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「さて・・・面倒だなぁ」

 

 

俺はいきなりげんなりする。

目の前には聖賢を構えてやる気であふれているユウト。

 

 

「約束してくれたろ?」

「わかってるよ・・・う〜ん、どうしたもんかなぁ・・・」

「どうしたもんかな?って・・・訓練のやり方も考えてなかったのか?」

「ん・・・まぁね。一番楽なのは聖賢をパワーアップさせることなんだけど・・・」

 

 

「え!?そんなことできるのか!?」

「まぁね・・・」

 

 

俺は適当に頷く。

でも・・・

 

 

「ユウト、まだ聖賢使いこなせてないだろ?」

「う・・・」

 

 

図星なのか固まるユウト。

 

 

「でもまぁ・・・聖賢はまだまだつよくなれるんだけどね・・・」

「え?聖賢もなのか?」

「うん・・・。『洗礼』って剣になれるよ」

 

 

「『洗礼』?」

 

 

ユウトが聖賢と俺を交互に見つめる。

 

 

「別名『ストームブリンガー』。第二位の中で一番強いと言われてる剣だよ」

 

「そんな剣に聖賢が・・・」

「でもなぁ・・・ユウトには無理なんじゃないか?」

「な、なんでだよ!?」

 

 

怒鳴って抗議してくる。

 

 

「だってなぁ・・・掘り出せばいくらでも理由はでてくるぞ」

 

「う・・・そうだけど。これからの戦いのためには」

「力を求めて・・・その後、おまえに何が残る?」

 

「え・・・?」

 

 

ユウトが唖然とする。

 

 

「戦いが終わって・・・ただ力のみが残る。おまえはそれをどうするつもりだ?」

「え・・・?力を・・・?」

 

 

「ただ力を求めるのもダメだけど・・・目標がない力の方がもっと危険だ。

どんなことになるかわからないからな。ユウト、おまえはなんで力がほしいんだ?」

 

 

「・・・そんなの決まってる」

 

 

俺の目をみて答えるユウト。

 

 

「佳織を・・・全ての世界を守りたいから。あんなシンなんかに壊させない・・・。だから、俺は守る力が欲しい」

「そっか。ならいいかな」

 

 

俺はニッと笑う。

コイツの目・・・きっと大丈夫。

 

 

「ユウト、これから聖賢の中におくるよ」

 

 

俺は新星を構えた。

 

 

「え?中って・・・?」

 

「聖賢の中だよ。そこで・・・聖賢の全てを受けとめるんだ」

「全てを受けとめる・・・?」

「中に入ればわかるよ。それじゃ・・・」

 

俺は新星を聖賢にあわせた。

 

「っ!?」

 

その瞬間、ユウトの意識が消えるのを感じた。

 

(ガンバレよ・・・ユウト・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが・・・」

 

俺はあたりを見回す。

 

いろんな世界、いろんな知識・・・いろんな欲求・・・それらが渦巻く世界。

見ているだけで目がまわる。

 

「これを全て受け入れろ・・・ってことなのか?」

{ユウトよ・・・}

「聖賢?」

 

突然聖賢の声がする。

あたりを見回すと、プカプカと聖賢が現れた。

 

{おぬしは、なぜ全世界を守りたい?}

「は・・・?」

{おぬしは、もっと別の事でエターナルになったのではなかったか?}

「・・・」

 

{そうコロコロ変わるおぬしに、全てを渡すことなどできぬ}

「・・・」

 

 

少し考えてみる。

エターナルになった頃・・・俺はただ、ファンタズマゴリアを守りたい一心だった・・・。

それが今は全世界をかけてシンと戦っている。

俺は・・・変わってしまったのだろうか?

