…………………………………………………………………………………………………………………………………
「さて・・・面倒だなぁ」
俺はいきなりげんなりする。
目の前には聖賢を構えてやる気であふれているユウト。
「約束してくれたろ?」
「わかってるよ・・・う〜ん、どうしたもんかなぁ・・・」
「どうしたもんかな?って・・・訓練のやり方も考えてなかったのか?」
「ん・・・まぁね。一番楽なのは聖賢をパワーアップさせることなんだけど・・・」
「え!?そんなことできるのか!?」
「まぁね・・・」
俺は適当に頷く。
でも・・・
「ユウト、まだ聖賢使いこなせてないだろ?」
「う・・・」
図星なのか固まるユウト。
「でもまぁ・・・聖賢はまだまだつよくなれるんだけどね・・・」
「え?聖賢もなのか?」
「うん・・・。『洗礼』って剣になれるよ」
「『洗礼』?」
ユウトが聖賢と俺を交互に見つめる。
「別名『ストームブリンガー』。第二位の中で一番強いと言われてる剣だよ」
「そんな剣に聖賢が・・・」
「でもなぁ・・・ユウトには無理なんじゃないか?」
「な、なんでだよ!?」
怒鳴って抗議してくる。
「だってなぁ・・・掘り出せばいくらでも理由はでてくるぞ」
「う・・・そうだけど。これからの戦いのためには」
「力を求めて・・・その後、おまえに何が残る?」
「え・・・?」
ユウトが唖然とする。
「戦いが終わって・・・ただ力のみが残る。おまえはそれをどうするつもりだ?」
「え・・・?力を・・・?」
「ただ力を求めるのもダメだけど・・・目標がない力の方がもっと危険だ。
どんなことになるかわからないからな。ユウト、おまえはなんで力がほしいんだ?」
「・・・そんなの決まってる」
俺の目をみて答えるユウト。
「佳織を・・・全ての世界を守りたいから。あんなシンなんかに壊させない・・・。だから、俺は守る力が欲しい」
「そっか。ならいいかな」
俺はニッと笑う。
コイツの目・・・きっと大丈夫。
「ユウト、これから聖賢の中におくるよ」
俺は新星を構えた。
「え?中って・・・?」
「聖賢の中だよ。そこで・・・聖賢の全てを受けとめるんだ」
「全てを受けとめる・・・?」
「中に入ればわかるよ。それじゃ・・・」
俺は新星を聖賢にあわせた。
「っ!?」
その瞬間、ユウトの意識が消えるのを感じた。
(ガンバレよ・・・ユウト・・・)
・
・
・
「ここが・・・」
俺はあたりを見回す。
いろんな世界、いろんな知識・・・いろんな欲求・・・それらが渦巻く世界。
見ているだけで目がまわる。
「これを全て受け入れろ・・・ってことなのか?」
{ユウトよ・・・}
「聖賢?」
突然聖賢の声がする。
あたりを見回すと、プカプカと聖賢が現れた。
{おぬしは、なぜ全世界を守りたい?}
「は・・・?」
{おぬしは、もっと別の事でエターナルになったのではなかったか?}
「・・・」
{そうコロコロ変わるおぬしに、全てを渡すことなどできぬ}
「・・・」
少し考えてみる。
エターナルになった頃・・・俺はただ、ファンタズマゴリアを守りたい一心だった・・・。
それが今は全世界をかけてシンと戦っている。
俺は・・・変わってしまったのだろうか?
