………………………………………………………………………………………………………………………………………
「・・・」
俺が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。
ガチャ・・・!
「起きたか?」
「ユウト?ここは?」
「おまえが最後にいた世界の、まぁ拠点みたいなものか」
「・・・ふぅん。じゃぁ勝ったのか」
あの絶望的な状況で・・・よく生き残れたな。
「おまえらが想像以上に耐えてたからだ。よくあそこまで生きてたな」
「・・・じゃぁいこうか」
俺はベッドから起きる。
「もういいのか?」
「時間もないしな。至急みんなを集めてくれ」
「いつもらしからぬ真面目だな」
「失礼な、俺はいつでも・・・いや」
どうだろう・・・?
「ははっ」
・
・
・
「えーっと、まぁ、つまり・・・なんだ?」
「いや、オレ達にふるなよ」
何から言えばいいんだろう?
まぁ・・・思いつくことからだな。
「まず、シンなんだけど・・・アイツは混沌世界にいるらしい」
「・・・」
「あれ?」
誰も聞いてこないぞ?
「おまえら混沌世界知ってるの?」
「ま、まぁ・・・な」
なんだか全員微妙な顔をしていた。
――――なるほど。
一人澄ました顔をしてやがる。
「ローガス。バラしたな?」
「さぁ・・・なんのことかな?」
「勝手に言うなと言っただろう?」
「まぁいいじゃない。結果として話が進めやすくなったんだし」
「・・・はいはい」
ローガスは悪怯れた様子もない。
仕方ないので一気に話を進める。
「つまり、俺の世界な。そこは・・・まぁ知っての通り、今ではエターナル以外に生きている生物はいない、いわば廃世界だ。
当然のことながら、そこには今までの世界とは比較にならないほどの大量のマナで溢れている。
んで・・・まぁシンのことだから、そのマナ全てを使って全世界を壊す・・・。
なんだっけ?カタストロフ・クェイクだっけか?それを起こすんだろうな」
「んで・・・浮マナを全て吸収して、天地になるんだろう?」
「ユウトの通り」
俺はそこで座る。
「っていうか・・・あのさ、アスナ」
「はい、キョウコ」
「アンタが言うと・・・ど〜も、深刻になれないんだけど」
「・・・ほっとけ」
確かに、俺の言い方だとなんか・・・
全世界?
ハァ?
みたいな感じがしてしまった。
むぅ・・・
「っていうかキョウコ。エターナルにしてやったんだから、ちょっとは敬え。いわば師匠なんだぜ?俺は」
「う・・・そうだけど・・・」
「じゃぁ今日から一週間、俺の奴隷な。あんなことやそんなことまで全部してもらうぜ?」
「あ、あんなことやそんなことやこんなこと・・・って・・・!?」
「いや、こんなことはやらせないだろ?」
「それにアスナ、今から一週間・・・って、ほとんど戦いで潰れちゃうんだよ?フザけてる暇なんてないんじゃないかな?」
「・・・ちっ」
ユウトにヒカリ・・・さらりと返せるあたりポイントが高い。
ってなんのポイントだ?
「はぁ・・・本当にこれが最終決戦のブリーフィングなの?緊張感のかけらもないわね」
「仕方ないだろキョウコ。元々の原因を考えてみろ?
直接原因に関わってるのは、シンと俺とユウキと、カナリア(不干渉主義者は問題外)くらいしかいないんだぜ?
おまえらなんかチョコのおまけ以下だ。たったこれだけの人物関係で全世界が巻き込まれるなんていい迷惑じゃないか」
「アスナさん?直接原因になっているあなたが何を言っているのですか?」
「・・・」
トキミがなんだか恐い。
ユウト・・・ちゃんとした女を選んでほしかった・・・。
「へっ、まぁいいか」
「は?」
「いや、なんでも」
「じゃぁ話がまとまったところでご飯にしよう?」
「まぁ・・・それがいいな」
全員が席につく。
――――いやまて。
今発言したのは誰だ?
