だんだんわかってきた。

 

それは、ヒト一人では守れる存在に限りがあるということ。

 

 

欲深く全てを守ろうとすると、何かとても大切なものを失う。

 

 

 

 

しかし、守れる存在の限りは、立場や状況によって変わる。

だから、ヒトは力を求めるのだと………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてキアラ、ソフィ。今日は俺とお前らしか訓練いないんだが」

「う〜ん………センセーもいないね〜」

「?」

 

 

 

ブンブン!

 

キアラは初めて持つ模擬刀をふりまわす。

まるで手当たり次第触る赤ちゃんのようだ。

 

 

「あんまり振り回して壊すなよ?ラキオスのなんだから」

「えいっ☆」

 

 

 

 

 

バシュッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「あ………切れた」

「お、お兄ちゃん………大丈夫?」

「………」

 

 

 

きっと、俺の顔は微笑んだまま凍っているのだろう。

俺の頭上わずか数センチを切ったキアラ。

自慢………ってわけでもないが、マイ髪の毛がパサッと落ちる。

 

 

 

―――ってか、なんでキアラの身長で………

 

 

 

 

俺、173センチ。

キアラ、150センチ。

 

 

 

 

 

「キアラ?」

「なに?」

「坊主にするぞ」

「イヤ」

「模擬刀を置け」

「イヤ」

「………ワガママは父さん許さないぞ」

「ユウキ、早く訓練しよっ?」

 

 

 

ワクワク、キラキラの光線を目から放つキアラ。

 

 

 

―――すごいやキララ。俺の冷たい視線なんか、ものともしない。

 

 

アレ?

 

 

 

「じゃぁお前は素振りな」

「うん♪」

 

 

 

緑の長い髪を翻して、素振りに入るキアラ。

単調だが、基本となる縦素振り。

 

それを見て、ソフィの耳元に口を近づける。

 

 

 

「なぁ、ソフィ。見たか?」

「え?」

「アイツ、俺の髪を切ったんだ」

「それは見たけどぉ………」

「おかしいだろ」

「え?」

「だって、アレ模擬刀だぞ。刃ないぞ?」

「あ……そういえば」

 

 

 

ソフィもわかったようだ。

訓練では、刃のない模擬刀を使う。

そりゃ、剣の形をしてはいるけど、斬るより打撃の代物だ。

それで、髪の毛を切り落とすことなんてできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?でもお兄ちゃん」

「え?」

「緑スピリットは、槍じゃ」

「………いやいや!そこじゃないよ問題は!!」

 

 

 

今日が初訓練のキアラ。

昨日は寝付けなかったらしく、目の下にはうっすらクマ。

ま、これからは泣きついて行くのをイヤがるようになるだろう。

 

 

 

「………ったく。エリスもアイビスもいなくって、先生もいないんじゃ相談しようもねぇな」

「そだね。じゃ、お兄ちゃん、訓練しよ?」

「あぁ」

 

 

 

と、いっても………たった3人で(ウチガキ2人)では、集中力が持つはずもなく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後………

 

 

 

ここは、ピクニック会場。

 

 

 

 

「このお弁当おいし〜い♪」

「これ、ユウキが作ったの?」

「ま・あ・な♪」

「意外を通り越してありえない」

「………キアラ、どこでそんな言葉覚えてきた」

「アイビス」

「こら!年上には敬称をつけろ!」

「ケイショウ?」

「ソフィはいいんだ。お姉ちゃん、お兄ちゃんって呼んでるから」

「ユウキ、ツバ飛んだ」

「キアラ………うゥ、かわいかったのは最初だけか………」

「反抗期」

「………誰だ!!俺のキアラに妙な知識を吹き込んだのは!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

せっかくの【光祐樹計画】が台無しじゃないか!