{『洗礼』はおそらく今のカオスの中でも屈指の剣だろう。だからこそ・・・今おぬしに渡すと危険なのだ}
今でもカオスが圧倒的に劣勢だ。
なにより人数が少ない。
とりわけ強いのは
ローガスの『運命』
ユウナの『想い』
テムオリンの『秩序』
トキミの『時詠』
オルファの『再生』
場合によっては最も強いアスナの『新星』改・・・。
第一位が一本、最上位が一本、第二位が二本、第三位が二本・・・そもそも、剣にひきずられている形のエターナルが多すぎる。
俺も含めてだ。
永遠神剣を使いこなせているアスナ達・・・それに比べれば、オレ達はかなり劣っている。
その経験の浅さがカオスの劣勢をより強めている。
「・・・だからこそ、力が欲しいんだけどな」
{・・・おぬしはフラガラックの契約者のような素質がない}
「フラガラック?」
聞き慣れない単語だ。
話からして永遠神剣のことか?
{フラガラックは『新星』改の別名だ。つまり、アスナの事だ}
「あぁ・・・」
アスナは強い。
おそらく、俺が会ったエターナルの中でもとりわけだ。
新星が改になる前は新星が足をひっぱっていたくらいだ。
おそらく、剣なしならローガスと同等以上だろう。
なんであんなに軽いのかは知らないけど。
「たしかに、俺は素質がないかもしれないな・・・」
{・・・}
今考えると・・・さっきの聖賢の質問の答えも出る。
そうだ・・・俺は変わってないんだ・・・。
「俺は変わってない。俺はただ、佳織や・・・大切な仲間を守りたいだけなんだ。失いたくないだけなんだよ」
{・・・}
聖賢は答えない。
だから、一方的に言う。
「俺には素質とか、そういう特別な力はないよ。でも・・・この気持ちだけは誰にも負けないと思ってる」
俺はこぶしを握り締めた。
「こんな曖昧な『気持ち』にすがるなんてって思うかもしれないけどさ・・・。
でも、これが俺が胸を張って言える、一番の『素質』みたいなものだから!
だから・・・俺は力が欲しいんだ。
アセリア達、アスナ達、トキミを失いたくないから。だから・・・俺は戦う。だから聖賢、俺に全てを預けてほしい」
{・・・いいのか?}
「え?」
{全てを受け取る・・・それは、決して明るい部分だけではないぞ?}
「それは・・・?」
{もちろん・・・マナを欲する欲求や、誰かを殺したいという衝動からなにまで・・・それらも受け取るという意味だ}
「・・・!」
そうか・・・聖賢だって永遠神剣なんだ・・・。
当然、『世界』ほどまでじゃないだろうけど、マナを欲しがるだろうし、衝動だってあるだろう。
第二位ともなれば・・・俺に受けられるのか?
求めですら苦労した俺に・・・。
いや、でも・・・。
「大丈夫だ聖賢。心配するな!」
俺は元気良く答えた。
「受けとめてみせるさ!人間の思いの力ってヤツを見せてやるよ」
{・・・そうだな。おぬしはそうして生き残ってきたのだからな・・・。では、ゆくぞ聖賢者ユウト!}
「おう!」
とたんに景色が俺の頭に流れこんでくる。
キィンッ!
キキキキキキィィンッ!!
「ぐっ・・・!?」
いきなり激しい頭痛がした!
しかも、かち割れてしまったんじゃないか、と思うほどの・・・!
(ぐっ・・・!うああぁ!?)
あまりの力の濁流にまるで体が切断されたかのような痛みが走る!
ガクッ・・・!
俺は耐えられなくなり膝をつく。
(まだだ・・・!まだいけるっ!)
俺は自分で鼓舞する。
プツッ・・・
そのとたん、俺の意識が途切れる。
いや・・・体から意識だけが切り離された感じだ。
(うあぁぁ!?)
次々と迫るあらゆるものの濁流に、物事を考える余裕すらない。
ただひたすらに、耐えるだけ・・・。
五感が狂い、生きているのかさえ疑うこの瞬間・・・。
(う・・・おぉぉあぁぁ!!?)
突然意識を揺らす直撃・・・。
それが物理的なものでないのにもかかわらず、ものすごい痛みをともなう。
(ぐっ・・・・!?)
意識が押しつぶされていく感触・・・。
だんだんと迫る意識の壁・・・。
その壁につぶされた時、俺は死ぬと直感した。
なら・・・!
