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「きゃぁ!!」
「ユウナッ!!でやぁああぁ!!」
ブシャァッ!!
俺はユウナを斬り付けたロウを切り裂く。
「大丈夫か!?」
ユウナは腹を体半分くらいまで深く切り裂かれている。
「へ、平気・・・!それより、急ごう・・・!」
ユウナはテムを背負う。
腹の傷からマナは流れていない・・・。
それを感じて俺もヒカリを背負う。
遠くに神剣の反応がする。
このままでは追い付かれてしまう・・・!
「くっ・・・やべーなコレは・・・」
「えぇ・・・」
俺とユウナはヨロヨロしながら歩いていく。
ユウナも俺もかなり重傷で・・・背中にはヒカリとテム・・・。
あれから絶え間なくロウが襲ってくる。
傷も完璧に癒えたわけではなく、その上寝ている二人を守りながらの戦いは困難を極めた。
今はとりあえず身を隠せる場所を探している。
だが・・・体力が尽きるのが先かロウにまた襲われて死ぬのが先か・・・。
(・・・がんばれ、俺・・・)
これほどまでに劣勢だったとは思わなかった。
仲間が・・・休める居場所がない辛さが痛いほどわかる。
生き残るためには決して歩みを止めてはいけない。
でも・・・歩くのも死ぬほど辛い。
「うっ・・・」
バタッ・・・!
ユウナが倒れた。
背中に乗せていたテムが転がる。
「ユウナッ!がんばれ!」
「ごめ・・・アス・・・ナ・・・」
ユウナの体が薄れていく。
バックリと裂けた腹の傷から大量にマナが流れだす。
「バカッ!死なせて・・・たまるかよ・・・っ!!」
俺は新星を握り締める。
そっと・・・俺の手に触れるユウナ。
「いいってば・・・」
その顔にいつもの元気はない。
もはや・・・虫の息だった。
「ユウキの事・・・お願い・・・」
「ダメだ!ユウナも一緒にだっ!ここで落ちるなんて・・・許さないっ!」
俺は新星に力を込めた。
パァァッとユウナの傷が塞がっていく・・・。
「アス・・・ッ!」
ブザァアァッ!!!
「ぐっ・・・がぁぁ!?」
口から大量の血。
俺とヒカリを貫いた剣・・・。
「くそっ・・・!!」
まさかもう追い付かれたなんて・・・!!
俺はヒカリを投げ降ろしてロウに剣を構えた。
「だぁぁぁあぁ!!」
「ふんっ・・・その程度か!?」
キィンッ!
新星が軽く弾かれた。
「っ!?」
「そこだぁぁあぁぁ!!」
ザパァアアァッ!!
斬られる瞬間がまるでスローのように流れた。
「ぐ・・・がはっ・・・!」
体から容赦なく力が抜けていく。
あぁ・・・以前にもこんなことあったな・・・などと他人ごとのように考える。
突如走る痛みがその考えを現実のものにさせてくれる。
ロウがその槍状の神剣を構えた。
「死ぬ・・・?へっ・・・俺が・・・死ぬ、ワケ・・・ねぇぇ!!」
俺は新星を手放してロウの腹に拳をめりこませた。
ドガァァアァッ!!!
「がぁぁあぁ!!?」
その一撃で何もかもが木っ端微塵に吹き飛んだ。
あっという間にマナに還っていくロウ・・・。
「ぐっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
誰からも力が流れてこない上に、今は負傷しているため新星を使わない方が強い。
ただ、手放すと神剣の力が流れてこないので体の負担は倍増する。
俺はすぐに新星を握って仰向けに倒れた。
「ヒカリに癒しを・・・」
ヒカリの傷を治す。
その温かな光が消えると、俺は疲労で息が荒くなった。
「ふぅ・・・はぁ・・・」
俺はとにかく息を整える。
「ふ・・・ふふふ・・・」
「「!?」」
俺とユウナは同時に戦慄した・・・。
この不気味な笑い声・・・!
