ここは暗い。
―――どこ?
知らない。
そんなの、いちいち調べる必要もない。
―――二度と来ない場所に、調べる必要はない。
―――奇跡
俺は、それを何度も願った。
でも、いくら願ってもあの人は帰ってこなかった。
―――だから、俺は今でも彼女を追いかけている
―――俺の今の姿を見せるために
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CONNECTING・FATE
〜 奇跡に手を伸ばして 〜
〜第1幕〜
いつか来る日のために…
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「……みつけた」
とうとう見つけた。
永遠にさまよい続けるのか?と思うほどの奥深い洞窟。
こんな所が、この平和な日本にあったのか、と思う。
「これが、今回のお宝かぁ。うんうん、高そうだし、今回はアタリだなっ!」
目の前に置いてある、鈍く白い光を放つ剣。
その細かな装飾が、神秘的な雰囲気を一層増している。
だが、戒めのようにツタに巻かれているのが気になった。
「このツタは……装飾?違うよな、似合ってないし。取っちゃうか?いや、でも……価値が落ちたら困るしな……何割か持ってかれちゃうし」
そう、トレジャーハントと言っても、何でも好き勝手にできるわけじゃない。
当然、その土地は誰かに所有されている。
だから、何かを見つけても何割かは持ち主に持ってかれてしまう。
よって少しでも価値を下げたくないのが現状だ。
まぁ、たまにいわくつきの所に、所有者が頼んで探して欲しい、と依頼してくることもあるが。
「とりあえずこのまま持っていくか。さってと!さっさと金に換えて、牛鍋牛鍋♪」
ルンルン気分で剣を背負った。
意外と重たいが、今は牛鍋の気持ちのほうが勝った。
浮かれてスキップなんぞを始める。
{………待て}
「あん?」
{……俺を金に換えるつもりか?}
「もちろん……って誰だ!?」
こんな所に人はいない……ハズ。
そんな、あの映画じゃないんだから、奴隷がいっぱいとかあり得ない。
{背中だ背中}
「……剣?お前……喋れるのか!?」
{驚いたか?}
「うん!仲良くしようぜ!」
{は?}
「いやぁ、喋る剣なんてスゴイ!これさえあればテレビや新聞でビシバシ有名に……金もガッポガッポ……うひゃぁ」
{……俺は金ヅルか}
「違うの?」
{素で返すな……腹が立つ}
「いやぁ、こんな不思議に出会えるなんて、最高だなオイ。さて、帰ろう」
{……}
「?急に黙ってどうした?」
{何か来るぞ}
「は?」
コツ……コツ………
しん、とした洞窟に、一人分の足音。
それが、耳が痛くなるくらいの静寂を破って、近づいてきた。
「……誰だ?」
いたって普通に声を出した。
静かな洞窟では、それが響いて相手に届く。
だが、返事はない。
ただ、足音が近づいてくるだけ。
それが、俺の警戒心を増幅させる。
四次元バッグ(仮名)から、護身用のナイフを取り出す。
{そんなのじゃ役に立たない!俺を持て}
「バカ。宝に傷つけたら価値下がるだろうが」
{アホ!そんなこと言ってる場合か!!}
「そっちこそ黙ってろ!今月金入らないと顔に傷ついてるオジさんに家に来られるんだよ!!!」
俺のヘッドランプが相手を捉えた。
丸く光るライトに照らし出された相手……それは………
「……っ!あぁっ!!」
「……大川啓太」
「お前!あ、アレ……留学生のキュリアじゃん!どしたの?あ、お宝!?ダメだよ?コレは俺んだからね!!」
「………死んで」
「へ?」
バッ!!
