「…う～………ん゛～……っ………」
低い唸り声。
「あれ？お兄ちゃんだ。昼寝？」
ソフィが現れ、寝ている人物の頬を叩く。
だが、一向に起きる気配はない。
「お～い、こんなところで寝てたら、風邪ひいちゃうよ～？」
「んが～……け………ぐ～………」
「？？」
よくわからない寝言を言いながら、苦しんでいる。
悪夢にうなされているのだろうか。
「お兄ちゃん、起きてよ～。ねェってば！！」
「んがっ！………んあ～……」
一瞬起きかけて、また寝る。
そして、寝言を一言………。
「ライダー、助けて………」
「ライダー？」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「一体どんな夢見てたの？」
「え～……そりゃ……アレだ」
「アレって？」
「親父の夢」
「お父さん？」
「そう。俺の半分を占めてる親父」
「その言い方はちょっと………」
「親父は厳格で、っていうイメージがあるけど、それとはかけ離れた親父だよ」
「どんな親父？」
「女の子はお父さんといいなさい。そうだな……一言で言えば、ふざけた親父かな」
「え？」
「つーか、親父を取り巻く人間は、みんなふざけてた」
「？」
「話、聞くのか？」
「うん！聞きたい！」
「そうか。ならちょっとだけ話してあげる」
俺……の親父、相川なんとか。
下の名前は忘れた。
今でも鮮明に、あの食えない笑顔が思い浮かぶ………。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺たちは朝食を食べていた。
だが、この日に限って俺はメシを食べたくない。
足の痛みが激しくて、どうにも食欲がない。
なかなか箸の進まない俺に、親父は言った。
「体調が悪い時は残していいが、それ以外はダメだ」
「……足が痛いから残す」
「仕方ないな。残していいぞ」
「はいはい」
―――コイツは結構扱いやすい、そう親父に対して失礼とも感じず、そう思った。
次のエピソード
※ 俺の目が少し悪くなったとき、親父にメガネの作り方を聞いたら、店に行こう、と連れて行かれた時の話。
「どのメガネでしょうか？」
「う～ん……おい、祐樹希望は？」
「え？う、う～ん……」
いきなり言われても、まだ買うつもりがなかったので決まらない。
店員さんは、気をきかせてくれて、別の質問をしてきた。
「じゃぁ、無色ですか？」
「いえ、働いてます。んで、コイツは学生」
「………」
―――場が凍りついたのは言うまでもない。 きっと店員さんの心は【ギャグ？】という疑問でいっぱいだったろう。
次のエピソード
※それは、俺がまだ５歳頃。
親父に一緒に風呂に入れられた時の話。
「お、もう自分で頭洗えるのか！？」
「うん！」
かわいい顔で答える俺。
すると………
ポタッ
「……うわっ！鼻血だ！」
「え？え？」
「母さん大変だ！！祐樹！どっかから鼻血出してるぞっ！！！」
――――心の中で、落ち着け親父、と思った。 確かこの頃から、俺は親父、と呼ぶようになった。
次のエピソード
※親父が魔法使いであるにもかかわらず、交通事故で轢かれて、病院に運ばれた時の話。
「祐樹――っ！」
そう、苦しそうに俺を呼んだので、俺は少し心配してすぐに近寄った。
深呼吸して、苦しそうに吐き出した一言………
「しっかりしろよ」
俺は心の中で、お前こそな、と思った。
あぁ、看護婦さんたちが笑ってる。
緊張がとけて、手術が失敗するな、と思った瞬間だった。
―――無論、親父は魔法で自己再生した。
次のエピソード
※久しぶりに、夕飯が全員揃ったときの話。
食卓の蛍光灯が切れ掛かり、どうにも暗かった。
親父に【変えてくれ】の意味で、こう言った。
「親父、暗くない？」
「お父さんはこういう性格なんだ」
いや、わかるけどさ。
結構気にしてたのか、そのあと、ずっと親父は喋らなかった。