「ふんふふんふふ〜ん♪」
ヒカリが鼻歌まじりで席を立つ。
ヤ・ヴァ・イ・・・!
「あっと、俺用事思いついた!」
俺は席を立とうとする。
が、肩をヒカリに押さえ付けられた。
「どこいくの?」
「・・・ふっ、決まってるじゃないか。ヒカリの手料理がない世界さ」
「ひどーい。私、そんなに料理下手じゃないよ」
「そ・ん・な・に?」
「・・・すごくだって言うの?」
「わかってるんだな、一応」
「いいもん・・・おいしいって言わせてみせるんだからっ!!」
そう言ってヒカリはキッチンへ消えていく。
「・・・って、だから作るなッ!!」
俺は急いでヒカリを追い掛けたのだった・・・。
「ゆっくりいれるぞ?」
「う、うん・・・」
「大丈夫だ、恐くない。入れてから動かすぞ?」
「きゃっ・・・!」
「だ、大丈夫か?」
「うん・・・ちょっとびっくりしただけ・・・」
「よし、続けるぞ・・・?」
「う、うん・・・」
「そう・・・ちょっとずつ動かして・・・だんだん、速くしたり遅くしたりしていくんだ」
「あっ・・・もぅだめ!アスナが動かして・・・っ!」
「オイオイ、まだ始めたばかりだろ?」
「だって・・・」
「まだまだこれからだろ?」
「でも・・・もうカレーが真っ黒」
「・・・」
カレーですいません。
「はぁ・・・マジかよ」
俺が隣で教えていたというのに、なぜ真っ黒なカレーができあがるのだろうか・・・?
俺が大鍋を覗き込むと、そこにはカレーという名を借りたダークマターができあがっていた。
「むぅ・・・カナリアと違ってヒカリは料理全然ダメダメだな」
「だって・・・エターナルになるまで、料理なんて一回もしたことなかったんだもん」
「エターナルになってから恐ろしい程時間はあっただろうに・・・」
俺は大鍋のカレーを捨てる。
あ〜あ・・・鍋にもギッシリこびりついてるよ・・・。
「うぅ・・・だってぇ〜」
「はい、だだこねない。次成功するように勉強しなさい」
「はぁい・・・」
ゴシゴシ・・・!
力を入れて大鍋にこびりついたカレーを落としていく。
「ねぇアスナ」
「ん?」
ゴシゴシ
「アスナは」
「うん」
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
「料理が」
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
「・・・うるさい」
「え?」
「アスナ、ちょっと手を止めて聞いてよ」
「ん?」
「料理が好きな女性の方が好き?」
「・・・そうだなぁ」
つまりはカナリアかヒカリかという選択だな。
ん〜・・・俺はしばらく考える。
「むむむ・・・」
「・・・」
俺が悩んでいる姿をじーっと見つめるヒカリ。
端から見ればかなり変な光景だ。
「やっぱりできるにこしたことはねーなー。愛妻弁当、みたいなの食べてみたいしな〜。
ま、結婚願望はないんだけど。手料理ってのは惹かれるね」
「やっぱりそっか・・・。なら、やっぱり料理うまくならないと!」
ガッツポーズをするヒカリ。
単純だなぁ・・・。
「で・・・どうしようかねぇ」
食卓でまだかまだかと待っているみなさん。
どうやらヒカリの料理がどんなものかもうお忘れのようで。
君たちの頭は単細胞生物以下ですか。
「仕方ない・・・ヒカリ、あっちいってろ」
「え?」
「俺が料理作るって言ってるんだ。はやくあっちで待ってろ」
「う、うん・・・」
ヒカリを追い出して、俺は残り少なくなった食材を睨む。
「・・・あれかな」
