「所属不明ね〜……怪しい匂いがプンプンするよ」

「え?そうかなぁ?ボク臭う?」

「………そうじゃなくて」

 

 

 

 

アエリアがしきりに体の臭いをかぐ。

なんてベタなリアクション……っていうか、何勘違いしてんだ。

 

 

 

 

「だって、ソーン・リームに来るって言ったらソーマくらいだろ?でも、所属不明ってことはソーマじゃない。全く別の敵っつーことだ」

「敵とも限らないけどねっ」

「確かに」

「こら!無駄口叩くんじゃない!!」

「う……」

 

 

 

 

メシフィアに怒られた。

俺とアエリアは首を縮めて小さくなる。

全く……ちっとは素直になったかと思えばたいして変わってないんだから……。

 

 

 

 

 

「そうでもないよ?」

「え?」

「メシフィア、実際変わったよ。少しだけど」

「そうかぁ?なんだか未だに目のかたきにされるんだけど」

「照れ隠しだよ」

「そうだといいけどね。まーったく、メルフィーはあんなに可憐で優しいっていうのに、正反対だな」

「メルフィーの方が好み?」

「あったりまえじゃん。おしとやかで綺麗でさぁ、あーいうのを、昔は大和撫子って呼んだんだぜ?」

「何か言いました?啓太さん」

「おわっ!なんでもないなんでもない」

 

 

 

 

 

突然後ろから話しかけられた。

まぁ、みんなで進軍中なんだから後ろにメルフィーがいても不思議じゃない。

戦闘になった時、すばやく後方支援が出来るようにメルフィーとキュリアは後ろを歩いている。

 

 

 

 

「あのね?啓太ってメルフィーが好みなんだって!」

「わ!バカバカ!何喋ってんだ!?」

「え……あ、それは、えと……ありがとう、ございます……」

「え?あ、いやいや!こっちこそ勝手に好みですいません……」

 

 

 

 

って、は?

自分で言ってて疑問が。

 

 

 

 

「そ、それでは」

「あ、あぁ……」

 

 

 

 

顔を赤くして、たったっ、と走っていくメルフィー。

かくいう俺も、顔が熱い……このアエリア!

はらいせにグリグリ攻撃をかます。

 

 

 

 

「いたいっ!いたいよぉっ!!」

「てめー気まずくなっちまったじゃねぇか!」

「い、いいじゃん!好みなだけで好きじゃないんでしょ!?」

「そういう問題じゃない〜〜ッ!!」

「はいはい、そこまでよ、お2人さん」

「止めるなキュリア!俺も悲しいがアエリアには罰を与えないといけないんだ……」

「演技ならもっとうまくやることね」

 

 

 

 

ちっ……バレてたのか。

 

俺はしょうがなくグリグリ攻撃をやめる。

恨みがましく涙目で睨んでくるアエリアなんて、無視無視。

 

 

 

 

「ところでキュリア……っていうか、シオンか?」

{なにか用かな?啓君}

「俺のカノンさぁ、なんかおかしいのか?」

{……どういうことかな?}

「だって、エトランジェの永遠神剣は第四位〜第六位って言うじゃん?カノンは第十位って言うんだけど?」

{………そうなんですか?カノン様}

{……いや、今は第八位だ}

「は?お前いつかの寝る前に、【ふっ……俺の正式な名前は永遠神剣第十位、神光だ】ってニヒルに言ってたじゃん」

{ニヒルは余計だ。とにかく、全てはお前次第なんだ}

「どうして……って聞いても無駄?」

{無駄だ。力が欲しければ精進することだ}

「じゃー、力なんていらねーから捨てちゃっていいよな?」

{お前!まだそんなことを!!}

「ウソだよウソ」

{ほっ……そうだよな、捨てたらお前が困るもんな}

 

 

 

 

そりゃそうだ。

命をかけてたものだから。

 

 

 

 

 

「お宝をみすみす捨てられるかっての。早く換金してー」

{お、おまっ……!それが神剣に対する態度か!?}

「あれ?俺言わなかった?金のためだって」

{……あれは冗談じゃ}

「心が繋がってるんだろ?冗談かどうかわかるよな?」

{………酷い!あんまりだ!!お前は俺のことをそんな風に思っていたのか!!!}

「冗談だよ冗談」

{心が冗談になってないぞ!!}

「イヤだなぁ……お前の扱いに慣れてきただけだって。って、あぁ!?みんなに置いてかれてる!?」

 

 

 

 

 

やってられない、といった感じでみんながどんどん進んでいく。

急いで走って追いついた。

 

 

 

 

 

「置いておくなよ!」

「しっ!来るぞ………」

「へ?」

 

 

 

 

メシフィアが剣を抜いた。

それと同時にみんなも構える。

 

え?え?