「ひ、ヒカリ・・・?」
ヒカリが静かに立った。
「ゴメンな?アスナ」
「・・・!」
目の色がおかしい。
確かヒカリは赤い目をしていた。
なのに・・・
「黒い・・・」
ユウナが呟く。
それだけじゃない・・・雰囲気が違う。
「まさか・・・栄光?」
「はは・・・そうだ。正解」
髪をパサッとかき揚げ、髪をおろすヒカリ・・・いや、栄光。
「何をするつもりだ・・・?」
神剣に貫かれても目が覚めなかった時点で覚悟はしていたが・・・。
それでも、その乗っ取られた姿を見るのは辛い。
「別に?ここであんたとユウナとテムオリンを殺して、シン様のもとへいくだけだ」
「・・・なぜだ?」
「アスナ、ごめんな?・・・強いヤツが好きなんだよ」
「・・・」
単純だな・・・。
でも、行かせるわけにはいかない。
「だったらテメー、一人でいけ。ヒカリを連れていかせるわけにはいかねぇな!」
「大丈夫、ヒカリも行くって言ってるしな」
「は・・・?」
「アスナ、知らなかったのか?ヒカリは随分とあんたのことが好きだったみたいだぜ?」
「・・・そんなの知ってるけど」
おもいきり言ってきたからな。
「そんな好感、程度の気持ちじゃない。もっと大きくて強い気持ち・・・」
「・・・」
俺は栄光をにらみつける。
「それなのに、あんたはカナリアばかり気にしている。
それに苦しんでいたんだよ。どうせあんたは気付かなかっただろうけど」
「ああ。気付かなかったよ」
「・・・」
「でもな・・・気付かないなんて当たり前だ。ヒカリが何もしてこなかったんだから。俺が気付くはずがない」
「ははっ、開き直りか?」
「そう見えるならそう見てろ。でもな、自分から動かないで成功する恋愛なんてねーんだよ。
相手に気付いてほしいなら、恐くても勇気をだして行動しなくちゃいけない。
それをヒカリはしなかった。本当はそこに苦しんでいたはずだ。おまえの言葉に惑わされはしない」
俺は栄光を睨みつけた。
「そうやって・・・俺の心を傷つけるつもりだったんだろ?
自分で自分を責めるようにするために・・・。でも、残念だけどさ、俺はそんなの通用してやれるほど甘くないんだ」
そう言うと、栄光はフッと笑った。
「スフィアという女性から学んだのか?」
「まぁね」
「それにしても・・・はは、本当に人間は不思議だな。心や気持ちにすがっても、
苦しいだけだってわかってるくせに、それをやめられない。いつまでももがき苦しむ・・・たかだか生け贄の存在のくせに」
「神剣の生け贄・・・?」
ユウナが立ち上がる。
まぁ・・・神剣から見れば人間なんてその程度の存在かもな。
「なぜ心とか気持ちとか・・・そんな不確定の物がエターナルでは力になるのかね?」
「栄光・・・どうしてか教えてやろうか?」
「ああ、ぜひとも」
「人間だからだ」
栄光を睨み付け、新星を構えた。
このクソバカ程度なら、この一言で十分黙らせることができた。
「・・・」
「人間だから、何か代えがたい物のために戦う。
人間だから、その気持ちが力になる。人間だから・・・その心が力になる。単純だろ?オレ達が人間だからさ」
「・・・その瞳、とても嫌いだね」
「そう?なら、俺は君の不愉快な顔が見られて嬉しいよ」
「!!」
「オレ達はおまえら神剣が喜ぶために生きてるんじゃない。そんなことのためにエターナルになったんじゃない。
オレ達は、人間らしく生き、戦うためにエターナルになったんだ。
だから思い上がってるテメーみたいな剣の不愉快な顔が見られて、俺はとっても嬉しい」
「アスナぁぁっ!!」
キィンッ!!
新星で振り下ろされる栄光を防ぐ。
ぐっ・・・!
右腕に力が入らない。
「随分余裕なようだけど・・・本当は余力なんてないんじゃねぇか?」
「そうだね・・・でも、おまえを叩き斬る力には十分すぎるさ!!」
バッ!
キィンッ!
オレ達は距離を取る。
腹からドパっとマナが流れ出した。
このままだと・・・あと数分で俺は消える・・・?
「新星ッ!秩序の時の要領だ!精神だけぶった斬るぞっ!!」
{できるのか・・・?今のお前は瀕死なんだぞ!?まずは傷を治せ!!}
「できるかどうかは問題じゃない!やるんだよっ!!でやぁぁあぁっ!!」
俺は栄光に斬り掛かった!
ビギビギィッ!!!