俺は思いついたレシピを復唱しながら、食材を選んでいった・・・。
「・・・」
あと数時間で門が開く。
それをくぐれば・・・オレ達は、シンとの戦いを始める。
ケリをつける・・・。
口で言うのは簡単だが、心が激しくゆれる。
「くそっ・・・」
なんでシンがスフィアの意識を持ってるんだ・・・。
持ってなければ迷うことなんかなかったのに・・・。
俺はまた選択しなくちゃいけないのか・・・。
世界か・・・スフィアか・・・。
意識があるということは、魂が残っているということ。
魂さえあれば、新星は体を構成できるからスフィアは生き返る・・・。
いや、スフィアをただでシンが渡してくれるわけがないな・・・。
そうか・・・スフィアは盾か・・・。
俺が斬ってこないように・・・。
今のカオスに、シンに対抗できるのは・・・いない。
あのローガスでさえ、あの世界で、ユウキの魔力を取り込んだシンと戦えば負けるだろう。
シンめ・・・地の利と契約者の利を見事に活用してやがる・・・。
いや、唯一対抗できるものがいる。
自分で言うのは恥ずかしいが、俺だ。
詳しく言えば新星だ。
カオス・ロウを含めても最長寿のエターナルの俺なら・・・この新星を扱えるはずだ。
今残っているカオス全員と・・・アイツがやってくれれば、きっとシンと対等の力を得られるはずだ。
「・・・?」
物思いに耽っていると、隣にユウトが座った。
「さすがのお前も悩んでるみたいだな」
「・・・まぁな」
「でも・・・お前にしか倒せないんだぜ?」
「わかってるさ」
「・・・でも、その顔は吹っ切れてないな」
「当たり前だ」
だんだんイライラしてくる。
コイツは・・・何が言いたい?
「悪いが言わせてもらう。お前に選択肢はないんだぜ?」
「・・・」
「世界を守るために、お前は今まで戦ってきたんだろ?なら・・・やるしかないだろ?」
「・・・簡単に言うなよ」
俺は語尾を吊り上げていう。
「・・・すまん」
「おまえだって・・・トキミは斬りたくないだろ!?」
「・・・そうだな」
「理屈じゃないんだよ・・・っ!愛している人を斬りたくないのは・・・」
「・・・」
「・・・寝る」
今は誰とも会いたくない、会話したくない・・・。
「逃げるなアスナ」
俺の背中にユウトの声が飛んで来た。
「泣いても、逃げても、何も解決はしない。苦しくても、向き合え」
「お前に何がわかる・・・!?」
情けないのは自分だ。
ユウトを責めても意味がない。
そう・・・わかっているのに、ユウトの言葉がむしょうにむかつく。
「ああ、俺はおまえじゃない。だから、今おまえがどんな気持ちかなんてわからないさ」
「・・・」
「ただ・・・やるしかないのに、いちいち悩むな。全世界を犠牲にするつもりか?」
「うるさいっ!!んなことわかってんだよっ!!」
「いーや!わかってない!!わかってるやつがそんな顔をするかよっ!?」
「おまえこそわかってないっ!愛する人を斬る立場になったことがないお前にこの悩みがわかるかよっ!?
自分が斬られる方がよっぽど楽な痛みを、俺はもう一度受けることになるんだぞ!?
そんな気楽に決められるわけがないだろうがっ!!!」
「わかってるさっ!!オレ達が無力だってことくらいっっっ!!!!」
「ユ・・・ウト・・・?」
泣いてる・・・のか?
「わかってるんだよ・・・っ!また・・・おまえに辛い思いをさせなきゃいけないとか・・・っ!
また頼らなきゃいけないとかっ!!生きているのが、苦しくなるくらいの選択をさせなきゃいけないとかっっっ!!