空気読めてないって感じじゃん……俺だけ。

 

 

 

 

 

「おいしょっと」

 

 

 

 

 

俺もカノンを持った。

片手剣サイズで、本当に助かった。

シオンみたいな弓なんてダメだし、アエリアみたいな杖もだめだ。

魔法なんてガラじゃない。

 

 

 

 

「って……それがアエリアの神剣?」

「そうだよ?永遠神剣第六位【零度】。意識はあるっぽいんだけど、無口なんだ〜」

「へ〜。どっかの誰かみたいにうるさくなくていいね」

{……俺のことを言ってるのか?}

「さて、と。警戒警戒」

{無視か。なら、もう力を貸すまい}

「俺が死んだら困るんじゃねーのかな〜?」

{……別に}

「あ、冷たいな。あとで水攻めの刑だ」

{ぐっ……}

 

 

 

 

 

はい、ひれ伏したね。

は〜、なんか神剣っていうより悪友って感じになってきちゃったな〜。

 

などと感じていると、気配がした。

それも、かなり強く激しい気配。

 

 

何度か修羅場を潜り抜けると、さすがに俺も気配くらいわかる。

 

 

 

 

 

 

「ん〜……?」

 

 

 

 

 

目をこらして、やってくる影を見つめる。

どうやら、2人のようだ。

 

 

 

 

「あれは……え?」

{どうした?}

「……ウソ、そんなバカな………」

{おい、啓太!?}

 

 

 

 

 

俺はたまらず団体を飛び出した。

まさか、そんなはずがない………!

 

そう思いながらも、影がハッキリするにつれて、俺の希望は大きくなっていく。

 

 

 

 

 

「あ……兄貴……?」

「……よ、啓太」

「兄貴……兄貴じゃないか!!」

 

 

 

 

 

忘れようもない、実の兄。

それが、目の前にいる………!

 

なんだなんだ?とみんなも集まってきた。

 

 

 

 

「兄貴!死んだんじゃ……!?」

「!!あなたは……!」

「え?キュリアも知ってるの?」

 

 

 

 

キュリアが隣にきて、顔を引きつらせた。

どうした……?

 

 

 

 

「やぁキュリア。とんだミスだったね」

「……!」

「でも、もう平気だ。君も一緒に……殺してあげるからね!!」

「!伏せるのよ啓太!!」

「おわっ!!」

 

 

 

 

頭をつかまれ、雪の中へ突っ込んだ。

何か……鋭い何かが、俺とキュリアのスレスレ上を通過した。

それが木に当たると、次々と切り倒した。

 

 

 

 

「なっ……兄貴!?なにすんだよ!?」

「死んでくれ啓太」

「は……!?」

 

 

 

 

一瞬、思考がホワイトアウトした。

生きていた兄貴が……俺に、死ねって……そう言ったのか?

 

 

 

 

 

「キュリア、感情移入しすぎたな」

「くっ……!」

「言っただろ?こいつの勾玉さえ取れれば、後はどうでもいい、と」

「勾玉……?」

「でも!殺す必要は……!!」

「あるんだよ。出雲に全てを集わせるためには」

「!!」

「出雲……それって、キュリアがいたっていう………」

「おしゃべりはそこまでにしなさい」

「そうだな」

 

 

 

 

兄貴の隣に立ってた女性がそう言った。

それに従うかのように、剣を抜き放つ兄貴。

 

 

 

 

「や、やめてくれよ……兄貴と戦うなんて………」

「戦う必要はない。大人しく殺されろ」

「なんでだよ……兄貴は、俺を庇って死んで……なんで俺を殺そうとするんだよ……?」

「世界の安定のためだ」

「わけわかんねぇよ………兄貴、本気なのか……?」

 

 

 

 

ザパッ!!

