ってくる可能性が高い?
なら、囮役は案外ビンゴってところか。
「なぁイオ……相談があるんだ」
「……なんでしょう?」
「今の俺がコイツらと遭遇して、生き残る確率ってどのくらい?」
「………」
あ、目を逸らされた。
相当低いんだろうな……当たり前だけどさ。
「そうっすか……」
「あの、それでケイタさん……それでも、行くのですか?」
「……」
イオの顔に、憂いの表情が浮かぶ。
俺を心配そうに見つめてくれる。
その気持ちが、すごく嬉しかった。
でも、もう一つだけ聞きたいことがある。
「あいつは……」
「はい?」
「なぁイオ、どっちが正解だと思う?」
「え?」
「メシフィアと一緒に行くのと、1人で行くの……」
「……(そうです……この人は行くか行かないかで悩む人ではありません……)」
「イオ?」
「あ、はい……そうですね……」
「メシフィアはしんじゃいけない人間なんだよ。将来、絶対必要になる」
「……」
「危険な目にはあわせられないんだよ………って、あ……ナシナシ!!今の聞いてないことにして!!」
「ケイタさん……あなた、もしかして………」
「……好きだよ、放っておけないから。でも……そんな、付き合いたいってこととかじゃないんだ。イオと同じくらい、って感じ」
「え……私、ですか?」
きょとん、と目を開いて固まるイオ。
また、珍しいものが見れてしまった。
「うん。っていうか、話していて楽しい人はみんな好きだけどね。イオは、そういえば……男の人を好きになったことってあるの?」
「……よく、わかりません。ですが、自分ではない、と思います」
「そっか……俺、さ、今でも追いかけてる人がいるって、言ったでしょ?」
「はい……幼少の頃に出会われたという……」
「そう。うっすらと覚えている、たった2,3回しかあったことのない人を、ずーっと追いかけてるんだ。笑っちゃうでしょ?」
「い、いえ………」
「その人のことだとか、翼のこと、出雲のこと、いろいろ聞き出さなきゃいけないから、俺は意地でもソイツらに遭遇して、あわよくば現実世界に……」
「ケイタさん………」
「な?イオが言いたいこと、イオの気持ち、嬉しいけど……俺は、やっぱり知りたいんだ。だから……その、応援……してくれよ?」
恥ずかしいけど、そう言った。
すると、イオは少し驚いたような顔をしてから、くすっと笑った。
―――え、笑った?
「応援します。マスターもきっと、応援してくださるでしょう」
「あ、ありがと……ついでにさ、今笑わなかった……?」
「顔の筋肉がひきつった感じはしましたが……」
「ひ、ひきつった……それは笑うって言うんだよ」
「これが、笑うということなのですか?」
「そうそう。さて、と……そろそろ戻るか。それにしても、イオにはなんでも言えちゃったな。相談乗ってくれてアリガトな」
俺は席を立って、部屋を出て行こうとした。
つん、と裾を引っ張られる。
ん?と確認すると、フードで表情の見えないイオが引っ張っていた。
俯いていて、何か……痛い雰囲気がする。
「イオ?どうした?お腹痛いのか?」
「い、いえ……なんでしょうか……?なぜか、あなたを行かせたくない気分に……これは、なんなのでしょう……?」
「……じきにわかるよ。だから、焦らないで。そんな、苦しい顔しなくても、それは悪いことじゃないよ」
「……本当ですか?」
「じゃぁ、気分が軽くなる呪文を教えてあげようか」
俺は小指を立てて、差し出した。
「それは……」
「指きりって言って、絶対の約束をするときにするもの。ほら、イオも小指を出して」
「……」
そっとイオが小指を出した。
それに絡めて、軽く上下に振る。
「俺は必ず帰ってきて、俺んとこの名物を持って帰って、イオにプレゼントします。はい、指切った!」
小指を離し、涙ぐんだ瞳を向けるイオに微笑みかける。
「少しくらい気が晴れた?」
「……ほんの、少しだけですが」
「いいよ。じゃぁ遠慮なく心配してくれ」
「え?」
「心配してくれる人がいると、安心させるために帰りたくなるってもんだよ。そのときは【お帰りなさい】って言ってほしいな」
「……はい。そうさせていただきます」
「じゃ、行くか」
「はい」
俺たちは揃って部屋を出る。
当然、神様ってのはこんな甘い展開だけで終わらせるハズもなく――――
「げ……セリアにヒミカじゃねぇか……」
「げ、とはなによ。あら……後ろにいるのは……」
「あれ?どうかしましたか?泣いておられるようですが」
「あ、それはだなヒミカ………」
や、やばい。
咄嗟のことで言い訳が……!!
