「あぁ！？またここにいさせてほしいだ！？」
「はい。認めてもらえませんか？」
「ふざけんな！頑張ってる頭領刺して、敵に寝返ったクセに！！」
「この通りです！お願いします！！」
俺は土下座して、宿屋の主人に頭を下げた。
すると、頭を蹴り飛ばされ、その拍子に階段から転げ落ちてしまう。
「ぐぁ……！」
「頭を下げて済むと思ってんのか！！」
「お願いします！！」
「ふざけんな！！そんでまた裏切るつもりだろ！？どこの手先だ！？」
「違います！俺はただ……」
「黙れ！！」
ガッ！！
見事に頬に入った。
そのまま口の中が切れて、血が雪に染まる。
「お願い……します……！」
「う……な、なんだ気味の悪い……！！わかった、分かったから！！いいからどっか行ってくれ！！」
「は、はい」
（う～……いてぇ………）
俺は頬をさすり、次の家へと向かう。
まだ３件目だと言うのに、何度殴られたことか………。
最初から顔が血みどろだと引かれるので、ハンカチでぬぐう。
「すいませーん！」
「はい……ッ！あなたは！？」
「え？」
「許さない……！あなたのせいでメシフィアは！！」
「あ、あの……！！」
「あの子の痛み、受けてみなさい！！」
「へ……？」
ドスッ！！
一瞬、何が起きたかわからなかった。
女の人が出てきて、いきなり刃物で刺されて………？
「ぐ……あぁ……っ！」
「あの子は……あの子は！！」
「あなたは……？」
「メシフィアの母ですよ！あなたが刺した、あの子のね！！」
「う、う………」
「わかりますか？これがあの子の痛みですよ。ほら、次に行きなさい」
バンッ！！
乱暴にドアが閉められた。
とりあえず、認めてもらった……ということか。
「はぁ……はぁ……やべぇ………」
次の家に行かなきゃいけない。
だけど、刺した傷が……痛む。
ウェストポーチから薬を塗っても、無意味だった。
それはそうだ、今の俺の体はマナでできてるんだから。
「うぐ……傷を……隠して………」
傷口を布で縛り、血を拭って次の家へ。
「すいません……」
「はい？」
「あの、大川啓太といいますが………」
「！！あのエトランジェの……！？」
「えぇ……実は、またこのソスラスにいさせてほしくて……お願いに……」
「ふざけるなっ！！お前、ここに何を起こしたか忘れたのか！？」
「……承知、の上……です」
「ここはなぁ、ずっと争いもなくて平和な場所だったんだ……！それをソーマというヤツが侵略してきてなぁ……！！」
「………」
「よりにもよってそんなヤツに寝返ったお前をまた引き入れる！？ふざけんな！！出てけ！！」
「ぐあっ！！」
蹴りがよりにもよって、こんな時に傷口に。
つま先が傷口をえぐりこみ、ドパッ！と血が噴き出す。
「う、うわっ！！なんだこれは！？」
「す、すいません……ちょっと傷が……」
「お、お前……死ぬつもりか！？」
「死にませんよ……それより、お願いします……！ここにいさせてください……！！」
土下座して、お願いする。
すると、男の人は俺の髪を掴んで持ち上げた。
「気味の悪いヤツめ……すぐに消えろ！！」
「で、でも……！」
「認めりゃいいんだろ！？こんなとこに汚ぇ血残しやがったら承知しねぇからな！！」
「は、はい………」
髪を離され、しりもちをついた。
男が去ると、タオルで噴き出した血を拭き、雪を掻き出した。
そして、次の家へと………
コツッ！！
「……？」
頭に、何かが当たった。
振り向くと、もう目が霞んで見えない。
服の色がぼんやりと見えるだけで、おそらく……子供？
「えとらんじぇは出てけー！！」
「……はぁ……はぁ………」
「おまえがいるから、みんな不幸になるんだー！！」
「はぁ……はぁ………はぁ………」
「出てけー！！！」
ゴッ！！
さっきより大きい石が、顔に直撃した。
だが、その痛みが感じられない。
今にも意識を失いそうで、踏みとどまるのが精一杯だった。
「お願いだ……俺を、この街にいさせてくれ………」
その服の色に向かって土下座した。
