「なぁ、ユウキ………」
「どうしたアイビス?こんなトコロに呼び出してくれちゃって」
そこはラキオス近く、悠人が出てきた森。
アイビスに呼び出され、今、ここには俺とアイビスの2人しかいない。
「実は、だな、ユウキ………その………」
「う、うん?」
緊張し、俯いてモジモジするアイビスに、俺は勘付いた。
―――ま、まさかこのシチュは!?
―――ま、待て待て!俺にも心の準備ってヤツが………!!
「あの、さ………唐突なんだけど………」
「う、うん………」
いつもと違う、しおらしいアイビスについ、ゴクリと唾を呑んでしまう。
ヨシ、と頷いてから、アイビスはパッ……と顔を上げた………。
―――え
【エトランジェユウキーーーーっっ!!!お前はワシのものだぁーーーーーーーっっ!!!!】
「んぎゃぁあぁあぁあぁっっっ!!!!!ラキオスーーーーーーッッッ!!!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「うぎゃぁあぁっっ!!あ………あぁ…………」
「ど、どうしたの……!?」
「よ………汚れちゃったよォォォ………優菜ぁ………」
「??」
夢だとわかっていても……わかっていても………
あの抱きつかれた時の白い髭の感触は………うぇえぇえぇ………
「と、とにかく落ち着いて………?ね?」
「きっとアレは正夢なんだ……このあとラキオス王に取って食われるんだ……」
「お、落ち着いてってば。ラキオス王はもういないでしょ?」
「………へ?」
「とっくに殺されたよ……?」
「……じゃぁ怨念か!?そうか!!俺を妬んで取り憑きやがったな!!なんまいだなんまいだ」
愛しの優菜もさすがについていけない、と俺を無視した。
それで、危うく危ない人間になりかけていることに気づき、正常を取り戻す俺。
あぁ………こんな始まりの日は、絶対不幸が起こる………
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふ〜ん?じゃぁ悠人は、誰ともくっつく気はないんだ?」
「だって、今みたいな状況じゃ考えられないだろ?誰かを嫁さんに、だなんて」
いつか、どこかでしたような会話をなぜか俺と悠人でする。
この世界は、誰かに操られている………!?
「じゃぁ、俺がエスペリアをもらってもいいんだな?」
「……あ、あぁ」
「間があったぞオイ」
「てか、なんでエスペリアなんだ?」
「え?だって普通エスペリアじゃないか?」
「……ま、普通はな」
けっ、納得したよヘタレが。
だって、容姿はともかく個性的な面々がいすぎる。
その中で、やっぱいいのはエスペリアでしょ!
エスペリア万歳!エスペリア帝国ばんざ〜〜いっっ!!!
「でも祐樹、お前優菜はどうするんだ?」
「あ、光陰と今日子じゃん。見回りは?」
「今ラキオスに戻ってきたところだ」
「それと、エスペリアはあんたなんかになびかないわよ」
「あぁ、それに関しては冗談だ。悠人の独占欲がどれくらいか試したかっただけだから」
「……」
悠人が睨んでる。
その顔で睨まれると……怖いんですけど。
そんな時、ドアがコンコンとノックされた。
「はい?」
「届け物だ。差出人不明のな」
今日子が出ると、そこには兵士がいた。
手に持っていた箱を渡して、最低限のことを言うとそそくさと帰る。
まだ、俺たちへの風当たりは厳しい。
「お届け物だって」
「へ〜?食いモンかな?」
「待て祐樹。差出人不明、ってのは怪しくないか?」
「でもでも、私たちへ隠れてお礼をしたかった、って人からかも!!」
「なんで名前を隠すんだ?」
「そりゃ、こんな世界ですから」
「……ごもっとも」
悠人も納得し、光陰だけは慎重に、その箱をあけた。
すると………
「これ、なんだ?」
「マロリガンでは見たことない物ね……」
「俺も見たことない。サーギオスの特産品か?」
「オイオイ………そしたらますます怪しいぞコレ」
中にはイチゴみたいな物が入っていた。
イチゴと違い、種はないし色も白い。
「エスペリアに聞いてみるか。ちょっと待っててくれ」
「ああ、頼んだ悠人」
悠人は一粒持って部屋を出て行き、洗濯をしているエスペリアのトコロへ向かう。
その間、俺たちはこの白イチゴとにらみ合う。
「食いモンだよな?」
「見た目はな。だが、食うなよ?」
「光陰はいつも慎重なんだから。食べたって、おなか壊すくらいで済むでしょ」
「そう言いながら食中毒になったのは誰だ?」
「……アタシ」
「げっ、今日子ダセーな。そうか、だからそんな頭に………」
「う、うっさいわね!!これでも髪の毛直してるのよ!?」
「髪じゃねーよ、中身だ」
「……どーいう意味かしらァ?」
「頭が悪い、と聞こえなかったか?すまん」
ビヒュンビヒュンッ!と振り回されるハリセンを首だけ動かして避ける。
その動きは、メトロノームと猫……いや、猫じゃらしと猫的な関係(?
