「ここは右だろ」

「いや!ここは絶対に左よ!」

「違う!絶対右だ!」

「いいえ!左!!」

 

 

 

 

地図を指して右だ左だと言い合う。

キュリアと組んで仲良くピクニック気分になんか、なるはずがなかったのだ。

それなのに、俺は組んでしまったんだよ………プロだから。

 

だって

 

 

 

 

無口で無愛想(メシフィア

意外と間抜けで天然(メルフィー

能天気少女(アエリア

一応、礼儀は護る&プロ(キュリア

 

 

 

 

この中で外交に差し支えない人物って言ったら1人しかいないだろ!

いや、メシフィアもさすがにそう言う場では喋るけどさ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「譲らないな」

「譲れないのよ」

「……やるか?電磁ムチがあっても、神剣使えば負けないぜ」

「いつか決着をつけようと思っていたのよね」

 

 

 

 

キュリアもシオンを取り出して俺に向けて構えた。

俺もカノンを抜いて構える。

 

 

 

 

「ふっ……いくぜぇ!!」

「やぁあぁあぁッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――似たもの同士はよく喧嘩するとは、よく言ったものだ。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

俺とキュリアはラキオス城にいた。

謁見の間で、レスティーナの【なにあなたたち?】って視線を浴びている。

そりゃそうだ、お互い頭のてっぺんからつま先まで真っ黒なんだから。

 

 

 

 

 

「戦闘でもあったのですか?」

「いえ……気にしないでください」

「ですが、随分と服も汚れてしまっていますが」

「気にしないでください……!!」

「そ、そんな殺気を含まなくても……それで、一体何用なのですか?」

 

 

 

 

本題に入るようだ。

俺はキュリアに脇を突っついて促す。

 

しかし、この女はツンとして答えない。

 

 

 

 

 

「……キュリア、ほら」

「私じゃない。あなたが言うべきよ」

「お前、たまには苦労してる俺のために、苦労を減らしてやろうかっていう気遣いはしないのか」

「ごめんなさい、普段ならそう思う所なんだけど、なぜかあなただけには気遣う気が起きないのよ」

「ああそうかい。あいにく俺、言うこと忘れちゃったんだ」

「なんて人なのよ。大事な報告内容忘れるなんて」

「そう言うならお前が言えばいいだけの話だろ!」

「あ、そういうこと言うんだ?無責任なエトランジェさん」

「うるせぇよ唯我独尊女」

「なによ!!」

「なんだよっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………2人とも」

「「なんですか!!?」」

 

 

 

 

 

言ってしまってから、あ……と口を押さえる。

すっかりレスティーナのことを忘れていた。

 

重鎮たちも、全員俺とキュリアを睨んでる。

今すぐ出てけ、的な目だ。

 

 

 

 

 

「少し頭を冷やしてきなさい!!」

「「……はい」」

 

 

 

 

 

衛兵に掴まれ、俺たちは謁見の間を追い出された。

報告にきて、喧嘩して追い出されたエトランジェとして、末代まで恥として残ることとなるだろう………。

隣を歩くキュリアに文句を言う。

 

 

 

 

 

「大体なぁお前のせいだぞ」

「なんでそうなるのよ?」

「お前が素直に報告すれば、問題なかったんだ」

「そういうあなたこそ、報告内容忘れるなんてふざけてるにも程があるんじゃない?」

「俺は他にいろんなこと考えてて、仕方ないんだよ」

「へ〜?何を考えているのかしらね?」

「そりゃ、世界のこととか、次のミッションのこととか、そういうのだよ」

「あら、そんなこと考えていたのね。てっきり今日の夕飯だとか、暇ができたら何しようかな、とかばかりじゃないの?」

 

 

 

 

 

 

「……やるか?」

「いいの?タダじゃすまないのよ?」

「へっ……それはコッチの台詞だよ」

 

 

 

 

 

俺はカノンを引き抜いた。

カノンから、【もうイヤだ。付き合ってられるか!】と文句が来るがさらりとながす。

キュリアもシオンを構えた。

 

 

ふっと、お互い口の端を吊り上げた瞬間………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめろこのタコスケどもーーーーーッッ!!!!!」

 

 

 

 

ガァーンッ!!!