もう、ほとんど無意識にやっている。
ここまできて……ホント、よくやるよ俺も………。
「う、うちの子になにしてるんですか！！！」
「はぁ……はぁ………？」
また、別の服の色が現れた。
そっちに向かって、頭を下げる。
「お願いです……俺を、この……街に………」
「誰か！ここにあのエトランジェがいるわ！！！」
「なに！？」
あっという間に、あたりが服の色で染まる。
もう、何人どころか、男女の区別さえつかない。
目の前が暗くなってきて、頭がぼーっとしてきた。
（それでも……謝らなくちゃ……あいつらが……キュリアが………）
「お願……俺……に置いて……さい」
「出てけ！おまえなんか信用できるか！！」
「二度とこの街にくるんじゃないよ！！」
ゲスッ！
ガスッ！！
次々蹴られる感触がする。
だけど、痛みどころか、どこを蹴られているのかもわからない。
もう、体が揺れるだけだ。
たぶん……もうすぐ、意識が消える。
その瞬間、ふっと目の前が真っ暗になった。
「く、くそ……」
見えない……
真っ暗で………
「消えろエトランジェ！！」
「おまえのせいで頭領が傷ついてたんだぞ！！」
「この疫病神が！！」
「おまえがいなけりゃ幸せだったんだよ！！！」
―――お願いだ……いさせてくれ………
「よりのもよってここに戻ってくるな！！」
「二度とそのツラみせんじゃねぇ！！！」
「おまえみたいなヤツが戦争なんて始めるんだろ！？」
「ウチに近づかないで！！」
―――頼む………居場所が………
そして、とうとう声も聞こえなくなった――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「………っ」
体の激痛で目が覚めた。
ここは………？
「うわ……ひでぇな……」
左腕がなくなっていた。
たぶん、細胞が凍えて死んでしまって、切断されたのだろう。
どうも体のバランスが悪い。
「……あっ！くそっ！！ここにいる場合じゃない！」
また、急いで戻って、続けないと！
時間は……もう夜じゃないか！！
「どこ行くの？」
「うわっ！！って……君は………」
「アエリア。忘れちゃった？」
「………」
覚えてる。
なんていったって、この世界に来て初めて会ったスピリットだから。
背中に４枚ってのも、なんだか天使みたいだ。
「で、ドコに行くのかな～？そんな傷で」
「俺、まだみんなに許してもらってない。急いでまわらなくちゃ」
「……も～」
困った子ねぇ、と言った感じで見られた。
アエリアの方がかなり幼いはずなのに、どうも違和感がない。
「ダメ、今から義手手術するんだから」
「義手？それよりみんなに……」
「いい加減にして！！」
「！！」
いきなり怒鳴られて、体が固まった。
見ると、アエリアが泣いてる……なんで？
「これ以上……傷つかないで」
「だって……」
「今回は、一方的にメシフィアが悪いよ。それなのに、なんで真正面から受けちゃったの！？」
「……だって、みんなにとってメシフィアは大事な存在なんだろ？」
「………でも！」
「その人が傷つけられたら、当然怒る。だったら、俺が謝るべきなんじゃないの？」
「そうだけど！メシフィアのあれは絶対間違ってるよ！！」
「違うさ。メシフィアの独断で俺を引き入れたら本当に暴動が起きかねない。だから、あれは当然なんだよ」
「なんで！？」
「え？」
アエリアがベッドに乗って詰め寄ってきた。
顔が、吐息がかかるくらいに近づく。
「なんでそうやって、自分さえ頑張ればいい！って思うの！？」
「今回のは、俺に責任があるし……」
「だから死に掛けてもしょうがないっていうの！？だから左手を失っても仕方ないっていうの！？」
「………」
「なんで怒らないの！？怒って当然なんだよ！？なんで俺がこんな目に、って！！」
「メシフィアも俺も同じ人間だって、思ってるから。だからこそ、メシフィアが受けた痛みは俺も受けるべきなんだよ」
「理由があって、しかも急所を外した痛みと、今のあなたの痛みが平等だって？そう言うつもりなの！？」