―――ちゃんと、周囲を見ましょうね。 そう、切実に感じた。
次のエピソード
※旅行で、とある観光地にいった時の話。
俺たち家族は、衣装で仮装した人たちを物珍しげに見ていた。
この場所では、撮影している世界の衣装が着れるらしい。
そこで、４人の女性たちに声をかけられた親父。
「すいません、写真、お願いできますか？」
「あ、いいよ」
と、快くカメラを受け取り……………俺にスルー。
【は？】と思っていると、親父は満面の笑顔で、女性４人の、よりにもよってど真ん中でピースしていた。
―――親父、いい年こいて、色気づくなよ……その気分の持ちように脱帽。
次のエピソード
※それは、俺の家を建て替えした時の話。
家が新しくなり、ハイテンションな家族一同。
自分の部屋ができた俺もしかり。
だけど、床で寝るのはちょっと………と、親父に提案。
「親父、ベッド買ってよ。部屋に置きたいんだけど」
「そんなでかい物、置いたら寝るところがなくなるぞ。我慢しろ」
それで、俺は一発ノックアウト。
親父の性格がわかりはじめた頃だったが、これには負けた。
―――真顔で言う親に【じゃぁベッドって何に使うの？】と、あなたは突っ込めますか？
次のエピソード
※いつかの視力が悪くなった時、家で親父のノリで、視力検査に付き合わされた時の話。
慣れた家のほうが緊張しないから、ベストな成績が出るはずだ、というわけのわからん親父理論にのっとり、俺は家で視力検査。
金属のスプーンを持ち、床に張られたシールに足を合わせた。
「じゃぁ、左目を隠して右目をつむって。これは？」
「………見えない」
「なに？じゃぁこれは？」
「見えない」
「これは？」
「見えないよ」
そうして、結局一番上の、デカイやつまでやり終えたようで………
「お前、本当に見ようとしてるのか？」
「かなり必死で見ようとしてるんだけど……」
―――なぜ、両目を塞がれていることに気づかないんだろう？ まぁ、マジメにやる俺も俺だが。
次のエピソード
※俺が生まれる時の話。なんでも、親父の知人の産婦人科で、出産することに。
産気づいて分娩台に乗ったおふくろ。
しばらくたって、やたら苦しくなってきて、どうかしちゃったの？と思い、先生に
「な、なんか苦しいんです………」
「あ、ごめんね？」
そう言ってなにかすると、母の息苦しさは消えた。
看護婦さんに聞くと、先生がおふくろの胸の上に肘を置いていたそうだ。
―――そのときから、夫婦関係がうまくいかなくなったのは言うまでもない。
次のエピソード
※俺が反抗期で、左手を使わず食事をしていた時の話。
「行儀悪いぞ祐樹」
「韓国じゃ左手を使うとマナー違反なんだよ。知らねーの？」
「お前は韓国人じゃないだろう」
「フランス料理はフランスのマナーで食べるんだろうが」
「……それもそうか」
家族一同、不満げながら納得……かと思いきや、俺の幼馴染が来ていて、一言。
「でも、目の前に並んでる食事はなに？」
「……アジのひらきにお味噌汁。たくあんに新米のご飯」
「惜しかったね、もうちょっとだったのに」
「ちくしょーーーーーっっっ！！！」
―――その日、俺は大人への階段を一歩進んだ。
次のエピソード
※未だ反抗期の続く俺が、ささやかな親父の復讐をくらった時の話。
今日は午後から雨が降るから、傘を持ってけ、と親父に言われた。
うるせーな！こちとら美人アナの天気予報見てっから、知ってんだよ！と反抗期むき出しの反論をして、傘を持ってでかけた日。
「ふ～……すごい大雨と風だ」
その日、見事に午後は台風の直撃を受けていた。
小型の台風とは言え、雨も風もかなり強い。
急いで帰ろう、と傘を広げた瞬間………
バキャァッッ！！！
勢いよく開いた傘は、上部の留め金を一気に吹き飛ばし、布を纏った骨組みが吹き飛んで空中に舞っていった………