って………思い当たるのは一人しかいないけど。

 

 

―――あの赤い彗星しかいない。

 

 

 

「それにしても、完全に訓練サボってるな」

「訓練?あ、そーいえば」

「早くも忘れておりますか………もう、なんかグダグダだし、やめちまうか」

「うん。それがいいよ♪それで、余った時間で3人で遊ぼう!」

 

「おいおい、何呑気なこと言ってるんだ?」

「は?」

「「あ………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咄嗟に俺の後ろに隠れるキアラとソフィ。

出てきたのは、アゴ髭とツンツン頭。

 

 

 

「光陰と悠人?どした?」

「どしたって………ここは訓練する場所だろ」

「あ、そうなんだ?初めて知ったよ」

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠人も光陰も、こりゃだめだ、と肩をすくめて見せる。

ま……相手にするだけ疲れる、ってことなんだろう。

 

 

 

「キアラ、ソフィ。行くぞ」

「え?お兄ちゃん?」

「………バイバイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は2人を従えて訓練場を出て行く。

その場には、いられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………まだ、信じてくれてないみたいだ」

「ああ。でも、しょうがない………今は違うとはいえ、一度イースペリアを滅ぼそうとした国だからな、ラキオスは」

「なぁ光陰。祐樹を信じさせることって、できないのか?」

「どした?」

「いや………アイツ、最近危ないんだ」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠人は大きくため息をついて、頭をボリボリ掻く。

 

 

 

「不安定なんだ。どこかが………偶然というか奇跡で、仲間のスピリット達は無事だったみたいだけど」

「………そりゃそうだよな。いわば母国を滅ぼされたんだから」

「祐樹に聞いてもそのメチャ強いヤツのことは話してくれないし………」

「けど、アイツはそんなに弱くねぇよ」

「光陰?」

「力じゃないぞ?きっと、アイツなら乗り越えてくれるはず………だから、俺たちは」

「………わかった。お前がそう言うなら」

「ああ。じゃ、俺たちも稽古といくか!」

「ああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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あぁ………これは夢か。

 

たまに、そんな夢を見る。

 

これは、俺が中学生の時の………だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウ君?」

「あ………しまった。寝ちまってたか………」

 

 

 

起こしてくれたクラスメートに礼を言う。

珍しく、朝早く来たものだから、とうとう3時間目に机に突っ伏して寝てしまった。

 

 

 

「ありがと、リリ」

「うぅん。お礼を言われるほどのことじゃないっすよ〜♪でも、そんな感謝してくれるなら、帰りにDXパフェが食べたいなぁ♪」

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、俗に言う狙ってる?

大体【DXパフェ】は店破りのメニューだ。

 

確か【これを食べきったら賞金一万円!できなかったら代金5000円いただきます】ってヤツ。

5000円という値段からして、どれくらいデカいパフェかは想像できるだろう。

 

 

 

「その量は、あの有名な【バナナパフェ】に匹敵するという代物……」

「独り言?」

「いや。天の声に応えていただけ。で、次なんだっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

机の中身を漁る。

そこには、全ての教科が入っている。

 

これって、メチャ便利だ。

うわ、メチャって死語。

 

 

でも、これさえやれば忘れ物は滅多にしない。

 

 

 

 

「次は〜………理科だね」

「どうりで教室に人がいないワケだ。移動だっけ?」

「うん。あ、財布持っていったほうがいいよ?」

「………あ、そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カバンから財布を取り、ポケットにしまう。

 

町立公立なら給食という【天からの恵み】があるのだが、この学校はあいにく私立。

ってか、親の方針で魔法学校にブチ込まれたので、当然私立、となったのだ。

そして………

 

 

 

 

「本来なら高校から経験するはずだったのに………」

「ぼやかないぼやかない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隣のリリは金髪のツインテールを揺らして歩く。

 

そう、この学校にはお決まりの【パン争奪戦】があるのだ。

つくづく、不便な学校に入学させられた、と思う。

 

 

 

 