その途端、栄光のまわりに剣が現われる。
「っ!?これは・・・!」
バッ!と飛んでそれを避ける栄光。
「テムッ!ナイスタイミングッ!!」
「しっかり決めてよねっ!!」
伝令を持ってプカプカ浮かんでいるテムにお礼を言った。
「決める・・・っ!!」
「アスナっ!!」
態勢を直せない栄光に斬り掛かる!
「ふっ・・・!」
「!?」
軽く笑って、栄光は体をかがめた。
ブワァアァァアァッッッ!!!!
「っ!?」
俺はすぐさまとびすさる!
突如ヒカリの背中から白い翼が出現した!
それはまばゆい光を放ちながらバサバサと動く。
「それは・・・!」
「知ってるか?ヒカリは人間と鳥人族のハーフだったんだぜ?」
「・・・!」
鳥人族。
それは、ある世界にいた白い翼を持つ人種だ。
「おかげでお約束ながら、人間に嫌われ、鳥人族に嫌われ、家族は居場所を失ったらしい」
「・・・」
「んで、両親はそのストレスから破局し、ヒカリは捨て子となったわけだ。
辛かっただろうなァ・・・。探せば探すほど出てくるぜ?同年代だけでなく、大人、人種・・・
会う人会う人に軽蔑され、嫌われ、ゴミを投げつけられる記憶がさァ!!」
まるでお笑いコントを見ているかのように笑い出す栄光。
「!!」
だが、俺は見た・・・。
その栄光の顔に、涙が流れた瞬間を・・・。
そして、それは面白笑いのではなく・・・ヒカリの、涙だということが・・・わかってしまった。
「まァこの体のおかげでお前に『好きです』の一言も言えなかったんだろうけどなァっ!!
ホント・・・お前は最低だぜ。なんでもわかったフリして、相手の気持ちも考えずに優しくして」
「・・・」
「コイツの嘆きが聞こえるよ。『なんで優しくしたの?なんで傍にいるのよ!?』ってね!!」
「・・・」
俺の新星を握る手が白くなっていく。
「優しさは時に人を深く傷つける。優しくしておけば好感得られるなんて思ってんじゃねぇぞ!」
「栄光」
「なんだよ?」
―――――それ以上ヒカリのことを何か言ったら、消すぞ。
自分でも驚くほど低い声がで出た。
もちろん・・・黙ったからといって見逃すつもりはない。
その一言で、場の雰囲気は完全に・・・。
「・・・!」
瞳孔が開き、口をかたく結ぶ栄光。
「わかんねぇよ。ヒカリがどんな思いをしたとか、どんな過去をもってるとか、そんなのわかんねぇよ」
「・・・」
「だけど、そんなのはヒカリを取り戻してから聞けばいいんだ。
栄光・・・勝手に俺の大事なヤツを傷つけたからには・・・この世から消えてもらう」
「一番傷つけてるのはおまえだろうが!!」
「お前が消えて、ヒカリが出てこないと俺は謝ることさえできないんだよ。だから、失せろ」
「ふっ・・・!お前にヒカリの傷が埋められるとでも?」
「埋めてやる。俺がつけた傷も、過去から引きずってる傷も、たった今お前がつけた傷も、全て埋めてやる」
「口で言うはやすしだな」
「傷は永遠に治らない。でも、その上に蓋をすることができる。『幸せ』という蓋をね。
だから、俺は傷が見えなくなるくらいまで『幸せ』をヒカリに与えつづける。それだけだ」
「できるものならやってみろ・・・!」
「いわれずとも!!!」
俺は栄光にとびかかっていく!
タッ!
相手の動きはすばやく、時々翼が輝くため視界が奪われる。
「!」
ザパッ!!!
翼で急接近してきた栄光に頬を斬られ、血が吹き出す。
「でやあぁぁあぁっ!!」
ピカッ!!!
「!!」
突然翼が光り、視界が奪われる。
再び目をあけると、眼前に栄光がいた。
―――まさに、眼前に。
ブズウゥウゥッッ!!!
「〜〜〜〜ッッッッ!!!!!」
ドボッ・・・!!
俺は目から、使えなくなった眼球をえぐりだす。
「この程度で・・・よくもまぁ」
「くっ・・・!」
まぁいい。
幸いといっていいのか、潰された方の目はすでに新星に作ってもらったやつだ。
後で治せばいい。
それより、油断してる今がチャンスだ!!
俺は新星を突き出す。
そのまま一気に加速した!
「でやぁぁああぁッッ!!!」
「!しまっ・・・!」