全部わかってるんだよっ!!」
「ユウト・・・」
「みんな・・・知ってるんだよ・・・シンのことに関しては・・・オレ達が無力なのくらい・・・」
「・・・」
「どうすればいいんだよっ・・・!?おまえはどうしたら気が楽になるんだよ!?」
「・・・」
知るかよ・・・。
戦いの苦しみから逃れられる事なんて・・・できない・・・。
「・・・寝る」
俺はユウトを置いて部屋に戻る。
残りの時間・・・ベッドでゴロゴロしていた。
「ネレイ?」
俺は新星を握って聡明な精霊と会話する。
{なんだ・・・?}
「・・・今の俺で、お前のフルを引き出すことってできる?」
前回の戦いで俺のマナはかなり減っている。
いざというときに、シンにトドメがさせなかったら意味がない。
{・・・全てを代償とすればなんとかなる}
「ってことは・・・死ぬってこと?」
予想できたこと。
だから、別に驚きはない。
{全てを・・・と言った。あなたの存在全てをもらうわ}
「どういうこと・・・?」
{存在をもらう・・・それは、つまり世界から抹消される。エターナルになった時みたいにね}
「っ!つまり・・・俺は消えるのか。みんなから・・・」
これは予想しなかった。
マナだけではもう足らないのだろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
不思議に思っていた。
なぜ、自分にはここまでの力があるのだろうか?
その答えは、神も悪魔ももっていなかった。
―――自分のこの力の意味は?
―――自分の存在の意味は?
ずっとそう思っていた。
だけど、答えはなんてことない。
俺は、『今』を過ごすタメに生まれて来た。
俺は、だから、この力を授かったのだろう。
『今』は大事だよ?
とか、そういう口先だけの警句を振りかざす人もいるけど・・・
その意味を本当にわかってるのだろうか?
たかだが、『自分はやりたいことができなくなった』とか『あの頃こうしてれば』
なんていう後悔でそんな事言ってるなら、それは意味が違うと思う。
大体、それを周囲に言ってもわかるはずがない。
こんなの、他人に教えてもらうことじゃない。
『今』こうして生きていられる事が幸せだって感じられた人が言う言葉だ。
後悔なんていう事で中途半端に悟った感じをしないでほしい。
後悔してる人は、『今』を幸せに生きられない人なんだから。
俺は・・・今まで数え切れない程、人を殺した。
失った仲間も数え切れない。
でも、それを後悔せず、純粋に『今』が俺は好きだ。
ヒカリ、カナリア、テム、ユウト達、ローガス、ラクセル・・・カナリア。
コイツらのおかげで・・・俺は『今』を楽しむ事ができた。
だから・・・俺は、決めたんだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
{今のシンは簡単には止められない。そう・・・精霊の力をフルで引き出すくらいしないとね}
「それでもいいさ」
{いいのか?愛する者からも忘れられるのだぞ?}
ヒカリ・・・カナリア・・・
忘れたくない。忘れてほしくない。
でも・・・それ以上に、俺にはやらなくちゃいけないことがある。
「どの世界の未来も・・・お互いに手を取り、協力し、笑いあう・・・そんなものにするために、俺は剣を振るって来た。
俺が行くことで、それが実現できるのかもしれないなら・・・俺はいくよ」
{・・・}
「まっ・・・俺の最後の役目としてはふさわしいんじゃない?エターナルがいらなくなる世界・・・
きっと、ユウキやローガス達が実現させてくれる。俺は、いい加減バトンタッチしないとな」
そこでけはいを感じた。
後ろを見るとヒカリがいる・・・。
―――――――聞いてたのか。
俺はそう呟いた。
すると、ヒカリは小さく頷く。
「・・・どうせそうだと思った。今のシンに対抗できるのは、アスナしかいないもん」
ヒカリがツカツカ歩いてくる。
その雰囲気から、何を言うかが大体わかる。
「止めないよ?どうせ無駄だってわかってるもん」
「・・・」
「アスナはいつもそう。なんでもないよ?って平気な顔して、どんどん自分を危険な状態へもっていっちゃう。
自分の事がわかってないんでしょ?自分が誰よりも一番危ないってこと、知ってるのに、自分のことをかえりみないもんね」
「はは・・・は」
「なんで?私やカナリアの気持ち、知ってるんでしょ?」
―――なぁヒカリ。ヒカリが今まで生きてきた中で、一番好きな時間っていつだ?
―――え?