 

 

 

俺の頭に、何かが激突した。

そのまま力が抜けていく………

 

 

 

 

「城を壊すつもりかお前らは!!」

「いってぇな悠人!!なにすんだよ!?」

「啓太!大体なんでお前がこんな場所で、神剣抜いて相棒と今にも喧嘩始めようとしてるんだよ!?説明しろ!!」

「悠人、あなたはでしゃばらないで」

「きゅ、キュリアまで!」

「これはお互いの意地と信念をかけた戦いなのよ。それを邪魔するなんてどれだけ野暮なことかわかってるの?」

「あ、あのなぁ………」

「犬は飼い主の家族にランクをつけて区別している……人それを優先順位という。どうやらキュリアの中で俺は随分下にいるようだからな!」

「う〜、あ〜!どうでもいいだろそんなこと!!」

「うるさいのよ悠人」

 

 

 

 

 

ビシッ!!

バチバチバチィッ!!!

 

 

 

 

「ぎゃぁあぁあぁッッ!!!」

 

 

 

 

悠人が電磁ムチの餌食になって倒れる。

真っ黒になって、ピクピクしながら【なんで俺が……】と呟いてる気がする。

 

でも、これで邪魔者はいなくなった。

 

 

 

 

 

「これで心おきなく戦えるのよね?」

「ああ……だが、感謝しないぞ?手加減はもっとしないけどな」

「いいわよ。それでこそ、倒し甲斐があるってもの……!」

 

 

 

 

バッ!!!

俺とキュリアは同時に力を解放した―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ラキオスの城が一部損傷しただけで済んだのは、ヨーティア曰く【この世界七不思議に入るだろう】だそうだ。

――――ちなみに、残り6個は【凡人には一生知ることのできないことさ】らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、なんで俺が……」

「それはコッチの台詞なのよね」

 

 

 

 

 

俺とキュリアは、丸焦げにされた悠人のことで怒っているエスペリア達に監視されながら、損傷した城の修理をしていた。

あぁ、当初の目的から随分かけ離れてるなぁ、と思うが………

 

 

 

 

「ったく、だからあの時素直に報告すりゃ………アバズレめ」

 

 

 

 

 

 

カツーンッ!!

 

 

俺の頭にスパナのような器具が当たる。

小声で言ったのに、なんて地獄耳だ。

 

 

 

 

 

 

「あ、手が滑ったのよ」

「ほほぅ………?そうかそうか……!」

 

 

 

 

 

俺はそのスパナを拾った。

思い切り握り締めて、振りかぶる。

 

 

 

 

「ほら……返すぜ!!!」

 

 

 

 

ビュンッ!!!

 

あえてキュリアを狙わず、器具箱を狙った。

器具箱が跳ね返り、キュリアの顔に直撃する。

 

 

 

 

「あ……っと、悪いな。コントロールが悪くてねぇ」

「ふ〜ん……頭だけじゃなくて?」

「ははは……!」

「ふふふ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあと、スパナ合戦が始まったのは言うまでもない――――

 

 

 

 

結局、エスペリア達にガミガミ怒られ、しまいには罰として第2幕舎の掃除まで追加された。

キュリアは第1幕舎だ。

 

まぁ、今度はバラバラだから喧嘩することもない………と思う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、自治区のエトランジェって、もしかして〜」

「して〜?」

 

 

 

 

うぅ………誰だ、ここにガキ2人を置いていったのは………

 

掃除したいのに、ネリーとシアーというガキが邪魔でうまくいかない。

っていうか、俺が雑巾で綺麗にしたところを、問答無用で踏み荒らしていく。

 

 

 

 

 