「お、転校生の………月城 良、だっけ?」

「その通りだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理科室に入ると、今日転校してきたばかりのクラスメートに会った。

どうやら、座席がわからないようだ。

 

 

 

「お前は確か、13番だったよな?なら、そこだよ。特等席」

「助かる」

「そういえば、月城君はお昼どうするの?」

「独り暮らしで弁当を作る暇がない。学食か購買だ」

「なら、一緒に食べない?」

「サーベルトとか?」

「サーベルトじゃなくて、香川」

「あ、すまん。どうも英語のほうが呼びやすくてな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この月城、なんと最近日本にやってきたのだ。

両親は共になんかの組織に入っていて、ガキの頃から外国にいたそうだ。

なんでも、両親は地雷を撤去する組織とか。

 

 

 

 

ビービービー!

 

 

「な、なんだ?携帯?」

「いや………動くな!!地雷かもしれん!」

「いや、地雷って………」

「油断禁物だ!動けば爆発するかもしれん!」

「お、脅かすなよ!ここは日本で、しかも学校だぞ!!」

 

 

 

 

こんな理科室の床に、地雷が仕掛けられててたまったもんか!

 

 

 

 

「いや、俺の親の友人も、そうして油断して両足を失った」

「う………」

「地雷を食らっても死ねないのだぞ?両足を失って生きていきたくなければ、おとなしくしてろ!」

「………リリ」

「………?」

「遺言を頼む………両親に、今まで育ててくれて、ありがとう、って」

「い、いやだよ!月城君!本当に地雷なの!?」

「まだわからん。だが、なにかしらの反応はある」

 

 

 

 

俺は両足をしっかりと地面につけ、微動だにしない。

ポケットから、削岩機のような機械を取り出す月城。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――は?

 

 

ポケットから、削岩機?

 

 

 

「お、おま!なに当たり前のように削岩機出してんだ!!」

「いつも常備しているのだ。あっちでのクセだ」

「そうじゃない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

微妙に的外れな答えをしてくる月城。

そして、俺は睨まれた。

 

 

「絶対に動くなよ?」

「わ、わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

ズガガガガガガッ!!!

 

 

 

激しい音と揺れ。

それと同時に、理科室の床が削り取られていく。

 

なんだなんだ?とクラスメートが寄ってきた。

 

 

 

 

「相川?どうしたんだ?」

「地雷が埋まってるかもしれないんだ………」

「はぁ?そんなバカな」

「貴様ら邪魔だ!一歩間違えば、みんな木っ端微塵だぞ!!」

「お、おいマジかよ………月城」

「と、とりあえずみんなは離れてた方がいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はリリに頼んで、とりあえずみんなを理科室から出した。

削岩機の音しか聞こえない。

 

 

 

 

「見えた!」

「じ、地雷か!?」

「まだわからん!慎重に足をどかしていけ。俺はこの石でお前の代わりをさせる」

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漬物石が、また月城のポケットから出てきた。

 

 

 

 

「どうした?いくぞ」

「世界の物理法則に喧嘩売ってると、そのうち物理学者に解剖されるぞ……こい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慎重に、ゆっくり足を石と交代させていく………。

 

 

 

「あ………」

「どうした!?」

「くしゃみ……」

「ひっこめろ!!死にたいのか!!」

「だ、だめ………はぁックシュッ!!!!」

 

 

 

 

しまっ―――!

