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「ん・・・」
「あ・・・!」
気が付けば、目の前にユウナがいた。
「ユウナ・・・」
「ユウキッ!!」
ガバッ!
抱きつかれ、しっかりと抱き締める。
何年ぶりだろう・・・!
「あ・・・そうだアスナは!?」
俺はあたりを見回す。
だが・・・そこにアスナはいない。
「ユウキッ!ユウキこそ知らないの!?アスナ様は!?」
「えっ!?テムオリン・・・?え、えっと・・・」
その先・・・ハッキリとわからない。
アイツは帰ると言ったけど・・・。
「まさか・・・」
「・・・わからない」
そうとしか言えなかった。
一体・・・どうなったんだ?
「ん?」
手に何かを握っていた。
「これは・・・?」
新星・・・?
「それ・・・新星じゃない!」
「新星?」
俺が話し掛ける。
{ユウキ・・・}
「え?」
かすかに聞こえる・・・。
今にも消え入りそうな声。
{我が主は・・・シンと共に消滅した}
「なっ・・・!?」
「ウソでしょ!?どうしてよ!?」
{おぬしを助けるタメに・・・契約者自身の全てと俺のマナを使って、ユウキの体を構成した。だから・・・もういない}
「うそ!絶対にウソよ!!アスナ様が・・・っ!なんで・・・!?」
「テム・・・」
トキミがテムを座らせて抱く。
震えがトキミにまで伝わっていた。
今までいがみあっていた二人だけど・・・今はとても美しく見えた。
涙が乾いた地面へと落ち、大きなシミをいくつも作る。
{伝えることは全て伝えた・・・さらばだ}
ボロッ・・・
「っ!?」
新星が急に白くなり、崩れ落ちていく・・・。
「新星っ!待てよっ!!」
新星はこたえなかった。
そのまま・・・塵となって俺の手から消えたのだった。
「アスナ様、アスナ様ぁ・・・っ!一緒にいるって・・・っ!!なんで・・・なんでっ!!」
「テム・・・」
「どうしろっていうの・・・!?これからどうやって生きていけばいいのっ!!アスナ様答えてよっ!!!」
地面に突っ伏して泣くテム。
その姿はあまりに痛々しくて、誰も声がかけられなかった。
トキミはそっと起こして抱きしめた。
「・・・」
何も言わずにポンポンと背中を叩くトキミ。
だけど、その瞳は激しく揺れていて、目尻に涙があふれんばかりに溜まっていた。
「畜生ッッッ!!!」
ユウキが地面を殴る。
「俺が・・・俺がもっとしっかりしてればっ!!」
「ユウキ・・・自分を責めないで」
「でも・・・っ!!俺が安易に力に頼らなければっ!!!」
「お願いだから・・・それ以上自分を傷つけないで」
ユウナはユウキの手を胸の前で抱く。
「っ・・・」
「ねぇアスナ」
「うん?」
俺の目の前には、長い綺麗な金髪を一本に束ねた女性。
シンだ。
永遠神剣になる前の・・・。
しかもすっげースタイルしてる。これヒミツね?
その神々しいオーラというか、美しさは天使に近い。
「いくつか聞いていい?」
「なに?」
もう時間など腐るほどある。
だから、俺はゆっくりとシンと会話することにした。
何年ぶりだろう?こうしてシンと話すのは・・・。
「なんでアスナは世界を守ろうとしたの?」
「・・・聞きたい?」
「うん」
シンは頷いた。
だから、俺は頭を軽く掻いてからはなしだす。
「だってさ、どんな世界でも、そこで生まれて、そこで育って、そこで死んでいった・・・
そこを愛したヤツらがいるんだぜ?それを簡単に『消す』なんて言うお前を認めたくなかった。だから負けてたまるかって思ったんだ」
「そっか・・・。でも・・・私は・・・」
「お前がこんなことになっちゃったのも、この世界のせいだってわかってるよ。あの時のシンの顔は忘れないから・・・」
「じゃぁ・・・なんで?なぜそれでも世界を守るなんて・・・」
俺は一息ついた。
シン・・・最初に会った時、随分ひどい顔をしていた。
その後、俺のせいでシンは『心』に取りこまれてしまった・・・。
例え腐った世界でも、『世界が消える』。
大きく考えるのは大嫌いだから、俺はシンプルに考えたんだ。
――家族と会話して、笑い合った家(俺にはないけど)
――友人とだべったり、行事で盛りあがったりして楽しんだ学校
――自転車で走って眺めていた田んぼも道路も
――好きな子と仲良くなろうと思ってした初デートの場所も
――何回も行ったお気に入りの店も、そのメニューも
全部全部、お前のたった数秒の行動で消えちまうんだぜ?
