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そして、ユウト達と合流・・・。
「なぁユウト、気になっている単語があるんだけど」
「ん?なんだ?」
「この体育館とやらでやる、『ユミのライブ』ってなんだ?」
「あぁ・・・それは、アイドルのユミってヤツのライブがあるんだよ」
「アイドル?ライブ?」
「んーっと・・・その可愛さを売りにして生計をたてている人がアイドルで、歌って踊るのがライブかな」
「なるほど!じゃぁさっそくいこう!カワイイんだろ?」
「あ、おい待てよ!!」
・
・
・
アスナを見失って体育館で探す。
「ここに来てるはずなんだけどな・・・」
ユウトは首をぐるりと回すが、どこにも見当らない。
というか・・・熱狂ですごいことになっている。
「ユート・・・人が、すごい・・・」
アセリア達初めて組は呆然とその様子を眺める。
というか・・・耳をギリギリまで近付けないとアセリアの声が聞こえない。
その時・・・
『ユ〜ミ〜!!アイラ〜ヴユ〜ッッ!!!』
聞き慣れた声がした。
「アスナ・・・」
ヒカリやカナリアはげんなりとその様子を見ている。
そこには・・・すっかりアイドルの親衛隊になってしまったアスナの姿・・・。
その姿はエターナルとは思えない。
いや・・・エターナルが落ち着いているというのは偏見か。
オルファとかがいい例だ。
「・・・先に出てるか」
「そうですね・・・」
「全くもう・・・アスナさんは・・・」
エスペリアとトキミも賛成し、オレ達はアスナを置いて体育館を出た・・・。
「惚れたぜ、ユミ」
「いきなり何を言い出すアスナ?」
フォルクに引かれてしまうが気にしない。
「いやぁ、可愛いし、歌うまいし、踊り格好いいし・・・なぁユウト、アイドルっていうのはあの子だけなのか?」
「いや・・・他にもいっぱいいるけど、ここに来てるのはユミだけだろうな」
「な〜んだ・・・」
「そこまで残念がるなよ・・・俺から見ればヒカリやカナリアだってかなりイイ線だと思うんだけど」
「ユウトはわかってないな」
俺はチッチッと指をふる。
「あの二人はたしかに可愛い。でも、それだけだ。カナリアなんてしょっちゅう俺の事を・・・」
「俺のことを?」
ユウトはなんだかクスクス笑っている。
ん・・・?
まぁいい。
「俺のことをいつも半殺しにする狂暴なエターナルだ。
ヒカリは優しいけど、でも勢いというかそれが足りない。まぁ・・・ヒカリかカナリアならヒカリだよなぁ!」
「ふぅ〜ん・・・私はそこまで狂暴なんですか・・・?」
「そりゃそうだろ・・・って、ユウトバリアッッ!!」
「っ!?」
ズガァァッ!!
俺は瞬時にユウトと立ち位置を交換した。
すると背光がユウトを直撃してユウトが倒れる。
「ふぅ・・・危ない危ない」
「ユウトッ!なんてこと・・・!」
本当になんてことを・・・どくどく血を流してるぞ・・・。
つうか自分でやってくせに。
「アスナッ!!」
「なんでそこで俺かなぁ!?カナリアがやったんじゃないか!!」
「でやぁぁ!!」
「うわっ!」
ブンッ!