 

一瞬のうちに、キュリアが斬られて……倒れた。

斬ったのは、兄貴………。

 

 

 

 

「あぁ……っ!!つぅっ!!」

「これで本気だとわかったか?」

「……なんでそんな簡単に人を斬れるんだよ」

「任務だからな。世界のためでもある。お前の次は……そこの女、アエリアとか言ったか」

「!!」

「アエリアまで……殺そうっていうのか」

「悪いな。恨むならお前を産んだ親を恨め」

「兄貴だって同じ親から産まれたんだろうが!!」

 

 

 

 

 

キュリアを抱き起こし、メシフィアに預ける。

そのまま、兄貴を睨んだ。

 

 

 

 

「バカな。まだ気づかないのか?俺とお前が兄弟なわけないだろ?」

「な……!?」

「出雲に入るまで、気づかなかったさ。どうりでお前とは違いすぎるわけだ」

「そんな……バカな………」

「じゃぁ……一太刀で消してやる」

「ケイタ!ボーッとするな!!そいつは本気だぞ!?」

 

 

 

 

メシフィアの声が遠く聞こえる―――

 

兄貴が目の前に迫る――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(カノン)

{なんだ?}

(……戦う力が欲しい)

{……}

(大丈夫……相手と分かり合えなかったからって、手に持ってる剣を交えようなんて思わない)

{それが、どれだけ危険なことかわかってるな?}

(平気だよ……俺は、死ぬわけにはいかない)

{……わかった}

(最後の最後まで、絶対に信じ抜いてみせるよ)

 

 

 

 

 

頭に、わずかな頭痛がした。

それと同時に、体に力がみなぎってくる。

 

初めて求めた、神剣の力……!

それが、ここまでのものだと思うと……少し、怖かった。

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

バッ!!

 

この右手で、兄貴の剣を止めた。

神剣の力を借りれば、どうってことない。

太刀筋も見えるし、たいして速くない。

 

 

 

 

 

「なっ……!」

「俺と兄貴は、今敵同士なのかもしれない」

「なに……!?」

「でも、俺と兄貴が一緒に遊んで、一緒に怒られて、一緒に笑った、あの時間は確かに存在して」

「……」

「それは、今でも俺の心の中で輝いてる。たとえ、それがウソで固められた時間であっても、俺にとってはこれ以上ない真実なんだ」

「………!」

「だから……言うよ。一緒にいてくれて、あの時俺を庇ってくれてありがとう……すごく、すごく嬉しかった」

「啓太………」

「今は違っても、俺にとっての兄貴は……兄貴だけだよ。いや……和也さん」

 

 

 

 

 

初めて、兄貴を名前で呼んだ。

大川和也………

 

絶対に、呼ぶことはないと思っていたのに。

 

 

 

 

 

「……なんてヤツだお前は」

「え?」

「なんて罪深いんだよ、お前は」

「和也さん……?」

「お前がもっと軽薄なら、俺だってこんな苦しまなかっただろうに………」

「和也さん………」

「バカヤロウ……俺のことは兄貴って呼びな!!」

「え………!?」

 

 

 

 

 

兄貴が剣を向けた。

向けた先は、兄貴の隣にいた女性。

 

 

 

 

「悪いですね、シャルティさん。俺は腐っても……やっぱ兄貴なんですよ!」

「ふっ……それで?私に歯向かってどうするつもり?」

 

 

 

 

仮面で覆われたシャルティという女性。

その声には、恐れのかけらもない。

 

 

 

 

「俺1人じゃ、到底あなたには敵わないでしょうよ」

「では?」

「だけど、俺にはコイツがいる」

 

 

 

 

俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でる兄貴。

その感触が懐かしくて、つい涙ぐんでしまった。

 

 

 

 

「それと、コイツの仲間もいる!これだけいりゃぁ、ボンクラな俺でもあなたに傷つけることぐらいはできますよ」

「ふっ……残念ですよ和也」

「自慢の弟がいるんだ、無様な格好は見せられない!啓太いくぜ!!タイミングは俺が合わせてやる!!」

「え!?」

「いけっ!はは……こうやってよく2人で組んで、ケンカやってたなぁ啓太!」

「あ……そうだね!」

 

 

 

 

俺はカノンを抜いた。

そのまま走り出し、シャルティに向かっていく!