しばらくして、悠人が戻ってきた。
「すごいものだぞコレ!」
「え?」
「この大地で、自治区の奥地でしか取れない超高級品なんだと」
「マジか!?」
「すご〜い!そんな物をお礼にくれるなんて……相当の金持ちか、よほどアタシたちに感謝してるのね」
「あれ?それで悠人、サンプルに持ってった一粒は?」
「あぁ、エスペリアにあげた。みんなで分けようって思ったからな」
「確かにな。俺たちだけで食べるってのはいけねぇよな」
「そうね」
「って、なんで俺を見るんだよお前ら」
「いや、な。祐樹一人だけ、違うことを考えていたんじゃないかな、と」
「………べ、べつに違わねぇよ!お、俺もみんなに分けようって思ってたんだよ!!」
「そういうことにしておきましょ。それじゃ、はい」
ボールに分けられた白イチゴ(仮名)。
それを受け取り、俺はみんなのもとへ行く。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おーい、ソフィら以下省略〜〜っ!」
途中で食べてしまおうか、という誘惑にパンチを食らいながら、ようやく着いた。
訓練中だったようで、みんな一汗かいていた。
「どうしたぁ?ユウキ」
「アイ、ビス………」
「ん?」
不意に夢が浮かんだ。
森の中で………でアァアァァァァァァァッッ!!!!
完璧トラウマだよォォォォ……っ!!
「なんでもねぇよ!!」
「何も言ってないけど」
「………とにかく、コレ!」
バッ!とボールを突き出した。
それに、目を輝かせるみんな。
「そ、それは……なんでユウキ様が!?」
「さっき届いた。誰かを助けたお礼じゃねぇの?」
「うわ〜っ!これ一度食べたかったんだ!スピリットじゃ絶対手の届かない食べ物だから♪」
「……おいしいの?」
「そっか、キアラは知らないんだな。これはハッキリ言って、この世界で3本の指に入るぞ」
「……」
みんなそれぞれ白イチゴ(仮名)を取り、口に運んだ。
―――あれ
「ねぇ、俺の分は?」
「知らないぜ?ユウキ、もう食ったんじゃないの?」
「食ってない!!そ、そんな………俺だけいつもこんな役回り!?」
「残念でしたね、ユウキ様」
「んが〜っ!!あ、そうだ!今からアッチに行けば……!!」
俺は大急ぎで悠人たちのもとへ向かう。
その速度は普通の人間の3倍は出ていたとか………。
「あ、所属不明のモビルヒューマン、どうした?」
「俺の分がない!!」
「残念だったわね〜、ユウキ。もうないわよ」
「そ、そんな………俺の人生なんのために………」
「そこまで落胆しなくても………」
およよ……と、がっくり両手を地面につく。
恨みがましく今日子を睨む。
「今日子!お前ツンツンしてんのやめろよ!!」
「だぁから髪の毛直してるんだってば!」
「髪じゃねェ!心だよっ!!お前さっきから髪ばっか勘違いしすぎだ!!」
「アンタこそ、アタシの心のどこがツンツンだってのよっ!?」
「どーせお前二個食べたんだろ!?」
「たーべてないわよっ!!決め付けるなっつーの!!」
「うっ……悠人、悪い、俺トイレ」
「どうした光陰?」
「あうっ……なんだか……おなか痛いよぉ………」
「オルファ!?どうした!」
「ん……ちょっと、マズい……」
「アセリア!?」
あのアセリアまでもが、汗をだくだく流している。
なんだなんだ?と騒いでいるうちに、次々と腹痛に苦しんでいく。
「悠人、お前は平気なのか?」
「俺は……うぐっ……や、やばい………っ!!」
「もしかして………」
俺は急いで第2幕舎のほうへ向かう。
「みんな、無事か!?」
「あ、ユウキ様〜……ふふ〜」
「あ、あのネリーがくーるに笑ってる……でもすごい汗だぞ!」
「へーきへーき……くーるな女は腹痛になんか……うっ」
「無理するな!!将来体悪くなるぞっ!!てか、みんなは!?」
「みんな……部屋に、いる、よ……」
「食べたのか!?」
「食べちゃった………」
「まずい……!なんとかふんばれよネリー!!」
「あ、う〜………ふんばれないよ〜………」
今度は訓練場に向かう。
もしかすると………