 

 

{『洗礼』はおそらく今のカオスの中でも屈指の剣だろう。だからこそ・・・今おぬしに渡すと危険なのだ}

 

 

今でもカオスが圧倒的に劣勢だ。

なにより人数が少ない。

 

 

とりわけ強いのは

 

ローガスの『運命』

ユウナの『想い』

テムオリンの『秩序』

トキミの『時詠』

オルファの『再生』

場合によっては最も強いアスナの『新星』改・・・。

 

 

第一位が一本、最上位が一本、第二位が二本、第三位が二本・・・そもそも、剣にひきずられている形のエターナルが多すぎる。

俺も含めてだ。

永遠神剣を使いこなせているアスナ達・・・それに比べれば、オレ達はかなり劣っている。

その経験の浅さがカオスの劣勢をより強めている。

 

 

「・・・だからこそ、力が欲しいんだけどな」

{・・・おぬしはフラガラックの契約者のような素質がない}

 

「フラガラック?」

 

 

聞き慣れない単語だ。

話からして永遠神剣のことか?

 

 

{フラガラックは『新星』改の別名だ。つまり、アスナの事だ}

「あぁ・・・」

 

 

アスナは強い。

おそらく、俺が会ったエターナルの中でもとりわけだ。

新星が改になる前は新星が足をひっぱっていたくらいだ。

おそらく、剣なしならローガスと同等以上だろう。

 

なんであんなに軽いのかは知らないけど。

 

 

「たしかに、俺は素質がないかもしれないな・・・」

{・・・}

 

 

今考えると・・・さっきの聖賢の質問の答えも出る。

そうだ・・・俺は変わってないんだ・・・。

 

 

「俺は変わってない。俺はただ、佳織や・・・大切な仲間を守りたいだけなんだ。失いたくないだけなんだよ」

{・・・}

 

 

聖賢は答えない。

だから、一方的に言う。

 

 

「俺には素質とか、そういう特別な力はないよ。でも・・・この気持ちだけは誰にも負けないと思ってる」

 

 

俺はこぶしを握り締めた。

 

 

「こんな曖昧な『気持ち』にすがるなんてって思うかもしれないけどさ・・・。

でも、これが俺が胸を張って言える、一番の『素質』みたいなものだから!

だから・・・俺は力が欲しいんだ。

アセリア達、アスナ達、トキミを失いたくないから。だから・・・俺は戦う。だから聖賢、俺に全てを預けてほしい」

 

 

{・・・いいのか?}

「え?」

{全てを受け取る・・・それは、決して明るい部分だけではないぞ?}

 

「それは・・・?」

{もちろん・・・マナを欲する欲求や、誰かを殺したいという衝動からなにまで・・・それらも受け取るという意味だ}

「・・・!」

 

 

そうか・・・聖賢だって永遠神剣なんだ・・・。

当然、『世界』ほどまでじゃないだろうけど、マナを欲しがるだろうし、衝動だってあるだろう。

第二位ともなれば・・・俺に受けられるのか?

求めですら苦労した俺に・・・。

いや、でも・・・。

 

 

「大丈夫だ聖賢。心配するな!」

 

俺は元気良く答えた。

 

「受けとめてみせるさ!人間の思いの力ってヤツを見せてやるよ」

 

{・・・そうだな。おぬしはそうして生き残ってきたのだからな・・・。では、ゆくぞ聖賢者ユウト!}

「おう!」

 

とたんに景色が俺の頭に流れこんでくる。

 

キィンッ!

キキキキキキィィンッ!!

 

 

「ぐっ・・・!?」

 

いきなり激しい頭痛がした!

しかも、かち割れてしまったんじゃないか、と思うほどの・・・!

 

 

(ぐっ・・・!うああぁ!?)

 

 

あまりの力の濁流にまるで体が切断されたかのような痛みが走る!

 

ガクッ・・・!

俺は耐えられなくなり膝をつく。

 

 

(まだだ・・・!まだいけるっ!)

 

 

俺は自分で鼓舞する。

 

プツッ・・・

そのとたん、俺の意識が途切れる。

いや・・・体から意識だけが切り離された感じだ。

 

 

(うあぁぁ!?)

 

 

次々と迫るあらゆるものの濁流に、物事を考える余裕すらない。

ただひたすらに、耐えるだけ・・・。

五感が狂い、生きているのかさえ疑うこの瞬間・・・。

 

 

(う・・・おぉぉあぁぁ!!?)

 

 

突然意識を揺らす直撃・・・。

それが物理的なものでないのにもかかわらず、ものすごい痛みをともなう。

 

 

(ぐっ・・・・!?)