一瞬何が起こったのかわからなかった。
本能で、命の危険を回避した……その余韻だけが、頭の中に残る。
「お前……それ……!!」
「スタンビート。平気よ。少ししびれるだけ……気づけば、天国だから……」
「お、お前なんなんだよ!?ほ、本気か……!?」
「……お願い。黙って殺されてほしい」
「や、やだ!ってか、殺したら警察に捕まって……!って!なんで!?俺、なんか殺したいって思うほど悪いことした!?」
彼女の行動に皆目検討がつかない。
こんな場所で出会っただけでもパニックなのに、いきなり殺されかけてる。
「組織に命令されたから……あなたが、この世に存在してはいけない存在、だから、殺せ……それだけ」
「組織!?お、お前……薬でもやってんのか……?」
「幻覚よりタチの悪い……この世にあってはいけない存在」
「……」
ハッキリ言って、冗談じゃない状況だった。
ナイフ一本で、電磁ムチに対抗しろってのが無理がある。
いや、ありすぎる。
{開く……}
「は?」
その時だった………
突然、目の前……キュリアと俺の中心に、光があふれ出す。
それは、冷たくもなく温かくもない、とてもとても痛々しい光。
{これから、俺たちは戦う……}
「は!?剣、ちょっと何言ってんだ!?」
{自分と向き合え……全てはそれから…………}
「!!」
「くっ!こ、これは……門!!!」
その光は、だんだんと俺たちを包み込み、どこかへといざなっていく………。
――――どこか、じゃない
――――運命の世界へ………
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「……ん〜、つあ……っ、頭いて〜………」
気づけば、そこは雪原のど真ん中。
右を見れば林、左を見れば林。
「……んあ。お宝は無事か……」
手元に落ちている白い剣を拾う。
どこか、ツタが減っているような気がするがまぁいい。
「……ありゃ、ぶっ壊れちまったかな」
コンパスを取り出したが、ピクリともせず。
他の位置計測機器も全てボツっていた。
「……寒い。上着上着……」
バッグから上着を取り出す。
なぜ、そんな物が小さなカバンに入るのか……それは、これが四次元バッグだから。
気にしちゃいけない。
「……さて、と?」
足元に、もう一つ落し物。
見て………
「ここはどこだ〜?っと……」
場所を確認しようと移動しようとして…………
―――足を掴まれた。
「普通、この状況で私を置いていく?」
「命を狙うヒットマンをなぜ俺が助けなきゃいけない!?」
「私、女の子」
「電磁ムチを振り回して襲ってきたあげく、殺人を起こそうとした人間は女の子とは言わない。犯罪者という」
「……ま、ふざけるのもここまでね」
俺の足を離し、パッと立ち上がるキュリア。
どうせなら…………
―――雪で埋めておくんだった
「今、埋めときゃ良かったって思ってない?」
「………テレパシストかよ」
「顔に出てたわ。文字が浮かんできたもの」
「そんなアホな」
「それより……なんてことしてくれたの」
「は?」
「ここ、異世界よ?」
ザザッ!
「そんなこと言われてもな」
「責任、取ってよ。元の世界に帰れないじゃない」
ザザザッ!!
「俺、のせいか?」
「当たり前よ。その手に持ってる剣のせいなんだから」
ズザザザザーーッッ!!!
「でも、どうしろって」
「……まずは、私からどんどん引いていくのをやめて」
「……」
俺の体は、クマとであったときの対処法みたいに逃げて、キュリアと10メートルは離れていた。
こんなリアルで危ない電波女に付き合ってたら身が持たない………。
「あのね?フザけてるようだけど、私たちは今、異世界へ来ているわ」
「……あのなぁ、俺いい医者知ってるから」
「その医者もこの世界にはいない。信じなさい」
「それが人を殺そうとした人間の態度ですか」
「そっちこそ、それが人の話を聞く態度ですか」
「………」
「………」
お互いにらみ合う。
一歩も引かず、一歩も進まず。
そして、その綺麗な瞳がウソを言ってないと…語っていた。
「……わかった。とりあえずは、認める」
「そう。じゃぁ、私を護って」
「……は?」
「私、丸腰だもの」