「あ……お兄ちゃん……」
「うわっ!みんな平気か!?」
すでに事切れたかのように倒れているみんな。
「ユウキ様……」
「な、なに?」
「恨み……ます………」
「……ごめん。今日子の代わりに謝るよ。アイビスは?」
心の中でスマン、今日子……と謝るが、責任転換しないと後々しばかれる。
「彼女は………薬をとりに………」
「そうか!あの劇薬!!」
「……うっ」
「エリス!!」
意識を失うほどの腹痛が起きているようだ。
急いで俺も劇薬を取りに向かう。
「あ、アイビス!」
「ユウキ?どうしたんだよ?」
「どうした……って、腹痛は?」
「ああ、もう平気。薬飲んだから」
「じゃぁ分けてくれよ。みんなに配ってくる」
「ああ。じゃぁあっちを頼む」
「ソフィ達は頼んだから」
俺たちは二手にわかれ、薬を配る。
そのとき、俺はセオリーを忘れていた。
こんな手の込んだやり方をしてくるのだから………絶対に、このタイミングを逃すはずがない。
{ユウキ、ユウキ!!}
「んだよ!!」
神剣が語りかけてきた。
というより……警告してきた。
{かなりのスピリット達が向かってきてる}
「うそ……」
{数は……そうね、ざっと15人ぐらい?}
「動けるのは俺とアイビス……やるしかない、か」
{そうね。最低限、優菜は守って}
「またそれか。お前、たまには俺を心配してよ」
{イヤよ。アンタしぶといし}
「……」
{アンタなら、なんとかできるって信じてるし。じゃ、ヨロシク}
「………アイビス、聞こえるか?」
神剣を通して、アイビスに電波……もとい通信を送る。
返事がない……が、たぶん聞こえてるはずだ。
「薬を配り終えたら、すぐに応戦に来てくれ。それまで、なんとか食い止める」
そして、単身敵の迎撃へ向かった…………。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「な、なんだよコイツら……」
{……これが、これから戦うあの国のスピリット}
目は曇り、動きはどこか機械的。
そんな、ヒトでなくなった妖精たち。
「落ち込んでる暇はない……」
ざっと、俺を取り囲む15人の妖精。
緑が3人、青が4人、黒が5人、赤が3人………
(どうする……まずは魔法を使う赤から狙うか……いや、でも黒を狙ったほうが動きやすくなるか………!?)
バッ!!
15人が一斉に襲い掛かってきた。
「手加減しろよ!!ちくしょう!!」
ザパッ!!
一番速く襲ってきた黒の一体を切り裂き、マナに霧散させる。
その後、すぐにバリアを張りながら全力で駆け出した。
「ちっ……火の御霊よ我に集いて戒めとなれ、ファイアブレード」
ポッ!
小さな火球をスピリットたちに向かって、放った。
そのまま全力で走りぬくと、後方で爆発音が聞こえる。
だが、それで仕留められたのは青1体と緑1体。
それ以外は見事に避け、俺を斬ろうと襲い掛かってくる。
「ちくしょう……っ!アイビス!早く来てくれ……!」
【逃がさない……ライトニングファイア】
「っ!!!」
ズガァッ!!
轟音とともに、体を何かが貫通した。
それが激しい痛みと熱を持ち、魔法を食らったのだと理解させてくれる。
そのまま動けなくなり、前のめりに倒れてしまう。
「ぐ、あ……っ」
後ろからやってくる、遠慮やためらいを知らない妖精たち。
ここで俺が消えれば、あっという間にラキオスが制圧……もとい、壊される。
―――また?
(抜かせない………っ!ここだけは……抜かせねぇっ!もう、失うのは………失うのはっっ!!!!!)
「火の御霊光の御霊風の御霊よ我の敵はすぐそこにさあ滅ぼせ常世を消し去るその力……」
躍起になって最大呪文を唱え始める。
だけど、明らかに時間は足りない。
これを唱えるにはあと45秒は必要になる。
それまでに斬られるのは明らか。
だが、そんなことを考える頭など、とうに失っている。
そして、今まさに、一体の黒がその剣を引き抜き、切り裂こうと振りかぶる。
「はいはい、やらせないさ。アークフレアッ!!!」
ズガズガズガァアァッッ!!
(!?)
