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「アスナッ!しっかりしなさい!!」
カナリアはアスナを抱き起こし、オーラフォトンを展開して少しでも傷を治そうとする。
だが、マナの流出はとまらない。
それどころか、体がどんどん軽くなってきている。
おそらく、体の中身がマナへ還ってしまったのだろう。
「しっかりしなさい!アスナッ!!」
カナリアは涙をアスナの頬へと落としながら、必死にオーラフォトンを展開する。
だが、それも疲れ果ててできなくなる。
「くっ・・・」
「カナリ・・・ア・・・」
アスナがカナリアの手を取る。
「悪い・・・まさか、俺が・・・先に・・・消えるなんて・・・な」
ハハ・・・と力なく笑うアスナ。
その顔にはいつものふてぶてしさがなかった。
{アスナさんっ!消えないでください!}
「背光・・・ゴメン、な。こんな・・・デートでさ・・・う・・・」
アスナは目を閉じた。
その瞬間、ロウを片付けたみんなが駆け寄ってくる。
「アスナ!!」
「ユウ・・・ト」
アスナは目を開けずに呟く。
「ローガス・・・助けてやってくれ・・・。きっと・・・できるさ・・・」
アスナがそう呟いた瞬間、体がマナへと還りだし、消えていく・・・。
「アスナッ!死ぬなないでよ!!」
「ヒカ・・・ごめ・・・ん」
アスナはふっと笑った。
「あっ・・・!?」
最後のマナが、カナリアの頭上で消えた・・・。
そこに、あったはずの笑顔・・・。
それが、虚構となってその場に染み付いていた。
誰の目にも映っているアスナ・・・。
だが、確かめようと腕をのばすと、その腕は空をきる。
「うあ・・・っ!!うあぁあぁぁっ!!!」
ユウトは思いのままに拳を地面に叩きつける!
ガンガンガンッ!!!
「ユウト・・・」
フォルクはそれを眺め、うっ・・・と顔をみんなから背ける。
その背中が細かに震えている・・・。
「アスナ・・・バカ・・・!バカぁ・・・!!」
ヒカリが大量の涙を地面へと落とす。
そのシミは大きく広がっていく・・・。
「アスナさん・・・これが、あなたの未来だったのですか・・・!?そんな・・・!!」
トキミが途端に未来が見えるようになったことに、愕然とする。
「アスナ・・・ゴメン・・・ゴメンね・・・!!」
{カナリア・・・!なんで・・・アスナさん・・・うぁあぁぁぁ!!!}
「背光・・・!」
そこには、まるで錆びてしまったかのような新星が横たわるのみだった・・・。
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「おい今日子、何してるんだ?」
光陰はなにやらしきりに空虚を眺める今日子に話し掛ける。
「ん?いや、な〜んかさ・・・空虚とも長い付き合いになるんだな・・・って」
「・・・そうだな」
光陰も因果を見つめる。
「・・・ねぇ、光陰」
「うん?」
「・・・本当に、空虚って乱戦で精神が斬られたのかな?」
「は?」
よく言っている意味がわからない、と光陰は首をかしげる。
「なんかさ・・・おかしいじゃない。
ただの・・・って言ったら言葉が悪いけど・・・普通のスピリットに精神断ち切れるのかな?って」
「そうだな・・・帝国のスピリットでも、稲妻部隊でもちっと無理あるな・・・」
「なら・・・一体、誰が空虚斬ったんだろう?って思わない!?」
「うぅむ・・・言われるとそうだがな・・・確かに、俺も空虚が斬られた所は覚えてないし・・・」
光陰と今日子はしきりに悩みはじめる。
こういう疑問は、思いつくとずっと頭にこびりつくものだ。
「だが、今は別にどうでもいいじゃないか。俺も、今日子も、みんなも、こうして今を生きていられるわけだし」
「光陰・・・」
「それに、最近になってようやくネリーちゃんたちが遊んでくれるようになったんだぜ!?