―――俺はさ・・・『今』なんだよ。何万年生きてきたかわからないけどさ、『今』が俺の一番なんだよ。
―――アスナ
―――だからヒカリ。俺は、『今』をベストに楽しむために、思った通りに生きてるんだ。
―――それが・・・自分の命を削っても?
―――遅かれ早かれ人間は死ぬ。エターナルも例外じゃない。だったらさ、死ぬ間際に後悔したくないじゃん?
―――そうだね
―――だから、命を削ろうがなんだろうが、『今』の俺にはそれら全てが大事なんだ。
―――うん
―――だから・・・そういうこと。
「だったら・・・私も一緒にいく」
「やっぱり言うと思った。だから・・・俺もそれを止めはしないよ」
「うん♪」
「ヒカリ、一緒にきてほしい。どうなるかはわからないけど・・・あとカナリアも入れて・・・」
「そうだね。3人で世界を守ってみよっか?」
「はは、そうだねっ!」
「あのね、アスナ」
急にしおれるヒカリ。
じっと俺の目を見て、まるで射抜かれたかのような感覚に陥る。
「私が・・・カナリアがいることを忘れないで。ずっとあなたの隣にいること・・・忘れないでよ?」
「・・・ありがとう」
きっと、スフィアのことを言ってるのだろう。
その言葉が、心に染みて行く・・・。
「ヒカリ、俺は・・・君に出会えて良かった」
「私だって、アスナに会えて・・・良かったよ?」
俺達はお互いの温もりを忘れないように、しっかりと抱きあう。
これが・・・おそらく最後の抱擁だろうから。
それは予感ではなく、確信だった。
………………………………………………………………………………………………………………………………
なんで、俺と彼女はこんな事になってしまったのだろう・・・?
そう思うと、俺は激しい悲しみに襲われる。
苦しい・・・。
そんな時、俺は・・・思う。
俺と彼女はこうなる『運命』だったんじゃないか・・・?と
こんなバカな話があるだろうか?
俺は今まで『運命』など信じてなかったのに・・・
ずっとその存在を否定し続けたというのに・・・
『運命』なんて・・・ただの逃げ道にすぎない。
心の苦しみから逃げ出そうとした人間の虚構だ。
なら・・・俺にできることは?
昔の彼女との思い出に浸ること?
違う。
寝ること?
違う。
俺にできることは・・・前に進むことだ。
彼女と・・・ちゃんと向き合うんだ。
俺の頭に彼女との思い出がよみがえってくる。
二度と・・・戻らない日々。
一緒に世界を回った思い出――――
一緒に音楽に浸った思い出――――
一緒に食べ歩きした思い出――――
結婚しようと誓った思い出――――
それら全てと・・・別れを告げなければいけない。
これで・・・
これでいいんだ・・・。
苦しいなら・・・泣けばいい。
でも・・・立ち止まらない。歩み続けるんだ。
俺には・・・まだ、ヒカリとカナリアがいる・・・。
二人も・・・失いたくない、大切な人がいるのだから・・・。
前に進もう。
俺にはそれしかないのだから。心を決めよう。
まずは・・・光の門をくぐるところから!!
…………………………………………………………………………………………………………………………
「ん〜っと・・・」
俺は門の光がおさまったのを感じて目をあける。
「・・・」
もう一度目を閉じた。
あまりに多すぎるミニオン・・・パッと見て200は越えていた。
「目を開けなきゃよかった・・・」
願わくば再び目をあけたときにミニオンがいなくなっていますように・・・。
そんな切な願いも再び目を開けたら裏切られた。
「アスナ、ヒカリ・・・おまえらはいけ」
ユウトが洗礼を構えた。
「ん・・・二人はカナリアを・・・」
「ええ。助けてあげてください」
「「・・・サンキュッ!!」」
俺とヒカリは同時にお礼を言って走りだした。
シンのけはいがする・・・。
しかも、なぜか誰かと戦っているようだ。
「・・・急ぐぞヒカリッ!イヤな予感がする!」
「うん!!」
・
・
・
「はぁあぁっ!!」
カナリアが斬り掛かる。
キィン!!