(うぬあぁぁぁ!!!)
俺はひたすらに自分を保ち続ける。
だが・・・
(ぐぬあぁ!!)
とたんに壁が再び迫る。
(うあぁぁ!!ぐぉぉぉぉ!!)
俺が最後の力を込めた。
スパァァアァンッ!!
(・・・)
何かが弾けたとたん、俺は意識を失った。
{よくやった聖賢者ユウト・・・おぬしはこれから・・・『洗礼のユウト』だ}
・
・
・
「ん・・・」
草の香りで目が覚める。
そこは俺がアスナに訓練を頼んだ場所・・・。
「俺は・・・?」
「よっ、洗礼のユウト」
隣にはアスナがいた。
満面の笑顔でコーヒーを飲んでいる。
「洗礼のユウト・・・?」
俺はぼんやりする頭で考える。
俺は最後・・・。
「無事聖賢を全て受けとめたようだな」
「え・・・?」
「ホラ、おまえの新しい剣・・・『洗礼』だ」
アスナに渡された剣・・・確か、ストームブリンガー。
それは、聖賢がそのまま黒くなり、刀身に『永遠』みたいな文字が刻まれている剣・・・。
「これが・・・洗礼」
俺は洗礼を握り締めた。
聖賢よりはるかに強い力を感じる。
{よろしく頼むぞ?洗礼のユウト}
「・・・ああ」
聖賢そのままの声に返事をする。
(・・・ユウキ、絶対に助けてやるからな)
俺の力を信じるんだ。
そして・・・ユウキのことも。
「アスナ・・・サンキュ」
「いいんだ。戦力アップはしなくちゃいけないしな。それに・・・これがユウトに俺ができる最後の事だしな」
アスナはそういって軽く笑った。
(そうだ・・・)
「アスナ・・・いいのか?俺はおまえがいてくれたほうが・・・」
アスナは別部隊のリーダーとなる。
それがローガスの決定・・・。
つまり、お別れだ。
別に死別じゃないのだが・・・今までずっと一緒だった分寂しさを感じる。
「おまえにはおまえのやるべきことがあんだろ?あんまり思い詰めるな。なんとかなるって」
アスナはそういってまた軽く笑う。
なんでコイツはいつも笑っていられるんだろう?
それにその休まる笑顔・・・。
本当にアスナは強い。
「あ、テム」
アスナがテムオリンに声をかける。
俺はまだ慣れないが、テムオリンも随分と変わった。
やっぱり・・・アスナのおかげなのだろう。
「そろそろ時間だよ?いこっ?」
「おう」
アスナはそう言って立ち上がる。
その左腕にテムオリンがくっついた。
かなり・・・違和感が。
「アスナ、また・・・会えるよな?」
「もちろんだ。死ぬつもりもないしな」
そう言って手をヒラヒラ振って歩いていくアスナ・・・。
「死ぬなよ・・・おまえも大事な仲間の一人なんだから・・・。
エターナルの中心であるお前を失うわけにはいかないんだからな・・・?」
・
・
・
「ふわあぁ・・・」
俺はあくびをする。
「アスナ、そういうの抑えてよね」
「すまんなヒカリ。眠くて眠くて・・・」
「・・・」
(しかしなぁ・・・)
なんだかカナリアが最近ちっともしゃべらない。
話しかければ反応してくれるが、どうも・・・おかしい。
たまに見ると、俺を見ていて目があうとふっと逸らす。
むぅ・・・。
「難しい顔してどうしたのだ?アスナ」
「あ、なんでもないよフォルク。あはは・・・」
自分でも笑いに力が入らない。
どうも・・・カナリアが気になるなぁ。
それに・・・背光もしゃべらない。
どうしたんだろ?
(なぁ栄光、おまえ何かしらない?)