目の前で起こった現象に目を開くが、呪文を唱えるのはやめない。
「ユウキ、もうちょい落ち着けよな。ま、今回はフォローしてやるから、しっかり決めろよ!」
目の前に現れる、赤い髪を持った女性。
そのピンと伸びた背筋が凛とした空気を生み出す。
「さァさァ、姑息な手段まで使って襲ってきたんだ。手加減しないぜ!!」
ザパァッッ!!
不意打ちで一瞬動きを止めた青を、一撃で切り裂く彼女の太刀。
切り下ろし、切り上げて次の敵へ向かう。
それは、双剣だからこそできる離れ業。
「赤は厄介だな……我に集いて敵を切り裂け魔力よマナよ、ブレイドブレイズ」
【無駄だ。空間を止めよ、アイスバニッシャー】
「そっちこそ無駄な。ハイ、さよなら」
ズガァッ!!!
魔法は消えず、赤を残らず消し飛ばした。
そのうち消しを狙った青は、気づけば彼女の太刀によって葬られている。
その動き、速さは夜叉の如き………
【そこだ】
「っ!!」
ザパッ!!
背後から青に間合いを取られ、かろうじてかわすも左腕を深く切り裂かれるアイビス。
咄嗟に腕を押さえ、俺の背中に背中を合わせた。
(ありがとう)
心でお礼を言い、呪文を早めた。
「………今こそ契約に従いて姿を現せ爆風の裁き、クロスクロニクル」
ズガズガズガァッッ!!!
次々と目の前の空間が爆発していく。
まるで誘爆していくかのように、あっという間に目の前は火の海と化した。
そして、空から巨大な光線が落ちてくる!!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……死ぬかと思った」
「こっちだって……」
「でも………」
「生きてる………」
俺とアイビスは、背中を合わせながら地面に座り込んだ。
もう、たっている気力もない。
自然と、アイビスと手をゲンコツで合わせていた。
「ったく、敵も手の込んだことしてくるな………」
「そうだな………って、普通は不気味なものは食べないんじゃないか?」
「だって、高級品だって言うから……う〜ん、人間の心理をついた、見事な作戦だった………」
「バカ………。でも、ま……やっぱお前はなんとかしてくれたな」
「アイビスのおかげだ。護ってくれたおかげで、魔法が発動できたからな………」
「こっちこそ助けられた。お前に魔力の魔法を教わっていたから、なんとか耐えられた」
「………」
って、お前……俺がその魔法教えたの2日前なんですけど。
なんでもう使えるのさ………
ばあちゃん……俺、泣きそう………。
今なら夕日の向こうへいける気がする……あ、おばあちゃんが笑ってるよォォォ………
「ユウキ」
「うん?」
急に立ち上がり、こっちを向くアイビス。
その頬はなんだか赤くて……どこか俯いて………
―――あれ?
―――デジャヴ………?
「これからも、一緒にいてくれるんだよな?」
「……そうだね。とりあえずは……だけど」
「そっか。ならいいんだ」
「え?」
「お前、時々どっか遠くを見てるからな。戦友としては、ちょい気になるわけ」
「ほーか……それを言うなら、アイビスが世界征【黙れ】………わかったよ」
すごみをきかされ、黙るしかない。
でも、なんだか一昔前の悪役みたいな夢だ。
だけど、アイビスの顔はどこか笑顔だった。
「そいじゃ、帰りましょう。エリスたちの腹痛も治っただろうし」
「ああ。そういえば、お前の愛しのユウナ様は……」
「……言うな。見なかったことにしてるんだ」
「……そうか」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……おい、アレ」
「……アイツは」
森の奥で、一人の兵士を見つけた。
なにか……こう、見覚えがあるというか………。
「あれ?そういえば……白イチゴ(仮名)を持ってきた……」
「……なんだかものすごい顔色悪いな」
「……!そうか、なるほど」
ピン!と答えを弾いた。
それは……【つまみ食い】
どうりで俺の分が足りなかったワケだ!!
{ぐおおぉっ……!よもや、誰かに見られてはいまいな……!くっ!くそぉっ……!}
「……見てると、なんだか可哀想だから行こうか」
「そうだな……あ、ちょっと待て」
アイビスは神剣をかざした。
そして、すぐにしまう。
「なにしたんだ?」
「神剣に今のアイツを覚えてもらった。いつか使えるかもしれないからな」
「?ふーん」
その後、ヨーティアが神剣の記憶を映像として取り出す装置を発明してしまう。
それがきっかけで、その出来事もバレてしまい………男の消息を知るものはいない。
と、いうのは、また別のお話………