背光が俺の髪の毛を少し切り落とした。
「やめろバカっ!人が見るかもしれないのに剣を出すなッ!!」
「天誅〜〜ッッッ!!!」
・
・
・
「本当にこどもですねっ!」
「ええ・・・全く・・・って、何を普通に会話しているのですか!?」
トキミが隣のテムに怒鳴る。
「私はアスナ様の仲間だもん。
なら・・・今までやってたことを忘れてほしいとは言わないけど、トキミさんとも仲間ってことなんだよ」
「・・・ふ、ふん!いまさら改心しても・・・」
トキミは呆気に取られながらも意地を張る。
「やってしまったことは忘れない・・・。だから・・・アスナ様の下で戦っているんだよっ?」
「・・・うぅ、調子が狂う・・・」
トキミはいつものやりとりができなくてうめく。
『どうしようどうしよう!?』
「え?」
「ん?どうしたのアスナ?」
俺は何か困っている女性の声が聞こえた気がして辺りを見回す。
ヒカリも自然とそれにならう。
「あ、あそこだ」
「え?」
体育館の裏のところで、5人くらいの女子生徒が困っているようだ。
「これは助けにいかねば!」
「あ、アスナッ!もう!」
・
・
・
「どうしたの?」
「え・・・?」
俺はいたって紳士的な態度で話し掛ける。
「何かお困りのようですね?」
「あ、はい・・・実は・・・」
ある女子が手を見せる。
手が白い布でまかれていた。
「これは?」
「えと・・・合奏部なんですけど、ピアノ担当のこの子が怪我しちゃって・・・」
「え、えと?」
ピアノ?
合奏?
いや、まて・・・
「音楽?」
「え?はい・・・そうですけど」
(音楽なら・・・)
音楽は・・・アイツと付き合っていたころに何度かあちこちの世界を回ったはずだから・・・。
確か、合奏ってのはいろんな楽器をあわせて演奏することだろ?
ピアノ・・・は、たぶん、手で弾く楽器だろうな。
「それで・・・ピアノのパートがない?」
「そうなんです・・・。そうしたら、曲がしまらなくなってしまって・・・」
「ふぅむ・・・」
エスペリアを呼んで治してもらえばいいんだけど・・・この世界のマナは薄いからなぁ・・・。
ローガスはギリギリ滞在分しかマナ入れてくれなかったから・・・力使うとマズいかもしれない。
そもそも、人間にきくかもわからないな・・・。
「困りました・・・」
5人が意気消沈する。
「ねぇアスナ、何の話だったの?」
「あぁ・・・つまりは、一つパートができなくて演奏ができないらしいんだ」
「そっか・・・」
オレ達も一緒に悩む・・・。
あ、そうだ。
「ピアノって見せてくれないかな?」
「え・・・?」
・
・
・
「へぇ・・・これがか」
黒く大きな楽器・・・。
移動するのにも一苦労しそうだ。
俺はイスに座って鍵盤を見る。
(この形・・・イチェリアと同じだ)
イチェリアとは俺がトキミ達と出会った世界で生まれた楽器だ。
全く同じ形をしている。
俺は一つずつ音を確かめていく・・・。
(・・・できるかもしれない)
「楽譜かして」
「え?あ・・・はい」
(む・・・?)
「悪い、楽譜の読み方教えてくれ・・・」
しまった。
楽譜までは一緒じゃないようだ。
そりゃ文字も違うのだから当たり前か・・・。
言葉はわかっても文字はわからないんだよな・・・。
「えっとですね・・・」
そして30分のレクチャー後。
「・・・いける」
俺は手をなめらかに動かして音を紡ぎだしていく・・・。
(あぁ・・・アイツの事思い出すな・・・)・・・
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「これがイチェリアか?」
「そうだよっ!」
スフィアは無駄に元気な笑顔でそう答えた。
バカでかい黒い楽器・・・それが俺の第一印象だった。