{さぁ・・・アスナが連れ戻してから一度もしゃべらないんだよ}
(・・・もしかして・・・なぁ)
{ん?何か心当たりあるのか?}
(いや・・・ちょっとね)
そんな会話も知らず、ヒカリはカナリアに話し掛ける。
「ねぇカナリア、どうしたの?」
「え?なにが・・・?」
「元気ないよ?」
「そんなことない。いつもどおりよ」
そういって目を逸らすカナリア。
それが気に入らないのか回りこむヒカリ。
「ウソつかないでよ。何年カナリアと一緒にいたと思ってるの?」
「・・・」
「カナリア、何を悩んでるの・・・?」
「放っておいて・・・」
「え?」
心配そうに覗き込んだヒカリは、泣いているカナリアを目にした。
その驚きで固まる。
「放っておいてッ!あなたになんかわからない・・・!」
「え・・・?カナリア・・・?」
「あなたみたいなたいして苦労せずに生きてきた人間なんかに・・・!!」
「カナリアッ!」
フォルクがたまらず叫ぶ。
俺はそれを腕で止めた。
(いいから)
(でもっ!!)
「カナリア・・・?」
「そう・・・いつもそう・・・!あなたはいつも何気ない顔で私を・・・それなのに、どうしていつも私が・・・!!」
「ど、どうしたの?カナリア・・・。らしくないよ?」
「らしくない?あなたに私の私らしさがわかるとでも?」
「え・・・?」
「自惚れないで。あなたに私なんかわからない。死んでもわかったつもりになんかならないでっ!!あなたがいなければ・・・!」
「っ・・・!」
ダッと走っていくカナリア。
その場には打ち拉がれたヒカリを残すのみだった・・・。
「一体なんのつもりなんだカナリアは!?」
フォルクが叫ぶ。
まぁ・・・わからなくもない。
「フォルク、落ち着け」
「アスナはどうしてそんな冷静にしていられるのだ!?」
「乙女の涙ってのは理由があるのさ。武器にするため・・・悲しみを捨てるため・・・イロイロ・・・な」
「・・・?」
「とりあえず、ヒカリのトコにいってくる」
「ああ・・・」
ヒカリはすぐに見つかった。
川辺でボーッとしている。
「ヒ〜カリ?」
「アスナ・・・」
俺はヒカリの隣に座る。
「私・・・まちがってたのかな・・・?」
「・・・」
「カナリアがエターナルになったときから一緒にいて・・・。
わかったつもりになってたのかな・・・?あんなに傷ついた顔をしたカナリア・・・初めて見たよ・・・」
「ヒカリは悪くないさ」
「でも・・・」
俺はヒカリの頭を撫でる。
「カナリアはちょっと機嫌が悪かっただけさ。明日になれば、謝ってくるよ」
「そういう感じじゃなかったよ・・・?」
「あのなぁヒカリ」
俺はヒカリを見つめた。
ヒカリの目から続く涙の跡・・・。
「自分をそれ以上傷つけるのはやめろ。そんなことしたって、誰も笑顔にならない。そんなことしたって、誰も幸せにならないよ」
「アスナ・・・」
「俺は、ヒカリに笑ってほしいな。ちょっとクサイセリフだけど、ヒカリは笑顔が一番似合ってる。
だから、俺はもう一度君の笑顔が見たいなぁ」
「・・・もぅ」
クスッと笑うヒカリ。
「そーそー。それでいいんだ。心配事はヒカリが笑ってるうちに片付けてやっからさ。あ〜、柄でもないぜ・・・」
「いまさら・・・何言ってるんだか・・・」
クスクス笑うヒカリ。