 

 

意識が押しつぶされていく感触・・・。

だんだんと迫る意識の壁・・・。

その壁につぶされた時、俺は死ぬと直感した。

なら・・・!

 

 

(うぬあぁぁぁ!!!)

 

 

俺はひたすらに自分を保ち続ける。

だが・・・

 

 

(ぐぬあぁ!!)

 

 

とたんに壁が再び迫る。

 

 

(うあぁぁ!!ぐぉぉぉぉ!!)

 

 

俺が最後の力を込めた。

 

スパァァアァンッ!!

 

 

(・・・)

 

 

何かが弾けたとたん、俺は意識を失った。

 

{よくやった聖賢者ユウト・・・おぬしはこれから・・・『洗礼のユウト』だ}

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・」

 

草の香りで目が覚める。

そこは俺がアスナに訓練を頼んだ場所・・・。

 

「俺は・・・?」

「よっ、洗礼のユウト」

 

隣にはアスナがいた。

満面の笑顔でコーヒーを飲んでいる。

 

「洗礼のユウト・・・?」

 

俺はぼんやりする頭で考える。

俺は最後・・・。

 

「無事聖賢を全て受けとめたようだな」

「え・・・?」

「ホラ、おまえの新しい剣・・・『洗礼』だ」

 

 

アスナに渡された剣・・・確か、ストームブリンガー。

それは、聖賢がそのまま黒くなり、刀身に『永遠』みたいな文字が刻まれている剣・・・。

 

 

「これが・・・洗礼」

 

俺は洗礼を握り締めた。

聖賢よりはるかに強い力を感じる。

 

 

{よろしく頼むぞ?洗礼のユウト}

「・・・ああ」

 

 

聖賢そのままの声に返事をする。

 

(・・・ユウキ、絶対に助けてやるからな)

 

俺の力を信じるんだ。

そして・・・ユウキのことも。

 

 

「アスナ・・・サンキュ」

「いいんだ。戦力アップはしなくちゃいけないしな。それに・・・これがユウトに俺ができる最後の事だしな」

 

アスナはそういって軽く笑った。

 

(そうだ・・・)

 

「アスナ・・・いいのか?俺はおまえがいてくれたほうが・・・」

 

 

アスナは別部隊のリーダーとなる。

それがローガスの決定・・・。

つまり、お別れだ。

別に死別じゃないのだが・・・今までずっと一緒だった分寂しさを感じる。

 

 

「おまえにはおまえのやるべきことがあんだろ?あんまり思い詰めるな。なんとかなるって」

 

 

アスナはそういってまた軽く笑う。

なんでコイツはいつも笑っていられるんだろう?

それにその休まる笑顔・・・。

本当にアスナは強い。

 

「あ、テム」

 

アスナがテムオリンに声をかける。

俺はまだ慣れないが、テムオリンも随分と変わった。

 

やっぱり・・・アスナのおかげなのだろう。

 

 

「そろそろ時間だよ?いこっ?」

「おう」

 

アスナはそう言って立ち上がる。

その左腕にテムオリンがくっついた。

かなり・・・違和感が。

 

 

「アスナ、また・・・会えるよな?」

「もちろんだ。死ぬつもりもないしな」

 

そう言って手をヒラヒラ振って歩いていくアスナ・・・。

 

 

「死ぬなよ・・・おまえも大事な仲間の一人なんだから・・・。

エターナルの中心であるお前を失うわけにはいかないんだからな・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわあぁ・・・」

 

俺はあくびをする。

 

「アスナ、そういうの抑えてよね」

「すまんなヒカリ。眠くて眠くて・・・」

 

「・・・」

 

(しかしなぁ・・・)

 

 

なんだかカナリアが最近ちっともしゃべらない。

話しかければ反応してくれるが、どうも・・・おかしい。

たまに見ると、俺を見ていて目があうとふっと逸らす。

むぅ・・・。

 

 

「難しい顔してどうしたのだ?アスナ」

「あ、なんでもないよフォルク。あはは・・・」

 

 

自分でも笑いに力が入らない。

どうも・・・カナリアが気になるなぁ。

それに・・・背光もしゃべらない。

どうしたんだろ?

 

 

(なぁ栄光、おまえ何かしらない?)