「えへへ〜んっ!では、第1回イチェリアを聞いてみよう〜っ!」
「おーっ!」
俺はパチパチ拍手する。
スフィアはお辞儀をしてイチェリアに向かう。
「・・・」
すっと一息置いて、スフィアは音を紡ぎだした。
柔らかで温かい・・・。
そんな感じがする曲・・・。
イチェリアを笑顔で弾いているスフィアの顔を見る。
自分でその音に酔っているみたいだ・・・。
気持ち良さそうに弾いている。
そして・・・曲が終わる。
「すげーなスフィア。さすがだ」
「えへへ〜。結構音楽って好きなんだよね!」
「・・・俺も弾けるようになれるかな?」
「え?」
「あ、いや・・・」
つい口から出てしまった。
スフィアの弾いている顔を見て、俺も弾きたい・・・なんてガキみたいな事を思ってしまったのだ。
「うん!私が教えてあげるよ!」
「え?いいの?」
「うん!アスナ器用だからなんでもすぐできるし・・・きっと弾けるよ!」
「じゃぁ・・・教えてくれるかな?」
「もちろん!」
そして・・・イチェリアは俺の中で素敵な楽器になっていた・・・。
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「ふぅ・・・」
俺は軽く汗を拭う。
「すごいです!楽譜もよめないのにどうしてそんなにうまく弾けるんですか!?」
「あ、いや・・・ははは」
笑ってごかますしかできない。
「アスナ、いつのまにそんな特技を?」
「俺だって芸術の一つやふたつ、たしなんでるさ」
「お願いします!合奏のピアノ・・・担当してくれませんか!?」
「え・・・?でも、俺は生徒じゃ・・・」
「服なんて男子にかりますから!バレませんって!」
「うぅ・・・わかったよ」
こうして、俺の初めての演奏が決まる。
「・・・あれ?これは?」
「あ・・・そっちはさすがに・・・」
女子はマズった、という顔をする。
「なになに・・・こ、これは・・・!?」
「さ、さすがにそれはできない・・・ですよねぇ?あはは・・・」
女子生徒は笑ってごまかす。
たしかにこの曲は果てしなく難しいぞ・・・?
「あれ?でも・・・演目に入ってるじゃん」
「そ、それは・・・まぁ、そうなんですけど・・・」
「・・・いいよ、やってみる」
「え!?さすがに無理ですって!」
「いいからいいから。俺はできないことをやろうとは言わないし・・・」
・
・
・
「んで・・・アスナが?」
ユウト達は再び体育館へ。
「そうなの!アスナがピアノっていう楽器できるなんて知らなかった!」
「アスナがピアノ・・・ねぇ・・・」
ユウトは訝しげな表情をする。
「でも、アスナってなんでもやっちゃいそうな感じよね」
「そうかなぁ・・・。まぁいいや。じっくり聞かせてもらおうぜ?」
ユウト達は椅子にこしかけた・・・。
すぐに会場の明かりが落ち、ステージにスポットライトがあたる。
幕があがっていく・・・。
「あ、アスナだ・・・」
「うわっ・・・制服着てる!」
アスナはピアノの前で立っていた。
しかも・・・ダボダボの制服をきて。
「そういえば・・・アスナってすっごく小柄よね」
「身長150センチだっけ?」
ペコリと礼をして、アスナは椅子に座った。
「いよいよ始まるみたいね」
「ああ・・・お手並み拝見といこうか」
アスナが一息つき、指揮者を見る。
その腕が振られ、全ての楽器が同時に音を紡ぎだし始める・・・。
「うまいっ・・・!」
「すごい・・・アスナってこんな特技あったんだ・・・」
「まぁ・・・伊達にエターナルやってないみたいですね」
「と、トキミ・・・」
心地よいリズム、それが体の芯にまで響く・・・。
「すごい・・・」
カナリアはピアノに集中しているアスナの横顔をみつめる・・・。
そして、それぞれの楽器が音をしまっていく・・・。
パチパチパチッッッ!!