「俺はなんのためにいるんだ?」
「え・・・?」
「こういうとき、力になるため・・・だろ?そのために、オレたちは仲間やってるんじゃないか」
「仲間やってるって・・・変な表現」
プッと笑うヒカリ。
「だから・・・任せておけって」
俺はニッと笑って立ち上がる。
「ヒカリが親友だって思っていたのなら、カナリアだってそう思っているはずさ」
「そうかな・・・?」
「だから・・・自分の気持ちに自信を持てって。じゃぁな、早く寝ろよ?」
「うん・・・お願いアスナ。たぶん・・・カナリアを助けられるのは・・・アスナしかいないから・・・」
「女性を助けるのは男の役目っと。じゃな!」
「カ〜ナリア?」
「・・・アスナ」
ちょっとこっちを向く。
長い髪が光を反射して綺麗に輝く・・・。
「おいしょっと」
俺は勝手にカナリアの隣に座る。
「どうしたんだよ?」
「別に・・・」
「別に・・・か。ヒカリ、泣いてたぜ?」
「・・・」
黙って俯くカナリア。
「ワケ・・・話してくれよ?」
「・・・ダメです」
「―――神剣の声が聞こえないって言うのが、そんなに恐いか?」
「っ!!?」
顔でわかる。
図星だったようだ。
「カナリア、自分の口で、声で話してくれ」
「・・・はい」
少しずつ話しだす。
誘拐され、体を改造されてから・・・ずっと神剣の声が聞こえない・・・。
「・・・で、どうしてそれを言えなかったんだ?」
「だって・・・」
カナリアの声が震えている・・・。
「そしたら・・・きっと・・・ヒカリと別れることになるでしょう・・・?」
「は・・・?」
「剣の声も聞こえない私が戦えるわけがない・・・。そうすれば、私だけ残って・・・そしたら・・・私は!」
涙を流しながら訴えるような目で俺を見てくる。
「・・・はぁ」
俺はため息をつく。
そんな・・・そんなことで?
なんて・・・バカなんだ。
「カナリア、おまえバカだろ?」
「なっ・・・!?」
「おまえの役目ってのは、戦うだけなのか?」
「え・・・?」
涙がとまるカナリア。
「俺は違うと思う。カナリアの存在が必要なのは、戦いの時だけじゃないだろ?
ヒカリが笑ってる時、泣いてる時、怒ってる時・・・そういう時にもヒカリにはカナリアが必要だろ?」
「・・・」
結構・・・俺って信頼ないのかもな・・・。
「ヒカリにとってカナリアはなくてはいけない存在なんだよ。
リーダーの俺がそれを知ってる。なら・・・カナリアを残してどこかに行くわけないだろう?」
「アスナ・・・」
「もうちっと・・・俺のこと信じてくれよな?俺だって無駄に生きてたわけじゃないんだ。そのくらいわかる」
「・・・」
俯くカナリア。
今何を思っているのだろう?
「とりあえず、明日謝ろうな?」
「・・・はい!」
元気良く頷くカナリア。
うん、これで安心。
「んじゃ・・・帰るか」
「はい!」
俺を手を取って立ち上がるカナリア。
力強く一歩を踏み出す。
「ふぅ・・・」
なんて単純なすれ違いだったのだろうか・・・。
いや、ケンカなんてそんなもんか・・・。
「ごめんなさい、ヒカリ・・・」
「ううん、いいの!もう・・・大丈夫だから」
ヒカリとカナリアはお互いにはにかんだ笑顔を見せる。
「アスナ!」
「え?」
俺は朝食を食べていた。
バッ!
