「んあ〜……熱い」

「パパぁ……もうそれ3回目」

「いや、6回目だ……」

「数える気力あるの〜?オルファ、もう頭がぼーっとしてきたよ〜」

「いや、ウソだからな……エスペリア、なんでこんな熱い……暑いじゃなくて熱い……」

「砂漠ですから……」

「ごもっとも………」

 

 

 

 

 

エスペリアに当たり前のことを言われて、納得してしまう。

ったく、レスティーナ……というより、ヨーティア、人使い荒い………。

 

 

 

 

 

「ユート様、大丈夫ですか?」

「あぁ……ところでさ、気になってることがあるんだが………」

「はい?」

「ドラマCDでさ、温泉は普通赤マナが活性化してるって言ってたよなエスペリア」

「……はぁ?」

「温泉が活性化してるなら?砂漠は?砂漠はマナが薄いはずなのに、なんでこんな暑いんだ?赤マナが活性化してるんじゃないのか?ないはずの赤マナが」

「い、いえ………そしたら、オルファがこんなに疲れるわけありませんから………」

「だろ?砂漠が暑い原因に理由がないぞ……不条理だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――アセリアは涼しい顔してすたすた歩くし

 

 

 

 

 

 

 

「お〜いアセリア!あんまり離れるなよ〜?」

「ん……ユートが遅い」

「アセリア?ユート様の命令は聞かなければいけません」

「エスペリア……頼むから二度とそういう発言砂漠でしないでくれ……頭が余計暑くなる………」

「は、はい………」

「でもアセリア……ってうわっ!!突然目の前に現れるな!!」

 

 

 

 

 

エスペリアから視線をアセリアにうつすと、目と鼻の距離に来ていた。

あまりの突然のことにヨロけてしまう。

 

 

 

 

「どうする?ユート」

「なに?」

「ずっと……くっついてくる」

「………ほっとくわけにもいかないか」

 

 

 

 

さっきから、一定距離を保ってつけてくるヤツらがいる。

それも、悪質なイタズラではなく、殺意さえ感じる。

 

これでは、精神が一方的に擦り減るだけだ。

 

 

とにもかくにも、戦闘になろうとも相手をしないといけない。

覚悟を決めて、バカ剣を握った。

 

手が汗で湿っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ひとーつ!人の世の人情をすすり

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだ?」

「この声は一体どこから……?」

「アセリア、わかるか?」

「……ダメ、全然感じない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ふたーつ!!普通の高校生

 

 

 

 

 

 

「普通の高校生?……まさかキョウコたちか!?アイツらも来てたのか!!」

「でも、ユート様のご友人なら、こんな登場しなくてもよろしいのでは?」

「ってか、こんな趣味のヤツじゃない。かといって瞬でもない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――みーっつ!!!見つけて咲かせてみせよう文通花

 

 

 

 

 

「ぶんつーばな?」

「い、一体誰だ!?」

 

 

 

 

俺は警戒して、バカ剣を構えた。

あまりに不気味すぎて、体が緊張してこわばる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――郵便お兄さん、大川啓太登場ッ!!

 

 

 

 

 

バッ!

 

スタッ!と岩場に降り立ったのは、俺より少し年下といったくらいの少年。

ふわっとしたナチュラルヘアーに、優しそうな灰色の瞳。

その笑顔は、その場にあるだけで和ませる必殺の武器。

 

 

 

 

 

 

「ゆーびんおにーさん?」

 

 

 

 

 

オルファがさっきから、やじろべいみたいにコックリコックリしている。

そりゃ、俺だってそうだ。

 

だが、服装を見ると……この世界の物とは思えない。

 

 

 

 

 

 

 

「高嶺悠人はいるかぁっ!!」

「あ、あぁ……俺だ!!」

 

 

 

 

 

呼ばれたので、返事をした。

すると、その男が弓を取り出して構える。

 

 

 

 

―――ってなにィ!?

 

 

 

 

 

 

「ユート様!!」

「受け取れ高嶺ぇ!!俺は兄妹の味方だぜ!!」

「は!?」

 

 

 

 

 

 

パシュッ!!