 

 

足が離れて………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あれ?」

「ん?これは………」

 

 

 

床を掘り出していく。

すると、遥か昔の物と思われる、缶が姿を現した。

 

 

 

 

「………缶だな」

「缶だ」

「………地雷は?」

「良かったな」

「………はは」

 

 

 

 

その後、俺たちのクラスは、最初で最後のリンチを行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「なぜだ………地雷でなかったのだから、良かったではないか………」

 

 

 

顔を腫らして、ヨロヨロ歩く月城。

なんていうか、物騒なヤツだ。

 

 

 

 

「あのなぁ、少なくとも、日本に地雷がないことはわかってるだろ?」

「それは公式の発表に過ぎん。事実はもっと別かもしれない」

「そ・れ・が、おかしいんだよ。おかげでシャツ汗でビッショリだぜ」

「ユウ君も災難だったけど、まぁ何もなかったんだからいいじゃない!」

 

 

 

リリは、いつもすぐそうやって綺麗にまとめる。

ま、確かに助かったけど。

でも―――

 

 

 

【リリィ・サーベルト・香川。放送当番です。急ぎ放送室に来てください】

 

 

 

「あ、忘れてた!」

「そそっかしいな。メシは後で持っていってやっから」

「メロンパンと、ミルフィーユだからね!」

「甘党め。わかった」

「じゃ!!」

 

 

 

スタタタ、と走っていくリリ。

少しおぼつかないが、こけるようなドジっ子ではない。

 

 

 

 

「じゃぁ、俺たちも戦場へ行きますか」

「戦場?」

「購買だよ。お前も行くんだろ?」

「ああ。では、ついていこう」

「気合入れとけ」

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ぬお………なんだこれは?」

「驚いてる暇はない!いくぜ!!」

「あ………」

 

 

 

 

俺は男子女子がひしめき合う戦場へと駆け出した!

 

 

 

 

「まずは強行突破!その後敵をかく乱!!」

 

 

 

 

まず突っ込み、身をかがめて奥へと突き進む!

 

 

 

 

「そして思い切り手を挙げ深呼吸!」

 

 

 

 

すゥ………ハァ…………!

 

 

 

 

 

「メロンパンとミルフィーユ!それに焼きそばパンにサンドイッチ〜〜ッッ!!!!!」

 

 

 

 

ありったけの声を出して注文。

 

 

目が合えばそれが合図。

俺はおばさんに金を投げつける!

 

 

そして、手馴れたおばさんはつりと共にパンを投げてくれた。

 

 

 

 

 

「そして、速やかに撤退!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あれ?お前なにしてんの?」

「見てわからないか?並んでるんだ」

「あ〜、無意味無意味。割り込んでナンボの世界だ月城」

「そうなのか?」

「そうそう。気合と意気込みが勝つ世界だ」

「ふむ……日本は礼儀正しい人が多いと聞いたのだが」

「それは遥か昔の話。今の子供はみな購買に吸い付くタコの吸盤のようなものさ」

「例えがわからん。しかし、この勢いでは売り切れてしまうか………」

 

 

 

月城は少し人ごみから離れた所から、購買を眺める。

そして、おもむろにポケットから………銃を取り出した。

ってか、またポケットから……

 

 

 

削岩機や漬物石も、きっと入ってる………。

 

 

 

 

「おい、お前オモチャなんて学校にもってくんなよ。いくら外国いたからってさ」

「これが日本流だというのなら、俺もそれに従うか」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バァアァァァァァァンッ!!!!!

 

 

 

 

「………」

「購買のオバチャンとやら!!」

 

 

 

 

銃声で、あたりが一斉に静かになった。

みんなが、銃を空に掲げている月城をみつめている。

 

 

 

 

「アンパンとコッペパンをよこせ!!この要求に従わない場合は………」

 

 

 

銃を人ごみに向ける。

 

 

 

 

「そこに埋めた地雷を………撃つ!これは訓練でも脅しでもない!!命が惜しくば、さァアンパンとコッペパンをよこせ!!!」

「ばかやろう!!」

 

 

 

ガッ!!

 

 

俺は月城の頭を精一杯殴りつけた!