神様助けて!!
「……まさか、何かしたんじゃないでしょうね?」
「な、何かって……べ、別に、何もしてない」
「じゃぁ、なんで泣いてるのかしら?」
「な、イオ。お前からも無実だって言ってくれよ!」
「はい……私が泣いているのは、ケイタさんのせいです」
「ばっ……!!」
あまりにあんまりな発言に、絶句した。
振り返ると、ヒミカとセリアがジト目で睨んでる………。
「ケイタ様……事と次第によっては、許しません」
「何もない!なんにも!ねぇイオ!?」
「……不思議とすっきりしました。これからもこうやって対処すればよいのですね」
「あ、ちょっと!なにそれ!?俺が困るとスッキリするわけ!?」
「なにをしたのか、白状してもらいましょうか」
「えぇ……たしか、訓練場の倉庫に拷問道具が」
「あぁ、いいわねそれ」
「ちょっとヒミカ!?それは非人道的で非常識で!!道徳に反することでしょ!ヒミカから常識を取ったらなにが残る!?」
「………」
「………」
「……(失言だったな、今のは)」
あぁ、場が静まって自分でわかってしまうのが情けない………。
ってか、ヒミカファンに殺されるぞ俺……。
「たしか、キュリア様が武器を持っていたわ」
「それも使わせてもらいましょ」
「そ、それは本格的にアレ行為……!ってかアレメッチャしびれるんだぞ!?死んじゃってもいいのか!!」
「大丈夫よ。5/3ぐらいでとめてあげるから」
「それ1超えてるから!!死んでるよ俺!!セリアそんなこともわかんねーほど頭悪かったのか!!」
「………論より証拠というから、早く吐かせるわよ」
「それ激しく使い方間違ってるよ!!神様!!お前俺に恨みでもあんのか!!お前今日から俺の敵だあぁあぁッッ!!!!」
さっきは神頼みしたのに、なんで助けてくれないだよと逆恨み。
それが人間ってヤツでごぜーます。
そのあとどうなったか?
・
・
・
・
・
・
・
・
・
――ここにはかけねーよ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
目覚めよ我が契約者
今こそ、我が関係の頂点に立つ時
それこそが、我の望み
選べ、このまま殺されるか、生きるために剣を取るか
「……なんだ今の」
{……聞こえたかケイタ}
「あぁ、なんだよカノン。独り言?」
{俺じゃない……前に話したろう?俺を含む3本の神剣を}
「あぁ」
{おそらく、そのうちのブラスト……もとい、永遠神剣【悪光】が、契約者を得たのだろう}
「なんでそれが聞こえるの?」
{こうして、他の2本にも聞こえるように我ら3本は制約を受けている}
「は〜ん……じゃぁ、お前に俺がいるってのも、2本は知ってるわけか」
{いや、それはない}
「なんで?」
{俺とお前はまだしっかりと契約していないからだ}
・
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・
―――ナンデスト?
「すまんカノン、もう一度だけ頼む」
{だから、俺とお前はまだ完全な契約をしたわけじゃない}
「ほほう?」
俺はカノンを持った。
剣先と刃の根元を持って。
{まぁ、今までは上辺だけの力で乗り越えられたしな}
「……じゃぁ俺が弱いのは?オーラフォトンってのをうまく使えなかったのは?今はイオのおかげで使えるけど」
{お前が正式な訓練を受けていないってのもあるが、一番は……まぁ、俺が手を抜いてたからだ}
俺は大きく振りかぶった。
膝の準備オッケーィ………!!
「それで……?」
{だから、起きたのが知られているだろうが、契約したことは知られてない、とまぁこういうわけだ}
「ふんぬあぁあぁッ!!!」
ガッ!!
ガッ!!!