「ぐべっ・・・!」
突然後ろから抱きつかれる。
「ヒカリ、今食事中なんだが。食事中だぞ?意味わかるか?」
「そんなことどーでもいいの!昨日はありがとね!」
「いんやいんや。それにしても・・・」
案外あたる感触は悪くないな、と。
「いざって時に頼りになるから大好きッ!」
「おう、俺もヒカリは好きだ。ただ・・・食事中は静かにな?」
いつまでも抱きつかれているとどうも・・・食べにくい。
つうか青い青年・・・重複してるな。
ならばドキドキでそれどころではないのだろうが・・・いまさら抱きつかれたくらいじゃなぁ・・・。
{おまえが遊びすぎたせいだな}
(・・・新星、黙ってろ。そういう人気を下げる発言ばっかすんな)・・・
「んじゃ、いくかテム」
「うん!」
「みんな留守番頼むな」
「任せて!」
「心配しなくてもこのくらいはやれるわ」
「そっちこそしっかり頼むぞ?」
俺とテムは拠点を出ていく。
なんでも、新しい永遠神剣が見つかったとかでそれを保護、もといカオスに引き入れなくてはいけない。
まぁ、その役目は俺だからこそ適任なんだろうが。
「アスナ様は永遠神剣に好かれるもんね」
テムがそう呟く。
「剣より女性に好かれたいんだけどな」
そういえば背光にも好かれてたっけな。
今はしゃべらないんだけどさ・・・。
「ロウにいた頃はあなたの存在がとても迷惑だったのに、今では最も心強いんだ」
「はは・・・」
「偉大なる13本も、アスナ様が引き入れたおかげでとっても迷惑したし」
「それを言うなって・・・」
カオスにある偉大なる13本。
つまりはユウト、アセリア、エスペリア、ウルカの神剣。
あれらをカオスに引き入れたのは俺だ。
まぁ聖賢は洗礼になってしまったわけだが。
たぶん・・・俺ではなく新星に惹かれるんだと思う。
原初の剣ということは、親に近い存在なのだから。
「これから迎える剣も新星にくっついてくれるといいんだけどな」
「いざとなったら破壊しちゃえばいいんだよ」
「・・・そうだな」
もしロウにまわるようなら破壊する。
それだけだ。
「これか?」
「らしいけど・・・」
俺とテムの前には一本の杖。
秩序と似てる。
{あなたたちは・・・?}
「君を迎えにきた」
綺麗な女の声。
なんか・・・変。
新星がピクリとも反応しなくなった。
{私を・・・?}
「うん。カオスに力を貸してくれないかな?」
{・・・イヤです}
「・・・」
ビシッと拒否された。
「なんでぇ!?」
{俗物の間に伍するのがイヤだからです。醜い争いを繰り広げる仲間になど・・・}
なるほど・・・。
でも、それで諦める俺じゃない。
「なら、どんな条件を出せば仲間になる?」
{そうですね・・・}
ピキィンッ!
突然後ろが光った。
「なんだ・・・!?」
{その龍を倒したら考えてもいいです}
グォォオォォッ!!!
突然咆哮する龍。
「そんなんでいいのか?」
俺は新星を構えた。
(ん・・・?)
「どうしたの?」
「力が・・・流れてこない。オイ、新星?」
{・・・}
返事がない。
まるで死んでしまったかのように・・・。
{無駄です}
「え・・・?」
{その剣の意志は今私が捕まえています}
「なに・・・?」
{龍に負ければ、新星の意志は崩壊するでしょう。つまり・・・あなたは死ぬ}
「・・・なるほど。逃げ道はナシってわけか」
「アスナ様・・・どうするの?」
「どうするもなにもないさ。龍を倒して新星を返してもらって仲間に引き入れる!」
「で、でも、龍に勝てるの!?」
テムがおどおどしながら言う。
「新星があれば余裕だったけど・・・五分ってとこかな」
「なら私が・・・!」
キィンッ!!
突然テムの体が硬直した。
「っ!?」
{あなたは動いてはいけませんよ?野暮というものです}
「・・・」
「大丈夫だテム。そのかわりさ・・・」
俺はテムに耳打ちした。
「・・・本当にいいの?」
「どっちが早いか勝負だ。俺が龍にやられるか倒すかするのと、テムがそれをするの・・・」
「その勝負、のった!」
「じゃ・・・いくぞっ!!」
俺は龍にとびかかった!