「違うよ。メシフィアが受けた痛みと、それによって不安や憎しみを覚えたみんな、それと今の俺の痛みが平等なんだよ。いや、これでも足りないくらいだ」
「なんで……なんで？」
「だって、みんなが許してくれてない。許してくれた時、やっとこれは解決するんだよ」
バゴッ！！
アエリアに思い切り殴られた。
頭がぐらぐら揺れる。
「痛いじゃないか」
「そういう自己犠牲、やめて！それ以上痛みを受けたら、死んじゃうんだよ！？」
「……」
「そしたら、あなたが死んで受けた悲しみはどうするの！？」
「それが死刑ってヤツだろ？それほどに深い罪だから、死刑にされる。それと同じこと。死刑になった人を失った悲しみなんて、考慮されない」
揺れる頭を押さえながら、そういった。
すると、むっとした表情でアエリアが怒り出す。
もう、さんざん怒ってたけど。
「ねぇ……なんで？なんで相手を悪者にしないの？なんで相手の悪い所をわざと無視するの？」
「……」
「ねぇどうして？どうして１５歳のあなたが、そこまで献身的なの？」
「………え？どうして俺が１５歳だって………？」
「いいから！」
「………ずっと、ある人を追いかけてるんだ」
「え？」
「俺を命がけで助けてくれたっていうのと、なんとなくの感触は覚えてるんだ……でも、それ以外が全く覚えてない、その人」
「……その人が、こんなのだったの？」
「………うん」
「うそだよ。だって、今、はっきり肯定できてない。自分でわかってるんじゃないの？これは、なんか違うんじゃないか？って」
「………」
その通りだった。
なんだか、全然あの人とは違う気がする………。
なんで？
どうしてあの人に追いつけないんだ……！！
「ボクはよくわかんないけど……キミはキミでしょ？」
「………」
「自分じゃない誰かを追いかけても、その人のように生きようって思っても、やっぱり無理があるんだよ」
「じゃぁ、追いかけるのやめろっていうのか」
「違うよ。キミらしく生きればいいんじゃないの？」
「………！！」
「キミが目指してるその人って、もしかしてそうやって生きてたんじゃないかな？」
「……そうか」
なんだ……そうだよ。
そんな簡単なことだったんだ！！
そうだよ……あの人は、いつも自分らしくって、そうやって生きてたから………
「そうか！そうだよアエリア！」
「え？」
俺はアエリアの右手を取って、ぶんぶんと振った。
モヤモヤが晴れて、一気に肩が軽くなった気がする。
「よっしゃ！そうなったら早速出かけて……」
「ダメ！だから、義手手術が残ってるの！！」
「そんなの後回しだっつーの！もぅ平気だよアエリア」
「え？」
「わかったんだ。だから、もう気負わない」
「……あ、でもね？」
「うん？」
俺がドアノブに手をかけた。
すると、異様に重たくて回らない。
「ん？なんで……！おい、アエリア！このドアすっげー重たいぞ！！」
何度も腰を入れて押すが、ピクリともしない。
ならば！と引いてみるが、やっぱり動かない。
「実は………」
「えいっ！くそっ！！」
バギャァッッ！！！
豪快な音がして、ドアが割れて弾けた！
次から次へと人の波が押し寄せてくる！
「うわっ！なんだなんだ！？」
「もう……みんな説得済みなんだよねっ♪」
「へ……？」
ウィンクして、いたずらっ子のような笑顔を見せるアエリア。
なんていうか、似合うな、年相応というか。
なーんて失礼なことはインマインド。
「啓太は、もうボクのパートナーって決定してるんだよねっ♪」
「パートナー？」
人の波から抜け出し、ぱんぱんと埃をはらう。
「自治団体だとね？スピリットと兵士が一対一でペアを組むんだ♪」
「へ～？で、エトランジェの俺と、スピリットのお前で？」
「ぶ～↓【お前】じゃなくて【君】！」
「わ、わかったよ。君と組めばいいのか？」
「そ。ね～♪」
アエリアがね～♪と言うと、波として出てきた住民たちが、一斉に頷いた。
なんだこれ？
「アエリア……人気者なのか？」