{さぁ・・・アスナが連れ戻してから一度もしゃべらないんだよ}

 

(・・・もしかして・・・なぁ)

{ん?何か心当たりあるのか?}

(いや・・・ちょっとね)

 

そんな会話も知らず、ヒカリはカナリアに話し掛ける。

 

 

「ねぇカナリア、どうしたの?」

「え?なにが・・・?」

「元気ないよ?」

「そんなことない。いつもどおりよ」

 

そういって目を逸らすカナリア。

それが気に入らないのか回りこむヒカリ。

 

 

「ウソつかないでよ。何年カナリアと一緒にいたと思ってるの?」

「・・・」

「カナリア、何を悩んでるの・・・?」

 

「放っておいて・・・」

 

「え?」

 

心配そうに覗き込んだヒカリは、泣いているカナリアを目にした。

その驚きで固まる。

 

 

「放っておいてッ!あなたになんかわからない・・・!」

「え・・・?カナリア・・・?」

「あなたみたいなたいして苦労せずに生きてきた人間なんかに・・・!!」

「カナリアッ!」

 

フォルクがたまらず叫ぶ。

俺はそれを腕で止めた。

 

 

(いいから)

(でもっ!!)

 

 

「カナリア・・・?」

「そう・・・いつもそう・・・!あなたはいつも何気ない顔で私を・・・それなのに、どうしていつも私が・・・!!」

「ど、どうしたの?カナリア・・・。らしくないよ?」

「らしくない?あなたに私の私らしさがわかるとでも?」

 

「え・・・?」

 

 

「自惚れないで。あなたに私なんかわからない。死んでもわかったつもりになんかならないでっ!!あなたがいなければ・・・!」

 

 

「っ・・・!」

 

ダッと走っていくカナリア。

その場には打ち拉がれたヒカリを残すのみだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体なんのつもりなんだカナリアは!?」

 

フォルクが叫ぶ。

まぁ・・・わからなくもない。

 

 

「フォルク、落ち着け」

「アスナはどうしてそんな冷静にしていられるのだ!?」

「乙女の涙ってのは理由があるのさ。武器にするため・・・悲しみを捨てるため・・・イロイロ・・・な」

「・・・?」

「とりあえず、ヒカリのトコにいってくる」

「ああ・・・」

 

ヒカリはすぐに見つかった。

川辺でボーッとしている。

 

 

「ヒ〜カリ?」

「アスナ・・・」

 

俺はヒカリの隣に座る。

 

「私・・・まちがってたのかな・・・?」

「・・・」

 

 

「カナリアがエターナルになったときから一緒にいて・・・。

わかったつもりになってたのかな・・・?あんなに傷ついた顔をしたカナリア・・・初めて見たよ・・・」

 

 

「ヒカリは悪くないさ」

「でも・・・」

 

俺はヒカリの頭を撫でる。

 

 

「カナリアはちょっと機嫌が悪かっただけさ。明日になれば、謝ってくるよ」

「そういう感じじゃなかったよ・・・?」

「あのなぁヒカリ」

 

俺はヒカリを見つめた。

ヒカリの目から続く涙の跡・・・。

 

 

「自分をそれ以上傷つけるのはやめろ。そんなことしたって、誰も笑顔にならない。そんなことしたって、誰も幸せにならないよ」

「アスナ・・・」

 

 

「俺は、ヒカリに笑ってほしいな。ちょっとクサイセリフだけど、ヒカリは笑顔が一番似合ってる。

だから、俺はもう一度君の笑顔が見たいなぁ」

 

 

「・・・もぅ」

 

クスッと笑うヒカリ。

 

 

「そーそー。それでいいんだ。心配事はヒカリが笑ってるうちに片付けてやっからさ。あ〜、柄でもないぜ・・・」

「いまさら・・・何言ってるんだか・・・」

 

クスクス笑うヒカリ。

 

 

「俺はなんのためにいるんだ?」

「え・・・?」

「こういうとき、力になるため・・・だろ?そのために、オレたちは仲間やってるんじゃないか」

「仲間やってるって・・・変な表現」

 

プッと笑うヒカリ。

 

「だから・・・任せておけって」

 

俺はニッと笑って立ち上がる。

 

 