 

 

俺のスレスレを通って、矢が地面に突き刺さった。

その矢を見ると、手紙がテープでくっつけてある。

 

 

―――テープ?これってセロハンテープじゃないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ……このバッグの中身も、やっと役に立ったな」

 

 

 

 

 

大川啓太と名乗る男は、ウェストポーチに矢をしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――え!?

 

―――全長が身長を超えてるんだぞあの弓!?

 

―――ど、どうやって入れたんだ!?

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、役目は果たしたぞ!!」

「ま、待ってくれ!!お前は……!?」

【佳織ちゃんのこと、大切にしろよ?】

「!!!」

 

 

 

 

 

日本語!!

今、アイツは日本語で喋った!!

 

 

 

 

「パパ、今あの人なんて言ったの?」

「待ってくれ!!お前は佳織に会ったのか!?」

【彼女は強い。だから、最後の一歩は2人で一緒に踏み出すんだな。家族泣かせたらゆるさねーぞ】

「佳織は!?佳織は元気だったのか!?」

【アディオス………】

「待ってくれ!!」

 

 

 

 

 

 

啓太は、ウェストポーチからフックとロープを取り出した。

そのまま、小高い丘の頂上の岩場に引っ掛け、まるでターザンのように一瞬で消えてしまった。

残ったのは、矢についている手紙のみ。

 

 

 

 

 

 

「………大川、啓太………」

「ん……ユート、追わないのか?」

「いいよ。あいつは敵じゃなさそうだ……それより、手紙!」

 

 

 

 

 

 

俺は手紙を取った。

開けてみて、すぐわかる。

 

佳織からの手紙だった。

近況やら心配しないでね、だとか、そんないつもの佳織………。

 

 

佳織を非常に遠くに感じていた俺を、一気に佳織に引き寄せてくれた手紙だった。

 

 

 

 

 

 

「……」

「そういえば……聞いたことがあります」

「え?なにが?」

「ソーン・リーム中立自治区に2人のエトランジェが出現した、と」

「エスペリア、本当か?」

「確か、男女1人ずつで……自治区で頭領を傷つけ、男はサーギオス、女は行方不明となったそうです」

「え?じゃぁ……あ、そうか!佳織の手紙を持ってきたってことは、サーギオス……ってことは、アイツがエトランジェ……」

「でもでも、頭領を傷つけたってことは、乱暴な人じゃなかったの〜?」

「……確か、最初は自治区よりだったようですが、サーギオスの戦力を見て寝返った……裏切りに近かった、そう聞いていますが」

「………」

 

 

 

 

 

オルファの感じている通り、俺もアイツが悪いヤツには思えなかった。

それに、エトランジェなら不意打ちすればこっちに大打撃を与えられた。

 

つまり、危害を加えるつもりはなかった……

 

 

その上、個人的な佳織の要望にまで、危険を冒して手紙を届けてくれた。

 

 

 

 

 

「……自分で見て、聞いてないって怖いな」

「え?」

「アイツと会う前にエスペリアの話を聞いていたら、きっと俺もアイツを悪いヤツだって思ってた」

「……」

「でも、よくサーギオスの仲間に……あっ!!」

「どうしましたユート様!!」

「ちっ!みんな迎撃態勢だ!!さっきからつけてきたヤツらが迫ってきてる!!」

 

 

 

 

 

油断していた!

ここは戦場、いつ敵に背中を取られてもおかしくはないのだ。

くそっ!!!

 

 

 

 

「いくぞバカ剣!!」

{……!!やめろ契約者!!今のお前に勝てる相手ではない!!}

「知るかっ!!みんなの態勢が整うまでの時間稼ぎだ!!!」

 

 

 

 

バカ剣の、いつにない焦りを無視してそのまま突撃した。

岩場に隠れ、正体を暴こうと岩場を砕いた!!

 

轟音と共に岩場が崩れ去り、何体かスピリットが出てくる!!