本当に・・・それでいいのかよ?
そう思ったらさ・・・俺は新星を握って戦ってた。
だってさ・・・イヤじゃん。
たった一人の行動で、なんでもかんでも消えちゃうなんて。
そして―――
それを黙って見過ごすなんて。
そう俺は言った。
すると、シンはそれで納得したらしい。
そして、新しい疑問をぶつけてきた。
「私、どうして負けたのかな?」
「・・・」
「実力も、仲間も、理想も・・・努力も、全てあなたに勝ってたつもりなのに」
「なんでお前はそれをめざしたんだ?『天地』になる・・・なんてさ」
「・・・幸せになりたかったのよ」
「幸せに?」
「うん・・・。きっとね・・・」
「・・・なら、簡単だ」
「え?」
「実力はあった。理想も高かった。でも・・・残りふたつは幸せになるためにやったのなら・・・間違ってたよ」
「仲間と・・・努力?」
「そ」
俺はズガッと座る。
シンも穏やかに座って、膝枕を要求してきた。
俺は黙ってシンの膝に頭を乗せた。シンが俺の額に手をあてて微笑む。
「どういうことなの?」
「今更言うことでもないけどさ。ミニオンや半エターナルなんか、おまえの仲間じゃないよ。ただの人形さ」
「・・・」
「絆で結ばれてない人を仲間とは呼ばない。一方的に命令を聞く人は仲間じゃない。自分の思うとおりに動く人は仲間じゃないよ」
「・・・」
シンは俺の瞳を射抜く。
そこには、以前のような悪意や憎悪は感じられない。
「そんな人形とじゃ、幸せはつかめないさ」
「そう、だね。アスナは・・・すごくいい仲間がいたもんね」
「・・・あぁ」
俺を信じて一緒に戦い抜いてくれたユウト達。
俺を信頼して、全てを任せてくれたローガス。
俺の事を慕ってくれた、ヒカリ、カナリア、テム。
―――そして
俺にその命を全てくれた・・・永遠神剣第三位改・・・『新星』。
「それに、やり方も間違ってた。夢や希望を持たずに、ただ現実で幸せになることだけを考えて・・・。
行動して・・・その果てに何があると思う?何をつかめたと思う?」
「え・・・?」
「そんなの、ただ『とにかく勉強しろ。そしていい学校へいけ』って言ってる先生みたいなもんだよ。
そういう風に教え込まれて、実力でいい学校へ行って・・・そこで彼らは何を学べばいいんだろう?
どんな仕事をすればいいんだろう?夢も希望もなくて、何をしろというんだろう?
そう・・・悩むはずさ。それと同じ。
天地になって、君は何をするんだ?それが幸せだぁって感じることができるのか?・・・できないさ」
「・・・」
「本当の幸せって・・・誰にも負けない力を持ったとか、誰よりもたくさん財産があるとか、誰よりも・・・
そうやって比べてどうか?ってことじゃないだろ?