そして、ガシャガシャ言いながら、少し向こうの道を、スライディングしていった………
その３０秒後、意識を取り戻した俺が見たのは、手に残ったただの棒に張られた【ざまぁみろ】というメモだった。
―――その夜、家は俺と親父の魔法さえ辞さない喧嘩で崩壊。これが建て替えるきっかけとなった事件だった。
次のエピソード
※親父の魔法使いの仕事がこなくて、家計が火車になり、アルバイトを親父がやろうとしていた時の話。
親父が電話をしていたので、やっと決めたのか？と思い求人雑誌を見てみる。
一つ、大きく赤い丸がしてあった。
それは、喫茶店のウェイターのバイトだった。
【 男性アルバイト募集！ 時間：がんばれるだけ 給料：激安！！ 】
えぇーーっ！？
激安にビックリ２個もついちゃって、確かに２個つけるほどビックリだけどさー！！！
てか、頑張れるだけ……って！？
頭がパニクって、ふとテーブルの上に置かれた履歴書を発見。
親父ははい、はい、と電話に熱心。
心を落ち着かせ、俺は履歴書を見た。
【 西暦○○○○年△△月 ××会社へ出航
現在に至る 】
―――親父の世間知らずさに、頭を痛め心を痛め、もう親父と呼ぶのをやめようかと本気で考えた。
次のエピソード
※おふくろが風邪で寝込み、朝飯をどうするか迷ってしまった日の話。
おふくろが風邪で寝込み、しょうがないから朝飯は冷凍のモンで、と落ち着いた俺と親父。
しかし、致命的な事に気が付く……。
ひ・る・め・し！！
俺はいつも弁当だった。
当然、まだ甘ちゃんの俺は、いつもおふくろに作ってもらっている。
時間は、あと３分！！
「仕方ない……お前は用意しろ！！」
「え？！」
「お父さんが弁当くらい作ってやる！」
「白飯とふりかけじゃやだからね！！」
「安心しろ！！しっかり栄養があるもん作ってやる！！」
そうして、行きすがりに親父から弁当を奪い、学校へ。
なんとかチャイム数秒前で教室にイン。
そして、運命のランチタイム。
いつものように、２人の友人と共に食べる………が、弁当を開けて俺が固まった。
「……お前、これ昼飯？」
「酷い食生活なんですね……今度、私が作りましょうか？」
振ると、シャカシャカ鳴る。
中身は【コーンフレーク】だった。
弁当に同封されたメモ帳には【牛乳買えよ？】
その日の昼飯は、栄養バランスバッチリだった………。
―――このときだけは、親父のセンスにまじめに脱帽。でも、なんとなく許せなかった。
次のエピソード
※買った電気ストーブがすぐに壊れ、不良品だったことに気づき、親父が電話した時の話。
寒くなってきたので、家族で電気ストーブなるものを買った。
少し温まるのは遅いし、範囲もなんか狭いが、それでも新商品だから、良しとしていた。
しかし、親父がある日つけてみると、何時間たってもつかない。
気づけば、部屋は危ない匂いでいっぱいだった。
これはヤバイと感じた親父はすぐにストーブを止め、電話した。
すると、【あ～そうですか。じゃぁ送ってください】ってな感じで言われたそうだ。
そういうわけで、腹の虫がおさまらない親父は殴りこみに。
「責任者出せやコラァッ！！！」
相手もまさか殴りこんでくるとは思わなかったのか、電話に出た人がすぐに謝りにきた。
しかし、謝られても製品は直らない。
責任者が出てきて、親父が復讐の一言………
「コノヤロォッ！不良品なんか出しやがって！！ハゲてる場合じゃねぇだろうがっ！！！」
これにはその場にいた全員が沈黙。
誰もが、必死に笑いをこらえていた。
親父は復讐に満ち満ちた顔をして、責任者なるハゲは、顔を真っ赤にして、顔をプルプルさせて親父に頭を下げた。
結局、製品は直っていない………
―――責任者さん、今回は相手が悪かっただけだよ。 もう……その会社にいないらしいけど
次のエピソード