 

 

 

 

 

「佳織のためだ……っ!!俺は佳織に会うまで死ねないんだっ!!!そこをどけぇッッ!!!!」

 

 

 

 

 

俺はバカ剣を握り締めて振りかぶった。

まだ身につけて間もないラキオス剣術。

 

その型どおりに、ありったけの力を込める!

そして、ビュンッ!と音がするほど速く振り下ろした!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――甘ったれるな

 

 

 

 

 

「え………」

 

 

 

 

 

バギッ!!

 

バカ剣が嫌な音を立てた。

バカ剣はスピリットに触れることなく、別の剣で止められていて………

 

 

 

その剣の主を見て、唖然とした―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユートさ………ッ!!!ソ、ソーマ………様……!!」

「エスペリア………?」

 

 

 

 

 

俺はバッ!と距離を取った。

エスペリアが尋常じゃない恐れ方をしている。

体は痙攣を起こしたかのようにビクビク震え、顔は一気に血の気が引いていた。

汗一つかかず、満足に声が出せないようだ。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

かくいう俺も、頭がパンクしていた。

さっき……さっき………!!!

 

 

 

 

 

「啓太!?なんで!?」

「………」

 

 

 

 

 

郵便お兄さんこと、大川啓太。

それが、さっき俺の太刀を止めた犯人。

鈍く、白く光るツタで巻かれた剣を持っていた。

 

だが、灰色の瞳がさっきとは正反対の雰囲気を醸し出している。

俺の身に感じるのは、圧倒的な殺意。

 

 

 

 

 

 

「俺、部下だから」

「え………」

「そうですよ……あなたと違い、美しく生きられるエトランジェ、ですから、私が拾ってさしあげたんですよ」

「お前は誰だ!?」

 

 

 

 

 

一言で言えば卑猥な顔。

目つきはねばっこく、どこか偉そうで、なよくて戦場に出てくる人間とは思えない。

 

 

 

 

 

「お久しぶりですねぇ、エスペリア」

「!!!」

「エスペリア?知り合いか………?」

「い、いや……」

「エスペリア?しっかりしろ!」

「おやおや……【あのときのこと】をまだ引きずってるのですか」

「!!!」

「やめろ!!あんたが何者か知らないが、エスペリアが怖がってる!!」

「あなたは黙っていてください。私は再会を喜んでるんですよ?ねぇ、エスペリア……?」

「や、やめて……!!こないで………!!!」

「やめろって言ってるだろ!!!!」

 

 

 

 

 

俺はたまらずバカ剣を持って飛び出した。

これ以上、エスペリアを苦しめられてたまるか!!!

 

 

 

 

 

「ふっ……だからラキオスのエトランジェは優雅さに欠ける」

「な……っ!!」

 

 

 

 

 

バギッ!!

また、また止められた。

 

 

 

 

 

「啓太!!どけっ!!!」

「俺はこの人の部下だって言ってるだろ?」

「どうして!?どうして邪魔するんだ!!」

「……だって、そうしないと生きていけないじゃん」

「え?」

 

 

 

 

 

一瞬、啓太の顔が悲しく見えた……が、それは錯覚だったようだ。

すぐに形相が変わり、剣を振り切られて弾かれる。

 

そのまま離れた。

 

 

 

 

 

「ここは、俺に任せてもらっていいですか?」

「……いいでしょう。しかし、バカなことは考えないほうがいいですよ?わかってますね?」

「別に俺……ラキオスなんかに行きません。あんなくだらない国」

「くだらない……?」

 

 

 

 

今、くだらないって言ったか?

あのレスティーナが頑張ってる国を………

みんなが必死で護ってる国を………!

 

 

くだらないだと!?

 

 

 

 

 

 

「だぁあぁあぁッッ!!!!」

 

 

 

 

 

プッツリと何かが切れた俺は、気づけば啓太を襲っていた。

 

 

 

 

―――イイヤツだと思ったのが間違いだった!!

―――こんな……こんなヤツ!!!