「……そうだよ。だから、頼むからどこか別のところで遊んでくれよ〜……」

「じゃぁ、一緒に遊ぼうよ〜」

「ぼうよ〜?」

「えぇ〜?見ればわかるだろ?掃除しなきゃいけないんだよ〜」

「ぶ〜っ!それじゃつまんないよ〜!」

「ないよ〜」

「あぁ……地団駄踏まないで〜……せっかく綺麗にしたのに〜……!」

「………あなたは誰ですか?」

「うわっ!」

 

 

 

 

 

突然後ろから話しかけられた。

髪の長い、レッドスピリット。

メモ帳によれば……ふむふむ、ナナルゥね。

 

 

 

 

 

「俺は大川啓太。ここのお掃除係だ」

「……不審者発見、排除します」

「え?あ、いや!違うよ!!不審者じゃないって!!」

 

 

 

 

って弁解する間もなく、ナナルゥっていう過激派姉ちゃんは、双剣を手にしていた。

ワキにはガキが2人もいるっていうのに……!

驚く間もなく、すでに詠唱してるし!!

 

 

 

―――ん?ガキ2人?

 

 

 

 

 

 

「ナイスだ神様!!ネリー!シアー!呪文打ち消して!!……っていない!?逃げたなぁあぁっ!!?」

「貫け……ライトニングファイア!」

「う………ぎゃぁあぁあぁッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「本当にすいませんでした!ほらナナルゥ、あなたも謝りなさい!」

「すみませんでした……」

「いや、いいよいいよ。なぁネリー、シアー。お前ら2人はケガがなくて、ほんと〜に良かったなぁ?」

 

 

 

 

俺とキュリアは第2幕舎でお世話になることになった。

と、言ってもしばらくの間だけだけど。

 

ネリーとシアーが口に運ぶタイミングを計って言う。

 

 

 

「ッ!ごほごほっ!!」

「?」

 

 

 

 

ネリーは素直なリアクションを取るが、シアーはやっぱりわかってないみたいだ。

ネリーに手を引かれて【逃げるよ!】っていう絵が目に浮かぶ。

 

 

 

 

「あは、あはは〜……」

「笑ってごまかすか……ま〜いいよ。ヒミカもそんな謝らないで」

「ですが……」

「もう平気だから。メシ食べよ?」

「あ、はい」

 

 

 

 

食卓に並んでいるのは、ネリシア姉妹に無口なセリア姉さん。

それとヒミカ、ナナルゥ……ファーレーンとニムントール、ヘリオンとハリオンはいなかった。

 

 

 

 

 

「………」

「………」

 

 

 

 

ようやく腹に食い物を入れることができると思ったのに………

俺の手に取ったパンに、別の人の手……予想通り、キュリアの手だ。

 

 

 

 

「離せよ」

「そっちこそ」

「おれはこのパンが食いたい」

「私もこのパンが食べたいのよ」

「……このままじゃまたみんなに迷惑かけるだろ?」

「そうね………」

「だから離せよ」

「そっちこそ」

 

 

 

 

 

――――はぁあぁ………

 

 

みんなが大げさにため息をつくのが聞こえた。

でも、それで引くのはイヤだ。

 

 

 

 

「ったく、こうなりゃアレだな。いがみ合ってるうちにパンがちぎれないように……せいやっと!」

 

 

 

 

俺はむんずっ、とパンを半分にちぎった。

そしてキュリアに渡す。

 

 

 

 

 

「これで文句ねーな?」

「大人になったじゃないのよ」

「うるせぇや。いいからパン食え」

 

 

 

 

 

俺はスープを一口含んで、パンをかじった。

程よい甘さと、パンのしっとりさがマッチして最高のハーモニー……

 

む〜……?

