あァ………またこの夢か………。
ここは………空港?
「行くのか?」
「ああ。すごく短かったが、楽しかったぞ」
「こっちこそな。あっちでも頑張れよ?月城」
「そっちこそな。香川も元気で」
「うん!月城君も、足元には気をつけて」
「はは。それじゃ」
あっさりした挨拶を終え、月城は飛行機へと入っていく………。
急遽、再び外国に戻ることになったそうだ。
学校でみんなに挨拶はしたが、俺とリリだけは授業をフケて空港まで来た。
「行っちゃったね」
「ああ。少しは、アイツも寂しいと思ってるのかね?」
「思ってるよ、絶対。じゃ、私たちもいこっか?」
「おう」
俺とリリはモノレールに乗った。
そこからしばらくはボーッとできる。
「どしたの?考え事?ユウ君」
「んにゃ………別に」
言っておくが、あの学校、もとい俺のクラスは魔法使いクラスだ。
当然、転校してきた月城も、魔法使いだった。
それも、優秀な………
「あ、わかった。魔法のことでしょ?」
「え?」
な、なんでわかった?
「ユウ君、気づいてない?」
「え?」
「魔法のこと考えてる時、かならず前髪をいじってるんだよ?」
「………」
俺の右手が停止した。
「イヤなとこばっか見てやがる」
「もう長い付き合いだもん。少しはわかるよ〜」
リリィはいつもそうだ。
そうやって、俺の心を揺らす。
そうやって思われてるのが……なんで、こんなに気持ちいいのだろう?
「おっと、次で降りるぞ」
「うん♪」
そして、いつもどおりの帰宅。
―――けど
――――今日は、違った。
「ウッ……なんだ?」
「いや………なにこの臭い?」
すごい悪臭だ。
今まで嗅いだことがないくらいの。
一体、どこから………?
そうして臭いを追っておくと、とんでもない場面に遭遇してしまう――――
「うっ………!これは!?」
「酷い……っ!」
俺たちは魔法使い。
だけど、別に世界の悪と戦ったりしてるわけじゃない。
つまり、何が言いたいのか、と言うと………
―――死体だ。
中には、五体バラバラのヤツもいる。
「一体………!?」
「うっ………!」
リリが気を失いかけた。
俺が咄嗟に支える。
「まずい………!逃げ………!」
「おっと、逃がさないぜ?」
「!!」
シュタッ!
天から降りてくる男。
手には、血まみれの片手剣。
「………」
「怖くて声も出ないか?」
「っ!!」
ふがいないが、まったくその通り。
「平気だ。見られたからには、すぐに殺してやる」
「!!」
男の剣が振り下ろされて………
パキンッ!!!
はじけた。
「ユウ君!逃げて!!」
「リリ!!」
リリが咄嗟にバリアを張ったようだ。
だが、それが男の神経を逆撫でしてしまった。
「お前………!出雲の一員だな!?」
「出雲!?なにそれ!!」
「しらばっくれるな!!そういうつもりなら………!痛めつけて、【ムラクモ】の場所を吐かせてやる!!」
「【ムラクモ】!?何ワケわかんないこと………!」
「おらァあァあァッッ!!!!」
「っ!!守って!!」
パキンッ!!!
再び、リリの障壁で男の剣が弾かれた。
だが、それはフェイク。
「甘いんだよ!!」
「っ!!」
ガッ!!
咄嗟に後ろに回りこまれ、弾かれた剣は遠い地面に突き刺さる。
「リリ!!」
「なかなか腕がたつが………素人だな」
「がっ……!あ……っ!!」
リリは、後ろから首を掴まれ持ち上げられる。
絶妙にポイントを押さえていて、軽い力で息を止めていた。
「苦しいだろう?さぁ吐け。【ムラクモ】はどこだ!?」
「知ら………ない………っ!!」
「………殺すぞ?」
「がっ!うあ………っ!!」
リリを更に締め上げる男。
その顔に、戸惑いはない。
―――やられる!
―――リリが!!
―――魔法………くそっ!全然力が………!!
「最後の忠告だ。どこだ?」
「………そんな単語………知らないっ………!」
「……消えろ」
男は力を入れた。
それと同時に、リリの細い首が捻じ曲がっていく………!
ゴキャッ!!
「………っ!!」
「ふん……どうやらここは外れか」
男は二つのリリを捨てて、そのままどこかへ去ろうとする。
それを、許すわけがなかった。
「待てよ………っ!!」
「なんだ貴様。まだいたのか」
「リリを………リリを………っ!!」
「知るか。運が悪かったと諦めろ」
「っ!!」
バッ!!
右腕に炎を巻きつけて、一瞬で男の背後を取った。
「っ!!」
ズゴッ!!!
男は無様に倒れた。
俺の右腕に纏った炎は、更にいっそう燃え上がる。
―――目の前の男を消したい!!
――――消せ消せ消せ消せッ!!!!
その欲求だけが、俺を支配していた。
それが、今まで不発もしなかった魔法を発動させている。
「返せよ………」
「ぐっ………貴様も出雲の一員か!!」
「返せ………リリを返せよ………」
「俺を殴ったこと、後悔させてやる!!!」
バッ!!!
男の振り上げた剣が地面を叩いた。
それが衝撃波を生み、地面に大きな亀裂を走らせる。
「外した!?」
「リリを………」
「上!?」
俺は禁止魔法を唱えた。
ばあちゃんに教わり、これは絶対に人を傷つけるために使ってはいけない、といわれた魔法。
使い方次第で、癒しも消去もできる、両極端の魔法。
「エンシェント・ブレイズ」
俺の右手にある、ソフトボール大の光球が男の体に触れた。
すると、男の体を分解していく。
「な、なんだこれは!?」
「絶対消滅呪文。超古代に存在した、超プレミアもんだよ。そのまま、光となれ」
「た、助けてくれ!なんでもするから!!」
男はよほど生き残りたいのか、命乞いをしてくる。
だけど、もう分解は止まらない。
だから、更なる絶望を与えてやる。
「なら、一つだけ助かる方法があるよ」
「なんだ!?」
―――リリを返せ
男は跡形もなく消え去った。
そのまま、リリのなきがらを見る。
何も、思えなかった。
あまりの出来事で、現実だと思えない。
「そうです。これは、現実ではありません」
「君は………?」
巫女姿の、肌が綺麗な女性。
すごく、優しく冷たい目をしていた。
まるで、何もかもすかしているような、そんな目。
「力を抜いて……」
「………」
「今から、あなたを元の世界へ戻します」
「は……?」
「そう、リリィ・サーベルト・香川と出会わなかった……月城良と出会わなかった……全て、戻します」
「い、ったい………なんの………?」
体から、力が抜けていく。
それは、安心できて、不安になる。
曖昧な環境。
「今の戦いで、あなたは法皇に目をつけられてしまいました」
「ほう………おう………?」
「何も……そう、何もなかったことに………」
そうして、夢は終わりを告げた。
目を覚ますと………
悠人が走ってきて、息を切らしていた…………。