「ざーけんな!!おっそろしいS道具持ってたじゃねェか!!」
「暴言禁止。それと、アレ、この世界じゃ長く持たないもの。充電できないし」
「……へ?」
「たぶん……だけど、この世界に、【コンセント】だとかないんじゃないかしらね」
「……ってか、キュリア、お前こんな堅いキャラだったか?」
「え?」
「学校じゃ【は〜い♪キュリアで〜す♪これから一年間お世話になりますけど、よろしくお願いしま〜す♪】なんて言ってたじゃん」
「……あなたを見張るためだから」
「……ほ〜?」
見た目は16歳。
たぶん、年齢まではウソじゃないのだろう。
耳の上から少しだけ束にして、後ろにまわして紐のリボンで止めてある髪。
この雪景色のせいだけでなく、その金髪はまるで星をちりばめたように光り、透き通って見えるほど美しい。
スラリと伸びた足は見事な脚線美を描き、白い肌が雪景色の中でも映える。
「こんな子がヒットマンねェ〜……世も末だわ。だからどっかの誰かは神社参拝やめねーし、どっかはまた同じような戦争繰り返そうとするんだわ」
「は?あ〜……こ【ダメだっ!!それ以上言うんじゃねェッ!!言ったら……沈されるぞ】わかったわよ……ハァ」
「ため息つきてーのはこっちだボケェっ!!」
「っ!?しっ!誰か……くるわ」
{そうだな}
「おわっ!剣!お前喋ってたの夢じゃなかったのか!!」
{当たり前だ。それから、カノンと呼べ}
「カノン?わかった。それで?……アレ?」
「こっちよ!!」
「1人で隠れんな!!すっげー心細かったぞ!!」
カノンと会話してる間にキュリアが消えていて、ちょっと怖かった。
見回せば、林の一角に隠れていて、走って追いつく。
「で?誰が来るって?」
「しっ!」
「むがむごっ!!むーむーっ!!」
無理やり口をふさがれ、説明しろと叫ぶ俺。
すると、さっき俺たちの居た場所に、誰かが来た……女性?
【やはりな。足跡がある】
【ってことは、やっぱり誰か来たってことなの?メシフィア】
【そういうことだアエリア。そして……足跡は林の中に続いている】
【じゃぁ林にいるんだ。追いかけなくっちゃ!】
【待てアエリア。相手はエトランジェだ。私みたいな人間と、お前みたいなスピリット2人では勝てない。足跡は2人分あるしな】
【じゃぁ、どうするの?】
【戻るぞ。このあたりから行ける、人がいる町は、どうせ私たちの街しかない。行き倒れがイヤなら、必ずくるはずだ】
【なるほど♪】
【そういうわけで、戻るぞ。寒いしな。ここらへんは夜はかなり冷える】
【うん!】
長く黒い髪を持った女性は身を翻し、スタスタ去っていく。
ツインテールの背中に4枚の翼をつけた少女も、それに続いて去っていった。
「……行った?」
「みたいね」
「ふ〜……でも、なんで隠れたの?」
「コレ、見てよ」
「……矢?」
「私もどうやら、あなたの剣みたいなのを手に入れてしまったようね」
その矢はまるで自分で光っているかのような魅力を持っていた。
弓道で使うような、本格的な大きな矢。
上下に羽のような装飾がついている。
「そして、普通に考えて武装してる人と出会えば、和解は無理。ともなれば、まずは私たちだけで情報を集めるべき」
「は〜……お前、なんだかすごい本格的だなあ」
「私はプロ。それに……あっちもね」
「あっち?」
「気づかなかった?あの……メシフィアって女、私たちに気づいてたわ」
「ウッソだァ?」
そんな会話はしてなかった。
それはあてずっぽうってヤツだろう。
「彼女は暗に、私たちに町に来いって言ってるのよ。ここらへんには私たちの街しかないから……ってね」
「……なるほど?死にたくないなら町に来い、と」
「どうせあなたは今野宿だとか考えたでしょうけど、冬はかなり冷え込むはずよ。テント程度じゃ凍え死ぬだけね」
「ハイハイ、御託はいいから町に行こうぜ?誘ってくれたんだろ?」
「……警戒は忘れないで」
「俺はプロじゃないっての!あ、そうだカノン」
{なんだ?}
「俺は大川啓太。よろしく頼むよ」
{ああ}
淡白な相棒、ヒットマンと会話しながら、俺たちは町に向かった。
この白い大地を舞台が、真っ赤な血に染まるとも知らず………
――――そして、幕はあけた