 

 

 

 

「このパン、自家製?」

「あ、はい。よくわかりましたね」

「焼いたのは……アダルト(ナナルゥ除く)だろうね」

「……なぜそう思われるのですか?」

 

 

 

 

お、セリアが食いついてきた。

 

 

 

 

「おほん、では説明しよう」

「やっぱりいいです。食事の時間がなくなりそうなので」

「あ………」

 

 

 

俺は人差し指を立てた状態で固まってしまった。

なんていうか、立場なし………。

 

それを気遣ってくれたのか、ヒミカが話しかけてきた。

ちっと焦ってるところが、また可愛いんだなコレが。

 

 

 

 

 

「え、えと。どうしてわかったんですか?」

「ん〜……まぁ作るとしたら、一番ありえるのはハリオンだよな?」

「まぁ……はい」

「でも、彼女の性格にしてはちょっと型崩れした、力の入りすぎたパン、練りこみすぎてふっくらしてないパンがある」

「………」

「それは、まぁたぶんヒミカが作ったんだろうね。あと、セリアの口元が微妙の緩んでた。だから、自分で作ったんじゃねーかなー?と」

「はぁ……すごいですね。そんな細かいところまで見ていらっしゃるなんて」

「ちっちっちっ、伊達にトレジャーハントしてませんよ。たぶん、セリアが話を打ち切ったのもそれを言われるのが恥ずかしかったからじゃねーのかな?」

「……」

「ほら、さっきより俯き加減で食べるのも早くなってるし」

「いい加減にしてください。ゆっくり食べられないじゃないですか」

「だってな〜、全然会話しないじゃんセリア。つまんねーよ俺」

「どうせ短い付き合いなんですから、いいじゃないですか」

「セリア!」

 

 

 

 

 

食器を片付け、逃げるように去っていくセリア。

んま〜……こりゃ悠人も苦労が絶えないわなぁ。

きっと将来、悠人は若ハゲだ。

 

断言できる。

 

 

 

 

 

「ま〜、しょうがないか。確かにすぐ去っちゃうしね〜」

「そうそう。啓太にはメシフィアがいるのよね」

「ブフッ!!ゲーホッ!ゲホゲホッ!!!」

 

 

 

 

さらりととんでもない発言をするキュリア。

スープが逆流し、吹き出た。

 

 

 

―――大丈夫か?鼻から出てないか?鼻は

 

 

 

 

 

 

「とんでもねーこと言うんじゃないよ」

「メシフィアは美人だし、あなたが素直じゃないのって、私かメシフィアに対してだけだものね〜」

「お前らがアバズレだからだよ」

「そういうことにしておいてあげるわよ」

「そういうことにしておいてくれ」

 

 

 

 

 

パンをかじった。

ん……鼻水の味が………。

 

 

 

 

「あ、そうでした」

「どしたヒミカ?」

「もししばらくラキオスに滞在するなら、ヨーティア様の所へ足を運んでほしいそうです」

「あ、面倒だからパス」

「え………」

「ってダメ?」

「……お、おそらくダメなんじゃないかと」

「ちっ……せーっかくラキオス観光しようって思ったのに」

 

 

 

 

 

ま、実際はおみやげを買うためだけど。

俺の相棒ちゃんが【ヨアフル……あれヨフアルだっけ?と、とにかくそれ食べたいの!買ってきてっ!!】

 

なーんて、頼んできた。

 

 

―――頼むなら名前くらいしっかり覚えとけ!!

 

 

 

 

 

「そうだなぁ……ヨーティアんところ行ってから、ラキオス……ん〜、時間は結構遅くなるから、夕飯はいいや」

「はい、セリアに伝えておきます」

「んじゃ、俺もいってきます、と」

 

 

 

 

 

俺はヨーティアの所へと向かう。

ヨーティアとイオと会うのは、義手の時以来だ。

あの時はちゃんとお礼いえなかったから、今度は言おう。

 

あんまり、言いたくない人柄だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お〜、来たかボンクラーニョ」