 

その感触……昔、兄貴と組んで6人組の相手を蹴散らした時の感覚……!

その懐かしさが溢れてきて、カノンに白い光が宿る。

 

 

 

 

「白き波動よ!我が命をもって世に現れよ!!」

「兄貴……それは!?」

「俺だって出雲にいたんだ、ちっとは力くらい持ってるさ!いけ啓太!!」

「ああ!!」

「でかいの一発、ぶちかませーーー!!!」

 

 

 

 

 

兄貴の体から放たれた、白い波動がカノンに吸い込まれた。

真っ白な光が弾け飛び、空から雨のように地面に突き刺さる!!

カノンから白い光の刃が伸びて、それが陽炎のようにゆらめく!

 

 

 

 

 

 

 

 

「「アカシック・フォトンイレイザーーーッッ!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カノンがシャルティに食い込むと、突然大きな爆発を起こした!

まるで連鎖してるかのように、次々と辺り一体が爆炎に包まれていく!

 

その炎に巻かれる中で、俺はどうしても不安を拭えない。

なぜ……なぜか、相手の気配を感じない。

 

 

 

 

(シャルティ……どこだ!?)

 

 

 

 

 

絶対にかわされた!

すばやくカノンをしまい、爆炎の中を走って兄貴を探す。

 

 

 

 

 

「!!兄貴!!」

 

 

 

 

いた!

シャルティに担がれて……意識を失ってる!?

 

 

 

 

「シャルティ!どこへ連れて行くつもりだ!?」

 

 

 

 

爆炎の中で、大声で叫ぶ。

それでも、相手に声が聞こえているのか不安だ。

だが聞こえたようで、仮面がこっちを向いた。

 

 

 

 

 

「まだ利用価値のある男だ。次会うとき……また同じことにはならないと覚悟しておくことね」

「待て!連れて行くな!!ヤロォ……!逃がすかよォッ!!」

 

 

 

 

走り、カノンを抜いて仮面に切りかかる!

が、カノンはシャルティをすり抜けた。

 

それどころか、俺の体までも、シャルティに触れることができない。

 

 

 

 

 

「なっ……!?」

「じゃぁね……」

「ま、待て……!!」

 

 

 

 

突然黒い歪みが現れ、その中に吸い込まれていくシャルティと兄貴。

俺が手を伸ばしたのも間に合わず、二人の姿は消えてしまった………。

 

だんだんと爆炎が納まっていく………。

 

それと同時に、みんなも駆け寄ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「啓太、平気なの?」

「……」

「啓太、どうしたの?どこかケガでもしたの?」

「………なんだよ」

「啓太……?」

「キュリア!出雲ってなんなんだよ!?なんで俺を狙う!?」

「………」

 

 

 

 

俺がキュリアに詰め寄ると、キュリアは顔を逸らした。

この期に及んで、まだいえないっていうのか……!!

 

 

 

 

「これだけおおっぴらに狙われたんだぞ!いい加減教えてくれたっていいだろ!!」

「……ごめん、今はまだ話せない」

「どうして!?」

「もっと……落ち着いたら、ゆっくり話すわよ……それまで、我慢してほしいのよ」

「………」

 

 

 

 

ちっ

今どうしても話すつもりはないってことか。

 

キュリアの顔をみて、それがわかった。

 

 

 

 

 

「わかったよ……とりあえず帰ろう………」

「待って……まだ、誰か来るよ?」

「え?」

 

 

 

 

アエリアが向いている先……確かに、人の気配がする。

だが、敵意はない。

っていうより、これ以上の敵は勘弁だ。

 

 

 

 

「……あれは?」

「あれは……マロリガンのファルケンとクォーリン?」

「?」

「有名な人だよ啓太。人間最強って言われてるレイナ・ファルケンと稲妻のクォーリンって言えば」

「……しらねーよ、そんなの」

 

 

 

 

ってか、人間最強って……女性なんだ。

それに、ごっつい筋肉質でもないし、むしろ美人っぽい。

 