会場が拍手で包まれる。
『次は、ピアノ担当による・・・最上級技巧習得曲一番です。どうぞ!』
いささか遠慮気味に言う指揮者。
ザワッと会場がざわめいたのを感じる。
「最上級技巧習得曲一番?名前からしてすごい難しそうね・・・」
「あ、あぁ・・・最上級って・・・」
その時、後ろの席で会話が聞こえる。
『最上級技巧習得曲一番・・・が弾けるのか?』
『さぁな・・・それに、1番は18の最上級技巧習得曲の中でもかなり難しい方らしいし。弾けたら・・・とにかくすごいぞ?』
『だよなぁ・・・。まぁ、たぶん途中でつっかえたりテンポ落としたりするだろうけどな』
『そうしないで弾けたら・・・スカウトでもくるだろうな?あはは』・・・
「ふぅ・・・」
俺は一息つく。
「がんばってくださいね?」
「あぁ」
他の楽器の女性生徒が去りぎわに声をかけていく。
俺は譜面を睨む。
(・・・む、むずい)
俺は手だけ動かして練習する。
右手だけでも忙しいのに、左手の修飾がキツくなる。
(この世界の音楽はこれほどまでに難しいのか・・・。
果たしてスフィアの教えだけで弾けるか・・・?いや、引き受けたんだし・・・やるしかない!)
俺は指揮者に軽くうなずく。
それを見てうなずき返す指揮者。
指揮者の腕があがる。
それにしたがって会場が静かになった・・・。
スッ・・・
指揮者の腕が振られる。
(よし・・・っ!)
俺は譜面に集中し、手を動かす。
できるかぎり神経を集中させ、体の全てをピアノに向け音を紡ぎだしていく・・・。
(っ・・・!)
危ない・・・!
ミスするところだった・・・!
だが、安心している暇などない。
そろそろだ・・・!
(きたっ!)
・
・
・
・
・
・
「・・・はぁぁぁぁ」
ワァァァアァァァッ!!
パチパチパチッ!!
俺はつい大きなため息をついてしまう。
俺は指揮者の女の子に諭されて立つ。
裏方からぞろぞろと他の担当の女子生徒が出てくる。
指揮者にしたがって礼をした・・・。
「つ〜か〜れ〜た〜!」
俺は叫んで床に座り込んでしまう。
体の力が一気に抜けていく・・・。
「すごいですよアスナさん!まさか弾ききってしまうなんて!」
「はは・・・根性根性・・・」
俺は力なく笑う。
うぅ・・・。
「それに、失敗もなかったですし・・・スピードも変わらなかったじゃないですか!」
「いや、つーか・・・あれ、君が本当に弾くつもりだったのか?」
手を怪我している女の子に言う。
ハッキリ言って・・・無謀だろう。
「これは発表会であって、コンクールではないですから!」
「・・・なるほど」
つまり、失敗しても、弾ききれば、それでいいのか・・・。
疲れた・・・。
気怠さが体を支配する。
この世界のテレビというもので見たシーエムとやらのように床に沈みこんでいきそうだ・・・。
「アスナさんのおかげで大成功ですよ!」
「うん!これで来年部員が増えるといいね!」
「きっと増えるよ大増加だよ!」
(はは・・・)
終わったばかりだというのに、この元気・・・。
本当に根っから好きなんだな・・・。
アイツも・・・
「んじゃ・・・俺はこれで」
「あ!打ち上げとかありますけど、一緒にやりませんか!?」
「うんにゃ・・・連れがたくさんいるからね。遠慮しておくよ。こっちこそ楽しかったよ。それじゃ!」
俺はステージ裏から出ていく。
そこには、ユウト達がいた。
「よ・・・」
「お疲れサン。音楽はよくわからないけど、すごかったぜ?」
「はは・・・サンキュ」
俺は軽く手を振る。
「大丈夫?すごい疲れてるみたいだけど・・・」
「めずらしい・・・カナリアが俺の心配を?」
その言葉にむすっとするカナリア。
って・・・
「剣に手をかけるな!危ないだろ!?」
バレないように袋で包んでるのに、それじゃ意味ないだろ!!