「ボンクラーニョ?ロナウジ【それ以上は危険だぞ】わかってるよ。それと、義手のときはありがとうでした」

「ん〜?なんだか気持ちがこもってないんじゃないかぁ?」

「いやいや、感謝感激雨あられですよ。イオ〜、お茶くれな〜い?」

「はい、ただいま」

「……イオをこき使うな」

「ヨーティアより使ってないよ」

 

 

 

 

 

ちっ、かわいくない凡人だ、と口走ってそこらへんの本を漁りだす。

片付ければいいのに、ヨーティア曰く【これがベストの配置なんだ。凡人にはわかるまい】だそうだ。

そんな小学生みたいな言い訳……と思うが、どうやら本当のようで、自慢げに俺に資料を見せ付けてくる。

 

 

 

 

 

「お前、その神剣は今何位と言ってる?」

「え?カノーン、聞こえるかぁ?」

{なんだ?}

「お前、また順位かわったの?」

{ん〜……そうだな、今は第七位だ}

「第七位って言ってる」

「そうか………」

 

 

 

 

ヨーティアが難しい顔をして、考え込む。

その間に、俺はぱらぱらっと資料をめくった。

当然のごとく聖ヨト語、読めません。ハイ、サヨナラ〜。

 

 

 

 

 

「なぁ、お前の父親って、この世界に来たことあるんじゃないか?」

「へ?」

「この資料によるとだな?オオカワと名乗るエトランジェが昔来たそうだ」

「……昔って、どのくらい?」

「ざっと……17年前だ」

「………ふ〜む」

 

 

 

 

ってことは、親父は……大体20歳か。

随分年食ったエトランジェ……いや、今回のエトランジェが若すぎるのか。

 

 

 

 

 

「その男が持っていた神剣……それが、その永遠神剣第〜位の神光だろう」

「カノン、そうなのか?」

{……いや、その時俺は眠っていたからな}

「寝てた?」

{ああ。俺には、対立する2本の神剣……俺を含めて、3本の神剣がある}

「ふむふむ」

{どれかが覚醒すれば、他の2本も覚醒する、そういうことになっている}

「ってことは、お前が目を覚ましたのは?」

{……俺が一番最後だ。他の2本はとっくに覚醒していた。しかし、お前の父親だろう、あの洞窟に安置されて、契約者の訪れを待っていた}

「は〜……なるほど」

 

 

 

 

ちょうどよく俺が現れたってわけね。

 

 

 

 

 

「なんと言ってるんだ?」

「どうもそうらしい。でも、寝ていたみたいで覚えてはないみたいだ」

「なるほどな。だからエトランジェオオカワは記録にないのか」

「え?」

「寝ていた、ということは神剣が使えない、ということ。だから、どこの国にも属さずひっそりと生きていたのだろうな」

「………」

「そして、親子二代で受け継いだ神剣は、今地道に覚醒への道をたどる……と。これは興味深い」

 

 

 

 

ヨーティアの目が光ってきた。

どうやら、研究意欲に燃えてきたらしい。

 

全く、いい迷惑だ。

義手のときだって【科学に犠牲はつきものだ。我慢しろ】なんて脅しかけてくるし。

 

 

 

 

 

「あれ?ってことは、カノンはまだ全力じゃないのか?」

「あぁ、たぶんお前の実力に合わせているんだろうな」

「……そうだな、きっと」

 

 

 

 

 

俺は悠人たちと違って、訓練さえ受けていない。

オーラフォトンなんて、一回が限界だ。

兄貴がフォローしてくれたときは、巨大な一発ブチこめたんだけどな………。

 

 

 

 

 

 

「さて……ここからが本題だ、啓太」

「あん?」

「お前……背中に翼がないか?」

「!!!」

「その顔、あるんだな?」

「………」

 

 

 

 

 

俺はポケットから、部屋に舞っていた白い羽を取り出して見せた。

それだけで、はぁ……とヨーティアがため息をつく。

 

 

 

 

 

「やっぱりか」

「でも、どうしてわかったんだ?俺が見たのだって、つい最近だよ?」

「それが私にもサッパリでな……わかるのは、お前の翼が遺伝によるものだ、ということだ」

「遺伝?」

「この資料にある、お前の父の当時のパートナー……たぶん、お前の母親だろう。その特徴が書いてある」

「……なんて?」

「4枚の白い翼を持ち【エクステル】という人種であることを明言していた……それだけだ」

「……4枚の白い翼」

「どうした?心当たりのある顔だな」

「い、いや………」

 

 

 

 

 

4枚の白い翼……

 

因果かなんかだろうか?