「卑怯だよね〜」
{なんですって・・・?}
私は杖にそう言った。
「何が俗物の間に伍するのがイヤだから・・・なの?今あなたがやっている事こそ、そうじゃないの?」
{っ・・・!}
杖が息を飲む。
「剣が無ければおそらくアスナ様は負けちゃう。そうやって打算的に動いて・・・お笑い草だよね」
{なんですって・・・!?}
杖が怒りだす。
よし・・・この調子。
「でも・・・俗物というのもいいかもしれないよ?」
{え・・・?}
「大切な物を見付けられるから。私も以前はそういう物がバカらしいと思ってたけど」
{・・・}
「でも、それでは何も得られなかったんだよ。
あの子を失った時の感情も、アスナ様とこうして共に行動しているのも・・・絶対に得られなかった。
そして、それらがとても大切な物だって、俗物にいることで知ることができたんだよ」
{・・・}
「アスナ様はそれを誰にでも教えることができるの。説教じゃなく、その生き方でね。
だから・・・私はそれをもっと多くの人に知ってもらいたい・・・伝えたいの」
{・・・そう}
「それをあなたはバカにするつもりなの?それこそ、あなたがバカな証拠だよ。
そうやって物事を偏って見てる・・・。それで俗物の間に伍したくない?えへへ・・・本当に笑っちゃう」
くすくす・・・と笑う。
{・・・で、何が言いたいの?}
「俗物がバカならそれでもいいよ。だから・・・バカになってみない?」
{・・・}
「きっと、そうやって孤独にいるよりもっとたくさんの事を見て、感じることができるよ?」
{あはは・・・!そういうこと・・・?}
「うん!悪い話ではないと思うけど?」
{・・・そうね、確かにそうね!なら・・・協力してあげる}
杖が面白おかしく笑う。
「決まりだねっ!」
{その杖を重ねてくれる?}
「え?」
{あなたと契約してあげるって言ってるの。その杖の精神は斬られてるみたいだしね}
「あ・・・わかったよ!」
そうだったよね・・・秩序はアスナ様に斬られたんだっけ。
私は秩序をその杖に重ねる。
すると二本が光りだし、一つになっていく・・・。
私は光がおさまって一つになった杖を取る。
{よろしくね、テムオリン}
「うんっ!それで、あなたの名前は?」
{永遠神剣第二位『伝令』。そうね・・・伝令使テムオリンって名乗ってくれるかしら?}
「伝令使テムオリンだね?了解っ!!」
{あ、ちなみに私の事をケーリューケイオンって呼ぶ人もいるから、気をつけて}
「ケーリューケイオン?わかったよ」
ふっとアスナさんを見る・・・。
そこには、満面の笑顔で龍の返り血を浴びたアスナさんがいた。
「俺の勝ちだな」
「私の方が早かったよぉ?」
「何言ってるんだ。俺にかかれば龍なんて一撃だもんね。んじゃ・・・帰るかね」
「そうだね!」
・
・
・
………………………………………………………………………………………………………………………………
永遠神剣第二位『洗礼』 別名:ストームブリンガー
ユウトの新しい永遠神剣。第二位の中で最も強い力を持つ。
形状は聖賢と全く同じだが、黒くなり刀身には『永遠』のような文字が刻まれている。
ユウトが聖賢の全てを受け止め、アスナの導きによって現われた。
殺した者を取りこみ、ユウトの活力にするという能力を持つ。
永遠神剣第二位『伝令』 別名:ケーリューケイオン
テムオリンの新しい永遠神剣。形状は『秩序』と同じ。
第二位の中でもかなり上位の力を持っている。
永遠神剣の中で唯一の能力『伝令』を持っている。
世界、生死、国境なんでも越えて人と会話することができる。
永遠神剣第三位改『新星』 別名:フラガラック
アスナの永遠神剣。本来は形状がないが、アスナは剣の形を取らせている。
どんな堅さを持った物でもバターのように斬ることができる。
望めば勝手に手にもぐりこんでくるため、どこにいようと、相手に奪われようと必ず戻ってくる。
また、アンサラー(復讐する者)という異名を持っている。