「人がせっかく心配しているというのに・・・!」
「わかったから!悪かったよ!だから剣を抜くな!」
「・・・ふぅ」
カナリアはため息をついて剣から手を離した。
「冗談です。では・・・帰りましょう」
「へ?あ、あぁ・・・」
俺はユウトに耳打ちする。
{どうしたんだ?カナリア}
{さぁ・・・?}
ユウトも首をひねるだけだった・・・。
「パパぁ!この虫なんていうの?」
「・・・ってそれはゴキブリじゃねぇか!」
オルファが掴んで持ってきたのは黒くまがまがしいゴキブリ・・・。
うぅ・・・足をシャカシャカ動かしてる・・・。
あらゆる意味で永遠神剣より恐い。
「なんだなんだ?」
ユウトの声でみんなが集まりだす。
「ゴキブリっていうのか?この虫」
アスナはまじまじとその足の動きを眺める。
(うぅ・・・世界が違うとこんなに反応が違うのか)
いまさらになって知らないとは恐ろしいと感じるユウト。
「ユウト・・・この虫は食べられるのか?」
「虫を食べるなッ!というか・・・食べるのはやめたほうがいい。絶対にだ」
「そうか・・・少し、残念」
「ん・・・?」
残念がるアセリアは放っておくとして、誰かがユウトの裾を掴んでいた。
ん・・・?
「キョウコじゃないか」
「な、なによ?」
「・・・」
じとーっとした目で見るユウト。
もう、だれでもわかる。
「ふぅん・・・?」
「な、なによ!?その悟り切った表情は!?」
「オルファ、キョウコにその虫を渡しておいてくれ」
「え?うん、いいよ!」
「え!?ちょ、ユウッ!なんてこと・・・!?」
オルファが黒い凶器を持ってキョウコに近付いていく。
キョウコはいやいや・・・と顔を振るだけ。
足がすくんで動けないようだ。
(・・・佳織もそうだったよな・・・)
なんてなつかしい事を思い出してしまう。
(・・・そうだ、佳織・・・佳織もこの世界にいるんだよな・・・)
「いぃぃぃやぁぁぁぁっ!!」
「どうしたのキョウコお姉ちゃん。この虫嫌いなの?」
「ダメッ!とにかくダメッ!」
「オルファ、もういいよ。そろそろ逃がしてあげてやれ」
「うん、わかった!バイバイ、ゴキブリちゃん!」
(ゴキブリちゃん・・・)
シャカシャカ逃げいていくゴキブリにリボンがついているトコロを想像してしまう。
「しかし、異世界ってのは驚きの連続だよな」
アスナが呟く。
「ええ、本当に」
「エスペリアなんかエーテル技術のない世界って知らないことだらけだろ?」
「はい!人間とはエーテルがなくてもこんなに豊かな生活ができるんですね」
「となると、他の世界に連れてったらすごい驚きそうだな。たとえば、あの空にいくことだってできるんだぜ?」
「え!?空にですか!?」
アスナは晴れた空を指差す。
「この世界ではまだまだ一般的じゃないみたいだけどさ。
空飛ぶ車とかいっぱいある世界もあるんだ。いろんな世界があるんだよな・・・」
「本当ですね・・・」
アスナとエスペリアはゆっくり空を見上げる。
それを淋しそうに見つめる人がいる事は、誰もが気付かなかった・・・。
「トキミ・・・ごめんな」
「いえ、いいんです」
ユウトとトキミはあの神社へきていた。
ユウトにとってはトキミとの出会いの場所・・・。
夕日が二人を照らす。
「さぁ、いってきてください」
「そうだな・・・明日から、また戦いだもんな・・・」
その前に、大事な人に会いにいきたい・・・。
ユウトはそうトキミにいった。
当然のごとく嫉妬をやかれたが、その名前を言うと賛成してくれた。
「じゃぁ・・・ちょっといってくる!」
「ええ」・・・
「なんだか・・・ストーカーみたいだよな」
ユウトは道端で佳織がくるのを待っていた。
キョロキョロ落ち着かない様子は明らかに不審者だ。
「あ・・・」
「え・・・?」
ユウトは声の主を振り向く。
「あ・・・」