ちょうど今、俺もその人と組んでいる………。

 

天使のような笑顔……アエリア、か。

 

 

 

 

 

「ん〜……こりゃ、囮役ってのも重要になってきたな」

「……現実世界へ行くのか?」

「行ければ行きたいね。そろそろキュリアも話してくれると思うけど……出雲ってのもどうにか、ね」

「お前自身のことだから、やめろとは言わないが……帰って来い」

「珍しいな、ヨーティア」

「茶化すな。お前がいなくなれば、あのバカが言っていたヤツらってのに勝てないんでね」

「クェド・ギン?」

「……ああ」

「平気平気。アイツの部下が、しっかりその志を受け継いでるよ」

「レイナとクォーリン……か」

「クォーリンなんて、そこにいるじゃん」

 

 

 

 

 

俺はバッと窓を開けた。

隠れているつもりだろうが、気配がまるわかりだ。

頭隠して気配隠さず。

 

 

 

 

「クォーリン、お前も来いよ」

「……ぐ、偶然ですよねぇ?」

「なぁにが偶然だよ、偶然研究室の裏の植木に隠れるのか?」

「わ、わかりましたよぅ……。つけていました!これで満足ですか〜?」

「素直でよろしい」

 

 

 

 

クォーリンの青黒い髪をぽんぽんと叩いて、手を差し出した。

それを取って、窓から入ってくる……あ、今チラッと見えた。

 

 

―――なにがって言うな、スピリットの服を見れば、わかるだろ?

 

 

 

 

 

「顔が赤いですよぉ?どうかしたんですか?」

「い、いや……白は清潔だよ、うん」

「??」

「ボンクラーニョ……このスケベが」

「だ、黙れ!見えちゃったんだよ。そ、それより、アレは出来てるのか?計測器とやら」

「あぁ、あれか。もう少しかかりそうだ。なんせサーギオスとの戦いに向けて、施設を揃えたりと注文が溜まっててな」

「そっか。ま〜いいよ。んじゃ、俺はもういいよな?」

「ああ、お疲れさん」

「ちょうどいいや。クォーリン、一緒にラキオス観光といくか」

「え、わ、わわわ!私とですかっ!?」

「そうだよ。お前しかいねーっつの。イオはどうする?」

「私はまだ仕事がありますので」

「そっか。じゃ、いくか」

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

クォーリンと共に研究室を出た。

そのまま町へとなだれ込む。

 

神剣は隠して、いたって普通に出歩く。

クォーリンは服装でバレそうになるが、スピリットの外見的特徴が薄いためごまかせた。

 

 

 

 

 

「ヨフアル、もしくはヨアフルっていうヤツを見かけたら教えてくれ。文字がわからないんだ俺」

「あら、そうなんですか?くすっ……勉強不足なんですからっ♪」

「嬉しそうだなオイ。ん……?」

 

 

 

 

俺はサッ!と隠れた。

悠人が女の子と歩いてる。

 

 

 

 

「あれは……ラキオスの求めのユート」

「ああ……ん?建物に入っていくぞ」

「あ、あそこは……!!」

「どうしたクォーリン?」

「……///////////////

「顔がすっげー真っ赤………どうした?」

「ま、参りましょう?長居は無用ですよっ」

「え?なに焦ってるんだよ?あそこってなんなの!?」

「わ、私の口からじゃとても……//////

「??」

 

 

 

 

 

クォーリンに手を引かれるまま、俺は別の場所へとやってくる。

今度はどうやら広場のようだ。

 