さっさと任務をおわらせて、遊びにいかないとな!寂しがらせちゃかわいそうだ!」
やたらリキを入れて前へ進みだす光陰。
後ろで、オーラフォトンを展開している今日子がいるとは知らずに・・・。
「ライトニングッ・・・」
「今日子!」
「え?」
プシュゥゥ・・・。
突然の光陰の真面目な声で、力が抜ける今日子。
「なに?」
「あれ・・・誰かいないか?」
光陰が前のほうを指す。
そこには、確かに、小さい黒点がある。
だが、ここでは遠すぎてよくわからない。
「でも、ここってソーン・リーム自治区だったんでしょ?なら・・・人がいてもおかしくないけど」
「いや、なにかあると困るから、ここは数年前に立入禁止になっただろ?ニーハスで厳重に通行止めされてるじゃないか」
「あ・・・」
そっか、と手をポンと叩く今日子。
本当に頭が悪い。
「光陰・・・?なにかすごぉく失礼な事考えて・・・なぁい?」
手に愛用のハリセンを持って微笑む今日子。
これは生命にかかわる危機だ。
途端に光陰は話を逸らす。
「そんなことなななないぞ!?そ、それより今はあの黒ポチがなにか調べないといけないだろ!」
「・・・まぁいいわ。じゃ、ちゃっちゃといきましょう!」
二人は黒ポチに向かって歩きだす。
だんだんとその正体が見えてきた。
「人・・・?」
「人だ・・・人が倒れてる!」
二人はすかさず走りだす。
「・・・男?」
「あぁ・・・男だ」
そこには、一人の少年が倒れていた。
その女性的な顔立ち、綺麗な髪、安らかな雰囲気。
少年にしておくにはもったいないくらいの素材が揃っている。
それに・・・どこか、儚さがある。
ストライクゾーンから外れている(相手が男なんだから当り前)光陰でさえ見入ってしまった。
「あ・・・っとと」
「あ・・・」
二人は同時に正気に戻る。
「なんで人が・・・」
「迷いこんだとかじゃないか?しかし、こんな軽装で・・・ん?」
少年の体の下になにかがあるようだ。
光陰は少年をどかして、それを見る。
「・・・これは」
「え?なになに?」
光陰が見付けたソレ・・・。
それは、永遠神剣だった。
眠っているのか、気迫も何も感じない。
白い翼が生えていて、両刃の剣。
なんとも説明しがたい形をしている。
まず、細身の両刃剣。
それに、根元からちょっと離れて違う刃がくっついている。
うぅん・・・うまく説明できない。
よくゲームとかででてくる、バスターソードって感じだ。
「この子・・・どうするの?」
「どうするもなにも、つれていくしかないだろ?どういう理由があったかしらないが、立入禁止の区域にいたんだしな」
「そうね。んじゃ・・・はい」
今日子は一歩下がる。
(俺にはこべってことか・・・)
わかっていたが。
光陰はその少年を担いだ・・・。
「うぅん・・・?」
俺は目をこすり開ける。
(あれ・・・?)
確か俺はロウにやられたはず・・・なんで生きてるんだ?
それに、どこか知らない部屋にいる。
「あ・・・目が覚めましたか?」
「へ?」
突然、メイド服の女性が入ってきた。
やさしそうな目・・・やたら垂れ目だが。
「君は・・・?」
「エスペリア・ラスフォルトといいます。エスペリアとおよびください」
「聖ヨト語?ってことは・・・ファンタズマゴリア?」
「え・・・?なぜあなたがその呼び方を?」
「あ・・・いやいや!なんでもない!」
しまった・・・この呼び方はユウトから聞いたんだった。
ユウトの事はみんな忘れているはずだから・・・妹の佳織ちゃんからそう聞いた・・・ってことになっているのだろう。
ならば、佳織ちゃんと会ってもいない俺がそう呼んではおかしい。
いや、おかしすぎる。
「いや・・・ガロ・リキュア。そう、ガロ・リキュアだ」
「?」
突然言いなおした俺に怪訝な顔をするエスペリア。
「お体の調子はどうです?」
「え?あぁ・・・不思議と自分で動かせる」
「はぃ?」
「あ、いや。大丈夫、なんともない」
俺は両手を振る。
「そうですか。良かった」
コンコン・・・
「入るぞ?」
俺がいいとも言ってないのに勝手に入ってくる。
「お、目が覚めてたか」
「おはよー」
フランクに話し掛けてくる男と女。