 

 

 

「痛いじゃないか」

「いいからこっちこい!!」

 

 

 

 

俺は購買から月城を離した。

そのまま、体育館の裏へとつれてくる。

 

 

 

 

「お前な、どんな生活してたらあんなことができるんだよ!?」

「よくいたのだ。撤去した地雷を狙ってくるテロリストが」

「………で?」

「たまに、人質を取る卑怯者もいたのでな。対策として、いつも銃を携行している」

「………銃はさておきだ。お前、買い物って知ってるか?」

「ああ。金を払い、品物を買うことだろう?」

 

 

「なら、なんであんなバカなことするんだよ!?」

 

 

「お前が言った。気合と意気込みが勝つ世界だと」

「意味が違うだろ!どこの世界に購買のオバチャンを脅してアンパンとコッペパンを要求するヤツがいる!?」

「すまない。今度から気をつけよう」

「そうしてくれ。ちなみに!アンパンとコッペパンなら毎日売れ余るから、それ買って来い。いちいち人ごみにもまれる必要はない」

「そうなのか」

「そうだ。とりあえず、今日はこのサンドイッチ分けてやるから」

「かたじけない。しかし、いいのか?」

「え?」

 

 

 

「香川だ。そのパン」

「………早く言えバカ!!じゃ、教室でな!!」

「ああ。助かった」

 

 

 

俺は急いで放送室へと駆け出した。

今更言っても、もう怒られるのは確定だが、急いでご機嫌取るしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「リリさん?」

「ぅ〜………遅いよユウく〜ん………」

「悪い。ちょっとテロリスト対策でな」

「え?」

「ほら、戦利品のメロンパンとミルフィーユ」

「あ、ありがとう!ふは〜にゃ〜………いい匂い〜」

 

 

 

俺から戦利品を奪い、匂いを嗅いで笑顔になるリリ。

昔からコイツはそうだった。

 

 

 

 

「やっぱりユウ君に頼むのが確実だね」

「いつも世話になってるからな。これくらいは助けてやる」

「うんうん。私がいなかったら、ユウ君とっくに退学だもんね〜」

「………」

 

 

 

そう、俺は劣等生。

と、言っても普通の、ではなく魔法の、でだ。

 

秘密裏にこの学校では、定期試験に【魔法科目】がある。

 

これが非常に厄介なのだ。

 

 

実技・筆記・小論文で評価されるこのテスト。

授業を寝ていたことからわかるように、筆記は論外。

小論文はどうも的外れなことしかかけないため、ボツ。

 

最低なのは実技。

中学生にもなって、未だに俺は初級魔法を使えない。

これは致命的で、必ず実技は0点。

 

 

 

「そこでリリの出番だよな」

「ふぇ?」

 

 

 

このリリは、学校一の実力者といわれるほどの魔法使い。

魔力、使用可能魔法、戦術、知識、どれをとってもナンバー1だ。

 

だから、俺は勉強を教えてもらい、小論文のヒントをテレパスで送ってもらう(テレパスができることは、先生も知らない)。

そのおかげで、今までなんとか退学になったことはない。

 

 

 

 

―――毎年毎年、担任に警告されているが。

 

 

 

 

「じゃがら、ひぃひょりふぇないいってふほ?」

「ハイハイ、ちゃんと食べてから言いましょうね?」

「かしょくひしゃうひょうち〜っ!モゴモゴ!ごくんっ!で、何一人でブツブツ言ってるの?」

「加速しちゃう装置?お前そんなもんついてたのか」

「いいからいいから」

「いや、別に」

 

 

 

お前のことを考えていた、なんて恥ずかしくて言えたものじゃない。

だから、そっぽを向いて校内放送の音楽に耳を傾ける。

 

 

 

「ぶ〜っ!あ、それよりさ、今日は随分小食だね?」

「………戦争時は食料難に陥るらしい」

「え?」

「それよか、なんか暇だなぁ………放送室って、狭いし臭いしなんかよくわかんね機械あるし」

「勝手に壊したりしないでよ?私が怒られるんだから」

「ってか、当番一人か?普通2人とかじゃ?」

「お休みだって………」

「ふ〜ん」

 