 

 

 

 

「ん?あれ……クォーリンじゃないか!」

「え?コウイン様……?」

「え?このアゴヒゲが?」

「おいおい、初対面のヤツにアゴヒゲはないだろ」

 

 

 

 

目の前にいるのは、青黒い制服に丸首のシャツを着たアゴヒゲの男性。

マロリガン特有の服を羽織り、なんだか雰囲気はお坊さんってところだ。

 

 

 

 

「なんだ、クォーリンはデートかぁ?いつのまに男ひっかけたんだよ〜」

「ち、違いますっ!か、かかか、からかわないでくださいっ!!」

「俺は大川啓太。同じエトランジェだよ」

「!お前がか!へぇ〜、おい今日子!来て見ろよ!」

「はふ〜?」

 

 

 

 

口にいろんなものを詰め込んで、ツンツン頭の女の子がやってきた。

食べ歩きの途中のようで、手にも限界ってほどにいろんな食べ物を持っている。

 

やはりマロリガンの鎧を着ていた。

 

 

 

 

「今日子?へ〜、じゃぁ2人がマロリガンのエトランジェ?」

「ほうほう」

「今日子、口の中、綺麗にしてから喋ったほうがいいぞ」

「うぐうぐ……んっ!あたしは岬今日子、よろしくね!」

「こちらこそ」

「クォーリンとデート?可愛いでしょ彼女」

「きょ、キョウコ様!」

「照れるな照れるな。なかなかカッコイイじゃない彼氏。あ〜ぁ、イイ男いないかな〜」

「……今日子、彼氏の前で言う言葉かそれ」

「へ〜、2人付き合ってるんだ?見えねー」

 

 

 

 

ぶっちゃけ、今日子には悠人が似合うと思っていた。

ま、言う前に2人が付き合ってると気づいてよかった。

 

 

 

 

「はは、まぁな」

「あ、そうだ。2人とも、ヨフアルだかヨアフルってヤツ知らない?ラキオス名物らしーんだけど」

「あ〜、それなら悠に紹介してもらったわよ?」

「ほんと!?店教えてくれない?」

「それなら、ここの広場を東に出て、その通りにあるわよ」

「ありがと!早速いくかクォーリン!」

「あ、はい」

「クォーリンのこと頼んだぜ〜?」

「こっちのことは任せておいて〜!」

 

 

 

 

 

 

2人の声を背に受けながら、俺とクォーリンはその店へと向かった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ほ〜?これが?」

「みたいですよ」

 

 

 

 

網目のふわっとしたお菓子。

こりゃ、どう見てもワッフルだろう。

 

 

 

 

「ジャ○に通報したいな〜、あ、でもこういうのは無理か」

「ジャ○?」

「それより食おうぜ」

「あ、でも私持ち合わせが……」

「いいよ。アエリアからちょっと多めにお金もらってるし」

 

 

 

 

少なくとも、2人が一個ずつくらいは買える。

おっさんから二つ買って、どこかいい場所はないかと辺りを探す。

 

 

 

 

 

 

「あ、あった。高台だ」

「ここで、ですか……?」

「そ。座って座って」

 

 

 

 

俺がベンチに座り、クォーリンも座る。

真正面に広がる海が、太陽?を反射して綺麗に光る。

 

 

 

 

「平和だな〜。戦いなんて忘れちゃいそうだ」

「ふふ……そうですね〜♪」

「………な、クォーリン」

 

 

 

 

俺はふっと、気になったことを聞く。

それが、あまりに唐突で変な質問だとわかっているが。

 

 

 

 

「なんですかぁ?改まって」

「お前、戦ったあとどうするんだ?」

「え?」

「世界を操ってるヤツら倒して、そのあとはどーするんだ?」

「……わかりません。でも……」

「でも?」

「神剣を気にせず、警戒しないでいい毎日がくるんだったら………まずは、その一日一日を満喫したいですっ♪」

「……なるほど」

「やりたいことは、それから探します。それで、十分間に合うはずですよねっ?」

「……そだね。いや、つまんないこと聞いて悪かった」

 

 

 

 

俺は菓子を口に詰め込んで立ち上がった。

すると、クォーリンが目の前に立つ。

 

じっと、瞳の中を覗きこまれた。

 

 

グッ!