何度も膝に当て、折ろうと試す。
憎々しいことに、全然折れない。
{ぎゃぁっ!!痛い!なにをする!?}
「てめー俺の命をなんだと思ってんだ!!護るって言っただろうが!!」
{う、うるさい!俺だってできれば―――}
コンコン
ドアがノックされた。
俺は無視してカノンを折ろうとぶつけ続ける。
「あらあら〜、ケンカはめっ!ですよ〜?」
「は……?」
「神剣とは、仲良く付き合わなければいけません〜」
「はぁ……」
{全くだ}
「調子乗るんじゃねぇカノン!!」
俺がまた叩きつけようとすると、入ってきた女の子に止められた。
カノンを奪われ、なんだかカノンを撫でている。
「イジメはいけません」
「戦場に出るってのに、力をちゃんと貸してくれないソイツの行為はいじめより酷いだろ」
「だからって〜、一方的はよくありません〜」
「なるほどそうか。ならカノン、殴っていいか?」
{絶対にいや「そうかそうか、いくらでも殴っていいか」オイコラ!!聞けよ!!}
「つーわけだ。許可してくれたから返して。殴っていいらしいから」
「ダメですよ〜、神剣はパートナーなんですよ〜?」
「戦場で死力を尽くしてくれないヤツをパートナーとは呼ばない、足手まといと言う……ってかアンタ誰だ!?」
気がつけば、のほほんとした雰囲気で部屋に入り込んでいる。
どうやらグリーンスピリット………ん?見覚えがある……いや、ないけど、聞いたことがある。
間延びして、アレがでかくて、優しそうなお姉さん……俺の好みとは別のだけど。
「あ〜、君がハリオンかぁ」
「はい〜、気づくのが遅いですね〜」
「そっちこそ、なんで言ってくれないんだよ〜」
「気づいてくれませんでしたから〜、いじわるです〜」
「そうですか〜、でもいじめはだめだって言ってましたよ〜?」
「いじめといじわるは似て非なるものです〜」
「それは屁理屈ですよ〜」
「それもそうですね〜、困りました〜」
「ほんと困りましたね〜」
・
・
・
・
・
・
・
「あ、あの………すみません」
「アホなエトランジェが増えた……」
「ふわぁ〜……あのハリオンさんについていけてる………」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「へ〜?君たちがハリオン、ヘリオン、ファーレーン、ニムントールってわけか」
今日いないのは、ネリシア姉妹にナナルゥ、それにキュリアだ。
珍しく、幕舎にいる人数のほうが多い……?
「いやぁ、それにしてもハリオンの話術は怖いな。いつのまにか伝染してた」
「それはすいませんでした〜」
「いえいえこちらこそ〜」
「いえいえいえ、こちらこそ〜」
「いやいやいやいや、こっちこそ〜」
丁寧に頭を下げるハリオン。
つられて俺も頭を下げ、やっぱ伝染した。
「……バカ」
「こ、こらニム!」
「んで、そっちの生意気おチビがニムントール……通称ニムね」
「ニムって言うな!」
「悪いなニム。やるなと言われるとやりたくなる性格なんだ」
「……じゃぁに、ニムってよ、呼んで……」
「ありがとう。そう呼ぶよ」
「!さっきと言ってることが違う!!」
「誰もやれと言われたことをやらない性格、なんて言ってないぞ」
「〜〜ッ!!」
「はっはっは!ガキはこれだからからかうと面白いんだよな〜♪」
「子ども扱いもするな!」
「ならいっぱい笑っていっぱい怒って、いっぱい泣いていっぱい喋って、はやく大人になるこったなぁ、ニムちゃん?」
「ニムって呼ぶな!ちゃんもつけるな!!」
「ニム!いい加減にしなさい!」
「でもお姉ちゃん……」
んで、それの姉貴がファーレーン、と。
こう、ファーレーンにじゃれつくニムントールを見ると、本当に姉妹にしか見えない。
微笑ましいねぇ……
「んで、ヘリオンだよな?」
「はっ、はい!」
声をかけただけで、びくん!と跳ね上がるヘリオン。
こりゃ、相当な……
「さて問題です」
「え?」
次のうち、ヘリオンが好きなのはどれでしょう?