 

 

 

 

 

 

 

「何もビジョンのないお前は………ただの獣だよ、悠人」

「うるせぇッ!!!」

「なんでお前は戦ってる?佳織ちゃんのためか?」

「そうだ!それの何が悪い!?お前にとってはくだらないか!?」

「どうせ、それは自分の罪悪感を拭いたいだけの言い訳だろ?」

「お前だって!!!」

「………俺?」

 

 

 

 

 

何か……何かが変わった。

それは、雰囲気でもなければ力の入れ具合でもない。

 

もっと……何か、根本的な物。

 

 

 

 

 

「俺は言い訳しないよ。自分に誇りを持ってるから、自分にウソはつかない」

「ふざけるなっ!!ならなんでお前は戦ってるんだ!?」

「生きるためだよ。そして、この世界で何ができるか、試すために」

「なんだと………!」

「お前の力、本当に誰かを殺すための力なのか?」

「は………?」

「俺、いつも思うよ。なんで神剣の力は誰かを殺したり、戦いで傷ついたヤツを癒したりっていう、戦いに関連してるのかって」

「………」

「疑問に思わないのか?これだけの力がある神剣、これだけの知性がある神剣が、戦うことしか知らないんだぞ?」

「………」

「この世界、どっかおかしいよ。だから、俺はそれを見つけるために戦って、生きるんだ」

「……それがなんだ」

 

 

 

 

 

 

ふつふつと、あまりに一般論すぎて腹が立つ。

それで済めば戦争なんて起こらない!

そうやって個人だけで動ければ、俺だって……俺だって!!

 

 

 

 

 

「でも!!戦わなきゃ佳織は助けられないんだ!!」

「何かを得るためには犠牲がつきものってか?」

「そうだよ!!そうじゃなきゃ!俺だって殺したりなんか………殺したりなんか………ッ!!」

「まだわかってないな。お前がスピリットを殺す!そしたらそのスピリットの友人がお前を恨んで狙う!そしてまたお前は殺す!また狙われる!!」

「!!」

「それを世界のせいにして何ができるっていうんだよ!?それで佳織ちゃんを助ける!?笑わせんな!!最後にお前の手に残るのは!血塗られた手だけになるぞ!!」

「それでも!それでも佳織がいれば………!!佳織が安心して暮らせれば、それでいいんだ!!」

「じゃぁ俺がここでお前の仲間を殺してもいいんだな!?犠牲が出てしまうのは仕方ないんだろ!?」

「ダメだ!それは許さない!!」

「勝手なことを言うな!!そうやって相手のことを思いやったフリして、本当は何も見てないクセに!!!」

「なに………!?」

 

 

 

 

 

俺は啓太を睨んだ。

啓太は、俯いたまま動かない。

 

 

 

 

 

 

「何が殺したくないだよ……何が、何が……仕方ないだよ……自分の周りだけ幸せならそれでいいんだ?」

「そうだよ……俺は世界の幸せを願って戦えるほど、強くないんだ」

「………じゃぁいいよ。俺もお前の犠牲になってやるよ」

「え?」

 

 

 

 

 

 

啓太は手に持っていた白い剣を俺に投げた。

砂漠の砂をすべり、俺の足元で止まる。

 

 

 

 

 

 

「殺せよ。俺みたいなエトランジェがいたら邪魔なんだよな?」

「………」

「ほら、俺を殺して前に進まないと、お前は一生佳織ちゃんを助けられないぞ」

「……」

「悠人!!てめー男なら一度言ったことに責任持てよッ!!!」

「で、できるわけ……ないだろ……!!」

「俺は抵抗しない。目を瞑ったままでも殺せる」

「……」

「どうした悠人!!!」

「くそぉッ!!!できるわけねーだろうが!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――負けた。

 

―――俺は、今まで誰にも負けないように、挫けないようにと頑張ってきたのに

 

―――今、目の前に……理屈を越えた何かを持った、そんな少年が………いる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前は何もわかってない。

 

お前は奪った命は絶対に忘れないとか言ってるけど、本当にそれが、忘れない、と言えるのか?