「誰?」
エスペリアに聞く。
「コウイン様とキョウコ様です。お二人とも、エトランジェです」
「あぁ・・・コイツらが。ユウトのね」
「ユウト?」
「あ、いやいや。なんでもない!」
「それで、体の調子はどうだ?」
「万全だよ。さぁ、いこう」
俺は立ち上がる。
「え?」
「え?って・・・どうせ、王にあってくれ、とかだろ?」
「あ、あぁ・・・それはそうだが、別に今でなくても・・・」
「別にいいんだって。体は平気だしよ。それに・・・レスティーナ女王ってのもどれだけ綺麗な人か見たくてさ!」
「・・・」
「まるで・・・光陰」
今日子が呟く。
「ちょっと待て!俺はレスティーナ女王には・・・」
「ハイハイ。んじゃ、いきましょうか」・・・
「ほぉ、これはなかなか綺麗だ」
「は!?何か言いましたか?」
「いやいや、なんでも」
レスティーナ女王。
なかなか美人だ。
スタイルはまぁ・・・ってくらい。
「それでは質問をさせていただきます」
「おう、なんでもこい。あ、彼女立候補ならいつでもオッケー」
「そのようなことは聞いていません!」
「・・・はい」
さすがは女王。
こういう場ではふざけるのを許さないか。
「まず、あなたが立入禁止区域にいたことについてです」
「・・・あいにく、それには答えられない」
「なんですって・・・?」
あまり良くない視線がたくさん俺に突きささる。
でも・・・
「それに、俺自身よくわからないんです。
なんで蓋がされてるファンタズマゴリアに来たのか・・・じゃなくて、あそこで倒れていたのか」
「自分の意志ではない・・・と?」
「はい」
「・・・蓋がされてるファンタズマゴリアに来たのか・・・と言いましたね?」
「・・・はい」
聞き逃してなかったか・・・。
「つまり・・・あなたはエターナルなのですか?」
「・・・」
俺はポリポリ頭を掻く。
しまった・・・。
「はい、そうです。俺はカオス・エターナルです」
「カオス・・・では、特にこの世界に何かしようというわけではないのですね?」
「はい。つうか、寄るつもりもありませんでしたし、入れるとも思ってませんでした」
「・・・そうですか。なら、客人として迎え入れましょう」
「え?」
「カオス・エターナルはあのシュンのようなもの達と戦っているのでしょう?」
「あ、あぁ・・・そうだけど」
つうか、今ここ以外の世界はすごいことになってますよ?
ほとんどロウに支配されて、カオスは全滅寸前だし。
「それでは、まず神剣をお返しします」
「神剣・・・?」
俺に手渡される剣。
おかしい・・・新星じゃない。
「おい」
俺は剣に話し掛ける。
{ん・・・?}
目覚めたかのように声を出す剣。
「おまえは一体・・・?」
{・・・あぁ。俺は永遠神剣第三位『祈り』。
なんだかよくわからないんだけど、『背光』と『新星』から生まれた・・・って感じかな}
「背光と新星から?」
{ああ。あのふたつの神剣がつよく祈ったのさ。おまえが死なないように、とな。
そして、生まれたのがこの俺。だから、今新星は力を失ってるはずさ。俺にほとんどの力を分けたからな}
「・・・そうか」
あの二本が助けてくれたのか・・・。
戻ったら、お礼を言わないとな。
「お話は済みましたか?」
「ああ、はい」
「それで、どれくらい滞在する予定なのです?」
「うぅん・・・正直、わかりません。ここって蓋されてますし、どうやって出れるか、方法も探さないといけませんし」
「そうでしたか・・・なら、ヨーティアに調べさせましょう」
「あのインチキ賢者に?」
「え?」
「あ、いや。よろしくお願いします」
俺はお辞儀して謁見の間をでていく・・・。
背中に、いくつかの視線を感じながら。
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永遠神剣第三位『祈り』
アスナの命を繋ぎ止めるように強く願った『新星』と『背光』。
この二本の力で生まれたのが『祈り』。そのおかげでアスナはマナを繋ぎ止め、死をまぬがれた。
だが、『祈り』自体に戦う力はなく、マナも欲さない。
アスナを助けるタメだけに生まれた神剣のため、何も力を持たない神剣。