自分が『幸せだな』って生きてる喜びを感じることができるのが幸せだ。
どんな力を持っていようが、財産を持っていようが、そんなの生きてる喜びの前ではガラクタでしかない」
「・・・」
「生も死もない永遠の孤独の世界に・・・
そんなものだけあっても本当の幸せは得られないよ。それが、『天地』が二つの世界を作ったワケなんじゃないかな?」
「・・・」
「君は今・・・幸せなんじゃない?」
「・・・ふふ、そうかもしれませんね」
俺に微笑むシン。
その顔はあまりに美しくて、全世界を虜にしてしまいそうだ。
「何もなくなって・・・こうしてあなたとゆっくり話していられた。
今が一番幸せでしたね。なんで・・・私は気付かなかったんでしょう?」
「――――気付かなかったんじゃないよ」
俺は立ち上がる。
シンも立った。
「忘れていたんだよ。今までな。これからは、もう大丈夫なんじゃない?」
「・・・はい。きっと・・・」
「んじゃ・・・オレ達もそろそろ消えるか。この生と死の狭間からさ」
「そうですね!アスナ」
「ん?」
俺の頬に両手を添えて、シンは俺にキスをした。
唇が離れた時、彼女の顔はすごく晴れていた。
まぁ・・・死んでるんでキスの感触はないんだけど。
「いろいろ・・・ありがとう」
「ったく。授業料が俺の命だぜ?この授業はさ」
「なんて高い授業料なんでしょうね。それじゃ・・・さよなら」
フゥッ・・・と消えていくシン。
「・・・シン、あっちではもう会えないけど・・・幸せになれよな」
俺は軽く祈ってやった。
そして・・・
俺も目を閉じて、ゆっくりと体の力を抜いていった・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私達は成長した。
自分のことは自分で決めてきた。
今回の戦いはまさにその大きな節目だった。
生きる意志を示し、私達の未来を掴みとった。
だけど・・・
――それだけだ。
戦いの後に残った物は一体なんだったんだろう?
私には・・・喪失感というものしか残っていない。
そして・・・たまに考える。
―――『生きる』ってなんだろう?
私達は普段、そんなことを気にして生きてはいない。
だって、そんな難しい事を考えるより、何かをしてたほうが楽しいから。
だから・・・生きるってそういうことなんだと思う。
人はそれを考えながら、思った通りに動いていく。
その一人一人が動いて・・・それが、生きるってこと。
―――人間ってどうして生まれたのだろう?
私達人間が生まれなければ、あらゆる世界は動物達によって乱れることのない世界を築けただろう。
だけど、私達は生まれてしまった。
世界に争いの火種をぶちまけ、好き勝手に世界を改造し、挙句の果てに壊して他の生物と共に滅亡する。
たいていの科学者や哲学者・・・下手すれば宗教も、最初はそう思うだろう。
だけど、それはあくまで一面でしかない。
今回の戦いのように、全てに『生』という『希望』を与えるために、たくさんの人間は戦った。
人間は、それができる唯一の動物。
それが・・・人間が生まれた理由なんじゃないかな?
―――人間の感情は・・・心は、どうしてこんなに苦しいのだろう?
それが、人間に平等に与えられた『枷』なんじゃないかな?
誰かのために生きることもあれば、何かのために殺すこともある。
それを感じて、自分のしたことを考えさせるために、人間には『心』があるんだと思う。
―――人間は・・・なぜ戦うのだろう?
人間は無知で、明日も見えなくて、その持っている力を誇示したがる。
人間は何かかえがたいもののために戦う。
だが・・・今回、そうして戦って、私達に残された物は何だろう?
そして・・・その戦いの後、ヒトは何も考えず・・・ヒトはまた繰り返す。
憎しみと怒りと喪失の連続を・・・。
人間は弱い。
誰かを失った悲しみには耐えられない。
なのに・・・報復の連鎖は止めなければならない、とよく聞く。
―――矛盾だ。
耐えられないのに、どうして戦わずにいられよう?
どうして・・・止められよう?
そのどれも・・・わからない。
だけど――
だけど――――――
それを考える必要はない。
それは、絶対にわからないのだから。
だって・・・正解など、どこにもない。
強いて言うなら・・・それは、生きてる全ての者が『答え』だ。
なぜ生きているのか?
なぜ人間という存在は生まれたか?
感情は・・・なぜ苦しいのか?
それら全て・・・答えは生きてる者全てが答えを持っている。
なら・・・なぜあの人が消えなければいけなかったのか・・・
きっと、その答えも自分の中にあるのだろう。
だから・・・前を向いて生きよう。
後ろに振り向いても、甘美な、二度と戻らない日々しかない。
私が求めるものは、前にしかない。
私は・・・もう大丈夫。
自分を見失ったりしない。
あの人の温かさを・・・知っているから。
エターナル・・・
その存在がいらなくなるような・・・
平和な世界を目指して・・・
それで・・・いいんだよね?アスナ
そうして・・・
私は左手に温かい感触を感じて、目を開けた。
そこにあったのは・・・