 

お前は簡単にそういえるよ。

 

だって、お前は殺した大抵のヤツのこと、何一つ知らないで殺したんだから。

 

趣味も、個性も、喋り声も、何もお前は知らないで殺したんだ。

 

だから、その殺したヤツの命の重さを知らないから簡単に忘れない、なんて言えるんだ。

 

 

 

 

大事な物のために戦うってことは、人の大事な物を壊し、奪うってことなんだよ。

 

それから目を逸らして、なんでもかんでも佳織ちゃんのために!って、それで最後には言い訳するんだ。

これでよかったんだ……ってね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は佳織ちゃんの兄貴であるお前には、そうなってほしくないんだよ」

「啓太………」

「そしたら、佳織ちゃんが悲しむだろうが!私のために、お兄ちゃんが人を殺したってね!!」

「………」

「胸張って、【それは違う!】っていえなくて、妹にその自責の念をずっと背負わせて、それで兄貴がつとまるのかよ?」

「……くそぉ……ちくしょぅ………!」

 

 

 

 

 

悔しかった。

全部、啓太の言うことが正しいことは知っていた。

でも、逃げたんだ。

 

そこまで考えてたら、俺は戦えなくなる。

そしたら、佳織も危なくなるから……だから、仕方ない、の一言で済ませていたんだ………。

 

 

 

 

 

 

「お前は……俺の兄貴に似てるから」

「え?」

「だから……佳織ちゃんにも、味合わせたくないんだ」

「何を……?」

「自分のために、辛い思いをしている兄を見ていることしかできない、歯がゆい気持ち……ま、佳織ちゃんは俺よりずっと強いから、自分で動き出してるけどね」

「佳織が………」

「でも、俺は俺の考えを押し付けただけだから………だから、納得できないなら無理に納得しないほうがいいよ」

「え………?」

「だって、そしたら……俺はお前には賛成できない!俺は……って、自分の意思を持てるじゃん♪」

「ぁ………」

「おっと、そろそろ行かなくちゃ。あの人に怒られちまう」

 

 

 

 

 

おどけて啓太は走り出す。

一つ聞きたくて、俺は叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「お前!本当に自治区で裏切ったのか!?」

 

 

 

 

 

 

―――しばらく、啓太は固まっていた。

 

だが……こっちを振り返らず、答えが返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「裏切ったよ。人を刺して、そこで俺はサーギオスに下ったんだ」

「……ウソだよな!?お前、何か今みたいに、事情があるんだろ!?」

「ねーよ!!俺だって、いつもこんなことしてるわけじゃねーよ!!あんまり買いかぶるな!!」

 

 

 

 

 

 

そのまま、一瞬のうちに消え去る啓太。

その後ろ姿は……なんだか、大きく見えた。

 

 

 

 

(どうして俺は戦うのか……本当に、佳織のためだけ?じゃぁ……ラキオスが落ちても関係ない……いや)

 

 

 

 

今、俺の中でハッキリと生まれたものがある。

いつの間にか……ラキオスという国が、佳織の次くらいにまで大きくなっていた。

 

レスティーナが指揮して、ヨーティアたちが補佐して……一致団結し、平和な世界を実現しようと、ひたすら前に歩く国。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

そんなラキオスが好きだから。

そのラキオスが作る、平和な世界を見たいから。

 

だから……

 

 

 

だから………俺は、戦っていけるんだ。

 

大切な仲間が、大好きな国だから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その後――――

 

 

 

 

俺は2人の親友と、最も出会いたくない戦場で出会ってしまうことになる。

でも、信じることができた。

 

今日子が、光陰が……2人がいなくちゃ、平和な世界なんて作っても意味がないんだと。

なんとしても、あの2人がいないと……本当の平和がくることはないんだ、と。

 

 

 

 

そう―――

 

 

 

信じることができたのは、たとえアイツがどういう過去を持っていたとしても………アイツのおかげなのは変わらなかった。

 

 

 

今度会えたら、俺はハッキリ言おうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が戦うのは………