 

 

ま、よくあることだ。

リリはモテるし、偏見かもしれないが、万人受けする性格でもない。

僻んだり妬まれたりすることもある。

 

たぶん、今回もそれだろう。

リリのかすかに沈んだ顔を見れば、すぐにわかる。

もう、当事者でない俺まで慣れてしまった。

 

 

ま、最も大きい原因は、そのハーフの容姿と魔法使いとしての天才的な実力だろう。

 

 

金髪で青い瞳。

男子からは憧れの的だが、それゆえに………小学校の頃はよくやられた。

 

 

 

 

「もう、10年近い付き合いなんだよね〜、私とユウ君」

「それがどした?」

「あの雪の日、覚えてる?」

「ロマンチックな言い方するな。恥ずかしい」

「にゃはは……じゃなくて、あはは」

「………まだ直らないのか、そのクセ」

「ごめんね?」

「別にいい」

 

 

 

 

そう、コイツと出会ったのは雪が積もった翌日だった。

俺がばあちゃんの家に遊びに行ってる時に出会った。

 

あれから、どうも友人2人の、雄司と愛香並みに腐れ縁が続いている。

 

 

 

 

「小学校とか、楽しかったなぁ」

「………そうかい」

 

 

 

俺はその転校初日から大変だったけどな。

いきなりリリが破天荒な行動したせいで、真っ先に女子のリーダーにシメられそうになった。

 

外国から来た、ということを理由に、俺は必死でソイツを止めてた。

リリはそんな俺の苦労も知らず、クラスの中心へとなっていった。

もちろん、影の部分は俺が止めて。

 

 

 

 

「ユウ君、よく助けてくれたもんね」

「ああ………そうだな」

 

 

 

よく助けた。

魔法に関しては天才なくせに、普通の生活ではからっきしだった。

だから、放って置けなくて何度もフォローした。

 

おかげで、ガキ特有のひやかしを何度も食らって、半泣きになったこともある。

まぁ、初恋でもあ………いやいや!!なんでもないぞ!!!

 

 

 

 

「?どしたの?顔赤くして」

「ば、ばか!近づけるな!」

 

 

 

俺はぐいっとリリの顔を離す。

人が思案にふけってる間に、すごい近くに顔を寄せていた。

 

心臓が………はぁ、ふぅ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?

 

意識が………

 

 

 

 

そうか…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、目覚める時間…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……おはよ、ユウキ」

「今日子………?」

 

 

 

 

気づけば、俺の近くには悠人、光陰もいた。

更には、アセリア、エスペリア、オルファ、ウルカ、そしてイースペリア勢。

 

 

 

 

「どしたの?」

「出撃だ。なんでも、坑道にドラゴンが出たらしい」

「え?ドラゴンって……まだいたん?」

「らしい。んで、現地の人たちからの要請もあってな。これから討って出る」

「了解さぁ」

 

 

 

 

俺は差し伸べられた今日子の手を取らず、マイエターナルソードを手にした。

そして、スタスタ歩いていく。

 

 

 

 

 

「………ったくもう。昔の悠みたい」

「お、俺、あんなだったか?」

「ああ、そりゃもう。なぁ今日子」

「すっごく苦労したわよね〜。そこまでかってくらい暗かったし」

「……アイツは、いつか仲間になってくれるのか?」

「なるんだよ、俺たちから、な。だろ?悠人」

「………そうだな。光陰の言うとおりだ。じゃ、俺たちもいこうぜ。みんな、準備できてるか?」

 

 

 

 

悠人は求めに手を置いて、みんなに声をかけた。

一度龍を倒したことがある悠人だからこそ、相手の力を軽視しない。

 

 

 

 

「ん……いこう、ユート」

「いつでも大丈夫です。ユート様」

「今度はどんなのかな〜?おっきくって、強いのかなぁ?」

「大丈夫みたいだな。よし、いこう!」