「ヒカリが親友だって思っていたのなら、カナリアだってそう思っているはずさ」

「そうかな・・・?」

 

「だから・・・自分の気持ちに自信を持てって。じゃぁな、早く寝ろよ?」

「うん・・・お願いアスナ。たぶん・・・カナリアを助けられるのは・・・アスナしかいないから・・・」

「女性を助けるのは男の役目っと。じゃな!」

 

 

 

 

 

 

「カ〜ナリア?」

「・・・アスナ」

 

ちょっとこっちを向く。

長い髪が光を反射して綺麗に輝く・・・。

 

「おいしょっと」

 

俺は勝手にカナリアの隣に座る。

 

 

「どうしたんだよ?」

「別に・・・」

「別に・・・か。ヒカリ、泣いてたぜ?」

「・・・」

 

黙って俯くカナリア。

 

 

「ワケ・・・話してくれよ?」

「・・・ダメです」

 

 

 

「―――神剣の声が聞こえないって言うのが、そんなに恐いか?」

 

 

 

「っ!!?」

 

顔でわかる。

図星だったようだ。

 

 

「カナリア、自分の口で、声で話してくれ」

「・・・はい」

 

少しずつ話しだす。

誘拐され、体を改造されてから・・・ずっと神剣の声が聞こえない・・・。

 

 

「・・・で、どうしてそれを言えなかったんだ?」

「だって・・・」

 

カナリアの声が震えている・・・。

 

 

「そしたら・・・きっと・・・ヒカリと別れることになるでしょう・・・?」

「は・・・?」

「剣の声も聞こえない私が戦えるわけがない・・・。そうすれば、私だけ残って・・・そしたら・・・私は!」

 

涙を流しながら訴えるような目で俺を見てくる。

 

「・・・はぁ」

 

 

俺はため息をつく。

そんな・・・そんなことで?

なんて・・・バカなんだ。

 

 

「カナリア、おまえバカだろ?」

「なっ・・・!?」

「おまえの役目ってのは、戦うだけなのか?」

「え・・・?」

 

涙がとまるカナリア。

 

 

「俺は違うと思う。カナリアの存在が必要なのは、戦いの時だけじゃないだろ?

ヒカリが笑ってる時、泣いてる時、怒ってる時・・・そういう時にもヒカリにはカナリアが必要だろ?」

 

 

「・・・」

 

結構・・・俺って信頼ないのかもな・・・。

 

 

「ヒカリにとってカナリアはなくてはいけない存在なんだよ。

リーダーの俺がそれを知ってる。なら・・・カナリアを残してどこかに行くわけないだろう?」

 

 

「アスナ・・・」

「もうちっと・・・俺のこと信じてくれよな?俺だって無駄に生きてたわけじゃないんだ。そのくらいわかる」

「・・・」

 

俯くカナリア。

今何を思っているのだろう?

 

 

「とりあえず、明日謝ろうな?」

「・・・はい!」

 

元気良く頷くカナリア。

うん、これで安心。

 

 

「んじゃ・・・帰るか」

「はい!」

 

俺を手を取って立ち上がるカナリア。

力強く一歩を踏み出す。

 

「ふぅ・・・」

 

なんて単純なすれ違いだったのだろうか・・・。

いや、ケンカなんてそんなもんか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、ヒカリ・・・」

「ううん、いいの!もう・・・大丈夫だから」

 

ヒカリとカナリアはお互いにはにかんだ笑顔を見せる。

 

 

「アスナ!」

「え?」

 

俺は朝食を食べていた。

 

バッ!

 

「ぐべっ・・・!」

 

突然後ろから抱きつかれる。

 

 

「ヒカリ、今食事中なんだが。食事中だぞ?意味わかるか?」

「そんなことどーでもいいの!昨日はありがとね!」

「いんやいんや。それにしても・・・」

 

案外あたる感触は悪くないな、と。

 

 

「いざって時に頼りになるから大好きッ!」

「おう、俺もヒカリは好きだ。ただ・・・食事中は静かにな?」

 

 

いつまでも抱きつかれているとどうも・・・食べにくい。

つうか青い青年・・・重複してるな。

ならばドキドキでそれどころではないのだろうが・・・いまさら抱きつかれたくらいじゃなぁ・・・。

 