1、ラキオスのエトランジェ
2、求めの契約者
3、佳織の兄貴
「さて、ど〜れだ」
「〜〜ッ!なんで知ってるんですか〜っ!?」
「え?やっぱそうなの?」
「え?」
「あはは、噂どおりの自爆娘だなこれは」
「〜〜ッ!!引っ掛けたんですね〜!?」
「ごめんごめん、悠人が可愛いって言ってたから、ついからかってみたくなって」
「え!?そ、そんな………」
「……ちなみに、ウソだから」
「〜〜ッ!!また引っ掛けたんですね〜ッ!?」
「悠人は正確には【真っ直ぐで、とってもいい子】って言ってたんだよ」
「え……?」
そう。
悠人は、いつだってみんなのことばかり。
それで、孤独な空気を纏ってしまってるとは、思いもせずに。
でも、それももう平気だろう。
「みんなともそろそろお別れか〜、寂しいもんだな〜」
特に、一回しか会えてない人たちは。
「え?もうお帰りになるのですか?」
「いや、まだだよヒミカ。でも、もうすぐできると思うんだよね」
「……そう」
「うわ、冷たいよセリア。もっとさ〜、悲しんでほしかったな〜」
「……人の気も知らないで」
「ん?聞こえなかったぞ」
「なんでもないわ」
「ふ〜ん?……でも、悠人が必死で護りたがるわけがわかったよ」
これだけの人達が………
これだけの笑顔が………
一つでも失われるなんて、考えたくない。
「ケイタ様……」
「みんなもちっとは寂しいな〜、とか思ってくれる?」
「……そうですね、寂しいです。いつもよりすごくにぎやかでしたから………」
「ありがとうヒミカ。やっぱ、永遠の別れじゃなくても、別れる時には好きな人には、少しでもいいから悲しんでほしいよね」
「え……」
「あ、ヒミカだけが、ってことじゃないんだ」
今は、素直のままが出せる。
口から、今伝えたい気持ちが、あふれ出してきた。
「みんなのことが好きだから」
「私たちが……?」
「当たり前じゃん。これだけ楽しく話せて、好きにならないわけないでしょ」
「それは………」
「たぶん、現実世界でこれだけ話す子がいたら、きっとその人も好きになってる……あ〜、別に、友達以上、恋人未満って意味で、だからな?」
「はぁ………」
「みんなと話すと、めっちゃ楽しくてさ。だから、もうちょっといたいな、ってくらいに好きだよ。ここが……みんなが、さ」
「ケイタ様………」
「………あぁ!?」
言ってからしまった!と思った。
これは、現実世界のダチに止められていたこと。
「どうしました?」
「今のナシ!忘れて!!」
「ど、どうして?」
「友達に言われたんだよ。【そういう天然少年ぽいこと言うの、むかつくんだよ。なんかの影響なんだろうが、作りくさいから嫌われるぞ】って」
「へ……」
「つまり、わざと天然っぽい台詞を言うってこと。そういうヤツって、男子だと小説だとかゲームの影響が大きくて、女子だと狙ってるってことで」
「な、なんの話ですか?」
「つまり!さっきみたいなことを言うと友達に嫌われるってことだよ」
「そうなんですか……?」
「だから、絶対に言わないって決めてたんだよ。それをまぁ俺は雰囲気に流されてベラベラと……あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛………」
「そ、そんなに気にしなくても………」
「気にするっつーの!友達が減るって怖いことなんだぞ!」
「はぁ……」
「言ったろ?俺は寂しがりやだって。話しかけて、プイッ!てされたらすっげー険悪になるじゃん」
「そんなことしませんけど」
「ウソだ。誰かしら、【うっわー、そんなこと言っちゃってさ〜。なんかイヤな感じ】とか思ってるだろ?いや、思って当然なんだよ」
「……」
「だから、忘れろ、いいな!?」
俺は念を押した。
すると、1人……また1人と笑い出す。
「な、なんだよ?なんで笑ってんだ?」
「考えすぎですよケイタ様」
「そんなことねーよ。実際、あの台詞を俺じゃない誰かが言ったら、俺は嫌悪感を抱くね」
「別に、あなたの台詞は作り臭くなかったし、誰も不快な思いはしてないんじゃないかしら?」
「セリア……オメーが一番しそうなんだが……してないのか?」
「別に……それに、あなた……見る目がないようね」
「は?」
「みんなの顔を見れば、普通わかるんじゃないの?」
「へ?」
みんな、くすくす笑っている。
誰一人、薄い笑いはしていない……?
「ケイタ様、私は嬉しかったですよ」
「ファーレーン………」
「まぁ、ほんの少しだけどね」
「ニム……」
「そうですよっ、ケイタ様」
「ヘリオン……」
「はい〜、私も嬉しかったです〜」
「ハリオンまで……」
「そういうことですよ、ケイタ様」
「ヒミカ……」
「わかるかしら?」
「……十分にな、セリア。ほんと、お前らってバカがつくくらいのお人よしだってことがね……」
なぜか、心の中が温かい気持ちでいっぱいになる。
異世界だとか、戦争だとか……そんなの全然関係ない、純粋で、もっと単純な………
「っ!やべ、もうごんなじがん……寝るわ……」
「枕を涙で濡らしちゃダメですよ〜?」
「う、うるせーよ!泣いてねーっつーの!!」
涙ぐんでるだけだよ
―――ありがとう
―――これで、また頑張れるよ
―――またいつか………
――――平和になって、再会できるように………
――お互い、生き延びよう………絶対に