「ぐっ・・・!」
シンに軽く弾かれ、地面に倒れこんだ。
「カナリア・・・一体どういうつもり?」
「言ったでしょ・・・っ?私は・・・アスナとヒカリといたいって!」
再び立ち上がる。その体にはあちこちに深い傷・・・。
「私を裏切るというの?私から生まれたくせに」
「・・・シンが私の生みの親だろうと関係ない・・・っ!シンは私に何も与えてはくれなかった・・・。
でも、私はアスナとヒカリと会って・・・いろいろなものを見て、得た・・・。
私にとって一番はアスナとヒカリなの。だから・・・私はあなたを倒すわっ!」
バッ!
飛び掛かるカナリア。
だが・・・シンの顔には驚きもなにもない。
「そう・・・」
キィンッ!
簡単にシンが背光を止めた。
「でも・・・彼はあなたを信じてくれるかしら?」
「・・・」
「あなたは一度裏切った。それに・・・彼の大事な仲間も殺した。そんなあなたを彼は受け入れるの?」
「・・・都合のいい考えかもしれないけど・・・きっと、受け入れてくれると思う。
そう信じる。だから・・・まずはあなたを倒すって決めたのっ!!」
「そうすれば彼が私を受け入れてくれるんじゃないか?そんな希望的観測で?
私を倒す?なら・・・消えてもらうしかないわね。天地になるのを邪魔するのだから」
ガシッ!!
「っ!!」
シンはカナリアの首を絞めて持ち上げる。
「っ・・・!」
「どう?苦しいでしょう?全く・・・アスナは本当に迷惑ね」
シンはやれやれ、と首を振る。
「まさかこんなに計画が狂わされるとは思わなかったわ・・・こんなゴミにまで影響するなんて」
「っ!」
カナリアを締め上げる手に力が入る。
カナリアの意識に霞みがかかりはじめた。
「っ!?来た・・・っ!」
シンがカナリアを手放して距離を取る。
ズダァァアアァッ!!!!
突然シンのいた場所に嵐が起こった。
「シン・・・」
「アスナ・・・」
俺はシンを睨む。
一瞥したあと、俺はカナリアの隣にかた膝をつく。
「大丈夫か?」
「へ、平気・・・でも、なんで・・・?」
「なんで助けたかって思ってるの?」
ヒカリがカナリアに笑いかけた。
そんなの当然、とでもいいたいような笑顔だ。
「私もアスナも・・・カナリアが好きだからだよ!」
「ま・・・そーいうこった。恥ずかしいから堂々と言うなヒカリ」
「何言ってるの〜?いわばアスナは二股なんですからね!」
「それでも三人がいいって言ったのはドコのどいつだ?」
「どこのドイツでしょ〜?」
「アスナ・・・ヒカリ・・・なんで・・・?私は・・・シンの道具でしかないのに・・・」
「そんなことないだろ?」
俺はかがんでカナリアと目線をあわせる。
「ホラ、だって君はこんな綺麗な笑顔を持ってる。道具にすぎないなら、なんで笑える?
なんで感情があるの?それは、君が道具じゃない・・・一人の人間だからだよ。だから、俺やヒカリはカナリアが好きなんだ」
俺は立ち上がる。
カナリアに手を差し伸べてカナリアもたつ。
するとカナリアが涙ぐんだ。
「泣くな。泣くのはシンを消したらだ」
「・・・はいっ!」
カナリアが立ち上がる。
そこで俺はふりかえった。
「やぁ、シン。いたのか?」
「・・・白々しいわね」
俺はまるで今気付いたかのようにふるまう。
「でも・・・なんで戦力にならないあなたが来たのかしら?」
「はて・・・?意味がわからないな」
「・・・まさか、忘れたわけじゃないでしょう?」
{アスナ・・・}
女性の・・・スフィアの声・・・。
「顔は素直ね。感情をすぐに教えてくれる」
「・・・」
「アスナ・・・どうするの?」
「どうするもなにもない」
俺は新星を構えて力を解放した。
バキュゥィィィィッ!!!