 

 

 

「稲妻のクォーリンさんはさしずめ人間ナンバー2ってところ?」

「?うぅん、クォーリンはスピリットだよ?」

「へ?」

 

 

 

 

遠くからだが、スピリットの色がない。

だが、アエリアみたいな白スピリットは珍しいというし……

 

 

 

 

「ふ〜ん……スピリットにもいろいろいるんだな」

「それより、何の用だろうね?マロリガンって言えば、今負けて、内政が大変なはずなのに」

「さぁ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、2人をソスラスに招き入れた。

 

 

 

 

 

 

ブロンドの髪に、すっきりした小顔。

流れる髪はまるで氷のように澄んだ薄い水色で、鎧を取るとこれ以上ないくらいのボディスタイル。

母性をあらわすふくよかな胸に、綺麗に締まったウエスト。

戦いで何を見てきたのか、遠くを見透かすような藍色の瞳。

まさかこれが人間最強?と疑ってしまう、アイドルというより女優と言った感じの女性、それがレイナの印象だった。

 

 

 

 

 

対して華奢で、小柄のクォーリン。

アエリアと同じ綺麗な青黒い髪を、一本にまとめて後ろに流している。

服装は髪と同じく青黒く、ところどころに緑が入っているという奇抜なもの。

意思の強そうな大きな瞳が特徴で、薄緑色をしていた。

さっきから、じ〜っと熱い視線をもらっている。

 

 

 

 

 

「あ、あの〜………」

「あ、な、なんでもないですよっ?」

「は、はぁ……そうですか」

 

 

 

 

話しかけると、急によそよそしくなってしまうクォーリン。

一体なんなんだ……?

 

 

 

 

「それで……話というのは?」

 

 

 

 

メシフィアが切り出した。

それと同時に、レイナが頷いて話し始める。

 

 

 

 

「単刀直入にいいます。この世界は誰かに操られているのです」

「……!」

「それは、どういう意味だ?」

「クェド・ギン大統領を知っていますでしょうか?」

「【我々は生かされているのではない、生きているのだ】……って言葉を残したヤツか?」

「!そうです……先日、大統領はそれに逆らおうとして、亡くなられました」

「………」

 

 

 

 

どうやら、カノンが言ってたのはこのことらしい。

きな臭くなってきた……。

 

 

 

 

「私はその方法では意思を見せ付けたことにはならない、と申し上げたのですが……」

「大統領さんは強行して、命を落とした……それが浮かばれないのは、この世界が未だに操られたままだから、か?」

「……さすがはエトランジェ」

「……(全部カノンの受け売りだけどね)」

 

 

 

 

俺はそのまま話に聞き入る。

どうやら、レイナはそれ以外の方法で、クェド・ギンの意思を貫くつもりらしい。

そして、それが……徹底抗戦。

 

 

 

 

「簡単に言うのはいーけどさー、どうやって黒幕を引きずり出すわけ?」

「実は、ラキオスのエトランジェがその黒幕らしき人物と遭遇したらしいのです」

「は!?」

 

 

 

 

ラキオスのエトランジェっていうと、悠人か?

 

 

 

 

「マロリガンの戦争直前でしたそうです。その時、ヨーティア様がこの世界に干渉してくるのを察知する装置をお作りになられまして」

「……あ、嫌な予感がする」

 

 

 

こういう場合って、次の干渉の時間がわかってて

 

 

 

「実は次の干渉の時間がわかっております」

 

 

 

 

そうそう。

んで、そこへ襲撃をしようって。

確実に仕留めるために、誰かが囮になって……みたいな。

 

 

 

 

「そこで、エトランジェ啓太様、あなたにおとりをお願いしたい」

「はいきたー。途中からオチがわかっちゃったんだよね」

「ではやってくれるそうなので、詳しい作戦は……」

「おい!俺がいつやるって言ったよ!?」

「引き受けてくれないのですか?」

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 

 

 

 

なに?

なんで、こんなうっわー、空気読めよ、みたいな雰囲気になってんの?

悪いの俺だけ!?