 

{おまえが遊びすぎたせいだな}

 

(・・・新星、黙ってろ。そういう人気を下げる発言ばっかすんな)・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、いくかテム」

「うん!」

「みんな留守番頼むな」

 

「任せて!」

「心配しなくてもこのくらいはやれるわ」

「そっちこそしっかり頼むぞ?」

 

 

俺とテムは拠点を出ていく。

なんでも、新しい永遠神剣が見つかったとかでそれを保護、もといカオスに引き入れなくてはいけない。

まぁ、その役目は俺だからこそ適任なんだろうが。

 

 

「アスナ様は永遠神剣に好かれるもんね」

 

テムがそう呟く。

 

 

「剣より女性に好かれたいんだけどな」

 

そういえば背光にも好かれてたっけな。

今はしゃべらないんだけどさ・・・。

 

 

「ロウにいた頃はあなたの存在がとても迷惑だったのに、今では最も心強いんだ」

「はは・・・」

「偉大なる13本も、アスナ様が引き入れたおかげでとっても迷惑したし」

「それを言うなって・・・」

 

 

カオスにある偉大なる13本。

つまりはユウト、アセリア、エスペリア、ウルカの神剣。

あれらをカオスに引き入れたのは俺だ。

まぁ聖賢は洗礼になってしまったわけだが。

 

たぶん・・・俺ではなく新星に惹かれるんだと思う。

原初の剣ということは、親に近い存在なのだから。

 

 

「これから迎える剣も新星にくっついてくれるといいんだけどな」

「いざとなったら破壊しちゃえばいいんだよ」

「・・・そうだな」

 

もしロウにまわるようなら破壊する。

それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これか?」

「らしいけど・・・」

 

俺とテムの前には一本の杖。

秩序と似てる。

 

 

{あなたたちは・・・?}

「君を迎えにきた」

 

 

綺麗な女の声。

なんか・・・変。

新星がピクリとも反応しなくなった。

 

 

{私を・・・?}

「うん。カオスに力を貸してくれないかな?」

 

{・・・イヤです}

 

「・・・」

 

ビシッと拒否された。

 

 

「なんでぇ!?」

{俗物の間に伍するのがイヤだからです。醜い争いを繰り広げる仲間になど・・・}

 

なるほど・・・。

でも、それで諦める俺じゃない。

 

 

「なら、どんな条件を出せば仲間になる?」

{そうですね・・・}

 

 

ピキィンッ!

突然後ろが光った。

 

「なんだ・・・!?」

{その龍を倒したら考えてもいいです}

 

グォォオォォッ!!!

 

突然咆哮する龍。

 

「そんなんでいいのか?」

 

俺は新星を構えた。

 

(ん・・・?)

 

「どうしたの?」

「力が・・・流れてこない。オイ、新星?」

 

{・・・}

 

返事がない。

まるで死んでしまったかのように・・・。

 

{無駄です}

「え・・・?」

 

{その剣の意志は今私が捕まえています}

 

「なに・・・?」

 

 

 

{龍に負ければ、新星の意志は崩壊するでしょう。つまり・・・あなたは死ぬ}

「・・・なるほど。逃げ道はナシってわけか」

「アスナ様・・・どうするの?」

「どうするもなにもないさ。龍を倒して新星を返してもらって仲間に引き入れる!」

「で、でも、龍に勝てるの!?」

 

 

テムがおどおどしながら言う。

 

 

「新星があれば余裕だったけど・・・五分ってとこかな」

「なら私が・・・!」

 

 

キィンッ!!