※親父が俺のテストの出来の悪さを批判するので、じゃぁやってみろよ！とやらせてみた時の話
全教科で３１０点。
それが、今回の俺の成績である。
ちなみに友人たちは、不愉快にも頭が良く、８００点越えだ。
そのせいで、親父にはよくお決まりの言葉を言われる。
「○○君や××ちゃんはあんなにできるのに！なんでお前はできないんだ！！」
「じゃぁ親父がやってみせろよ！！！俺より低かったら、家から出て行け！！」
「いいだろう！その代わり、お前が負けたら一週間父さんの言うことなんでも聞けよ！？」
「忘れんなよ！？」
そう言って、テストを始める親父………。
問
江戸末期、ペリーが浦賀に来航し【 】した。
【 】の中を埋めよ。
答（親父）
江戸末期、ペリーが浦賀に来航し【 ま 】した。
問
無、ではじまる４字熟語を書きなさい。
答
【 無期懲役 】
問
番組で有名になったアリストテレスは一体何人（なにじん）？
答
【 一人 】
問
【毒食らわば○○まで】 ○○を埋めなさい。
答
【毒食らわばそれまで】
問
縄文人が住んでいた、このような住居をなんというか？（写真を見せた）
答
【 組み立て式の家 】
問
金星が夜に見えない理由を示せ
答
【 夜はみんな寝てるから 】
問
球技のサッカー、どうやって始まる？
答
【 笛を吹いたら 】
問
全反射を利用した物を一つ挙げよ
答
【 光フェンサー 】
問
空間を隔てて作用する力を答えよ
答
【 超能力 】
問
この写真のような切り方をなんというか【写真を見せた】
答
【 運命両断剣・ツインブレード 】
と、まぁ、こんなフザけた解答をしたわけで。
イロイロツッコミどころがあるが、点数は………俺よりかなり下。
―――こんな親父を持った俺は、不幸ですか………？
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「と、まぁこんなフザけた親父だったよ」
「ん～、聞いてる限りだと、お兄ちゃんと対して変わらないような……」
「それはない！それだけはないって！！ないといえ！！！」
「わ、わかったよ！似てない似てない！」
さすがにそれだけは認めない。
よく、この親にしてこの子あり、といわれたが、そういうヤツは問答無用で叩きのめした。
「でも、お兄ちゃん、お父さん、大好きなんだ？」
「なっ！！そ、そんなわけないだろ、あんなクソ親父……」
「でも、話してる時、すごく楽しそうだったよ？」
「～～っ！……わかったよ、ソフィにだからいうけど、誰にも秘密だぞ？」
「あはは♪やっぱり～っ！」
「……ちょっと、尊敬してたよ、そりゃ、さ」
だって、どんな暗いときでも元気でめげない。
どんな辛くたって、ユーモアを忘れない。
そんな……強い人間になりたい、って思った。
「でも、いいな」
「え？」
「私、お父さんとかいないから、なんか話聞いてると、欲しいなって」
「ソフィ………」
「あはは！そんな暗い顔しちゃヤダよお兄ちゃん」
「……まぁアレだよ。しゃーないから……俺で我慢しろよ、な？」
ソフィが背中から抱きついてきた。
その動作はゆっくりで、とてもいつものソフィとは思えず、不意にどきっとした。
「うん……我慢するよ」
「ちっ……素直なヤツ………」
「えへへ♪私の、お兄ちゃんだもんね♪」
「………」
何か言葉が喉まででかかった。
でも、それから先に進むことはなくて………呑み込んだ。
「さぁて、下に降りるか。そろそろメシだもんな」
「うん！」
ソフィはいつも、ちょっとだけ俺を素直にさせてくれる。
幼いようで、どこか大人。
そんな彼女は、すごく魅力的で……将来、すごい女性になると思った。
―――たまに思う。
―――彼女ほど、強い存在はいないんじゃないか……？
そんな彼女を、死なせないよう………
守っていこう、そう思った。
あの、食えない笑顔をする【ヤツ】に向かって…………