「ん～？仲の悪い人はいないけど～……」
「……悠人と瞬に見習わせたいもんだ」
天然なのか、ぽけーっと答えるアエリア。
唇に指をあてて、まだ考えてるし。
「そういうわけで、よろしくね？啓太っ♪」
「う、うわっ！」
腕を俺の腕に絡ませてきた。
柔らかい感触と、とてもいい香りが俺の緊張を一気に解かす。
今までだったら、逆だったはずなのに、どうもアエリアとは波長があうらしい……！？
え！？
じゃぁ俺はガキっぽいってことか！？
「う～ん……」
「どしたの？」
「これは喜んでいいかどうか……と。微妙な幸せの大きさだ」
「！エッチ！スケベ！！」
バンバンッ！！
いきなり殴られた。
しかも、どこから出したのかスリッパで。
「い、いたいっ！なんだよ！？なんで！？」
「ど、どうせ胸のこととかいうんでしょ！？」
「……は？」
「え、違うの？」
「い、いや……説明すんのやだから、それでいいや」
「！やっぱそうだったんじゃない！！」
「い、いやだからって殴るな！！んぎゃ！！その辞典みたいのはどっから？！」
「ディクショナリーアターーック！！！」
「んぎゃぁあぁあぁッッ！！！」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そういうわけで……いいんだよな？メシフィア」
「仕方ないな。アエリアの判断にケチをつけると、それこそ本当に暴動が起こる」
「……ははは」
あながち冗談じゃないな。
今も、窓ガラスでへばりついてる住民がいる。
きっと、速報！とかいって言いふらすつもりだろう。
「ん～……」
「どうしたケイタ？」
「ん……いや、左手の義手の具合を、ね」
手術はあっという間だった。
なんでも、偶然なのかヨーティアとイオという人物が研究に訪れていて、試作段階の医療……もとい義手を試してくれた。
今のところ、問題はなく自分の手と何も変わらない。
やっぱり、俺の体がマナということに関係があるようだ。
「……そ、その、だな……ケイタ」
「あん？モジモジしてどうしたメシフィア」
なんだかハッキリしない様子で、落ち着かない。
どうも、らしくないというか………。
「すまなかったな……まさか、こんなことになるなんて……」
「あぁ、別にいいよ」
「……え？」
「え？なに？」
「い、いや………左手を失ったのだし、死に掛けたのだから……もっと怒るかと思っていた」
「バカだなぁ。自分がやりたくてやったことだし、それだけメシフィアが大事な存在ってことを確認できただけでも、十分だって」
「………なぜ？」
「え？」
「なんでそんな……笑顔でいられるんだ？私なら……無理だ」
「別に……強いて言うなら」
―――そういうのひっくるめて、それが俺だ、ってことなんじゃないの？
「俺が俺だから、別に怒らないし。ま～、これに気づいたのは、コイツのおかげだけど」
「うあっ！髪かき回さないでよ～っ！」
アエリアの頭に手を置いて、わさわさする。
陽の光で温まった髪の毛が心地よい。
あんまり長くやってると怒るけど。
「それとさ～、どーせなら謝るより先にすることあんじゃねーのメシフィア？」
「え……あ」
「ず～っと待ってるんだけどな～」
「……あ、あ、あぁ……ありが、とう………メルフィーを助けてくれて……」
「どういたしまして♪その赤面を見れただけで、十分価値があるってもんだよなぁ、キュリア？」
真っ赤になって、俯きながらお礼を言うメシフィア。
滅多に見れない光景だった。
対して……キュリアは怒っているが。
「な～にが、十分だよな？なんでしょうね！こっちはラキオス～サーギオス～マロリガンとあっちこっち行かされたのに！」
「あ、そういえば……随分な距離だなぁ、よく平気だったな」
「今更気づいてるんじゃないよ！啓太！次、貧乏くじ引かせたら一生恨んで末代まで呪うわよ」
「怖いこと言うなよ」
ハハハ、と笑みが漏れる場。
そこへ、一報がくる………。
―――所属不明の部隊が接近中！
それを聞いて、場の笑みは消えたのだった―――――