突然テムの体が硬直した。

 

 

「っ!?」

{あなたは動いてはいけませんよ?野暮というものです}

「・・・」

「大丈夫だテム。そのかわりさ・・・」

 

俺はテムに耳打ちした。

 

 

「・・・本当にいいの?」

「どっちが早いか勝負だ。俺が龍にやられるか倒すかするのと、テムがそれをするの・・・」

「その勝負、のった!」

「じゃ・・・いくぞっ!!」

 

俺は龍にとびかかった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「卑怯だよね〜」

{なんですって・・・?}

 

私は杖にそう言った。

 

 

「何が俗物の間に伍するのがイヤだから・・・なの?今あなたがやっている事こそ、そうじゃないの?」

{っ・・・!}

 

杖が息を飲む。

 

 

「剣が無ければおそらくアスナ様は負けちゃう。そうやって打算的に動いて・・・お笑い草だよね」

{なんですって・・・!?}

 

杖が怒りだす。

よし・・・この調子。

 

 

「でも・・・俗物というのもいいかもしれないよ?」

{え・・・?}

「大切な物を見付けられるから。私も以前はそういう物がバカらしいと思ってたけど」

{・・・}

 

 

「でも、それでは何も得られなかったんだよ。

あの子を失った時の感情も、アスナ様とこうして共に行動しているのも・・・絶対に得られなかった。

そして、それらがとても大切な物だって、俗物にいることで知ることができたんだよ」

 

 

{・・・}

 

 

「アスナ様はそれを誰にでも教えることができるの。説教じゃなく、その生き方でね。

だから・・・私はそれをもっと多くの人に知ってもらいたい・・・伝えたいの」

 

 

{・・・そう}

 

 

「それをあなたはバカにするつもりなの?それこそ、あなたがバカな証拠だよ。

そうやって物事を偏って見てる・・・。それで俗物の間に伍したくない?えへへ・・・本当に笑っちゃう」

 

 

くすくす・・・と笑う。

 

{・・・で、何が言いたいの?}

 

「俗物がバカならそれでもいいよ。だから・・・バカになってみない?」

{・・・}

「きっと、そうやって孤独にいるよりもっとたくさんの事を見て、感じることができるよ?」

 

 

{あはは・・・!そういうこと・・・?}

「うん!悪い話ではないと思うけど?」

{・・・そうね、確かにそうね!なら・・・協力してあげる}

 

杖が面白おかしく笑う。

 

 

「決まりだねっ!」

{その杖を重ねてくれる?}

「え?」

{あなたと契約してあげるって言ってるの。その杖の精神は斬られてるみたいだしね}

「あ・・・わかったよ!」

 

 

そうだったよね・・・秩序はアスナ様に斬られたんだっけ。

私は秩序をその杖に重ねる。

すると二本が光りだし、一つになっていく・・・。

私は光がおさまって一つになった杖を取る。

 

 

{よろしくね、テムオリン}

「うんっ!それで、あなたの名前は?」

{永遠神剣第二位『伝令』。そうね・・・伝令使テムオリンって名乗ってくれるかしら?}

 

 

「伝令使テムオリンだね?了解っ!!」

{あ、ちなみに私の事をケーリューケイオンって呼ぶ人もいるから、気をつけて}

「ケーリューケイオン?わかったよ」

 

 

ふっとアスナさんを見る・・・。

そこには、満面の笑顔で龍の返り血を浴びたアスナさんがいた。

 

 

「俺の勝ちだな」

「私の方が早かったよぉ?」

「何言ってるんだ。俺にかかれば龍なんて一撃だもんね。んじゃ・・・帰るかね」

「そうだね!」

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永遠神剣第二位『洗礼』  別名:ストームブリンガー

ユウトの新しい永遠神剣。第二位の中で最も強い力を持つ。

形状は聖賢と全く同じだが、黒くなり刀身には『永遠』のような文字が刻まれている。

ユウトが聖賢の全てを受け止め、アスナの導きによって現われた。

殺した者を取りこみ、ユウトの活力にするという能力を持つ。

 

 

永遠神剣第二位『伝令』  別名:ケーリューケイオン

テムオリンの新しい永遠神剣。形状は『秩序』と同じ。

第二位の中でもかなり上位の力を持っている。

永遠神剣の中で唯一の能力『伝令』を持っている。

世界、生死、国境なんでも越えて人と会話することができる。

 

 

永遠神剣第三位改『新星』  別名:フラガラック

アスナの永遠神剣。本来は形状がないが、アスナは剣の形を取らせている。

どんな堅さを持った物でもバターのように斬ることができる。

望めば勝手に手にもぐりこんでくるため、どこにいようと、相手に奪われようと必ず戻ってくる。

また、アンサラー(復讐する者)という異名を持っている。