ものすごい音がしてオーラフォトンが展開された。
ブォォォォッ・・・!
「なに・・・この力!?」
「すごい・・・」
ヒカリとカナリアが呆然とそのオーラフォトンを眺める。
そのオーラフォトンは草木を揺らし、空気を痛いものへと変えていた。
「もう・・・俺とスフィアの日々は帰ってこない。だから・・・すがるのはやめた」
「アスナ・・・」
ヒカリが悲しい目でアスナを見る。
「俺の惚れた女は・・・もういないんだ。それを・・・認めた」
「アスナ・・・」
カナリアが淋しい目でアスナを見る。
二人は思う・・・。
アスナは簡単に言っているが、そのためにはどれだけ苦しんだのだろう?
愛する者を殺され・・・その愛する者と決別するなど・・・。
「ふふっ・・・結局新しい女・・・ってわけね」
「あいにくだが、俺のスフィアはそれでも俺を嫌わなかったもんでね。
だから・・・俺は俺のやり方で生きる。それに・・・おまえは俺に口では勝てないぜ?」
「そう」
「シン・・・今度は封印なんて甘いもんじゃない。完全に消し去ってやるよ」
「天地なんかにはさせない・・・とでも?」
「俺はスフィアにケリをつけるために・・・お前を消す。
天地になろうがなかろうが、俺はスフィアを殺し、今もその幻影で遊んでいるおまえを消したいだけだ。
世界がどうとか、あいにく俺はそれほど立派なエターナルじゃないんでね。それが精一杯なんだよ」
「なら・・・やってみせるのね」
「天地になんかさせない。このまま惨めに消し去ってやる」
「でも・・・私を消していいのかしら?ユウキも一緒に死ぬわ」
出た・・・二つ目の盾。
「ま・・・今まで何度も神剣の精神スパッと斬ってきたから・・・なんとかするさ」
「ふふ・・・その希望的観測が絶望を生み出すこと・・・教えてあげるわ」
ビキィッ!!
シンもオーラフォトンを展開した。
「さっきお前はやっちゃいけねぇことをした。
カナリアは、確かにすぐ殴るし怒るし頑丈でちょっとやそっとじゃ壊れないけどな・・・
それでも、お前はさっき言っちゃいけねぇことを言ったんだ。そのツケも・・・全て払ってもらう!」
「ふふ・・・たかだかコピーにそこまで思い入れするなんてね」
「カナリアはコピーなんかじゃないよ!ね?アスナ」
ヒカリがシンに叫んだ。
俺も大きく頷いて肯定する。
「あぁ、全くだ!シンのコピーがこんなにいいヤツなわけないだろうが!」
「・・・そういう意味じゃなかったんだけど」
「え?そだっけ?」
あぁ・・・こんな時まで緊張感のない俺達・・・。
「シン・・・本当は、カナリアに裏切られたのがまだ理解できないんだろ?」
「当り前じゃない。なんで自分から死ぬ方へつくのかしら?」
「簡単な事だよ。お前には人を惹きつける温かさがない。いわばワンマン社長だ。そんな人間が、誰かに信用されるか?
実力だけで強いヤツってのは、どうせ仲間を利用価値で選んだり、手駒にするために作るんだろ?
そんな傍にいたくもないヤツをクズって言うんだよッ!!!わかったか!?それがお前の傍に誰もいなくなった理由だッ!!!」
「クズですって・・・!?」
「どうせオメーみたいなヤツはわかんねーんだろ!?だから、それを今から教えてやる!!人間の温かさの強さってヤツを!!」
新星にありったけのオーラフォトンを纏わせた。
スフィア・・・
彼女とのケリをつけるために・・・俺は剣を振るう!!
まるで繰り返す機械のような、戦いの連鎖を、憎しみを全てここで切り裂くために!!