 

こういうときってさぁ、最低でも誰かがさ〜、

 

 

【しょうがないわねぇ、私も一緒にいってあげるわよ。か、勘違いしないでよね!?い、犬死されたら困るから、それだけ!それだけなんだからっ!】

 

 

 

みたいなシチュエーションになってもいーんじゃないの〜?

あ〜、血も涙もないな〜

 

 

 

 

「……囮なら、私も引き受ける」

「そうそう、それだよ!……ってえぇ!?」

「なんだ?」

「め、めめめ、メシフィアが?!なんで!?」

 

 

 

 

最も意外な人物が立候補した。

頭がパニクって、冷静に判断できない。

 

 

 

 

「お前のその【誰か立候補してくれよ〜、血も涙もね〜な〜】って視線をやめさせたくてな」

「……なんでわかるんだよ」

「顔に文字となって出てきてる。レイナ、私もいいか?」

「危険な任務ですが、いいのですか?」

「………(なんで俺には聞いてくれないんだよ)」

「いい。それに、ケイタがいれば平気だろう」

「え……」

 

 

 

 

『コノコノォ、モテるねぇ』

『やめろアエリア。小学生かお前は……って無理してみればそうみえるな』

『なにをっ!年上に向かって失礼だぞォ!』

 

 

 

 

 

 

「じゃぁ、今日はここまでで解散しよう。みな疲れているだろうしな」

「メシフィアに賛成一票。疲れたわよもう……」

 

 

 

 

キュリアがジジ臭く肩をポキポキ鳴らした。

ぷっ、と笑うと、弓を構えて狙ってくる。

 

前は……確か、尻に射られて、マジ痛かった……。

 

 

 

 

 

「んじゃ、俺も休ませてもらおっかな〜」

「そうだケイタ、部屋は通路の一番奥だからな、間違えるなよ?」

「OK。誰かさんがイジメてなかなか手に入らなかった部屋だ。堪能させてもらうよ」

「う……あれは、悪かったと謝っただろう!」

「冗談だよメシフィア。あ、それと」

「なんだ?」

 

 

 

 

俺は頭をポリポリ掻いた。

どうも、メシフィアに素直になるのはイヤだっつーか。

でも、ここは素直にしておこう。

 

 

 

 

 

「立候補してくれてありがと。嬉しかったよ」

「え………」

「俺も、メシフィアがいれば安心だよ。それじゃ、しっかり休めよ〜?おやすみ〜」

「あ、あぁ……」

 

 

 

 

顔が熱くなる前に、メシフィアに背を向けた。

そのまま、一気に部屋に入る。

 

 

 

 

 

「ふ〜……」

{なんだ啓太?あの女に惚れたのか?}

「ば、バカ言ってんじゃねぇよ。ただ、女ってのになれてないだけだ」

{ほ〜?そういうことにしておこう}

「そ、それに……俺は……」

{……また、あの人、か?}

「………」

{……会えるといいな、その人に}

「……サンキュー、カノン」

 

 

 

 

 

俺はベッドに入ろうと一歩進んだ。

その瞬間、顔から一気に血の気が引く。

 

 

 

 

「う……あ?なん……だ?」

{啓太?どうした……?}

「頭が……耳鳴りがひどい……うっ」

 

 

 

 

一気に体から血の気が引いた。

目の前があぜ道に変わり、立っていることができず倒れこんでしまう。

 

 

 

 

 

{啓太!しっかりしろ!!}

「くらくら……して……気持ち悪……い……」

{啓太!!}

「う……あぁ……っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バサァッ!!!

 

 

 

 

突如、何かがおもいきり広がる音がした。

体がゾクゾクして、何かが突き抜けて出てきた感じだ。

 

 

 

 

{!!これは!?}

 

 

 

 

 

 

俺が見たのは、部屋中に舞う白い羽。

背中に違和感を感じると、肩甲骨あたりから何か、温かいものが出てるのに気づいた。

しかも、自分で動かせる……そう、アエリアのような……白い翼………。

 

 

 

 

 

 

「なん……これ……?」

{啓太!}

「っぅ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体が引き裂かれそうな痛みを訴え、それに耐えられず俺は意識を手放した。

まぶたの中に浮かぶ、部屋中を舞った白い羽を思い浮かべて………

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま、俺の意識は闇に落ちていった――――