不意に俺の腕に自分の腕を絡ませるクォーリン。

 

 

 

 

「な、なんだよ?」

「ちょ、ちょっとだけ……だ、ダメ、ですか……?」

「う……。緊張するんだよ……」

「くすっ、可愛い♪」

「ふん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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余談

 

 

 

「ありゃ」

 

 

 

みんなが寝静まったあと、腹が減って食卓に降りてきた。

すると、まだ電気がついてる。

つまみ食いしようと思ったのに、これじゃできない。

 

そっと中を確認してみた。

 

 

 

 

 

「……セリア?」

「あ………」

 

 

 

 

何かを一心不乱に作っているセリアがいた。

なにやらメモ帳らしきものをみながら作っているようだ。

案外女性らしいとこもあるんだな、と思って近寄ると、なんだか変な匂いがした。

 

 

 

 

 

「う……すげー匂いだな」

「し、仕方ないでしょ!この料理初めてなんだから!!」

「しーっ!みんなが起きるよ」

「あ………」

「それで……?うん?これは……」

 

 

 

 

メモに書いてあったのは、いわゆる肉じゃがだった。

材料はこの世界のものだが、材料をパッと見ればわかる。

だが、なんだか匂いが変。

 

たぶん、この世界には醤油みたいなものがないからだろう。

 

 

 

 

「……これ、誰に?」

「カオリ様です……ヘリオンが教わってきたので、それを」

「違うよ。誰に作ろうとしていたの?」

「………な、なんでそんなことあなたに言わなきゃ……」

「……にしても、腹減ったなぁ。セリア、それでいいから作ってくれよ」

「え?でも、これは食べられたものじゃ………」

「それを作ってあげたい人は、それでも【おいしい】って言ってくれるんじゃないの?そういうヤツだから、君は作ってあげたい、違う?」

「………違いますよ。あの人には、アセリアが……」

「………そっか。残念。じゃぁ、とりあえず俺の空腹を満たすために作ってよ」

「え?」

 

 

 

 

俺は椅子に座り、食器を並べた。

2人分。

 

 

 

 

「いいだろ?二人で食べようぜ?」

「……強引な人ですね」

「いやぁ、美人に食事作ってもらえるなんて、俺滅多になかったからワクワクしちゃうよ」

「ふふ……」

「?今笑った?」

「い、いえ……それでは作るので、しばらく待っていてください」

「あいよ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待つこと数十分。

 

ちょっと濃い色をした、肉じゃがが出てきた。

 

 

 

 

「うわっは、うまそうじゃん♪」

「なぜか、うまくできました……なぜでしょうね?」

「俺のためだからだとか?………なんちゃって」

「……そうかもしれないわね」

「え?」

「!ほ、ほら早く食べなさい!」

「あ、あいよ。いただきま〜す………」

 

 

 

 

一口頬張る。

じゃがいももどきが口の中でゆっくり広がり、濃いめの味が舌に染み渡っていく……。

 

 

 

 

「うまい♪セリア、うまいよこれ」

「そう?良かった……」

「ほらほら、冷めないうちに食べろって。ふあ……熱っ」

 

 

 

 

あれよあれよという間に、肉じゃがを平らげてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいしかった……か。あ……」

「すぅ…………すぅ…………」

「……全く、無理して起きてなくてもいいのに……バカな人」

 

 

 

 

セリアはどこかに向かって、すぐ戻ってきた。

手には桃色の布団。

 

 

 

 

 

 

 

「………おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 

さっと桃色の布団をかけて、セリアは自分の部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

――――口の両端を少し上げながら