つい抱き締めそうになってしまう。
自分にとって・・・やっぱり今でも忘れられない大切な家族・・・。
「え、えと・・・高嶺・・・さんだよね?」
他人行儀にしなければならないことに悔しさを覚える。
だけど・・・それでいい。
「は、はい。どうして私の事を・・・?どこかでお会いしましたか?」
う・・・やっぱり寂しい。
でも・・・我慢だ。
「昔ね。ちょっと話がしたいんだけど・・・いいかな?」
「え?はい・・・いいですよ?」
笑顔で返してくれる佳織。
その顔に以前の暗さはない・・・。
やっぱり、両親の代わりは無理ってことか。
なんて当たり前の事を思う。
でも、今は話さないと。
「そうだ、まだフルートやってるのか?」
「はい。あ、海外留学も決まったんですよ!」
「え?そうなのか!すごいじゃないか!」
「ありがとうございます!でも、ちょっぴり不安なんです。誰一人知り合いのいないところでがんばっていけるのかって・・・」
「大丈夫!かお・・・高嶺さんなら大丈夫さ!絶対に!」
「・・・あはは。なんか・・・照れちゃいますね・・・」
「あ・・・」
しまった。
つい・・・。
「ごめん。つい・・・」
「つい?」
「あぁ、いやいや。なんでも・・・。あのさ」
「はい?」
「・・・頑張ってな」
「はい!」
そっか・・・。
やっぱり、これでよかったんだ。
その笑顔を見るだけで、そう思えた。
「時間取らせて悪かったね。ありがとう」
「いえ・・・。私も楽しかったです。あ・・・名前を聞いてもいいですか?」
「・・・高嶺悠人」
「え?」
「あ・・・」
ユウトは佳織の後ろをさす。
「え・・・?」
「じゃ・・・な」
スッ・・・
ユウトは剣の力をかりて一気に消える。
「あ、あれ?」
オロオロまわりを探す佳織。
(佳織・・・大丈夫だ。絶対に守ってみせるから・・・)
ユウトは新たに決意して、その場を去った・・・。
「・・・もう、戻ってこれないかもしれませんよ?あれでいいんですか?」
さっそくトキミに言われる。
でも・・・いいんだ。
「佳織の笑顔が見れたから・・・十分さ。必ずシンを止めて、ユウキを助けてみせる」
「ふふ・・・それじゃぁいきましょうか」
「ああ!」・・・
「なんかあっという間だったなぁ・・・」
俺はホケーッと休暇中の事を思い出す。
結局何一つハプニングなかったしなぁ・・・。
名残惜しく別荘を見る。
「未練がましいぞ。また、全てが終わってからみんなであそべばいいだろ?」
ユウトが呆れて俺に言う。
「・・・そっか。そうだな・・・よし!がんばるか!終わったらどんどんナンパするとしよう!」
「あ・・・バカ」
「え・・・あ・・・」
俺はついカナリアの方を見る。
「・・・あれ?」
なんだかカナリアはずっとうつむいたままだ。
というか・・・
「カナリア〜?」
「・・・」
聞こえてないようだ。
何か考え事でもしているのだろうか?
「カナリアってば!」
「あっ・・・なんですか?」
「なんですか・・・って。まぁいいや。んじゃ・・・ローガスんとこへいくか!」
「あ、そうだアスナ・・・」
「ん?なんだユウト?」
「修業・・・よろしく頼むわ」
「・・・あいよ」
その決意に満ちた顔に、俺は軽く約束してから門へ飛び込む。
(しっかしなぁ・・・カナリアどうしたんだろ?変なの・・・)・・・
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『イチェリア』
アスナがトキミ達と出会った世界の楽器。ピアノと同じ。
『最上位技巧習得曲一番』
こんな曲はありません。もし、あったとしたら偶然です。
フランツ・リストさんの有名な曲の名前みたいな感じにしたいなぁ、と思ったらこの名前になりました。
一言で言うなら果てしなく難しい曲、です。一応・・・18あるらしいです。